ヤンセンファーマ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:關口修平、以下「ヤンセン」)は、全国50歳代一般男女1236人(男女各618人)を対象に実施した「健康意識およびがん・前立腺がんに関する意識調査」(以下、本調査)の結果を発表しました。調査結果では、50歳代男性は「人生100年時代」の中盤で、自身の健康に対する意識が低く、また、前立腺がんに対する認知不足も明らかとなりました。 目次 前立腺がんは50歳以上に多く見られ、「日本人男性が一番罹患しやすいがん」 調査結果概要 『HALF TiME PROJECT』キックオフイベント登壇者の声 前立腺がんは50歳以上に多く見られ、「日本人男性が一番罹患しやすいがん」 ヤンセンファーマ株式会社は、全国50歳代一般男女1236人(男女各618人)を対象に実施した「健康意識およびがん・前立腺がんに関する意識調査」(以下、本調査)の結果を発表しました。調査結果では、50歳代男性は「人生100年時代」の中盤で、自身の健康に対する意識が低く、また、前立腺がんに対する認知不足も明らかとなりました。 前立腺がんは50歳以上に多く見られ、「日本人男性が一番罹患しやすいがん」です。近年患者数の増加が著しく、男性では2017年に胃がんを抜いて、第1位*1となっています。しかし、初期の前立腺がんはほとんど自覚症状がなく、そのため発見が遅れるケースがあり、急増する前立腺がんに対する認知不足が課題となっています。 そのため、ヤンセンは、50歳代からの男性を中心とする一般の方を対象に、前立腺がんについての正しい理解を促し、早期診断や早期治療の重要性を啓発することを目的とした『HALFTiMEPROJECT』キックオフイベントを2022年3月15日(火)に開催し、トークセッションにて本調査の結果を発表しました。 調査結果概要 ■50歳代男性は「人生100年時代」の中盤で、自身の健康に対する意識が低い 本調査では、50歳代男性の悩みや不安が高いのは、「ご両親の健康(75%)」「ご両親の老後の介護(68%)」「自身の老後の介護65%)」「今後の収入や資産の見通し(65%)」であり、「人生100年時代」の中盤における特有の悩みや不安が多く、それらと比べると「自分の健康(56%)」に対する悩みや不安は高くないことが明らかとなりました。 ■50歳代男性で前立腺がんが「男性が一番罹患しやすいがん」と認知しているのは33% 50歳代男性が将来不安な疾患のなかでは、「がん(38%)」が第2位となっています。一方で、前立腺がんについて聞いたところでは、「前立腺がんは男性が一番罹患しやすいがんである」ことを認知している50歳代男性は 33%でした。また、「前立腺がんは、初期には自覚症状がほとんどない」ことの認知は 40%、「前立腺がんは進行すると、転移する」は 39%、「前立腺がんの患者数は50歳代から増え始める」は 36%となりました。さらに、PSA検査の認知・受診状況について聞くと、1回以上受診したことがある人は 19%となりました。PSA検査を知っていて受診しない人は人は 18%おり、受診しないおり、受診しない理由としては「特に体の不調を感じないから」が理由としては「特に体の不調を感じないから」が 46%となりました。 ■女性特有がんに対する女性の意識に比べ、前立腺がんに対する男性の意識の課題が明らかに 性別特有がんに対する認知を比較すると、50歳代女性の女性特有がんの詳細に関する認知は「乳がん」で70%、「子宮がん」で63%となっている一方で、50歳代男性の「前立腺がん」の詳細に関する認知は 38%となりました。また、がんの発見のために早期にがん検診を受けたいかを聞いたところ、早期に検診を受けたい方が50歳代女性では「乳がん」で 68%、「子宮がん」で 62%に対して、50歳代男性は「前立腺がん」で 55%となっており、性別特有がんに対する認知および検診意向において男性の方が低い結果となりました。このことから、女性特有がんに対する女性の認知と比較して、前立腺がんに対する男性の男性の認知不足に課題があり、前立腺がんの社会的な啓発の必要性が改めて明らかとなりました。 ■50歳代男性が歳代男性が今後の人生で最も重要と考えているのは「健康」 今後の人生を楽しむために重要なものを聞いたところ、上位5つにあげた項目のうち、「健康」が 65%で第で第1位となりました。しかし、今後のご自身の健康に対する自信について聞いたところ、「今の健康状態をしばらく(5年くらい)維持すること」は 32%、「大きな病気にかからずに(罹患せずに)健康に過ごすこと」は 30%にとどまっており、健康を重視してはいるものの、健康に対する見通しに不安感をもっており、人生後半戦をより充実させるためにも、健康に対する意識変容が必要とされていることが分かりました。 『HALF TiME PROJECT』キックオフイベント 『HALF TiME PROJECT』キックオフイベントでは、横浜市立大学附属市民総合医療センター 泌尿器・腎移植科 診療教授 上村 博司 先生より、前立腺がんやその検診、確定診断後の治療や日常生活への影響などについて、専門的な視点からご講演いただきました。さらに、上村先生、NPO法人腺友倶楽部 理事長 武内 務 氏とともに、青山学院大学 陸上競技部 長距離ブロック監督 原 晋 氏を特別ゲストとしてお迎えし、”HALF TiME”で考える男性のカラダとココロの向き合い方をテーマに、本調査結果を踏まえてトークセッションを実施しました。 登壇者の声(当日行なわれた講演およびトークセッションより抜粋) ■横浜市立大学附属市民総合医療センター 泌尿器・腎移植科 診療教授 上村 博司 先生 「50歳代から罹患リスクが高まる前立腺がんは、初期には自覚症状がほとんどないため、発見が遅れるケースがあります。だからこそ、50歳代からはマインドセットを切り替えることが重要です。50歳代以降でPSA検査を受けたことがない方は、一度は検査を受けることをお勧めします。また、症状を感じていながら先送りにすると重症化する懸念もあります。コロナ禍でも、体に異変を感じたら躊躇せずに、医療機関を受診してほしいと思います」 ■NPO法人 腺友倶楽部 理事長 武内 務 氏 「50歳代男性は仕事で忙しくて自身の健康を見つめ直す余裕がないかもしれませんし、まだまだ元気だから大丈夫と思っている方も多いかもしれません。だからこそ、一度、自分のカラダを見つめ直す時間を大切にしてほしいと思います。50歳代からは前立腺がんについてきちんと理解し、意識して過ごしてゆくことが大切です。もし、気になる症状があった場合には、なるべく早く医療機関を受診し、相談してほしいと思います」 ■青山学院大学 地球社会共生学部 教授 陸上競技部 長距離ブロック監督 原 晋 氏 「人生の折返し地点で、50歳代男性は様々な悩みや不安も抱えていると同時に、実現したい夢や目標もあると思います。これまで人生を突っ走ってきたからこそ、これからどう生きたいのか、『今何をすべきか』を一度立ち止まって考えみてください。そのためには、健康を意識することが何より重要です。まずは、自分のカラダの現状を把握することからはじめましょう。自ら健康を管理することで、充実した人生後半戦に向かうことができると思います」 2022年3月16日プレスリリース(ヤンセンファーマ株式会社) https://www.janssen.com/japan/press-release/20220316 全調査結果詳細は以下をご参照ください。 https://www.janssen.com/japan/sites/www_janssen_com_japan/files/20220316.pdf ■前立腺がんについて 日本では2018年の罹患数が9万2,021人であり、男性にとって最も罹患の多い癌のひとつです2。新規に前立腺がんと診断される患者の約10~20%は前立腺全摘除術後も再発リスクのある局所進行性前立腺癌であり3、約5~10%は骨又は内臓等への遠隔転移を有する進行性前立腺癌であると報告されています*3, *4。 ■前立腺がんの啓発を目的としたウェブサイト「HALF TiME PROJECT」について ヤンセンは前立腺がんの啓発を目的としたウェブサイト「HALF TiME PROJECT」(https://www.zenritsusenganjanssen.jp/)を2022年1月に開設しました。前立腺がんの発症が増える50歳代は「人生100年時代」の中間地点であり、これから始まる後半戦へのスタート地点でもあります。「素敵な後半戦を迎えるために一緒に頑張ってきた自分の身体にも目を向けてあげよう」という想いから、本ウェブサイトを「HALF TiME PROJECT」と名付けました。前立腺がんの発症が増える50歳代以降の男性とそのご家族や周囲の方、また、広く一般の方を主な対象とし、「立ち止まって自分のカラダにも目を向けよう」をキーメッセージに、前立腺がんの正しい理解を促し、検診に基づく早期診断や早期治療の重要性も併せて啓発していきます。 ■ヤンセンについて ヤンセンが目指すのは、病が過去のものになる未来をつくることです。 治療が困難な病を過去のものとするために、科学の力で病に打ち克ち、画期的な発想力で多くの人々に薬を届け、真心を持って癒し、希望をお届けします。私たちはがん、免疫疾患、精神・神経疾患、ワクチン・感染症、代謝・循環器疾患、肺高血圧症の分野で貢献ができると考え、注力しています。 ヤンセンに関する詳しい情報はwww.janssen.com/japan/をご覧ください。 www.facebook.com/JanssenJapan/をフォローしてください。 ヤンセンファーマ株式会社は、ジョンソン・エンド・ジョンソンの医薬品部門であるヤンセンファーマグループの一員です。 参考文献: *1:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録) https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/excel/cancer_incidenceNCR(2016-2018).xls *2:国立がん研究センターがん情報サービス がん登録・統計[homepage on the Internet].国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター; [update 2021年7月1日]. がん種別統計情報 前立腺. https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/20_prostate.html : accessed on September 1, 2021 *3:Winter A, Sirri E, Jansen L, et al. Comparison of prostate cancer survival in Germany and the USA: can differences be attributed to differences in stage distributions? BJU Int. 2017;119:550-559. *4:Onozawa M, et al. Recent trends in the initial therapy for newly diagnosed prostate cancer in Japan. Jpn J Clin Oncol. 2014;44(10):969-81 公開日:2022/05/27
「HPVワクチンは子宮頸がんを予防するワクチンだから男の子には関係ない」と思う方もいらっしゃるかも知れません。でも男の子とその保護者のみなさんにも知っておいてほしいことがあるのです。 目次 男の子に多いがんを防ぐ効果もある 性感染症の予防にもなる 海外では男の子にも接種 まとめ 男の子に多いがんを防ぐ効果もある HPV(ヒトパピローマウイルス)は、子宮頸がんだけでなく、咽頭(のど)、外陰部、膣、陰茎、肛門にできるがんの原因となることが知られています。 アメリカでは子宮頸がんの年間発生数(1.2万人)はゆっくりと減少する一方、咽頭がんの発生数は増えており、年間1.9万人と既に子宮頸がんを抜いています*1。 咽頭がんの中で特に中咽頭がんの発生にはHPVが大きく関わっているとされていますが、このがんは圧倒的に男性にできやすいのです*2。 HPVワクチンでこのがんを減らすことができるため、HPVワクチンは男性にとってもがんを予防するワクチンなのですね。 そのことを男の子や保護者の皆さんにも知ってほしいのです。 性感染症の予防にもなる 尖圭(せんけい)コンジローマという病気があります。 これは主にHPV(ヒトパピローマウイルス)が原因(90%)の、陰茎に「できもの」ができる性感染症で、かゆみが出たり、痛くなったりします*3。 自然に治ることもありますが、レーザー治療や外科的な切除が必要になることもあります。 日本で年間約5000人(男性3000人、女性2000人)が報告されていますが*4、男女それぞれ2万人という推計もあり、隠れた患者さんがとても多いとされています。 この病気もHPVワクチンの接種で防ぐことができます。 海外では男の子にも接種 このワクチンは、ウイルスに感染しないためのもので、既に感染しているウイルスを退治することはできません。 ウイルスの多くは性的な接触でうつりますので、そのような接触が始まる前、つまり学童の時期に接種しておくことで大きな予防効果を発揮します。 男の子に接種をすると、自身の将来のがんや感染症の予防だけでなく、将来のパートナーに感染させないことにもつながるのですね。 こうした理由から、海外では、男女ともに接種している国が数多くあります。オーストラリア、アメリカなどでは男女ともに定期接種となっています。 日本ではまだ男性には未承認なのですが、男女やパートナー間でうつしあう感染症でもあり、近い将来接種できるようになればと願っています。 まとめ HPV感染症は男の子の将来のがんの原因にもなり、ワクチンでそれを防ぐことができます。 女の子だけの問題ではなく、自分事として捉えていただければと思っています。 執筆者 医師:坂本昌彦 ■参考文献 *1:Van Dyne EA. Henley SJ. Saraiya M etal.: Trends in human papillomavirus-associated cancers-United States.1999-2015.MMWR.67(33):918-924.2018 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6107321/ *2:国立がん研究センターがん情報サービス「それぞれのがんの解説(中咽頭がん)」(2020年8月20日参照) https://ganjoho.jp/public/cancer/mesopharynx/index.html *3:国立感染症研究所ホームページ「尖圭コンジローマとは」(2020年8月20日参照) https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/428-condyloma-intro.html *4:厚生労働省.性感染症報告数 (2020年8月20日参照) https://www.mhlw.go.jp/topics/2005/04/tp0411-1.html ※本記事は、一般社団法人「HPVについての情報を広く発信する会」が運営するWebサイト、「みんパピ!」の記事を、転載許可を得て掲載しております。 みんパピ!:https://minpapi.jp/ <HPVワクチンの信頼できる情報一覧のまとめ> HPVワクチンの信頼できる情報一覧をまとめました。 https://minpapi.jp/hpvv-source/ ※みんパピ!のページに遷移いたします。 公開日:2021/02/09
がん検診は、個人のためだけではなく、会社にとっても大きなメリットがあります。検査を受けてがんを早く発見できれば、発見が遅れた場合に比べて休職中の給与、休職中の代行人件費などを削減できるからです。企業と連携して総合的な支援事業を推進してきた広島県の取り組みから、平成24年度調査をもとにがんを早期発見できた場合と発見が遅れた場合における企業への経済的影響を検討した当時の結果が参考になるので紹介します。 目次 がんを早く発見して治療を受けることで10年生存率が高い がん検診で早く発見できた場合とできなかった場合で企業負担額は年450万円の差 病気を理解して働きやすい環境を整えることが個人にも会社にも価値が大きい がんを早く発見して治療を受けることで10年生存率が高い がんが見つかって、まだ早期なのか、すでに進行しているのかどうかの目安として、病期(臨床病期ともいいます)と呼ばれる指標があります。 病期を簡単に言うと、がんが体の一部分にとどまっているのか、がんが転移して体の広い範囲に進行しているかどうかについて、進行順にステージⅠ~Ⅳと分類されます。 全国がんセンター協議会(通称:全がん協)のウェブサイトには、加盟施設の協同調査の結果として、さまざまながんに関して病期ごとの5年生存率と10年生存率が示されています。大半のがんでは、早期のステージⅠでは生存率が高い可能性があり、がんが進行しているステージⅡ、Ⅲ、Ⅳになるほど生存率が低い傾向にあることがわかります(全がん協のウェブサイト)。 がんを早く発見するために、県や市の自治体はがん検診を推進しています。胃がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん、大腸がんの5つは自治体の助成制度を活用できます。詳しくは厚生労働省や自治体ホームページを参照してください。 がん検診で早く発見できた場合とできなかった場合で企業負担額は年450万円の差 広島県は全国に先駆けて企業と連携し、予防啓発、検診受診率の向上、治療と仕事の両立支援、患者会や支援団体の支援など総合的なサポート事業に取り組んできました。平成26年度から「Team(チーム)がん対策ひろしま」を立ち上げて支援事業を推進しています。 がん検診を定期的に受けて、がんを早く見つけて治療を受けることは本人のことだけではなく、会社にも有益なことです。 そこで、広島県は平成24年度に企業を対象に調査を実施した結果をもとに、がんを早く発見することがもたらす経済的メリットをシミュレーションにより数値化した資料があります。当時のシミュレーション結果は、現在も参考になるので以下に紹介します。 従業員1000人規模の会社に勤める人が大腸(結腸)がんと診断されたことを想定し、がんを早期発見できた場合、できなかった場合で企業に及ぼす経済的な影響を試算したところ、会社の年間における負担額に450万円の差が見られました(図2)。 図:がんを早期発見できた場合と発見が遅れた場合における企業への経済的影響 図のポイント がん発見後の治療費:がんを早期発見できた場合は15万円、早期発見できない場合は444万円 休職中の給与:がんを早期発見できた場合は1ヵ月休職11万円、早期発見できない場合は8ヵ月休職100万円 休職中に他の人が仕事を代替わりする費用:がんを早期発見できた場合は14万円、早期発見できない場合は55万円 出典:経営者の皆様だからこそできること~がんになった従業員に対する“就労支援”のすすめ~(平成26年2月、発行:広島県健康福祉局がん対策課) *シミュレーション結果は、広島県が平成24年度調査結果をふまえて、がん早期発見がもたらす経済的効果を検討した当時の資料。 上記の図2から実質コストを見ると、会社側は検診の費用負担がありますが、早く発見することにより、がん発見後における企業の負担額は少なくなることがわかりました。 病気を理解して働きやすい環境を整えることが個人にも会社にも価値が大きい 以上から、がん検診で病気が見つかった従業員の就労を支援することや、がん検診を早く受診するよう促すことが、企業には大きな経済効果をもたらすことが推測されました。 何よりもがんを早く見つけることが重要です。検診や検査を受けてがんを早く見つけられたら、長期入院にならず通院しながら復帰できる可能性があります。 そのうえで、がんになった従業員の病気を理解して、働きやすい環境を整えてあげることが、個人にとっても、会社にとっても生み出される価値が大きくなります。 2人に1人ががんになるといわれています。個人も企業も将来の人生設計のことを、よく考える時期ではないでしょうか。 ■関連記事 広島県に学ぶ「患者も企業もWin Winのがん就労支援」サバイバー伝授!がんとお金(6) がん治療と仕事の両立支援は地に足つかず サバイバー伝授!がんとお金(5) 婦人科がん(子宮・卵巣のがん)の発症リスクと治療後のむくみ対策 キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクール 公開日:2020/11/04
ウィズコロナ時代、社会が激変するなかで「がん治療と仕事の両立」という課題をどう解決すべきでしょうか?「意外にも、がん治療・仕事との両立支援は企業にもプラス作用をもたらします。コロナ時代の企業生き残りのヒントさえ与えてくれます」と卵巣がんサバイバーの大塚美絵子さん。広島県が平成24年度の企業調査結果をもとに就労支援による経済効果を検討したシミュレーションが現在も参考になると言います。どういうことでしょうか? 目次 がん治療と仕事の両立支援が企業にプラスなことを数値化して示す 「Teamがん対策ひろしま」は就労支援をはじめとした総合的がん対策をサポート がん就労支援による企業の経済的効果を数値で示したシミュレーション コロナ対策はがん治療と仕事の両立に有利? がん治療と仕事の両立支援が企業にプラスなことを数値化して示す 医療の進歩でがん患者の5年生存率は65%にのぼり、現在は人生の充実、とりわけ仕事と治療の両立が大きな話題となっています。では、ここ数年で大きく前進したのでしょうか? 「シンポジウムなどが盛んな割には、成果がもう一つ」と大塚さんは辛口です。 Q:具体的にどんな点がもう一つなのですか? 大塚:そもそも政策推進側に、企業が雇用契約の一方当事者だという意識が希薄です。そのため患者と医療者だけで議論して要求ばかりを声高に主張しています。それでは現場は変えられません。 Q:どうやったら現場を変えられますか? 大塚:まず企業を議論の場に引き出すこと。そのうえで企業の行動原理を学び、企業の理解を得なければなりません。企業の行動原理の根幹は利潤追求ですから、治療と仕事の両立支援を実施することが、企業にとって経済的にもプラスであることを具体的な数値で示す必要があります。 Q:両立支援が経済的にもプラスになるのでしょうか?また、それは数値化できますか? 大塚:簡単なことではありません。しかし、がん対策に積極的な広島県の取り組みが参考になります。就労支援などを推進している企業の活動をサポートしているからです。 「Teamがん対策ひろしま」は就労支援をはじめとした総合的がん対策をサポート 広島県は、全国に先駆けて企業と連携し、予防啓発、検診受診率の向上、治療と仕事の両立支援、患者会や支援団体の県民向けイベント支援など総合的がん対策支援事業に取り組んでいます。平成26年からは「Team(チーム)がん対策ひろしま」を立ち上げて活動しています。 支援事業の1つとして、がん就労支援やがん予防検診対策において優秀な成果をあげた企業には、知事の表彰を行っています。 広島県は平成24年度に企業への調査を実施し、その結果をもとに治療と仕事の両立支援がもたらす経済的メリットをシミュレーションにより数値化して示しています。当時のシミュレーション結果は現在でも参考になるので、さっそく見ていきましょう。 まず、がん患者さんは休職や時短勤務、フレックス勤務を活用することや、朝の通勤ラッシュを避けて出社することが必要な時期があります。 そこで、患者さんにヒアリングして、企業が患者さんの病気を理解して、就労環境を整えてあげれば、がん患者さんは治療を受けながら働くことで、会社に貢献することが可能な治療・勤務スケジュール例を作成しました(図1)。 図1:治療を受けながら働くことで会社への貢献が可能な治療・勤務スケジュール例 出典:経営者の皆様だからこそできること~がんになった従業員に対する“就労支援”のすすめ~(平成26年2月、発行:広島県健康福祉局がん対策課) *シミュレーション結果は、広島県が平成24年度調査結果をふまえて、がん治療と仕事の両立支援の経済的効果を検討した当時の資料です。 がん就労支援による企業の経済的効果を数値で示したシミュレーション 「がん患者さんが働くと労働効率が落ちる」、あるいは「生産性が下がって、企業に経済的な負担がかかる」といったイメージがありますが、本当にそうなのでしょうか。 そこで、広島県は企業の経済面への影響について、平成24年度調査結果をもとにシミュレーションして数字で示しています。当時のシミュレーション結果を概説します。 例えば、会社の課長さんががんになったと仮定し、企業が就労支援をする場合、しない場合で課全体の1年間における経済的影響を数値化してシミュレーションしました。 シミュレーションモデル 就労支援あり:休職期間は短く、勤務時間を調整することなどにより、徐々に元の働きぶりに近づけるモデル 就労支援なし:休職期間も長くなることに加え、休職中は代わりに労働をしてもらう人が必要になるモデル 就労支援の有無により、課全体が1年間に生み出す付加価値の総額を見ると、就労支援をするほうが、しなかった場合に比べて約82万円のコスト削減ができます。 就労支援については、本人の体調を考えて療養のための休職期間や短時間勤務、フレックス勤務などを段階的に導入するなど、柔軟に働く環境を整えることが重要です。 会社が就労支援を推進することで休職などは短期間で済み、しばらくすると通常勤務に戻ることができる可能性があります。下記の図2を参照してください。 図2:企業の就労支援の有無による経済的影響を数値化したシミュレーション結果 出典:経営者の皆様だからこそできること~がんになった従業員に対する“就労支援”のすすめ~(平成26年2月、発行:広島県健康福祉局がん対策課) *シミュレーション結果は、広島県が平成24年度調査結果をふまえてがん治療と仕事の両立支援の経済的効果を検討した当時の資料です。 コロナ対策はがん治療と仕事の両立に有利? 広島県が平成24年度調査結果をもとに実施した当時のシミュレーション結果をふまえて、ウィズコロナ時代の働き方改革について大塚さんに聞きました。 Q:なるほど、がん患者の復職支援が企業にとって経済的にプラスになりうることは理解できました。 ただ、広島県のシミュレーション結果は平成24年度でかなり前のことです。ウィズコロナの時代では経済効果を見直さなければならないのではないでしょうか? 大塚:確かに企業をとりまく環境は激変しました。でも、コロナ対策はがん患者の復職に有利になるはずです。 Q:どうしてコロナ対策が治療と仕事の両立に有利に働くのでしょう? 大塚:がん患者の復職にとって壁となるのは職場での感染の危険と通勤の負担です。ところが、コロナ問題によって職場では感染症対策が進み、またリモートワークも推進されました。 つまり、ウィズコロナ時代に対応することで、同時にがん治療と仕事の両立支援の環境整備が進むのです。以前のように「両立支援だけに余分なコストをかける」必要がなくなるのです。 また、がん治療中は感染症の脅威にどのように対応すべきか患者は医療者から指導を受けます。つまり、企業は両立支援に取り組むことで、がん患者からウィズコロナ時代の生き残りのヒントを得ることも考え得るわけです。 先の広島県のシミュレーションをウィズコロナ時代にあてはめた場合、コスト削減などにより「支援策あり」の付加価値合計の数値が更に大きくなるとしたら、企業はどう行動すべきか、賢明な経営者には自ずと明らかなはずです。 ウィズコロナ時代のがん就労支援について大塚さんからのメッセージです。 広島県が平成24年度調査結果をもとにシミュレーションから明確に数値で示した当時の結果を見ると、会社がサポートするほど患者も企業もWin Winになることが一目瞭然です。 ウィズコロナ時代において、企業は両立支援がどのようなメリットをもたらすのかを今一度考えることが重要ではないでしょうか。 大塚美絵子さん 2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫(むくみ)対策などの弾性ストッキングやスリーブなどを販売するお店をしています。 がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。 大塚さんのお店やブログ ■関連記事 婦人科がん(子宮・卵巣のがん)の発症リスクと治療後のむくみ対策 キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクール がん治療と仕事の両立支援は地に足つかず サバイバー伝授!がんとお金(5) 癌(がん) 公開日:2020/10/14
最近は、オンラインで交流を深める機会が増えています。医師や患者会、支援団体が全国の患者さんをサポートするために、YouTube公開ライブなどの活動が活発になってきました。そこで、がんを経験したかたへ有益なオンラインサポートの取り組みを紹介します。 目次 がん治療の虚実:Youtuberとして活躍するがん専門医があらゆる疑問に回答 グリーンルーペ:アイドルグループが「がんを知る」ためのコラボライブなどを企画 根拠の乏しい情報に辿りつく患者さんをサポートする取り組みを医師と共同で展開 がんノート:公開生放送で「がんノートnight」を開催 がんフォト*がんストーリー:写真展をYouTubeで見る「オトフォト・プロジェクト」 がん治療の虚実:Youtuberとして活躍するがん専門医があらゆる疑問に回答 ネットで蔓延するフェイク情報や都市伝説を見極めて正確な知識を持ってもらうために、宮崎善仁会病院消化器内科・腫瘍内科の押川勝太郎先生(NPO宮崎がん共同勉強会理事長)がYouTube動画「がん治療の虚実」で連日にわたり配信しています。 押川先生は、医療者と患者さんとの間に生じるギャップを埋めて、よりよい環境にしたいと考えてYouTuber活動に取り組んでいます。ネット情報の真贋をテーマにした解説のほか、公開ライブではリアルタイムに相談を受けて回答してくれるようにしています。 たとえば、慶應義塾大学医学部腫瘍センター/胃がん患者会・認定NPO法人希望の会/NPO法人宮崎がん共同勉強会の3組織の共催による「慶應義塾大学医学部市民講座&NPO法人宮崎がん共同勉強会東京支部会)」でQ&A「公開セカンドオピニオン」が開催されています。 毎週日曜日20時からは、飲み会の気軽な雰囲気で、がんについてのあらゆる疑問に回答する「がん相談飲み会」も開催しています。 がん治療の虚実(YouTubeチャンネル) グリーンルーペ:アイドルグループが「がんを知る」ためのコラボライブなどを企画 グリーンルーペは、「知るのは、こわい。知らないのは、もっとこわい」をコンセプトに、まだ病気になっていないかたへの啓発活動を積極的に取り組んでいます。 YouTubeチャンネルでは、2019年11月3日のイベントでのコラボライブから、「体温が高いとがんになりにくい?」、「子宮頸がんはワクチン以外で防げるがんはありますか?」など17項目のQ&Aを閲覧できます(関連記事:食道がん公開セカンドオピニオンで悩み解決、専門医・薬剤師・患者会がコラボライブ)。 最近では、2020年9月26日に「食道がんスペシャル 食道がん患者支援団体設立記念」のテーマで、公開セカンドオピニオンをオンラインで開催しました(一般社団法人食道がんサバイバーズシェアリングスが設立。ウェブサイト「食がんリングス」)。YouTubeチャンネル「がん治療の虚実」などでも閲覧できます。 また、専門医による「がんと心のケア」や、アイドルグループとのコラボライブ「今だから考える『がん』のことon the web:What We Can Do Now for the FUTURE !!」、美容ジャーナリスト・山崎多賀子さんとのコラボライブなども閲覧できます。 グリーンルーペ・プロジェクト(YouTubeチャンネル) 根拠の乏しい情報に辿りつく患者さんをサポートする取り組みを医師と共同で展開 グリーンルーペ・プロジェクトは、さまざまな活動を展開しています。 2020年10月以降は、現役の大学生を交えてオンラインのワークショップを開催する予定です。ワークショップは、思春期~若年成人のがん経験者さんが抱える課題を共有して、病気への理解につながることを目的としたものです。〔15~39歳くらいの世代をAYA世代といいます(AYA:Adolescent&Young Adult)〕。 また、がんになることへの不安がある人や、がんと告知された直後の人は、根拠の乏しい情報に辿り着くという事例が多いのが問題です。 そこで、正しい知識を持ってもらうための冊子や動画を作成しているところです。監修として、国立がん研究センターがん対策情報センター長・若尾文彦先生、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授・勝俣範之先生にご協力いただいて作成しています。 胃がんの分野では、日本胃癌学会との協同で「動画で知る胃がんの全て」を制作しています。 オンライン交流会も随時開催しています。がんであっても、がんではなくても、境界線を越えて語り合って理解が深まることをコンセプトにしているもので、医療者も多く参加している会合「GANNOMI」などです。 いずれも、コロナ禍による生活や活動の変容を考えた取り組みです。がんへの不安をなかなか相談しづらいコロナ禍の状況だからこそ、発信こそ必要と感じたことが活動の起点です。 がんノート:公開生放送で「がんノートnight」を開催 ウェブ公開生放送番組がんノート*は、「『あなた』か『わたし』のがんの話をしよう」をコンセプトに、がんと共に生きる人たちのトークライブを配信しています。 家族や友達、仕事やお金、恋愛や結婚といった日常にフォーカスしたリアルな体験談を届けています(これまでの開催は100回以上です)。 2020年春からは、みなさんに少しでも有意義な時間を提供できるよう、YouTubeチャンネルでSTAY HOME企画「今だからこそ がんノート」を配信してきました。 現在は、トークライブのショートバージョン「がんノートmini」を録画公開の形で行い、毎週木曜日21時からは生配信のトークライブ「がんノートnight」を行なっています。 がんノートnightでは、テーマ別にゲストや視聴者との「ゆる~いトーク」が展開されますが、病気と診断されたとき、闘病中、治療後それぞれの時点でどのように感じていたのかや、その他の生活面でのリアルな情報を知ることができます。また、放送中に疑問に思ったことやキーワードなどもその場で検索し放送されるので、よりリアルタイムな情報を得ることができます。 がんノートnightは、患者さんや家族のかただけでなく、友人のかた、がんのことを知りたいと思うすべての人に有意義な情報が満載です。 がんノート(YouTubeチャンネル) *:がんノートの名称には、がんに関する「音」(がんのおと)、がん経験者達の「手」(GANNOTE)という意味が込められており、NPO法人がんノートが運営しています。 がんフォト*がんストーリー:写真展をYouTubeで見る「オトフォト・プロジェクト」 がんフォト*がんストーリーは、がん患者さんや体験者さん、家族や友人、そして医療者が応募した写真と言葉で、「がんの奥にあるあたたかい心」を届けるサイトです。 これまでは、ウェブサイトやイベントで写真を公開していましたが、YouTubeでみなさんの作品をピアノの音とともにお届けする「オトフォト・プロジェクト」で、投稿された写真をビデオで紹介されています(写真の閲覧・応募)。 がんフォト*がんストーリー(YouTubeチャンネル) オトフォト・プロジェクトは、医師・医療者の日本サルコーマ治療研究学会とのコラボ(肉腫という疾患の啓発を目的)、患者会イベント(肺がん患者の会「ワンステップ」など)のコラボも進めています。今後は、がんフォト*がんストーリー主催イベントも予定しています。 また、がんになっても安心して暮らせる社会の構築に向けて活動する全国がん患者団体連合会〔加盟は44団体(2020年7月17日現在))では、がん教育や就労関連など加盟団体を中心にオンラインのサポート情報があります。 上記以外にも、患者会や支援団体でさまざまな取り組みが行われています。 コロナ渦により通院が必要な患者さんが受診窓口が絞られたケースや、不安を感じながら通院するケース、相談する機会が少なく悩むケースが多くなりましたが、オンラインのサポートがあります。正しい情報を得られる機会、不安を和らげる機会、つながりを創る機会としてオンラインのサポートをぜひとも活用しましょう。 ■関連記事 「がんは怖い、知らないともっと怖い」グリーンルーペプロジェクト2019 癌(がん) 公開日:2020/10/07
がんの治療終了後に、むくみ(リンパ浮腫)に長く悩まされるケースがあります。根治療法がないため、症状に関する正確な知識をもったうえでのセルフケアが重要です。キャンサーフィットネスはオンラインで「リンパ浮腫患者スクール」を開講しています。今回、乳がんに関する聖マリアンナ医科大学・小島康幸先生の講義から、乳がん発症のリスクやリンパ浮腫への対策などを紹介します。 目次 がん治療後のリンパ浮腫(むくみ)について専門医の講義を理解してセルフケアしよう! 乳がんリスクは肥満とエストロゲン、年齢40歳以上(未婚30歳以上)、初産30歳以上 リンパ浮腫の予防は肥満を避けることとリハビリ・運動 がん治療後のリンパ浮腫(むくみ)について専門医の講義を理解してセルフケアしよう! 乳がんが他の臓器への転移*1を防ぐために、リンパ節を取り除く手術などよって、体内のリンパ液の流れが悪くなることがあります。そうするとリンパ液がたまり、リンパ浮腫(がん治療後のむくみ)が腕やわきの下あたりに起こることがあります*2。 根治的な治療法がないため、家事や仕事などに影響し、長年悩みがつきない後遺症ですが、医療のサポートも十分ではありません。毎日のセルフケアが悪化させないために重要なことは分かっているので、患者さん自身が安心してセルフケアできることが大事です。 そこで、キャンサーフィットネス(代表理事:広瀬眞奈美さん)は専門医15人の講義とQ&A、参加者の座談会などを盛り込み、リンパ浮腫についてあらゆることが学べるリンパ浮腫患者スクール(年間12回・20講座、2020年度スケジュールPDF)を開講しました。 今回のテーマは乳がんです。聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科副部長/准教授の小島康幸先生の講義を紹介します。 乳がんリスクは肥満とエストロゲン、年齢40歳以上(未婚30歳以上)、初産30歳以上 小島先生によると、乳がんは女性では年間9万人が罹患し、30歳代から患者数増えて40歳代後半と60歳代後半の2つのピークがあります。 ■乳がんの主なリスク 肥満(標準体重20%以上) 40歳以上(未婚30歳以上) 初産年齢30歳以上(未婚女性を含む) 閉経年齢55歳以上 良性の乳腺疾患や乳がんの既往、家族歴 乳がんの発症には、女性ホルモンのエストロゲンが関係しています。排卵時期に分泌されるエストロゲンにさらされる時間が長いほど発症リスクが高いとされています。 エストロゲンは閉経前は卵巣で分泌されますが、閉経後に乳がんを発症するのはなぜでしょうか。 閉経後、エストロゲンはおもに脂肪組織で産生されます。つまり、脂肪組織の多い肥満の人はエストロゲンが増えるので乳がんの発症リスクになるのです。 治療は、病期(しこりの大きさやリンパ節転移の範囲、他の臓器への転移からステージⅠ~Ⅳと判定)と、サブタイプ〔HER2の陰性・陽性、ホルモン受容体の陰性・陽性(エストゲン受容体、プロゲステロン受容体のいずれかまたは両方ある場合)〕で決まります。 ステージにより、局所療法(乳房切除または温存手術、脇の下のリンパ節の生検または郭清、放射線照射)と全身療法(抗がん剤=化学療法、ホルモン療法、分子標的療法)を組み合わせて治療します*3。 リンパ浮腫の予防は肥満を避けることとリハビリ・運動 乳がんの患者数は多いのですが、死亡率は他のがんよりも低いです。治療によって脇の下のリンパ管が障害を受けると上肢(腕など)にリンパ浮腫が起こることがあります。 その原因として、リンパ節を切除する手術〔明らかに転移がある場合の腋窩リンパ節郭清(腋窩リンパ節は脇の下のリンパ節という意味)や、脇の下や鎖骨周囲への放射線照射、抗がん剤(タキサン系の薬剤が関与する研究報告があります)などが指摘されています。 リンパ浮腫は個人差があり、すべての患者さんに発症しません。腕のリンパ浮腫を認めやすい時期として、手術後1年以内とする報告もありますが、晩期に発症するケースもあります。乳がん治療後は肥満対策や運動・リハビリが重要です。以下がポイントです。 ■乳がんの予防 肥満を避ける(BMI高値が上肢のリンパ浮腫の高リスクとの報告が複数あります*4) 術後の早い時期から肩関節や上肢の運動を含む包括的リハビリテーション*5 軽めの筋力トレーニング*6 ■乳がんの主な治療 弾性着⾐(スリーブ、グローブなど)や弾性包帯(バンデージ)による圧迫療法 圧迫療法をしている状態で運動療法(弾性着衣をつけながらエクササイズします) ⽤⼿的リンパドレナージ(リンパドレナージはリンパ浮腫のかたのためのマッサージです。自分でリンパドレナージをする場合は正しい知識を得たうえで行わないと悪化することもありますので気をつけるようにしましょう) 保湿クリームなどによるスキンケア 医師などが診療時に参考とする「がんのリハビリテーションガイドライン」(日本リハビリテーション医学会、ガイドラインの委員長はキャンサーフィットネス顧問の慶應義塾大学・辻哲也先生)では、治療後の予防法として推奨度が高い位置づけにしています。 乳癌診療ガイドラインには、予防ではスキンケアや運動によりリンパ浮腫の発症頻度が減少することが示されています。治療では圧迫療法をしながらの運動やリンパドレナージ、スキンケアを併用する複合的治療が推奨されています。つまりセルフケアも重要です。 リンパ浮腫診療ガイドライン2018年版でも、運動によってリンパ浮腫の減少が認められることや、運動でリンパ浮腫は悪化しないことが示されており、治療後早期に運動することや、レジスタンストレーニング、ウェイトレーニングなどの有用性に関する研究結果が紹介されています。 また、最近はピラティスのリンパ浮腫改善効果も報告されています*7。 以上から、乳がんの発症リスク、治療後のリンパ浮腫(むくみ)に肥満が関係すること、対策としてリハビリ(運動)が有用なことがわかりました。病気の正確な知識を理解し、そのうえでセルフケアに励むことがリンパ浮腫対策の一番の近道です。 *1:がんの転移に関して:がん細胞が最初に発生した臓器(部位)は原発巣と言われますが、がん細胞が原発巣にとどまらず、血液やリンパ液の流れに乗って別の臓器に移動して定着することを転移(転移巣)と言います。 *2:リンパ液の流れは、体内の余分な脂肪や蛋白、細菌やウイルスなどが含まれたリンパ液が、全身に張り巡らされているリンパ管に集められ、ところどころにフィルターの役割を持つリンパ節で浄化されて全身を巡ることをいいます。 しかし、がん転移を防ぐためにリンパ節を取り除く手術や放射線治療などにより体内のリンパ液の流れが悪くなると、細胞組織間の水分バランスが悪くなってリンパ浮腫腫(がん治療後のむくみ)が起こることがあります。 *3:乳がんの治療:局所治療と全身治療 〇局所治療(手術±放射線性): ●乳房: ・乳房温存⼿術(術後に乳房へ放射線照射を⾏う) ・乳房切除術 胸筋温存乳房切除術 乳頭乳輪温存全乳腺切除術±乳房再 ●腋窩: ・センチネルリンパ節⽣検 ・腋窩リンパ節郭清 〇全⾝治療:・ホルモン療法(閉経状態にもっていくための治療法) ・化学療法 ・分子標的療法 *4:乳がん治療後のリンパ浮腫と肥満(BMI)との関係を検討した研究報告 J Pers Med2015;26;5(3):229-42/ Support Care Cancer2011;19(5):631-7 Arch Surg2010;145(11):1055-63 *5:術後早期から肩関節可動域訓練や軽度の上肢運動を含む包括的リハビリテーションに関する研究報告 ・2年後のリンパ浮腫発症が減少する(Breast Cancer Res Treat 2002;75(1):35-50) ・⾏わない場合と⽐べて、1年以内のリンパ浮腫発症の相対リスクが0.28に低下(BMJ2010;340:b5396) *6:軽めの筋力トレーニングに関する研究報告 ・JAMA2010;304(24):2699-705 ・Arch Phys Med Rehabil2010;91(12):1844-8 ・J Cancer Surviv. 2013;7(3):413-24 *7:ピラティスに関する研究報告(J Breast Health 2017;1;13(1:16-22)) ■関連記事 公開日:2020/09/30 監修:聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科副部長/准教授 小島康幸先生、一般社団法人キャンサーフィットネス
がん治療が終わった後に悩まされる後遺症にリンパ浮腫(むくみ)があります。根治療法がないため、正確な知識を持つこととセルフケアが重要です。キャンサーフィットネスのリンパ浮腫患者スクールから、婦人科がん(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん)の発症リスクやリンパ浮腫対策に関するがん研究会有明病院・宇津木久仁子先生の講義を紹介します。 目次 がん治療後のリンパ浮腫(むくみ)に関する専門医の講義を理解してセルフケア! 婦人科がんは罹患・死亡数とも右肩上がりで増えている 子宮頸がんは20~30歳で増加傾向、検査で早く見つけるべき 子宮体がんは肥満、高血圧、糖尿病、妊娠出産歴なし、月経不順に注意 卵巣がんはサイレントキラー、腹水や腹膜播種が問題 リンパ浮腫は治療後1年以内の発症が多い、早く気づくことが重要 リンパ浮腫に関する自己学習とセルフケアが大事、何かおかしいと思ったら相談しよう がん治療後のリンパ浮腫(むくみ)に関する専門医の講義を理解してセルフケア! がん転移*1を防ぐためのリンパ節を取り除く手術などによって、体内のリンパ液の流れが悪くなることがあります。婦人科がん(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん)では、治療後にむくみ(リンパ浮腫)が下腹部や足(下肢)に起こることがあります*2。 根治的な治療法がないため、家事や仕事などに影響し、長年悩みがつきない後遺症ですが、医療のサポートも十分ではありません。毎日のセルフケアが悪化させないために重要なことはわかっているので、患者さんが安心してセルフケアができることが大事です。 そこで、キャンサーフィットネス(代表理事:広瀬眞奈美さん)は専門医15人の講義とQ&A、参加者の座談会などを盛り込み、リンパ浮腫についてあらゆることが学べるリンパ浮腫患者スクールから婦人科がんの講義を紹介します(スクールは年間12回・20講座、2020年度スケジュール PDF) 婦人科がんは罹患・死亡数とも右肩上がりで増えている がん研究会有明病院健診センター検診部長/リンパ浮腫治療室長/婦人科の宇津木久仁子先生の講義から、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんの特徴、標準治療(ゴールドスタンダードの治療)、リンパ浮腫の留意点を紹介します。 宇津木先生によると、2017年の女性の推定罹患数で最も多いのは乳がん(9万人弱)で、子宮がんは第5位(約2万8000人)です。卵巣がんは1万人以上と言われています。 2017年の推計死亡数のうち乳がんは第5位(約1万4000人)で、子宮がんは6700人、卵巣がんは4800人とされています(国立がん研究センターがん情報サービスのがん統計の報告)。いずれのがんも罹患・死亡数とも右肩上がりで増えています。 子宮頸がんは20~30歳で増加傾向、検査で早く見つけるべき 子宮頸がんは、20~30歳代の女性で増加傾向にあります。 ■子宮頸がんの特徴 おもな原因:性交渉によるヒトパピローマウイルス(HPV)感染 リスク:妊娠、出産回数が多い 予防:若い時期から検診(検査)を受ける、ワクチン接種 子宮頸がんの手術適応は、がんになる前段階の高度異形成・上皮内がん(異形成は軽度:CIN1、中等度:CIN2、高度異形成・上皮内がん:CIN3)からです。 治療は、高度異形成・上皮内がん(CIN3)では手術、がんと診断されたステージⅠ以降では病態によって子宮全摘術とリンパ節廓清術、放射線や化学療法(抗がん剤)が選択されます。 ステージⅠに移行する前の異形成の段階で早く見つけられれば、体に負担が少ない手術を受けられる可能性があります。異形成の実数は、がん罹患数の2倍以上といわれています。もちろん、その数字はがん罹患数に含まれておらず、ワクチンを接種していない人は検査をして早期発見することが大切です。 子宮体がんは肥満、高血圧、糖尿病、妊娠出産歴なし、月経不順に注意 子宮体がんに関しては、がんの前段階(異型子宮内膜増殖症)は全体の1割を占め、こちらも早期発見が重要となります。 ■子宮体がんの特徴 おもな原因:エストロゲン(閉経後でも肥満があると脂肪細胞からエストロゲンが産生されるので注意しましょう) おもな症状:閉経後の不正出血 リスク:肥満、高血圧、糖尿病、妊娠・出産歴なし 予防:動物性の脂肪をとりすぎない 治療は、子宮体がんの前段階の異型子宮内膜増殖症から手術適応となり、ステージⅠ以降はリンパ節廓清や負担の大きい手術、化学療法や放射線などが選択肢になります。 卵巣がんはサイレントキラー、腹水や腹膜播種が問題 卵巣がんは、排卵による卵巣の傷や子宮内膜症から起こるケース、遺伝性のものがあります。遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)は卵巣がんでは5~15%といわれています。 おもなリスクとしては、妊娠・出産歴がないことや動物性脂肪の摂取、ストレスが挙げられています。問題は、発見されにくく、病気の進行が速いことです。 卵巣が破けて腹水がたまることや、おなかにあるがん細胞が体内に散らばる腹膜播種が問題で、サイレントキラーと言われています。 治療は、子宮全摘術や両側付属器切除術、化学療法(抗がん剤)などが選択肢になります。 リンパ浮腫は治療後1年以内の発症が多い、早く気づくことが重要 婦人科がんの治療後に悩まされる症状は、おもに排尿障害とむくみ(リンパ浮腫)です。 リンパ浮腫に関しては、手術(リンパ節郭清術術)後はもちろん、手術と放射線治療(骨盤への照射など)の後は特に発症する人が多く、手術と化学療法(抗がん剤)の後に発症するケースもあります(リンパ浮腫診療ガイドラインでタキサン系の薬剤が関与する可能性が指摘されています)。 リンパ節を取り除く手術などにより、子宮の周辺にある鼠経(そけい)リンパ節から骨盤リンパ節や傍大動脈リンパ節に流れていたリンパ液が流れにくくなると言われています。 子宮頸がんの所属リンパ節は骨盤リンパ節、子宮体がんと卵巣がんでは骨盤リンパ節と傍大動脈リンパ節が関わるとされています。 最初にリンパ浮腫が起こりやすいのは下腹部や陰部、太ももの内側といわれています。また、ひざ周囲やすね、足にも広がっていきます。 リンパ節をとる手術を受けるのは患者さん自身です。医師の説明を理解すること、医療スタッフなども含めて相談し、自分で納得して手術を受けることが重要です。 リンパ浮腫に関する自己学習とセルフケアが大事、何かおかしいと思ったら相談しよう 保険診療では、リンパ浮腫指導管理料は入院中に1回の指導が認められています。 しかし、リンパ浮腫は治療後1年以内の発症が半数以上といわれますし、治療後1年以上経った後も発症するケースもあります。いま、患者さんができることとしては、自分で学習して、理解したうえでセルフケアをすることです。 何かおかしいと思ったら、すぐに専門の医療スタッフなどを含めて相談しましょう。 リンパ浮腫対策のポイントは以下です。早く気づくことが重要です。 リンパ節を取り除く手術(リンパ節郭清術)の術前・術後に、リンパ節に関する説明をよく聞いて理解する リンパ浮腫を予防する生活をおくるようにする 初期のリンパ浮腫の症状に早く気付いて医師に相談する 保存的治療に従う キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクールの詳細:http://cancerfitness.jp/lymph/ *:がんには転移という特徴があります。がん細胞が最初に発生した臓器(部位)は原発巣と言われますが、がん細胞が原発巣にとどまらず、血液やリンパ液の流れに乗って別の臓器に移動して定着することを転移(転移巣)と言います。 *:リンパ液の流れは、体内の余分な脂肪や蛋白、細菌やウイルスなどが含まれたリンパ液が、全身に張り巡らされているリンパ管に集められ、ところどころにフィルターの役割を持つリンパ節で浄化されて全身を巡ることをいいます。 しかし、がん転移を防ぐためにリンパ節を取り除く手術や放射線治療などにより体内のリンパ液の流れが悪くなると、細胞組織間の水分バランスが悪くなってリンパ浮腫腫(がん治療後のむくみ)が起こることがあります。 公開日:2020/09/23 監修:がん研究会有明病院健診センター検診部長/リンパ浮腫治療室長/婦人科 宇津木久仁子先生、一般社団法人キャンサーフィットネス
乳がん、子宮がん、卵巣がんなどの治療後に悩まされる後遺症の1つに、腕や脚にリンパ液がたまってむくみができるリンパ浮腫があります。「悩んでいるのは自分だけ」ではありません。キャンサーフィットネスが開講したリンパ浮腫患者スクールは、悩みやストレスを軽減させて、毎日のセルフケアを正しく安心して継続できるよう、各専門分野の第一線で活躍する15人の先生方の講義(20講座)から、あらゆることを学べます。 目次 知識は大きなチカラ、大切な人生をリンパ浮腫のために犠牲にせず自分らしく生きよう リンパ浮腫に悩む方への暮らし、セルフケア、運動のポイントとは 不安を笑顔に変えるために知識は大きな支え! 知識は大きなチカラ、大切な人生をリンパ浮腫のために犠牲にせず自分らしく生きよう がん転移を防ぐためにリンパ節を取り除く手術や放射線治療などにより、体内のリンパ液の流れが悪くなると、腕や脚などにリンパ液がたまり、リンパ浮腫(がん治療後のむくみ)が腕やわきの下あたり(上肢)や太ももや足首(下肢)に起こることがあります。 根治的な治療法がないため、家事や仕事などに影響し、長年悩みがつきない後遺症ですが、医療のサポートも十分ではありません。毎日のセルフケアを悪化させないために重要なことはわかっていますので、患者さんが自分で安心してセルフケアができることが大事です。 そこで、キャンサーフィットネス(代表理事:広瀬眞奈美さん)は専門医15人の講義とQ&A、参加者の座談会などを盛り込み、リンパ浮腫についてあらゆることが学べるリンパ浮腫患者スクール(年間12回・20講座)を開講しました。 広瀬さんは、リンパ浮腫患者スクールを開講した意義について、以下のとおり話しています。 リンパ浮腫は、情報が少ないために、患者さんは日々の暮らしで困ることがよくあります。だからといって、すぐに相談できる医療者もなかなかいません。自分自身がしっかりと知識を身に付けることで、虫刺されなどの日常での些細なことにも対処でき、安心して暮らすことができます。 リンパ浮腫に悩む方への暮らし、セルフケア、運動のポイントとは リンパ浮腫対策で大切なこととして、圧迫療法や運動、スキンケア、体重管理など、自分でしないといけないことが多くあります。そのために、しっかりと自分でセルフケアができるようになって、いまの状態を悪化させずに維持あるいは改善していくことが重要です。 だからこそ、知識は大きなチカラになります。大切な人生をリンパ浮腫のために犠牲にしないで、自分らしく生活して欲しいと願い、リンパ浮腫患者スクールを開講したそうです。 以下は、スクールで広瀬さんが解説した暮らしのポイントです。 ●リンパ浮腫のかたの暮らしのポイント 正しい知識を増やす リンパ浮腫への自分だけの対処法を増やす 体重管理(肥満予防) ときどき計測する(診察に行く) セルフケアの継続が大事:スキンケア(ボディチェック・ドレナージ)、圧迫療法、運動療法 長時間、同じ姿勢を取り続けない 疲れすぎない 生活を楽しむ 休養や睡眠を大切にする さらに、場所を選ばずに運動できる動画「CF®リンパケアエクササイズ」もあります。広瀬さんは運動のポイントとして以下を挙げています。 ●リンパ浮腫を改善する運動のポイント 弾性着衣で運動 腹式呼吸 有酸素運動 レジスタンス運動 関節運動/ストレッチ 毎日継続できる自分に合う運動を見つける 運動を楽しめるように工夫する ひどい筋肉痛や疲労感を残さない程度の運動(物足りないという感覚を大切に) 不安を笑顔に変えるために知識は大きな支え! 各専門分野の第一線で活躍する先生方の講義は、解剖・生理学から、乳がんや婦人科がんなど、がん種別の診断・治療、リンパ浮腫の発症リスクや対処法などです。ガイドラインやエビデンスをもとに、医療者が学ぶ研修レベルの基礎知識が盛り込まれています。 専門医15人の講義(年間12回・20講座)を1年間でStep1~3の順に修得できます*。 Step1:リンパ浮腫の基礎を学びます。 Step2:自分自身のリンパ浮腫の状態を理解し、必要なセルフケアの方法を学びます。 Step3:リンパ浮腫の患者さんの心のケアの方法と、セルフケアを継続するための方法を学びます。 キャンサーフィットネス 2020年度リンパ浮腫患者スクール スケジュールパンフレット(PDF) とにかく、リンパ浮腫を知るために必要な専門知識、セルフケアの具体的な実践方法、メンタルケアとセルフケアを継続する方法を学ぶことが重要です。 知識があっても、スキルがなければできず、またスキルを習得しても、気持ちが落ち込んだり、生活が落ち着かなければ、セルフケアができなくなります。 リンパ浮腫患者スクールのStep3では、自分自身について考えたり、生活を見直したりしながら、セルフケアを習慣にして継続していく方法も学んでいきます。 リンパ浮腫だけでなく、健康的な生活習慣へと改善できます。 広瀬さんからみなさんへ目指すべきメッセージをいただきました。 リンパ浮腫の診察を受けられる環境ではない患者さん、実際に診察を受けているけれど、日常の生活やケアをどのようにしたらよいのかわからない患者さん、リンパ浮腫をまだ発症していないけれどリスクのある患者さん、さらに家族のかたを対象にして、学ぶ場をつくりたいと思い、全国どこに住んでいても参加できるWeb方式のリンパ浮腫患者スクールを開講しました。 リンパ浮腫の解剖・生理学、診断・治療まで正確な知識を持ってもらい、QOLを向上してもらいたいと考えています。さらに、全講座を修了した受講者のかたが、在住する地域でリンパ浮腫患者さんのピアサポートが行えるような仕組みができることをはじめ、リンパ浮腫になっても安心して暮らすことができる社会づくりをしていきたいと考えています。 *:2020年リンパ浮腫患者スクールの専門医による講義(Step1の第1回~第4回)の概要 第1回(4月18日) ●リンパ浮腫総論:リンパ浮腫の疫学、リンパ浮腫診療の歴史、現在のリンパ浮腫診療の実状と課題を理解する ●診療の流れ:診療の流れ(代表的な合併症とその対応を含める)、クリニカルパス(治療計画書)を理解する。 講師:慶應義塾大学リハビリテーション医学教室准教授・辻哲也先生 第2回(5月23日) ●リンパ浮腫の成因と治療の原則を理解するために、リンパ管系の解剖学的構造を理解する。浮腫に関係する脈管系や循環器系の生理、病理、病態を理解する 講師:星ヶ丘医療センター血管外科部長・保田知生 第3回(6月13日):領域別の基礎知識その1 乳がん/その2 婦人科がん ●領域別の基礎知識その1 乳がん(以下は学習のポイント) ・乳がんの進行度(病期) ・病期と基本的な治療方針・術式別のリンパ浮腫発症頻度 ・リンパ浮腫発症の時期と部位・化学療法に伴う浮腫、リンパ浮腫・リンパ浮腫発症の危険因子と予防対策 ・リンパ浮腫発症後の治療選択肢 ・運動療法について 講師:聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科副部長/准教授・小島康幸先生 ●領域別の基礎知識その2 婦人科がん(以下は学習のポイント) ・各疾患の進行期別治療法について ・治療法別のリンパ浮腫発症頻度 ・リンパ浮腫発症の時期と位置 ・リンパ浮腫発症予防 ・リンパ浮腫発症後の治療 講師:がん研有明病院健診センター検診部長/リンパ浮腫治療室長/婦人科(細胞診専門医・教育研修指導医・国際細胞診専門医)・宇津木久仁子先生 第4回(7月4日):領域別の基礎知識その3 外科的治療/その4 リンパ浮腫の合併症 ●領域別の基礎知識その3 外科的治療:外科治療の種類、適応とその限界を理解する 講師:東京歯科大学市川総合病院形成外科講師・佐久間恒先生 ●領域別の基礎知識その4 リンパ浮腫の合併症(以下はポイント) ・リンパ浮腫患者の皮膚合併症の診断と治療(蜂窩織炎、リンパ小胞・リンパ漏、Stewart-Treves症候群、関連領域として、うっ滞性皮膚炎・脂肪織炎、皮膚潰瘍) ・アピアランスケア 講師:静岡県立静岡がんセンター皮膚科部長・清原祥夫先生 第5回(8月22日)から、Step2(疾患の特徴を理解し、患者自身が状態を理解し、適切なセルフケアに必要な知識を習得しましょう)です。第5回の講義テーマは「リンパ浮腫 セルフケア指導」(講師:千葉大学大学院看護学教授・増島麻里子先生)です(オンラインで受講できないかたのためにDVD受講もあります)。 リンパ浮腫患者スクールの詳細:http://cancerfitness.jp/lymph/ 公開日:2020/07/29 監修:キャンサーフィットネス代表理事・広瀬眞奈美さん
いまは健康でも病気になったとたんに混乱してしまいます。ネット情報は何を信用していいのかわかりません。そこで、正確な情報にアクセスしてもらうために、がん専門医がYouTubeチャンネル「がん治療の虚実」*1を立ち上げました。2020年3月に開催された食道がんに関する医師・薬剤師・患者会とのコラボライブでは、病気に関係なく薬をじょうずに飲む方法や患者さんが医療者に問い合わせるコツが紹介されました。 目次 錠剤はゼリーとプリンでつるりと飲む、漢方はお湯に溶かして飲む 「薬が飲みにくいので薬剤師につないでください」と言いましょう 「どんな副作用がどの時期に起こりやすく、どのくらい続きますか?」と聞くべき 錠剤はゼリーとプリンでつるりと飲む、漢方はお湯に溶かして飲む 食道がんは罹患率、死亡率ともに国内でトップ10に入ります。しかし、2019年夏の時点で食道がんに特化した患者会がありませんでした。 そこで2019年末、医師や患者さん・支援団体などの有志が募って、食道がん患者会が立ち上がりました。同年12月に「食道癌のブログ(https://furuhata.exblog.jp/)」を通じて、第1回食道がん患者さんの集いが開催されました。 さらに、2020年3月にYouTubeチャンネル「がん治療の虚実」*1で、慶應義塾大学医学部腫瘍センター/スキルス胃がん患者会・希望の会/NPO法人宮崎がん共同勉強会の3つの組織の共催により、がん専門医・薬剤師・患者会とのコラボライブ「慶應義塾大学医学部第6回市民講座&第56回NPO法人宮崎がん共同勉強会東京支部会(食道特集)」が開催されました*2。 食道がんのリスクや治療に関する正しい最新情報が紹介されるとともに、公開セカンドピニオンのセッションがありました(参考:食道がんに注意、お酒1杯で赤ら顔になる人や口の奥に黒いシミがある人は検査を受けよう、食道がん公開セカンドオピニオンで悩み解決、専門医・薬剤師・患者会がコラボライブ。そのなかから、がん薬物療法認定薬剤師の長野県立信州医療センター薬剤部の松原重征先生の講演内容を紹介します。 先生の講演によると、食道がん患者さんは食道がせまくなって食べられなくなる、放射線治療などの影響で唾液が出にくくなって薬を飲みにくくなるといったケースがあります。 そこで、薬の作用や効能などを考えたうえで、錠剤を粉末に変更することや、薬をひとまとめにする一包化(分包ともいいます)など、患者さんの要望を一緒に考えています。 薬をじょうずに飲むコツについて、先生は下記のポイントを挙げてくれました。 ■薬をじょうずに飲むコツ 薬を飲む前に水をひと口飲んで口の中や喉、食道を湿らします。その後にコップ1杯の水と一緒に薬を飲みましょう。 水を飲むコップが鼻に当たらないようにするために、ペットボトルや紙コップをカットしましょう。 錠剤は水に沈み、カプセルは浮きます。錠剤を飲むときは上を向いて、カプセルはあごを引いて飲むようにしましょう。 ゼリーやプリン、液体オブラートなどと一緒に飲むと、薬をつるりと飲むことができます。ただ、薬表面のコーティングが溶けると強い苦味を感じることがあるので注意しましょう(*ゼリーと一緒に飲むコツについてはYoutube動画(https://www.youtube.com/watch?v=mKyzU99bQac&t=5834s)の1:42あたりを参照)。 漢方は生薬を組み合わせた煎じ薬を乾燥させています。飲みにくい場合はお湯に溶かしましょう。すべてお湯に溶け切らないので、底の溶け残りも飲むようにしましょう。 「薬が飲みにくいので薬剤師につないでください」と言いましょう 薬が飲みにくいからといって、自分の判断で錠剤やカプセルをつぶす人がいますが、これはやめましょう。薬の効果がうすれることや、副作用が強く表れることがあります。 また、1人で悩むのではなく、「薬が飲みにくいので薬剤師につないでください」と言いましょう。患者さんは、遠慮しなくて大丈夫です。自分のことなので相談しましょう。 医療スタッフが忙しい状況を見ると言いにくくなるので、病院なら診療科の受付やクリニックなら受付に行ったとき、もしくは受診時には最初に主治医へ伝えましょう。うまくいけば、待ち時間に相談できる時間をもらえる可能性があります。 松原先生は「薬のことはぜひ薬剤師に相談してほしい」と声を大にしています。 「どんな副作用がどの時期に起こりやすく、どのくらい続きますか?」と聞くべき 患者さんの悩みや診療への疑問に詳しく解説してもらえる公開セカンドオピニオンのセッションでは、松原先生は抗がん剤に関して説明し、副作用のことは事前に知ってもらうほうが不安は少なくなるとの話をしていました。 先生によると、薬はどのような副作用がどのくらい続くのか、時期によってどのような症状があるのか、生活上でケアすべきことなどのデータが数多くあります。 たとえば、服用後から数週間はしびれや倦怠感などに悩まされるのなら、時期によって予想される体力的な負担はどのようなものかを知ってもらい、可能なら対処法を考えます。 松原先生は、患者さんが医療者に聞くときには、以下のことを強調してほしいと言っています。 「どんな副作用がありますか?」ではなく、「どのような副作用が、どの時期に起こりやすく、どのくらい続きますか?」 「薬剤師につないでほしい」と堂々と言ってください。 たとえば、皮膚に副作用が現れて塗り薬が必要だけど、患者さんは塗り薬の副作用が強いので嫌がって薬を塗らないケースがあります。 その際、先生は「症状があるところだけを塗るだけでいい」などのフォローをします。さらに、医師や看護師に患者さんのことを相談してベストな対処法を考えます。 松原先生は患者さんに世間話も含めてコミュニケーションをすることを重要視しています。リラックスしてもらって、ふだんの生活の悩みを聞いて最適なケアを一緒に考えて、悩みを少しでも解消してあげたいとしています。 *1:YouTubeチャンネル「がん治療の虚実」(https://www.youtube.com/channel/UCVX2pB43fTkQVd3x_Ss5Jwg)は、正確な情報にアクセスしてもらうために、がん専門医の押川勝太郎先生(宮崎善仁会病院消化器内科・腫瘍内科、NPO宮崎がん共同勉強会理事長)が立ち上げました。ブログ:https://ameblo.jp/miyazakigkkb/ *2:医師・薬剤師・患者会とのコラボライブ・がん公開セカンドオピニオンは、慶應義塾大学腫瘍センター(会場)で開催しており、Youtubeでも発信しているものですが、今回の第6回目は残念ながらコロナの影響で会場開催はできず、Youtube公開生放送で開催しました。 公開セカンドピニオンでは、押川先生、慶應義塾大学病院腫瘍センター・浜本康夫先生、東京医科歯科大学消化器外科・川田研郎先生、長野県立信州医療センター薬剤部の松原重征先生、スキルス胃がん患者会の轟浩美さんがアドバイスをしてくれました。 また、患者会や支援団体はオンライン交流に取り組んでいます。以前に公開セカンドオピニオンを共催で開催したグリーンルーペプロジェクトはYouTubeチャンネルで啓発しています(https://www.youtube.com/channel/UCsiwnbbMzV9yc6v4GHCrjsQ/videos)。がん経験者さんや家族から寄せられたメッセージや、病気のことを広く知ってもらうためのアイドルグループとのコラボライブなどを閲覧できます。 ■関連記事 がん情報は何が正しい?公開セカンドオピニオンでフェイクと都市伝説を一刀両断! 「がんは怖い、知らないともっと怖い」グリーンルーペプロジェクト2019 癌(がん)ライブラリ 公開日:2020/07/08 監修:⻑野県⽴信州医療センター薬剤部 松原重征先⽣
患者さんは、正しい情報にアクセスして病気ことや複雑な治療法について理解すること、仲間と交流を深めることが重要です。最近、コロナの影響によりその機会が奪われているなか、患者会や支援団体はオンラインで患者さんを勇気づけています。血液がんをはじめとした病気の患者さんをサポートする血液情報広場・つばさの取り組みを紹介します。 患者さんの経験談など役立つ情報を提供 血液情報広場・つばさは、2020年5月に患者向けセミナーを旭川と都内で予定していました。しかしコロナの影響により地域で交流セミナーを開催するのが難しい状況となりました。 一方、セミナーの参加募集を案内する前の段階ですでに、多くの患者さんから「参加して先生に質問したい」との話がありました。医師からは、がん診療とコロナ対応に追われているにもかかわらず、できるなら協力したいとの声が寄せられました。 そこでつばさは、在宅で、あるいは入院中や無菌室にいる患者さん達を勇気づけるためにもオンラインセミナーの開催を決めました。 5月30日のWEBセミナーは、血液がんの治療、ホルモン補充療法、治療後の過ごしかた等の専門家の解説、患者さんからの経験談(輸血の経験や造血細胞移植前後の諸問題、自己管理や卵子保存など)が提供される予定です。 セミナーの詳細: http://tsubasa-npo.org/foruminfo/20200530webseminar.pdf 患者さんは病気の再発や感染への不安を抱えています。正しい情報につながることや、同じ境遇にある仲間と触れ合う機会を多くつくることがいっそう必要です。 患者さんを支援する団体はオンライン交流の場を提供するなど、さまざまな取り組みをしています。病気に悩んでいる人は患者会や支援団体のサイトを活用しましょう。 ■血液情報広場・つばさ http://tsubasa-npo.org/ 白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫といった血液がんや、再生不良性貧血や特発性血小板減少性紫斑病などの病気に関する会報誌「ひろば」を無料で提供しているとともに、全国各地でセミナーを開催しています。 ■関連記事 がんと妊娠・出産 深刻な問題を抱える患者さんへのサポート体制とは 癌(がん)ライブラリ 公開日:2020/05/20 監修:血液情報広場・つばさ
みなさんは、ストレスとどのようにつき合っていますか?今の世の中には、ストレスになるものがあちこちにあります。がんの罹患や治療は大きなストレスとなりますし、その後にも大小さまざまなストレスが波のように押し寄せてきているかもしれません。こうしたストレスと上手につき合うには、どうしたらいいのでしょうか。そこで、キャンサーフィットネスのストレスマネジメント+ケア講座から6つの覚書を紹介します。 目次 ストレスマネジメント+ケアのための6つの覚書とは ストレスサインとストレスから解放される自分を眺めて俯瞰(ふかん)してみよう ストレスと関わるときの自分の状態をありのまま知ることが対処法を見つける鍵 ガーデニング、自然を感じること、つながっている人を考えることもストレス対策 ストレスマネジメント+ケアのための6つの覚書とは 一般社団法人キャンサーフィットネス(http://cancerfitness.jp/)は、がん患者さん向けに、健康講座のヘルスケアアカデミー*1を定期的に開催しています。 がん患者さんのアンケートをもとに、必要とされるテーマからセミナーの内容を考えているので、治療でつらい思いをしている人、治療が終わっても生活に悩んでいる人に役立ちます。もちろん、健康な人がより健康になる耳寄り情報も満載です。 2020年1月18日開催のヘルスケアアカデミーでは、がん・感染症センター都立駒込病院緩和ケア科の栗原幸江先生(マギーズ東京*2でも活動をしています)が「ストレスマネジメント+ケアのための6つの覚書」をテーマに講演しました。 ■ストレスマネジメント+ケアのための~6つの覚書~ 覚書1:まずはストレスと自分について知る 覚書2:「自分なりの対処法」を知る 覚書3:「ストレスと上手につきあう力」をつける 覚書4:時々、立ち止まり、振り返ってみる 覚書5:「サポート」を見える化する 覚書6:「できていること」を見つける+続ける 6つの覚書から、1~3を中心に、自分なりの対処法を知るコツを紹介します。 ストレスサインとストレスから解放される自分を眺めて俯瞰(ふかん)してみよう 栗原先生は、まずストレスがかかったときに自分がどのように感じて、ストレスから解放されるまでにどのような変化があるのかについて気づいてみましょうとしています。 ストレスとは「圧」です。球形のボールにストレス(圧)がかかるとへこみます。そして圧をかけていたものが離れると、元の球形に戻っていきます。 こころやからだに及ぶ「圧(ストレス)も同じようなこと。自分のこころに、どのようなストレスがかかっているか、そのストレスがどのようにすると軽くなるか、ストレスがかかっているときにはどのような感じがあり、ストレスが軽くなるとどのような感じになるか――こうした一連の流れを俯瞰(ふかん)して、いまの自分はどの状態なのかを理解するようにしましょう。 ストレス反応は個人により違います。自身が客観的な観察者になって、ストレスサインをモニターして「見える化」してみましょう。 「見える化」するために、日常生活における自分のストレスサインを書き出してみたり、たとえば今の気分を色で表してみたり、体の感覚に注意を向けてみたり、いろいろあります。 いろいろやってみて、自分に合った「見える化」を見つけてみてください。俯瞰するまなざしをもつこと、それが大切です。 ストレスと関わるときの自分の状態をありのまま知ることが対処法を見つける鍵 物事の「とらえかた」には自分の心の奥にある信念やそのときの思考が影響することを覚えておきましょう。 例えばコップ半分の水を見た際、「水が半分しかない」と感じる人もいるし、「まだ半分もある」と感じる人もいるでしょう。病院に対するイメージはどうでしょう?「不安が大きくなるネガティブな場所」と感じる人もいるでしょうし、「病気がよくなって、力を取り戻す場所。誰かに役に立てるポジティブな場所」と感じる人もいるでしょう。その時その時の自分の状態によって(気分が落ち込んでいるのか、それとも気分がよくなっているのか)、ものごとに対する解釈も変わってくるものです。 以下は「ニーバーの祈り」です。平静になっているとき、ポジティブで勇気を持てるとき、そして自分の状態をありのままとらえたうえで見極める知恵について示しています。 ■ニーバーの祈り(ラインホルド・ニーバー) 神よ、私にお与え下さい。 変えることの出来ない物事を受け入れる平静を。 変えることの出来る物事を変える勇気を。 そして、その違いを知る知恵を。 出典:日本キリスト教団会津若松協会 信徒のブログ https://aizuwakamatuch.seesaa.net/article/425116141.html ガーデニング、自然を感じること、つながっている人を考えることもストレス対策 ストレスと上手につきあうためには、心地よい、すっきりする、ほっこりするといった「体の感覚」を目安にしながら、自分にとっての滋養や充電になるような「今の生活を大切にする工夫」が役に立つでしょう。 例えば、しんどいときこそ決まった時間に起床して着替えて生活リズムを整えることや、ゆったり風呂に入る、手触りのよいものを触る、良い香りをかぐ、しっくりする音楽を聴く、心が落ち着くところに訪れる(広い海を見る、浜辺を歩いてみる、山の頂上から眺める、大木にさわってみるなど)といったこともいいでしょう。 セルフケアの工夫として、深呼吸、緊張をほぐす、気分転換、軽い運動、活動と休息のバランスをとることなどが挙げられます。下記は、キャンサーフィットネスのヘルスケアアカデミーの参加者(50人以上)に、実際の生活上の工夫について聞いた結果の一部です。 ■キャンサーフィットネス・ヘルスケアアカデミーのセミナー参加者が実践しているストレス対策 思いっきり運動をして汗をかく。ダンスをする。ウォーキングする。ドッグラン 好きな場所、リラックスできるところに行く(落語、演劇、映画、バレエ、美術館に行く、神社や寺の散歩) 土いじり、植物を育てて世話する 自然と親しむ:エネルギーを感じる(光、風、雨、雪、鳥や虫の声) 自然のなかに身をませてみる 朝日を浴びて太陽のパワーを感じる 空を眺め、空の青さに感動する 笑顔になってみる。自分に優しくなる。1日1回、深呼吸をする 好きな音楽を聴く。お風呂にゆっくり入る、肩の力を抜く!(力を入れすぎない)。寝る 料理する。美味しいもの(甘いものなど)を食べる。自分にごほうび!(好きなものを買う) 花を飾る。花のアレンジを週に1度する。アロマテラピー 自分のために時間を先に確保する つながっている人のことを考える。感謝する。ありがとうメッセージを書きまくる ストレスを自覚したら、家族や友人などに伝える(話すことが重要) ストレスに感じることを書いてみる:感情を吐き出す:日記やLINEに文章にする。独り言を言う ネガティブなことを自分の目で見てみる 自分に対して手紙を書く(今の自分をホメる。グチを書く) 後に読み返して、「観察者」として気づくことを考える もうこれ以上は考えないとストップをかける。判断しない:白か黒か、よい・悪い、好き・嫌い スマホを見る時間を減らす(ネガティブな情報などに振り回らされない) 自分なりに日を決めたとしても、できない日があってもOKにしましょう。がんばりすぎず、自然体を意識して、自分自身に優しく穏やかに接してあげましょう。 ちょうど、マインドフルネスという言葉があてはまります。マインドフルネスの基本として、呼吸を整えること。呼吸をていねいに意識してみましょう。 次回は、マインドフルネスについて、そしてマインドフルネスを意識した呼吸⽅法の⼯夫についてご紹介します。 *1:⼀般社団法⼈キャンサーフィットネス(代表理事:広瀬眞奈美さん)は、術後、化学療法中や何年も経過した治療後のかたまで、⾃分に合った運動ができるよう、リハビリ、ヨガ、ダンス、ジムなどさまざまな運動教室を開催しています。インストラクター養成コースを卒業した認定インストラクターが地域密着型で精⼒的にサポートしています。 さらに、がん患者さんが⽣活習慣を改善する⽅法を習得できる健康管理講座のヘルスケアアカデミーなどもあるので、運動も勉強もできる総合アカデミーとして活動しています。 2019年は、運動教室は128回、ヘルスケアアカデミーは34講座、⼿先の作業療法となるワークショップ(⾊鮮やかなウィッグスタンドを手作りで製作するワークショップなど)は10回にわたり開催しました。 2020年は、新たにリンパ浮腫患者スクールを開催しました(第1回は4月18日)。第2回は「リンパ浮腫の基礎知識 解剖と生理」をテーマに、 5月23日(土)13時~16時で開催を予定しています。セミナー予定の詳細→https://coubic.com/cancerfitness21/859131#pageContent *2:マギーズ東京(https://maggiestokyo.org/) マギーズ東京は自然を感じられる小さな庭やキッチンがあり、気楽にくつろげる第2のわが家のようなところです。がんの疑いを言われた時、診断を知った時、治療中ならびに治療終了後の生活をどのようにすればよいのか、家族や友人がどのように接するのか悩んでいる時は気軽に立ち寄ってください。予約不要で看護師や心理士などがお迎えして気軽に話ができます。 今回、講演した栗原幸江先生は、マギーズ東京のヒューマンサポートチームで活動しています。 住所:〒135‐0061 東京都江東区豊洲6-4-18 開館時間:月曜日~金曜日の午前10時~午後4時まで、土日・祝日はイベント時のみオープン 公開日:2020/05/13 監修:がん・感染症センター都立駒込病院緩和ケア科/マギーズ東京ヒューマンサポートチーム 栗原幸江先生、一般社団法人キャンサーフィットネス
病気になると不安になり、うつ状態になることがあります。がんは、「生きる」ことが深刻な問題になるのでなおさらです。しかし、後ろを見てはいけません。前を向いて、自分の「生きる価値観」と「人生の方向性」を考えることが重要です。キャンサーフィットネスの心の健康講座から、将来に向かって目標と見通しを持つためのコツを紹介します。 目次 自分ががんになった意味をポジティブにとらえて人生の目標を持つ がん診断後の1年間はうつ状態に注意 認知症のような症状もうつ病のケースあり、運動を生活に取り入れることも有用 時にはスピリチュアルに考える がん患者さんは近い将来の目標、人生観や将来の方向性を持つことが重要 誰かのために祈ると愛情ホルモンのオキシトシンが増えて幸せに 死ぬときの5つの後悔を明らかにして今から修正しよう 自分ががんになった意味をポジティブにとらえて人生の目標を持つ キャンサーフィットネス*1が2019年12月14日に開催した健康管理を学ぶためのヘルスケアアカデミー*1では、保坂サイコオンコロジー・クリニック/聖路加国際病院診療教育アドバイザー保坂隆先生が心のリハビリ講座について講演しました*2(不眠対策、ネガティブ思考からの脱却法や身近に寄り添うソーシャルサポートの意義)。 今回、深刻になったときの対処法として、時にはスピリチュアルに考えて、自分ががんになった意味をポジティブにとらえて人生の目標を持つことの重要性について紹介します。 がん診断後の1年間はうつ状態に注意 がんを告知されると、不安になり深刻になります。うつ病になることもあります。 国内でがん診断後の死亡率を検討した研究論文によると、がんと診断された人では、そうでない人に比べて1年以内に自殺する確率が約24倍高く、自殺以外の死亡率が約19倍と高くなります。しかし、1年間が経つとがん罹患の有無では差がなくなります。 特に、1年間はショック状態が続くので、この時期は要注意しないといけません。しかし、主治医や家族がうつ病になってほしくないとの思いや、がんになったけど落ち込んでいても仕方がないという考えがあると、見逃されやすくなります。 うつ病は、さまざまな病気に合併しやすいのですが、うつ病の罹患率(人口5%、外来患者さん10%、入院患者さん20%といわれます)は、病気の種類や症状の程度に関係なくほぼ同程度といわれます。となると、うつ病は見逃されやすい病気なのです。 認知症のような症状もうつ病のケースあり、運動を生活に取り入れることも有用 保坂先生は、見逃されすいからこそ、患者さん自身が気付いて、できる範囲で対処できてほしいといいます。なぜなら、改善は可能だからです。 物覚えが悪い、集中力がない、決断できない、段取りができない、考えがまとまらないといった若年性認知症だと思って悩んでいたら、実はうつ病というケースがあります。 これは、うつ病の症状のひとつ(精神性の抑制)による「仮性認知症」で、改善する可能性は十分にあることを覚えておきましょう。 また、がん患者さんではホルモン療法によりエストロゲンが減少すると、うつ病に関わるセロトニンなども減るので、うつ病や認知症のような症状が起こることがあります。 自分で気づき、改善するという気持ちをもって、できる範囲でのセルフケアも有用です。 有酸素運動も無酸素運動(筋トレなど)も、うつ病の薬と同じくらいの効果があること、不安障害(パニック障害)や不眠症、認知症にも有効との研究論文があります。 うつ病は見逃されやすいので、2週間以上にわたってうつ状態だと感じたら、できる範囲でかまわないので生活の中にスポーツや少しの運動でも取り入れてほしいのです。 時にはスピリチュアルに考える 病気になってから1年が経った⼈は前を向いて新しい⼈⽣を始めるために将来への見通しを持つようにしなければなりません。そこで、時にはスピリチュアルに考えることが有用です。スピリチュアリティーは、生来、備わっているものです。 例えば、かわいそうな亡くなりかたをした人や震災の犠牲者を見たときと同じように、自分や家族ががんと診断されたとき、病気が進行していることを告げられた時には、頭の中を死がよぎります。このときに生来から備わるスピリチュアリティーが喚起されます。 生来のスピリチュアリティーと診療時のスピリチュアルケアとして以下を挙げています。 生来のスピリチュアリティーとがん患者さんへのスピリチュアルケア ■生来のスピリチュアリティー 自分はなぜ生まれてきたのか? 自分の人生の目的は何なのか? 人はなぜ生まれてくるのか? これから、どう生きていけばいいのか? この試練は乗り越えられるのか? この試練から何を学べというのか? ■がん患者さんへのスピリチュアルケア 「あの世はある」、「ご先祖さまがいて、自分の生活を見てくれている人がいる」と仮定しましょう。 危なっかしいときにはご先祖さまが警告を送るようです(夢にご先祖さまがでてくることなど)。 何度も警告しても気づかなかったときには、乗り越えられる病気にするようです。 (だから病気になるという意味と、健康のことを意識して今後は気をつけましょうという意味が込められています)。 あなたの今後の残された人生をどのように生きるのか、ご先祖さまは願っているのでしょうか? *仮定として伝えるのが重要です。断定的に伝えると逆効果になるときがあります。 死にかたの四象限として、横軸をスピリチュアルな考えかたがあるかどうか、縦軸に活動的・意欲的に四分割にすると、四種類の亡くなり方があるそうです(図1)。 図1:死に方の四象限 提供:保坂サイコオンコロジー・クリニック院長/聖路加国際病院診療教育アドバイザー・保坂隆先生 下記は、保坂先生が以前に開催したセミナーや先生の書籍からです。ステージ4を乗り越えるというよりも、「ぶっ飛ばしている人(自分の回復を目指して前向きになって、毎日の生活を充実させていこうと考えている人です)」の特徴は以下です。 ■ステージ4をぶっ飛ばしている人の特徴 標準治療をメインにすえている人(標準治療は現段階で最高水準のゴールドスタンダードという意味です) 人のために何かをしている人 夢や希望を持っている人 食生活を見直している人(特定の栄養にこだわるのではなく普通の食事をとるという意味です) 治療費を自分で選んで決めている人 自分の直感を大切にしている人 抑圧された感情を解き放っている人 スピリチュアルなことを大切にしている人 下記は、がん経験者さんが描いた絵画です。絵画には、標準治療(現時点でエビデンスが明確なゴールドスタンダードの治療法)という道があります。道の傍に生い茂る森はエビデンスがはっきりしていない民間療法、誤った考え、都市伝説、フェイクニュースなどです。 寄り道して森に迷い込まないようにして、本来あるべき道(標準治療)にまっすぐ進んでほしいとの思いが絵画に込められています(図2)。 図2:がん経験者さんが描いた絵画 提供:保坂サイコオンコロジー・クリニック院長/聖路加国際病院診療教育アドバイザー・保坂隆先生 がん患者さんは近い将来の目標、人生観や将来の方向性を持つことが重要 がんになると「何か悪いことをした罰?」、「何が悪かったの?」など原因を探しがちです。しかし、保坂先生は多くの因子が重なって病気になるのだから、原因を考えても仕方がないので、がんになった「意味」を考えましょうと強調しています。 そのためには、たとえば「@歳までは絶対に生きる」、「息子が結婚するのを見届けたい」、「孫が生まれるのを見たい」といった短期・中期的な目標や理由を持つことです。 その次の段階では、それだけではなく、より⻑期的な⽬標、⽣きる価値観や将来の方向性や見通し・人生観を持つことが重要になります。 人生観の例:「周囲の人に感謝し合える人生にしたい」、「愛し合える家族を追求したい」、「人の役に立てる人生にしよう」、「与えたり、分かち合える人生にしたい」、「愛について考える人生に」などがあります。 誰かのために祈ると愛情ホルモンのオキシトシンが増えて幸せに メタアナリシスという方法で,研究論文を多く集めて検証したところ、約50%の報告によると,祈りには遠隔効果があるそうです(Ann Intern Med 2000;132:903-10)。 では、祈った人の体内では,どのような変化が起こるのでしょうか。 ■祈る人にどのようなことが起こっているのか ネガティブな祈り:呪いの気持ちがあると、ストレスホルモンのコルチゾールが増加→脳の海馬の萎縮、免疫機能の低下 ポジティブな祈り:「相手に勝ちたい」、「宝くじに当たれ」はアドレナリン増加(血圧上昇に注意しましょう) 家族の幸福、他人の幸福や健康回復、社会平和など:オキシトシンが増加 ↓ 〇オキシトシンの作用:人への親近感や信頼感が増す、ストレスが消えて幸福感が得られる。免疫力が高まる 〇オキシトシンが増える時:スキンシップやハグ、マッサージ、タッチ、ぬくもり、良好な人間関係、少量のアルコール、祈り 困ったときの神頼みではなく、日常的に「誰かのために毎日祈る」こと、細胞は3ヵ月間で入れ替わる(オキシトシンが増える)ので、3ヵ月間、1日2回は祈ることが重要です。保坂先生が日課にしている祈りとして、「慈悲の瞑想」を参照してください。 ■慈悲の瞑想(短縮版) 私が幸せになりますように(息を吐きながら、計3回)。私が健康になりますように(息を吐きながら、計3回) @さんが幸せになりますように @さんが健康になりますように がん患者さんすべてが幸せになりますように がん患者さんすべてが健康になりますように 生きとし生けるものすべてが幸せになりますように 生きとし生けるものすべてが健康になりますように 死ぬときの5つの後悔を明らかにして今から修正しよう 保坂先生は、死ぬときの5つの後悔を明らかにして、今から修正しても遅くはないと強調しています。 健康を大切にしなかった:病気なってから健康の大切さを知ることが多い やりたいことを先送りしていた:やりたいことは前倒しにする 正直に言えなかったことがある:あのとき、ちゃんとしておくべきだった。どうして言えなかったのか 会いたい人に会っておかなかった:昔の親友やお世話になった人に会っておきたい、お礼を言いたい 愛する人に「ありがとう」と言えなかったこと(病気の予後について知らされていないと、家族との間でこの感謝ができないことが多いようです) ステージ4をぶっ飛ばすくらい、前を向いて人生観をもって生きていこうとすることが重要です。良い行いには良い報いがある「因果応報(いんがおうほう)」の考えかたを持ち、他の患者さんの回復も祈りましょう。 キャンサーフィットネス監修の書籍「乳がんと減量」が発行 一般社団法人キャンサーフィットネス(代表理事:広瀬眞奈美さん)は、患者さんの身体的・社会的・心理的な不安を解消するためのフィットネスクラブです。運動やリハビリ、ヨガ、チアダンスなどの運動プログラムや健康管理を学ぶヘルスケアアカデミー、手先の作業療法になるワークショップなどがあります。 書籍は、「リンパ浮腫のことがよくわかる本」(運動ページ担当、講談社)、「がんのリハビリテーション診療ガイドライン第2版」(がんのリハビリテーション診療ガイドライン策定委員メンバーとして関わる。金原出版)、「医師・コメディカルのための メディカルフィットネス」 (乳がんの運動ページ担当、社会保険研究所)、「がんになって見つけたこと」(辰巳出版)などです。 2020年の春には、「乳がんと減量」(女子栄養大学出版)が刊行予定です。 ■関連記事 がん「リンパ浮腫(むくみ)」の対策にリンパケアエクササイズ 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 癌(がん) 保坂サイコオンコロジー・クリニック がん患者さんやご家族のかたが、がんに関する不安や葛藤を乗り越えて、生き生きと自分らしい生活を取り戻して新たな人生を送れるように、一緒に考えていくことをモットーにしてる心のケアクリニックです〔psycho(サイコ)は精神、oncology(オンコロジー)は腫瘍学です〕。 住所:〒104-0044 東京都中央区明石町11-3 築地アサカワビル6階A号室 診療時間:【月・木・土】9:00~12:00【火・水・金】9:00~12:00/13:00~16:00 休診日:日曜日・祝日 *予約制のため、事前にお問い合わせお願いします(夜間・休日の場合はメール) 電話でお問い合わせ: 03-6264-1791 メールでお問い合わせ:info@psycho-oncology-clinic.com ホームページ:https://psycho-oncology-clinic.com/ ブログ「保坂隆psycho-oncology-clinic」:https://profile.ameba.jp/ameba/psycho-oncology *1:キャンサーフィットネスは、がん患者さん向けに健康講座のヘルスケアアカデミーを定期的に開催しています。がん患者さんのアンケートをもとに、必要とされるテーマからセミナーの内容を考えているので、治療でつらい思いをしている⼈、治療が終わっても⽣活に悩んでいる⼈に役⽴ちます。もちろん、健康な⼈がより健康になる⽿寄り情報も満載です。 2020年は、ヘルスケアアカデミーならびに、新たにリンパ浮腫患者スクールを開催予定です(スクール第1回目は2020年4月18日予定)。セミナー予定の詳細 *2:保坂隆先生がヘルスケアアカデミーで「心のリハビリテーション講座~日常の心のケアを学び、心の健康管理をしていきましょう~」のテーマに講演しました 内容は、先生の実際のサイコオンコロジー診療をふまえたうえで、身体のリハビリ〔良質の睡眠をとるコツ〕、心のリハビリ、魂のリハビリにより、きれいな肌を取り戻し、汚れた心をきれいにして、美しい魂を追い求めてほしいとの思いが込められています。 公開日:2020/04/08 監修:保坂サイコオンコロジー・クリニック院長/聖路加国際病院診療教育アドバイザー 保坂隆先生、一般社団法人キャンサーフィットネス
ネガティブな考え方がグルグル回っていると健康によくありません。どうすればよいのでしょうか。がん患者さんの健康づくりをサポートするキャンサーフィットネスが開催する専⾨医による健康講座のヘルスケアアカデミーから、がん経験者さんはもちろん、病気になっていない人にも役立つ情報として、ネガティブ思考を打破する方法や、心を支えるソーシャル・サポートなど、心のリハビリテーション(以下リハビリ)について紹介します。 目次 ネガティブ思考の堂々巡りを打破するための生活習慣とは 他人事のように「また、こんなことを考えている!ダメねー」と自分を眺めましょう 身近に寄り添って支援するソーシャル・サポートの意義 情緒的・手段的・情報的ソーシャル・サポートをしてくれる人が2~3人いると理想 つらい経験をした患者さんが同じ境遇にいる人に寄り添うピア・カウンセリング ネガティブ思考の堂々巡りを打破するための生活習慣とは キャンサーフィットネス・ヘルスケアアカデミー (2019年12月14日開催)のセミナー風景 一般社団法人キャンサーフィットネス*1が2019年12月14日に開催したヘルスケアアカデミーで、保坂サイコオンコロジー・クリニック(https://psycho-oncology-clinic.com/)/聖路加国際病院診療教育アドバイザー保坂隆先生が講演した心のリハビリ講座を紹介します*2。 ネガティブ思考が勝手にグルグル回り続ける堂々巡りを打破する対処法として、まず「客観的に自分を眺めるようにすること」がコツです。 というのは、脳はネクラで過去の後悔ネタを探し続けやすく、未来のありもしない心配や不安の種を探しやすいのですが、脳は1つのことしか考えられないという特徴と、臓器の一部なので自分自身ではないことを意識するという2つのポイントがあるとのことです。 まず、脳は1つのことしか考えられないことですが、応用すると、何かに夢中になっていると、その時間帯だけでも堂々巡りから脱却できるのです。 下記は、保坂先生が診療時にアドバイスしている脱却方法となる生活習慣の例です。 ・料理 ・アイロンがけ ・お風呂のタイル磨き ・引き出しの整理 上記のなかでお風呂のタイル磨きがあります。保坂先生によると、患者さんが「今日は、30㎝四方のタイル磨きだけでもやろう」といった無理のない目標をたてると、意外と夢中になれるとのことです。 診療では、市販の揺らめくキャンドルなどを見つめて、ゆったりした感じで腹式呼吸をするようなマインドフル瞑想を組み合わせた方法も取り入れています。 他人事のように「また、こんなことを考えている!ダメねー」と自分を眺めましょう ネガティブ思考からの脱却方法として、脳というのは心臓や肝臓と同じように自分でコントロールできない臓器の一部として考えることも重要です。そうすることで、脳は決して自分自身ではなく「考える臓器の1つ」と思えると、脳を自分から切り離せます。 客観的に眺めるよう俯瞰して見る、他人事のように自分を見て、「また、こんなことを考えている!ダメねー」と思えるように心がけましょう*3。 身近に寄り添って支援するソーシャル・サポートの意義 心のリハビリとして、患者さん同士が支えあうことやソーシャル・サポートがあります。 ソーシャル・サポートの意味は、身近に寄り添って支援してくれる存在、助けてくれる存在のことをいいます。配偶者、親、子供、兄弟姉妹といった近親者、主治医、職場の同僚、親友、近所の方、趣味の会、患者会や支援団体などが当てはまります。 多くの研究論文から、ソーシャル・サポートがある人のほうが病気になりにくく,病気の経過が良い可能性があり、がん患者さんではソーシャル・サポートがあり、主治医とフランクに話せるほうが長生きする可能性があることが指摘されています。 乳がんに関しては、社会的に孤立している患者さんは、ソーシャル・サポートがある患者さんに比べてあらゆる原因による死亡は1.6倍、乳がん由来の死亡は2.1倍になるとの指摘があります(Kroenke CH, et al. J Clin Oncol2006;24:1105-1111) 情緒的・手段的・情報的ソーシャル・サポートをしてくれる人が2~3人いると理想 保坂先生によると、以下の3つのサポートをしてくれる人が,それぞれ2~3人いることが理想的といいます。さらに、多くの患者さんからは以下のような話があります。 情緒的ソーシャル・サポート:その人と居るとホッとできる、癒される 手段的ソーシャル・サポート:車の送迎など、日々の生活で実際的な手助けをしてくれる 情報的ソーシャル・サポート:正しい情報を集めてくれる ↓ 「先生も、看護師さんも、私たちの気持ちを分かってくれようとしているのはよくわかるけど、やはり限度があるみたい」 「やはり、同じ病気や同じ状況を体験した仲間同士のほうが分かり合える。こういったサポートが、病院内や地域で作れないのか?」 現在は、病院内あるいは地域で同じ境遇にある人たちが集まる機会となるサロンを設けているところがあります。ヘルスケアアカデミーを開催しているキャンサーフィットネスもイベントやセミナーでサロンを用意しています。 つらい経験をした患者さんが同じ境遇にいる人に寄り添うピア・カウンセリング 保坂先生は、ソーシャル・サポートやサロンを取り入れるべきと考え、乳がん患者さんを対象にグループ療法「Smile Ring ALUMNA(ALUMNAは同窓会という意味です)」を聖路加国際病院で実施していました。 引き続き、保坂先生のクリニックでは,乳がんのグループ、子宮・卵巣がんのグループ、ステージ4のグループなど、グループ療法の場を保険診療で,毎月1回ずつのペースで実施しているそうです。 グループ療法の効果は予想以上に広がってきました。というのは、あるグループの新メンバーが深刻な患者さんだったので、保坂先生が「みなさん、今日は新メンバーをサポートしましょう」と言ったところ、グループメンバーは新しいメンバーのためにアドバイスし始め,新メンバーは仲間の言葉に救われたのです。 つまり、患者さんが,別の患者さんのために親身になってサポートする側に回るという,グループ療法による新たな効果がわかったのです。 このように、つらい経験をした患者さんが同じ境遇にいる人を支えて救ってあげたいという思いをもって寄り添うのはピア・カウンセリングといいますが、ピア・カウンセリングすることによって、自分自身も,さらに健康的な心を持つようになるといわれます。 心のリハビリは、自分で工夫することだけではなく、仲間とつながることなど、さまざまな方法があるので、活用しましょう。 次回は、ステージ4をぶっ飛ばすくらい前向きになるためのコツを紹介します。 ■関連記事 がん「リンパ浮腫(むくみ)」の対策にリンパケアエクササイズ 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 癌(がん) 保坂サイコオンコロジー・クリニック がん患者さんやご家族のかたが、がんに関する不安や葛藤を乗り越えて、生き生きと自分らしい生活を取り戻して新たな人生を送れるように、一緒に考えていくことをモットーにしてる心のケアクリニックです〔psycho(サイコ)は精神、oncology(オンコロジー)は腫瘍学です〕。 住所:〒104-0044 東京都中央区明石町11-3 築地アサカワビル6階A号室 診療時間:【月・木・土】9:00~12:00【火・水・金】9:00~12:00/13:00~16:00 休診日:日曜日・祝日 *予約制のため、事前にお問い合わせお願いします(夜間・休日の場合はメール) 電話でお問い合わせ: 03-6264-1791 メールでお問い合わせ:info@psycho-oncology-clinic.com ホームページ:https://psycho-oncology-clinic.com/ ブログ「保坂隆psycho-oncology-clinic」:https://profile.ameba.jp/ameba/psycho-oncology *1:キャンサーフィットネスは、がん患者さん向けに健康講座のヘルスケアアカデミーを定期的に開催しています。がん患者さんのアンケートをもとに、必要とされるテーマからセミナーの内容を考えているので、治療でつらい思いをしている⼈、治療が終わっても⽣活に悩んでいる⼈に役⽴ちます。もちろん、健康な⼈がより健康になる⽿寄り情報も満載です。 2020年は、ヘルスケアアカデミーならびに、新たにリンパ浮腫患者スクールを開催予定です(スクール第1回目は2020年4月18日予定)。セミナー予定の詳細 *2:保坂隆先生がヘルスケアアカデミーで「心のリハビリテーション講座~日常の心のケアを学び、心の健康管理をしていきましょう~」のテーマに講演しました 内容は、先生の実際のサイコオンコロジー診療をふまえたうえで、身体のリハビリ〔良質の睡眠をとるコツ〕、心のリハビリ、魂のリハビリにより、きれいな肌を取り戻し、汚れた心をきれいにして、美しい魂を追い求めてほしいとの思いが込められています。 *3:ネガティブ思考からの脱却方法として、脳というのは心臓や肝臓と同じように自分でコントロールできない臓器の一部として考えることについてです。 保坂先生によると、インド古代哲学書「カタ・ウパニシャッド」で人間を馬車にたとえたものがあります。馬は五感と運動器官、手綱は情報を伝達する意志、馬を操る御者は脳、お客さんが自分自身とすると、脳と自分自身は違うことが説明できます。つまり、脳が勝手に考えることに振り回されないようにすべきということなのです。 公開日:2020/04/01 監修:保坂サイコオンコロジー・クリニック院長/聖路加国際病院診療教育アドバイザー 保坂隆先生、一般社団法人キャンサーフィットネス
がん患者さんの健康づくりをサポートするキャンサーフィットネスが開催する専門医による健康講座は、病気でつらい思いをしている人への耳寄り情報だけでなく、健康増進のために正しい知識が得られるセミナーです。今回は、心のリハビリテーション講座から、みなさんに役立つ不眠対策として、良質の睡眠をとるコツを紹介します。 目次 睡眠障害を克服する良質の深い睡眠をとるコツ 良質の睡眠は4時間で充分、深い睡眠をとるコツとは 黄金の90分間にメラトニンを増やすことが鍵、ゴールデンタイムは? 体温がポイント、入眠90分前の入浴がスイッチに 単調・ワンパターンの脳スイッチ 睡眠障害を克服する良質の深い睡眠をとるコツ 一般社団法人キャンサーフィットネス(http://cancerfitness.jp/)は、がん患者さん向けに健康講座のヘルスケアアカデミーを定期的に開催しています。 がん患者さんのアンケートをもとに、必要とされるテーマからセミナーの内容を考えているので、治療でつらい思いをしている人、治療が終わっても生活に悩んでいる人に役立ちます。もちろん、健康な人がより健康になる耳寄り情報も満載です。 2019年12月14日のヘルスケアアカデミーは、保坂サイコオンコロジー・クリニック/聖路加国際病院診療教育アドバイザーの保坂隆先生の講演「心のリハビリテーション講座~日常の心のケアを学び、心の健康管理をしていきましょう~」がセミナー内容でした*1。 講演内容は、保坂先生のサイコオンコロジー診療の実際をふまえたうえで、身体のリハビリ、心のリハビリ、魂のリハビリにより、きれいな肌を取り戻し、汚れた心をきれいにして、美しい魂を追い求めてほしいとの思いが込められています。 先生の講演から、まずは不眠症対策として「良質の深い睡眠」をとるコツを紹介します。 キャンサーフィットネス・ヘルスケアアカデミー(2019年12月14日開催)のセミナー風景 良質の睡眠は4時間で充分、深い睡眠をとるコツとは 保坂先生によると、睡眠の質は加齢とともに低下してしまいます。研究報告からは、20歳を境に睡眠の質は悪化していき、40歳ごろから不眠症の症状が現れやすく、睡眠時間が6時間未満の不眠症と診断される人は「4人に1人」という指摘などがあります。 不眠症は、おもに以下の4つのパターンがあります。 入眠障害:子供のころから寝付きが悪く、体質によるタイプ 中途覚醒:中高年者に多く、睡眠が浅いので夜中にトイレに起きるがその後は眠れるタイプ 熟眠障害:睡眠が浅く,睡眠の質が悪いタイプ 早朝覚醒:中⾼年の⼈やうつ病の場合に、早朝に起きてしまうタイプ 眠りに入るとまず深い眠りの状態のノンレム睡眠、次に浅い眠りの状態のレム睡眠*2の状態になり、90分間隔でノンレム・レム睡眠を繰り返します。 20歳ころまでは良質の深い睡眠をとれますが、年を重ねるにつれて睡眠の質が悪くなっていきます。40歳以降は浅い睡眠になりやすいのですが、 実は、眠りに入って最初の4時間で必要な睡眠の7割を確保できるそうです。 「夜中に目が覚めて眠れない。くやしい」という人がいますが、最初の眠りで、良質の深い睡眠が4時間ほどとれていれば、まずは安心しましょう。目が覚めても、起き上がらず、ベッドの上でダラダラしているだけでも十分な休養になるのです。 黄金の90分間にメラトニンを増やすことが鍵、ゴールデンタイムは? 保坂先生は、良質の睡眠のキーワードとして、深いノンレム睡眠の時間帯「黄金の90分」を強調しています。 実は、よい睡眠をとるための目的は、体内の成長ホルモンの分泌を促すことです。成長ホルモンは、体内の悪玉といえる活性酸素を除去して、肌にハリと潤いを与えてくれます。 大人だと成長ホルモンの約7割は寝ている間に分泌されます。そのなかで、眠りを誘うメラトニン*3は、トリプトファンというタンパクを含む食事、日光浴、運動によって脳の松果体でつくられ、眠りに入った直後の深いノンレム睡眠中に多く分泌されます。 メラトニンが多く分泌されるゴールデンタイムがあります。それは、夜の午後10時から夜中の午前2時です。ということは、このゴールデンタイム中に、良質の深い睡眠「黄金の90分」を確保することが望ましいといえます。 ゴールデンタイムに黄金の90分を深めるためにどうすればよいのでしょうか。保坂先生によると、黄金の90分を深める2つのスイッチがあります。それは体温と脳です。 体温がポイント、入眠90分前の入浴がスイッチに 体温に関しては、深部体温が重要です。皮膚体温のように日中は低くて夜間は高くなるのとは違い、日中に高くて夜間は低くなります。入眠前になると手足が温かくなり、手足から熱が放散されると深部体温が下がります。 そこで、深部体温を動かす眠りの入り口として入浴が起点になります。たとえば、40度の風呂に15分入ると深部体温が0.5度ほど上がるという実験結果があります。 深部体温は体温が上がると、自律神経のはたらきで一定に保つよう、上がった分だけ下げようとする性質があります。入浴によって深部体温を一時的に上げれば、入眠時に必要な深部体温をより下降させようとする動きが、熟睡につながるということです。 深部体温の変化から上手に寝付くコツとしては、「眠る90分前に風呂に入ること」になります。その時間がない場合にはシャワー程度で深部体温を上げないようにしましょう(参考書籍:西野精治、「スタンフォード式 最高の睡眠」、サンマーク出版)。 単調・ワンパターンの脳スイッチ 黄金の90分を深めるもう1つの鍵は、単調、ワンパターンなど、入眠に導く儀式的なルーチンを作ることによって脳や自律神経をだまして「脳スイッチ」をオンにすることです。神経を刺激するようなことはNGです。以下を参照してください。 ■脳スイッチをオンにする 寝る前にルーチン化する儀式的なことを決める:「寝室は眠る場所」、「暗くしたら眠るだけ」などの暗示をかける リラクセーション:腹式呼吸(ヨガ)、自律訓練(自己暗示、例:横になって「両手がだんだんと温かくなる」と呪文を繰り返して末梢血管を広げるよう⾃⼰催眠をかける イメージ療法:ゆったりしたところにいて、うとうとしていることをイメージする 軽い運動:ストレッチなどをする 寝る前はスッキリして寝る:気になることがあると、眠れなくなります。朝起きてすべきことを、寝室に入る前にメモ書きして頭から出しておくなど、記憶にとどめないようにして寝ましょう ■これだけはNG 夕食後にベッド以外の場所で寝る 眠る前はテレビを見たり、パソコン、スマホ、ゲームをする 就寝時間にこだわりすぎる(不眠神経症に注意) 保坂先生によると、いつも通りの時間にお風呂に入り、いつも通りの時間にパジャマを着替えるなど、「いつもと同じパターン」が単調さ(ルーチン)につながるとのことです。保坂先生は、眠る前は横になって大腿四頭筋を伸ばすことを日課にしているそうです。 また、横になってから意図的に腹式呼吸をしたり、ノンビリしているイメージを描くように、セルフケアとしてそれぞれ自分で工夫して取り組んでみましょうとのアドバイスでした。 次回は、ネガティブ思考がグルグルと堂々巡りする人への対処法などを紹介します。 キャンサーフィットネスは運動も勉強もできる総合アカデミー 一般社団法人キャンサーフィットネス(代表理事:広瀬眞奈美さん)は、術後、化学療法中や何年も経過した治療後のかたまで、自分に合った運動ができるよう、リハビリ、ヨガ、ダンス、ジムなどさまざまな種類の運動教室を開催しています。 インストラクター養成コースを卒業した認定インストラクターが全国で地域密着型で精力的にサポートしています。また健康について学ぶヘルスケアアカデミーもあり、がん患者さんが生活習慣を改善する方法を学ぶことができます。 2019年は、運動教室は128回、ヘルスケアアカデミーは34講座、手先の作業療法となるワークショップは10回にわたり開催しました。写真は、ワークショップで制作された手作り製の色鮮やかなウィッグスタンドです。こちらは現在、脱毛中のかたに無料で差し上げています(ウィッグスタンドをご希望のかたは、キャンサーフィットネスにお問い合わせいただければ、お受け取りかたを説明します(問い合わせ先:http://cancerfitness.jp/contact/)。 *1:2020年は、ヘルスケアアカデミーならびに、新たにリンパ浮腫患者スクールを開催予定です(スクール第1回目は2020年4月18日予定)。セミナー予定の詳細 *2:ノンレム睡眠は、英語でRapid Eye Movementの略で急速眼球運動という意味です。寝ているときに脳だけが活動しており、眼球が動いていたり、夢を見ていたりなど、浅い睡眠状態のことをいいます。 *3:メラトニンは、食事(トリプトファン摂取)、運動、日光浴などによってセロトニンが増えることでメラトニン分泌が促されます。セロトニンはうつ病の薬があります。不眠症対策の睡眠を促す薬は、主に下記の2種類があります。 ・恒常性の維持を目的とした薬:ベンゾジアゼピン系睡眠薬のデパス、マイスリー、レンドルミン(疲労や睡眠不足による睡眠物質の蓄積から誘導されるメカニズム) ・体内時計(概日リズム)を応用した薬:ラメテルオン(規則正しい睡眠-覚醒リズム=サーカディアンリズムにより誘導されるメカニズム) ■関連記事 がん「リンパ浮腫(むくみ)」の対策にリンパケアエクササイズ 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 癌(がん) 保坂サイコオンコロジー・クリニック がん患者さんやご家族のかたが、がんに関する不安や葛藤を乗り越えて、生き生きと自分らしい生活を取り戻して新たな人生を送れるように、一緒に考えていくことをモットーにしてる心のケアクリニックです〔psycho(サイコ)は精神、oncology(オンコロジー)は腫瘍学です〕。 住所:〒104-0044 東京都中央区明石町11-3 築地アサカワビル6階A号室 診療時間:【月・木・土】9:00~12:00【火・水・金】9:00~12:00/13:00~16:00 休診日:日曜日・祝日 *予約制のため、事前にお問い合わせお願いします(夜間・休日の場合はメール) 電話でお問い合わせ: 03-6264-1791 メールでお問い合わせ:info@psycho-oncology-clinic.com ホームページ:https://psycho-oncology-clinic.com/ ブログ「保坂隆psycho-oncology-clinic」:https://profile.ameba.jp/ameba/psycho-oncology 公開日:2020/03/25 監修:保坂サイコオンコロジー・クリニック院長/聖路加国際病院診療教育アドバイザー 保坂隆先生、一般社団法人キャンサーフィットネス
レモンと砂糖と水があれば簡単に作れるレモネード。アメリカでは、子供が家の前や道ばたで「レモネードスタンド」を開いて、お小遣いを集める姿はよく見られる光景ですが、小児がん患児のサポートにつながることをご存知でしょうか。社会貢献のためのレモネードスタンド活動について紹介します。 目次 がん闘病中の女の子がレモネードスタンドを開催して治療研究費を寄付したことが契機 病気の子供が「将来への見通し」を持ってもらうためには支援活動が必要 レモネードスタンドをやってみよう 小児がんの子供がリーダーとなってレモネードスタンドを開催 試練(すっぱいレモン)があっても、いい方向(甘くておいしいレモネード)に! がん闘病中の女の子がレモネードスタンドを開催して治療研究費を寄付したことが契機 レモネードスタンドは、レモン原液と砂糖、水があれば簡単に開催できます。アメリカでは、子供のお小遣い稼ぎの風物詩となっているので、家の前や道端で子供がレモネードを作って売る光景はよく見られるものです。 そこで、2000年ころに米国で以下の実話があります。小児がんで闘病中の女の子が「自分と同じような病気の子供のために、治療の研究費を病院に寄付したい」との思いから、自宅の庭にスタンドを開き、レモネード売り上げを治療研究のために寄付したのです。 女の子の活動はメディアに取りあげられ、世界中に知られていきます。これが契機となって、現在の小児がん患児を支援するレモネードスタンド活動につながっていったのです。 病気の子供が「将来への見通し」を持ってもらうためには支援活動が必要 国立がん研究センターが2018年に配信したリリースによると、小児がん(0歳~14歳)の罹患率は人口10万人当たり12.3人です。日本全体の人口に当てはめると、1年間にがんと診断される患児数は約2,100例です*1。患者さんの数は少なくありません。 しかし、小児がんの治療法開発のための研究予算は少ないのが現状です。 患児が大人になっても、病気とともに生きていくことになります。大人になると、妊よう性(妊娠する力という意味です)の問題に直面するケースがあります(過去記事:血液情報広場・つばさの記事、グリーンルーペの記事など)。 困難に直面するかたをサポートするために、小児がんの治療法開発の取り組みが遅れてしまわないために、また患児の今後の長い人生において「将来への見通し」を持ってもらうために、支援することが必要なのです。 レモネードスタンドをやってみよう 小児がんの女の子が多額の寄付を集めた活動が契機になって、現在も世界中でレモネードスタンド活動が盛んに行われています。 「レモネードスタンド活動をして何か社会貢献したい」そう思うかたは、「レモネードスタンド」と「小児がん支援」をつなぐ架け橋となって全国へ普及することを目的に設立された団体が多くあるので、ホームページなどを参照してください(一例として下記団体を参照)。 レモネードスタンドクラブ:http://nposuccess.jp/lp/ NPO法人サクセスみらい科学機構SUCCESS(http://nposuccess.jp/)が2007年に設立しました。日本では初めて本格的なレモネードスタンドチャリティを展開した団体です。設立以来、14年ほどにわたって、小児がんの薬の開発事業や、医療相談事業を行なっています。 年間30回ほどのレモネードスタンドの運営・開催に関わっています。開催希望者にはレモネードスタンドのお話を書いたカード(名刺サイズ)、ミニポスター(A3、A4サイズ)、パンフレットなどを提供可能です。 レモネードスタンド普及協会:https://www.lemonadestand-pa.jp/ レモネードスタンド普及協会を通じて申し込みをすると、レモネードスタンド活動に必要なレモン果汁と活動を伝えるDVDを無償で提供してくれます。 レモネードスタンドによって集められた寄付金は、必要な送金手数料を除いて運営費を差し引かれることなく、全額が特定非営利活動法人日本小児がん研究グループ(JCCG)などの小児がん支援団体へ送られ、小児がんの治療開発に役立てられます。 ホームページに活動のはじめかた(https://www.lemonadestand-pa.jp/try/started.html)、申し込み手続きや開催時に必要なものキットのダウンロード情報(https://www.lemonadestand-pa.jp/try/kit.html)があります。 レモネードスタンドジャパン(NPO法人キャンサーネットジャパン):https://www.lemonadestand.jp/ NPO法人キャンサーネットジャパン(https://www.cancernet.jp/)が運営をしている団体です。開催予定で希望する団体へレモン原液の無償提供をしています。運営マニュアルや開催に必要なディスプレイ用のデータ、リーフレットデータもお送りしています。 小児がんの子供がリーダーとなってレモネードスタンドを開催 レモネードスタンドの実際の活動を見ると、団体イベントでの1セッションとして、また地域文化祭やお祭り行事、学園祭のイベントで、さまざまな形式で開催されています*2。 下記は、レモネードスタンド活動を継続的に実施している団体で、看護師さんの多様性ある生き方を推進する団体「ナースライフバランス」のイベントの活動模様です。 レモネードスタンド活動(2020年1月25日、ナースライフバランス主催のイベント「ナース図鑑vol3」) 看護師が多様性のある生き方を実現することや働き方改革を推進する団体「ナースライフバランス」(Facebook:https://www.facebook.com/ナースライフバランス-129062241145965/)は、オンラインサロン「ナースLab(写真右はオリジナルTシャツです)」、イベントとして「ナース図鑑」などを運営しています。 レモネードスタンドクラブから寄せられた情報があります。それによると、2019年8月に10歳の大泉咲穂(さほ)さんがリーダーになってレモネードスタン活動をする企画が実施されました。活動内容の詳細はこちら:http://nposuccess.jp/topics/saho-lemosta レモネードスタンド普及協会やレモネードスタンドジャパンの開催レポートには、全国の活動内容がわかりやすく解説されています。オリジナルのレモネードレシピを提供することや、クリスマス開催の雰囲気つくりなど、さまざまな工夫を凝らしています。 ■レモネード普及協会・開催レポート:https://www.lemonadestand-pa.jp/news/activity-report.html ■レモネードスタンドジャパン・開催レポート:https://www.lemonadestand.jp/category/report レモネードスタンド活動で集められた寄付金は、小児がんの病気の原因究明や治療法開発に従事する研究団体に送られるほか、小児がん支援プロジェクト、治療のために入院しながら学習することへの支援、自立するための支援、ウィッグのプレゼントなど、さまざまな生活サポート事業にも使われます。 詳細は、各団体のホームページを参照してください。レモネードスタンドクラブ・お預かりした寄付の使い道(http://nposuccess.jp/lp/#use)、レモネードスタンド普及協会・活動の目的(https://www.lemonadestand-pa.jp/try/purpose.html)、レモネードスタンドジャパン・寄付について(https://www.lemonadestand.jp/donate)などがあります。 試練(すっぱいレモン)があっても、いい方向(甘くておいしいレモネード)に! レモネードスタンドは、2000年ころにがんの女の子が始めた寄付活動が契機となって、現在は小児がん患児を支援する社会貢献の活動として世界中に支援の輪が広がっています。 最後になりますが、レモネードスタンド普及協会のホームページに記載されている英語のことわざを紹介します。 “If the life gives you lemon, make lemonade” 〔試練(すっぱいレモン)があっても、いい方向(甘くておいしいレモネード)にしていこう!〕 このような前向きな思いを持った仲間と一緒にアイデアを練って、がんのお子さんをサポートするためのレモネードスタンド活動をしてみませんか。 *1:国立がん研究センター2018年5月30日プレスリリース:https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/0530/index.html 2009年から2011年に新たにがんと診断された小児とAYA〔Adolescent and Young Adultの略で思春期~若年成人(おもに15~39歳)〕世代のがん罹患率を集計・解析した結果 *2:2020年3月以降のレモネードスタンド開催予定 ・レモネードスタンド普及協会(https://www.lemonadestand-pa.jp/news/notice.html) ・レモネードスタンドジャパン(https://www.lemonadestand.jp/category/event 公開日:2020/03/4
がんの治療成績が向上し長期生存が可能になった今、治療と仕事・生活の両立に関心が高まっています。多くのセミナーが開催され、国のガイドラインも作成されました*1。ところが、厚生労働省の対応は矛盾だらけです。だから、啓発活動の盛り上がりの割に社会への浸透度はいま一つとの批判も強いのです。昨年(2019年)の暮れ、電車の中吊り広告ポスターを見た大塚美絵子さんはショックでへたりこんでしまったといいます。何があったのでしょうか? 目次 島耕作の裏切り!女性は両立支援対象ではない? データの可視化で明確になるがん罹患率の男女比 まずは現実に存在するジェンダーギャップ(男女格差)を意識すべき あちこちに潜むジェンダー・ギャップ(男女格差) 島耕作の裏切り!女性は両立支援対象ではない? 問題の電車の中刷り広告は、2019年12月開催の厚生労働省主催のセミナー「令和の働き方改革~両立支援が会社と社員にもたらすもの~」でした(写真/JR上野東京ラインの車内で撮影。下記)。 出典:リンパレッツのウェブサイト・店長の日記(ブログ)「厚労省の無理解」 中吊り広告の6つあるコマには登場人物が延べ20人以上いますが、そのなかに、女性が誰1人もいないことに気がつきましたか? 「漫画なのだから、神経質にならなくても」と言われそうです。しかし、就労年代の患者数は男性より女性の方が多いのです。 とりわけ、就労世代の核となる30~49歳では患者の3人のうち2人は女性です(下記に掲載している図と表を参照してください)。それにも関わらず、女性が1人も登場しない両立支援セミナーの広告を打つというのはどういう神経でしょうか? 大塚さんは、「ポスターを見て、島耕作に裏切られた!と感じた」と怒りをあらわにしています。 データの可視化で明確になるがん罹患率の男女比 がん患者の男女比を実際のデータで見てみましょう。 国立がん研究センターはがんについていろいろ統計数値を発表しています。大塚さんはそのなかから、地域がん登録・全国実測値:がん罹患データ(2014年~2015年)で2015年に新規にがんと診断された患者数のデータをコピーしました。 そのままでは数字の羅列なので、エクセルで見やすいように加工し、就労年齢の患者の男女比の部分を拡大してみました。 働き盛りの世代の女性がん患者がどれほど多いか一目でわかりますね。30~49歳では、がん患者の3人に2人は女性です(図、表)。 図、表:就労年齢(20~59歳)における男女別がん罹患者数(2015年のがん罹患者数データ) ↓ 出典:国立がん研究センターがん情報サービスがん登録・統計 がんに関する統計データのダウンロード:2.罹患2)地域がん登録・全国実測値/がん罹患データ(2014年~2015年)、国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」〔全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ)〕 https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html#incidence4pref 出典:リンパレッツのウェブサイト・店長の日記(ブログ)「厚労省の無理解」 いまから4年前の大塚さんブログにも、上記と同じような記事がありました。 つまり、就労問題に関して女性患者の置かれた現状に対する認識は、4年が経っても大きな進歩は見られていない(=失われた4年間)と言えるのではないでしょうか? まずは現実に存在するジェンダーギャップ(男女格差)を意識すべき では、どうすれば良いのでしょうか?大塚さんは「政策立案や、ガイドライン作成において、もっとジェンダー・ギャップを意識し、それを提言に反映する必要がある」と言います。 特に就労世代のコア、30~55歳の女性は、子育てや介護も担っており、仕事との両立だけでなく、三位一体、マルチタスクの同時遂行が求められる場合も少なくありません。また、会社との交渉で立場の弱い非正規やパート労働についている割合も高いのです。 このような現状を認識し、それぞれの状況に配慮した対策を提言しない限り、仕事と治療の両立の現状を変えることは難しいと大塚さんは指摘しています。 あちこちに潜むジェンダー・ギャップ(男女格差) 昨年12月、世界経済フォーラム(WEF: World Economic Forum)による19年の「ジェンダー・ギャップ指数」(the Global Gender Gap Report 2020)で、日本は153カ国中121位に甘んじたというニュースが報じられました。最大の要因は政治参加の遅れ。健康⾯での格差はさほど悪くない評価でしたが、「健康面での潜在的格差もまだまだ大きい」と⼤塚さん。 たとえば、Kutoo(クートゥー、職場での女性に対するハイヒールやパンプス着用の強制問題に対する社会運動)に対し、厚生労働大臣は「業務の上で必要かつ適切であればハイヒールの着用を強制することは社会的に受け入れられる」と発言しました。 この発言、一般的な女性差別としても問題視されましたが、とりわけ女性がん患者にとっては、「切捨てにつながりかねない」と大塚さん。 というのも、抗がん剤の副作用で足先に痺れをかかえ、ハイヒールやパンプスがはけなくなる患者が非常に多いからです。 大塚さんは、「私もハイヒールは全部捨てました。厚労相は、多分現実をご存じないのでしょうが、“抗がん剤治療した女性は職場復帰するな”と言っているように聞こえました」といいます。 最後になりますが、大塚さんからお怒りのメッセージです。 「患者の社会復帰を応援します。職場復帰を促します」と大々的にキャンペーンを張っている厚労省、しかもトップが「女性はパンプス履いてね。企業も、それを要求しても許されるよ」と言ったことが大問題なのです。 「がん患者さんの社会復帰を応援しますよ」と大上段に構えておいて、社会復帰促進のポスターには女性が登場しない。痺れた足で履くのが困難な靴の強制を大臣が容認してしまう。この大矛盾を認識していない=「地に足がついていない」なのです! 大塚美絵子さん 2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫(むくみ)対策などの弾性ストッキングやスリーブなどを販売するお店をしています。 がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。 大塚さんのお店やブログ ■関連記事 がん社会保障、知ることは力なり サバイバー伝授!がんとお金(1) がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2) 傷病手当金、患者さんが絶対に押さえるべき3つのポイントとは サバイバー伝授!がんとお金(3) 傷病手当金の制度上の社会的治癒、再発、転移とは サバイバー伝授!がんとお金(4) がん副作用対策、海外に学ぶ がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(2) がんの話題にタブーがない海外 がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(3)最終回 免疫療法、ノーベル賞受賞したから受けてみようか?でもその前に… 「こんなはずじゃなかった」、がんサバイバーが直面する社会復帰の壁 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 癌(がん) 公開日:2020/02/26
子供や思春期、若年のがん患者さんにとって妊娠・出産は切実な問題です。病気やがん治療により、「妊よう性」という生殖能力(妊娠する力のことをいいます)が低下するケースがあるからです。子供が授かる可能性として妊よう性温存治療の選択肢などがありますが、正確な情報を理解して納得したうえで選択すべきです。医学会や地域の相談事業や自治体サポートの取り組みを紹介します。 目次 思春期・若年成人(AYA)世代のがん患者さんにとって切実な問題 AYA世代の時期にがんと診断された人の恋愛や結婚に対する思い 妊よう性温存治療は正確な情報をもとに納得したうえで選択すべき 治療を受ける前、手術を受ける前にがん・生殖医療ネットワークに相談できます 保険適用がない妊よう性温存治療の治療費を一部の自治体が助成 思春期・若年成人(AYA)世代のがん患者さんにとって切実な問題 思春期~若年成人の15~39歳くらいの世代はAYA世代(AYA:Adolescent&Young Adult)といいます。学業、就職、社会参加に加え、恋愛、結婚、妊娠や出産などのライフイベントに巡りあう機会が多い世代です。 しかし、病気やその治療が生殖機能に影響を及ぼすことがあります。特に、がん治療において、手術、放射線治療、抗がん剤治療などの影響で、がんを克服した後に子供を授からなくなるケースが少なくないので、がん克服後に長期の人生を過ごすAYA世代をはじめとした若年患者さんにとっては切実な問題です。 生殖臓器(子宮や卵巣、男性では精巣など)以外の疾患でも、上記の治療の副作用として生殖機能低下を引き起こし、不妊となる可能性があります。 また、治療が生殖機能にダメージを与えなくても、治療期間が5~10年と長く続くと、この間に生殖可能年齢を過ぎてしまうケースもあります。 筑波大学の吉田加奈子さんらは、AYA世代のがん経験者さんに調査を実施して、がん罹患が恋愛や結婚に及ぼす影響について検討しています。2つの研究結果を紹介します。 AYA世代の時期にがんと診断された人の恋愛や結婚に対する思い 吉田さんらの研究成果から、まずAYA世代の時期にがんと診断され、そのときは未婚であった人に、当時の恋愛や結婚に対する思いを面談形式で調査した結果について紹介します。 恋愛や結婚にがん罹患が影響したことに関する調査結果では、回答が多い順に「不妊の可能性など妊よう性の問題」、「がん罹患を打ち明けること」、「外見の変化」、「再発・転移・体調への不安」などが挙げられていました。 がん罹患後の恋愛・結婚に関して希望するサポートは「医療機関/カウンセラー」と「ピアサポート」と答えた人が多く、医療機関に対しては「がん治療開始前の妊よう性温存治療の選択肢があることや、がん治療後の生殖機能に関する情報が欲しい」といった意見が多く寄せられていました*1。 次に、多くのかたを対象としてニーズを詳しく探るために、AYA世代の未婚期にがんに罹患した経験がある約200人にウェブ調査をした結果を紹介します。 調査結果では、がん罹患が恋愛・結婚に及ぼした影響については、1~3位は以下のとおりでした(複数回答)。1~3位は、いずれも回答者の約半数が「強く影響した」または「やや影響した」と回答していました。 ●がん罹患が恋愛・結婚に及ぼした影響 1位:再発への不安 2位:子供ができない、子供ができないかもしれない 3位:がん罹患による自分に対する自信の低下 この調査に参加した人は全員、がん診断時は独身でしたが、調査に参加した時にも独身で、今後の恋愛・結婚に不安を感じると回答した人が、具体的に不安に感じることの1~3位は以下の通りでした(複数回答)。1~3位はいずれも回答者の約4~5割が回答していました。 ●今後の恋愛・結婚に不安を感じると回答した人が、具体的に不安に感じること 1位:相手の親の反対 2位:治療に関する経済的な問題 3位:がん罹患を話すこと がん罹患後の恋愛・結婚に関して、希望するサポート先と実際に利用してきたサポート先を聞いたところ、希望・利用ともに多いのはがん経験者さんの体験談や医療情報でした。 希望するサポートに関しては、同じがん種、同じ年代、同じライフステージ(未既婚、⼦供の有無など)のがん経験者さんの体験談を挙げる⼈が多いこと、利⽤したサポートに関しても、がん経験者の体験談を聞くことを挙げた⼈が多いこともわかりました**2。 妊よう性温存治療は正確な情報をもとに納得したうえで選択すべき がん患者さんの病気や治療が妊よう性に影響する場合、子供が授かる可能性として妊よう性温存治療を受ける選択肢があります。 生殖医療(技術)の進歩によって、過去には治療後の妊娠・出産が不可能だった患者さんの妊娠の期待がひらけていきました。 その半面、これらの医療によって100%子供を持つことが保証されるわけではないこと、患者さんの生殖機能や原疾患の病状によっては妊よう性温存が適さない場合もあること、高額な医療費の問題など、十分な理解と納得が必要です。 日本がん・生殖医療学会では、妊よう性温存治療について詳しく紹介しています。 日本がん・生殖医療学会 一般の方・患者のみなさま http://www.j-sfp.org/public_patient/index.html また、妊よう性温存治療以外に里親・特別養子縁組制度があります。がん患者さんへのサポートをどのようにするのかが課題です。 参考イベントとして、2020年2月15日、16日に、さいたま市大宮区にて開催予定の第10回日本がん生殖・医療学会学術集会共催市民公開講座「がん・生殖医療の福祉の協働」(http://www.j-sfp.org/entry/2020program.html#190216)があります。 治療を受ける前、手術を受ける前にがん・生殖医療ネットワークに相談できます かつては、がん治療を受ける前や手術を受ける前に、妊よう性温存治療のことを知らなかった、妊娠・出産のことを相談する機会がなかったという人は少なくありませんでした。 妊よう性温存治療のネックは、健康保険が使えず高額で保管料を毎年払う場合があることです。また女性の場合、凍結保存に2~4週間かかるときがあり、がん治療を受けるまでの短期間で選択しなければならないときがあります。 病気の進行が早い患者さんには、がん治療を早急に受けなければなりません。家族の不安が大きい時期に、さまざまな問題を抱えながら今後のことを考えることになります。 そこで、自分1人で考えるのではなく、患者さんや家族などへの相談サポートができるよう、日本がん生殖・医療学会、医療機関と自治体が地域ネットワークをつくっています。 がん・生殖医療ネットワークの「Oncofertility Consortium Japan」〔OncofertilityはOnco(がん)とfertility(不妊)を組み合わせた表記です〕が22府県で稼動しています。 下記は、日本がん・生殖医療学会のウェブサイトで22府県の取り組みです。 日本がん・生殖医療学会 地域医療の連携の紹介 http://www.j-sfp.org/cooperation/index.html 保険適用がない妊よう性温存治療の治療費を一部の自治体が助成 妊よう性温存治療が患者さんの全額自己負担になることに対し、自治体によっては一部助成しています(助成対象は生殖機能温存療法に関わる費用で、入院費などは対象外です)。 県や市など自治体の取り組みはさまざまです。男性では助成金の上限は2万円もしくは3万円としているところが多く、自治体によっては5万円を上限にしているところもあります。女性では10~20万円の上限が多く、25万円を上限にしている自治体もあります。 上限に関しては費用の半額、助成金を受けられるのは1回のみ、凍結保存の維持(毎年の保管料など)は対象外とする自治体が多いようです。今後、助成制度を導入予定で、毎年の保管料もカバーするなど何回でも受けられることを考えている自治体もあります。 がん妊よう性温存治療の助成に関する記載があるおもな自治体は下記です。 東日本 千葉県いすみ市 千葉県館山市 埼玉県 神奈川県 静岡県 山梨県 群馬県高崎市(助成予定や補正予算案などについて記載) 西日本 岐阜県 三重県 和歌山県 滋賀県 京都府 兵庫県〔兵庫県議会意見書第94号「AYA(思春期・若年成人)世代がん患者の妊孕性温存への支援を求める意見書」〕 広島県 香川県 福岡県 現在は2人1人ががんになる時代で、がん種によっては10年生存率が50%以上との報告もあります(がん10年生存率は56.3%、80%以上は前立腺、甲状腺、乳房、子宮体など 国立がん研究センター/全国がんセンター協議会)。がん経験者さんの多くは、治療が終わった後の今後の見通しについて考えるようになりました。 だからこそ、病気や治療が妊よう性に影響するのかどうか、妊よう性温存治療や自己負担額の詳細、助成制度などについて正確な情報を伝えることや、納得して自分がどうするのかを選択できるよう、相談やサポートをしてもらえるところが必要です。 受診している病院の相談機関、在住地域のネットワークや自治体、患者会や支援団体などから話を聞くことや、参考先として日本がん生殖・医療学会のホームページから情報を収集することをお勧めします。 *1:第56回日本癌治療学会学術集会(2018年)のペイシェント・アドボケイト・リーダーシップ・プログラムで筑波大学大学院人間総合科学研究科の吉田加奈子さんが発表した「若年がん体験者のがん罹患による 恋愛・結婚への影響及び必要なサポートの検討」の演題です。最優秀ポスター賞を受賞しました(http://congress.jsco.or.jp/jsco2018/)。 また、日本生殖医学会雑誌・Reprod Med Biol. 2019 ; 18(1): 97–104(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6332751/)に同様の調査結果が報告されているので参考にしてください。 *2:吉田 加奈子、松井 豊.若年がん体験者の妊孕性の心理社会的問題.第32回日本サイコオンコロジー学会総会 抄録集p253(2019年10月、http://www.procomu.jp/jpos2019/) ■関連記事 がん患者さんの妊よう性温存治療の保険適用を目指す会が発足 血液情報広場・つばさ 癌(がん) 妊娠 公開日:2020/02/05
患者さんを支える患者会、支援団体 がんになるのは2人に1人といわれる時代なので、病気と無関係と言う人は病気になる前に知っておくべきではないでしょうか。そこで、「がんのことを、もう少し近くで見ることができるよう、皆さんの虫めがね(ルーペ)になれれば」との思いから、がん経験者さんがグリーンルーペプロジェクトを立ち上げて積極的な啓発活動を展開中です。2019年11月3日に東京・渋谷で開催したイベント、さらに2020年のプロジェクト構想を紹介します。 目次 がんのことを事前に知っているのと知らないのでは雲泥の違い がんを経験した若い世代のトークセッションなどを開催 子供や大学生などとともにがん教育やがん啓発のことを考える 禁煙したい人を応援、心と心を結ぶ「結心」プロジェクト がんを知ることが生きるチカラ、将来への見通しを持つチカラに がんのことを事前に知っているのと知らないのでは雲泥の違い これまでのイメージとは違って、がんと共に長生きする人が多くなっていますし、2人に1人ががんになる時代といわれます。仕事や生活など多くの課題に直面しますが乗り越えて、将来を考えることが重要なので、より正確な情報を事前に知っておくべきです。 そこで、がんという病気に直面したときに不安や孤独、恐怖を感じた経験があるからこそ、「もっと前から知っておきたかった」、「あのとき、知っていなくて後悔した」「知ることこそチカラになる」を啓発したいと思う経験者さんたちがグリーンルーペ(https://greenloupe.org/)を立ち上げ、みなさんに有益な情報を発信しています。 2019年11月3日に、まだ病気になっていない人や病気のことをまだ知らない子供や学生など世間一般に広く啓発するために、人でにぎわう東京・渋谷でイベントが開催されました。 写真:グリーンルーペのイベントのオープニング イベントのオープニングでは発起人が開催の経緯を話していました。左から、子供を持つがん経験者コミュニティ一・キャンサーペアレンツ(http://cancer-parents.org)代表理事・西口洋平さん、がん経験者インタビューWEB番組・がんノート(https://gannote.com/)代表理事・岸田徹さん、肺がん患者の会・ワンステップ(https://mail30230.wixsite.com/lung-onestep1)理事長・長谷川一男さん。 がんフォト*がんストーリー(https://ganphotostory.wixsite.com/ganphoto)の「Oto_Photo Project」。患者さんやご家族、医療者などが撮影した写真とメッセージがピアノの音楽とともに届けられました〔パネルの写真は、発起人代表の希望の会(https://npokibounokai.org/)理事長・轟浩美さん提供〕。 がんを経験した若い世代のトークセッションなどを開催 イベントのテーマは「あのとき、知っておきたかったこと」です。セッションは、医師の解説を交えた信頼できるがん情報、公開セカンドオピニオン、がん遺伝子パネル検査、妊娠・出産に関わる諸問題、緩和ケア(終末期ではなく診断直後から受けるものです)などのテーマで催されました。さらに、がん経験者さんの実体験をもとに生活上で役立つことなどをテーマにしたセッションも数多くありました(当日のイベント内容の詳細)。 たとえば、学校や就職、恋愛、結婚、妊娠・出産など多くのライフイベントに巡り合う機会が多い思春期や若年成人の時期〔15~39歳はAYA世代(AYA:Adolescent&Young Adult)〕にがんを発症した人のトークセッションがありました。 闘病しながらライフイベントを通して得られた経験や、病気と共に生きる現在などについて、若い経験者さんが発信する実体験はみなさんに役立つ情報です。 また、病気のつらさや不安を少しでも和らげて、自分らしい生活ができることを支援するアピアランスケア(アピアランスは外見という意味です)のセッションも催されました。 写真:トークセッション「AYAがんって何」 左から、がんノート・岸田徹さん、国立国際医療研究センター乳腺腫瘍内科科長/一般社団法人AYAがんの医療と支援のあり方研究会(https://aya-ken.jp/)副理事長の清水千佳子先生、がん経験者さん3人が登壇しました。 詳細はがんノートYou Tube動画:https://www.youtube.com/watch?v=MVLWnADhcSI〔動画はURLが編集の都合上、変更になる可能性もございます。閲覧できない場合、がんノート-YouTubeの動画一覧(https://www.youtube.com/user/gannotejapan/videos?disable_polymer=1)を参照してください〕。 また、障害を抱えるかたやLGBTの支援団体、がんノートにより、「みんなで生きていこう」をテーマにトークセッションも催されました。*1。詳細はがんノートYou Tube動画:https://www.youtube.com/watch?v=dSe0Wd9GXFc〔閲覧できない場合、がんノート-YouTubeの動画一覧(https://www.youtube.com/user/gannotejapan/videos?disable_polymer=1)を参照してください〕 写真:メイク術のイベントセッション「キレイは生きる力になる!」 がん経験者で美容ジャーナリストの山崎多賀子さん(左)のレクチャーにより綺麗に見せるメイク術のセッション。真中は、メイクモデルとして登壇してもらった、がん経験者さんです。右は司会の希望の会・轟浩美さん。 子供や大学生などとともにがん教育やがん啓発のことを考える がんになるのは2人に1人といわれる時代、だからこそ「私には無関係」という人に啓発することが重要です。また、最近は小学校からがん教育の場が設けられています。がん教育や啓発のありかたが今後の課題となっています。 そこで、医師、がん経験者、いまはがんになっていない大学生や高校生、小学生が「がん」に対して抱かれやすいイメージについて○× 形式のクイズに答えて、会場の参加者とともに理解を深めて、がん啓発のありかたを考えるセッションがありました。 小学生もステージに登壇しました。小児がんの患児さんをサポートするレモネードスタンド活動の支援団体「レモネードスタンドジャパン」(http://www.lemonadestand.jp/about)の協力により、イベント当日にレモネードスタンド活動をがんばっていた小児がんの患児さんでした。 写真:子供や大学生とがんのことを考えるセッション 右から、司会のキャンサーペアレンツ・西口洋平さん、中央は子供と大学生、左の2人は国立がん研究センターがん対策情報センターセンター長・若尾文彦先生、慶應義塾大学病院腫瘍センター副センター長・浜本康夫先生。「がんを知ることがチカラになる」ことをクイズに答えながら共有したうえで、がん啓発をどのようにしていくべきかについて会場全員で考えていました。 禁煙したい人を応援、心と心を結ぶ「結心」プロジェクト 禁煙を皆さんと考えたい、禁煙する人を応援したいとの思いで、肺がん患者さんを中心に立ち上げられた「結心プロジェクト(https://kessin.net/)」のセッションがありました。 プロジェクトが立ち上がった経緯は、肺がん経験者さんは、本人が経験した病気の苦しみを、まだ病気になっていない人に味わってほしくないと強く切望しているからです。 また、がん経験者さんは、近くで誰かが吸われたタバコの煙を吸いこむ受動喫煙により、病気が悪化するかもしれない、再発を早めるかもしれないと怖く感じています。 ただし、禁煙を無理にすすめると人間関係が悪化するので、ゴリ押しはしたくありません。タバコを吸う人と吸わない人が対立せずに禁煙について一緒に考える、禁煙に取り組む人を応援したいとの思いがあるので、心と心を結ぶ「結心」をプロジェクトにしています。 写真:「受動喫煙NO!~結心~」のイベントセッション 右は、肺がん患者会ワンステップの長谷川さんをはじめ、肺がん経験者さんが登壇して、結心プロジェクトの活動を解説していました。 がんを知ることが生きるチカラ、将来への見通しを持つチカラに がんと共に生きる時代だからこそ、「がんと診断されたら、どうしょう」、「ネット上にあふれる情報は正確なの?」と思う人、さらに「まだ若いから私には無関係」と思う人も、がんに関する正確な知識を持っておくことが重要です。 そのために、患者さんの経験や病気に関わった経験をもとに前向きになって、患者さんやご家族などを支援する人たちによるグリーンルーペプロジェクトが立ち上がったのです。 病気のこと、検査や治療のことなどを病気になる前から理解しておけば、もし発症したときには、病気とともに生きることや将来への希望を抱かせてくれるチカラになるはずです。 最後になりますが、2020年のプロジェクト構想に関してです。グリーンルーペプロジェクト2020は、国内のいくつかのエリアでイベントを開催することを考えています。 エリアごとに啓発するテーマを掲げて、そのテーマに沿ったイベントを企画して「がんになる前から知っておくべき」をみなさんに認識してもらいたいとしています。 *1:トークセッション「みんなで生きていこう」は、障害があるかたの就労を支援するNPO法人さらプロジェクト(https://www.sara-project.or.jp/)、LGBTを支援するReBit(https://rebitlgbt.org/)、がんノート・岸田さんが登壇しました。病気の枠を超えて生活や仕事などで直面する課題や解決の糸口になるきっかけを共有して、社会一般に啓発するために企画されました。 LGBTは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)を総称しています。 ■関連記事 がん情報は何が正しい?公開セカンドオピニオンでフェイクと都市伝説を一刀両断! 「ママのバレッタ」、親子でがんを話し合おう 絵本と写真、音楽が奏でるストーリー(2) 癌(がん) 公開日:2020/02/05 監修:グリーンルーペプロジェクト
患者さんを支える患者会、支援団体 がん治療の影響により、妊よう性(漢字は妊孕性、妊娠する力という意味です)が低下するケースがあります。一方、子供が授かる可能性がある妊よう性温存治療は高額で自費診療が問題です。そこで、血液がん患者さんを支援しているNPO血液情報広場・つばさ(http://tsubasa-npo.org/)では2019年に妊孕性(卵子・精子保存)の保険適用を目指す会(https://ninyousei.net/)を結成し、厚生労働大臣に要望書を提出、2019年8月1日からは請願署名を開始するなどの活動を展開しています。 目次 経済的な理由で子供をあきらめる患者さんがいるのが実情 AYA世代の患者さんは尊厳を持ってQOLを保って将来への見通しを持てるのか 妊娠・出産の問題はがん治療の副作用なのに、どうして健康保険が使えないのか 「がんと妊孕性(にんようせい)」セミナーを開催、今後の支援体制を考える 経済的な理由で子供をあきらめる患者さんがいるのが実情 がん患者さんには、がんに対する治療が最優先されます。その半面、副作用などにより卵巣や精巣がダメージを受けることで子供を授からなくなるという、生きる希望を絶たれるほどつらいことを経験するケースがあります。 子供が授かる可能性として、妊よう性温存治療(がん治療前に男性では精子、女性では卵子などを凍結保存します)の選択肢や里親・特別養子縁組制度の選択肢があります。しかし、妊よう性温存治療に関しては自費診療です。 健康保険が効かない自由診療なので、費用は医療機関によりさまざまです。女性では卵子の凍結保存に40~50万、さらに毎年の保管料は別途の費用がかかる施設もあります。経済的な理由で、子供を授かることをあきらめるがん患者さんがいるのが実情です。 AYA世代の患者さんは尊厳を持ってQOLを保って将来への見通しを持てるのか 思春期~若年の15~39歳の世代(AYA世代:AYAはAdolescent&Young Adultの略)の人が突然、がんと診断されると、大きなショックを受けるのは当然です。 進学や就職、恋愛、結婚、妊娠や出産など、さまざまなライフイベントに巡りあう時期なので、病気のためにさまざまな困難が一気に降りかかってきます。ただでさえ大変な時期に、がん治療の高い費用にプラスして妊よう性温存治療の費用も捻出するのは酷です。 また、現在はがん治療の成績が向上して、長く生きる患者さんが多くなっているなか、将来の人生のことを考えることが重要です。しかし、子供が授からずに家族を持つことができない自分自身に尊厳を持ってQOLを保つこと、将来への見通しを持てるのでしょうか。 妊娠・出産の問題はがん治療の副作用なのに、どうして健康保険が使えないのか 現在、妊よう性温存治療の患者さん自己負担分の一部を補助してくれる団体や制度があります。 一部の地方自治体での助成金制度や、民間のボランティア団体では「こうのとりマリーン基金」(https://www.marrow.or.jp/patient/konomorimarine-fund.html)(血液疾患の患者さんに限る。未受精卵子の保存にかかる医療費に対し1人当たり5万円の援助)があります。 相談に関しては、がん・生殖医療ネットワークの「Oncofertility Consortium Japan」(2019年9月現在22府県で稼動)、自治体、患者支援団体などがあります。 もし、妊よう性温存治療が保険適用されれば、高額療養費制度や限度額認定適用制度なども活用できることになります。 妊孕性が損なわれる問題は、がん治療の過程で起こる副作用として⽣じます。そこで、これはぜひ保険でサポートすべきケアと位置づけ、血液情報広場・つばさの会員有志により「妊孕性(卵子・精子保存)の保険適用を目指す会」が2019年に発足されました。 「がんと妊孕性(にんようせい)」セミナーを開催、今後の支援体制を考える 血液情報広場・つばさは、2019年6⽉1日に厚生労働大臣あてに「小児・若年がん治療者の妊孕性(卵子・精子保存)の保険適用の要望」を提出しました。 つばさ、ならびに妊孕性(卵子・精子保存)の保険適用を目指す会は、ウェブサイトで患者さんの思いや自治体の助成金事業の現状などについて紹介しているほか、同年8月からは保険適⽤を請願する署名活動を開始するなど、さまざまな活動をしています。 2020年の活動は請願と署名活動を続けながら、AYA世代のがん治療の現況、妊よう性温存の実際の経験、治療経過中の妊よう性温存の機会や費用、支援体制の現状について共有したうえで、今後の支援体制のありかたを医師、患者さんとともに考える「がんと妊孕性(にんようせい)」セミナーから開始します。セミナーは、2020年1月30日に第1回「がん治療と妊孕性(精子・卵子保存)の必要性と支援の動き」を東京都・フクラシア品川で開催します(詳細は下記に記載している血液情報広場・つばさのホームページ、ならびにPDF(http://tsubasa-npo.org/info_datas/20200130.pdf)を参照してください)。 また、つばさの主たる事業としては、患者さんや家族のかたへの医療講演会を全国各地で数多く開催するほか、情報紙(Newsletterひろば)の発行、電話相談なども行っています。 詳細は下記ホームページを参照してください。 血液情報広場・つばさ(http://tsubasa-npo.org/) 妊孕性(卵子・精子保存)の保険適用を目指す会(https://ninyousei.net/) *:高額療養費制度と限度額適用認定制度 ・高額療養費制度:1ヵ月間(月初めの1日から月末までの期間です)の医療費(差額ベッド代、入院時の食事代、保険診療以外の医療費などは含みません)の自己負担額が一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合、その分があとで払い戻される制度です。 ・限度額適用認定制度:自己負担限度額を超えそうなときに、事前申請して認定してもらった限度額適用認定証を提示すると、窓口負担額が自己負担限度額までになるものです。 ■関連記事 癌(がん) 妊娠 公開日:2020/01/15 監修:血液情報広場・つばさ、妊孕性(卵子・精子保存)の保険適用を目指す会
がん情報がネット上にあふれかえっていますが、どれが正しいのでしょうか。情報を見極めて正確な知識を持ってもらうために、がん専門医がYouTubeライブ動画配信で皆さんの疑問に答えるQ&A形式の「公開セカンドオピニオン」が開催されています。2019年11月3日に開催されたグリーンルーペプロジェクト*1のイベントの模様を紹介します。 目次 公開セカンドオピニオンはYouTubeライブ動画、誰でも参加・質問できます 標準治療は最良のゴールドスタンダード、民間療法へ走る前に予備知識を深めるべき! 胃がんや乳がんの検診は日本だけというのは本当?その理由とは 全国どこからでもリアルタイムに相談を受けたい 公開セカンドオピニオンはYouTubeライブ動画、誰でも参加・質問できます 写真:2019年11月3日のグリーンルーペの 公開セカンドオピニオンのセッション セカンドオピニオンは、病気や診断や検査のこと、主治医から提案されている治療法などに対し、主治医以外の医師に相談して参考意見などアドバイスをしてもらうことです。 医療機関で手続きする以外に、がん専門医がYouTubeライブ動画を通して日々の疑問に答えてくれる公開セカンドオピニオンがあります。 誰でも閲覧できますし、会場に行けなくても参加、質問できます。相談者の名前や姿は公開されないので、主治医に聞きにくいこと、民間療法のことや日ごろ感じる疑問など、遠慮せず何でも相談できます。 運営しているのは、がんに関わる正確な情報を提供している宮崎善仁会病院消化器内科・腫瘍内科の押川勝太郎先生(NPO宮崎がん共同勉強会理事長)です。 2019年11月3日に、がん患者さんやご家族だけでなく世間一般にがんのことを知ってもらうために開催されたグリーンルーペプロジェクトのイベントで、慶應義塾大学病院腫瘍センター主催の公開セカンドオピニオンの場*2が設けられました。 標準治療は最良のゴールドスタンダード、民間療法へ走る前に予備知識を深めるべき! 公開セカンドオピニオンは、10の質問に対して、押川先生、慶應義塾大学病院腫瘍センター副センター長の浜本康夫先生をはじめとしたがん専門医、患者会から解説とアドバイスをするQ&A方式で前・後半に分けて催されました。以下は前半の部のQ&Aの一部です。 Q1:食事療法でがんが治せますか? A:治りません 食事や飲酒はがん発症の原因の一部となり得ますが、がんをいったん発症すると、栄養をとって体の調子を整える食事療法は根本治療になりません。例えると、複雑骨折したときに食事療法で骨がくっつくことを考えるようなものです。食事制限や糖質制限が良いという人がいますが、治療としては次元が違いますし、自分を追い込むとストレスで体調が悪くなるだけです。 Q2:代替補完医療(民間療法)は効果ありますか? A:わかりません 標準治療(現時点で最良のゴールドスタンダード)を超える民間医療のエビデンスは明らかとはいえません。民間療法の効果は今後明らかになるとの意見がありますが、庭を掘って石油が出るのを待つようなものかもしれません。切羽詰まると冷静に判断できなくなるので、その前にがん治療に関する正確な知識を持つことが重要です。 Q3:高濃度ビタミンC点滴療法は効きますか? A:効きません にんにく注射などがありますが、がん治療としての効果はありません。たとえば、ビタミンCは自動車のオイルのようなもので、自動車レースに勝つために大量のオイルをつぎ込むようなものです。あくまで、体調を整えるためにあります。 Q4:お金持ちだけが使える特効薬があるのでは? A:むしろ逆 大金をつぎ込んでも、標準治療を超えるプロフェッショナルな特効薬や民間医療に巡り会えるとはいえません。健康保険で受けられるゴールドスタンダードの標準治療は皆さんに平等なので、むしろ逆です。標準治療をないがしろにすることは避けましょう。 Q5:副作用で苦しむだけの抗がん剤はするものじゃない、本当? A:実績(エビデンス)がある抗がん剤はすすめます 抗がん剤のつらい副作用という風評が定着しすぎです。抗がん剤のなかには副作用がつらくないものもあります。医師は、がんの苦しみを和らげるために実績(エビデンス)が多い抗がん剤をすすめますが、患者さんは抗がん剤の副作用で苦しい思いをしたときには、医師に副作用を和らげることを相談することや緩和ケアを受けましょう。 Q1~Q5の詳細は動画: 20191103がん治療医・浜本・中村・押川の公開セカンドオピニオンライブ前半(1) 20191103がん治療医・浜本・中村・押川の公開セカンドオピニオンライブ前半(2) 胃がんや乳がんの検診は日本だけというのは本当?その理由とは 後半の部では、事前に用意されたQ&Aだけでなく、会場から質問が寄せられました。以下は、後半のQ&Aと会場から寄せられた質問とその回答について、内容の一部を紹介します。 Q6:若いとがんの進行が速い、本当? A:都市伝説です 若いから病気の進行が速いのではなく、がんの種類によって、また個人によって病気が進行する速度は異なりますし、年配のかたで進行が速い病気はあります。若いと細胞の新陳代謝が活発なので、進行が速いという印象を持ちやすい、あるいは若くしてがんを発症したときの混乱があって誤解するケースだと思われます。 Q7:欧米では抗がん剤は使われていない? A:フェイクニュースです 抗がん剤は、世界的に使われています。ネット上では日本だけが抗がん剤をたくさん使っている、医師は製薬会社と癒着して手先になっているとか情報が飛び交っていますが、そんなことは全くのデマです。全世界の薬の売り上げTop20に抗がん剤が5種類はいっています(免疫チェックポイント阻害薬などです)。 Q8:免疫力を高めたら、がんは防げる? A:抽象的 栄養と筋力をつけて体調をよくする意味で免疫力とかいわれますが、医学用語ではなく曖昧な表現です。ブロッコリーやきのこを食べて免疫力を高めても、いったん発症したがんへの治療効果は不明です。なお、免疫療法の免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫の攻撃から逃げることをブロックする薬なので、免疫力は関係ありません。 Q9:体温が高いと、がんになりにくい? A:不明 平熱36.5℃以上はがんになりにくい、平熱をあげる工夫などがネット上で拡散されていますが、がんの発症に関係あるのかどうかわかりません。体温があがると病気になりにくいというベストセラー書籍が一人歩きしているようです。温熱療法(ハイパーサーミア療法)は、ごく一部のがんに対する治療法です。 Q10:手術後にがん再発、なぜ再手術しない? A:ケースバイケースです 再発した状況によります。他の臓器に転移していても、がん細胞が少なければ再手術するときはあります。転移した臓器にがん細胞が多くある場合や、手術するとかえって寿命が短くなる可能性が考えられるとき、本当に必要な治療を優先するときなどケースバイケースです。なお、放射線治療も同じ考えです。 会場の聴講者からいくつか質問が寄せられました。そのなかで、がん検診のマンモグラフィ(乳がん)やバリウム(胃がん)は日本だけでやっているのは本当かどうかとの問い合わせがありました。回答については、日本の胃がん患者は海外より多いので、胃がんの検診を導入しているとのことでした。 胃内視鏡検査についても問い合わせがありましたが、この検査が導入されたのは最近で、現状はすべての国民が検診を受ける体制ができているバリウム検査が主流とのことでした。今後は、内視鏡検査に移行していく可能性があるとのことでした。 乳がんに関しては、マンモグラフィは見つけなくてもいいものも見つける過剰診断のデメリットはありますが、40歳以上で検診を2年に1回受けることで、乳がんを早く発見して死亡を減らせるメリットのほうが上回るので検診として導入されています。 超音波検査に関しては、現在は検査を受けることで死亡を減るのかどうかを検討する研究が実施中でエビデンスが明らかではないので、マンモグラフィが導入されています。 Q6~Q10、会場の聴講者とのQ&Aの詳細は動画: がん治療医・浜本・小林・押川の公開セカンドオピニオンライブ動画配信 全国どこからでもリアルタイムに相談を受けたい 押川先生、浜本先生らは自分たちが伝えたい情報が届けられず、ネットで拡散されているフェイク情報や都市伝説が蔓延する現状に歯がゆい思いをもっています。 これは、医療者と患者さんとの間に生じるギャップが原因の1つと考えられます。そこで、ギャップや隙間を公開セカンドオピニオンの場で埋め合わせていくことができれば、医療者も患者さんも同じ目標が持てることにつながるとしています。 だからこそ、先生はYouTubeライブ動画で全国からリアルタイムに相談を受けていきたいとしています。 公開セカンドオピニオンに参加・質問したい人、閲覧したい人は、押川先生のブログ/YouTubeライブ動画「がん治療の虚実」をご覧ください。 ブログ:https://ameblo.jp/miyazakigkkb/ YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCVX2pB43fTkQVd3x_Ss5Jwg *1:グリーンルーペは、「がんになる前に知っておきたかった!」を啓発するために「がんをもう少し近くで見るために、みなさんの虫めがねになれたら」との思いから発足した、がん経験者さんのプロジェクト。セミナーやイベントの開催、患者さんやご家族に役立つ情報の提供など、さまざまな活動を展開しています。グリーンルーペプロジェクト2019(http://www.m2cc.co.jp/gl/2019/)の発起人は、スキルス胃がん患者の会「希望の会」(https://npokibounokai.org/)・轟浩美さん、こどもをもつがん患者コミュニティ「キャンサーペアレンツ」(http://cancer-parents.org)・西口洋平さん、肺がん患者会「ワンステップ」(https://mail30230.wixsite.com/lung-onestep1)、がん経験者インタビューWEB番組のNPO法人がんノート(https://gannote.com/)代表理事・岸田徹さんです。 グリーンルーペプロジェクト2019の11月3日のイベントは、「あのとき、知っておきたかったこと」をテーマに開催されました。当日のイベント内容は開催報告書(http://www.m2cc.co.jp/gl/2019/2019GLfinal.pdf)を参照してください。 *2:2019年11月3日のグリーンルーペのイベントセッションとして、公開セカンドオピニオンは2部構成で催されました。第1部は押川勝太郎先生、慶應義塾大学腫瘍センター副センター長の浜本康夫先生、社会医療法人財団慈泉会相澤病院がん集学治療センター医長・中村将人先生、肺がん患者会ワンステップの長谷川一男さん、第2部は押川先生、浜本先生、長岡中央総合病院腫瘍内科部長・小林由夏先生、早期緩和ケア大津秀一クリニック院長・大津秀一先生、国立がん研究センターがん対策情報センターセンター長・若尾文彦先生、希望の会理事長の轟浩美さんが登壇しました。 ■関連記事 がんと共に暮らす時代の緩和ケア、がん検診とは 順天堂大練馬病院・東京都練馬区の取り組みから 「ママのバレッタ」、親子でがんを話し合おう 絵本と写真、音楽が奏でるストーリー(2) 免疫療法、ノーベル賞受賞したから受けてみようか?でもその前に… 癌(がん) 公開日:2019/12/04 監修:宮崎善仁会病院消化器内科/腫瘍内科 押川勝太郎先生(NPO宮崎がん共同勉強会理事長)、慶應義塾大学病院腫瘍センター副センター長 浜本康夫先生
2人に1人ががんになる時代ですが、10年生存率は6割近く、がんと共に暮らす日々の生活を少しでもよくすることが課題です。そのために、まずはがん検診で病気を早く発見し、がんと診断されたら、さまざまな診療科の医師や看護師などがフォローするサポーティブケア(緩和ケア)を受けることが重要です。2019年9月に東京都練馬区で開催されたがん啓発イベントから、順天堂大学練馬病院と練馬区との協働で一般向けに開催された交流イベントなど*1を紹介します。 目次 現在(いま)の緩和ケアはがんと診断された直後から体の苦痛、心の苦痛をフォロー 胃がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん、大腸がんの5つの検診は自治体もフォロー がん検診は県や市・区によって助成内容が違うので要確認 「がんと生きる・暮らす」を支援して前向きに活動する人のインタビューパネルを展示 現在(いま)の緩和ケアはがんと診断された直後から体の苦痛、心の苦痛をフォロー 毎年9月は「がん征圧月間」です。2019年9月、東京都練馬区で「がんを知る」、「がんと生きる」をテーマに、さまざまながん啓発イベントが催されました。 その1つ、9月7日の交流イベントでは現在(いま)の緩和ケアの取り組み、がん予防のための生活習慣の見直しやがん検診の意義を学ぶためのシンポジウム、順天堂大学練馬病院の緩和ケアチーム(がん医療チーム)との交流会、子どもが体のことに興味を持つための催しがありました。 緩和ケアについては、かつては終末期医療のイメージでしたが、現在は全く違います。 がんと診断された時点から始まる治療のひとつです。患者本人はもとより、家族、希望をすれば周囲の人々も支援の対象になります。 療養生活をしやすくなってもらうために、また治療に前向きに取り組んでもらうために、さまざまなケアが行われます。 順天堂大学練馬病院の緩和ケアチーム(がん医療チーム)は、がん専門医、麻酔科(体の痛み)やメンタルの専門医、看護師やソーシャルワーカーなどがサポートをして、体の苦痛だけでなく、不安や医療費の悩みなど、さまざまな心の痛みなどを和らげています。 練馬区が制作したパネルが展示されており、わかりやすく説明されています。 病気のこと、カラダのこと、緩和ケアなどを学べる展示パネル 今回のイベントで展示されたパネルについて詳しくはこちら(PDF) 提供:練馬区健康部健康推進課健康づくり係 写真1:「現在(いま)の緩和ケア」などについて説明する順天堂大学練馬病院の緩和ケアチーム 写真2:写真展「がんと生きる日々から」 写真展は順天堂大学練馬病院で行われている緩和ケア交流会で展示されているもので、がん経験者の方や家族などがその瞬間に感じた想いを写真とストーリーで綴った作品となっています(写真2は練馬区役所で撮影したものです)。 胃がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん、大腸がんの5つの検診は自治体もフォロー がん検診については、交流イベントに参加した人から、どこで受診できるのかわからないとの質問がありました。実は、がん検診の受診率は高くなく、その普及が課題です*22。 そこで、がん医療チームと練馬区から、5つのがん検診は「自治体に相談してもらえれば、近所の医療機関で安い費用もしくは無料で受診できる」とのアドバイスがありました。 具体的には、国の指針〔がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(厚生労働省)〕で推奨されている5つのがん(胃がん、肺がん、大腸がん、子宮頸がん、乳がん)について、検診の方法、受診の間隔、対象年齢などが推奨されています(表)。 表:がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」で定められたがん検診の内容 対象者 実施回数 検査方法 胃がん検診 50歳以上(※) 2年に1回 (※) 問診、胃部エックス線検査 問診、胃部内視鏡検査 肺がん検診 40歳以上 年1回 質問(問診)、胸部エックス線検査 喀痰細胞診(50歳以上、喫煙指数600以上) 大腸がん検診 40歳以上 年1回 問診、免疫便潜血検査2日法 子宮頸がん検診 20歳以上の女性 2年に1回 問診、視診、細胞診 乳がん検診 40歳以上の女性 2年に1回 問診、乳房エックス線検査(マンモグラフィ) ※胃がんについては、当分の間、胃部エックス線検査を40歳以上の方に年1回実施しても差支えないとしています。 出典:厚生労働省 がん検診は県や市・区によって助成内容が違うので要確認 県や市は、がん検診の費用負担を助成しています。負担が軽くなる検診や無料検診チケットもあります(自治体により助成内容は違います。在住地域で確認してください)。 下記は練馬区のホームページです。近隣の医療機関も参照できます。 東京都練馬区のがん検診に関するホームページ 「がんと生きる・暮らす」を支援して前向きに活動する人のインタビューパネルを展示 「がんと診断されて今後が不安」、「がんになったらどうしょう」。そんなときには、がんを経験したことや関わった経験をもとに、患者さんやご家族を支えている人の前向きな姿を見ると、病気とともに生きることや将来の見通しに希望を抱かせてくれます。 がん啓発イベントでは交流イベントのほか、患者さんや家族への支援活動をする5人に、「がんと生きる」をテーマにインタビューした内容がパネル展で紹介される催しがありました。 写真3:インタビューパネル展示『がんと生きる・暮らす』を支える人たちのおはなし」と 提供:がんフォト*がんストーリー代表・木口マリさん インタビューを受けたのは、肺がん患者会を設立したがん経験者のかた、支援団体を設立した看護師、「がんになる前に知っておきたかった!」を啓発する「グリーンルーペ」(https://greenloupe.org/)のプロジェクトメンバー*3など、自身の経験を活かして患者さんやご家族を支える活動をしている5人です。 5人のうちの1人、がんフォト*がんストーリー(https://ganphotostory.wixsite.com/ganphoto)(関連記事1:がんに関わる人の想いを写真で展示 がんフォト*がんストーリー、関連記事2:がん経験者だからこそ届けられる情報 絵本と写真、音楽が奏でるストーリー(1))代表の木口マリさん(がん経験者)は、順天堂大学練馬病院の緩和ケア交流会のボランティアとして活動していました(写真2:写真展「がんと生きる日々から」参照)。 インタビューパネル展示では、インタビュワーと記事の編集、写真のフォトグラファーも担当されていました(木口さんのインタビュワーは練馬区の職員が担当しました)。 木口さんのインタビュー内容は、診断されて初めて治療を受けた当時のこと、患者さんやご家族などを支える活動をはじめたきっかけ、現在の活動状況、今後の見通しなどでした。 木口さんは、がんを経験したことを活かして、「人生、嫌なことが起こっても、悪いことは起こらない。起こることはすべて、さらに良い自分になるための要素」という前向きな姿勢で活動しています。 インタビューパネル展の一部 木口マリさんのインタビューパネルはこちら(PDF) *インタビューパネル展の出典は練馬区役所健康部健康推進課〔ウェブサイト「日本人の2人に1人はがんになる時代 9月はがん征圧月間」を参照〕。 インタビューパネルの閲覧希望は練馬区役所の健康推進課にお問い合わせください。 がんは進行しないうちに早く発見することが大切です。そして、もし病気になってしまったら、病気や治療のこと、療養生活やお金のことなどは医療機関や在住の自治体、患者会や支援団体などに相談しましょう。また、サポーティブケア(緩和ケア)についても相談していきましょう。 がんを経験した方や、患者さんやご家族を支援している方が、がんと向き合ってどう暮らしているのか、その先にはどんな生き方があるのかを知ると、前向きになって勇気と希望が湧く機会になるはずです。 *1:毎年9月は「がん征圧月間」です。2019年9月、東京都練馬区で「がんを知る」、「がんと生きる」をテーマに、さまざまながん啓発イベントが催されました。 9月7日は交流イベントとして順天堂大学医学部附属練馬病院出張講座&交流会「がんを知る。ねりまでじぶんらしく過ごすために~いまからできるカラダ・ココロ・生活を整えるコツ」が開催されました。 内容は、「おはなし会~子どもと一緒に楽しめるカラダのこと~&ママパパの何でも相談会(育児・健康)」、「順天堂大学練馬病院がん医療チームによるシンポジウム~がんってなに?いま自分にできること。」などでした。 *2:平成28年度国民生活基礎調査「がん検診を受診した40~69歳〔子宮がん(子宮頸がん)検診は20~69歳)の者の割合 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/04.pdf 過去1年間にがん検診を受診した40~69歳〔子宮がん(子宮頸がん)検診は20~69歳。入院者、熊本県を除く〕の状況を見ると、男女とも肺がん検診が最も高く、男性51.0%、女性41.7%でした。過去2年間に子宮がん(子宮頸がん)、乳がん検診の受診状況を見ると、子宮がん(子宮頸がん)検診は42.4%、乳がん検診は44.9%でした。 注1):入院者は含まない。 注2):平成22年まで「子宮がん検診」として、平成25年以降は「子宮がん(子宮頸がん)検診」として調査している。 注3:平成22年調査までのがん検診の受診率の算出は、上限を設けず40 歳以上(子宮がん検診は20歳以上)を対象年齢としていたが、「がん対策推進基本計画」(平成24年6月8日閣議決定)でがん検診の受診率の算定の対象年齢が40~69 歳(子宮がん(子宮頸がん)は20~69歳)までになったことから、平成25年調査以降はこの対象年齢にあわせて算出するとともに、平成22 年以前の調査についても、この対象年齢にあわせて算出し直している。 注4:平成28 年の数値は、熊本県を除いたものである。 *3:グリーンルーペは、「がんになる前に知っておきたかった!」を啓発するために「がんをもう少し近くで見るために、みなさんの虫めがねになれたら」との思いから発足した、がん経験者さんのプロジェクト。 セミナーやイベントの開催、患者さんやご家族に役立つ情報の提供など、さまざまな活動を展開しています。グリーンルーペプロジェクト2019(http://www.m2cc.co.jp/gl/2019/)の発起人は、スキルス胃がん患者の会「希望の会」(https://npokibounokai.org/)・轟浩美さん、こどもをもつがん患者コミュニティ「キャンサーペアレンツ」(http://cancer-parents.org)・西口洋平さん、肺がん患者会「ワンステップ」(http://www.lung-onestep.jp/index.html)・長谷川一男さん、NPO法人「がんノート」(https://gannote.com/)・岸田徹さんです。 練馬区のインタビューパネル展示では、轟さんと岸田さんのインタビュー内容が紹介されています。 ■関連記事 「ママのバレッタ」、親子でがんを話し合おう 絵本と写真、音楽が奏でるストーリー(2) 傷病手当金の制度上の社会的治癒、再発、転移とは サバイバー伝授!がんとお金(4) 癌(がん) 公開日:2019/10/30 監修:順天堂大学医学部附属練馬病院緩和ケアチーム(がん医療チーム)、東京都練馬区健康部健康推進課
慢性骨髄性白血病の患者さんは、2001年から画期的な飲み薬*1が登場して以降、QOLが向上して、長く生きることへの希望を持てるようになりました。その半面、服薬を継続しながら生活する患者さんのサポートが課題です。患者会「いずみの会」のアンケート結果から、サポートするためのニーズ、医師に求めるニーズなどについて紹介します。 目次 医師に相談できないときの情報源のよりどころとは? 医師と患者さんが接する機会や面会時間が少ない、意思疎通が図られているのか 医師への不満は「相談や質問がしにくい」「説明がない」「話を聞いてくれない」 新薬や「治る」のための新しい治療の試みなどへの関心が高い 医師に相談できないときの情報源は? 医療費削減、治療法や新薬の情報、患者同士の情報交換に関する要望が多い 患者さんが求めるニーズを社会全体で認識してフォローしてもらえる体制を望む 医師に相談できないときの情報源のよりどころとは? いずみの会は、2009年、2010年、2013年、2018年に患者さんや家族に調査をしています。 2018年の調査結果(有効回答521人、患者さんの割合は約85%)では、治療を続けながら将来への見通しを抱く患者さんが多い一方、後遺症や薬の副作用、病気の再発、医療費の負担、就労などへの困難や不安が大きいことが課題として挙げられています。 具体的には、「情報をどこから得たらいのか」「病気になる前の生活に戻れるのか」、「新しい薬に変更するのがいいのかどうかわからない」などです。 慢性骨髄性白血病の患者さんの生存率、治療と副作用 慢性骨髄性白血病の治療費と副作用、患者さんの実情 慢性骨髄性白血病の患者さん今後の見通しに求めることは? そこで、患者さんをサポートする医師に対する患者さんの意見や、医師に相談できないときの情報源のよりどころなど、患者さんが求めているニーズについて紹介します。 医師と患者さんが接する機会や面会時間が少ない、意思疎通が図られているのか アンケート結果から、患者さんや家族が主治医に対する満足度を10段階評価してもらった結果を見ると、平均満足度は10段階中7.83と高く、男性は平均8.80、女性は7.64でした。 10段階中8~10と満足度が高い人の割合は約65%で、男性では20~30歳代が74%でした。医師との相互理解がありそうでしたが、満足度が高くないのは男性40歳代(58%)、女性50~60歳代(約60%)でした。「医師への不満はない」は約48%にとどまりました。 通院頻度は平均10.2週で、3ヵ月処方のケースが多くなっているので(参照:記事1、記事2、記事3)、医師と患者さんが接する機会や面会時間が少なく、意思疎通が図れているのかは疑問です。 医師への不満は「相談や質問がしにくい」「説明がない」「話を聞いてくれない」 患者さんが抱く医師への不満点について聞いたところ、以下が挙げられていました(図1)。 図1:医師に対する不満点 出典:慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行) 上記の図1について年齢別・男女に見ると、以下のような傾向がわかりました。 「面接時間が短く、相談や質問がしにくい」:全体の回答は約21%、多いのは女性20~40歳代(25~29%) 「病気や治療法などの十分な説明がない」:全体の回答は約12%、多いのは男性40歳代(約22%)と女性50歳代(21%) 「一般論が多く、個別的なアドバイスが少ない」:全体の回答は約11%、多いのは男性20~30歳代(約26%)と女性40歳代(約17%) 「医師の態度により相談や質問がしにくい」:全体の回答は約9%、多いのは女性40歳代(約17%) 「患者の話(訴え)を聞いてくれない」:全体の回答は約8%、多いのは男性50歳代(12%)、女性20~30歳代(約15%) 患者会代表の田村英人さんによると、患者会に寄せられる相談は医師とのコミュニケーションに関することが多く、「医師は病気のことしか関心がない」、「患者の生活面にも関心をもってほしい」、「医師から寄り添ってほしい」などの意見があるとのことです。 特に、地方在住の患者さんは、受診する医療機関が少なく、都市部のように主治医を変えることは難しい環境なので、患者さんにとっては医師との関わりが重要なのです。 また、患者会の交流会に参加した医師によると、患者さんの話を聞いて「診察室では分からない側面を見ることができた」という話があります。医師と患者の関わりは課題です。 2019年9月22日の世界CMLデーに開催された市民公開講座*2では、参加した患者さんから検査データの数値を教えてもらってもよいのかとの質問がありました。 質問に対して田村さんからは「検査データの数値は教えてもらうこと、検査データをもらうことは問題ない」とのことでした。自分の病気のことを理解したうえで医師とのコミュニケーションを図って相談するためにも検査データの内容を理解することは重要です。 新薬や「治る」のための新しい治療の試みなどへの関心が高い 患者さんが欲しい情報は(複数回答)、多い回答順に「自分の今後の見通し」、「新薬に関する情報」、「薬の副作用」、「新しい治療法」、「臨床試験に関する情報」、「同じ境遇にある人の体験談」などでした(図2)。 図2:現在欲しい情報 性別・年齢別にみると、「新薬に関する情報」「新しい治療法」「薬の効果」などは、男性に多く求められており、特に、20-30代、40代の若年層に多いことがわかりました。女性の方が求めているのは「同じ病気の人の体験談」で、特に、50代、60代以上で多く挙がっていました。男性は「新薬」「新しい治療法」などの新しい情報を求め、女性は「体験談」のような情報を求める傾向がみられました。 出典:慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行) 医師に相談できないときの情報源は? 画期的な治療薬が登場したことで、患者さんが命の心配をすることは少なくなりましたが、将来の見通しに不安や困難があります。 患者さんは、不安や困難への対策に関する情報こそ、医師に意見を求めたいところなのです。では、患者さんが医師に相談できない場合、何が情報源になるのでしょうか。 情報源に関する調査結果を見ると、最も回答が多かったのは患者会のウェブサイト(約35%)、次いで製薬会社のウェブサイト(約28%)、患者さんのブログ(約25%)、患者会の集まり(24%)などで、高齢者は患者会の集まりなどを情報源とする傾向にありました。 田村さんによると、インターネット情報が氾濫していますし、SNSで患者さん同士が共有する情報が必ずしも正確ではないこともあり、患者会への相談として「何が正しいのか、わからない」といった話が少なくないとのことです。 不安になって冷静さを失うと、高額で有効性や安全性が確立していない民間療法を信用してしまうケースもあります。有益かつ正確な情報を患者さんが収集して、より良い生活ができることにつながるフォロー体制のありかたが課題です。 医療費削減、治療法や新薬の情報、患者同士の情報交換に関する要望が多い いずみの会への要望に関する調査結果は、「医療費を安くしてもらうよう国に働きかけてほしい」が半数近く、その他では「治療法や新薬の情報提供」が4割と高いほか、「定期的な患者交流会の実施」、「患者同士が情報交換できる場の設置」、「地方でのセミナーやフォーラムの実施」などの回答も多かったようです。 以上から、新薬や新しい治療法、薬の副作用、治癒(治るという意味です)への関心が高く、正確な情報を求めていることがわかりました。 患者さんが求めるニーズを社会全体で認識してフォローしてもらえる体制を望む 最後になりますが、患者さんへの調査結果をふまえて田村さんのコメントです。 画期的な治療薬が登場したことで、慢性骨髄性白血病の患者さんはいまや、命の心配をすることが軽減されてきています。自分の将来への「明るい見通し」を期待している患者さんが多くなっています。 しかし、治療を継続しながら、副作用や後遺症、高額な医療費負担、さらに仕事や生活上の問題を数多く抱えています。患者さんは、数カ月おきに外来受診するので、医師などに相談する機会が少ない状況です。また、普通に生活しているので、見た目には患者さんが抱えている問題が理解されにくくなっていることも課題です。 そこで、患者さん側から実情を発信することで、みなさんに理解してもらい、よりよいサポート体制をつくってもらいたいと考えて、患者さんへのアンケートを2009年から何年かおきに実施し、その結果を公表しています。 がんをはじめ病気でつらい思いをしている患者さんのニーズを社会全体で認識してもらい、フォローにつながれば幸いです。 調査結果の詳細をまとめた会報誌は、患者会代表・田村英人さんのご好意により、無償で提供していただけます。 お問い合わせ:「いずみの会」メールアドレス izumi_cml@yahoo.co.jp *1:慢性骨髄性白血病で異常活性化するチロシンキナーゼという物質(分子)を標的に、活性化を抑える分子標的治療薬のイマチニブ(製品名:グリベック)が2001年に登場したことで、治療を受けた患者さんの生存率は劇的に向上しました。 2019年9月現在、保険診療で治療を受けられるチロシンキナーゼ阻害薬は5種類あります。診療の流れは、まずイマチニブ(製品名:グリベック)、ニロチニブ(同タシグナ)、ダサチニブ(同スプリセル)の3剤から選択します。 最初の薬で効果不十分(イマチニブ耐性になるbcr/abl遺伝子に変異が現れた場合など)や副作用の場合、上記ならびにボスチニブ(同ボシュリフ)、ポナチニブ(同アイクルシグ、bcr/abl遺伝子変異のうちT315Iという変異が検出された場合など)に変更します。 *2:2019年9月22日の世界CMLデーに東京都で市民公開講座「世界CMLデーに考える白血病治療最前線」が開催されました。慢性骨髄性白血病(CML)の病気がどのようにして発症するのか、急性骨髄性白血病と慢性骨髄性白血病は発症メカニズムが違うこと、治療薬に関する最新の話題などに関する専門医の講演、Q&A、参加者同士の交流会などが催されました。 ■参考 慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行) 第80回日本血液学会学術集会ポスターセッション:The actual condition of treatment and life seen from CML patients 第59回日本癌治療学会がん患者・支援者プログラム/ポスター発表演題:CML患者からみた治療と生活の実態 Chronic Myeloid Leukemia Patient Survey Report 2018 慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」 http://www7b.biglobe.ne.jp/~izumi-cml/ NPO法人血液情報広場・つばさ(血液がんのフォーラム・セミナーを全国で随時開催しています) http://tsubasa-npo.org/ ■関連記事 9月22日は世界CMLデー、慢性骨髄性白血病の患者会に聞く 慢性骨髄性白血病の患者さんの生存率、治療と副作用 いずみの会アンケート(1) 慢性骨髄性白血病の治療費と副作用、患者さんの実情 いずみの会アンケート(2) 慢性骨髄性白血病の患者さん今後の見通しに求めることは?いずみの会アンケート(3) がん経験者だからこそ届けられる情報 絵本と写真、音楽が奏でるストーリー(1) 癌(がん) 公開日:2019/10/23 監修:慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」代表 田村英人さん
慢性骨髄性白血病は、画期的な治療薬*1が登場してから患者さんの生存率が向上しました。ただし、服薬を継続しないといけません。医療費、薬の副作用、就職や仕事、結婚・出産への困難や不安などがあります。患者さんが日ごろ、どのような想いで治療を継続して生活しているのでしょうか。患者会「いずみの会」が2018年に実施したアンケート結果(有効回答521人、患者さん約85%、男性約53%など)*2を紹介します。 目次 女性の20~30歳代は生活への満足度は高くない 働き盛りの世代では病気の再発、仕事や学業に不安や困難を感じる 今後は病気の治療や日常的な活動に積極的に取り組みたいとの意向が強い 女性の20~30歳代は生活への満足度は高くない 調査結果から、生活全般の満足度を10段階評価してもらった結果を見ると、10段階中9~10と満足度が高い人の割合は約27%、8~10は約50%で、平均満足度は7.10でした。前回の2013年度調査に比べると、生活全般の満足度は高い傾向にありました。 詳しく見ると、女性(6.99)より男性(平均7.14)の満足度が高く、年齢別で満足度が高いのは男性40歳代(7.25)と60歳以上(7.49)、女性では40~50歳代(7.32)でした。 しかし、女性の20~30歳代では6.52と満足度が高くありません。患者会代表の田村英人さんによると、経済面や副作用、結婚や子どものことへの不安が大きいとのことでした。 働き盛りの世代では病気の再発、仕事や学業に不安や困難を感じる 治療を続けるうえで感じている不安や困難に関する調査の結果をみると、回答が多いのは「今後の見通し」、「情報をどこから得たらいいのか」、「病気になる前のように生活ができるのか」、「新しい薬に変更したほうがいいのかわからない」などでした。 「今後の見通し」は、男性20~40歳代で「仕事や学業あるいは育児などをこれまで通り続けられるか」、女性20~30歳代で「治療に関する薬の耐性、再発」が特徴的でした(表)。 表:治療を続けるうえで困難に感じていること 出典:慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行) また、男女別・年齢別に見ると、「就職」は男性20~30歳代、女性20~40歳代、「離職・失業への不安」は男性20~40歳代、女性40歳代、「病気休暇、欠勤、休業がとりにくい」は男女とも20~30歳代で回答が多いことがわかりました。 つまり、働き盛りの世代を中心に仕事関係の不安や困惑が大きいことがうかがえました。 家庭生活で感じる困難について聞いた結果を見ると、最も多い回答は「医療費の負担」(約68%)、「病気による収入の減少」(約14%)、「就職、職探し」(約9%)などでした。 男女別・年齢別に見ると、「医療費の負担」は男性40~50歳代、女性20~30歳代と50歳代、「結婚・出産」は男女とも20~30歳代、「就職、職探し」は男性20~30歳代、女性40歳代、「子供の養育」や「病気による家庭の不和」は男性40歳代で特徴的でした。 今後は病気の治療や日常的な活動に積極的に取り組みたいとの意向が強い 患者さんが、今後の活動において積極的に取り組みたい意向について10段階評価してもらった結果があります。平均点が高い順に以下でした。 第1位 病気の治療 8.77 第2位 日常的な活動 8.46 第3位 家族との関係 8.16 第4位 経済的な問題 7.86 第5位 社会的な生活 7.28 第6位 仕事・学業 7.20 第7位 結婚・出産 4.18 「病気の治療」については10段階中9~10と回答した人の割合は6割以上、「日常的な活動」や「家族との関係」は5割以上で、前回(2013年度)の調査結果を上回っていました。 田村さんによると、慢性骨髄性白血病の患者さんでは、治療を受け続けていくことにより命の心配をすることが軽減され、将来の見通しを持つ人が多いことがうかがえます。 一方で病気の再発、高額な医療費、就労関係などが問題です。治療を続けながらより良い生活ができるよう、患者さんをサポートすることが課題になるとの話でした。 次の記事では、患者さんへサポートする側の医師との関わり、患者さんが求める有益な情報はどのようなものかに関して調査した結果を紹介します。 調査結果の詳細をまとめた会報誌は、患者会代表・田村英人さんのご好意により、無償で提供していただけます。 お問い合わせ:「いずみの会」メールアドレス izumi_cml@yahoo.co.jp *1:慢性骨髄性白血病で異常活性化するチロシンキナーゼという物質(分子)を標的に、活性化を抑える分子標的治療薬のイマチニブ(製品名:グリベック)が2001年に登場したことで、治療を受けた患者さんの生存率は劇的に向上しました。 2019年9月現在、保険診療で治療を受けられるチロシンキナーゼ阻害薬は5種類あります。診療の流れは、まずイマチニブ(製品名:グリベック)、ニロチニブ(同タシグナ)、ダサチニブ(同スプリセル)の3剤から選択します。 最初の薬で効果不十分(イマチニブ耐性になるbcr/abl遺伝子に変異が現れた場合など)や副作用の場合、上記ならびにボスチニブ(同ボシュリフ)、ポナチニブ(同アイクルシグ、bcr/abl遺伝子変異のうちT315Iという変異が検出された場合など)に変更します。 *2:患者会・いずみの会では、2009年、2010年、2013年、2018年に会員を対象にアンケートを実施しています。受診状況や症状、医師への評価、日常生活、医療費、就労、結婚・出産など、多岐にわたって調査しています。 ■参考 慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行) 第80回日本血液学会学術集会ポスターセッション:The actual condition of treatment and life seen from CML patients 第59回日本癌治療学会がん患者・支援者プログラム/ポスター発表演題:CML患者からみた治療と生活の実態 Chronic Myeloid Leukemia Patient Survey Report 2018 慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」 http://www7b.biglobe.ne.jp/~izumi-cml/ NPO法人血液情報広場・つばさ(血液がんのフォーラム・セミナーを全国で随時開催しています) http://tsubasa-npo.org/ ■関連記事 9月22日は世界CMLデー、慢性骨髄性白血病の患者会に聞く 慢性骨髄性白血病の患者さんの生存率、治療と副作用 いずみの会アンケート(1) 慢性骨髄性白血病の治療費と副作用、患者さんの実情 いずみの会アンケート(2) 傷病手当金の制度上の社会的治癒、再発、転移とは サバイバー伝授!がんとお金(4) がん経験者だからこそ届けられる情報 絵本と写真、音楽が奏でるストーリー(1) 癌(がん) 公開日:2019/10/23 監修:慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」代表 田村英人さん
慢性骨髄性白血病は、2001年に画期的な治療薬が登場してから生存率が向上するなど、患者さんを取り巻く環境が変わりました。一方、患者さんは服薬を継続しなければならないので、さまざまな困難があります。そこで、患者さんの実情を社会全体に理解してもらうために、患者会「いずみの会」がアンケート結果を公表しています*1。今回は受診状況や医療費、社会保障の活用状況などについて紹介します。 目次 長く生きている患者さんが多く、3ヵ月処方が増えているのは有益 通院は2~3ヵ月に1回が大半、社会保障制度の活用により負担を軽減 医療費負担は年間40万8000円、1回受診で8万7000円弱、以前より減額傾向 高額療養費制度と限度額定期認定制度のことをよく理解してほしい 治療効果を重視度かつ満足度が高い 医療費負担と副作用は課題あり、薬の服用中断を考えることも 長く生きている患者さんが多く、3ヵ月処方が増えているのは有益 慢性骨髄性白血病の治療では、病気により体内で異常活性化するチロシンキナーゼという物質(分子)を標的にした分子標的治療薬のチロシンキナーゼ阻害薬*2があります。 この薬は飲み薬で、患者さんは外来通院するようになりました。治療を受けた患者さんの生存率が高くなっています。そこで、いずみの会の2018年度アンケート結果(有効回答521人、患者さん約85%、男性約53%など)から医療機関への受診状況などを紹介します。 通院は2~3ヵ月に1回が大半、社会保障制度の活用により負担を軽減 まず、通院の頻度(受診間隔)を見ると、平均して10.2週でした。前回調査(2013年)では平均9週なので、通院の間隔が延びています*3。受診1回当たりの薬の処方日数は、「3ヵ月分」約55%、「2ヵ月分」22%、「2週間分」と「1ヵ月分」はそれぞれ約13%でした。 患者会代表の田村英人さんのコメント 「患者さんは、病状が悪化せずに「寛解」という安定した状態を維持するために薬を服用し続けることが必要です。そこで、高額療養費制度を活用して、患者さんが直接的な負担を軽減する有効策として3ヵ月処方は有益です。」 医療費負担は年間40万8000円、1回受診で8万7000円弱、以前より減額傾向 医療費について見てみましょう。患者さんが負担する年間の支払い受診料(平均受診料を通院頻度10.2週で試算)は40万8000円でした。前回(2013年)の調査では68万4000円でしたので、前回調査に比べると今回の調査結果では約27万円以上の減額でした。これは高額療養費制度の理解と限度額適用認定の利用によるものと思われます。 受診1回の平均受診料は「8万6680円」(2万円未満25%、2~5万円未満24%、5~10万円未満23%)で、前回調査の平均12万8000円よりも4万円以上の減額でした(図)。 図:受診1回の平均受診料 出典:慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行) 高額療養費制度と限度額適用認定制度のことをよく理解してほしい 患者さんの医療費負担は以前に比べて減っているとはいえ高額です。そこで、患者さんが受けられる社会保障として、高額療養費制度と限度額適用認定制度があります。 高額療養費制度:1ヵ月間(月初めの1日から月末までの期間です)の医療費(差額ベッド代、入院時の食事代、保険診療以外の医療費などは含みません)の自己負担額が一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合、その分があとで払い戻される制度です。 限度額適用認定制度:自己負担限度額を超えそうなときに、事前申請して認定してもらった限度額適用認定証を提示すると、窓口負担額が自己負担限度額までになるものです。 アンケート結果を見ると、「高額療養費制度を受けている」は約60%、「高額療養費制度を受けており、すでに限度額申請をしている」は21%でした。ただ、「制度のことを知らない」は0.6%、「詳しい内容まで知っている」は約8%でした。 田村さんは、「高額療養費制度や限度額適用認定制度は患者さん自身が手続きして申請しないといけないので、制度の詳しい内容まで理解してほしい」と話します。 病院の相談室のソーシャルワーカーさんや患者会に詳細を問い合わせすることができますので、大いに活用してほしいとのことでした。 治療効果を重視度かつ満足度が高い 検査や治療に関して重視すること、満足していること(以下、重視度、満足度)を10段階評価してもらいました。その結果から重視度が高い回答は順に以下でした。 表:検査や治療に対する重視度と満足度(点数は10段階評価の平均、項目は重視度が高い順) 重視度 満足度 「治療効果が高い」 9.39 8.52 「副作用が少ない」 8.80 6.19 「病院で支払う経済的負担が少ない」 8.60 4.57 「血液検査だけですむ」 8.57 9.17 「内服薬である」 8.42 8.80 「1日あたりの服用回数が少ない」 7.67 8.18 出典:慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行) 上記を見ると、1日1回の服用で効果が高く副作用が少ない飲み薬や、「血液検査ですむ」の重視度と満足度が高いようでした。 検査に関しては、以前は骨から骨髄を注射で吸引する骨髄穿刺という検査を受けることがありました。この検査を受ける時は、麻酔は骨には関係ないのでかなりの痛みを伴います。 最近は、検査のやり方も変わってきたようです。PCR検査(ポリメラーゼ連鎖反応法検査)など、体への負担が少ない血液検査の技術が向上して普及しています。 医療費負担と副作用は課題あり、薬の服用中断を考えることも 重視度が高くても、実情としては満足度が低いという回答がありました。それは、「病院で支払う経済的負担が少ない」、「副作用が少ない」です。 また、薬の服用中止に関する調査結果を見ると、「服用中止を考えたことがある」との回答は約37%でした。その理由は副作用が6割、経済的な理由が4割でした。 経済的な理由については、以前の調査結果に比べて減少傾向ですが、まだまだ課題となっています。 次回は、治療を続けるうえでの不安や困難、今後の見通しに関する調査結果を紹介します。 調査結果の詳細をまとめた会報誌は、患者会代表・田村英人さんのご好意により、無償で提供していただけます。 お問い合わせ:「いずみの会」メールアドレス izumi_cml@yahoo.co.jp *1:患者会・いずみの会では、2009年、2010年、2013年、2018年に会員を対象にアンケートを実施しています。受診状況や症状、医師への評価、日常生活、医療費、就労、結婚・出産など、多岐にわたって調査しています。 *2:慢性骨髄性白血病で異常活性化するチロシンキナーゼという物質(分子)を標的に、活性化を抑える分子標的治療薬のイマチニブ(製品名:グリベック)が2001年に登場したことで、治療を受けた患者さんの生存率は劇的に向上しました。 2019年9月現在、保険診療で治療を受けられるチロシンキナーゼ阻害薬は5種類あります。診療の流れは、まずイマチニブ(製品名:グリベック)、ニロチニブ(同タシグナ)、ダサチニブ(同スプリセル)の3剤から選択します。 最初の薬で効果不十分(イマチニブ耐性になるbcr/abl遺伝子に変異が現れた場合など)や副作用の場合、上記ならびにボスチニブ(同ボシュリフ)、ポナチニブ(同アイクルシグ、bcr/abl遺伝子変異のうちT315Iという変異が検出された場合など)に変更します。 *3:患者さんの通院間隔について聞いた結果では、半数近い約47%が「12週間以上」(男性では40~50歳代が回答の半数、女性では40歳代で回答が多い)で、平均10.2週でした。 ■参考 慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行) 第80回日本血液学会学術集会ポスターセッション:The actual condition of treatment and life seen from CML patients 第59回日本癌治療学会がん患者・支援者プログラム/ポスター発表演題:CML患者からみた治療と生活の実態 Chronic Myeloid Leukemia Patient Survey Report 2018 慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」 http://www7b.biglobe.ne.jp/~izumi-cml/ NPO法人血液情報広場・つばさ(血液がんのフォーラム・セミナーを全国で随時開催しています) http://tsubasa-npo.org/ ■関連記事 9月22日は世界CMLデー、慢性骨髄性白血病の患者会に聞く 慢性骨髄性白血病の患者さんの生存率、治療と副作用 いずみの会アンケート(1) 傷病手当金の制度上の社会的治癒、再発、転移とは サバイバー伝授!がんとお金(4) がん経験者だからこそ届けられる情報 絵本と写真、音楽が奏でるストーリー(1) 癌(がん) 公開日:2019/10/09 監修:慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」代表 田村英人さん
慢性骨髄性白血病の治療は、2001年に画期的な飲み薬が登場しました。そこから、患者さんの生存率が向上しています。一方、治療を継続することが必要なので、患者さんは治療とともに生活していくことに課題があります。そこで患者会「いずみの会」は、社会全体が患者さんの実情を知ってもらい、各方面の理解を得ることが必要だと考え、2009年から患者さんを対象にアンケートを実施しています*1。2018年の調査結果を紹介します。 目次 治療のパラダイムシフトにより患者さんの生存率は向上 診断されてから10年以上の患者さんは増えている 飲み薬のチロシンキナーゼ阻害薬が治療の中心で多様な選択肢 筋肉のつりやむくみの症状は減少傾向、飲む薬の種類により症状は異なる 治療のパラダイムシフトにより患者さんの生存率は向上 慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia、以下は略語CML)は、がん化した血液細胞が増え続けていくことにより発症する病気です。増え続ける原因には、染色体異常が起こって異常活性化するチロシンキナーゼという物質(分子といいます)が関わります*2。 冒頭の通り、2001年から異常活性化するチロシンキナーゼを治療ターゲット(標的)にして、活性化を抑える飲み薬(分子標的治療薬のチロシンキナーゼ阻害薬という飲み薬です)による治療を受けられるようになってから、患者さんの生存率が大きく向上しました*3。 一方、患者さんは治療を継続しなければなりません。副作用や後遺症、高額な医療費など、さまざまな課題と向き合いながら生活しています。 「いずみの会」では、患者さんが安心してより良い生活ができるよう、患者さんの実情を発信して社会全体が理解を深めてもらうことが重要だと考えて調査を実施しています。 診断されてから10年以上の患者さんは増えている 2018年の患者さんや家族へのアンケートの結果では、有効回答521人でCML患者さんが占める割合は約85%、男性が約53%でした。年齢別では50歳代と60歳代がそれぞれ約26%、70歳代が約11%で、以前の調査結果に比べて50歳代以上の人が多くなっています。 調査結果を見ると、CML診断後の病歴は「10年以上」が約38%、次いで「5~8年」が20%、「8~10年」が約17%などで、60歳以上の人では「10年以上」が半数以上でした。 2013年の調査結果では、病歴の回答で最も多いのは「5~8年」(27%)、次いで「3~5年」(23%)でしたので、最近は高齢の方を中心に長生きしている患者さんが多いことがわかります。治療によるQOL向上など、さまざまな要因が関係していることがうかがえます。 飲み薬のチロシンキナーゼ阻害薬が治療の中心で多様な選択肢 CMLの薬の治療に関しては、飲み薬のチロシンキナーゼ阻害薬が第一選択になります。2019年9月現在、チロシンキナーゼ阻害薬は5種類です。 2009年の調査結果ではチロシンキナーゼ阻害薬のイマチニブ(製品名はグリベック)が7割以上でしたが、2018年の調査結果を見ると、イマチニブが約29%、ニロチニブ(同タシグナ)が約21%、ダサチニブ(同スプリセル)が約27%、最近発売されたボスチニブ(ボシュリフ)が約6%、ポナチニブ(同アイクルシグ)が0.6%でした。 筋肉のつりやむくみの症状は減少傾向、飲む薬の種類により症状は異なる 日常生活において困難に感じている症状に関しては(複数回答)、「筋肉のつり(こむらがえり)」が約33%、次いで「倦怠感」が約27%、「白髪が増える」と「浮腫(むくみ)」がそれぞれ約23%、「皮膚が白くなる」が約23%などでした。 これらの症状は、以前の調査結果と比べると減少傾向です。「筋肉のつり(こむらがえり)」や「むくみ」はかなり減少していました。20~30歳代の女性では、胃炎が多いことが特徴的でした。薬の種類が増えてきたことにより、副作用も多岐にわたっていることがうかがえます(図)。 図:困難を感じている症状 服用している薬別に患者さんが困っている症状を見ると、以下になります(表)。 表:チロシンキナーゼ阻害薬の副作用(困っている症状)の上位回答(薬の服用別に多い順、複数回答) ■イマチニブ(製品名グリベック):回答149人 「筋肉のつり(こむらがえり)」約69%、「皮膚が白くなる」約36%、「浮腫み(むくみ)」約33%、「結膜下出血(白目からの出血)」約30%(回答) ■ニロチニブ(同タシグナ):回答110人 「倦怠感(だるい)」約31%、「筋肉のつり(こむらがえり)」30%、「発疹」約23%、「筋肉痛」約17%、「コレステロール値が高い」約17% ■ダサチニブ(同スプリセル):回答142人 「白髪が増える」約35%、「倦怠感(だるい)」約30%、「浮腫み(むくみ)」約27%、「胸水」約21% ■ボスチニブ(同ボシュリフ):回答33人 「下痢」約45%、「発疹」約36%、「倦怠感(だるい)」約21%、「胸水」約21% 図と表の出典:慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行) 以上から、慢性骨髄性白血病患者さんの生存率は高くなっていますが、その一方で治療を継続しながら生活しているので、さまざまな困難を抱えていることがうかがえます。 次の記事では、治療を受けている患者さんが満足に感じていること、実際に支払っている医療費などに関するアンケート結果を紹介します。 調査結果の詳細をまとめた会報誌は、患者会代表・田村英人さんのご好意により、無償で提供していただけます。 お問い合わせ:「いずみの会」メールアドレス izumi_cml@yahoo.co.jp *1:患者会・いずみの会では、2009年、2010年、2013年、2018年に会員を対象にアンケートを実施しています。受診状況や症状、医師への評価、日常生活、医療費、就労、結婚・出産など、多岐にわたって調査しています。 *2:慢性骨髄性白血病は、ほぼ9割以上で染色体異常が原因で発症します。具体的には、9番目と22番目の染色体が切れることがあり、2つの染色体がつながるときにフィラデルフィア染色体ができます。その際にbcr/abl遺伝子が発現して、細胞が増殖するスイッチが入りっぱなしになり、白血球や血小板が増え続けて発症します。 このスイッチを入りっぱなしにする体内の信号伝達の役割を持つのがチロシンキナーゼという物質です。 *3:慢性骨髄性白血病で異常活性化するチロシンキナーゼという物質(分子)を標的に、活性化を抑える分子標的治療薬のイマチニブ(製品名:グリベック)が2001年に登場したことで、治療を受けた患者さんの生存率は劇的に向上しました。 2019年9月現在、保険診療で治療を受けられるチロシンキナーゼ阻害薬は5種類あります。診療の流れは、まずイマチニブ(製品名:グリベック)、ニロチニブ(同タシグナ)、ダサチニブ(同スプリセル)の3剤から選択します。 最初の薬で効果不十分(イマチニブ耐性になるbcr/abl遺伝子に変異が現れた場合など)や副作用の場合、上記ならびにボスチニブ(同ボシュリフ)、ポナチニブ(同アイクルシグ、bcr/abl遺伝子変異のうちT315Iという変異が検出された場合など)に変更します。 ■参考 慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行) 第80回日本血液学会学術集会ポスターセッション:The actual condition of treatment and life seen from CML patients 第59回日本癌治療学会がん患者・支援者プログラム/ポスター発表演題:CML患者からみた治療と生活の実態 Chronic Myeloid Leukemia Patient Survey Report 2018 慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」 http://www7b.biglobe.ne.jp/~izumi-cml/ NPO法人血液情報広場・つばさ(血液がんのフォーラム・セミナーを全国で随時開催しています) http://tsubasa-npo.org/ ■関連記事 9月22日は世界CMLデー、慢性骨髄性白血病の患者会に聞く 癌(がん) 公開日:2019/10/09 監修:慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」代表 田村英人さん
がん治療後の後遺症でリンパ浮腫というむくみを生じることがあります。対策として運動が推奨されています。一般社団法人キャンサーフィットネス代表理事の広瀬眞奈美さんは、少しの時間、体を動かすだけの体操でもリンパの流れがよくなる運動として十分だといいます。第3回日本リンパ浮腫学会総会市民公開講座*1の講演内容を紹介します。 目次 少しの時間で筋肉や関節を動かすことを継続するだけでリンパの流れがよくなります 全身を動かすリンパケアエクササイズライフを始めよう! リンパは全身に循環しているので全身を意識して体を動かせることが重要 少しの時間で筋肉や関節を動かすことを継続するだけでリンパの流れがよくなります がんに関わるリンパ浮腫(むくみ)対策のセルフケアとして、食生活の見直しや運動が推奨されています*2。ですが、「がんになったら運動しよう」といわれても、「運動って、激しく体を動かすイメージだから大変そう」、「どのような運動をしたらいいの?」と戸惑う人も多いようです。 そこで、少しの運動や体操で関節や筋肉を動かすことを継続するだけでも十分な効果があると広瀬さんは強調します。 広瀬さんは、乳がんサバイバーの経験をもとに、運動を通して患者さんの身体的・社会的・心理的な不安を解消したいと考え、フィットネスインストラクターの資格をとり、キャンサーフィットネス(http://cancerfitness.jp/)を設立しました。 現在、医師など医療関係者が患者さんを診療するときに参考とする「がんのリハビリテーションガイドライン*3」の策定委員で、書籍「リンパ浮腫のことがよくわかる本」*4の運動に関する章の解説に携わっています。 全身を動かすリンパケアエクササイズライフを始めよう! 広瀬さんら、キャンサーフィットネスが考案したのが「リンパケアエクササイズ」です。 「楽しく体を動かせば、リンパ浮腫(むくみ)もココロも軽くなる」をテーマにしています。 第3回リンパ浮腫学会市民公開講座で広瀬さんはリンパケアエクササイズを紹介し、以下のようなメッセージを伝えています。 がん転移を防ぐためにリンパ管が集合しているリンパ節を切除するリンパ節郭清や、放射線療や抗がん剤による治療の影響などにより、リンパ管の閉塞や機能障害が起こることがあります。そうすると、リンパ管が集合するところでリンパ液が交通渋滞のように流れが停滞することで、むくみが生じることがあります。 そこで、体を動かすと、筋肉は縮んだり緩んだりして(筋肉の収縮と弛緩といいます)、筋肉の動きがリンパ管に作用することで、リンパ管内のリンパ液が流れるようになり、交通渋滞が緩和されていきます。 リンパ管は全身に張り巡らされているので、むくみ改善のためには全身を使って体を動かせることが重要です。 また、むくみケアのために腕や足を圧迫する弾性ストッキング・スリーブなどを着けて運動することもおすすめです。 リンパケアエクササイズに関しては、ブログ「Cancer Fitness がんになったら運動しよう!」で、好きな音楽に合わせて数分でこなせる体操のメニューが紹介されています。ブログでは広瀬さんがキッチンなど場所をとらずにできるリンパケアエクササイズをしている姿も閲覧できます。 リンパは全身に循環しているので全身を意識して体を動かせることが重要 リンパケアエクササイズは、運動メニュー1つ1つに関して、手、腕、腰や足の関節や筋肉、体側・体幹をどのように動かすのか、内転筋を動かすときのポイント、腹式呼吸や有酸素運動をどのようにするのかなど、骨格や筋肉の図を使って解説しています。 注意点は、まずは腕のむくみだから腕と肩の運動だけでいいとは限りません。足のむくみだから下半身だけでいいとは限りません。リンパ管は全身に張り巡らされているので、リンパ液の循環がよくなるよう、全身を意識して体を動かせることが重要だとしています。 運動するときは、自分の体力を知って、自分の状態に合った方法で体を動かすようにします。やりすぎは厳禁です。適度に休憩を入れて、運動が終わったら横になって休むことなどをすすめています。 表:リンパケアエクササイズライフを始めよう! 毎日、朝晩5分の運動を習慣にする ストレッチは1日の日課にしよう 筋肉をリラックスさせる 動かせる範囲を少しずつ増やす 散歩で、有酸素運動も心がけよう 腹式呼吸を覚えよう よい姿勢を心がけよう ときどき、関節をまっすぐにしてみよう 体重管理をしよう 疲れたら、横になって休もう 物足りないを大事にしよう。 提供:一般社団法人キャンサーフィットネス代表理事・広瀬眞奈美さん 最後になりますが、学会の市民公開講座で広瀬さんは、以下のメッセージを伝えました。 体を動かさず、何もしていないと、筋肉が固くなります。年を重ねると関節が動かなくなります。筋力が落ちて腕が上がらなくなり、足腰が弱くなり、リンパの流れが弱くなってリンパ浮腫(むくみ)が悪化すると、日常生活がよくなりません。 いまや、治療法が進歩して多くのがん患者さんが長生きできる時代なのです。 これからは、治療が終わった後、自分の人生をどのように過ごしていくのかについて、自分自身が考えていかないといけません。そのためにもカラダを動かして笑顔で生きていきましょう!リンパケアエクササイズライフを是非とも始めましょう! *1:2019年3月2~3日の第3回日本リンパ浮腫学会総会(会長:がん研究会有明病院婦人科副部長/リンパ浮腫治療室長/健診センター検診部副部長・宇津木久仁子先生)の市民公開講座「自分でできることから始めよう-栄養管理と運動療法」では、がん研究会有明病院管理栄養士・伊丹優貴子先生と一般社団法人キャンサーフィットネス代表理事・広瀬眞奈美さんが講演しました。 *2:国内外のガイドラインでは、がん治療後に発症するリンパ浮腫(むくみ)の対策として、食生活の見直しや運動が推奨されており、肥満がリスクといわれています。BMI25未満など適正体重を理解したうえでの体重減少が有効とされています。 *3:日本リハビリテーション医学会の「がんのリハビリテーションガイドライン」は2013年に発行されました(ガイドライン委員長は慶応義塾大学リハビリテーション医学教室准教授・辻哲也先生)。現在、最新の改訂版発行に向けて作成中です。 *4:書籍「リンパ浮腫のことがよくわかる本」(講談社)は2019年2月14日に講談社から発行されたもので、書籍監修は第3回日本リンパ浮腫学会総会の会長を務めた宇津木久仁子先生です。 ■一般社団法人キャンサーフィットネスについて キャンサーフィットネスでは、がんを経験されたかたに対して、運動などを通して、安心して社会復帰し、元気に笑顔で生きてほしいと切に願って支援をしています。がんサバイバーさんのインストラクター養成も行っており、全国レベルでがん患者さんに運動を通してサポートできるよう積極的な活動を展開しています。 運動教室、ヘルスケアアカデミーをはじめ、さまざまなプログラムを開催しています。プログラムのスケジュールは下記のサイトで参照できます。また、ブログでも各種イベントの情報があります。 キャンサーフィットネスのホームページ http://cancerfitness.jp/ ヘルスケアアカデミーについて http://cancerfitness.jp/healthcare-academy/ ブログ「Cancer Fitness がんになったら運動しよう!」 https://ameblo.jp/cancerfitness/entry-12362987039.html ■関連記事 がん「リンパ浮腫(むくみ)」対策は体重管理が重要、食事献立とコンビニ利用時の工夫とは がん治療後の後遺症「リンパ浮腫(むくみ)」の敵は太りすぎ(肥満)、適正体重の管理が対策に 傷病手当金の制度上の社会的治癒、再発、転移とは サバイバー伝授!がんとお金(4) がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2) YouTubeで準リアルタイム配信、がん発覚から入院や退院後の生活まで がん治療・入院前に筋力・体力をつけよう!がんロコモ対策(2) 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 癌(がん) 公開日:2019/06/28 監修:一般社団法人キャンサーフィットネス代表理事 広瀬眞奈美さん
がん治療後の後遺症で、リンパ浮腫というむくみ(漢字で浮腫みといいます)を生じることがあります。太りすぎ(肥満の例としてBMI30以上)の患者さんはむくみを生じやすいので、体重管理のために食生活の改善や運動などがすすめられます。食生活に関しては、がん研究会有明病院管理栄養士の伊丹優貴子先生が、栄養バランスを考えた食事献立の考え方やコンビニ利用時の工夫などについて、第3回日本リンパ浮腫学会総会市民公開講座*1で講演した内容を紹介します。 目次 適正体重目指して1ヵ月に1kgのゆったり目の減量に取り組みましょう 食生活を見直して栄養バランスを考えた献立の目安 コンビニ利用で3食1400kcalにおさえることも可能 適正体重目指して1ヵ月に1kgのゆったり目の減量に取り組みましょう がん治療に伴うリンパ節郭清や放射線照射などによって、体内のリンパ液の流れが悪くなって、、リンパ浮腫というむくみ(漢字で浮腫みといいます)を発症することがあります。 リンパ浮腫対策の診療ガイドラインでは、太りすぎ(肥満)は危険因子で、自分にとって適正な体重を理解したうえで食生活の見直しや運動などが推奨されています。 伊丹先生によると、普通の食事で必要な栄養素を摂取しながら無理なくできる減量は1ヵ月に2~3㎏と言われています。急激なダイエットを個人の判断で行うことは危険です。一気にやせるというのは体調も崩れやすくなります。 がん治療中であれば、1ヵ月に1kgを目標にしてゆったり目に減量することをお勧めしています(参考記事:がん治療後の後遺症「リンパ浮腫(むくみ)」の敵は太りすぎ(肥満)、適正体重の管理が対策に)。 食生活を見直して栄養バランスを考えた献立の目安 1ヵ月あたり1kgのゆったり目の減量は難しくありません。というのは、計算上、カロリー量だと月に7000kcal減らすと達成できます。1日だと約230kcalです。 230kcalは、ごはん茶碗1杯分(150g)程度、チョコクッキーだと5枚程度、ビールジョッキ1杯(500mL)程度です。なお、運動だと体重50kgの方であればウォーキング1時間30分程度です*2。 がん患者さんは体力を消耗しやすいので、栄養バランスをうまくとることが重要です。 そこで、伊丹先生が患者さんに栄養指導をするときに、患者さんの食生活状況を理解するために念頭に置いている項目と、栄養バランスを考えた献立の目安を提示してくれました。 食生活の見直し 心当たりはありませんか?当てはまる項目が多い人は注意が必要です。 朝食を食べない 早食いである お腹いっぱい食べてしまう 脂っこいものや揚げものをよく食べる お菓子をよく食べる 甘いジュースをよく飲む 夜食をとる 野菜はあまり好きじゃない 外食や仕事上での宴会が多い お酒をよく飲む 1食の献立の目安 ○主食:どれか1つ ご飯150g(茶碗1杯程度) 食パン2枚(8切れ中)→ジャムやマーガリンをパンにたくさんつけて食べたい人は6切れ中1枚を目安 麺1玉 ○主菜:片手のひらに乗るくらいの量、下記食材を足して1.5となるのが目安 魚一切れ:1 肉50g:1 卵1個:1 豆腐3分の1丁:1 ☆上記4つから選択・足し算して1.5を目安にする 例:朝食は卵1個(1)とウインナー2個(0.5)=1.5、昼食は魚一切れ(1)と豆腐一切れ(0.5)入り味噌汁=1.5 ただし、魚や肉の部位や調理法方によってエネルギー量(カロリー量)は変化するので注意が必要です。 ○副菜(片手のひらに乗るくらいの量を目安) ☆海草、きのこは低カロリーですが、油料理やドレッシングに気をつける。 じゃがいもなどイモ類、レンコン、カボチャなど糖質が多く含まれる野菜の量が多い場合、主食を減らす必要があります。 ○デザート類(1日1回) 牛乳コップ1杯、果物はにぎりこぶし1個を目安(みかん2個、小さいバナナ1本など) カロリーを減らす工夫 カロリー量が多い(エネルギーが高い)場合、エネルギーが高いものを残すようにする、あるいはエネルギーの低いものを選ぶという2つの方法があります。下記に例です。 ○カロリーが高いものを残す 鶏肉の皮を剥がす:1食分(100g)だと皮を剥がすだけで約-100kcal カツ定食を頼んで食べるとき:添えのキャベツに使用する調味料と揚げ物の衣を残すようにするだけで約-100kcal 弁当のご飯:200~250gと多い。3分の1残すだけで約-100kcal ○カロリーの低いものを選ぶ メロンパンからサンドウィッチにする:栄養バランスが良くなり約-100kcal ノンオイルドレッシングを使う:約-50kcal コップ1杯の牛乳を低脂肪乳にする:約-40kcal コンビニ利用で3食1400kcalにおさえることも可能 仕事が忙しい人では、家庭で料理を作らずにコンビニで3食を済ますことも多くなります。ただ、コンビニの食品はカロリー量や栄養成分を明示しているので、利用の仕方によっては自炊するよりも簡単に3食1400kcalにおさえることができます。 ★コンビニ3食で1400Kcal分の目安 朝:サンドウィッチ、ヨーグルト(たんぱく質量が多いものを選びましょう)、野菜ジュース、バナナ1本 昼:小さめの弁当、野菜サラダ(肉や魚、卵などたんぱく質を摂るようにしましょう) 夜:塩分は高いので毎日はすすめられませんが、おでん(卵、大根、練り物など数品)、お浸しなどの総菜、おにぎり1~2個 以上から、がん治療後の後遺症としてのリンパ浮腫(むくみ)対策は、適正体重を理解して、太りすぎの肥満の患者さんでは体重を減らすことが大切とされています。そのために、食生活の見直し、運動などがすすめられます。 自分の適正体重を理解したうえで、1ヵ月当たり1kg、1日当たり230kcalを目安に、ゆっくり時間をかけて体重管理に取り組むとよいでしょう。 *1:2019年3月2~3日の第3回日本リンパ浮腫学会総会(会長:がん研究会有明病院婦人科副部長/リンパ浮腫治療室長/健診センター検診部副部長・宇津木久仁子先生)の市民公開講座「自分でできることから始めよう-栄養管理と運動療法」では、がん研究会有明病院管理栄養士・伊丹優貴子先生と一般社団法人キャンサーフィットネス代表理事・広瀬眞奈美さんが講演しました。 *2:厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」及び「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」について https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple.html ■関連記事 傷病手当金の制度上の社会的治癒、再発、転移とは サバイバー伝授!がんとお金(4) がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2) YouTubeで準リアルタイム配信、がん発覚から入院や退院後の生活まで がん治療・入院前に筋力・体力をつけよう!がんロコモ対策(2) 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 癌(がん) 公開日:2019/06/26 監修:がん研究会有明病院管理栄養士 伊丹優貴子先生
がん治療後の後遺症で、リンパ浮腫というむくみ(漢字で浮腫みといいます)を生じることがあります。太りすぎ(肥満の例としてBMI30以上)のがん患者さんでは、肥満でない人に比べてむくみになりやすいと言われています。自分にとって適正な体重を理解して管理することがむくみ軽減につながるといわれています。がん研究会有明病院管理栄養士の伊丹優貴子先生が第3回日本リンパ浮腫学会総会市民公開講座*1で講演した内容を紹介します。 目次 リンパ節を取り除く手術などによってリンパ液の流れが止められて「リンパ浮腫(むくみ)」を発症 肥満のがん患者さんは「リンパ浮腫(むくみ)」がおこりやすいのでBMI21~25を目指して体重管理を 体重、BMI、体脂肪率が減少したがん患者さんでむくみが改善 標準体重、BMI21~25未満など適正体重を理解して体重管理の目標をたてましょう リンパ節を取り除く手術などによってリンパ液の流れが止められて「リンパ浮腫(むくみ)」を発症 「リンパの流れがよい」と聞くことがあります。これは、体内の余分な脂肪や蛋白、細菌やウイルスなどが含まれたリンパ液が、全身に張り巡らされているリンパ管に集められ、ところどころにフィルターの役割を持つリンパ節で浄化されて全身を巡ることをいいます。 しかし、がん転移を防ぐためにリンパ節を取り除く手術などによって、リンパ液の流れがとめられ、むくみが起こります。 リンパ浮腫(むくみ)はがん治療後の後遺症として、腕やわきの下あたり(上肢)や足のふとももから足首(下肢)にかけて起こり、長年にわたり悩まされることがあります。 肥満のがん患者さんは「リンパ浮腫(むくみ)」がおこりやすいのでBMI21~25を目指して体重管理を がんに関わるリンパ浮腫(むくみ)の対策は、治療以外にセルフケアもあります。医療者が診療時に参考とする日本リンパ浮腫学会の診療ガイドラインでは、弾性着衣(上肢のスリーブなど)や食生活の見直し、運動が推奨されており、肥満予防が有効とされています。 食生活に関しては、上肢(肩関節より指先まで)に生じたむくみと肥満や体重減少との関係性についての研究論文がガイドラインに紹介されています。 たとえば、海外では乳がんの手術を受けた患者さんが6ヵ月以降にリンパ浮腫によるむくみが生じた割合を、Body mass index(BMI)30以上(日本肥満学会の肥満症診療ガイドラインでは「肥満(2度以上)」とされています)とBMI30未満の患者さんと比較して検討したところ、BMI30以上では30未満に比べて3.6倍になることが明らかになったとの研究結果があります*2。 また、女性においてはBMI30~39.9のがん患者さんは死亡率が高くなることや、BMI21~24.9の女性では死亡率が低いことがいわれています。 特に、閉経後においては肥満が乳がんのリスクになることが報告されていますので、太りすぎには注意しましょう。がん予防の観点から、女性はBMI21~25の範囲になるように体重を管理するのがよいようです*3。 なお、上記のBMI判定については体重と身長から割り出したもので、筋肉が発達したスポーツ選手や、腎機能や心臓の病気で過剰にむくんでいるケースでは必ずしも当てはまるものではありません。 体重、BMI、体脂肪率が減少したがん患者さんでむくみが改善 肥満対策のための体重減少とがん関連のリンパ浮腫(むくみ)との関係については、乳がん患者さんを、体重減少の食事指導を受けるグループと一般的な食事指導を受けるグループに分け、3ヵ月後に腕の体積を測定したイギリスの研究論文があります。 その結果、体重減少の食事指導を受けた患者さんのグループでは、腕のむくみが減少しており、一般的な食事指導を受けたグループに比べて統計学的に明確な差が認められました*4。 がん研究会有明病院で伊丹先生らが肥満を合併している乳がん患者さんで上肢にむくみがある18例を対象に、体重管理(減量)のための栄養指導をしました。 その結果、指導をした後に体重、BMI、体脂肪率が減少しているとともに、腕の水分量を調べる細胞外水分比(むくみの程度がわかります)も減少していることがわかりました。 つまり、栄養指導による体重・BMI・体脂肪率の減少が、むくみの改善につながる可能性があると考えられました。 標準体重、BMI21~25未満など適正体重を理解して体重管理の目標をたてましょう がん関連のリンパ浮腫(むくみ)対策としての体重管理はどうすればよいのでしょうか。 まず、病気になりにくいとされる適正体重を知ることです。以下が目安です。 標準体重:身長(m)×身長(m)×22(BMI22*という意味です) 例:身長160mだと、1.6m×1.6m×BMI22=53.6kgが標準体重です。 普通体重:BMI18.5~25未満* BMIは体重÷〔身長(m)×身長(m)〕で計算できます。 腹囲:男性85cm、女性90cm(BMI25以上の内臓脂肪型肥満の判定基準です) *:日本肥満学会の肥満症診療ガイドラインの肥満度分類では、標準体重(理想体重)はもっとも病気になりにくいBMI22を基準にしています。肥満は脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態でBMI25以上と提唱されています。 上記を目安に、自分にとっての適正体重がわかったら、次に体重管理のための減量目標を掲げます。 普通の食事で必要な栄養素を摂取しながら、無理なくできる減量は1ヵ月に2~3㎏と言われていますが、減量に関しては個人の判断で急激なダイエットを行うことは危険です。 一気に体重を減らしてやせるというのは体調が崩れやすくなります。そこで、1ヵ月に1kgぐらいのペースで、ゆっくりと時間をかけて減量していきましょう。 1ヵ月に1kg減らすためには、計算上、カロリー量は7000kcal減らさないといけませんが、1日に換算すると約230kcalです。ちょうど、ごはん茶碗1杯分(150g)程度です。 ただし、あくまでエネルギー量(カロリー量)のみの計算ですので、食事としてはたんぱく質やビタミン、ミネラルを十分量とる必要があります。 また、がんになると体力が失われることがありますので、栄養バランスの良い食事が推奨されます。次回は、食事の献立例やコンビニ利用時に工夫するコツを紹介します。 *1:2019年3月2~3日の第3回日本リンパ浮腫学会総会(会長:がん研究会有明病院婦人科副部長/リンパ浮腫治療室長/健診センター検診部副部長・宇津木久仁子先生)の市民公開講座「自分でできることから始めよう-栄養管理と運動療法」では、がん研究会有明病院管理栄養士・伊丹優貴子先生と一般社団法人キャンサーフィットネス代表理事・広瀬眞奈美さんが講演しました。 *2:Support Care Cancer. 2011;19(6):853-7. *3:国立がん研究センターがん情報サービス「科学的根拠に基づくがん予防」 https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html *4:Cancer. 2007;110(8):1868-74 ■関連記事 傷病手当金の制度上の社会的治癒、再発、転移とは サバイバー伝授!がんとお金(4) がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2) YouTubeで準リアルタイム配信、がん発覚から入院や退院後の生活まで がん治療・入院前に筋力・体力をつけよう!がんロコモ対策(2) 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 癌(がん) 公開日:2019/06/19 監修:がん研究会有明病院管理栄養士 伊丹優貴子先生
がん治療終了後の「療養周辺費」を補ってくれる社会保障の制度として、会社員や公務員は傷病手当金を受給できます。卵巣がん経験者の大塚美絵子さんに、この制度を理解するための3本柱のうち、前号では「病気になったときの強い味方」についてお話してもらいました。今回は残り2つの柱について注意すべきとしています。それは「傷病手当金が貯蓄の性質をもつ」、「再発や転移と社会的治癒という概念」です。 目次 傷病手当金、会社人事が詳しくないケースがあるので要注意 勤める人が毎月納める健康保険料は貯蓄、遠慮せずに手続きしましょう 休職中に出社するともらえなくなることに注意 社会的治癒と再発、転移との関係を理解すべき 傷病手当金、会社人事が詳しくないケースがあるので要注意 大塚さんも、「自分が病気になるまでは、傷病手当金の実務について詳しく知りませんでした」と話しています。会社の方からは制度について一切説明はなく、入院中に同室の人から教えてもらって初めて申請を決意したといいます。しかし、会社に連絡すると、人事から予想外の回答が返ってきました。 「あなたは、要件を満たさないので、傷病手当金の支給対象になりません」 不思議に思いましたが、「仕方ない、退職したからしばらくは失業手当(失業保険ともいいます)でしのごう」とハローワークへ行ったところ、「働く能力(=状態を意味する法律用語)がない人には支給できません」といわれました。 当時は治療の行方もよくわからないなか、失業保険、傷病手当金ともにもらえないと言われて、奈落の底に突き落されました。 そこで、会社の就業規則や健康保険組合の傷病手当金の規定を読み直したところ、受給権があることを確認、しかし会社に再度問い合わせても、やはり回答はNO。そこで都の労働局に相談して、やっと受給にこぎつけました。 労働局の相談員の話では、「傷病手当金は保険組合の事務なので、会社人事が詳しくない場合や、規定の解釈を間違えてしまう場合もある」とのことでした。 勤める人が毎月納める健康保険料は貯蓄、遠慮せずに手続きしましょう 傷病手当金の制度を知っていても周囲への遠慮から申請をためらう方もいらっしゃいます。病欠で迷惑をかけているのに申し訳ないというのです。 「私も、休職あけの同僚に対し、マネジャーが『俺たちが睡眠時間を削って働いて、お前がゆっくり休むためのお金を稼いでいたんだぞ、割に合わないな』と言うのを耳にしたことがあります」と大塚さん。 しかし、これはマネジャーの理解のほうが不正確なのです。傷病手当金の元となるお金は毎月の給料から差し引かれる健康保険料です。従って、給付される傷病手当金は「健保銀行」に自分が積み立ててきた貯蓄と言い換えることもできます。傷病手当金をもらっても「収入」とはならず非課税であることも納得できますね。 自分の貯金を取り崩すのに、他人への遠慮はいりません。休んだ分は、しっかり療養して元気に回復し、働くことで恩返しすればよいのです。 記事「がん社会保障、知ることは力なり サバイバー伝授!がんとお金(1)」をモットーに社会保障を理解して、自分から積極的に行動を起こしましょう。黙っていたら、もらって当然のお金がもらえません。 休職中に出社するともらえなくなることに注意 傷病手当金は、出社すると打ち切られる場合があることに注意が必要です。出社という事実をみて、健保組合などが就労可能と判断する場合があるからです。 治療でしばらく休職後、結局、退職することになった人が、挨拶と引継ぎのため退職日に無理して出社したところ、「退職時には就労可能であった」と評価されて、退職後の傷病手当金が打切られたという悲劇も実際にあったようです。 挨拶や引継ぎのために無理して出社し、結果的に体調を崩す、傷病手当金も打切られる、これでは本末転倒です。人事との交渉は病院か自宅近くで行いましょう。元気になってから、改めて挨拶のために出向くのは失礼なことではありません。 社会的治癒と再発、転移との関係を理解すべき あまり意識されていませんが、医学上の用語と社会制度上の用語が異なることは、よくあることです。 がん医療における「治癒」も、その一つ。医師は、がんに関しては容易には「治癒」と表現せず、治療終了後数年経つまでは「寛解(かんかい)」と表現します。ところが、人事は「えっ、まだ治癒していないの?」ということで、「復職させる」「しない」で押し問答になる場合があります。 また、傷病手当金は、元気を回復し受給が終了した場合、同じ疾病で再度受給することはできません。そこで、再発・転移の場合に一悶着が起きることがあります。 再発・転移は、医学上は「同じ」疾病と扱われるようです。例えば、乳房を全摘後、肺に転移したという場合、病巣は肺でも乳がんは乳がん、しかも原発のときと「同じ」がんだそうです。 しかし、傷病手当金の制度に関していえば、再発・転移により再度療養する前に職場復帰し、定められた期間働いていれば、最初のがんは社会通念上「治癒」したとみなし、再発・転移後のがんは「別の疾病」として扱うのです。 これは、単なることばの問題ではなく、患者さんが傷病手当金を受給できるか否かに関わってきます。 先生によっては、「医学的に不正確な言葉を使いたくない」という方もいらっしゃるようですが、そういう場合、患者さんが「概念の相対性(医学的意味と法律的意味は異なる)」と、「患者の生活がかかっている」ことを説明して、適切な書類を書いてもらいましょう。 最後になりますが、大塚さんから下記のメッセージです。 受け取れる権利があるので知識を蓄えて積極的に行使、恩返しは元気になってから がん治療で休職しているかたにとっては大変な時期ですが、自分でいろいろ調べて知識を蓄えること、権利があることには積極的に行動を起こさないといけません。 今は、病院の相談支援センターや、知識をサポートしてくれる患者会やNPOもいろいろあります。 開業しているファイナンシャル・プランナーさんもいらっしゃいますし、リンパレッツでも情報提供をおこなっております。いろいろなことが重なるので大変な時期ではありますが、先輩サバイバーやピアサポートをうまく頼って、経済的不安を軽減することが大切です。 大塚美絵子さん 2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫(むくみ)対策などの弾性ストッキングやスリーブなどを販売するお店をしています。 がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。 大塚さんのお店やブログ ■関連記事 がん社会保障、知ることは力なり サバイバー伝授!がんとお金(1) がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2) 傷病手当金、患者さんが絶対に押さえるべき3つのポイントとは サバイバー伝授!がんとお金(3) がん副作用対策、海外に学ぶ がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(2) がんの話題にタブーがない海外 がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(3)最終回 免疫療法、ノーベル賞受賞したから受けてみようか?でもその前に… 「こんなはずじゃなかった」、がんサバイバーが直面する社会復帰の壁 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 癌(がん) 公開日:2019/06/14
がん治療のために会社を休むと、経済的ピンチに陥ることがあります。そんなときのための社会保障の制度として傷病手当金があります。卵巣がん経験者の大塚美絵子さんは、「制度をしっかり理解することが重要で、3つの柱をよく知っておきましょう」と声を大にしています。今回は、その1つ「傷病手当金が強い味方になる」ことを伝授してもらいました。 目次 患者さん本人が理解していないと損をする 傷病手当金はお勤めの人が病気で休職になったときに一番頼りになる制度 非正規の契約社員や派遣社員も健保組合に加入していればもらえる可能性あり 傷病手当金は退職してももらえる。失業手当との関係に注意 患者さん本人が理解していないと損をする 前号では、がんと診断され退職した場合に、体調が悪い間は失業手当が受けられないことをお話しました(記事:がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2))。 では、会社に残った場合はどうなるでしょうか? 当然、失業手当はもらえません。しかし、体調が十分に回復するまでは、休職により収入は激減してしまいます。 一方で、体型変化のための衣服や機能を補う装具(弾性着衣や杖)、アピアランス(容姿)のためのかつらなどの購入費、体調に合わせた食費、交通費(体力低下でタクシー利用が増えるなど)といった療養周辺費がかかります。 これら「生きるための出費」は簡単には削れません。 加えて、社会保障費の支払いは継続し、所得税は前年度を基準に課税されます。収支バランスが大きく崩れ、経済的に苦しくなります。 そこで、頼りになるのが傷病手当金の制度です。ただし、患者さん本人が理解していないと損をします。大塚さんは、傷病手当金の制度には、絶対に押さえるべき3つのポイントがあると言います。 傷病手当金はお勤めの人が病気になったときの第一の味方 性質としては積み立てた預金、申請に遠慮は要らない 「社会的治癒」の考え方(医学的評価との相違) 今回は、1「傷病手当金制度が強い味方」であることを紹介します。 傷病手当金はお勤めの人が病気で休職になったときに一番頼りになる制度 会社員・公務員などお勤めの方は、継続して1年以上の被保険者期間があれば傷病手当金の受給資格があります。転職しても、健康保険に継続して加入していれば(前職と異なる健保組合でも可)、受給が認められます。受給の基本的要件は次の4つです。 業務との関係がなく発症したケガや病気 就労不能を証明する医師の診断書 連続して3日以上の就労不能 給与減額または無給 傷病手当金の手続きは、一般的には主治医に「仕事ができない状態であること」を記入してもらった申請書類を勤務先に送り、勤務先に収入関連の事項を記載してもらって、勤務先が健保組合などに提出します。申請書類は休んだ期間ごとに提出します。 受給額は、1ヵ月間の期間だと、これまでの月給の3分の2程度です。計算式は以下です。 計算式:支給開始日前の過去12ヵ月の各月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3=支給日額 (休業期間中に給与の支払があっても傷病手当金の額よりも少ない場合は差額が支給されます) 支給期間は、会社を休んで4日目から最長1年6ヵ月間です。 非正規の契約社員や派遣社員も健保組合に加入していればもらえる可能性あり 大塚さんが自身の体験をもとにがん患者の経済的支援制度について「がんよろず相談」を2018年9月に開催したところ、参加者から非正規雇用について聞かれました。 ご安心ください。非正規(パートタイマー等)でも、健康保険に加入していれば傷病手当金がもらえます。 また、派遣社員も専門の健保組合があります。登録先が健保に加入していれば、派遣健保から傷病手当金が支給されます。受給要件に雇用形態は問われていません(詳細は下記) 全国健康保険協会(協会けんぽ):病気やケガで会社を休んだとき 傷病手当金は退職してももらえる。失業手当との関係に注意 傷病手当金は、会社を退職した場合でも、最初の支給から18ヵ月(1年6ヵ月)までは体調が回復するまでもらい続けることができます。 退職すると失業手当を考えますが、失業手当は、「元気(=働ける状態にある)なのに仕事についていない人」を支援する制度で、体調の悪い間はもらえないのは前号で述べた通りです。病気になった時に、第一に頼るべきは傷病手当金であることがわかりますね。 では、最初の支給から18ヵ月(1年6ヵ月)経過または回復した(傷病手当金打切り)、けれどもまだ新しい仕事が見つかっていない場合はどうすればよいのでしょうか? この場合、失業手当がもらえるのです。それには受給開始先延ばしの制度(受給期間延長、しかしお金をもらえる期間の延長ではなく受給権の有効期間の延長、最長4年まで)を申請する必要があります。 現在は、回復後に申請しても期間延長を認めてもらえます。しかし、「退職後、継続して30日以上働けない状態」にあれば傷病手当金受給中であっても申請は可能ですから、療養中からハローワークと相談して、予め受給期間延長の申請をしておいたほうが安心です。 結局、体調の悪い間は傷病手当金、体力が回復してからは(退職した場合には)失業手当の形で公的支援をうけることができます。制度をうまく利用すれば、がんに罹患して休・退職しても、そう簡単に困窮しないように制度設計されています。 次回は、傷病手当金制度に関して理解すべきこととして「当然もらうべき自分の権利」と「再発・転移と社会的治癒の考え方」について紹介します。 大塚美絵子さん 2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫(むくみ)対策などの弾性ストッキングやスリーブなどを販売するお店をしています。 がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。 大塚さんのお店やブログ ■関連記事 がん社会保障、知ることは力なり サバイバー伝授!がんとお金(1) がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2) がんの意識は日本と海外で違う!がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(1) がん副作用対策、海外に学ぶ がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(2) がんの話題にタブーがない海外 がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(3)最終回 免疫療法、ノーベル賞受賞したから受けてみようか?でもその前に… 「こんなはずじゃなかった」、がんサバイバーが直面する社会復帰の壁 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 癌(がん) 公開日:2019/06/7
がんに関わる人それぞれの想いを表した絵画、写真、絵手紙を表現した作品のコンテスト「第9回リリー・オンコロジー・オン・キャンバス」に応募された作品は、2019年6月2日(日)までの期日でオンライン一般投票ができます。「一般投票賞」として「絵画」「写真」「絵手紙」の各部門で最も多く投票された作品は、7月に開催する授賞式にて発表されます。 作品のテーマは「がんと生きる、わたしの物語。」、投票期日は6月2日まで 「リリー・オンコロジー・オン・キャンバス」では、がんを告知された時の想い、がんと共に生きていく決意、がんの経験でわかった自分らしい生き方などを絵画、写真、絵手紙で表現した作品のコンテストを毎年実施しており、今回で第9回目です。 第9回目のテーマは「がんと生きる、わたしの物語。」で、絵画部門、写真部門、絵手紙部門で数多く応募されました。応募作品は審査委員会の選考をへて、各部門で最優秀賞、優秀賞、ウェブによる一般投票賞、入選数作品が選ばれます。 「一般投票賞」に関しては、現在、オンラインによる一般投票が行われています。投票は誰でも参加できます。閲覧して最も共感や感銘を受けた「絵画」「写真」「絵手紙」の各部門1作品に投票できます。投票の締め切りは2019年6月2日(日)24:00です。 応募方法は、リリー・オンコロジー・オン・キャンバスのFacebook(https://www.facebook.com/locjChannel)から一般投票フォームにアクセスしてください。 各部門の作品と、作品にこめられたエッセイを閲覧して共感し感銘を受けた作品に1票ずつ投票し、最後に赤色の『投票』ボタンをクリックする流れです。なお、Facebookのアカウントをお持ちでない方でも投票できます。 写真、絵画、手紙それぞれの部門で最も多く投票された作品は「一般投票賞」として選出され、7月に開催される授賞式にて発表される予定です。 リリーオンコロジーオンキャンバスのリリース https://news.lilly.co.jp/down2.php?attach_id=595&category=13&page=1&access_id=1916 がんと共に生きるあなたの想いを絵、写真、絵手紙で伝えませんか? 疾患・特集:癌(がん) 公開日:2019/05/17
がんと診断されたとき、「これからどうしよう」と不安になりとまどいます。会社員では、診断にショックを受けるのと同時に、周囲に迷惑をかけるので申しわけないと思って、みずから依願退職する人がいます。これを「びっくり退職」といいます。卵巣がん経験者の大塚美絵子さんは、「びっくり退職は思いとどまってほしい」と声を大にして訴えています。 目次 がんと診断された直後は心理的に混乱するので決断はより慎重に 休職や時短勤務などやり方はいろいろとあります! 退職の選択は一時凍結、治療と仕事との両立を会社と一緒に考えることが肝心 がんと診断された直後は心理的に混乱するので決断はより慎重に がんを告知されたとたん、病気のこと、入院や治療のこと、今後の仕事や生活のことなど、さまざまな問題が一気に降りかかってきます。 そこで注意すべきは、冷静な判断ができない状況にあるなかで、早急に退職を決断する「びっくり退職」!これは絶対に避けなければなりません。 なぜなら、以下のような現状があるからです。 がん治療は日進月歩、新しい薬や治療法も続々登場しているので、思った以上に回復します。 国の復職支援推進政策もあり、復職に前向きな会社もあります。 失業保険(失業手当)は体調が悪いと支給されないうえ、がんが急増する40歳以上の再就職は難しいため、退職すると経済的にリスクが大きくなります。 会社に籍があれば、同僚への恩返しのためにも頑張るという気持ちになることができますが、戻るところがないと治療を頑張る目的を見失いかねません。 失業手当は「しっかり働けるのに職がない人のための求職支援制度」ですので、体調が悪い間は支給されません。そうなると、居場所を失ったことに対する孤立感、仕事がみつからないことへの焦燥感、経済的な不安感から体調回復に集中できなくなります。 治療終了後、しばらく失業状態だった大塚さんは、「当時は仕事がないことで心理的にも非常に苦しかった」と振り返っています。 休職や時短勤務などやり方はいろいろとあります! 退職せずに、一定の期間を休職して治療に専念し、回復してから会社に復帰するという方法や、時短勤務という方法など選択肢はいろいろとあります。 どのような選択をするにせよ、会社とコミュニケーションをよくとる必要があります。その時に重要なのが就業規則。たとえば、休職規定は明確な法規制がないので就業規則の記載事項が優先されることもあります。会社と、復職や勤務条件の交渉などにおいても出発点となります。また、労働関係の公的機関に相談するときも就業規則は必要になります。 就業規則は、通常は会社の人事部からもらえるはずですし、会社のポータルサイトからもダウンロードできます。 会社との交渉を一人でするのは、心理的にも負担が大きいです。その場合は、がん相談支援センターや自治体の労働相談などの力を借りると良いでしょう。会社と患者のよき仲介者となってくれます。 退職の選択は一時凍結、治療と仕事との両立を会社と一緒に考えることが肝心 自分から言い出すにせよ、会社から提案されるにせよ、ひとたび退職届(退職願いとは違います)を提出してしまうと、撤回できないので注意が必要です。 心理的に混乱し冷静な判断ができない時期ですから、ひとまず状況を理解することにつとめ、退職という選択は一時凍結してもらいましょう。 最後になりますが、大塚さんから下記のメッセージです。 がんを告知されると、数多くの問題が⼀挙に押し寄せてパニックになります。また、告知直後は治療計画も流動的です。このような状況で正しい決断をすることは難しいです。 それに加えて、体調の悪い間は失業手当が支給されませんので、退職には大きな経済的リスクを伴います。 休職とか、時短、在宅勤務など方法はいろいろありますので、少し時間的猶予をもらい、治療と仕事の両⽴のやり⽅を会社と⼀緒に考えることが肝⼼です。 HelCでは、大塚美絵子さんの体験をもとに、がん患者さんのためになる経済的支援制度について、退職時の注意点、社会保障制度の三本柱(傷病手当金、失業給付、障害年金)、就労支援などを中心に、テーマ別の連載シリーズで紹介します。 大塚美絵子さん 2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫(むくみ)対策などの弾性ストッキングやスリーブなどを販売するお店をしています。 がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。 大塚さんのお店やブログ ■関連記事 がん社会保障、知ることは力なり サバイバー伝授!がんとお金(1) がんの意識は日本と海外で違う!がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(1) がん副作用対策、海外に学ぶ がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(2) がんの話題にタブーがない海外 がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(3)最終回 免疫療法、ノーベル賞受賞したから受けてみようか?でもその前に… 「こんなはずじゃなかった」、がんサバイバーが直面する社会復帰の壁 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 癌(がん) 公開日:2019/04/24
がんと診断されたら、これからどうすればいいのか不安になります。そこで、重要なのが社会保障の制度を今後の生活に活用することです。卵巣がん経験者の大塚美絵子さんに実体験をもとに役立つ情報をうかがいました。まず、シリーズ1回目は、数々の社会保障の制度を手続きした当時を振りかえってもらいます。 目次 「社会保障の受給手続きは簡単」の予想はことごとく打ち砕かれる 「失業手当は働く意思と能力のある人に支給するのです」と突っぱねられたことも 手続きする担当機関も場所も窓口もバラバラ 社会保障制度を知ってさえいれば苦労せず 「社会保障の受給手続きは簡単」の予想はことごとく打ち砕かれる 大塚さんが卵巣がんを発症したのは数年前の夏の暑い時期でした。 当時は企業コンプライアンス(社会保障を含む法令順守)に携わっていたので、社会保障(傷病手当金、失業手当など)の受給には心配していませんでした。うまく処理できるだろうと高を括っていました。 ところが、手続きを始めたところ、予想は打ち砕かれて大きな壁にぶち当たったのです。 「失業手当は働く意思と能力のある人に支給するのです」と突っぱねられたことも 各手続きについて具体的に見ていきましょう。 会社員だったので、まずは傷病手当金を申請しようと人事に相談したところ、突っぱねられました。 「仕方がない。失業手当でしのぐことにしよう」と思い、次にハローワークに行きました。 ところが、職員からは「失業手当は働く意思と能力のある人に支給されるのです。治療中の方は、働ける旨の医師の診断書をもらってきてください」と冷たく言われました。 経済面で一気に不安になり、自宅近くの区役所に行って、高額療養費の限度額申請のついでに窓口で何か受給できないかと相談したところ、職員は担当事務以外に詳しくなく、どこに相談したらいいのかすら教えてもらえませんでした。 手続きする担当機関も場所も窓口もバラバラ 当時は、抗がん剤治療を受け始めたばかりで副作用に苦しみ、体力が落ちていました。酷暑のなか、髪は落ち武者、膝はガクガクの状態でやっとのことで手続きに行きましたが、担当機関も場所も窓口もバラバラ(傷病手当金は会社のある東京、失業手当は自宅の最寄りのハローワーク、健康保険は区役所)で、大変でした。 手続き機関の対応から、がん保険以外に何の保証もないと思いこんでしまいました。しかも、治療を受け始めたばかりで、この先、手術を受けられるのかどうか「見通し」も経っておらず、絶望の淵に突き落とされました。 社会保障について「よく知らなかった」ことを後悔しました。 社会保障制度を知ってさえいれば苦労せず 大塚さんは現在、がん治療の後遺症の浮腫み(むくみ:リンパ浮腫といいます)対策に使われる製品を販売するお店を経営して、多くのお客さんに接しています。そこで驚いたのが、社会保障の申請ができるのに、受給権を失っていた方や受給権があることを知らない人が少なくなかったのです。 実は、日本の社会保障制度をうまく利用すれば、すぐには経済的には困窮に陥らないように、かなりよく整備されているのです。しかし、情報不足のためにその恩恵を受けていない患者さんが少なくありません。 「せっかくある制度を利用しないのは、もったいないです。『知ることは力なり』です!」と大塚さんは強調しています。 今後も、がんと診断されたかたを支援するために、自身の経験に基づいて社会保障の活用術を伝授していきたいとしています。 参考:大塚さんの治療前後の経過と収入・支出 ■収入 ・給料(下がる可能性あり) ・傷病手当金(手続きや受給期間に注意) ・失業手当(手続きに注意) ・高額療養費の限度額 ・がん保険(診断される前に加入。治療を保障しますが、治療後の生活保障ではありません) ■支出 ・医療費 ・税金や保険料(前年度の収入基準) ・服や下着、靴など 体の状態に合ったものを購入 ・装具など(弾性着衣、杖)に関する出費 ・ウィッグや帽子等、アピアランス関係の出費 ・食費、交通費(体力低下によりタクシーなど利用) 出典:2018年9月2日開催 がんよろず相談 HelCでは、大塚美絵子さんの体験をもとに、がん患者さんのためになる経済的支援制度について、退職時の注意点、社会保障制度の三本柱(傷病手当金、失業給付、障害年金)、就労支援などを中心に、テーマ別の連載シリーズで紹介します。 大塚美絵子さん 2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫(むくみ)対策などの弾性ストッキングやスリーブなどを販売するお店をしています。 がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。 大塚さんのお店やブログ ■関連記事 がんの意識は日本と海外で違う!がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(1) がん副作用対策、海外に学ぶ がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(2) がんの話題にタブーがない海外 がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(3)最終回 免疫療法、ノーベル賞受賞したから受けてみようか?でもその前に… 「こんなはずじゃなかった」、がんサバイバーが直面する社会復帰の壁 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 癌(がん) 公開日:2019/04/19
国立がん研究センター研究班は、全国がんセンター協議会(以下、全がん協)加盟32施設のがん患者さんのデータを集計・解析して、5年生存率、10年生存率を全がん協ホームページで一般公開しました。2002~2005年にがんと診断され治療を受けた患者さんの10年生存率は56.3%で、がんを発症する臓器(部位)別の10年生存率が高いのは、前立腺95.7%、甲状腺84.3%、乳房83.9%、子宮体80.0%などでした(2019年4月9日プレスリリースより*)。 目次 5年生存率は67.9%、前立腺は100%、甲状腺と乳房、子宮体は80%以上 子宮頸部、大腸、胃、腎などは10年生存率60%以上 がんサバイバー生存率を閲覧できるデータベースを公開 5年生存率は67.9%、前立腺は100%、甲状腺と乳房、子宮体は80%以上 国立がん研究センター研究班「がん登録データと診療データとの連携による有効活用に関する研究班」は全がん協の協力を得て集計した結果を報告しました。 1997~2010年に、全がん協加盟32施設で診断・治療を受けた60万4910例のデータを集計して、5年生存率(正式には相対生存率といいます)と10年生存率を集計しました。 まず、5年生存率に関しては2008~2010年の32施設における14万675例を分析しました。その結果、5年相対生存率は67.9%でした。 部位別では、前立腺は100%、90%以上は乳房と甲状腺、80%以上は子宮体、70%以上は大腸(結腸がん、直腸がんを合わせています)、子宮頸部、胃などでした(表1)。 表1:部位別の5年生存率 ●90%以上 前立腺:100% 乳房:93.9% 甲状腺:92.8% ●70%以上90%未満 子宮体:85.7% 大腸:76.6% 子宮頸:76.2% 胃:74.9%など ●50%以上70%未満 卵巣:64.4% ●30%以上50%未満 食道:45.9% 肺:43.6% 肝:36.4% ●30%未満 胆のう胆道:28.0% すい臓:9.2% 子宮頸部、大腸、胃、腎などは10年生存率60%以上 部位別10年生存率は、2002~05年の7万285例(20施設のデータ)を分析しました。 その結果、全体の10年相対生存率は56.3%でした。なお、前回集計の2001~2004年の全部位全臨床病期の10年相対生存率55.5%でした。 部位別に見ると、前立腺が95.7%と最も高く、ついで甲状腺84.3%、乳房が83.9%、子宮体が80%などと高く、大腸、胃、子宮頸部は60%台でした(表2)。 表2:部位別の10年生存率 ●90%以上 前立腺:95.7% ●70%以上90%未満 甲状腺:84.3% 乳房:83.9% 子宮体:80.0%など ●50%以上70%未満 子宮頸部:69.0% 大腸:66.3% 胃:64.2% 腎:63.3%など ●30%以上50%未満 卵巣:45.0% 肺:31.0% 食道:30.3%など ●30%未満 胆のう胆道:16.2% 肝臓:14.6% すい臓:5.4%など がんサバイバー生存率を閲覧できるデータベースを公開 研究班では、1999年から診断された患者さんのデータを集計して、部位別の臨床病期別5年生存率や施設別5年生存率を公開しています。 2012年からはがん種、病期、性別、年齢、初回治療など様々な組み合わせで生存率を閲覧することや、より長期にわたる生存率を把握するために10年生存率を閲覧できるデータベースシステムKapWebを公開するなど、先駆的な取り組みを行っています。 全がん協生存率調査: http://www.zengankyo.ncc.go.jp/etc/ 部位別生存率: http://www.zengankyo.ncc.go.jp/etc/seizonritsu/seizonritsu2010.html KapWeb: https://kapweb.chiba-cancer-registry.org/ *:国立がん研究センタープレスリリース: https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0409/index.html ■関連記事 癌(がん) 公開日:2019/04/15
がんが発覚すると、今後の生活や仕事のことなど、さまざまな悩みに直面します。そんなときに役立つのが、先輩がん経験者の体験談をインタビュー形式で生放送している「がんノート」です。今回は、スピンオフ企画として、がんが発覚し手術のために入院する直前や、手術を終えて退院した直後にインタビューをし、準リアルタイムに体験談を配信するという試みを紹介します。 目次 病気発覚、入院、治療、退院後の体験を時系列に短い動画でこまめに配信 今しか伝えられない些細な情報を発信し、さまざまな状況の人の役に立ちたい 「『あなた』か『わたし』のがんの話をしよう」をキーメッセージに 病気発覚、入院、治療、退院後の体験を時系列に短い動画でこまめに配信 がん経験者のインタビューを公開生放送で配信する「がんノート」は2014年にスタートしました。放送は100回を超え、100人以上のがん経験者がインタビューのゲストとして出演しています。ウェブサイトやYouTubeで過去のインタビュー内容を見ることもできます。 今回はスピンオフ企画として、2018年12月にがんが発覚したシュガーさん(本名:佐藤由紀さん)が、手術入院する前や退院した後にインタビューを受けています。3月4日時点で4回分のトークセッションがYouTubeで公開されています。YouTubeのタイトル名とURLは下記です。 Vol.1 がんと診断されたシュガーさん Vol.2 がん、その時の仕事は?シュガーさん Vol.3 がん、お金や家族・恋愛は?シュガーさん Vol.4 がん、おかえりなさい シュガーさん 今しか伝えられない些細な情報を発信し、さまざまな状況の人の役に立ちたい YouTubeで配信している動画は、病気が発覚してから入院する直前や、手術を受けて退院した直後にインタビューした内容で、いつでも閲覧することができます。 入院をする前の準備として何が必要なのか、仕事を休むときは上司にどのように伝えたのか、家族とどのような話になったのか、実際の検査や治療の内容、医療費はいくらだったのかなど詳細について、当事者がその時に感じたこと/考えたことを話しています。 このスピンオフ企画では、病気に向かい合っている時の記憶を鮮明なうちに細かく伝えることで、がんになった人の役に立って欲しいという思いはもちろん、がんを経験していない人にはがんを疑似体験してもらい、身近な人や自身ががんになった場合に少しでも落ち着いた対応ができるようになってもらえたらという思いで配信しているそうです。 なお、準リアルタイムのYouTube配信はこれで終わりません。その後も経過について配信していく予定です。 「『あなた』か『わたし』のがんの話をしよう」をキーメッセージに がんノートの名前の由来は、『がんに関する「音」(がんのおと)』、『がん経験者達の「手」(GANNOTE)』を掛けあわせて、がん経験者の「本音」を発信して闘病者、支える家族や仲間のこれからの人生をつなぐ「手」となれるように、との願いを込められたものです。 がんノートのインタビュー配信は2018年12月に100回を迎えました。2019年からさらなる活動を加速していくため、キーメッセージを「『あなた』か『わたし』のがんの話をしよう」に改めました。 2人に1人ががんになる時代、がんは特別なことではなく、身近な存在、誰もが自然にがんの話ができる世界を作っていきたいと思っていて、いま治療で頑張っている人、がんとともに生きている人、支える人や家族が元気を分かち合って、明るい見通しを持ってもらえるよう、さまざまな企画を考えています。 がんノート ウェブサイト https://gannote.com/ がんノート YouTubeアカウント https://www.youtube.com/user/gannotejapan Facebook https://ja-jp.facebook.com/gannote.japan/ 公開日:2019/03/22
誰でもがんという病気になるといっても過言ではない時代です。小学校でがん教育の機会が増えていますし、これからは親子で病気のことを話し合って理解することが重要です。そのきっかけとなるものとして、絵本「ママのバレッタ」があります。絵本と写真、音楽がつながれた空間で、がんに関わる人の思いを感じてもらい、病気を理解して明日に向かって進んでほしい願いが込められたイベントで、絵本の内容が紹介されました。 目次 親子でがんを理解して次の世代まで命のバトンタッチができるようにしたい 子どもが大人になって孫が生まれたときも親に生きていてほしい 「病のときは恵みのとき」、「よっつめの約束」、「フランダースの犬」も紹介 親子でがんを理解して次の世代まで命のバトンタッチができるようにしたい 2019年1月27日、グリーンルーペプロジェクトの主催により、ピアノの生演奏とともに絵本が朗読され、がんに関わる人が撮影した写真が展示されることで、明日に向かって生きる勇気と希望を持ってもらうことを願って、イベントが開催されました。 絵本に関しては、がんを発症した母親との娘さんが励ましているやりとりを、お子さんの目線で描かれている絵本「ママのバレッタ」などが紹介されました。 絵本制作に携わった、こどもをもつがん患者コミュニティ「キャンサーペアレンツ」によると、親子をつないで病気のことや自分の思いを伝えるきっかけになってほしいとの願いを持つ子育て世代の多くの会員から、さまざまな思いが寄せられて制作されたとのことです。 「子育て世代におけるがん、そのことに注目してほしいと思いました。子どもに病気のことを言いにくい気持ちがあるなか、当事者がどのように考えて伝えたのか、その想いが絵本には込められています」 「自分の子どもが大きくなったら、次の世代の子どもにも伝えて命のバトンタッチをしてほしいと願っています」 「つらいのは自分だけだと思わないでほしいのです。絵本が仲間と寄り添うきっかけに、また病気に関係ないと思っている人ががんについて知ってもらい、関わりを深めてもらえるきっかけになればありがたいと思います」 子どもが大人になって孫が生まれたときも親に生きていてほしい イベントでは、ピアノが演奏されるなかで絵本が朗読されました。 絵本は「ママのバレッタ」、病気になったからこそ気付くチャンスがあるという詩の「病のときは恵みのとき」(晴佐久昌英著「だいじょうぶだよ」、女子パウロ会)や、亡くしてしまったお父さんへの思いを幼い子どもの目線で描かれた絵本「よっつめの約束」(高野優著、主婦の友社)、アニメ「フランダースの犬」最終話も朗読されました。 絵本「ママのバレッタ」に関しては、抗がん剤治療の副作用により髪が抜けたお母さんへの娘さんの言葉、「ママは、長くてサラサラのかみの毛がじまんだったのに。バレッタ(髪留め)もつかえなくなって」とタイトルになった台詞があります。娘さんは以下のように励まします。 「大丈夫。私が大人になったら、お薬の研究者になって、髪の毛が抜けない抗がん剤を発明するから」 「おふろのときはシャンプー楽ちん、ドライヤーもしなくてもいい。帽子のおしゃれもできるし、美容院に行かなくてもいい」 娘さんは、ユーモアも交えて抗がん剤治療でがんという病気と闘っているお母さんを励ましています。励ますとともに、「かみの毛なんてなくても、ママはママ。生きていてほしい」と切に願っています。 「私が大きくなったら、ママはバレッタをくれると言ってくれたけれど、わたしはいらないの。私の子どもが生まれて女の子だったら、その子にあげてほしいの。そのときまで、ママがバレッタを持っていてほしいの」 娘さんは、自分が大人になって女の子が生まれたら、ママからバレッタを渡してほしいと話しています。 つまり、親から子ども、子どもが大人になって生まれた孫に命のバトンタッチをできるよう、お母さんには長く生きていてほしいと願っているのです。 「病のときは恵みのとき」、「よっつめの約束」、「フランダースの犬」も紹介 「ママのバレッタ」 B5判、オールカラー、全32ページ、定価1500円+税、生活の医療社 http://peoples-med.com/mamas-barrette/ 絵本「ママのバレッタ」以外に、「病のときは恵みのとき」(晴佐久昌英著「だいじょうぶだよ」、女子パウロ会)や、亡くしてしまったお父さんへの思いを幼い子どもの目線で描かれた絵本「よっつめの約束」(高野優著、主婦の友社)、アニメ「フランダースの犬」最終話も朗読されました。 最後になりますが、現在は、2人に1人ががんになる時代です。小学校でがん教育の機会が増えていることから、子どものころから病気のことを知ってもらうことが必要になっています。 親子で病気のことを話し合い、お互いに理解することが重要です。そのきっかけとなる絵本として「ママのバレッタ」などを参考になります。 公開日:2019/03/15
現在は、2人に1人はがんになる時代です。親子で病気のことを話しあい、子どものころから病気を理解してもらうことも大切です。そんなときに役立つのが絵本や写真です。そこで、がん経験者が作成して発行した絵本「ママのバレッタ」*と、がんに関わる人が撮影した写真が紹介されるイベントが開催されました。 目次 「がんになる前に知っておけばよかった!」を啓発するプロジェクトとして開催 絵本、写真、音楽がコラボした空間で何かきっかけを感じてくれることを願って がん経験者さんの思い、ストーリーは人を元気づけて前向きにしてくれる 写真に込められた思いやストーリーは自分が歩んできた証、生きている証 「がんになる前に知っておけばよかった!」を啓発するプロジェクトとして開催 がん体験者や家族の多くが、「まさか、自分が病気になるとは」、「がんになる前に知っておきたかった!」と言います。 そこで、「もう少し近くで見るための『虫めがね』になれたら」との思いから、がん経験者だからこそ届けられる情報を発信する「グリーンルーペプロジェクト」が、患者会や支援団体を募って設立されました。 グリーンルーペプロジェクトの支援団体は、スキルス胃がん患者の会「希望の会」(https://npokibounokai.org/)、こどもをもつがん患者コミュニティ「キャンサーペアレンツ」(http://cancer-parents.org)、肺がん患者会「ワンステップ」(http://www.lung-onestep.jp/index.html)です。 絵本、写真、音楽がコラボした空間で何かきっかけを感じてくれることを願って 2019年1月27日にグリーンルーペプロジェクト主催、がんに関わる人の思いを写真で伝えるオンライン作品展「がんフォト*がんストーリー」後援で、絵本、写真、音楽のコラボレーションイベントが聖路加国際病院トイスラー記念講堂で開催されました。 グリーンルーペプロジェクトを代表して、スキルス胃がんの患者会「希望の会」理事長の轟浩美さんは開催した理由について話しました。 病気のことで毎日思いつめていて、心が固くなっていた時期がありました。そんなときに、静かな落ち着いた空間を感じること、本や写真などが固くなっていた心をとかすように和らげくれて、前向きになるきっかけとなった経験があったのです。 そこで、絵本、写真、音楽でコラボしてつながった空間で感じたことが、明日に向かって進んでいくための何かきっかけとして役に立つことができればと思い、今回のイベントを開催しました。 今回のイベントを開催した主旨について話すスキルス胃がんの患者会「希望の会」理事長の轟浩美さん(写真左)。 写真右で話している2人は、「ママのバレッタ」の制作・発行に携わったキャンサーペアレンツの絵本プロジェクトチーム。 がん経験者さんの思い、ストーリーは人を元気づけて前向きにしてくれる イベントでは、ピアノの生演奏を聞きながら、絵本「ママのバレッタ」などの読み聞かせが行われたほか、「がんフォト*がんストーリー」から写真作品のスライドが展示されました。 写真作品を出展した団体代表の木口マリさんは、写真に込められた思いについて話しました。 写真には撮影したその瞬間に込められた人の思い、ストーリーがあります。がん経験者にとっては、過去を振り返るのはつらいことがありますが、そのときに感じた思いは、誰かを勇気付けるものにもなり得ます。 イベントでは4つのテーマ(輝く、紡ぐ、歩む、笑い)に分けて、写真65点を出展しました。 写真に込められた思いとストーリーから、「がん」という一見つらいことしかないように思える経験のなかにも、温かな瞬間があることを感じていただければ幸いです。 写真と言葉で心を届けるオンライン写真展 【輝く】 【紡ぐ】 【歩む】 【笑い】 写真作品のなかにあるのは、「がん」との関わりの中でそれぞれが見つけた小さくもあたたかな瞬間。今回、「Oto_Photo Project 2019」として、ピアノの音とともに数多くの作品が届けられました。 出典:がんフォト*がんストーリー:http://ganphotostory.wixsite.com/ganphoto 写真に込められた思いやストーリーは自分が歩んできた証、生きている証 写真を出展したがん経験者さんのトークセッションでは、自分が歩んだ証を残したい、入院した家族に外の世界を見せてあげたい、自分の手術日に子どもが生まれて以降、自分が生きている実感と子どもの成長をストーリーとして残したい思いがあるという話がありました。 以下のようなコメントが寄せられました。 「自分が歩んできたこれまでのこと、自分がいま生きている空間を、写真とそのときに感じた思いとして残したいと思った」 「入院していて外を見ることができない家族のために、風景の写真を撮影して外の世界を見せて励ましてあげたかった」 「人生のアルバムを作って、あのときのことを思い出すと、気持ちの整理ができます、何よりも、自分が生きてきた証、いま生きている証を見せることができます」 次回は、イベントで読み聞かせてもらえた絵本「ママのバレッタ」http://peoples-med.com/mamas-barrette/ について紹介します。絵本は、こどもをもつがん患者コミュニティ「キャンサーペアレンツ」が、親子で病気の話をするのに役立ててもらうために、多くの会員の思いが寄せられて制作されたものです。 *「ママのバレッタ」は、子育て世代などを支援する「キャンサーペアレンツ」が、親が子どもにがんについて話をすることや、子どもが病気のことを知ってもらうのに役立つために立ち上げた有志のチーム「えほんプロジェクト」が中心となって制作し、生活の医療社から発行されました。 物語のなかで、お母さんががんを発症して抗がん剤治療の副作用で髪が抜けたことに対する娘さんの言葉、「ママは、長くてサラサラのかみの毛がじまんだったのに。バレッタ(髪留め)もつかえなくなって…」とタイトルになった台詞があります。 公開日:2019/03/13
国際がんサポーティブケア学会に参加した、卵巣がん経験者の⼤塚美絵⼦さんに学会を振り返ってもらいました。⽇本と海外のがんに対する意識のさまざまな違いが印象に残りましたが、今回は話題にタブーがないこと(遠慮することや隠すことがないこと)について紹介します。 目次 治療の打ち切りをはっきりと宣告 尊厳死も話題に! ヘソ下問題もあけっぴろげに議論 経済毒性「financial toxicity」? 頭のてっぺんから足の先まで医療も生活もトータルサポート 治療の打ち切りをはっきりと宣告 「積極的治療の終了とその告知法」をテーマに掲げるセッションがあったのは驚きでした。なぜなら、日本でも、積極的治療の終了を宣言が広まったもののトラブルも少なくないので、明確な終了宣言をだすことの功罪について、さまざまな意見が交錯しているからです。 ところが、聴講したセッションでは、医師が治療打ち切りの宣告することを前提に、宣告のタイミングや部屋の様子、医師のことば遣い、誰を同席させるかなどについて議論が交わされていたのです。 上映されたデモビデオでは、患者さんもすんなりと終了宣言を受けいれていましたし、参加者も終了宣言には誰も疑問を呈しませんでした。 セッション終了後、その驚きをオーストラリアやカナダの看護師さんにぶつけたところ、 看護師(オーストラリア):あれはデモビデオだからよ。現実はすんなりとはいかないワ。多くの患者さん・家族が「何とかしろ」と食い下がるし、セカンドオピニオンを求めて走りまわって大変なのよ。 看護師(カナダ):そうね。「治療は打ち切り」と言われても患者さんの側は簡単に受けいれないわ。患者さん本人が受け入れても、家族が反対することもあるわね。 というわけで、治療終了宣言に対する患者さんや家族の反応は世界共通のようでした。しかし、それでも治療終了宣言は「原則としてする」のだそうです。そこに文化や信条の違いを感じました。 さらに、日本では医師から治療終了と言い渡された患者さんや家族が、時として法外な値段の民間療法に走るという問題があることを話すと、先の看護師さんたちは「ありえない!!」でした。 欧米にも、さまざまな代替・補完療法は存在します。しかし、合理的な費用で世界標準(ゴールドスタンダード)の治療が受けられる環境にありながら、エビデンスの乏しい超高額の民間療法に走る患者さんが存在するということは、オーストラリアやカナダの看護師さんには理解不能だったようです。 尊厳死も話題に! ウイーンの学会では、「Euthanasia」(尊厳死)をテーマとして掲げるセッションもありました。 がん治療の進歩はめざましいですが、それでも4割弱が5年以内に亡くなるという現実があります。 ですから、どのようにして最期を迎えるのかはサポーティブケアの重要なテーマのはずですが、日本では患者さんも医療者もなかなか「Euthanasia」(尊厳死)ということばを公の場では口にできません。それを規律する法律や倫理基準も整備されていません。 日本の現状に照らすと、1000人以上が参加する大きな学会で「Euthanasia」が堂々と議論されていることは衝撃を受けました。 治療終了宣言といい、尊厳死といい、日本では話題にすることがタブーに近いテーマにについても、活発な議論が繰り広げられていました。 ヘソ下問題もあけっぴろげに議論 大腸がんや、婦人科、泌尿器科などのがんを治療すると、「Below the waist」(仮にヘソ下とします)に排泄や性生活といったさまざまな問題が生じますが、恥ずかしさから、なかなか相談しづらいもの。大塚さんも、「主治医はすばらしい人格者でしたが、相談しにくいことはありました」とのことです。 ところが、学会では女性医師が多くの参加者を前に「若い婦⼈科がん患者には、セックスアドバイザー(sexologistなど)をサポートメンバーとして加えるべき」と堂々と提案していたのです。 パキスタンの婦人科の女医も「私が積極的に悩み相談に乗っているわよ」と話していました。ノルウェーの看護師さんは、大腸がんの男性患者から「人工肛門が夜の楽しみの邪魔になるくらいなら、手術はしないでくれ」と懇願された話をしてくれました(結局、抗がん剤治療だけにしたそうです)。 たしかに、排泄や性生活の問題はQOL(生活の質)や人生設計を決める重要な要素です。ときには、離婚や家族の断絶につながることもあります。しかし、日本では個別対応はしていても、公の場で堂々と議論されるのというのはあまり聞きません。 「私も、気がついたら『ヘソ下問題』を議論していました。ただ、国際学会では英語で議論するのは平気なのですが、日本語で話すのは恥ずかしくて…」(大塚さん) 経済毒性「financial toxicity」? がん治療が患者さんに与える影響を議論するセッションで、「financial toxicity」という言葉が使われていたのにもショックを受けたそうです。 「financial toxicity」とは、直訳すると「経済毒性」。患者さんの経済的な負担が大きいことを意味します。たしかに、がんを治療すると経済的な負担がのしかかってきますが、それにしても「toxicity=毒性」はきつい表現です。 それまで聞いたことがなかったので、発表者の造語だと思っていたのですが、検索してみたら何とNational Cancer Institute(米国立がん研究所)のサイトに用語の定義が掲載されていました。 「financial toxicity」という⾔葉に対して⼤塚さんは、 「⽇本でも、がんを治療すると少なからぬ経済的負担が⽣じますが、国⺠皆保険制度に加えて⾼額療養費限度額などの制度のおかげで、医療機関への⽀払いは『毒性』を⽤いるほどではありません。ありがたいことです」 頭のてっぺんから足の先まで医療も生活もトータルサポート ⼤塚さんは、2018年の国際がんサポーティブケア学会を楽しんだようですが、実は最初は参加をためらっていたとか。 「実は、学会のホームページに参加資格のなかに『患者』という項目が無かったのです。『Others(その他)』として申込みましたが、会場入り口で追い返されないか、少々不安でした」 では、会場で医療資格がないことで、嫌な思いをしなかったのでしょうか? 「まったく逆でした。世界中の医師・看護師・薬剤師など医療者のかたは、歓迎してくださいました。こちらには「実体験」という武器(?)がありましたからね、むしろ質問攻めにあったほどです」 最後に、患者さん、経験者(サバイバー)さんに向けてメッセージです。 大塚さんのメッセージ:がん経験者(サバイバー)も積極的に参加してみては? 治療はCure、Control、Comfortのバランスが重要なことや、副作用対策、議論のテーマにタブーがないことなど、日本と海外の違いばかり述べましたが、もちろん共通点もたくさんありました。それに、各国の参加者の意見を聞くと、日本の医療の良い面を再認識できました。 なにより、世界中の医療者・研究者が、がん治療に伴う諸問題を、医療だけでなく、生活・経済・メンタル・人生観などあらゆる面にわたってトータルでサポートしようと努力していることがわかり、たいへん心強かったです。 サバイバーのかたは時間がとれれば、学会に参加することをおすすめします。多くのかたの努力に勇気づけられますよ! 2019年は、国際がんサポーティブケア学会が6月21~23日に米・サンフランシスコで、国内の日本がんサポーティブケア学会は9月6・7日に青森で開催されます。 大塚美絵子さん 2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫対策などの弾性ストッキングなどを販売するお店をしています。 がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。 大塚さんのお店やブログ ■参考記事 がんの意識は日本と海外で違う!がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(1) がん副作用対策、海外に学ぶ がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(2) 「こんなはずじゃなかった」、がんサバイバーが直面する社会復帰の壁 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 公開日:2018/12/28
卵巣がん経験者の大塚美絵子さんは、2018年6月にオーストリア・ウィーンで開催された国際がんサポーティブケア学会に参加しました。学会を振り返って、副作用に対する取組み姿勢に日本と海外の大きな違いを感じたといいます。 目次 治療に付随するさまざまな問題をいかに解決するか 吐き気・嘔吐対策 薬を使いたくても使えないお国事情 倦怠感や慢性的な栄養不良状態の対策としてのサポートに積極的 長く生きるがんサポーティブケアのための3C〔Cure(治療)、Control(状況のコントロール)、Comfort(生活の質の維持)〕 治療に付随するさまざまな問題をいかに解決するか 国際がんサポーティブケア学会は、名称からもわかるとおり「治療」そのものではなく「治療に付随するさまざまな問題をいかに解決するか」を議論する学会でした。 多様な議題のなかで、3C(Cure:治療、Control:コントロール、Comfort:生活の質)のバランス重視や、患者さん以外へのフォロー体制と並んで、副作用対策も⽇本と海外との顕著な違いを感じたそうです。 というのも、日本では医者への遠慮などからがまんするようなものでも、国際学会では「解決すべき課題」として積極的に取りあげ、対策について活発に議論していたからです。 以下が主として取りあげられた副作用です。 吐き気・嘔吐 末梢神経障害(ニューロパチー) 認知機能低下(いわゆるケモ・ブレイン) 倦怠感 栄養不良の状態(悪液質) 吐き気・嘔吐対策 吐き気・嘔吐について活発に議論されていたことは意外だったそうです。なぜなら、大塚さんが治療を受けた頃は、ちょうど制吐剤のイメンド(⼀般名:アプレピタント)が普及して効果をあげており、「吐き気の問題は、ほぼ克服された」という空気が日本の医療者の間で広がっていたからです。 では「何をいまさら」と思ったのでしょうか?むしろその逆だといいます。 「実は私、ひどい吐き気に悩まされていたのです。先生もいろいろ考えてくださいましたが、何をやっても効果がなく、お手あげでした」 「それでも、何かあるはずとネット検索しましたが、『イメンドの登場で副作用の吐き気はほぼ克服された』といった情報しか出てこなかったのです」 そこで、患者会で相談したところ、確かにほかの患者さんの症状は大塚さんよりは軽かったものの、薬が切れる治療後3日目(イメンドは治療当日から3日間服用)はつらかったという体験談が多く聞かれました。しかし、多くの患者さんは「病院へ行くのもつらいから、水が飲めるうちはひたすら耐える」と話していました。 抗がん剤治療は日帰りや一泊入院が主流になっているので、「制吐剤の進歩は確かだけれども、治療後3日目の吐き気のひどさは医療者に見えにくくなっているのでは」と感じたといいます。 その後はイメンドに続いて、新しい制吐剤のジプレキサ(⼀般名:オランザピン)も登場しました。そのため今回の学会では、オランザピンに関して、どの抗がん剤との相性がいいのか、ほかの制吐剤との組み合わせで効果があるのかに関する発表が多くありました。 「私のようにイメンドで効果がない患者でも、次の⼀⼿があることがわかりました。何より、吐き気について研究が継続していることに希望が持てました」とのことです。 薬を使いたくても使えないお国事情 また、オランザピンに関しては気の毒な発表がありました。セルビアの医療関係者からの現状報告だったのですが、「国の財政事情のため、承認がおりていない。当然、保険適用にもならない。そのため、大半の患者さんには服用してもらえない」との話でした。 大塚さんは、「どの国に生まれるかによって、受けられる治療に違いがあるのはわかりますが、報告者のやりきれぬ思いがひしひしと伝わってきて何とも複雑でした」と振り返っていました。 倦怠感や慢性的な栄養不良状態の対策としてのサポートに積極的 倦怠感というのは表現が難しいうえ、原因が貧血なのか、食欲不振なのか、ただの加齢なのか、はっきりしないので、患者さんの多くは倦怠感を副作用として医療者に訴えるのを躊躇(ちゅうちょ)するようです。大塚さんも、「私は“もの言う患者”でしたが、倦怠感だけはがまんしてしまいました!」と言います。 ところが、国際学会では、倦怠感も抗がん剤の副作用として明示的にとりあげられていました。各国の医療者は倦怠感をはかるための指標や、倦怠感を軽減するためのサポート法を発表していました。 栄養不良の状態(悪液質)に関しては、筋肉及び脂肪組織の喪失による著しい体重減少が特徴で、進⾏がんの患者さんに発現する症状と説明されてきました。しかし、今回の学会では、「悪液質はもっと早い段階から始まっており、早期に対処すれば症状緩和が可能ではないか」というセッションがありました。 静岡県⽴がんセンターの研究者も登壇し、高齢の進行非小細胞肺がん患者さんや膵がん患者さんを対象に、早期から栄養・運動介入の有用性を検証した報告を行いました。 長く生きるがんサポーティブケアのための3C〔Cure(治療)、Control(状況のコントロール)、Comfort(生活の質の維持)〕 国際学会を振り返って、大塚さんは言います。 サポーティブケアは、がんの治療という本来の目的を妨げることはできません。しかし、良いサポーティブケアが受けられないと、がんの治療も完遂できないというジレンマがあります。そして、このジレンマ克服のための微妙な「さじ加減」が、「Cure(治療)、Control(状況のコントロール)、Comfort(生活の質の維持)からなる3Cのバランスをとる」ということにほかなりません。国際がんサポーティブケア学会では世界中の医療者が集まって、いかにして3Cをうまくバランスさせるかについて熱心に議論していました。これには感謝・感動いたしました。 しかし、3Cのバランスは医療者が一方的に決めるものではなく、患者自身が何を望むかによって変わってくるものです。 ですから、がん患者さんの側も、自分が治療にあたって何を望んでいるかを、⽇々の⽣活の悩みも含めて、明確に医療関係者に伝えるべきであると思います。 患者と医療者が治療の目標について緊密にコミュニケーションをとることが、より満足度の高い医療の実現につながるのではないでしょうか。 次回は、がんの話題にタブーがない海外をテーマに、民間療法に対する考え方、夫婦関係や恋人関係が破綻しないためのチーム医療などについて紹介します。 大塚美絵子さん 2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫対策などの弾性ストッキングなどを販売するお店をしています。 がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。 大塚さんのお店やブログ ■参考記事 がんの意識は日本と海外で違う!がん経験者が国際学会で受けた衝撃とは(1) 「こんなはずじゃなかった」、がんサバイバーが直面する社会復帰の壁 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 公開日:2018/12/19
卵巣がん経験者(サバイバーともいいます)の大塚美絵子さんは、海外の国際学会に参加してきました。日本と海外では病気や治療、サポートに対する意識の違いに衝撃を受けたとのことです。学会印象記を紹介します。 目次 治療に付随するさまざまな問題をいかに解決するか Cure、Control、Comfortの「3C」が重要 卵巣がん患者が命をのばすための治療に積極的な理由とは 患者さんが今後の人生を考えられるような社会環境が重要 治療に付随するさまざまな問題をいかに解決するか 大塚さんは、2018年6月にオーストリア・ウィーンで開催された国際がんサポーティブケア学会に参加しました。さまざまながんに関する話題は目からウロコの話でした。なかでも、日本と海外との意識の違いに衝撃を受けたとのことです。おもに以下です。 治療の目的は「治す(Cure)」だけではない! 副作用対策やケアの面で、倦怠感や痺れも重要視 支援する対象は患者さんだけでなく、サバイバーのご家族やご遺族、支援者(ケアギバー)への意識が高い 今回は、「治療の目的は『治す(Cure)』だけではない!」をテーマに、大塚さんが数年前に卵巣がん治療を受けた経験を振り返ってもらったうえで話を聞きました。 Cure、Control、Comfortの「3C」が重要 大塚さんはアメリカの研究者が強調していた「がんの治療はCureだけではなく、『3C』のバランスが重要だ」という話が印象に残ったとのことです。 3Cとは… Cure=治療(化学療法などにより積極的にがん細胞を叩くこと) Control=コントロールする Comfort=心地よさ(QOLを維持する、快適にすごすこと) 大塚さんは、数年前に受けた卵巣がんの治療は大変満足いくもので、医療者への感謝の念は今も変わらないと言います。 なぜなら、治療中は本人は「Cure」しか頭になかったのですが、医師や看護師が患者本人の希望や人生観をうまく聞きだして、ControlやComfortにも十分配慮してくれたからです。 しかし、治療後には脚の浮腫や、ひどい倦怠感といった予想もしなかった後遺症に悩まされました。また、セミナーやイベントで、副作用や後遺症のControlがうまくいかず、また、それを医療者にうまく伝えられずに苦しむ患者さんをたくさん見ました。 そういう経験から、今後は患者自身も「どういう状態を望むのか」を主体的に考えて医療者に伝えなければならないと痛感しました。その際に重要な指標になるのが、「Cure」「Control」「Comfort」の3要素のバランスであると思いました。 卵巣がん患者が命をのばすための治療に積極的な理由とは 卵巣がんについては、ドイツの婦人科医師が「卵巣がん患者さんの調査結果では、多くの患者さんは維持療法としての化学療法を受けることに積極的」と発表した講演がありました。 大塚さんによると、治療として化学療法を受けた経験からは、再発したら治療を受けるかどうか迷うとのことです。失ったComfortも少なくないからです。 大塚さんにとっては、維持療法は治すための治療というよりも延命目的の治療ですので、「積極的」という話は意外だったのです。そこで、「患者さんは維持療法に積極的というのは、死亡率が高いことと関係しているのでしょうか?」と質問しました。医師の回答は以下でした。 「Cure(治す)ではなく、maintain(維持)の治療を受けたい」という積極性は意外だった 化学療法に積極的なのは、やはり死亡率の高さと関係していると推測される 多くの卵巣がん患者さんは、状況の厳しさをよく自覚している 「状況の厳しさ」というのは、卵巣がんは再発の可能性が高い病気ですので、多くの患者さんは病気と闘う一方で、「3C」のバランスを主体的に考えて、病気とともに生きていく意識も高いという社会の環境ができていることが考えられます。 患者さんが今後の人生を考えられるような社会環境が重要 会場で、イギリス人と治療を終えてから社会に戻るまでの話をしていたら、「治療後完全復帰前専門のクリニック」をロンドンで開業している看護師さんを紹介されました(日本では認められていません)。 大塚さんは、「これまで受けてきたサポートは満足いくものでした。今回、国際学会に参加して、Cure、Control、Comfortの3Cのバランスをもとに治療後のことも考えたサポートがあらためて重要だと感じました。さらに、満足した人生を送ることができるからです」と振り返っていました。 次回は、がんサポーティブケアのための副作用対策に関する話題について紹介します。 大塚美絵子さん 2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫対策などの弾性ストッキングなどを販売するお店をしています。 がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。 大塚さんのお店やブログ ■参考記事 「こんなはずじゃなかった」、がんサバイバーが直面する社会復帰の壁 子育てと親の介護をする「はざま世代」に「がん」が加わったら? 公開日:2018/12/17
患者さんを支える患者会、支援団体 目や鼻、耳、口、喉、顎などに発症するがんのなかには、体内で分泌のはたらきをする腺という器官に発生するがんがいくつかありますが、そのひとつに「腺様嚢胞がん(せんようのうほうがん)」という病気があります。顔に発症するため手術により容姿が変わることもあり「この先、どうしたらいいのか」と悩むことがあります。珍しいがんなので患者数が少なく情報が乏しいことが問題です。そこで、患者さんや家族がチーム(仲間)として支えあう「TEAM ACC」が2016年に設立しました。 目次 顔から首にかけて発症するケースが多い 同じ境遇にある仲間がチームとなって共に生きていく! 患者会情報 顔から首にかけて発症するケースが多い 腺様嚢胞がんは、唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)や鼻副鼻腔、口腔の硬口蓋や舌、上咽頭、中咽頭、喉頭、気管などに発症すると言われています。顔から首にかけては専門用語で頭頸部というので、腺様嚢胞がんの多くは頭頸部がんに区分されます。 体内で分泌のはたらきをする腺という器官にがんが発生しますので、乳がん(乳腺)患者さんの中にも腺様嚢胞がんと診断される方がいます。 英語名がAdenoid Cystic Carcinomaということから、略語のACCの前に発症した体の部位をつけて耳下腺ACC、舌下腺ACCなどと呼ばれています。 同じ境遇にある仲間がチームとなって共に生きていく! この病気は進行が緩やかですが、抗がん剤が効きにくいことや、ほかの臓器(特に肺や骨)に転移する可能性が高いことが問題です。 口や喉などに手術や放射線治療が行われると、治療後は食べることや飲みこむことの機能が著しく低下する場合や、外見的にも容姿(アピアランスといいます)のバランスが変わることがあります。 さらに、まれな病気で情報が少なく、ネットで検索しても詳しい情報がないため病気と闘うことや生きていくことがますますつらくなることが問題です。 そこで、同じ境遇の方(ACC)や家族などがチーム(TEAM)となって交流を深めてもらい、ともに希望と勇気を持って生きていくことを目的にTEAM ACCが2016年に設立されました。 チームリーダーの耳下腺ACC経験者のハマさんによると、会員登録する必要はなく、交流会のTEAM ACC CAFEではACCに関わりある人は、誰もがTEAM ACCのメンバーとして自由に参加できるようにしているそうです。 患者さんの体験記については、下記のサイトで自由に閲覧できるようにしています。 患者会情報 患者会名:TEAM ACC ホームページ:https://team-acc.amebaownd.com/ 連絡先:team.acc.hama@gmail.com 2019年のTEAM ACC CAFE開催予定 春と秋に東京都にて開催。詳細は「TEAM ACC」のホームページをご覧ください。 お勧めの書籍・冊子など TEAM ACC GUIDE BOOK(2018年10月に発行/希望者に配布=詳細はホームページをご覧ください。) 公開日:2018/12/12
がん細胞は正常細胞の何倍もブドウ糖を取りこみます。グルコース(ブドウ糖)代謝が活発になるのです。最近報告された動物実験の研究により、一部のがんのマウスモデルにマンノースを食べさせるとグルコース代謝を抑えて、がん細胞の活動を弱める可能性があるとの知見が得られました。NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ)で、代表理事の西川伸一先生が「論文ウォッチ~生命科学の今」のコラム欄で解説しています。 目次 一部のがんでは動物実験で抗がん剤の効果を強める がん治療の補助剤として臨床試験で詳細に検討したうえでの開発が待たれます 一部のがんでは動物実験で抗がん剤の効果を強める 炭水化物とは糖質のことです。糖質の基本単位は単糖類で、グルコース(ブドウ糖)、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどがあります。 今回、Natureオンライン版に掲載された動物実験の研究結果から、マンノースががん細胞の増殖を抑制して化学療法の効果を促進させるはたらきを持つ可能性が報告されました(記事原文「Mannose impairs tumour growth and enhances chemotherapy」)。西川先生によると、がん細胞はグルコース代謝が正常細胞より活発になっているので、逆にがんのアキレス腱としてグルコース代謝を抑制すること治療に応用するがん代謝研究が進められているとのことです。 最近、Natureに掲載された動物実験の研究によると、グルコースと同じ単糖類のなかでグルコース代謝を抑制できるものについて実験を行った結果、一部のがんでは体内でマンノースのはたらきによりグルコース代謝が抑制されることが明らかになりました。 さらに、試験管内でマンノースの効果が明らかにされたがんに関して、マウスのがん治療モデルにマンノースを食べさせる実験を行ったところ、がん細胞の増殖を抑えて化学療法の効果を高まる可能性と、直腸がんで効果が高い可能性がわかりました。 がん治療の補助剤として臨床試験で詳細に検討したうえでの開発が待たれます 今回の研究結果では、マウスにマンノースを食べさせることにより、一部のがんでは増殖を抑える可能性があるとの知見が得られました。 なお、マンノースは食品に含まれる成分ですが、微量ですし、食品を多く食べたところで効果があるかどうかについては明らかになっていません。 西川先生によると、マンノースという成分を用いて低コストかつ副作用が強くはない治療法の一環として開発されることは、がん代謝研究として興味ある知見との話です。 ただし根治ではなく、がん治療の補助剤となること、副作用は少ないといっても飲み続けることによってがんに対する免疫が弱くなる可能性があることに注意すべきとしています。臨床試験を通じて検証したうえで治療補助剤として開発することが望まれます。 詳細はこちら: 11月25日 マンノースを食べるとガンを弱体化できる(Natureオンライン版掲載論文) 公開日:2018/12/06
がん患者・経験者(サバイバー)、家族・友人、医療者などがその瞬間に感じた想いを、自分で撮影した写真とストーリーで伝えるオンライン写真展『がんフォト*がんストーリー』は2018年10月27日、ネットの空間を飛び超えて青空の下で人々がリアルに触れあい、想いを共有してもらうためにイベントを開催しました。 目次 写真とエピソードはがんとともに生きる希望や勇気のチカラになります 国立がん研究センター希少がんセンターに飾るタペストリーを参加者全員で制作 写真とエピソードはがんとともに生きる希望や勇気のチカラになります 『がんフォト*がんストーリー』では、がんに関わっている人々が投稿した写真とストーリーがウェブサイトの作品ギャラリーに掲載されてネット空間で交流が図られています(ホームページ:http://ganphotostory.wixsite.com/ganphoto)。 今回、写真展イベントが屋外で開催されました。場所は都内で路地裏に古民家が立ち並ぶ上野桜木というところです。当日は、夏を思わせるような強い日ざしがイベント会場に差し込むなか、写真の作品展、ワークショップ、そして交流会が開催されました。 写真1:イベントが開催された上野桜木あたり 提供:がんフォト*がんストーリー・木口マリさん 写真2:写真と心にひびく言葉の作品展 古民家の庭や屋内に撮影した人の想い(ストーリー)込められた写真が数多く掲載されていました(写真上)。 写真下は、木口マリさんが以前に治療を受けていたときに撮影したものです。 タイトル「人は人と歩く」です。撮影したときの想い(ストーリー)が掲載されています。 国立がん研究センター希少がんセンターに飾るタペストリーを参加者全員で制作 イベントでは、写真展のほか、ワークショップとしてヨガ、クレイクラフト、アロマ、お絵かきエコバッグ、団体代表の木口マリさんによるスマホ写真撮影講座などが催されました。 スマホ写真撮影講座に関しては、木口さんが治療中に見つけた楽しみでした。スマホを駆使してどのようにして楽しみを広げていくのかについて話していました。 写真3:ワークショップ「スマホ写真撮影講座」 提供:がんフォト*がんストーリー・木口マリさん また、国立がん研究センター希少がんセンターに飾るタペストリーを参加者全員で制作されました。タペストリーは文字しかなかったのですが、訪れた参加者が装飾して完成しました。 写真4:国立がん研究センター希少がんセンターで飾られるタペストリーの制作 タペストリー制作の様子です。制作しはじめたときには希少がんの文字だけでしたが(写真上)、参加者が貼り絵で装飾しました(写真下)。 完成したタペストリーは、国立がん研究センター希少がんセンターに寄贈されました。2018年11月7日に同センターで贈呈式が行われました。 写真5:タペストリーを国立がん研究センター希少がんセンターに贈呈(11月7日) がんフォト*がんストーリー代表の木口マリさんのコメント がんを経験したからこそ、感じることができる瞬間、見ることができる世界があります。がんに関わった人それぞれが感じた瞬間を撮影し、その瞬間に感じた想い(ストーリー)を共有してもらうことは、希望や勇気のチカラにつながると信じています。 いただいた作品の中にあるものは、いずれも「がんの辛さ」ではなく、人の強さやあたたかさに溢れています。 がんフォト*がんストーリーは、そんな想いが込められた写真作品をウェブサイトで展示しています。 今回、ネット空間を飛び越えて人と人が触れ合って交流を深めていただき、希望や勇気を分かち合ってもらえたら思い、青空の下でイベントを開催したのです。 がんに向き合っている人はもちろん、まだがんが身近でない人々も、がんをこれまでとは違う視点から見るきっかけになればと思っています。 木口マリさんのブログ「ハッピーな療養生活のススメ」 公開日:2018/11/28
がんの告知を受けたときに感じたこと、がんと共に生きていこうと決意したこと、がんを経験して新しく見つけた生きかたなどを、物語として作品で表現してみませんか?リリー・オンコロジー・オン・キャンバスでは、がんに関わる人それぞれの想いを表した絵画、写真、絵手紙を共有できる場として、コンテストとして作品を募集しています。 応募テーマは「がんと生きる、わたしの物語。」 「リリー・オンコロジー・オン・キャンバス」は、がんと告知された時の想いや、がんと共に生きていく決意、がんの経験でわかった自分らしい生き方などを絵画、写真、絵手紙で表現した作品のコンテストを毎年実施しています。作品コンテストは今回で9回目です。 応募テーマは「がんと生きる、わたしの物語。」です。国内在住の20歳以上でがん患者さんやがん経験者のかた、家族や友人のかたも応募できます。 絵画部門、写真部門、絵手紙部門があります。応募に関しては、作品を送る前に応募の登録の手続きがまず必要になります。応募登録の締め切りは2019年1月31日(当日消印有効)、作品の受付期間は2019年1月7日~2月21日です。 各部門で作品ならびに想い(エピソード)を応募すると、審査委員会の選考をへて、各部門で最優秀賞、優秀賞、ウェブによる一般投票賞、入選数作品が選ばれます。 主催者側は、がんを経験したかたの想いがより多くの人に共有されることで、がんになっても自分らしく生きられる社会に一歩でも近づくことを願っています。 詳細は、リリー・オンコロジー・オン・キャンバスのウェブサイト(https://www.locj.jp/)とFacebookをご覧ください。 参考1:受賞作品(第1回~8回まで閲覧できます) 参考2:第8回受賞作品がジャパンキャンサーフォーラム2018で展示 がん患者さんが集まるジャパンキャンサーフォーラム2018で第8回の最優秀賞などが展示されました。 参考3:受賞されたかたのインタビュー動画(YouTube) 公開日:2018/11/15
がんの骨転移がおこると、骨折や麻痺になることがありますので注意しましょう。麻痺が進行すると下半身不随になる可能性があるので、麻痺の予兆を見逃さないことです。大阪国際がんセンターの田平芳子さんに麻痺の予兆チェックなどについて教えてもらいました。 目次 麻痺の予兆とは 自分のバランス能力知っておくべき、チェックシートを活用しよう 麻痺の予兆とは 麻痺に関しては、歩行困難になってから適切な治療を受けても動けなくなる可能性もあり、約4割のかたは歩けるまでは回復できないといわれています。大阪国際がんセンター緩和ケア認定看護師の田平芳子さんは、麻痺の予兆チェックポイントを3点あげています。 麻痺の予兆チェックポイント 背骨や腰まわりに痛みがある ■ポイント:初期症状はほとんどの場合は痛みです。わき腹や肩まわりの痛みにも注意しましょう。 足のしびれがある ■ポイント:足先からはじまり、全体に広がっていくことが多いのですが、個人差があります。 足のふらつき、歩きにくさが出てきた ■ポイント:救急車を呼ぶ必要はありませんが、麻痺のリスクが高まっています。一両日中に受診しましょう。 自分のバランス能力知っておくべき、チェックシートを活用しよう 田平さんは「バランス能力の低下、足のふらつき、歩きにくさがあれば、一両日中に受診、歩けない場合は緊急事態なので医療機関に連絡しましょう」と注意を促しています。 大阪国際がんセンターでは、バランス能力チェックシートで対処しています(図)。若い人から年配の方までチェックできるものです。 図:麻痺のリスクを把握するためのバランス能力チェックシート 提供:大阪国際がんセンター 田平さんは「日ごろからの注意点としては、麻痺の予兆が出たときの対処を主治医と相談しておくことと、自分のバランス能力を知っておくことです」としています。 骨転移で体が痛くて寝返りも打てなかった人が、がんロコモ対策や早期に治療に取り組むことで、座って口から食事をできるようになる、あるいは自分の足で歩いて好きなところへ行けるようになることもあります。がんロコモ対策として、自分の状態をチェックしてみましょう。 ■関連記事 がんになっても動ける体でいるために!がんロコモ対策(1) がん治療・入院前に筋力・体力をつけよう!がんロコモ対策(2) がんの骨転移で骨折や麻痺を予防するために!がんロコモ対策(3) がんの骨転移による麻痺の予兆をチェック!がんロコモ対策(4) 公開日:2018/11/07 監修:大阪国際がんセンター緩和ケア認定看護師 田平芳子さん
がんで怖いのは、突然の骨折、麻痺による下半身不随です。最近、がんで逝去された女優さんが亡くなられる1ヵ月前に骨折を起こしていました。骨折や麻痺のおもな原因は、がんの骨への転移です。体のどこにがんの骨転移が起こりやすいのか、麻痺の予兆とはどういうものかについて、大阪国際がんセンターの田平芳子さんに聞きました。 目次 知っておきたい「がん」骨転移 要介護になってしまうと回復することが難しい きっかけなく生じた痛み、週を追って悪化する痛みは骨折や麻痺の前兆 知っておきたい「がん」骨転移 がんを発症すると、骨に転移することがあります。骨転移により痛みや麻痺(しびれやふらつきなどです)を感じることがあり、ひどくなってくると、いきなり骨折がおきたり、麻痺によって下半身不随になってしまうこともあります。 大阪国際がんセンター緩和ケア認定看護師の田平芳子さんによると、骨転移がおこりやすいのは背骨と腰まわり、二の腕と太ももで、9割を占めるとのことです。 要介護になってしまうと回復することが難しい がんロコモになると、痛みや麻痺などにより歩きにくくなることをはじめ、日常生活に大きな支障をきたします。ときに、通院が困難になって治療を継続できなくなったり、要介護になったりするリスクが高まります。問題は、要介護になると回復することが難しいといわれていることです。 そこで、「がんロコモ」(がんとロコモティブシンドローム:運動器症候群)への対策を、早い段階から実施することが重要となります きっかけなく生じた痛み、週を追って悪化する痛みは骨折や麻痺の前兆 大阪国際がんセンターでは、骨転移による骨折や麻痺を予防するためのがんロコモ対策として、「こんな痛みに要注意」を以下に掲げています。 ■こんな痛みに要注意 違和感だったのものが痛みになってきた 動いたときの痛みが、じっとしていても痛く感じてきた 痛みの頻度が増してきた 痛みの強さが増してきた 「とくにきっかけなく生じてきた痛み」、「週を追って徐々に悪化する痛み」がポイントで、思い当たる原因もなく、悪化してきているかどうかが重要です。ガマンできるかどうかの判断ではありません(図)。 田平さんによると、放置すると骨折や麻痺の危険がありますが、この段階で慌てる必要はないといいます。医療機関に相談して早めに対処すれば、がんロコモを予防、ケアすることができ、最終的には治療費も安くなるとのことです。 図:骨転移が起こりやすい場所、骨折や麻痺を予防するための注意点 提供:大阪国際がんセンター TV動画(大阪MBS:2018年9月26日) ガンはチームで治す…骨転移治療に挑む整形外科医とリハビリのプロたち ■関連記事 がんになっても動ける体でいるために!がんロコモ対策(1) がん治療・入院前に筋力・体力をつけよう!がんロコモ対策(2) 公開日:2018/11/05 監修:大阪国際がんセンター緩和ケア認定看護師 田平芳子さん
「免疫療法を受けたい!」本庶祐先生のノーベル賞受賞以来、こんな相談が殺到しているそうですが、適用対象は限られているので断られる患者も少なくありません。すると、自由診療のクリニックに流れる患者さんもでてくるようです。しかし、そういった施設では免疫療法といってもオプジーボとはまったく異なる治療法や、効果が確認されていない民間療法などが多く行われています。「そういった民間療法を受ける前に一度この本を読んでほしい」と、進行卵巣がんからの生還者の大塚美絵子さんは訴えています。この本とは「打ちのめされるようなすごい本」です。 目次 「癌治療本を我が身を以て検証」、民間療法の実体験をリアルに紹介 コミュニケーション不足から(?)主治医に不信感 民間療法の実体験は『お笑いガン道場』なる本にまとめたいほど悲喜劇 民間療法には誰しも気持ちは揺らぐ 卵巣がんサバイバー・大塚美絵子さんに聞く 今は時代が違う、サポート体制をうまく利用しながら医療者と信頼関係を築いて 「癌治療本を我が身を以て検証」、民間療法の実体験をリアルに紹介 著者の米原万里さん(2006年没 享年56)は、同時通訳(ロシア語)のカリスマ、旧ソ連の最高指導者のゴルバチョフさんやエリツィンさんからも直接指名がかかるほどでした。さらに翻訳、エッセイ、テレビコメンテータなど、多方面で活躍されました。 著書「打ちのめされるようなすごい本」では、「私の読書日記」の章に「癌治療本を我が身を以て検証」の欄が10数ページあり、がんと診断されてから、さまざまな民間・代替療法を渡り歩いた状況がリアルに記されています。 コミュニケーション不足から(?)主治医に不信感 米原さんは、2003年に卵巣嚢腫と診断されました。病巣摘出手術後、腫瘍が悪性であったため、担当医は卵巣の残りの部分、子宮、リンパ節などすべて摘出する2度目の手術と、抗がん剤治療を提案しました。 説明に納得できずセカンドオピニオンを希望したところ担当医は診療情報の提供を拒否、不信感を抱いた米原さんはその医師のもとを離れました。次に訪ねた医師は、最初の医師と同じ治療(二度目の手術と抗がん剤治療)をすすめましたが、オプションとして経過観察なども話しました。 米原さんは、すぐに二度目の手術をすることや副作用への怖れから経過観察を選択。しかし、何もしないのも不安だったため、民間療法を徹底的に調べました。 民間療法の実体験は『お笑いガン道場』なる本にまとめたいほど悲喜劇 米原さんは、調べるだけでなく「これは!」と思った療法は、実際にその治療を行っている施設に出向きました。しかし、言われた通りにすんなり施術を受けたりはしません。そこでも同時通訳者ならではの「調査魔」ぶりを発揮し、質問攻めにします。 あるクリニックで、「治療の効果でがん細胞が死滅する様子」というビデオを見せられ、体内の様子を映したものかと質問、するとシャーレの中での現象だという答えが返ってきました(実はシャーレの中では、砂糖水でもがん細胞は死滅するそうです)。 その他、治療法や論文の詳しい説明を求めると、「迷惑だ、帰ってくれ」と追い出されたこともあったそうです。 また、非常に高価な割には見るからに貧相なサプリを押しつけられたりもしています。それでもめげずに目をつけた民間療法を次々と試してみましたが、効果のある療法は見つかりませんでした。 最終的に「私が試した範囲でいえば」という限定つきですが「お金と時間の無駄でしかなかった」とバッサリ斬り捨てています。「効く人もいるだろうが、わたしには逆効果だった」という記載もありました。 結局、がんはリンパ節に転移・再発してしまい、最終的には三大治療のひとつ、抗がん剤治療を受けましたが時すでに遅し!下記は治療後の日記です。 「…身を以って、本が提案する治療法を検証してきたとも言える。結果的に、抗癌剤治療を受けざるを得なくなったその経緯は、万が一、私に体力気力が戻ったなら、『お笑いガン道場』なる本にまとめてみたいと思うほどに悲喜劇に満ちていた」 出典:米原万里「打ちのめされるようなすごい本」文藝春秋社 民間療法には誰しも気持ちは揺らぐ 卵巣がんサバイバー・大塚美絵子さんに聞く 「誰しも一度は民間療法を受けようと考えたり、知り合いから強く勧められた経験があると思います」と卵巣がんサバイバー(経験者)の大塚美絵子さん(リンパレッツ代表)はいいます。 大塚さんは、「副作用が少ない」「体に優しいといった文言に心がひかれる、あるいはサプリをすすめた知り合いとの人間関係から気持ちが揺れるのは仕方のないことだと言います。 しかし、大塚さんの場合、民間療法は一切試さなかったそうです。その理由は何だったのでしょうか? 「一つには、米原さんの本を読んだことですね。ハイリスク・ローリターンでは手を出す気にはなれません。そして、もう一つは-これは大切なことですが-医療者とのコミュニケーションがうまくいったことだと思います」 今は時代が違う、サポート体制をうまく利用しながら医療者と信頼関係を築いて 「私の場合、幸いにして主治医が非常に話しやすい方でした。顔を合わせた日に『何でも説明しますよ』と約束、ことば通りいつも丁寧に説明してくださいました。標準治療という用語一つとっても『並という意味じゃないからね。“gold standard”(=金科玉条)という意味だからね』とわかりやすく解説。もし、その説明がなかったら“並”コースで大丈夫かな?と不安に思ったかもしれません」と大塚さん。 また、主治医が不在の場合などは、患者の疑問や不安には必ず他の誰か(他の医師や看護師)が答えるという態勢をとられていたそうです。 これに対し、米原さんの闘病は「がん対策基本法」成立前。医師が患者に十分な情報提供をせず、セカンドオピニオンの希望も聞き入れられず、そのことが問題視されなかったとしても不思議ではありません。 米原さんはこういった状況に不満・不安を感じ、民間・代替療法に活路を求めたのかもしれません。 また、米原さんを恐れさせ、苦しめた副作用に関しても、大塚さんは「今は対策が進化しています。特に吐き気止めの薬は、最近また新しい良いものが出ました。脱毛は防げませんが、カツラも帽子も選択肢の幅が広がっています。その他の不快症状に対してもサポーティブ(緩和)ケアの体制が充実しています。治療だけでなく、サポーティブケアについて集中的に議論するための学会が日本でも活動しています」とのことです。 米原さんが身を挺して敢行した壮大な実験を無にしない! 大塚さんのコメント とにかく、今は時代が違います。がん対策基本法施行の翌年にがん対策推進基本計画が策定され、患者支援がいろいろな分野で飛躍的に充実しています。 もし主治医が忙しいので丁寧な説明を受けることができない場合、看護師や相談支援室を頼るという方法あります。相談支援室は他の病院の支援室でも受け付けてくれます。また、良質な情報を提供しているサイトや、患者会、支援NPOなどもあります。 ですから、このようなサポート体制を利用しつつ、まずは主治医や看護師さんと信頼関係を築いてください。米原さんが身を挺して行った壮大な実験を無にしないようにしてほしいのです。 もし、治療法がどういうものかわからない場合や不安になった場合は、情報収集としては国立がん研究センターがん情報サービス:代替療法(健康食品やサプリメント)などを参考にしましょう。学会のサイトも参考になります。 大塚美絵子さん 2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫対策などの弾性ストッキングなどを販売するお店をしています。 がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。 大塚さんのお店やブログ 公開日:2018/11/1
がん患者さんが、体を動かすことが困難になる「がんロコモ」(がんとロコモティブシンドローム:運動器症候群)にならないために、治療を受ける前や入院する前に筋力や体力をつけておくことが重要です。大阪国際がんセンターのリハビリテーションプログラムを紹介します。 目次 がん治療により骨や関節、筋肉、神経などに障害、長期安静により体力低下 がん治療を受ける前、入院する前から筋力や体力をつける 治療を受ける前は副作用がない時点から筋力や体力をつけておく がん治療により骨や関節、筋肉、神経などに障害、長期安静により体力低下 大阪国際がんセンター緩和ケア認定看護師の田平芳子さんによると、がんロコモはがんが骨に転移するケースと、がん治療により骨や関節、筋肉、神経などに障害がおこる、長期安静により体力が低下するケースがあります。 がんの治療によって起こるがんロコモに関しては、以下の例があります。 乳がん患者さんで、手術を受けた側の腕が上がりにくい、動かしにくい(肩関節の可動域制限といいます) 頭頸部がん患者さんで、頸部リンパ節郭清を受けた後に、肩の疼痛や痺れ、肩凝りなどの症状がある 子宮がん患者さんで、化学療法や放射線療法、リンパ節郭清を受けた後に、太ももなどがむくむリンパ浮腫が起こる 膵臓がん患者さんで、化学療法を受け始めてから、手足が痺れて、手袋をしなければならないほど、指先が痛い 開胸手術や開腹手術で、安静状態が長いと、身体の機能が低下する廃用症候群(はいようしょうこうぐん)が起こる がん治療を受ける前、入院する前から筋力や体力をつける がん治療を受ける前、入院する前から運動をすることやリハビリテーションを受けることで、筋力や体力をつけ、治療後にスムーズに回復するためのがんロコモ対策があります。 大阪国際がんセンターのリハビリテーションプログラムには、全身持久力をつける運動、筋力・バランスを向上させる運動、効率のよい呼吸をする運動があります。 全身持久力として体力をつける運動 ウォーキング 階段の昇り下り(ひざが痛いかたは注意しましょう) ■ポイント:無理のない距離や運動時間からはじめて、いまより10分多く体を動かしましょう。 筋力・バランスを向上させる運動 筋力: スクワット:1セット5~6回を1日2~3セット かかと上げ:1セット10~20回を1日2~3セット バランス: 片脚立ち:左右1分間ずつ(休みながらで大丈夫です)を1日3回 ■ポイント:イスや机を持って、安全にできる範囲で無理しないようにしましょう。 提供:大阪国際がんセンター 効率よく呼吸をする運動 腹式呼吸: 息を吸うときはお腹を膨らませます。 息を吐くときはお腹を凹ませます。 ストレッチ : 首・肩のストレッチ、大胸筋のストレッチ、腰のストレッチ ■ポイント: 手術を予定している患者さんは首、肩、腰の筋肉をリラックスさせて呼吸しやすくしておきましょう。 腹式呼吸、ストレッチあわせて週5回、15分程度行いましょう。 ストレッチは痛くない範囲で呼吸をしながらすることが肝心です。 提供:大阪国際がんセンター 治療を受ける前は副作用がない時点から筋力や体力をつけておく がん治療を受ける前、入院する前から運動をすることやリハビリテーションを受けることにより、治療に伴う合併症の予防や軽減(合併症の影響が少ないことをいいます)につながり、治療後に回復しやすいことも期待できます。 田平さんは「治療を受ける前は副作用がないので、その時点から筋力や体力をつけておくことが重要です。治療を受けるがん患者さんや、入院する予定のがん患者さんは、その前からがんロコモ対策に取り組みましょう」としています。 ■関連記事 がんになっても動ける体でいるために!がんロコモ対策(1) 公開日:2018/10/22 監修:大阪国際がんセンター緩和ケア認定看護師 田平芳子さん
最近、がんで逝去された女優さんが亡くなる1ヵ月前に骨折を起こしていました。がんの骨転移やがんの治療で、立つことや歩くことすらままならない「がんロコモ」(がんとロコモティブシンドローム:運動器症候群)になることがあり、そのままにしておくと、骨折や下半身不随で一生寝たきりになる可能性がありますので、がんロコモ対策は重要です。 目次 がんロコモ対策が遅れると歩くことができなくなることも 原因がわかると問題が解決する場合も がんが骨に転移したのか、がん治療が原因なのか理解しよう がんロコモ対策が遅れると歩くことができなくなることも がんロコモは、がんそのもの、あるいはがん治療によって体を動かすことがつらくなることや、足腰が痛くなって動けなくなることをいいます。がんロコモの対策を早くしていないと、普段の生活がとても不自由になります。また、介護してもらう必要性もでてきます。 大阪国際がんセンター緩和ケア認定看護師の田平芳子さんは「動けなくなってからロコモ対策をしても、なかなか回復せずに要介護の状態になる可能性があります」と注意を促しています。リハビリテーションなどのがんロコモ対策に早く取り組むことで、楽に歩けるようになること、足腰が痛い悩みが解決できることもあるとのことです。 原因がわかると問題が解決する場合も がんロコモ対策では、動くことがつらい理由、足腰が痛い理由が、がんによるものなのか、あるいはがん以外によるものなのかを明らかにすることが重要になります。 例えば、がんの痛みと思ってあきらめていたのが、実は関節の病気だとわかって治療を受けたことで回復したケースや、足腰の痛みの原因が、実はがんの骨転移だとわかって、がんの治療とリハビリテーションによって痛みが軽くなったケースがあります。 がんが骨に転移したのか、がん治療が原因なのか理解しよう がんロコモは、がんが骨に転移するケース、がんの治療によって骨や関節、筋肉、神経などに障害がおこるケースがあります。以下をご参照ください。 ●骨に転移するがんロコモ: ・痛み、骨折、麻痺(しびれ)、ふらつき、歩きにくくなる ●治療によるがんロコモ: ・抗がん剤の副作用、手術や放射線治療により体を動かすことが困難になる ・長期間にわたる入院や安静のために筋力や体力が低下する(廃用症候群といいます) がんロコモ対策は、骨転移やがん治療、あるいはがんと関係のない病気や障害など、何が原因なのかを理解したうえで、より早く、適切な治療やリハビリテーションを受けること、自身の筋力や体力をつけることが重要です。 田平さんは「体を動かすのが困難だった患者さんが、適切な治療やリハビリテーションを受けて生活が一変したケースがあります。介護状態になる前の対策が重要です」としています。 公開日:2018/10/19 監修:大阪国際がんセンター緩和ケア認定看護師 田平芳子さん
血液がんの患者さんで造血幹細胞移植が必要なかたがいます。移植に対する社会の理解が深まること、総合的にサポートするために、ウェブサイトとして「造血幹細胞移植の総合支援プロジェクトStart to Be(スタート トゥ ビー)」が立ち上がりました。 目次 Start to Be(スタート トゥ ビー)プロジェクトが神奈川県で開始 患者さんとドナーとのマッチングが円滑にコーディネイトできるために 患者・家族、登録に興味を持っているドナー、若年者などに理解を深めてもらう Start to Be(スタート トゥ ビー)プロジェクトが神奈川県で開始 造血幹細胞移植医療は、社会の理解や協力、健康なドナーのかたからの造血幹細胞を提供してもらうことが不可欠です。血液がんの患者さんのなかには、健康なドナーから提供してもらわないと命をつなぐことのできない患者さんがいます。 そこで、認定NPO法人キャンサーネットジャパンは、かながわボランタリー活動推進基金21の支援を受け、神奈川県がん・疾病対策課との協働事業として、「造血幹細胞移植の総合支援プロジェクトStart to Be(スタート トゥ ビー)」(www.start2be.org)を2018年4月より開始しました。 患者さんとドナーとのマッチングが円滑にコーディネイトできるために 造血幹細胞移植は、ドナーに関しては特に若年層の登録者を増やすことが課題となっています。また、移植を待つ患者と条件がマッチしてコーディネイトを開始しても、実際に提供に至る率が低いことも課題です。 その理由は、健康以外の問題が65%にのぼり、その主な理由は職場の理解が得られず仕事を休めないなどの「都合がつかない」というものです。患者さんが移植するチャンス、ドナーが提供する意思があるのにもったいないことです。 逆に言うと、患者さんやドナーの人にも適切な情報を届けることができれば、移植の実施率が向上することも考えられます。 ドナーのかたから骨髄を提供してもらい、患者さんや家族が安心して治療を受けてもらえる仕組みが円滑に進められるよう、社会の理解が深まってもらいたいところです。 患者・家族、登録に興味を持っているドナー、若年者などに理解を深めてもらう このような状況を改善していくために、プロジェクトでは特に若年層をターゲットにスマートフォンを中心とした参加型プラットホームを構築し広げていくためのウェブサイト「START TO BE」(www.start2be.org)を開設しています。 ウェブサイトでは、造血幹細胞移植に関わる患者・家族、登録に興味を持っているドナー、支援者などに広く理解を深めてもらうために、造血幹細胞移植コーディネーター(HCTC)・骨髄バンクコーディネーター・患者・ドナー・医療従事者などさまざまな視点による記事コンテンツを配信されます。 公開日:2018/09/18
がん患者さんや家族のかたなどが、病気や診断、治療に関する最新かつ正しい知識を持ってもらうこと、交流を深めてもらうために、ジャパンキャンサーフォーラム2018が、猛暑に見舞われた8月11・12日に国立がん研究センターで開催されました。 目次 「みんなで知ろう!がんのこと」 がんゲノム医療が2019年から本格的に動きだしますがんゲノム医療が2019年から本格的に動きだします 患者会や支援団体、企業など50以上の団体がブースを出展 「がんを克服したい」と思える場にしたい 「みんなで知ろう!がんのこと」 がん患者さんやがん経験者のかた、家族のかたなどが病気や最新の治療について学ぶことができ、交流を深めることができるジャパンキャンサーフォーラム(主催・運営:認定NPO法人キャンサーネットジャパン)が2014年から開催されています。 ジャパンキャンサーフォーラム2018は、「みんなで知ろう!がんのこと」をテーマに2018年8月に開催されました。 写真1:ジャパンキャンサーフォーラム2018の会場 ジャパンキャンサーフォーラム2018の参加者は2日間で3,000人以上。講演会場と展示ブースは連日にわたり参加者でぎっしり(写真左)。参加者にはシリコンバンドが配布されました(写真右)。 がんゲノム医療が2019年から本格的に動きだします ジャパンキャンサーフォーラム2018では、乳がんや肺がん、多発性骨髄腫やリンパ腫などの血液がん、希少がんといった病気や治療の最新情報や、食事や栄養、生殖機能(妊よう性)、暮らしの支援に関する情報などに関して、各領域を専門とする医療従事者による講演、がん経験者が体験談を語り合うセッションなど50以上のテーマでプログラムが開催されていました。 注目された講演「これから始まるがんゲノム医療 *」では、がんゲノム医療の中核となる拠点病院を全国に設置して、国立がん研究センター「がんゲノム情報管理センター」でデータを集めて、新しい薬や治療法を開発していくための取り組みが紹介されました。 講演のなかで、2019年から保険診療として、がんのゲノム医療を提供できることを目指すとの話もありました。 *がんは遺伝子が変異することによって作られたタンパク質の機能が異常になることによって発症します。そこで、原因となる遺伝子を見つけて、個人に最適な治療法や予防法を提供するためのゲノム医療が注目されています。 写真2:講演の様子 講演「これから始まるがんゲノム医療」(8月12日)の会場は超満員。ゲノム医療への関心の高さがうかがえました。 患者会や支援団体、企業など50以上の団体がブースを出展 ジャパンキャンサーフォーラム2018では、患者会、患者支援団体、企業など50以上の団体がブースを出展していました。がん経験者さんがメイクアップして写真を撮影するイベントや、健康相談や就労、暮らしの相談コーナーなどもありました。 写真3:患者会のブース 頭頸部がん患者と家族の会 Nicotto(ニコット)のブース。参加されたかたに、体調や仕事、制度、お金、人間関係などに関して、いま思っていること、考えていることを付せんに書いてもらい、掲示していました。 写真4:メイクアップと写真撮影のイベント 「がんになっても自分らしくイキイキと笑顔で暮らします」をモットーに、資生堂と電通のプロジェクトチーム「LAVENDER RING MAKEUP&PHOTOS WITH SMILES」がブースを出展。がん経験者さんがメイクアップとヘアメイクをしてカメラマンに撮影され、その場でポスターが制作されて本人に手渡されていました。会場では、ポスターが展示されていました。 写真5:「がんロコモ」のブース がんに関わる運動器症候群「がんロコモ」をチェックできるブース。大阪国際がんセンターが出展していました。 写真6:がん経験者によるインタビュー生放送番組「がんノート」 がんノート代表のキシリトールさん(写真左)が過去のゲストを招いて「その後どうしてる?」をテーマにインタビューする公開生放送番組が開催されました。また、キシリトールさんは会場で歴代ゲストや通りがかりのかたに突撃インタビューを敢行して生放送で配信していました。 「がんを克服したい」と思える場にしたい ジャパンキャンサーフォーラムは、2014年から毎年開催して今年(2018年)で5年目になります。 主催・運営の 認定NPO法人キャンサーネットジャパンによると、がんという病気や医療の最前線を「知る」、「学ぶ」だけでなく、「集う」ことで交流を深めることにより、患者さんや家族のかたなどが勇気・希望を持てる場、がんを克服していきたいと思える場にしたいとの願いが込めて、これからも継続して実施する予定とのことです。 ジャパンキャンサーフォーラム2018のウェブサイト ジャパンキャンサーフォーラム2018の展示ブース* *展示ブースで患者会や支援団体が主催しているイベント、セミナーの情報はこちら がん患者さんに役立つイベント・セミナー(2018年9月~11月) 公開日:2018/09/11
がん患者会や支援団体の主催で9月16日~11月に予定しているイベントやセミナーを紹介します。血液がんのセミナーや女性がん検診の啓発イベント、がん経験者による音楽ライブや写真展、リレー(走る)イベントなど、さまざまな催しがあります(2018年8月11~12日開催のジャパンキャンサーフォーラムをもとに本記事を作成しました)。 目次 2018年9月16日:「今、ドナーに希望を求めて~あなたの勇気が命を救う~」(神奈川) 2018年9月30日:ピンクリボンフェスティバル2018「なかまcafé♪」 2018年10月20日:がん経験者の音楽ライブ「第6回ドヤフェス」(東京) 2018年10月21日:第11回ピンクリボン大阪2017女性がんの検診啓発~ピンクリボンまつりin大阪~ 2018年10月27日:がんフォト*がんストーリー(東京都) 血液がんのセミナー:2018年10月20日(東京)、10月27日(神戸)、11月17日(名古屋) 2018年11月18日:東京血液がんフォーラム リレー・フォー・ライフ 2018年9月16日:「今、ドナーに希望を求めて~あなたの勇気が命を救う~」(神奈川) 白血病など正常な血液をつくることができない病気は、造血幹細胞移植(骨髄移植・末梢血幹細胞移植・さい帯血移植)によって多くの命が救われています。 そこで、骨髄や末梢血幹細胞を提供するボランティアドナーの重要性を知ってもらうために、神奈川県骨髄移植を考える会の主催でセミナー今、ドナーに希望を求めて~あなたの勇気が命を救う~」は、2018年9月16日に神奈川県で開催されます。 セミナーでは、骨髄移植の最新情報から今後の課題についての医療講演と、骨髄移植を経験した人と骨髄提供を経験した人が語り合うシンポジウムが予定されています。シンポジウムでは、俳優でみずからドナー経験がある木下ほうか氏も登壇する予定です。 詳細はこちら:神奈川骨髄移植を考える会 2018年9月30日:ピンクリボンフェスティバル2018「なかまcafé♪」 乳がんで治療中のかたや、経験者のかた、サポートしている家族や友達のかたなど、ピンクリボンで結ばれた「なかま」が集う憩い場所として、ピンクリボンフェスティバル2018「なかまcafé♪」が2018年9月30日に開催されます。役に立つブースが多く出展され、ミニセミナーも予定されています。 詳細はこちら:ピンクリボンフェスティバル2018 2018年10月20日:がん経験者の音楽ライブ「第6回ドヤフェス」(東京) がん患者さんと、これからがんになる(かもしれない)人に向けて、がんになっても夢を持ってあきらめずに元気に楽しく生きていることを伝えるための音楽ライブのイベント「第6回ドヤフェス」が2018年10月20日に東京都八王子市のMatchVoxで開催されます。 詳細はこちら:ドヤフェス 2018年10月21日:第11回ピンクリボン大阪2018女性がんの検診啓発~ピンクリボンまつりin大阪~ 乳がんや子宮頸がんなど、女性に特有のがんの検診を啓発するために、「第11回ピンクリボン大阪2018女性がんの検診啓発~ピンクリボンまつりin大阪~」(主催:ピンクリボン大阪)が、2018年10月21日に大阪府泉佐野市のりんくうタウン駅周辺で開催されます。 お問い合わせ:特定非営利法人 ピンクリボン大阪 2018年10月27日:がんフォト*がんストーリー(東京都) 「がんになっても人生は楽しめる!」をモットーに、がんと向き合う中で見つけた‘心温まる瞬間’、そこに生きるひとの想いを表した写真と、そのときに感じたストーリーをWebサイトで公開している「がんフォト*がんストーリー」が開催するイベントが、2018年10月27日に東京都台東区の上野桜木坂あたりで開催されます。 当日のイベント中に、国立がん研究センター希少がんセンターに飾るタペストリーを制作する予定です。 詳細はこちら:がんフォト*がんストーリー 血液がんのセミナー:2018年10月20日(東京)、10月27日(神戸)、11月17日(名古屋) 血液がんの白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、がん以外の再生不良性貧血や特発性血小板減少性紫斑病などの病気や治療に関するセミナー(主催は血液情報広場・つばさ)が開催されます。 急性骨髄性白血病や慢性リンパ性白血病の最新治療に関する講演や、がん経験者による講演などが企画されているセミナーは、2018年10月20日に東京都中央区のフクラシア八重洲で開催されます。 また、白血病や骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、リンパ腫といったさまざまな血液がんに関する公園やQ&Aなどが企画されているセミナーは兵庫県神戸市と愛知県名古屋市(2018年10月27日に兵庫医療大学講義室、11月17日に名古屋第一赤十字病院内ヶ島講堂)で、それぞれ開催されます。 詳細はこちら:特定非営利法人 血液情報広場・つばさ 2018年11月18日:東京血液がんフォーラム リンパ腫などの血液のがんに対する治療は進歩しています。患者さんに適切な情報を届けて、納得してもらったうえで治療を受けることが大切です。そこで、患者会のグループ・ネクサス・ジャパン、国立がん研究センター中央病院、同センター希少がんセンターの共催で、「東京血液がんフォーラム」が、2018年11月18日に国立がん研究センターにて開催されます。セミナーでは、リンパ腫の病気や新しい治療薬、放射線治療、在宅医療などに関する講演が予定されています(事前申し込みが必要です)。 詳細はこちら:グループ・ネクサス・ジャパン リレー・フォー・ライフ がん患者さんやそのご家族を支援することで、地域においてがんと向き合って、がん征圧を目指すために、がん経験者や家族、仲間のかたが夜通し歩くリレーイベント「リレー・フォー・ライフ」が全国で開催されています。 リレーイベントは1985年に、ある医師が「がん患者は24時間、がんと向き合っている」という想いを共有し支援するために、トラックを24時間走り続けて米国対がん協会への寄付を募ったのがきっかけで生まれました。 ともに歩き、語らうことで生きる勇気と希望を生み出したいというイベントは現在、世界約30ヶ国の約6,000ヵ所で開催されています。日本では2018年は50ヶ所で開催される予定です。 関連情報はこちら:公益財団法人 日本対がん協会 公開日:2018/09/07
子育て、親の介護、仕事など、ただでさえ忙しい生活を強いられる40~50歳代の「はざま世代」と呼ばれる人たち人が「がん」を背負ってしまうと、どうなるのでしょうか。フィットネス団体「キャンサーフィットネス」の広瀬眞奈美さん、リンパ浮腫対策の商品を販売するお店を開いた大塚美絵子さんなどに聞きました。 目次 「はざま世代」と「がん」 乳がん、婦人科がんの20~30%にはリンパ浮腫という症状が起こる 「動くことは生きること」をモットーにフィットネス事業を展開 がん経験者の社会復帰に向けたサポート体制を充実すべき 「はざま世代」と「がん」 思春期・若年成人期(15歳から39歳)はAYA世代と言われています。高齢者を65歳とすれば、その間の40~50歳代は「はざま世代」と呼ばれることがあります。子育てや親の介護をするなど「挟まれる」というのが言葉の由来です。 子育て、親の介護、仕事などに追われ、ただでさえ忙しい生活を強いられるはざま世代の人が「がん」を背負ってしまうと、どうなるのでしょうか。はざま世代の女性では、がん新規罹患者が男性に比べて多いことも課題です。がんを経験したことをチャレンジに切り替えて社会復帰し、フィットネス団体「キャンサーフィットネス」を設立した代表理事の広瀬眞奈美さん、リンパ浮腫対策の商品を販売するお店を開いた大塚美絵子さんなどに聞きました。 写真はイメージです 乳がん、婦人科がんの20~30%にはリンパ浮腫という症状が起こる 国立がん研究センターがん対策情報センターの最新がん統計*1によると、全がんの罹患率(全国推計値)は30歳代後半から50歳代前半では女性が男性よりも高く、45歳位の年齢では女性の罹患率は男性に比べてより高かったのです。また、がんと診断された患者さんの5年相対生存率*2は6割といわれているので*3、はざま世代の女性がん経験者の多くは社会復帰を目指す人が増えているといえます。 ところが、治療終了後は医療機関とは関わりが少なくなります。医療スタッフなどによる心の支えがないなか、体力の低下や後遺症、支出の増大など環境が激変します。がん経験者は外見からは普通に見られますので周囲の期待に応えようとしますが、現実とのギャップに対して落込むという負のスパイラルに陥ります。 「こんなはずじゃなかった」、がんサバイバーが直面する社会復帰の壁 あまり知られていませんが、がん患者は四肢の痛みや痺れ・ケモブレイン(抗がん剤による記憶力や理解力の低下など)など治療終了後も長きにわたってさまざまな後遺症に悩まされます。これは、男女共通です。 そして、手術でリンパ節を取り除いたり(郭清といいます)、放射線で傷害した場合には、リンパ液の体幹への還流が妨げられ、リンパ浮腫という症状を発症する場合があります。 リンパ浮腫は命を脅かすものではありませんが、現在でも特効薬はなく長期間にわたり根気のいる治療が必要になります。 *1:国立がん研究センターがん対策情報センターの最新がん統計、地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(1975年~2013年) *2:あるがんと診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標。あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体*で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表します。100%に近いほど治療で生命を救えるがん、0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味します。 * 正確には、性別、生まれた年、および年齢の分布を同じくする日本人集団 *3:国立がん研究センターがん対策情報センター地域がん登録によるがん生存率データ(1993~2008年)によると、2006年から2008年においてがんと診断された人の5年相対生存率は男女計で62.1%(男性59.1%、女性66.0%)との報告があります。 「動くことは生きること」をモットーにフィットネス事業を展開 乳がんとの闘病経験をもとにがん経験者をサポートするフィットネス団体「キャンサーフィットネス」(http://cancerfitness.jp/)を設立した代表理事の広瀬眞奈美さんは、9年前に治療を受けました。 ツライことや不安なことがありましたが、毎日を元気かつ充実した生活をするために体力や持久力をつけて、自身の身体をケアしていかなければと考え、治療前から運動をして自身を励ましてきました。 治療後の副作用も運動を続けたことでがんを乗り越えてきました。運動は、リハビリのセルフケアや健康管理、そして今後の人生を自分らしく生きるために大切だと思ったこと、同じ境遇の仲間から支えてもらった経験から、キャンサーフィットネスを2014年に設立しました。 キャンサーフィットネスのインストラクターはがん経験者です。現在、そのインストラクターが全国で活動を展開しています。 より多くのがん経験者に、インストラクターが運動を通して背中を押してあげることにより、がんを乗り越えて明るく笑顔で社会に復帰してもらえることを願っているからです。 治療が終了した後のサポートは社会の枠組みのなかで考えないといけませんし、現在は「がんと共に生きる時代」です。広瀬さんは「動くことは生きること。動けば、心もかならず動きます。命を輝かせます」をモットーに活動しています。 がん経験者の社会復帰に向けたサポート体制を充実すべき 卵巣がんの闘病経験をもとにリンパ浮腫対策の商品を販売するお店「リンパレッツ」(https://www.lymphalets.biz/)を開業した大塚美絵子さんは、「治療が終了しても抗がん剤の副作用と思われる四肢の痛みや痺れ、体力低下、ケモブレインなどの症状が長く残りました。そのため、社会復帰の意思があっても、なかなか働き口を見つけられませんでした。そのため今後の経済見通しも立てられず、しかし「それを誰に相談したらよいかもわからなかった」といいます。 さらに、手術で60個近くリンパ節を郭清したため、脚のだるさや違和感に悩まされました。治療中に病院の売店で弾性ストッキングを購入しようと思っても、商品数が少ないうえ試着もできません。どの弾性ストッキングが自分のリンパ浮腫の状態に合うのか、製品同士の比較もできないことや、相談できる人がいないといった経験をしました。 ところが、旅行先のミュンヘンでは街中の健康グッズ店で、高品質の弾性ストッキングを試着の上簡単に買うことができたのです。 がん患者さんが治療後のQOLを少しでも向上させるためには、ミュンヘンで自分が入ったようなお店を作ろう、製品を比較して試着してから購入できるうえ、患者さんの悩みを聞いてくれるようなお店を作ろうと思い、リンパ浮腫対策の弾性ストッキングや弾性スリーブなどを販売するお店を開店したのです。 また、大塚さんは多くの患者会のイベントやセミナーで講演活動などを積極的に活動しています。 講演では、「30~50歳では女性のほうが男性の倍くらいがんに罹患する人が多いのです。この世代の女性は子育てに親の介護が加わり非常に重要な社会的役割を担っています。しかしあまりに忙しく非正規雇用の人も多い。そのため、この年代の女性の声が政府や雇用者になかなか届いていないと感じられます。この年代の女性には、国を挙げてサポート対策を構築してほしい」と強調しています。 治療中と治療終了後のギャップが大きすぎるがん経験者が、治療を終了して社会復帰するために、サポート体制を充実させることが今後の課題といえるのではないのでしょうか。 公開日:2018/06/18
がんの治療が進んだ現代では、がん経験者(がんサバイバー)は社会復帰を果たそうとしていますが、期待とは裏腹に現実の厳しさが待ち受けています。何が社会復帰に向けた課題なのでしょうか。がん経験者の大塚美絵子さんは、2012年に卵巣がんと診断されてから治療の壁を乗り越えた後、「こんなはずじゃなかった」と治療終了後の生活と社会復帰の問題に直面しました。第二の壁を乗り越えた体験について聞きました。 目次 がん経験者の社会復帰が可能なケースが増加 自身の期待と現実にギャップ:治療終了後は医療スタッフの支援がおおむね終了 周囲の期待に応えられない:「もう治療は終わったでしょ?」はきつい一言 治療終了後は収支バランスが劇変 がん経験者が完全復帰できるまでのサポート体制が必要 がん経験者の社会復帰が可能なケースが増加 国立がん研究センターがん対策情報センターのがん登録・統計によると、2017年のがん罹患数予測は約101万4,000例と2016年からは微増の推計ですが、年齢を調整して高齢の要因を除いた死亡数は増加していません。また、がんと診断された患者さんの5年相対生存率*1は6割といわれています*2。つまり、がんを経験しても社会復帰をする人が増えているのです。 大塚さんは、2012年7月に卵巣がん(ステージ:3c*3)と診断され、2013年3月まで術前化学療法、手術、術後化学療法を受けました。主治医は「非常に順調だ」と胸をはっていたので、治療終了後はすぐに病気になる前の身体と日常生活を取り戻して、社会復帰できるものと期待していました。ところが、期待と現実との大きなギャップを経験したのです。 大塚さんは、がん治療の壁を乗り越えた患者さんが治療終了後に苦しめられる第二の壁として、以下の3つを挙げています。 治療終了=回復という期待と現実とのギャップ 生活環境の激変 周囲の期待と実際にできることとのギャップ *1:あるがんと診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標。あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体*で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表します。100%に近いほど治療で生命を救えるがん、0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味します。 * 正確には、性別、生まれた年、および年齢の分布を同じくする日本人集団 *2:地域がん登録によるがん生存率データ(1993~2008年)によると、2006年から2008年においてがんと診断された人の5年相対生存率は男女計で62.1%(男性59.1%、女性66.0%)との報告があります。 *3:卵巣がんのステージ3c 後腹膜リンパ節転移の有無に関わらず、最大径2cmを超える腹腔内播種を認めるもの。最終ステージである4の一歩手前。 自身の期待と現実にギャップ:治療終了後は医療スタッフの支援がおおむね終了 大塚さんは、治療中は副作用にくじけそうになっていたのですが、医療スタッフの非常に手厚い支援がありました。治療を終了したときには、主治医、医療スタッフ、周囲から「おめでとう!」と祝福されて、卒業式のようなワクワクした気分になっていました。 ところが、抗がん剤投与が終了しても、いろいろな身体的不具合は残りました。体力低下も著しかったので、およそすぐには仕事復帰できるような状態ではありませんでした。 体調以外に年齢やブランク、勤務条件の制限などにより、働きたくても働く場所が見つけにくくなることも痛感しました(表)。 表:がん経験者個人が感じる治療終了後の期待と現実との乖離 提供:大塚美絵子さん 周囲の期待に応えられない:「もう治療は終わったでしょ?」はきつい一言 周囲の期待と実際に応えられることとのギャップは、がん経験者が一見すると普通に見えてしまうことが起因していると大塚さんは指摘しています。 お腹の傷は外からは見えないし、関節痛や手先・足先の痺れといった治療後の不快な症状は目に見えません。病気になる前と違うのは髪が極端に短いだけなので、外見上は何も問題がないように見られがちです。そのため、身内や家族は病気になる前の役割を期待しがちになります。 しかし現実は、体調面ではまだまだ病気になる前の状態には戻っていないのです。周囲が期待するような役割ができません。 「もう治療は終わったでしょ」と言われたことがありました。何気ない一言ですが、大塚さんにはナイフのように心に突き刺さりました。がんに罹患した人は、真面目で周囲の期待に応えようとするタイプが多いので、この一言はがん経験者のメンタルをナイフのようにえぐります。とても堪えました。 病院のサポートセンターでは治療以外にも生活などの相談に応じてくれることもあるのですが、治療が終了すると病院に行く回数も減ります。 そして、生活やお金、仕事のことに関してはどこに相談したらよいのか、適切なサポートがなかなか見つけられないという悩みを持つようになります。 治療終了後は収支バランスが劇変 がん経験者が直面する治療後の環境については、さらに収支バランスが劇的に変化することに対して大塚さんは注意を促しています。 仕事に復帰できても、復帰直後は時短という場合も多いので給料は減ります。傷病手当金は1年6ヵ月しか払われません。仕事を辞める人も少なくありませんが、失業手当は働けることが前提で、体の状態が悪いと受けられなくなることに注意しないといけません。 税金や保険料などは前年の収入が基準になります。がん保険は治療を保障するものですので、治療後の生活保障ではないのです。 出費は、体に合った衣服や靴、装具、ウィッグや帽子などを購入しないといけません。体力が低下するのでタクシーを利用することが多くなるなど、交通費は増大することになります。いくら不安が増大しても、生きるための支出となるので削れないのです。 がん経験者が完全復帰できるまでのサポート体制が必要 がん経験者さんは、治療中と治療終了後のギャップが大きすぎることにより、以下のネガティブ思考のスパイラルに陥る人も少なくない可能性があることを大塚さんは指摘しています。 治療終了後は医療サポートがおおよそ終了。まだ自宅療養の時間が長いので、社会から隔絶されて居場所が失われたよう孤立・孤独を感じる 家族や周囲からの期待に応えられず自尊心を喪失する 元の仕事に戻りにくくなるなど自信を喪失する 社会復帰の方法がわからず、相談先もわからなくなり焦燥感がでてくる 今後、がん経験者の増えるこれからの社会において、治療が終了した後から完全復帰を果たすまでの1~3年の間の過渡期において、がん経験者をどのようにして支えていくのかについて考えていく必要があります。 また、がん経験者自身も人生(死生)観・価値観を問い直す必要があると大塚さんは言います。 治療終了直後はどうしても失ったものに目がいきがちです。すると、どんどん気が滅入ってしまいます。 せっかく治療がうまくいったのに、先行きの不透明さから、「先生、何で治しちゃったの」と思ったことすらありました。 しかし、病気になったこと、治療が成功したことには何か意味があるはずだと必死で考えました。すると、もの事には必ずよいことと悪いことの二面性があることに気づきます。そしてよい面だけに意識を集中すると、いろいろ見えてくるものがあるのです。 「問い直し」作業は決して楽なものではありませんが、もの事の良い面に目をむけるクセがついてくると、どんどん思考がポジティブになり、生きることが楽しくなってくるのです。 大塚さんは、治療終了後に足の違和感やさまざまな後遺症に悩まされていた自分を見つめ直し、同じような境遇の仲間のQOL向上をお手伝いしたいと考えて、リンパ浮腫などの対策のための弾性ストッキングや弾性スリーブなどを販売するお店「リンパレッツ」(https://www.lymphalets.biz/)を開業しました。 がん経験者さんが治療終了後に陥るアイデンティティ崩壊の危機に対し、大塚さんは治療後から完全復帰前におけるサポート体制を整備することの必要性と、がん経験者の協力・情報交換として、患者会や各種セミナーへの参加、先輩の生活体験談を聞くことの重要性を強調しています。 公開日:2018/06/18
がんには「希少がん」と呼ばれる患者数が少なく珍しいがんもあります。例えば「眼腫瘍」「聴器がん」といったものがあり、不調を感じてもまさかがんだとは思わず治療が遅れてしまう、ということもあるかもしれません。 目次 眼や耳に発症するがん 眼球や涙腺、眼窩の腫瘍「眼腫瘍」 外耳、中耳、内耳に発生する「聴器がん」 血液の腫瘍「悪性リンパ腫」 眼や耳に発症するがん 日本人の死因の上位を占めるがん。一口にがんと言っても、さまざまな種類があります。 がんのなかでも死因のトップを占める「大腸がん」や「肺がん」、「乳がん」など(厚生労働省「人口動態統計」2014年)はよく聞くもので、症状や治療法についてもご存知の方も多いでしょう。 一方で、がんには「希少がん」と呼ばれる患者数が少なく珍しいがんもあります。なかには、眼や耳に発症する「眼腫瘍」「聴器がん」といったものもあり、不調を感じてもまさかがんだとは思わず治療が遅れてしまう、ということもあるかもしれません。 ここでは、そのような珍しいがんについて、一部を紹介します。 眼球や涙腺、眼窩の腫瘍「眼腫瘍」 眼腫瘍とは、眼部に生じる腫瘍の総称です。眼部とは、眼球のほか、眼瞼や結膜、眼窩、涙腺などを指します。 成人の眼球内に生じる悪性腫瘍である「脈絡膜悪性黒色腫」は、国内での発症は年間に50名程度とされる珍しいがんです。腫瘍の位置や大きさによって症状は異なりますが、視力低下、視野異常などが多くみられます。 治療方針もその大きさによって異なりますが、小さい場合は経過観察、中腫瘍の場合は小線源治療、大腫瘍の場合は眼球摘出が妥当な選択と言われます。 小線源治療とは、放射性同位元素を金属カプセルに密封した放射線源を用いる治療法です。脈絡膜悪性黒色腫の場合は、これを手術で眼球壁の外から腫瘍に相当する部位に固定し、一定時間経過したところで除去します。 外耳、中耳、内耳に発生する「聴器がん」 聴器がんは、外耳、中耳、内耳に発生するもので、100万人に1人と、発生の頻度は非常にまれです。良性であっても同様の症状が出るため、判断が難しく、診断を誤りやすい疾患のひとつでもあります。 初期症状として、耳の痛みが現れます。同時にかゆみや耳だれを伴う場合もあります。腫瘍が大きくなってくると、音が聞こえにくくなる、出血するなどの症状が現れてきます。ひどくなると顔面神経麻痺やあごの関節に障害が出てくることもあります。 珍しい疾患であり報告が少数であること、病変の広がりにも個人差があることから、ほかのがんと比べると明確な治療法が定まっていませんが、現在では外科的切除を中心とした治療が一般的となっています。 血液の腫瘍「悪性リンパ腫」 悪性リンパ腫の発生は、年間に10万人あたりで10人程度と報告されています。がん細胞の形態や性質によって30種類以上に細かく分類されていますが、大きくはホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2つに分けられます。発症の多くは非ホジキンリンパ腫で、悪性リンパ腫全体の90~95%を占めます。 症状としてはリンパ節の腫れがありますが、痛みがないために気がついたときには腫れがかなり大きくなっていることもあります。全身的な症状としては、発熱や全身の倦怠感、体重減少、寝汗などが現れます。 中心的な治療法は化学療法で、抗がん剤の注射や点滴、内服を行います。通常4~5種類の抗がん剤を組み合わせて治療が行われ、入院や外来治療で3~4週間を1コースとし、数コースを行います。 ここまで紹介したほかにも、珍しいがんは多種存在します。体に何か異常を感じた場合は、「大丈夫だろう」と放っておかずに、病院で診察を受けることが大切です。 (がんの発生頻度の数字は、希少がんセンターより引用) 公開日:2016/10/11
がんを治療する際に、病院や診療所に入院するだけではなく、在宅でも治療が受けられることをご存知でしょうか。その在宅医療を始めるにあたり心配なことの一つとして、がん疼痛治療があげられます。 目次 がんの在宅医療について 在宅医療におけるがん疼痛治療 在宅医療におけるがん疼痛治療薬とは がん疼痛とうまくつきあい、ご自宅で自分らしい過ごし方を がんの在宅医療について がんを治療する際に、病院や診療所に入院するだけではなく、在宅でも治療が受けられることをご存知でしょうか。 在宅医療は、専門の医師や看護師が定期的に自宅を訪問し治療を行う医療です。がんの在宅医療は、従来の病院に入院して行う治療とは異なり、ご自身が慣れ親しんできた自宅で過ごすことで、精神的にも穏やかに過ごすことができます。 がんの在宅医療を始めるにあたり心配なことのひとつとして、がん疼痛治療があげられます。がん疼痛はがん末期だけに限らず、初期症状を始め、どの期間においても現れる可能性があります。 在宅医療の場合、がん疼痛治療は一体どのように行っているのでしょうか。在宅医療におけるがん疼痛治療についての現状を紹介します。 在宅医療におけるがん疼痛治療 国立がん研究センターの統計(2011年)によると、生涯でがんに罹患する確率は、男性62%、女性46%となっています。それほど発症例の多いがんですが、在宅で療養される方は極めて少ないのが現状です。主な理由としては、介護に伴う家族への負担や病状が急変したときに対処できない、といったことが挙げられます。 また、がんの在宅医療において極めて重要な要素に疼痛治療が挙げられます。自宅での療養は、体の状態が安定していれば、決して難しいことではありません。在宅療養についての専門的な知識を持ったかかりつけ医や看護師、ホームヘルパーなどが協力して、療養のサポート体制を整えます。このように、さまざまな医療スタッフが連携することにより、自宅でも継続して疼痛治療を行うことができます。 在宅医療におけるがん疼痛治療薬とは 在宅医療におけるがん疼痛治療薬として、鎮痛薬や麻酔薬があります。現在、痛みの治療に多く用いられているWHO方式がん疼痛治療法は、最も効果的で安全な治療法と言われています。がんの痛みには強弱があり、痛み止めの効力もそれに合わせなくてはいけません。近年は、医療の進歩によって在宅でも使用しやすい麻酔薬が登場するようになりました。 強い痛みの場合は、モルヒネなどの医療用麻薬を使うことになります。医療用麻薬は、悪いイメージがある人がいると思いますが、医師の指示通り使用していれば、誤解されているような副作用は出ないことが認められています。麻酔薬・鎮痛薬の投与経路は、口から飲む、座薬として肛門から投与する、貼り薬、注射などの方法があります。注射以外の方法は、ご自身やご家族の助けを借りて行うことができます。医師が訪問診療する際に、薬の使用方法を教えてくれますので、安心して使用することができるでしょう。 がん疼痛とうまくつきあい、ご自宅で自分らしい過ごし方を がんの在宅医療は、ご自宅で過ごすことで入院での治療よりも眠りやすくなることや、ご家族と過ごす時間が増え、気持ちが安らぐ機会が増えて精神的な負担が緩和されることがメリットです。薬以外にも、マッサージや鍼(はり)・灸(きゅう)を使用するなど、さまざまな疼痛ケア方法があります。 がん患者さんの痛みの表現方法は、表情に表れることや患部をさするなどの行動で見ることができます。ご家族の方は、そういったしぐさがないか気にかけてあげることや、患者さんとコミュニケーションを取ることなどで、痛みを理解することができるでしょう。 がんの在宅医療はがん疼痛とうまくつきあっていくことが大切です。痛みの「期間」「箇所」「程度」など、具体的な痛みの症状を患者さんと周りの方たちがしっかり共有できるようにしておきましょう。 公開日:2016/09/12
がんといえば、食生活や喫煙、多量の飲酒、運動不足のような生活習慣が原因となることが知られています。しかし、感染症ががんに関係していることはあまり知られていないのではないでしょうか。 目次 胃がんを招くピロリ菌の感染 ウイルス性肝炎から肝臓がんに 性交渉から子宮頸がんに 感染症関連のがんにも生活習慣が関わっていることも 定期的な検診で早期発見・早期治療 胃がんを招くピロリ菌の感染 がんといえば、食生活や喫煙、多量の飲酒、運動不足のような生活習慣が原因となることが知られています。そして、割合としては少ないものの、遺伝的にがんになりやすいという場合もあります。しかし、感染症が関係しているがんがあることはあまり知られていないのではないでしょうか。 たとえば、胃がんもそのひとつです。ピロリ菌の感染により慢性胃炎となり、それが胃がんに発展することがあります。世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関(IARC)は、2014年9月に「胃がんの80%はヘリコバクター・ピロリが原因」だと発表しています。 ウイルス性肝炎から肝臓がんに 国立がん研究センターによれば、がん全体に対するウイルスや細菌、寄生虫の持続感染を原因とするがんの割合は、発展途上国よりも先進国のほうが少ないものの、日本は先進国の中では高めだとしています。特に多いのは前述のピロリ菌の感染が原因の胃がんと、肝炎ウイルス感染による肝臓がんとされています。 B型肝炎ウイルス(HBV)や、C型肝炎ウイルス(HCV)に感染すると、慢性肝炎になることがあります。肝炎ウイルスが体内に入ると肝細胞に寄生して増殖、免疫系はウイルスに感染した肝細胞を異物と考え、肝細胞ごと破壊していきます。その結果、高熱、吐き気、倦怠感などの症状が起きます。風邪と症状が似ているので、肝炎だと気づかないことも少なくないようです。症状が6ヵ月以上続くと「慢性肝炎」と診断されます。肝細胞の破壊と再生が繰り返されるので、肝臓の線維化が起き、肝臓がんになりやすい状態になってしまいます。 肝炎ウイルスは、輸血や血液製剤などの医療行為、注射の打ち回しなどの行為が主な感染ルートになります。なかでもB型肝炎ウイルスは、性行為や母子感染が原因になることもあります。母親がB型肝炎ウイルスに感染していると、出産時に血液感染のリスクが高くなります。ただ、現在では感染防止対策が徹底されているため、医療現場での新たな感染はほとんど起きていません。 性交渉から子宮頸がんに 性交渉で感染するウイルスが原因となるがんもあります。性交渉によるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染は子宮頸がんの原因になります。ただ、このHPVの感染は珍しいものではなく、症状が出ないうちに体外に排出されることが多いと考えられ、HPVにも多数の種類があり、その一部が子宮頸がんの原因となります。 多くのがんが高齢であるほど発症率が高まるのに対し、このがんは性的活動が盛んな若い世代に多いのが特徴です。このHPV感染の予防には、性交時のコンドーム使用が有効で、不特定の人との性交渉がその感染のリスクを上昇させるという認識も必要です。 感染症関連のがんにも生活習慣が関わっていることも ただ、多くの場合、細菌やウイルスなどの感染から、すぐにがんになってしまう訳ではありません。がん発症に至るまでには生活習慣が関わっていることも多いようです。たとえば、上記で挙げた何らかの持続感染による胃がんや肝臓がん、子宮頸がんのこれら全てで喫煙が発症リスクとなっています。 そのほか、予防には食生活や多量の飲酒をしないこと、運動やストレスも重要で、定期的な検査も必要となります。たとえば、B型慢性肝炎、C型慢性肝炎の人は、自分が肝臓がんになりやすい状態にあるという認識が必要になり、定期的な検診で肝臓の状態を確認する必要があります。 慢性胃炎でも同様で、慢性胃炎の人や、上腹部不快感、膨満感、食欲不振などがある人は積極的に検査を受けて胃の状態を知っておけば、胃がんの予防や、がんがあっても早い段階で発見することができるでしょう。ピロリ菌検査と除菌も有効です。そして、HPV感染による子宮頸がん予防には2年に1度の検診が推奨されています。 定期的な検診で早期発見・早期治療 細菌やウイルスなどの感染ががんの原因となっていることは珍しくありません。これらのがんの場合も、早期発見ができれば命の危険も少なくなりますし、早期に治療を開始できれば、その選択肢も多くなります。そのためにも、生活習慣の見直しとともに、定期的な検診が必要となります。 公開日:2016/08/15
子供のがん、特に15歳以下の小児期のがんを小児がんと呼んでいます。大人のがんに多いのは胃がんや肺がんなどですが、これらは小児がんには少なく、逆に子供は成人にはあまり見られないがんにかかることがあります。子供がかかりやすいがんを紹介します。 目次 予防が難しい子供のがん 血液のがん・白血病 頭蓋骨内部にできるがんが脳腫瘍 リンパ節の腫れで気づくことが多い悪性リンパ腫 小児がんに対する正しい知識を 予防が難しい子供のがん 子供のがん、特に15歳以下の小児期のがんを小児がんと呼んでいます。大人のがんに多いのは胃がんや肺がんなどですが、これらは小児がんには少なく、逆に子供は成人にはあまり見られないがんにかかることがあります。 そして、成人のがんが生活習慣の改善で予防できる部分があるのに対し、子供の場合はその要素がほとんどないことから、予防が困難なのも小児がんの特徴です。 血液のがん・白血病 主な小児がんは、白血病、脳腫瘍、リンパ腫、神経芽腫(しんけいがしゅ)、胚(はい)細胞腫瘍・性腺腫瘍などです。白血病は血液のがんのひとつで、異常な血液細胞が無秩序に骨髄で増殖し、正常な血液細胞が減少します。 人間の血液細胞には赤血球、白血球、血小板がありますが、白血病になると、血液細胞の元となる芽球が赤血球、白血球、血小板に分化せず、骨髄に蓄積してしまいます。骨髄に異常な芽球である白血病細胞が増殖し続けると、正常な血液細胞が作られなくなってしまいます。 症状としては、あざ、血が止まらなくなる、骨痛、関節痛などが見られます。このような白血病には急性リンパ性白血病や急性骨髄性白血病などがありますが、いずれも治療は抗がん剤を使用した化学療法が主となります。 頭蓋骨内部にできるがんが脳腫瘍 子供のがん患者だけで考えると、白血病の次に多い脳腫瘍ですが、脳腫瘍とは文字通りの脳細胞にできるがんに加え、硬膜やクモ膜、血管、末梢神経など、頭蓋骨内部にできるがんのことをいいます。脳腫瘍の症状は、頻度が高い、または周期的に起こる頭痛、嘔吐。これらは朝に多い傾向があります。 また、夜中に強い背中と首の痛みが出ることもあります。そのほかには、眼球運動障害、視力障害、平衡感覚の異常、顔の片側の麻痺、嚥下困難、言語能力の衰えなどの症状があります。異常に水分を欲しがり尿が多いなどの症状もあるので、このような症状が見られた場合には、直ちに医師に相談するようにしましょう。 脳腫瘍にもさまざまな種類があり、治療のためには正確な診断が必要になります。検査では頭部のCT検査とMRI検査や病理検査が行われ、治療方法が選択されます。治療は腫瘍の種類、部位に合わせた外科手術、放射線治療、化学療法を複合的に行うことになります。小児期の脳腫瘍は、発育期の脳に重大な影響を及ぼします。脳腫瘍を治すための治療にも重大な影響を及ぼす可能性があるので、十分な配慮を持って向き合っていかなくてはいけません。 リンパ節の腫れで気づくことが多い悪性リンパ腫 悪性リンパ腫はリンパ組織から発生する血液のがんの一種です。リンパ組織とは体内で細菌やウイルスなどに備えている免疫機能を司っている組織のことで、リンパ組織は全身に分布しているため、内臓を含め、全身のどの部位からも発症する可能性があります。日本の小児がんの約1割を占めるといわれ、3歳以降に発症することが多い病気です。 悪性リンパ腫は、初期は自覚症状がなく、たまたま受けたレントゲンで発見されることも多いようです。首や脇の下、股の付け根などのリンパ節における腫れやしこりから気づくこともあります。また、全身の倦怠感、原因不明の発熱、多量の寝汗、体重減少なども気づくポイントになります。子供のちょっとした変化にも目を配るようにするなどして、早期発見することが大切です。 悪性リンパ腫が疑われる場合、触診、血液検査のほか、造影CT検査を行い、生体組織診断で病気の型、病気の進行度を判断します。そして、治療では抗がん薬などを用いた化学療法が中心で、リンパ腫のタイプにより放射線治療が行われることもあり、外科治療は行われないことがほとんどとなっています。小児悪性リンパ腫の大部分の病型で70~90%の長期生存率が期待され、治る確率も高くなっています。ただし、大人と子供では治療反応などが異なるため、成人領域の情報をそのまま反映できないという特徴もあります。 小児がんに対する正しい知識を 小児がんの原因には遺伝的要因が原因のひとつとして疑われるものの、その特定は困難なことが多いようです。大人よりもその進行が速いこともあり、かつて小児がんには不治の病というイメージがつきまとっていました。 しかし、化学療法や放射線療法が大人よりも効果的であり、医療技術の進歩で治癒率は向上しています。小児がんにおいても、早期発見が生存率を高めます。正しい知識を持ち、子供の体調などで心配なことがあれば、医療機関で相談するようにしましょう。 ■関連記事 がん10年生存率は56.3%、80%以上は前立腺、甲状腺、乳房、子宮体など 国立がん研究センター/全国がんセンター協議会 婦人科がん(子宮・卵巣のがん)の発症リスクと治療後のむくみ対策 キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクール 公開日:2016/08/01更新日:2020/09/25
癌(がん)といえば、日本人の死因の第1位。線虫は、「がん患者の尿のにおいに線虫が集まる」という研究結果により、そのがんの早期発見を短時間、安価、高精度に行うことに一役買う可能性があると注目されています。 目次 尿1滴で、早期がんの検出も 線虫の優れた嗅覚に着目 感度95.8%の高精度 尿1滴で、早期がんの検出も がんといえば、日本人の死因の第1位。このがんの解決に最も有効といわれているのが、早期発見です。 このがんの早期発見を短時間、安価、高精度に行うことに一役買うのが線虫、という研究が米国オンライン科学誌「PLOSONE」に掲載されました。 この技術は、「がん患者の尿のにおいに線虫が集まる」という研究結果によるものです。 この技術が実用化されれば尿わずか1滴で検査が可能となるため、患者さんの苦痛がない、診断結果が出るまで約1時間半と短い時間で済む、1検体あたり数百円という安価で検査ができる、などさまざまなメリットがあると期待されています。 では、このような技術がどのように研究されたのか、次にご紹介しましょう。 線虫の優れた嗅覚に着目 がんの患者さんの尿には特有のにおいがある>ことは、臨床現場ではよく知られていることです。 このことを利用して、犬の嗅覚によってがんを発見できないか、という試みは今までにもありました。しかし、犬の能力は集中力に左右され、1日に5検体程度しか調べられず、実用化は現在のところ困難となっています。 そこで、九州大学の研究グループが着目したのが「線虫C.elegans」です。 線虫は体が透明で、細胞の数も1000個程度と生物の中では少ないので(人間の細胞数は37兆個)、細胞の動きが容易に理解しやすく、しばしば実験に使われます。嗅覚に優れた生物で、においに対する反応も走性行動(生物が刺激に対して移動する行動)を指標にすれば簡単に調べることができます。 研究グループががん細胞の培養液に対する線虫の反応を調べると、がん患者のがん細胞と正常な細胞においては、線虫は前者を好むこともわかったのです。 次に、人間の尿について線虫の反応を調べると、がん患者の尿には誘引行動、健常者の尿には忌避行動を示すこともわかりました。 感度95.8%の高精度 このような線虫の能力を利用したがん診断テスト(n-nose)では、がん患者をがんと診断できる確率が95.8%、健常者を健常者と診断できる確率は95.0%という結果を得ました。この結果は、がん患者の人の体内に多く見られる腫瘍マーカー(CEA、抗p53抗体など)の数値で検査する方法に比べて、信頼性が圧倒的に高いことを示しています。 また、n-noseは、コスト面でも1回の検査でかかる金額が数百円と安価であり、早期がんを発見できることも従来の検査と比べて優れている点といえるでしょう。 がんは日本の国民病ともいえるほど身近な病気です。このn-noseが実用化されれば、がん検診受診率が向上し、それによって早期がん発見率が上昇、がんの死亡者数の減少、という効果が期待できそうです。 がんは死に至ることもある病である一方で、早期発見すれば、治療により完治することも十分可能な病気でもあります。また、がんには初期には自覚症状がないことも早期発見を遅らせる原因となっています。 がんの検査もこのような研究により、より簡単に行えるようになってきています。線虫による検査は現在も研究中であり、今後その信頼性について議論がなされていく最中でもあります。線虫によるがん検査を気軽に受診することはできませんが、ぜひ定期的ながん検診を受け、たとえがんであったとしても早期発見、早期治療につなげられるようにしたいですね。 公開日:2016/05/30
がんが発症する原因として、飲酒や喫煙などによる生活習慣が大きな要因のひとつとされています。そのなかでも、肥満とがんには一体どのような関係があるのでしょうか。肥満とがんの関係について詳しく解説します。 目次 がんの原因としても注目されている肥満 肥満が引き起こすがんの種類 がんを予防するためにも肥満対策を がんの原因としても注目されている肥満 がんが発症する原因として、飲酒や喫煙、栄養の過剰摂取などによる生活習慣が大きな要因のひとつとなっています。 そのなかでも、肥満は糖尿病や心筋梗塞などの生活習慣病のリスクに限らず、がんの原因としても注目されています。 肥満とがんには、一体どのような関係があるのでしょうか。 肥満が引き起こすがんの種類 日本では、時代の変化に従って食生活の欧米化に伴い、肥満やメタボリックシンドロームが増加する傾向にありました。 肥満やメタボリックシンドロームの増加に伴い、大腸がん、肝がん、乳がん、前立腺がんがみられるようになりました。 日本内科学会のBMIと各種がんの発症率に関するメタ解析(平成23年)によると、肥満と関係のみられるがんの中でも、大腸がんは食生活の欧米化に伴い、著しい増加がみられたがんといわれています。 肥満が大腸がんを引き起こす要因として、内臓に脂肪が溜まる内臓脂肪蓄積が大きな影響を与えているといわれています。そのほかにも肥満は、血液中に含まれるアディポネクチンの分泌量の低下を引き起こすことも大腸がんの危険因子とされています。 もうひとつ注目すべきがんの事例として、肝がんがあげられます。日本国内における肝がんの増加数はそれほど多くないのですが、肥満と関連しての発症は、発症リスクが高まる恐れがあります。 肥満により内臓脂肪が蓄積されることによって、飲酒歴がないにもかかわらず、肝細胞に脂肪が溜まり脂肪肝がみられる「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれる病気や、さらに脂肪肝によって炎症が発生し、線維化が進行する「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」と呼ばれる病気が引き起こされます。 NAFLDやNASHが進行すると、肝がんを引き起こす細胞へと発展する恐れがあります。 がんを予防するためにも肥満対策を このように、肥満とがんは大きく関係していることがわかります。がんにかからないためにも、日頃の肥満対策は大切なことです。 脂肪を燃焼させるためには、適度な運動を取り入れることが好ましいでしょう。ウォーキングやストレッチなどの有酸素運動はおすすめです。また、軽めのジョギングなども効率良く脂肪を燃焼させることにつながるでしょう。 また、食生活においてはインスタント食品やスナック菓子を控え、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。油分を多く含む洋食や中華料理よりも和食がおすすめです。カロリーの高いものをなるべく控え、野菜や海藻類、きのこ類などの食物繊維を積極的に取り入れていきましょう。 公開日:2016/04/25
日本人の死因の第一位「がん」。その治療法は、手術、抗がん剤、放射線による治療が一般的ですが、第四のがん治療法として免疫治療法が注目されています。そのなかでも、新たな治療方法として注目されている「免疫チェックポイント阻害剤」をご紹介します。 目次 がんの免疫治療法について 免疫チェックポイント阻害剤って? 新しい治療薬としても期待の高い免疫チェックポイント阻害剤 がんの免疫治療法について がんは、日本人の国民病としても有名な病気で、日本人の死因の第1位(平成24年厚生労働省調査より)にもなっているくらい身近な病気です。 がんの治療方法といえば、これまで三大治療法と呼ばれる、手術、抗がん剤、放射線による治療が一般的とされていました。そんな中で、第四のがん治療法として、新たに注目されている治療法が、免疫治療法です。 免疫治療法とは、体が本来持っている免疫能力を高めることでがんを治療していく方法です。 がんの三大治療法は外部の力を借りて治療するのに対して、免疫治療法は、体が本来持っている免疫能力を使用することによってがんと闘うところが、ほかの治療と大きく異なる点です。 この免疫治療法の最大のメリットは、ほかの治療方法よりも副作用に苦しむことがはるかに少ないことです。 免疫チェックポイント阻害剤って? そんな免疫治療法の中でも、新たな治療方法として注目されているのが「免疫チェックポイント阻害剤」を使用する方法です。 では、免疫チェックポイント阻害剤とは、いったいどのようなものなのでしょうか。 がんの免疫治療法は、これまで免疫機能の攻撃力を高める方法が中心でしたが、最近になって、がん細胞が免疫のはたらきにブレーキをかけて、免疫細胞の攻撃を阻止していることが明らかになりました。 そこで、がん細胞のブレーキとなる部分を阻害する薬が用いられるようになりました。それが、免疫チェックポイント阻害剤です。 がん細胞を攻撃する細胞傷害性T細胞には、活性化しすぎて暴走するのを防ぐために、ブレーキ役としてはたらく免疫チェックポイントと呼ばれる分子が備わっています。がん細胞はこの細胞のはたらきをうまく利用して、免疫からの攻撃を逃れています。 免疫チェックポイント阻害剤を使用することで、T細胞が本来の力を発揮し、がん細胞を攻撃することで、がん細胞が増えることを食い止めることができると考えられています。 新しい治療薬としても期待の高い免疫チェックポイント阻害剤 免疫チェックポイント阻害剤は、幅広い種類のがんに適用できることも魅力であり、異例のスピードで薬事認証され、今では国内外を問わず世界中で臨床試験が始まっています。 免疫チェックポイント阻害剤の使用による副作用は、臨床試験では今のところ発疹や下痢程度と報告されており、副作用も少ないといえるでしょう。 免疫チェックポイント阻害剤は、がんの新しい免疫治療薬としても注目度が高くなっており、現段階では費用が高額であることがネックとされていますが、この問題がクリアできれば、今後普及もあり得るでしょう。 公開日:2016/04/25
がんの「転移」とは、がん細胞が最初に発生した場所とは別の臓器や器官で増えることを言います。がんの転移はどうして起こるのでしょうか。そのプロセスを詳しく説明します。 目次 リンパ液や血液の流れで移動 ケモカインとケモカイン受容体 リンパ液や血液の流れで移動 がん治療の話のなかで、「がんが転移した」という言葉がよく使われます。がんの「転移」とは、がん細胞が最初に発生した場所とは別の臓器や器官で増えることを言います。 この転移は、肺や肝臓、脳などの臓器、骨などさまざまな部位に起こり、最初に発生した場所とは離れた場所に現れることもあります。これは、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って、離れた場所へ移動するからです。 このプロセスをもう少し詳しく説明します。 細胞には主に皮膚や内臓の表面などを構成する「上皮細胞」と、骨や筋肉、血液などを構成する「間葉細胞」があります。そして、上皮細胞がこの性質を失い、間葉細胞としての性質を新たに得ることを「上皮間葉転換」と言います。がんの転移はこの上皮間葉転換のメカニズムにより発生します。 どのようなことかと言うと、まず、上皮細胞の悪性腫瘍であるがんの制御不能な細胞増殖が始まります。すると、腫瘍細胞が周囲の構造を壊しながら、血管やリンパ管に侵入します。そして、この侵入した細胞が血液やリンパ液の流れに乗ってほかの部位に到着、血管やリンパ管の外に出て離れた組織に定着する、という仕組みです。 ケモカインとケモカイン受容体 ここまでに、がんが転移するプロセスについて説明しましたが、最初にがんができた場所である「原発巣」と、転移先には、「種と土」のような関係性があると言われています。つまり、大腸がんは肝臓、肺がんは脳、乳がんや前立腺がんは骨への転移が多い、というような関係性です。 それでは、このようなことがなぜ起こるのでしょうか。 原発巣と転移先の「種と土」の関係は、「ケモカイン」と「ケモカイン受容体」の結びつき方によるものと考えられています。 ケモカインとは転移先の組織が分泌する物質で、ケモカイン受容体とはリンパ球などの表面に発現するものです。人には50種類のケモカインと18種類のケモカイン受容体が同定されています。 ケモカインとケモカイン受容体は「鍵と鍵穴」のような関係にあり、結びつく相手は決まっています。このため、どのリンパ球がどの臓器に移行するかは、ケモカインによって制御されるということになります。 このケモカインに着目した、がんの治療薬の開発も行われていて、2012年には成人T細胞白血病に対する治療薬が発売されています。 公開日:2016/05/09
がんとの闘病は治療のほかに、家族、仕事、医療費など、考えなければならないことがたくさんあります。サイコオンコロジーはがん患者の精神面のケアやサポート、そして患者の家族のケアなども行う専門分野です。 目次 がん患者の心身を考えるサイコオンコロジー 病気や治療のことだけではないがんのストレス 全人的医療のなかのサイコオンコロジー がん患者の心身を考えるサイコオンコロジー かつてがんといえば、ただちに「死」がイメージされましたが、今は医療技術が進歩し、治るがんが増えていて、がんとともに生きていくという考え方も定着しつつあります。しかし、それでもなお、私たちが医師から、自分の病ががんであることを告知された場合、強い衝撃、ストレスを受けることでしょう。 そういったがんと心理面の関係を扱う分野に精神腫瘍学というものがあります。英語では心理学の「Psychology」と腫瘍学の「Oncology」を合わせて「Psycho-Oncology」「サイコオンコロジー」と呼ばれています。サイコオンコロジーはがん患者の精神面のケアやサポート、そして患者の家族のケアなども行う専門分野です。 病気や治療のことだけではないがんのストレス がんとの闘病は、生命や治療への心配のほかに、家族のこと、仕事のこと、医療費のことなど、考えなければならない事柄がたくさんあります。そういった心配ごとが、がん告知を受けた時から一気に押し寄せてくるのです。サイコオンコロジーはそういったストレスに対してもケアを行います。 がんとその治療から受ける身体的苦痛と精神的苦痛は相互に影響しあい、双方の苦痛を悪化させることがあります。従来、がん治療では患者が精神的なストレスを受けることは当然だと考えられていました。仕方ないことだというのが医療現場の認識だったのです。 しかし、がん治療ではその進行度、根治を目指すかどうかは問わず、身体的苦痛を和らげるための緩和ケアが行われます。それに対して、精神的苦痛は放置されることがほとんどで、ケアが行われてこなかったのが実情でした。 全人的医療のなかのサイコオンコロジー 実際にがんを治療している患者のうち、適応障害やうつ病、幻覚や錯覚によるせん妄などの器質性精神障害だと診断されるケースも多く、また、病名がつかないまでも、緩和ケアとして精神面のケアやサポートが行われていたならば、精神科的疾患に至ることを防ぐことができます。 一般社団法人日本サイコオンコロジー学会によれば、2010年度の時点で、84パーセントの都道府県がん診療連携拠点病院に、65パーセントの地域がん診療連携拠点病院に常勤の精神腫瘍医が配置されています。 現在、がん治療で緩和ケアが行われていることは知られてきているものの、サイコオンコロジーや精神腫瘍医についてはあまり知られていません。身体的な問題だけでなく、心理面、社会的立場などを考慮した全人的医療が求められているなか、私たちにもサイコオンコロジーに対する理解が必要になっています。 公開日:2016/05/16
日本ではがんの罹患数は約98万例にのぼるとされ、そのうち37万人近くの人が亡くなると予想しました。日本人の3人に1人が、がんが原因で亡くなっているとも言われています。がんという病気は、一体どんな原因で起こる病気なのでしょうか。今回は、がんの原因について詳しく紹介します。 目次 日本人とがんについて 生活習慣に気をつけてがんを予防しよう 日本人とがんについて 国立研究開発法人国立がん研究センターの2015年の発表によると、日本ではがんの罹患数は約98万例にのぼるとされ、そのうち37万人近くの人が亡くなると予想しました。日本人の3人に1人が、がんが原因で亡くなっているとも言われています。 がんという病気は、一体どんな原因で起こる病気なのでしょうか。今回は、がんの原因について詳しく紹介します。 1. 喫煙 近年、さまざまな研究結果によって、がんは生活習慣の改善から予防できる病気であることがわかってきました。 がんの一部は遺伝性のものもありますが、遺伝子的な要因よりも生活習慣における要因のほうが大きいとされています。 生活習慣における要因の中でも、最も影響があるとされているのが喫煙です。 たばこは発がん性のある物質としても知られており、たばこの煙には400種類以上の化学物質が含まれていて、そのうちの60種類には発がん性が確認されているといわれています。 たばこの煙は吸っている人のみに限らず、周りにいる人も受動喫煙によって体内に取り込む危険性があります。 2. 食生活 食生活において、塩分の取り過ぎは胃がん、熱し過ぎる食べ物や、スパイスなどの刺激がある辛い食べ物の食べ過ぎは食道がんのリスクが高まります。ほかにも野菜不足や動物性食品の過剰摂取、大量の飲酒もがんを引き起こす原因につながります。 また、加工食品に含まれている食品添加物には、発がん性のある物質が含まれていると主張する人もいます。 主な発がん性が疑われる食品添加物として、マーガリンに含まれているトランス脂肪酸や、ハムやベーコンなどの加工に使用される発色剤の亜硝酸ナトリウム、砂糖の代わりに使用する人工甘味料であるアスパルテームなどがあげられます。 3. ウイルスや細菌などへの感染 がんの主な原因は、生活習慣によるものとされていますが、その一部はウイルスや細菌などへの感染が影響している場合があります。 ウイルスや細菌などから引き起こされる主ながんの種類として、肝炎ウイルスからくる肝臓がん、ピロリ菌からくる胃がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)からくる子宮頸がんなどがあげられます。 4. ストレス ストレスは、がんに大きな影響を与える原因とされています。 通常は発生した活性酸素(酸化ストレス)は速やかに消去されますが、ストレスがたまると、体が持つ抗酸化力以上に活性酸素がたまりやすい状況となり体内に蓄積されることによって、遺伝子を傷つけ、がんを促進させるのです。 特に、40歳以上になると体内で活性酸素が増えやすくなります。 生活習慣に気をつけてがんを予防しよう このように、がんは私達の日々の生活習慣の積み重ねが大部分の原因になっているのが現状です。 喫煙や飲酒はなるべく控え、バランスのよい食事を取ることや、日頃からストレスをためないような時間の使い方をすることが大切です。少しずつできることから生活週間を見直すことで、がんの予防を心がけていきましょう。 公開日:2016/04/18
「Precision Medicine」は「精密医療」や「高精度医療」と解釈されています。これは各個人のゲノム解析などによる遺伝子情報に基づく分類や、生活習慣などの違いに着目した治療と予防を行う新しい医療のことです。 目次 オバマ米大統領が掲げる「Precision Medicine」 精密医療と個別化医療の違い 幅広い層がその恩恵に より効果的な治療方法の確立へ ゲノム医療で世界に遅れる日本 オバマ米大統領が掲げる「Precision Medicine」 2015年1月20日、オバマ米大統領は一般教書演説のなかで、今後米国が推進していく医療として「Precision Medicine」という言葉を使用しました。当時の米国においても、この言葉は一般には認識されておらず、日本でもその翻訳と解釈が不安定でした。 現在、「Precision Medicine」は「精密医療」や「高精度医療」と解釈されています。これは各個人のゲノム解析などによる遺伝子情報に基づく分類や、生活習慣などの違いに着目した治療と予防を行う新しい医療のことです。 精密医療と個別化医療の違い 従来、この「Precision Medicine」とは別に「Personalized Medicine」という言葉があり、これは「個別化医療」と訳されています。 個別化医療はオーダーメイド医療、テーラーメイド医療などともいい、これも遺伝子情報や生活習慣などを元に、個人個人にデザインした治療方法を施すことですが、こちらは対象があくまで個人であり、100人の患者がいれば、理論上100通りの治療方法が設定されることになります。 個別化医療では、患者ごとに治療方法が提示されることになりますので、どうしてもコストが大きくなります。一方、精密医療は、遺伝子情報などのビッグデータ分析による分類に基づきますので、その対象は集団であり、個別化医療よりも低コストになります。 幅広い層がその恩恵に 今後、個別化医療がさらに進歩したとしても、その恩恵は高額な医療費を支払える富裕層だけになるかもしれません。精密医療であれば、経済的な地位にかかわらず、その恩恵を受けられる可能性があり、また、個別化医療には疾病予防への配慮はあまり含まれていないため、精密医療では予防の観点からも期待されています。 より効果的な治療方法の確立へ オバマ米大統領の一般教書演説の後、米政府は精密医療に関する具体的な施策を明らかにしました。その中で、特に注目されるのががん治療の分野です。 米国立衛生研究所に1億3000万ドル、その傘下の国立がん研究所に7000万ドルの予算を充て、研究所において、がんの発生に直接関わる遺伝子を特定する取り組みを拡充するとしています。 これにより、患者それぞれのがんに対応し、より効果的で、より多くの治療方法の確立を目指しますが、それだけではなく、ゲノムからがん発生メカニズムを解析することでその予防、診断方法が進歩することによる早期診断、早期治療の実現も期待されるところです。 ゲノム医療で世界に遅れる日本 がん治療におけるこの分野は、多くのがん患者を治療するという観点からの期待のほかに、創薬などがもたらす経済効果も期待されます。 しかし、日本の場合、かつては米と競うレベルだったゲノム医療研究も、現時点で米は元より欧州各国にも後れを取っています。ゲノム情報による精密医療は医療費削減の可能性もあるだけに、国としてこの分野により一層の注力が求められています。 公開日:2016/04/11
野菜や果物は、食道がんの予防が期待されています。具体的にその効果が期待されている野菜や果物、またその食べ方について解説します。 目次 食道がんの予防が期待される食べ物 野菜や果物を摂取することがもたらす効果 野菜と果物の効果的な食べ方とは 食道がんの予防が期待される食べ物 食道がんは、先進国の中でも日本人に多くみられるがんだといわれています。食道がんは、50代~70代に多くみられ、特に男性に多く転移しやすい病気です。 食道がんは、喫煙する人や飲酒を好む人、また辛い味の刺激物を好む人などの、食道に刺激をうけやすい環境の人がかかりやすい病気とされています。 そんな食道がんの予防が期待される食べ物といえば、みなさんは特別なものを思い浮かべるかもしれません。しかし、食道がんの予防が期待される食べ物は、私達の身近で手に入りやすいものばかりです。 その身近な食べ物は、野菜や果物です。では、野菜や果物を摂取することでどのような予防が期待できるのかをみていきましょう。 野菜や果物を摂取することがもたらす効果 国立がん研究センターの研究結果によると、野菜や果物の合計摂取量が1日当たり100グラム増加することで、食道がんのリスクが約10%低下したというデータがあります。 野菜や果物の中でも特に、カイワレダイコンやキャベツ、ダイコンやブロッコリーなどのアブラナ科の野菜を摂取することが食道がんの予防と改善のひとつになるといわれています。アブラナ科の野菜は、発がんを抑制するとされるイソチオシアネートを多く含んでいるためです。 ほかにも、野菜や果物を摂取することによって、喫煙・飲酒者でも食道がんにかかるリスクの低下につながるとされています。喫煙や大量の飲酒を行う人が、野菜や果物の合計摂取量を1日当たり100グラム増加させると、食道がんのリスクが約20%低下したという報告もあります。 野菜と果物の効果的な食べ方とは このように、野菜や果物を摂取することが食道がんの予防として期待されているのですが、野菜や果物のどちらかだけを食べていればいいというわけではありません。野菜と果物の両方をバランスよく摂取することでその効果も高まります。 野菜や果物は、できれば生のまま、もしくは調理した後すぐに食べることがよいとされています。アブラナ科の野菜に含まれるイソチオシアネートという成分は加熱に弱いとされており、調理後に時間が経過することでその量がどんどんと減ります。 そのため、野菜や果物を摂取するのであれば、調理後すぐに飲めるスムージーやサラダなどで摂取することがよいでしょう。 野菜は苦手だなあという人も少なからずいらっしゃるでしょう。急に野菜や果物を大量に摂取して、お腹を壊す恐れもありますので、無理のない範囲内で少しずつ始めていき、毎日続けていくことが望ましいでしょう。 公開日:2016/04/04
私たちは見た目に痩せていると美しいと感じてしまいがちで、過度なダイエットをしてしまう傾向があります。しかし、無理なダイエットの結果、痩せすぎの体にはさまざまな病気の危険性をはらみます。自分のBMIを把握して、外見だけでなく内面的にも美しい体作りを心掛けましょう。 目次 無理なダイエットを繰り返していると、かえって太りやすくなることも… 70歳以上の痩せすぎの人は、骨粗しょう症に注意!さらに、がんも死亡も高リスク BMIを基準にした標準体形(BMI:23.0~24.9)とやせ体形(BMI:14.0~18.9)を比較!そのリスクは? 健康的に体重を増やすには、バランスのとれた三度の食事と適度な運動を 無理なダイエットを繰り返していると、かえって太りやすくなることも… いつの頃からか一般的に、痩せていると健康的で、太っていると健康管理ができていないというイメージが定着してきました。さらに、痩せた俳優やモデルを美しいと感じる人が多いため、それに憧れてダイエットに励む人は、年齢や性別を問わず多くいます。しかし、生活習慣病を引き起こしやすい肥満ほど注目が集まりませんが、痩せすぎも健康上よくない状態だと言えます。 若い世代で多くみられるのが、減量の必要がないにもかかわらずダイエットを続けた結果の痩せすぎです。成長期であれば、発育が妨げられることは言うまでもありませんが、そのほかに摂食障害(拒食症、過食症)が引き起こされる恐れもあります。場合によっては、入院が勧められることもあります。無理なダイエットを繰り返していると、筋肉の減少に伴い基礎代謝量が落ちて、かえって太りやすくなることも心配されます。 痩せているのか、標準的なのか、肥満なのか、自分の体形を知るには、まずは自分のBMIを把握しましょう。BMIが分かれば、日本肥満学会の定めた下記の基準から、体形を知ることができます。 BMIチェックはこちら 肥満度の判定基準 BMI 肥満度判定 18.5未満低体重(やせ) 18.5~25未満普通体重 25~30未満肥満(1度) 30~35未満肥満(2度) 35~40未満肥満(3度) 40以上肥満(4度) 70歳以上の痩せすぎの人は、骨粗しょう症に注意!さらに、がんも死亡も高リスク 中高年の方が生活習慣病にならないように、肥満の予防あるいは改善に取り組むのは、とても大切なことです。しかし、その意識のまま70代を迎えると痩せすぎて、特に女性は骨がもろくなる骨粗しょう症になる恐れがあります。骨がつくられるのに関わる、エストロゲンという女性ホルモンに似た働きをもつ物質は、脂肪細胞によって分泌が促されます。痩せて脂肪が減ると脂肪細胞も減るため、骨がつくられにくくなってしまうのです。また、丈夫な骨がつくられるには骨に対してある程度の負荷が必要となりますが、痩せすぎると体重が減って骨に十分な負荷がかからず、骨量の減少へとつながってしまいます。 がんや死亡のリスクの観点からも、やはり痩せすぎはよくないと言えます。以下の研究結果によると、標準的な体形と比べてやせ体形のリスクは高くなることが分かっています。男性の死亡リスクに至っては、肥満体形が標準的な体形の2.0倍なのに対して、やせ体形はそれよりも高い2.3倍という結果になっています。 BMIを基準にした標準体形(BMI:23.0~24.9)とやせ体形(BMI:14.0~18.9)を比較!そのリスクは? 男性女性 総死亡……2.3倍がん全体… 1.2倍腎がん……1.9倍がん死亡…2.0倍 総死亡……1.9倍がん死亡…1.4倍 出典:国立がん研究センター『多目的コホート研究の成果2014年12月』 健康的に体重を増やすには、バランスのとれた三度の食事と適度な運動を 痩せすぎのリスクは理解できても、何を食べても太らない体質の人や、ダイエットをしていなくても自然と痩せてしまう人もいることでしょう。そのような人も含めて、健康的に体重を増やすためにまず心掛けたいのが、三食をしっかりととることです。一食でも抜くと摂取カロリーが不足しがちで、栄養バランスも崩れやすくなります。肥満を恐れて肉や卵などの食品を控えたり、健康によいとされる粗食を毎日続けたりするようなことはせず、バランスのとれた食事を心掛けましょう。 適度な運動も、特に骨粗しょう症の恐れがある高齢の女性は必要です。筋肉は年齢とともに落ちていくものですが、脂肪よりも重い筋肉の減少は、そのまま体重の減少に直結します。筋肉量を維持するための運動は、定期的なウォーキングなどで十分です。激しい運動は、食事から摂取した以上のカロリーを消費する恐れがあるほか、ケガにつながる危険性もあるので、控えるようにしましょう。 無理をして痩せようとしている人は、スリムであれば美しいという考えにとらわれず、病気のリスクの低い健康美を目指してみてはいかがでしょうか。食事や運動に気をつけても体重が減る場合は、胃腸の不具合の可能性などが考えられます。心配なときは、一度内科で診てもらうとよいでしょう。 公開日:2016/03/28
悪性腫瘍であるがんには、その進行度による分類、病期があります。この病期には、このがんがこの後、どうなっていくのか、体に対する影響はどうか、また、過去の事例から治療方針を決定する際などに参照されます。 目次 治療方針決定のための病期 生存率に関わるがんのステージ 完治を目指すのか、苦痛緩和のための治療を行うのか インフォームド・コンセント 早期であればがんは治療できる 治療方針決定のための病期 日々進歩する医学と医療技術は、がんの治療でも成果を挙げ、がんが死の病だと思われた時代は過去のものとなりつつあります。しかし、まだ、人類はがんを完全に治療するには至っておらず、がんが命に関わる病気であることに変わりはないようです。 悪性腫瘍であるがんには、その進行度による分類、病期があります。この病期には、このがんがこの後、どうなっていくのか、体に対する影響はどうか、また、過去の事例から治療方針を決定する際などに参照されます。 がんの病期は、そのがんの臓器、部位により異なりますが、大まかにいえば診察と各検査などの結果、がんの広がっている度合い、場所や大きさ、転移の有無により決められます。 生存率に関わるがんのステージ まずはTNM分類という分類を行います。元々のがんの大きさと進行度別に分類、そしてそのがんの部位が属しているリンパ節への転移で分類、また、他臓器への転移の有無でも分類します。 このTNM分類を基礎として、がんの病期は軽い状態から順番に「ステージI」「ステージII」「ステージIII」「ステージIV」の4段階に分けられることになりますが、これらはさらに「ステージIIIA」「ステージIIIB」のように細かく分かれる場合があります。そしてこの数字が大きくなれば、生存率は下がることになります。 完治を目指すのか、苦痛緩和のための治療を行うのか 肺がんの治療の場合、ステージIであれば外科手術でがん病巣と周辺を切除し、必要であれば抗がん剤を使用することになります。ステージIIも同様ですが、術後に化学療法が行われることが多くなります。そして、ステージIIIからは完治を目指す治療を行うのか、苦痛緩和のための治療を行うのかでその方針が変わっていきます。 ステージIIIの中でもステージIIIAであれば、完治のための手術と放射線治療、その後に化学療法が行われることもありますが、ステージIIIBやステージIVは手術が困難であることも多く、その治療はがんの進行を遅らせるためと、苦痛を緩和するための化学療法などになります。 インフォームド・コンセント がんの診断で、かつて医師たちはその病名と病状、病期について、患者本人には知らせず、家族などの近親者のみに説明することが多かったようです。しかし、現在はこれから行われる医療行為やその治療が行われる根拠について、患者自身が理解し、納得するべきだというインフォームド・コンセントという観点から、がんの病期なども患者に告知されることが原則となっています。 完治を目指さない場合、医師から余命がどれぐらいの期間だと推測され、告げられることになります。がん患者とその家族には、その心構えも必要な時代となっています。 早期であればがんは治療できる しかし、がんにかかったとしても、早期であれば治療方法が確立されている場合が多いのも事実です。治療のためには、どれだけ早くそのがんを見つけられるかが鍵になります。 完全にがんを予防することは不可能ですが、検診などにより、その発生を早い段階で見つけるための努力は行うことができるでしょう。自らの体の状態に注意を払い続けること、それが大切だといえるでしょう。 公開日:2016/02/29
部位別の死亡者数・罹患者数で上位を占めている胃がんは、早期に発見されれば多くの人が治るとされています。早期発見のためには検診が重要です。ここでは、検診の実施間隔や検診方法などについて解説します。 目次 50歳以上の人は2年に1回、胃がん検診を! 厚生労働省が推奨する自治体の胃がん検診 胃がんが疑われる人を見つけ出す「胃がん検診」と、診療として詳しく調べる「精密検査」 胃がんは、早期に発見されれば90%以上の人が治る病気 50歳以上の人は2年に1回、胃がん検診を! 胃がんはかつて、日本人の部位別のがん死亡者数で、もっとも多いがんとして知られていました。近年は第1位でこそないものの、依然として男女ともに、部位別の死亡者数で肺がんや大腸がんとともに、上位を占めています。また、部位別の罹患者数(りかんしゃすう:がんにかかった人数)でも、胃がんは上位となっています。 自治体が行う胃がん検診として、厚生労働省から長年にわたり、バリウムを飲んで行うX線検査(レントゲン検査)が推奨されてきました。それが2016年4月以降より、X線検査とともに内視鏡検査(胃カメラ)も推奨されることになりました。さらに、対象年齢は「50歳以上」、実施間隔は「2年に1回」に変更されます。ただし、X線検査は当分の間、これまでどおり対象年齢は「40歳以上」、実施間隔は「1年に1回」としても、問題はないとされています。 厚生労働省が推奨する自治体の胃がん検診 変更前 変更後(2016年4月以降) 検診方法 X線検査 X線検査または内視鏡検査 対象年齢 40歳以上 50歳以上 実施間隔 1年に1回 2年に1回 推奨される胃がん検診を変更する根拠となったのは、韓国の大規模な調査の結果や、いち早く内視鏡検査を導入している新潟県・鳥取県での調査の結果です。これらによって、内視鏡検査で胃がんによる死亡率を下げられることや、「50歳以上・2年に1回」という対象年齢・実施間隔で問題ないことが確かめられました。 なお、胃がん検診の方法として、ほかにも血液検査(ペプシノゲン検査、ヘリコバクターピロリ抗体検査など)がありますが、厚生労働省が推奨する検診方法には含まれていません。 胃がんが疑われる人を見つけ出す「胃がん検診」と、診療として詳しく調べる「精密検査」 胃がん検診の結果が陽性(胃がんの疑いあり)だった場合は、精密検査を受けることが勧められます。精密検査で行われるのは内視鏡検査ですが、胃がん検診の内視鏡検査とは、異なる点があります。 胃がん検診の内視鏡検査は、胃がんの疑いのある人を発見することを目的として行われます。一方、「診療」と位置づけられる精密検査の場合は、色素の散布や細胞の採取など、体にはたらきかける処置が行われるという違いがあります。そのため、胃がん検診としての内視鏡検査よりは時間がかかり、体にかかる負担もそれだけ大きくなりますが、がんがある場合は進行度なども含め、より詳しく調べることができます。 胃がんは、早期に発見されれば90%以上の人が治る病気 胃がん検診の内視鏡検診を普及させるには、課題もあります。その一つが費用で、内視鏡検査は、X線検査よりも多くの費用がかかります。また、検査を実施する医師・医療施設の確保や、検診を行う体制の整備も必要であるため、すぐには導入できない自治体もあると考えられます。なお、自治体の胃がん検診でX線検査を受ける人が負担する費用は、自治体によっても異なりますが、安ければ無料で、高くても3,000円程度です。 胃がんは、早期に発見されれば90%以上の人が治ると言われています。発見が遅れれば、がんが進行して治る可能性も下がってしまうので、対象年齢に該当する方は、胃がん検診を受けることが勧められます。受けられる胃がん検診の内容や費用、実施している施設など、詳しくはお住まいの自治体のがん検診担当窓口に問い合わせましょう。 公開日:2015/11/16
咽頭がんの初期症状や治療法、また上咽頭・中咽頭・下咽頭それぞれの生存率を紹介します。 目次 初期症状はのどや鼻の違和感、軽い痛みなど 症状や治療、生存率は? 上咽頭がんの症状や治療、生存率 中咽頭がんの症状や治療、生存率 下咽頭がんの症状や治療、生存率 咽頭がんの手術後に行われるリハビリとは?声を失うことも… 初期症状はのどや鼻の違和感、軽い痛みなど 咽頭がんの初期症状は、のどの違和感や軽い痛みなどで、強い自覚症状が特にないことも少なくありません。がんが大きくなるにつれて、食事の通りにくさや息苦しさ、首のしこりなどが現れます。そのほかに、上咽頭がんの場合は耳がつまった感じや鼻づまり、鼻血、中咽頭がんの場合は片側の扁桃腺の腫れ、下咽頭がんの場合は声のかすれなどが初期症状として現れることがあります。 咽頭がんの病期(ステージ)は、がんの広がりとリンパ節転移の有無、別の臓器への転移の有無によって決まります。進行すると、上咽頭がんは中咽頭、鼻腔、頭蓋骨、副鼻腔、頭蓋内、下咽頭、眼窩(がんか:眼球が入っているくぼみ)へと広がっていきます。同様に、中咽頭がんは喉頭、あごの骨、頭蓋骨の方向、頸動脈のまわりへ、下咽頭がんは食道、背骨の方向、頸動脈のまわりへと広がります。 症状や治療、生存率は?上咽頭・中咽頭・下咽頭それぞれの場合 上咽頭・中咽頭・下咽頭それぞれの役割と、がんができた場合の主な症状、病期(ステージ)ごとの5年相対生存率(※後述)、治療法は以下のとおりです。 ※5年相対生存率とは、治療によってどれくらい命が救われるかを示す指標です。年齢や性別が同じ日本人で、各がんではない人と比べて、各がんの人が、診断から5年後に生存している割合がどれくらい低いのかを表しています。100%に近いほど生存の可能性が高く、0%に近いほど生存の可能性が低いことを意味しています。 上咽頭 ■上咽頭の役割とがんの症状 役割呼吸する耳の圧の調整 がんの症状鼻の症状(鼻づまり、鼻血、鼻水に血が混ざるなど) 耳の症状(耳がつまった感じ、聞こえにくいなど) 脳神経の症状(目が見えにくくなる、二重に見えるなど) 首のリンパ節の腫れなど 出典:国立がん研究センターがん情報サービス 各種がんシリーズ『咽頭がん』 ■上咽頭がんの病期別生存率(対象:2007〜2009年に診断を受けた患者さん) 病期 症例数(件) 5年相対生存率(%) Ⅰ1683.5 Ⅱ6492.0 Ⅲ11366.8 Ⅳ14052.1 全症例33566.2 出典:全国がんセンター協議会の生存率共同調査(2018年9月集計) ■上咽頭がんの治療 上咽頭がんの治療で中心となるのは、がんに放射線を当てる放射線治療と、化学療法(抗がん剤治療)です。 外科手術はリンパ節転移が疑われる場合を除いて、ほとんど実施されません。そのため、中咽頭がんや下咽頭がんの手術後に行われるような再建手術は、上咽頭がんの治療では行われません。 中咽頭 ■中咽頭の役割とがんの症状 役割呼吸する正しく発音するのみ込む がんの症状のみ込むときの違和感、のどにしみる感じ、のどの痛み・出血 息が鼻に抜けて言葉がわかりにくくなる 口を開けにくくなる 首のリンパ節の腫れなど 出典:国立がん研究センターがん情報サービス 各種がんシリーズ『咽頭がん』 ■中咽頭がんの病期別生存率(対象:2007〜2009年に診断を受けた患者さん) 病期 症例数(件) 5年相対生存率(%) Ⅰ2061.9 Ⅱ6980.4 Ⅲ6469.3 Ⅳ33748.8 全症例49456.3 出典:全国がんセンター協議会の生存率共同調査(2018年9月集計) ■中咽頭がんの治療 中咽頭がんの治療では、がんがまだ広がっていなければ、がんに放射線を当てる放射線治療と、化学療法(抗がん剤治療)が中心となります。がんがすでに広がっている場合は、手術が治療の中心となります。 手術では、がんとともにまわりの組織も切除するため、正しく発音する、食べ物を飲み込むといった機能が損なわれることがあります。これらの機能をできるだけ保てるように、切除した部分を、体の別の場所から切り取ってきた組織で埋める再建手術が行われることがあります。 下咽頭 ■下咽頭の役割とがんの症状 役割のみ込む がんの症状のみ込むときの異物感、のどにしみる感じ 耳の周りの痛み、声がれ 首のリンパ節の腫れやしこりなど 出典:国立がん研究センターがん情報サービス 各種がんシリーズ『咽頭がん』 ■下咽頭がんの病期別生存率(対象:2007〜2009年に診断を受けた患者さん) 病期 症例数(件) 5年相対生存率(%) Ⅰ2869.9 Ⅱ7162.1 Ⅲ7160.3 Ⅳ33534.6 全症例51143.8 出典:全国がんセンター協議会の生存率共同調査(2018年9月集計) ■下咽頭がんの治療 下咽頭がんの治療は、中咽頭がんと同様に、がんがまだ広がっていなければ、がんに放射線を当てる放射線治療と、化学療法(抗がん剤治療)が中心となります。がんがすでに広がっている場合は、治療の中心となるのは手術です。 下咽頭がんの手術では、喉頭や下咽頭、食道の一部の切除、または全部摘出が行われることがあります。食道や咽頭を切除しても、体の別の場所から切り取ってきた組織で埋める再建手術を行えば、食事は多くの場合、治療前とほぼ同じようにできます。呼吸がしにくいときは、空気の通り道を確保する手術が行われます。 咽頭がんの手術後に行われるリハビリとは?声を失うことも… 治療を終えてから少なくとも5年は、体調や再発の有無を内視鏡検査や触診で確認するために、通院する必要があります。再発が見つかりやすい治療後1~2年は、1~2ヵ月に1回の頻度が一般的です。それ以降の間隔は、治療の内容や体の状態によって異なります。 手術で切除した部位の再建だけではフォローしきれない機能がある場合は、退院後もリハビリが必要になります。食べ物が噛みにくい、首や肩の痛みで腕が上がらないといったときは、リハビリ科の医師や言語聴覚士、理学療法士などの指導の下で、リハビリが行われます。 下咽頭がんの手術で喉頭を全部摘出した場合 喉頭を全部摘出すると、治療前と同じように発声することはできません。ただし、食道発声法(喉頭の代わりに咽頭や食道粘膜を震わせて声を出す方法)や、電気式人工喉頭による発声法(小型マイクのような器械をあごの下の皮膚に当て、電気的に振動させて声を出す方法)をリハビリで習得することによって、まわりの人とコミュニケーションをとることは可能です。 前のページでは咽頭がんの早期発見、基礎知識について解説します。 ■関連記事 がん10年生存率は56.3%、80%以上は前立腺、甲状腺、乳房、子宮体など 国立がん研究センター/全国がんセンター協議会 がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2) 食道がん公開セカンドオピニオンで悩み解決、専門医・薬剤師・患者会がコラボライブ 咽頭がんを早期発見するには?そもそも咽頭とはどこのこと? 婦人科がん(子宮・卵巣のがん)の発症リスクと治療後のむくみ対策 キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクール 乳がん治療後のむくみ対策は肥満解消と運動 キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクール 公開日:2015/07/13更新日:2020/09/25
咽頭がんは大腸がんや乳がんなどのようながん検診はないため、早期発見には初期症状に気づいた時に早めに医療機関で検査を受けることが大切。咽頭がんの初期症状や予防について解説します。 目次 「咽頭」とは、どこを指す? のどや鼻に違和感があれば、早期発見のため早めに検査を 予防には喫煙・飲酒を避け、バランスの良い食事をすることが大切 「咽頭」とは、どこを指す? テレビやインターネットなどで、咽頭(いんとう)がんのニュースを見聞きしたことがある方は少なくないはずです。しかし、この病気について、どれくらいの方々が理解できているでしょうか。 人間ののどは、鼻の奥から食道までつながり、食べ物と空気の通り道となっている「咽頭」と、俗に「のどぼとけ」と呼ばれる甲状軟骨(こうじょうなんこつ)に囲まれ、舌の付け根から気管までつながっている「喉頭」(こうとう)の2つに分かれます。咽頭は場所に応じて、上から「上(じょう)咽頭」「中(ちゅう)咽頭」「下(か)咽頭」の3つに分けられ、のどの一番下の前面(腹側)が喉頭、後面(背中側)が下咽頭という位置関係になります。 咽頭のがんは、できた位置ごとに「上咽頭がん」「中咽頭がん」「下咽頭がん」に分類され、それらの総称として「咽頭がん」という表現が用いられます。中咽頭がんと下咽頭がんは、口の中や食道にがんができている場合もあります。喉頭にがんができた場合は「喉頭がん」と呼ばれ、咽頭がんとは区別されます。 のどや鼻に違和感があれば、早期発見のため早めに検査を 咽頭がんには、大腸がんや乳がんなどのようながん検診はありません。そのため早期発見には、のどや鼻の違和感や軽い痛みなどの初期症状に気づいたとき、医療機関で検査を受けることが大切です。咽頭がんの検査は、次のような方法で行われます。 視診 鼻や耳の穴に光を当てて直接観察する、あるいは小さな鏡が付いた医療器具を用いて、口から鼻やのどの奥を観察する検査。 触診 口の中に指を入れて、がんがあると思われる部位を触ったり、首のまわりを触ってリンパ節の転移がないかを調べる検査。 内視鏡検査 鼻の穴や口から内視鏡を入れて、鼻やのどの奥をモニターで観察する検査。 生検(せいけん) がんの疑いがある部位の組織の一部を内視鏡で切り取り、顕微鏡で調べる検査。 超音波(エコー)検査 センサーを首に当てて、モニターに映る波形でリンパ節の転移や周囲の臓器との関係性などを調べる検査。 CT、MRI検査 CTはX線を、MRIは磁気を利用して、首周辺を輪切りにした状態の画像を撮影することで、がんの広がりを観察する検査。 予防には喫煙・飲酒を避け、バランスの良い食事をすることが大切 上咽頭がんは、40~70歳代の男性に多いがんですが、若い世代で発見されることもあります。はっきりとした原因はまだよく分かっていませんが、遺伝やEBウイルスという種類のウイルスに感染することなどが、発症と関係していると考えられています。 中咽頭がんと下咽頭がんは、50~60歳代の男性で多くみられます。発症リスクを高めると考えられているのは、長期にわたる喫煙や過度の飲酒、熱い食べ物や飲み物などです。中咽頭がんは、HPV(ヒトパピローマウイルス)という種類のウイルスが、発症に関連していると考えられています。下咽頭がんは、鉄欠乏性貧血で発症リスクが高まります。特に女性は鉄欠乏性貧血になりやすいので、注意が必要です。 咽頭がんを予防するには、野菜や果物をバランスよく食べることが大切です。栄養素の中では、にんじん、かぼちゃ、ほうれん草などの緑黄色野菜に多く含まれるβ-カロテンに、予防効果があると言われています。咽頭がんに限らず、ほかの部位のがんの予防でも言えることですが、喫煙や飲酒を避け、バランスの良い食事を心がけましょう。 次のページでは咽頭がんの症状と治療、生存率について解説します。 ■関連記事 がん10年生存率は56.3%、80%以上は前立腺、甲状腺、乳房、子宮体など 国立がん研究センター/全国がんセンター協議会 がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2) 食道がん公開セカンドオピニオンで悩み解決、専門医・薬剤師・患者会がコラボライブ 咽頭がんの症状と治療、そして生存率 婦人科がん(子宮・卵巣のがん)の発症リスクと治療後のむくみ対策 キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクール 乳がん治療後のむくみ対策は肥満解消と運動 キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクール 公開日:2015/07/13更新日:2020/09/25
乳がん手術により乳房を失った女性の精神的苦痛をやわらげ、QOLの低下を防ぐことが期待できる乳房再建は、全額自己負担でしたが、2013年に保険適用が承認されました。乳房再建の方法やタイミングについて解説します。 目次 健康保険が使える、人工乳房を用いた手術 それぞれ長所と短所がある、2つの乳房再建の方法 乳房再建を行うのは、乳がん手術と同時?手術後? 健康保険が使える、人工乳房を用いた手術 乳がんの手術は、がんのまわりの正常な組織も切除する必要があるため、乳房の一部または全部が失われてしまうことがあります。女性にとって乳房はとても大切なものであり、これを失うことは大きな精神的苦痛を伴います。人工的に乳房を形作る乳房再建は、乳がんの手術を受けた女性のQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)の低下を防ぐことが期待できるものの、その方法の一つである人工乳房を用いた手術の費用は、全額自己負担でした。 その人工乳房の保険適用が、2013年6月に厚生労働省から承認されました。これにより、乳房再建を希望する人の経済的負担が軽くなりました。特定の人工乳房しか保険適用の対象にならないこと、手術は認定を受けた医療機関に限られることなどの制限は残されているものの、人工乳房を用いた手術が、乳がんの治療の一環であると認められた意義は大きいと言えるでしょう。 それぞれ長所と短所がある、2つの乳房再建の方法 乳房再建には、前述の人工乳房を用いた手術を含む2つの方法があり、それぞれに長所と短所があります。 乳房再建の方法 ●自分の組織を使う方法 患者さん本人の、乳房とは別の部位から組織(皮膚、脂肪、筋肉、血管)を移植して、乳房を構成する方法です。主に腹や背中から移植します。元々自分自身の組織なので、外観や手触りが自然であり、人工乳房より早くから保険適用が承認されていました。人工乳房による再建と比べると手術時間が長く、体への負担がかかることや、移植元の部位に手術跡が残ることが難点として挙げられます。 ●人工乳房による方法 組織拡張器(ティッシュ・エクスパンダー)と呼ばれる医療器具を胸の筋肉の下に入れ、皮下組織を乳房の形に膨らませます。膨らんだ後に、シリコン製の人工乳房と入れ替えて縫い合わせます。自分の組織を使う方法と比べて手術時間が短く、乳房切除以外の手術跡は残りません。難点は外観や手触りの自然さでは劣ること、保険適応が限られることなどが挙げられます。 乳房再建を行うのは、乳がん手術と同時?手術後? 乳房再建は、乳がんの手術の際に同時に行われる一期再建と、乳がんの手術とは別の時期に行われる二期再建に分けられます。どちらで行うかは、患者さん自身の考えや、がんの進行度などを考慮して決めることになります。患者さんが納得した上で手術を受けられるように、患者さん、切除手術を担当する外科医、乳房再建を担当する形成外科医が、手術前によく話し合うことが必要となります。 公開日:2013/10/21
ほくろは年齢や性別を問わず、誰にでもあるものですが、ほくろが徐々に大きくなる、色が濃くなる、硬くなるなどの変化があれば、「ほくろのがん」と呼ばれる悪性黒色腫(メラノーマ)かもしれません。悪性黒色腫(メラノーマ)とは?悪性黒色腫(メラノーマ)が現れる部位やその原因、治療法について紹介します。 目次 ほくろかと思いきや、実はがん!? 日本人で多くみられるのは足の裏、手のひら、手足の爪など 手術の後に抗がん剤治療などが行われることも 悪性黒色腫の主な治療法 ほくろかと思いきや、実はがん!? ほくろは年齢や性別を問わず、誰にでもあるもの。美容的な観点を別にすれば、ほくろがあるからといって、健康上の問題は特にありません。しかし、そのほくろが徐々に大きくなる、色が濃くなる、硬くなるなどの変化があれば、それは通称「ほくろのがん」と呼ばれる悪性黒色腫(メラノーマ)かもしれません。悪性黒色腫は皮膚がんの一種であり、悪性度が高く、肺や肝臓などほかの臓器に転移することもあります。 日本人で多くみられるのは足の裏、手のひら、手足の爪など 悪性黒色腫は、メラニン(皮膚の色の構成要素となる色素)をつくる色素細胞(メラノサイト)や、ほくろを構成する母斑細胞(ほくろ細胞)ががん化することで発生します。良性の一般的なほくろが悪性になる可能性は低いのですが、見た目ではそのほくろが良性か悪性かを判断することは難しいようです。高齢者で多く発生する傾向があるものの、若年者でみられることもあります。 悪性黒色腫のはっきりとした原因はよくわかっていませんが、日本人より生まれつき紫外線の影響を受けやすい白色人種に多く発生することから、ほかの皮膚がんと同様、紫外線が関係すると考えられています。また、日本人では足の裏や手のひら、手足の爪などに現れる人が多いため、日常生活における外部からの刺激との関連性も疑われています。予防のためには、過度な日焼けや刺激を与える行為(焼いてほくろをとろうとするなど)は控えるようにしたいもの。ほくろの大きさや色の変化などが気になる場合は、皮膚科で相談しましょう。 手術の後に抗がん剤治療などが行われることも 悪性黒色腫の治療は進行の度合いによって異なりますが、主に以下のような治療法があります。悪性黒色腫になる前段階である「悪性黒色腫前駆症」という状態で発見できるのがもっとも望ましく、早期発見・早期治療が何よりも大切だと言えるでしょう。 悪性黒色腫の主な治療法 ●外科手術 悪性黒色腫の治療の基本。初めにできた病巣は、まわりの皮膚に転移しやすいので、病巣より数cm広い範囲で切除されます。 ●化学療法(抗がん剤治療) 手術で取りきれない小さながん細胞が、リンパ節などへ転移するのを防ぐため、手術後に一定期間にわたり、静脈内に点滴注射で抗がん剤が投与されることがあります。 ●放射線療法 悪性黒色腫ではあまり効果がみられませんが、限られた医療施設で行われている速中性子線や重粒子線という種類の放射線を照射すると、効果が得られることがあります。 ●インターフェロンによる治療 がんの増殖を抑えるインターフェロンという薬を、手術後の皮膚転移を防ぐことを目的として、単独またはほかの治療法とともに用いられます。 ●免疫療法 自らの免疫力を高めることで、治療効果が得られることが期待される方法です。採取した免疫細胞を体外で培養して増やし、再び体内に戻す方法などが行われます。 ※上記は初発病巣に対する治療で、転移した場合は手術後の化学療法が中心になります。 公開日:2013/08/19
乳がんや子宮頸がんといった「女性特有のがん」が話題となる一方、女性の部位別がん死亡者数でもっとも多いのが「大腸がん」であることは、あまり知られていないかもしれません。どの病気でもそうですが、大切なのは早期発見です。早期発見の最も有効な手段となるのが「大腸がん検診」です。40歳以上の人は定期的に大腸がん検診を受けるようにしましょう。 目次 女性のがん死亡者数1位は「大腸がん」 40歳を過ぎたら大腸がん検診へ 「異常なし」でも油断は禁物 女性のがん死亡者数1位は「大腸がん」 部位別のがんによる死亡者数(女性・2009年) 近年、乳がんや子宮頸がんに対する女性の意識が高まっています。 乳がんの早期発見にマンモグラフィー検査が有効であることや、子宮頸がんはワクチンの接種で予防できることなども、広く知られるようになりました。 女性特有のがんがさまざまなメディアで取り上げられる一方、女性の部位別がん死亡者数でもっとも多いのが「大腸がん」という事実は、多くの人が意外に思うかもしれません(2009年現在)。 しかも、実は2003年以降ずっと1位であり続けているのにも関わらず、あまり注目を浴びていないというのも驚くべき点でしょう。 なお、男性の死亡者数では肺がん、胃がんに続いて第3位。全部位合計の死亡者数は、女性が約13万8千人、男性が約20万6千人となっています(2009年現在)。 40歳を過ぎたら大腸がん検診へ 初期の大腸がんは、自覚症状が現れることはほとんどありません。 血便が出ることはあるものの、痔と思い込む人もいて、見逃されることが多いようです。 大腸がんの早期発見でもっとも有効だといえるのが、住んでいる地域や職場の集団検診や人間ドックなどで検診を受けることです。 大腸がんは、早期に発見されれば90%以上の人が治るといわれているので、検診を受ける意義は高いといえるでしょう。 大腸がん検診の対象年齢は40歳以上です。 問診のほかに、便の中にわずかな量の血液が含まれていないかを調べる「便潜血検査」が行われます。 これは、2日分の便を採取し、検査機関に提出するだけという簡単なものでありながら、死亡率を減らせることが証明されている信用度の高い検査だと考えられています。 便の採取は専用の検査容器で表面をこするだけでできるため、検査を受ける人にとって大きな負担にはなりません。 「異常なし」でも油断は禁物 便潜血検査で「陽性」(異常あり)という結果が出た場合は、さらに詳しく調べるために内視鏡検査などを受けることになります。 ただし、痔や月経による出血でも反応することがあるため、陽性だからといって必ずしも大腸がんであるとはいえません。 反対に、大腸がんがある場合でも100%の確率で陽性の反応が出るわけではないため、「陰性」(異常なし)という結果が出た人も、大腸がんの可能性を完全に否定することはできません。 このような発見漏れが起きる事態を避けるためにも、40歳以上の人は定期的に大腸がん検診を受けることが望ましいといえます。 公開日:2011/11/28
患者さんが増えていることから注目されている「前立腺がん」。とくに中高年男性にとっては、他人ごとではないでしょう。自覚症状が出にくいため、積極的にPSA検査を受けて早期発見しましょう。 目次 前立腺がんが増えている 50歳を過ぎたら、PSA検査を受けよう 術後の後遺症を軽減する新しい治療法 前立腺がんが増えている 天皇陛下が手術を受けられたことが報道されたり、患者さんが増えていることから注目されている「前立腺がん」。とくに中高年男性にとっては、他人ごとではないでしょう。 国立がんセンターがん対策情報センターの統計によれば、その罹患率は、1975年の4.4%から、2002年にはおよそ10倍の47.1%に上昇。2001年の統計では、男性の罹患者数が多い部位の5番目となっています。 前立腺がんの主な原因には、(1)平均寿命が延びて高齢男性人口が増えた、(2)食の欧米化、(3)PSA検査の普及 などが挙げられますが、まだはっきりとわかっていない要因も多いです。 同じように中高年男性に多い前立腺の病気に「前立腺肥大症」が挙げられます。しかし、前立腺肥大症が、尿道の近くで起こるため、排尿障害などの自覚症状が出やすいのに対し、前立腺がんは、前立腺の外側に発生しやすいがんであるため、自覚症状が出にくいといわれています。 50歳を過ぎたら、PSA検査を受けよう そこで、もっとも重要なのが、早期発見です。現在は、PSAと呼ばれる腫瘍マーカーによって早期発見できる可能性が高くなっています。自覚症状が出にくいがんだからこそ、積極的にPSA検査を受けたいもの。早期発見のメリットとしては、治癒できる可能性が高まることはもちろん、年齢や、本人の希望なども踏まえたうえで、治療法を選択することができるところにもあります。 PSAとは? 前立腺の組織に対し、特別に反応するタンパク質である前立腺特異抗原のこと。血液検査によって調べることができるため、スクリーニングに使われています。 術後の後遺症を軽減する新しい治療法 前立腺がんの主な治療法 ●手術療法…前立腺を手術で摘出する ●放射線療法…外部から放射線を当てる ●内分泌療法…前立腺がんが大きくなるときに働く男性ホルモン(テストステロン)の分泌を抑える 紹介したように前立腺がんには、大きく分けて3つの治療方法があります。しかし、手術の場合、ほかのがんと同様に体への負担も大きく、男性機能への影響や、尿失禁といった後遺症がしばしば問題となっています。 まずは、医師から提示された治療の選択肢のメリット、デメリットを確認し、自分が今後どのような生活を送りたいかといったことを踏まえて治療法を選びましょう。 そのほかにも、腹腔鏡(内視鏡)を使った手術や、直接前立腺に針を刺し、放射線を照射する(小線源療法)方法など、男性機能への影響が少ない治療方法も開発されており、選択肢の幅も広がっています。また、最近では、前立腺肥大症の治療に使われているHIFU(高密度焦点式超音波療法)を応用し、超音波でがんを焼く方法も開発が進んでいるといわれています。 しかし、これらの新しい治療法を選択肢に加えることができるかどうかは、発見されたときのがんの進行度によって大きく変わってきます。そのためにも年に1度はPSA検査を受け、早期発見に努めましょう。 公開日:2008/12/01
いまや日本人男性の2人に1人、日本人女性の3人に1人が「がん」になる時代です。がんによる死亡者数を減少させ、安心して治療が受けられるようにするために「がん検診」が役立ちます。がん検診の中でも個人を対象に行っているのが「人間ドック」です。 目次 2人に1人、3人に1人が「がん」の時代 意外に知らない?人間ドック おすすめの人間ドック施設ってあるの? 2人に1人、3人に1人が「がん」の時代 いまや日本人男性の2人に1人、日本人女性の3人に1人が「がん」になるといわれている時代。このような状況を受け、厚生労働省では、 がんによる死亡者数を減少させる がん患者さんとその家族が、できるだけ苦痛なく安心して治療が受けられる ということを目標にかかげ、さまざまな対策を行っています。 その中のひとつが、がんを早い段階で見つけて治療するために役立つ「がん検診」です。がん検診にはいくつかの種類がありますが、個人を対象に行っているのが「人間ドック」です。人間ドックは、胃や大腸にできるがんを発見することに特に効果があると言われています。近年では健康ブームも手伝い、人間ドックを受診する人が増えてきているそうです。 意外に知らない?人間ドック 人間ドックを受診する人が増えているというものの、その7割~8割は、すでに人間ドックを経験したことのある人が占めています(日本人間ドック学会「2007年人間ドックの現況」より)。 この背景には、人間ドックと地域や職場で受けるがん検診との違いや、人間ドックで行う検査の詳細を知らないなどといった、知識不足や不安があるのかもしれません。 人間ドックと地域や職場で受けるがん検診とでは、目的は同じですが、対象者や検査の対象となる体の臓器が異なっています。また、検査内容や費用なども各施設によって異なるため、まずはそれらの情報や不安に思うことなどを、事前に問い合わせて確認しておくといいでしょう。 人間ドックと地域や職場で受けるがん検診との違い 種類 対策型がん検診(地域や職場で受ける胃がん検診など) 個別型がん検診(人間ドックなど) 対象 地域住民や職場にいる人のある特定の臓器 希望をすれば、個人のすべての臓器 目的 がんの早期発見・早期治療、がんによる死亡者の減少 (日本人間ドック学会「2007年人間ドックの現況」より作成) おすすめの人間ドック施設ってあるの? 日本人間ドック学会のホームページでは、「機能評価認定施設」が紹介されています。「機能評価認定施設」とは、安心して人間ドックの検査を受けられる施設であるかどうかのチェックを受け、その結果認められた施設です。 また、個人の生活スタイルや希望にそった検査を行ってくれる施設も、おすすめできるといえます。例えば、3日以上かけてじっくりと検査できるメニューもあれば、時間の足りない忙しい現代人に人気の、半日や1日で帰れるメニューもあります。 二十歳以上になれば受けることができる人間ドック。さまざま医療が発達し予防医学が注目される中、推奨されている年に一回というペースで挑戦してみてはどうでしょうか。 公開日:2008/12/01
人間には細胞が自然再生する機能を持っています。ただし、残念ながらすべての組織、臓器にあてはまるわけではありません。こうした自然に再生できない組織や臓器を回復させることを目指した医療「再生医療」について説明します。 目次 再生医療って何? 応用の範囲はどこまで広がっているの? 再生医療はどこまで行くの? 再生医療って何? 責任を回避するため、上役が部下を切り捨てることを「トカゲの尻尾切り」などといいますが、これはそのものずばり、トカゲが敵に捕らえられそうになったときに、その尾っぽを切って逃げることに由来しています。しかし、トカゲの尻尾は切れたままではなく、再び伸びてくるもの。 人間も同じように細胞が自然再生する機能を持っています。それが「新陳代謝」です。ただし、残念ながらすべての組織、臓器にあてはまるわけではなく、また、ダメージが大きいと再生は不可能となります。こうした自然に再生できない組織や臓器の機能を回復させることを目指した医療を「再生医療」といいます。 つまり、大きな意味で捉えれば、輸血や他人の臓器や器官の移植はもちろん、人工心臓や義足のように人工的につくられたものを代用して機能を補う医療も、「再生医療」のひとつなのです。 応用の範囲はどこまで広がっているの? もともと人間が1つの受精卵からはじまっているというのは、ご存じのとおりでしょう。そこから皮膚や臓器などそれぞれに特有の機能を持った細胞へとわかれていきます。これが「分化」です。その細胞を供給するもととなる細胞を「幹細胞」といい、この幹細胞を使った再生医療は、すでに医療現場でも多く行われています。 幹細胞を使えば、同じ能力を持つ細胞をつくり出すことができます。なかでももっとも知られているのが、骨髄の中に存在する造血幹細胞です。これは白血病治療の選択肢として、もはやなくてはならないものとなりました。 また、現在もっとも注目されているのは、ES細胞やiPS細胞などの「万能細胞」と呼ばれる細胞による再生医療の実現です。これからの医療を大きく変える動きとして、世界中で莫大な研究費が投入されていることでも知られています。 骨髄移植 血液を作り出す素となる細胞を移植 皮膚移植 患者さん自身の皮膚を切り取って貼り付けたり、皮膚から取り出した細胞をシート状に培養して貼りつける 血管の再生 患者さんの体内にある血管内皮前駆細胞という細胞が蓄積し、新たに血管をつくる。骨髄細胞を投与することで、血管を作り出す その他、親知らずから皮膚をつくる方法や、関節軟骨を再生する技術、心筋や中枢神経、角膜など、あらゆる分野で再生医療の研究が進められています。 再生医療はどこまで行くの? では、万能細胞とは何なのでしょうか。ES細胞やiPS細胞について、もう少し詳しく見ていきましょう。 ES細胞 細胞分裂がある程度進んだ受精卵を壊してつくられるため、倫理的な問題点もあります。また、他人の細胞であるため、そのまま移植すると拒絶反応が起こります。拒絶反応を避けるためにクローン技術を使った方法(ヒトクローンES細胞)の研究が進められています。 iPS細胞 皮膚などの体細胞からつくられるため、拒絶反応の心配はありません。しかし、元となる細胞に導入する際、遺伝子の運び役として、発がん関連遺伝子を使うため、がんを発生させる確率が高くなるという指摘もあります。 万能細胞とは、機能が決まっている幹細胞と違い、体中のあらゆる細胞に変化でき、限りなく増殖できる細胞のことです。一部の問題をクリアすれば、その人自身の細胞をコピーして移植することもできるため、当然拒絶反応もありません。 細胞からつくったコピーで治療を効果を試したり、重篤な副作用の可能性を事前に調べ、回避するといったこともできます。つまりその患者さんのための医療、本当の意味でのオーダーメイド医療が可能となるのです。 もちろん、万能細胞の研究はまだはじまったばかりであり、こうした技術の応用は倫理的な観点から、一定の制限も必要となるでしょう。しかし、そう遠くない未来に、私たちはその恩恵を受けることができるようになるかもしれません。今から研究のゆくえには注目しておきたいところです。
自分で見つけられる唯一のがん「乳がん」 乳がんはすでに他人事ではない。食生活の欧米化や出産年齢の高齢化といったライフスタイルの変化に伴い、患者数は年々増加。今や女性の20人に1人がかかっているといわれているのだ。しかし、乳がんは自分で見つけられる唯一のがんとも言われている。ほんの少しの変化にも気がつくよう、乳がんセルフチェックを習慣づけたい。さらに「乳がん年齢」とも言われている40歳を過ぎたら年に一度のマンモグラフィ検診は欠かさずに。 早期発見によって治療の選択肢が拡大 がんと聞くと、今でも「=死」と連想する人が多い。しかし、乳がんに関しては、ステージ1までの早期の段階で発見できれば、その5年生存率は90%を超える※。早く見つけて適切な治療を行えば、もはや怖い病気ではない。 しかも乳がんは治療法の選択肢が多く、手術、放射線治療、ホルモン療法、化学療法などから、ステージやホルモン感受性をはじめとする患者自身の状態はもちろん、治療後の生き方も踏まえた治療の組み合わせ、選択が可能となってきている。さらにごく早期の乳がんであれば、女性にとって大切な乳房や、リンパ節を残す手術への可能性もひらける。リンパ節を残すことができれば、術後の生活や後遺症への不安も大幅に減らすことができるのだ。 ※一般にがんの完治は、5年生存率がひとつの目安となるが、進行が遅い乳がんの場合、10年間、再発や転移が見つからなければ完治という10年生存率を目安としている。 主な乳がんの治療法 ●外科手術 現在行われている主なものとしては、「乳房温存手術」と「乳房全摘手術」がある。乳房温存手術は、しこりを含め、乳房の一部分を切除する方法で、手術後には放射線照射か術後化学療法を行うケースが多い。乳房全摘手術は、乳房全部と、ごく早期の乳がんを除き、わきの下のリンパ節も切除する。 ●放射線治療 外科手術でがんを切除した後、再発を予防するために行われるのが一般的。そのほか、骨転移などがある場合、痛みをやわらげるためにも使われる。 ●薬物療法 ホルモン療法、化学療法、分子標的療法と大きくわけて3種類あり、患者ごとにホルモン感受性やHER2の発現状況などを評価したうえで、治療法が選択される。ホルモン療法は、エストロゲンががん細胞の成長に影響している「ホルモン依存型」の患者に適用される。化学療法は、術前にがんの縮小や再発・転移の予防を目的として行われる「術前化学療法」と、手術後の再発・転移予防を目的として行われる「術後化学療法」がある。また、新しい薬物療法である分子標的療法は、乳がん細胞の表面にあるHER2タンパクと呼ばれるタンパク質に対して、狙い撃ちできる療法だ。HER2タンパク、あるいはHER2遺伝子を過剰に持つ乳がんの治療に使われる。 リンパ節を残せるか?「センチネルリンパ節生検」 乳がんの治療の基本は手術でがんを取り除くことにある。古くは乳房すべてとわきの下のリンパ節、乳腺の下の胸筋まで切除するハルステッド法という方法がとられていた。しかし、切除範囲を狭くして、できるだけ機能を残すための手術方法の研究が進み、現在は、乳房温存手術の適応も拡大している。さらに最近では、がんのある場所に最も近いリンパ節(センチネルリンパ節)にがんの転移がなければ、そこから先のリンパ節に転移はないとみなし、切除しなくても良いという選択肢も出てきた。現在も研究が進められているが、このセンチネルリンパ節生検によって、術後の後遺症であるリンパ浮腫に悩む患者を減らせる可能性が広がったのだ。 乳がん治療の新たな可能性とは? 乳がんは、外科手術によってがんを取り除くことが治療のベースであり、乳房の一部に残る傷を避けることはできなかった。しかし近年では、ごく早期で見つかったがんの場合、保険適用外ながら、一部で内視鏡や超音波などを使った治療法も実施されている。こうした治療法の登場によって、乳房の形を崩すことなくがんを死滅させることができる可能性も出てきたのだ。 気になる乳房再建手術とは? 乳房再建手術とは、切除した乳房の代わりに、形成外科手術によって、乳房をつくるもの。 お腹や背中の筋肉など、体の一部を移植する方法と、シリコンなどの人口乳房を挿入する方法がある。保険適用外。 標準的な治療においても、術後化学療法の再発予防効果や、早期乳がんにおけるホルモン療法の有効性の確立など、乳がん治療に関する研究開発は日々成果を挙げている。ただし、こうした幅広い選択肢は、早期がんに限られているのが実情である。早期発見によって、その幅を広げるのは自分自身なのだ。 公開日:2007年9月18日
乳がんは自分で検査でき、早期発見につながりやすい。自分で簡単にできる「乳がん」チェックや、定期検診で行う検査を紹介。もし、しこりを見つけたら「乳腺外科」もしくは近くの病院に相談して専門医を紹介してもらおう。 目次 乳がんの早期発見はまず「自己検診」 自分で「乳がん」チェック! やっぱり定期検診も利用しよう しこりに気がついたら? どのくらいなら「早期発見」? 乳がんの早期発見はまず「自己検診」 乳がんの治療率は、ほかの部位のがんと比べて高いことが明らかにされている。その理由のひとつに、自分で検査ができるため、早期に発見されやすいことが挙げられる。痛みを感じるよりしこりに気がつくことのほうが多く、実際に病院を訪れる人のほとんどが「自分で胸にしこりがあることに気がついた」という。 自分で「乳がん」チェック! 女性ホルモンが安定するときが望ましいので、月経がある人は月経後1週間前後がよい。すでに閉経している人は、日にちを決めて(毎月1日や、自分の誕生日の日など)チェックする習慣にしてもよいだろう。 CHECK!裸になって鏡の前に立ち、自分の胸をしっかり見てみよう ●左右の乳房の大きさ、形に違いはないか ●両手を上げたり下げたりしてみて、へこみやひきつれはないか CHECK!仰向けに寝て腕を上げ、胸を触ってみるとさらによく分かる ●乳房を触ってみて、しこりがないかどうか。乳房を上から押さえるように触るとよい。しこりは、胸ポケットに小石を入れ、服の上から触ったときのような、こりっとした感触がある ●乳頭をつまんでみて、乳頭がただれたり血がでないかどうか やっぱり定期検診も利用しよう 自己検診を行っていても、なかなか気がつかないことや見落としはあるため、定期検診を受けることはとても大切。人間ドックや保健所、病院などで行っている定期検診を積極的に受けよう。 検診では通常、医師の質問に答える「問診」と目で見る「視診」、実際に触れる「触診」が行われる。そこで異常があると、乳房レントゲン検査などの精密検査が行われる。マンモグラフィや超音波検査は、触診だけのときよりも乳がんの発見に効果的だといえる。 しこりに気がついたら? 自己検診でしこりに気がついたからといって、すべてが乳がんというわけではない。とくに、30歳以上の女性にできやすい乳腺症などは素人には判断のつきにくい良性のしこりの場合もある。 いずれにせよ、しこりやちょっとした乳房の異変に気がついても、「乳がん」と診断されるのが怖くて、なかなか病院に行かないという人もいる。しかし、万が一、しこりが悪性のものだった場合は、早期治療が大切。しこりを見つけたらできるだけ早く病院へ行こう。 どのくらいなら「早期発見」? 早期発見といわれるのは、一般的にしこりの大きさが2cm以下のもの。しかし、乳がんの場合はしこりだけではなくリンパ節への転移があるかどうか、また遠隔への転移があるかどうかも判断基準とされる。しこりの大きさにかかわらず、とにかく「あれ?」と思ったらすぐに病院での診察を受けよう。 早めに専門医を受診しよう 病院へ行く場合には、乳腺を専門とする医師に診てもらうのがよい。「乳腺外科」という診療科目がある病院があればそれが望ましい。もしくはがん検診センターなどを受診しよう。もしどの病院に行けばよいのか分からない場合には、かかりつけの医師や近くの産婦人科に相談して紹介してもらうのもよいだろう。 公開日:2003年9月22日
日本の乳がんの患者数は年々増加傾向にあり、その原因は女性ホルモンと深い関係があると言われている。女性なら知っておきたい乳がんになりやすい傾向を紹介する。 目次 乳がん患者は増えている 乳がんになりやすいのはこんな人 乳がん検診で早期発見を! 乳がん患者は増えている 世界的に見ると、乳がん患者の数は、地域や国によって数に開きがある。日本を含む東アジアは、過去をさかのぼって見ても、欧米の、特に白人と比べれば少ない。とはいえ、国内の乳がん患者および乳がんによる死亡者は年々増加傾向にあるため、決して油断はできない状態にある。 乳がんになりやすいのはこんな人 乳がんは、女性特有の病気というイメージが強い。実際には、男性にも乳腺はあるので、まれにではあるが、男性も乳がんにかかることがある。しかし、女性ホルモンと深い関係があるため、やはり女性での発症が圧倒的に多い。乳がんになりやすい条件のいくつかも、女性ホルモンとの関係で説明することができる。 乳がんになりやすい条件 ●初経年齢が早い ●閉経年齢が遅い ●出産したことがない ●最初の出産年齢が遅い ●授乳したことがない ●閉経後に肥満になる …など 女性ホルモンのひとつ「エストロゲン」は、初潮とともに女性の体に分泌されるようになり、以後閉経までの間、月経のたびにエストロゲンを中心としたホルモン周期が始まる。しかし、何らかの原因でホルモンのバランスが崩れてエストロゲンが過剰になると、乳腺の上皮細胞が異常に増殖し、乳がんの発生を促してしまう。 つまり、月経がある期間が長ければ長いほど、女性ホルモンが作用している期間が長くなるため、リスクが大きくなるといえる。 そのほかに、お酒を習慣的に飲む人や、母親や姉妹、娘など、家族が乳がんの患者である人も、発症する可能性が高いといわれている。 乳がん検診で早期発見を! 乳がんは、まだあまり進行していない段階で治療すれば、高い確率で死亡を防ぐことができる。日本では、早期発見のための取り組みとして、「がん検診無料クーポン」や、がんについてやさしく解説した「検診手帳」が、一定年齢の女性に配布されている。配布される内容は各自治体によって異なるので、乳がん対策の第一歩として、まずは自分が暮らす自治体のがん検診担当窓口に問い合わせてみると良いだろう。 公開日:2003年9月22日
子宮筋腫、子宮内膜症、子宮がんに代表される子宮の病気があります。それぞれの病気の特徴、治療法などをまとめて紹介します。 目次 子宮筋腫 子宮内膜症 子宮がん 子宮筋腫 子宮筋腫のできる位置 子宮筋腫とは子宮の中にできる「こぶ」のようなもので、ほかの臓器に転移することのない良性の腫瘍。女性の体にできる腫瘍の中では最もポピュラーだが、無症状であることが多く、たまたま検診で見つかるなどのケースが多い。 30代半ば~50代半ばにかけておきやすいと言われているが、最近は初潮の低年齢化に伴い、20代にも見られることがある。 子宮筋腫は、どこにできる? 子宮筋腫はいくつかの部位に発生するが、子宮の筋層内にできるもの、子宮の内側にできるもの、子宮の外側にある腹膜にできるものの3つに大別される。そのうちの70%は筋層内筋腫と言われている。 子宮筋腫は、どうやって治療する? 子宮筋腫自体は、それ自体が命に関わるものではない。治療法も経過をみたり、薬で症状を抑えたり、それでも改善できないときには手術による対処方法もある。以下を参考にして、自分にあった治療法を選択しよう。 1 経過を見守る 筋腫が小さく、日常生活に支障がない場合は3ヵ月に1回程度婦人科を受診して経過を見守る方法をとる。ただし、急に大きくなった場合は要注意。悪性腫瘍である「肉腫」の可能性もある。妊娠中に筋腫が見つかった場合も、原則的に経過を見る。 2 薬物療法 貧血がひどい場合は鉄剤を処方される。筋腫は女性ホルモンの影響で大きくなることから、GnRHアナログという薬で女性ホルモンの分泌を抑え、「偽閉経療法」をとる場合がある。ただし、副作用として更年期障害に似た症状が出ることもあるので、投薬は長くても半年まで。 3 手術 子宮筋腫核手術 筋腫のこぶだけをとって子宮を残す手術。妊娠・出産が可能。数年後に再発することもある。 子宮全摘出手術 子宮を全部摘出する手術。筋腫の再発はなし。妊娠・出産はできなくなる。 子宮内膜症 子宮内膜症のできる位置 子宮内膜症とは子宮内膜とよく似た細胞がなぜか卵巣や腸、膀胱などで増殖する病気。生理のたびにその部分から出血し痛みを引き起こしたり、周りの臓器や膜と癒着を起こしたりする。 30代~40代に多く、閉経後はほとんど症状がみられない。最近では10代~20代で発症するケースも多い。 子宮内膜症は、どこにできる? 子宮周囲や腹膜、膀胱、卵巣、腸、直腸と子宮の間など。最も多くできるのは卵巣の中で、チョコレートのような古い血液がたまることから「チョコレートのう胞」と呼ばれる。また子宮筋層の中にできる内膜症は「子宮腺筋症」と呼ばれ、子宮筋腫との併発も多い。 子宮内膜症は、どうやって治療する? 子宮内膜症の治療も、薬によるものと、手術によるものの2つに分けられる。 気をつけたいのはいきなり「ホルモン療法」に入ること。子宮内膜症ではなく、重い生理痛である場合にホルモン治療を受けると副作用(体重増加・にきびなど)が出ることもある。できれば事前に情報収集をして、子宮内膜症の専門医に診てもらうことが望ましい。 1 薬物療法 生理痛をやわらげるため、鎮痛剤が処方される。子宮内膜症は生理のたびに症状が悪化するため、女性ホルモンの分泌を抑えるためにGnPHアナログやダナゾール(男性ホルモンに似た構造の薬)を用いることも。こうした薬で副作用がでることもある。低用量ピルを用いる場合は効き目が緩やかになるが副作用がGnPHアナログやダナゾールに比べ比較的少ない。 2 手術 保存手術 妊娠・出産を望む場合は子宮を残す手術を行う。その方法には開腹手術と、お腹の一部に穴をあけてそこから内視鏡や器具を入れて病巣を治療する「腹腔鏡下手術」がある。再発することもある。 準根治手術 子宮を全摘出し、卵巣の一部を摘出する手術。 子宮内膜症の症状がかなり軽減されるが、 妊娠・出産はできなくなる。 根治手術 非常に症状が重い場合、卵巣と子宮を全摘出する。再発はないが、妊娠・出産はできなくなる。また、卵巣からの女性ホルモンの分泌がなくなるので更年期症状が起こる。 子宮がん 子宮がんのできる位置 子宮がんには子宮の入り口にできる「子宮頸がん」と子宮の奥にできる「子宮体がん」の2種類がある。子宮がんのうち、子宮頸がんが6割以上を占めている。子宮頸がんは30代~40代に多く、子宮体がんは40代以降に多い。比較的早期発見しやすく、早期に発見できればどちらの場合もほぼ治る。 子宮がんは、どこにできる? 子宮体がんが、子宮体部の内側にある子宮内膜に発生。子宮頸がんは膣に近い子宮頸部にできる。 子宮がんは、どうやって治療する? 子宮体がんも子宮頸がんも、がんの進行度合いとライフスタイルによって治療法が変わってくる。手術、放射線療法、化学療法(抗がん剤)がある。 1 手術 円錐切除術 お腹を切らずに膣から子宮頸部の一部を切り除く手術。頸がんの検査と治療を兼ね備えてできる。妊娠・出産も可能。 単純子宮全摘出術・広汎子宮全摘出術 子宮だけを全摘出する。早期のがんであれば完治できる。早めの更年期障害の心配も比較的軽い。妊娠・出産はできない。 リンパ節郭清 がんの転移を防ぐため、子宮と子宮の周りの組織もとる方法が広汎子宮全摘出術。骨盤内のリンパ節への転移を避けるため、切除する方法がリンパ節郭清。妊娠・出産はできない。術後は排尿・排便障害が残ることもあるが、回復する。 2 放射線療法 がんに放射線を当てて細胞を死滅させる方法。進行したがん(特に頸がん)に用いる。副作用として下痢や吐き気、食欲不振などが見られることもある。 3 化学療法(抗がん剤) がん細胞の分裂・増殖を薬で抑制する。手術や放射線療法の後、再発予防のために使ったり、大きな病巣を小さくするために手術前に使うことも。嘔吐や脱毛、白血球や血小板の減少などの副作用もある。 公開日:2003年2月17日
前立腺の病気には高齢者に割合の高い前立腺肥大症、近年増加傾向にある前立腺がん、前立腺炎などがあります。それぞれの治療法、検査法をまとめました。 目次 前立腺肥大症 前立腺がん 前立腺炎 どんなことをするの?前立腺の検査 前立腺肥大症 前立腺肥大症は、どんな病気? 前立腺は思春期から急激に大きくなり、その後45歳くらいまではほぼ横ばいの状態が続く。その後40代後半からさらに大きくなる人と、ほとんど変化しない人に分かれる。加齢とともに前立腺が大きくなり過ぎると尿道を圧迫して排尿障害になったり、尿道を不自然に刺激するため尿道の不快感や頻尿の原因ともなる。 前立腺肥大症は、どんな症状? 前立腺肥大症は病状から3つの病期(段階)に分けて考えられる。 ■肥大症の病期 第1病期 刺激期 夜間の排尿回数が増える(2回以上)。尿道の不快感や頻尿。すぐに出ない、時間がかかるといった排尿困難の自覚。 第2病期 残尿発生期 排尿後に残尿が生じる。さらに排尿困難が悪化する。飲酒後に急に尿が1滴も出ない急性閉尿をおこすこともある。 第3病期 膀胱拡張期 残尿が多くなり、膀胱や腎臓のはたらきも低下してくる。この段階では手術が必要。 前立腺肥大症の治療法は? 初期症状であれば薬でOK。αブロッカー、抗男性ホルモン剤、生薬・漢方製剤などを用いる。 前立腺がん 前立腺がんは、どんな病気? 前立腺がんは中高年以上に多い病気で、ほとんどの患者は60歳以上、70歳くらいが発症のピークになっている。日本での発生率が近年急激に増えてきている原因として、人口の高齢化や、北米で前立腺がんにかかる率が際立って高いことから食生活を含めたライフスタイルの欧米化が考えられている。 また、前立腺肥大症と前立腺がんは別の病気。肥大症が進行してがんになるわけではない。 前立腺がんは、どんな症状? 前立腺がんの初期には、多くの場合自覚症状が現れにくい。がんの進行にしたがって尿の出が悪い、尿線が細いあるいは途絶している、頻尿(特に夜間)、血尿あるいは精液中に血液がみられる、腰背部・臀部あるいは骨盤部のしつこい痛みなどの症状がみられる。がんが外腺にできることが多く、前立腺の真ん中を通っている尿道への影響がそれほど強くないため、肥大症に比べて症状を感じにくい。 前立腺がんの治療法は? 前立腺がんの治療は、がんの広がりによって変わってくる。一般的には手術(摘出)、放射線治療、ホルモン治療などがある。 前立腺がんの発生そのものを確実に予防する方法は、今のところはっきりとはわかっていない。だが、早く発見して適切な治療を施せば、がんが早期であれば完治する場合もあるし、晩期でもがんの進行を遅らせる可能性もある。 前立腺炎 前立腺炎は、どんな病気? 前立腺炎には、尿道から入った細菌が原因で炎症を起こす場合と、原因不明の慢性前立腺炎がある。 細菌性の前立腺炎は38℃以上の高熱が出るが、抗生物質で比較的短期間に治療できる。 一方、慢性前立腺炎の場合は陰のうと肛門の間辺りの不快感、残尿感などの不定愁訴のような症状が続き、若者~中年の男性に多い。原因が不明なため、完治が難しい。 どんなことをするの?前立腺の検査 早期発見のために、いざ前立腺の検査へ…。その前に、検査ではどんなことをするのか簡単にご紹介。 ■前立腺の検査 検査名 目的 検査の方法 直腸診 前立腺の病気を診断する最もポピュラーな検査。前立腺の肥大状況が確認できる。 医師が手袋をつけ人差し指にゼリーをつけて肛門に挿入し、触診する。 超音波断層検査 前立腺全体の大きさや形、前立腺がんなどの疑いがわかる。 超音波発信器を下腹部にあてたり、肛門から直腸に入れて前立腺や膀胱の断層画像を得る。 血液検査(PSA) PSAとは前立腺に特有のたんぱく質のことで、前立腺特異抗原という。血液中にPSAが多くなると前立腺がんの可能性が高いといわれている。 血液検査なので、たいていの病院で受けられる。集団検診の中でPSAを実施している自治体もあるので自分の住む自治体が実施しているかどうか確認してみては? 公開日:2003年1月20日
これまでの研究により、多くの場合、がんは日常の生活習慣が原因となって発生することが明らかにされています。なかでも、喫煙や肥満、飲酒などは、確実に関連していることがわかっています。がんの原因となる、周辺環境や生活習慣をまとめました。 目次 がんの発生と生活習慣の関連をチェック! がんを予防する食事とは? がんの発生と生活習慣の関連をチェック! 国立がん研究センターは、WHO(世界保健機関)による食事関連要因に関する評価に、IARC(国際がん研究機構)によるたばこに関する評価の結果を加えた概要として、予防効果の確実性についてランク分けされた下記の表を公表しています。これをもとにして生活習慣を見直し、がんを予防しましょう。 リスクを下げるもの 関連の強さ 要因 関連するがんの種類 確実 身体活動結腸がん 可能性大 野菜・果物口腔がん、食道がん、胃がん、結腸がん、直腸がん 身体活動乳がん 可能性あり / データ不十分 食物繊維、大豆、魚、N-3 系脂肪酸、カロテノイド ビタミンB2、B6、葉酸、B12、C、D、E カルシウム、亜鉛、セレン非栄養性植物機能成分(例:アリウム化合物、フラボノイド、イソフラボン、リグナン) リスクを上げるもの 関連の強さ 要因 関連するがんの種類 確実 喫煙口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、胃がん、肺がん、膵臓がん、肝臓がん、腎臓がん、尿路がん、膀胱がん、子宮頸部がん、骨髄性白血病 他人のたばこの煙肺がん 過体重と肥満食道(腺がん)、結腸がん、直腸がん、乳がん(閉経後)、子宮体部がん、腎臓がん 飲酒口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がん、乳がん アフラトキシン肝臓がん 中国式塩蔵魚鼻咽頭がん 可能性大 加工肉腸がん、直腸がん 塩蔵品および食塩胃がん 熱い飲食物口腔がん、咽頭がん、食道がん 可能性あり / データ不十分 動物性脂肪 ヘテロサイクリックアミン 多環芳香族炭化水素 ニトロソ化合物 WHO technical report series 916. Diet, nutrition and the prevention of chronic diseases (2003), IARC monograph on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Volume83, Tobacco Smoke and Involuntary Smoking (2004) 出典:独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター がんを予防する食事とは? WCRF(世界がん研究基金)とAICR(米国がん研究協会)による評価報告書「食物・栄養・身体活動とがん予防」では、食品や栄養素のがん発生リスクがまとめられています。このなかで、赤肉(牛、豚、羊などの肉)や加工肉(ソーセージ、サラミ、ベーコン、ハムなど)は、大腸がんの発生リスクを上げることが「確実」と判定されています。それらの摂取を控えることが、大腸がんの予防になると言えます。 食物関連要因とがんとの関連(まとめ)WCRF/AICR 2007 リスクを下げるもの 関連の強さ 食物関連要因 関連するがんの種類 確実 運動結腸がん 授乳乳がん 可能性大 肥満乳がん(閉経前) 運動乳がん(閉経後)、子宮体部がん 果物口腔・咽頭・喉頭がん、食道がん、胃がん、肺がん 非でんぷん野菜口腔・咽頭・喉頭がん、食道がん、胃がん アリウム野菜(にんにく、玉ねぎなど)胃がん にんにく、食物繊維、牛乳、カルシウムのサプリメント大腸がん 食物に含まれる葉酸膵臓がん 食物に含まれるカロテノイド口腔・咽頭・喉頭がん、肺がん 食物に含まれるβ-カロテン、食物に含まれるビタミンC食道がん 食物に含まれるリコピン、食物に含まれるセレン、セレニウムのサプリメント前立腺がん リスクを上げるもの 関連の強さ 食物関連要因 関連するがんの種類 確実 肥満食道がん(腺癌)、大腸がん、乳がん(閉経後)、子宮体部がん、腎臓がん、膵臓がん 内臓脂肪大腸がん 高身長大腸がん、乳がん(閉経後) 赤肉・加工肉大腸がん アルコール口腔・咽頭・喉頭がん、食道がん、大腸がん(男性)、乳がん アフラトキシン肝臓がん 飲料水中の砒素肺がん β-カロテンのサプリメント肺がん 可能性大 肥満胆嚢がん 内臓脂肪膵臓がん、乳がん(閉経後)、子宮体部がん 成人期の体重増加乳がん(閉経後) 出生時過体重乳がん(閉経前) 高身長膵臓がん、乳がん(閉経前)、卵巣がん アルコール肝臓がん、大腸がん(女性) 塩蔵食品・塩分胃がん 中国式塩蔵魚鼻咽頭がん 飲料水中の砒素皮膚がん マテ茶食道がん 食事からのカルシウム前立腺がん World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer: a Global Perspective. AICR, Washington DC (2007) 出典:独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター このほかに、特定のがんの原因となるウイルスや細菌もあります。例として、C型肝炎ウイルスが肝臓がんを、ヒトパピローマウイルスが子宮頸がんを引き起こすことがあります。 また、ダイオキシンやアスベストなどの環境汚染物質や、環境ホルモンと呼ばれる物質にも発がん性があると言われています。
体内の細胞が突然変異してできたといわれるがん細胞。活性酸素が細胞の遺伝子を書き換えて、突然変異を起こすのではないかと考えられています。 目次 体内の細胞は分裂を繰り返す 活性酸素が細胞を「がん」化する 体内の細胞は分裂を繰り返す 人生約80年。といっても、体内すべての細胞の寿命が80年間というわけではありません。脳細胞を除く体内の細胞はすべて、人間が生きている間、何度も生死を繰り返しています。この営みが「新陳代謝」です。 古い細胞が死んで、まったく同じ新しい細胞が生まれるのは、細胞の設計図ともいえる遺伝子(DNA)があるからです。ところが、この過程で狂いが生じ、まったく別物の細胞が産まれる突然変異が起こることがあります。 活性酸素が細胞を「がん」化する 活性酸素は「酸化」という分子レベルの攻撃を行うため、DNAを構成する物質を変質させて、傷をつけてしまうことが可能です。つまり、別の細胞が再生される突然変異を起こす原因のひとつなのです。ただし、突然変異の細胞が産まれただけで、すぐにがんになるということはありません。 発がんのプロセスは、次の図のように3段階あります。この1段階と2段階で、活性酸素が重要な役割を果たしています。 第1段階●イニシエーション(初期化) 第2段階●プロモーション(促進期) 第3段階●プログレッション(進行期)
がんとはどんな病気で、どんな種類があるのでしょうか。がんに関する基礎知識をご紹介します。 目次 体内の細胞が突然変異でがん細胞に ぎりぎりになるまで、自覚症状が出にくい がんは体内のいろいろな部位で発生する 体内の細胞が突然変異でがん細胞に 人間の体は約60兆個の細胞からできています。これらの細胞は、古くなったものは死んで、また新しい細胞ができるという繰り返し(新陳代謝)を常に行っています。 というのは簡単ですが、古くなった細胞の代わりに、まったく同じ新しい細胞が生まれるなんて考えてみれば不思議な話ですよね。なぜなのでしょうか?それは、細胞の設計図である遺伝子が存在するからです。 現在、がんは遺伝子の異常が原因で起こる病気と考えられています。 がん細胞の発生と進行 ぎりぎりになるまで、自覚症状が出にくい がんの進行する段階は、病巣の大きさや深さ、周囲の組織にどのくらい広がっているか、手術が可能かなどの視点から診断されます。なお、がんの進み方は、体の部位によって異なるので、進行段階の決め方もそれぞれ異なっています。 ここでは、胃がんの例を紹介します。 段階(病期) がんの進行 自覚症状など 早期がん もっとも内側の粘膜層でがん発生します。数年間は粘膜にとどまりますが、少しずつ増殖。粘膜下層まで広がります。 自覚症状はほとんどありませんが、胃がん検診などで発見されることが多いようです。早期の段階で手術を受けた場合の5年生存率は90%以上です。 進行がん がん細胞が筋層~しょう膜に達した状態です。胃の中のほかの場所や、リンパ腺や肝臓などほかの臓器へ転移しやすくなります。 胃周辺の痛み、嘔吐、腹部のしこり、おなかがはる、便が黒くなるなどの症状が出ます。5年後の生存率は40~50%(転移のない場合)です。 進行がんがさらに進んでほかの臓器へがんが転移し、全身状態が極度に悪くなると、手術などで治すことはできなくなります。このような状態を「末期がん」といいます。 がんは、早期の段階で見つければ治る可能性が高くなります。ですが、この時点では自覚症状のないことが多く、定期検診が重要といわれるのはこのためです。 がんは体内のいろいろな部位で発生する 医学的には、がんは悪性腫瘍などと呼ばれます。腫瘍とは「腫れ物」という意味。がん細胞が増殖すると大きな腫れ物のようになるからです。腫れ物といえば、いぼやポリープなどを思い出す人もいることでしょう。これらは転移して、ほかの臓器に害をおよぼしたり、命にかかわるものではありません。そこで、悪性腫瘍と区別して良性腫瘍と呼ばれています。 悪性腫瘍は、発生する細胞の種類によって次の表のように分類されています。 がんの種類 ■がん腫 消化管や呼吸器粘膜、肝臓などの臓器を作る上皮細胞から発生します。さらに、次のように分けられます。それぞれ性質が違い、治療法も異なります。 分類 がんの発生する部位 特徴 扁平上皮がん 皮膚、食道、喉頭、口腔、膣、陰茎、陰嚢、外陰、上顎、子宮けい部、肺 リンパ腺や血管を通ってほかの臓器に転移しやすい 腺上皮がん 胃、腸、乳房、肝臓、腎臓、胆のう、前立腺、甲状腺、卵巣、子宮体部、肺 いわゆる、内臓に発生するがんを指す 未分化がん どの臓器にも発生する 扁平上皮がんか腺上皮がんかはっきりせず、発生しやすい部位も特に決まっていない ■肉腫 上皮細胞以外の細胞に発生します。筋細胞、神経組織の細胞など発生する部位によって次のように分けられます。 分類 がんの発生する部位 特徴 肉腫 骨、筋肉、繊維細胞(神経の細胞)など 胃や腸などの筋細胞に発生するがんや、一部の脳腫瘍も肉腫に含まれる 悪性リンパ腫 リンパ節、脾臓、扁桃 これらは、血液の悪性腫瘍とも呼ばれている 白血病 骨髄 多発性骨髄腫 骨髄 表を見てわかる通り、がんは体中のどの組織でも発生する可能性がありますが、発生する部位によって性質が異なります。がんという病気がわかりにくいのは、この複雑さのためです。 なお、同時に2つ以上の臓器でがんが発見されるケースもあり、このようなケースは「多重がん」と呼ばれています。
がんはどのように発生するのでしょうか?がんには遺伝的な要素によるものもありますが、生活習慣などの環境的な要素のほうが、がん発生のより強い引き金になるようです。 目次 がん遺伝子とがん抑制遺伝子 遺伝子に影響を与えるのは何? がんになりやすい体質は遺伝するの? がん遺伝子とがん抑制遺伝子 人間の体内には、がん発生の原因となる遺伝子が存在し、「がん遺伝子」と呼ばれています。 これらの遺伝子の本来の役目は、細胞が正常に増殖するために必要なたんぱく質を作ることです。ところが、何らかの影響で遺伝子が変化し、細胞を異常に増殖させてしまうのが、がんの発生に関係あるのではないかと考えられています。 一方、体内には、がん発生をおさえる「がん抑制遺伝子」も存在しています。この遺伝子はおかしくなったがん遺伝子を正常に戻すはたらきがあると考えられています。つまり、この遺伝子に傷がついたりして、正常なはたらきができなくなると、がん化を促進する結果となってしまうのです。 遺伝子に影響を与えるのは何? 人間を取り巻く環境の中には、体を素通りして遺伝子に傷をつけてしまう物質が存在します。代表的な例を紹介します。 ●化学物質 飲食物や呼吸などを通して体内に取り込まれた化学物質が、体内で化学反応を起こし、遺伝子の変異の原因となります。現在、発がん性のある化学物質は約2,000種ほどあるといわれています。発がん物質として有名なのは、たばこに含まれる化学物質ですが、ピーナッツやトウモロコシに生えるカビなど、自然にできる物質にも含まれています。 ●放射線 原子爆弾が落とされた広島、長崎や、原発事故があったチェルノブイリなどで、白血病や甲状腺がんが高率に発生しています。放射線と発がんの関係は実験でも確認されています。 ●紫外線 紫外線と皮膚がんとの関係は、動物実験などで確認されています。また、紫外線の強いオーストラリアの白人に世界一皮膚がんが多いのもこのためではないかと考えられています。 ●ウイルス ウイルスにも遺伝子に異常を起こすはたらきがあると考えられています。例えば、肝炎の原因であるC型、B型ウイルス(肝臓がん)、ヒトパピローマウイルス(子宮がん)などです。 がんになりやすい体質は遺伝するの? がんは遺伝子の異常が原因で起こる病気ですが、親から子へ遺伝する病気ではありません。遺伝するがんは、網膜芽細胞腫(小児の目にできるがん)などごく少数です。ただし、証明されたわけではないものの、がんになりやすい体質が遺伝する可能性は否定できません。 現在は、遺伝よりも生活環境要因のほうが、がんを発生させる大きな原因になっていると考えられています。
日本人の死因のトップはがん。日本のがん死亡の実際はどのようなものでしょうか。 目次 日本人の3割弱が、がんで死亡!? 治るがんと危ないがん 日本人の3割弱が、がんで死亡!? 日本人の死因 1位がん28.7% 2位心疾患15.2% 3位肺炎9.4% 4位脳血管疾患8.7% 年代別死因の第1位 1~14歳不慮の事故及びがん 15~39歳自殺 40~89歳がん 90歳~心疾患 出典:平成27年人口動態調査(厚生労働省) 上は、日本人の主な死因と全体に占める割合を表にまとめています。これを見ると、全体の3割弱をがんが占めていることがわかります。また、年代別死因では、40歳以降はがんがトップです。 日本のがん死亡の部位別の順位 がん部位別死亡順位 順位男性女性 1位肺がん肺がん 2位胃がん大腸がん 3位肝臓がん胃がん 4位大腸がん膵がん 出典:平成27年人口動態調査(厚生労働省) 上記は、日本のがん死亡の部位別の順位を示したものです。これを見ると男性では肺がん、胃がん、肝臓がん、大腸がん、女性では肺がん、大腸がん、胃がん、膵がんの順です。 もうひとつ、表を見てみましょう。 5年相対生存率(1993年~2008年診断例) 部位男性女性 全部位59.166.0 口腔・咽頭57.366.8 食道36.043.9 胃65.363.0 大腸(結腸・直腸)72.269.6 肝および肝内胆管33.530.5 膵臓7.97.5 喉頭78.778.2 肺27.043.2 乳房(女性のみ)-91.1 子宮-76.9 卵巣-58.0 前立腺97.5- 悪性リンパ腫62.968.5 白血病37.841.3 出典:地域がん登録によるがん生存率データ(国立がん研究センター がん対策情報センター) 胃がん、大腸がんはこの割合も高いようです。がん検診や検査などを受けて、がんを早く発見できるかどうかが鍵になります。 ■関連記事 がん10年生存率は56.3%、80%以上は前立腺、甲状腺、乳房、子宮体など 国立がん研究センター/全国がんセンター協議会 がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2) 婦人科がん(子宮・卵巣のがん)の発症リスクと治療後のむくみ対策 キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクール 更新日:2020/09/25
がんにかかったらどのような治療が行われるのでしょうか。治療費はどのくらいかかるのでしょうか。がんの治療現場をのぞいてみましょう。 目次 がんの部位別平均入院日数 がんの主な治療方法 治療費はどのくらいかかる? がんの部位別平均入院日数 次の表は、がんの部位別の平均入院日数です。がんの治療のためには大体1~2ヵ月は入院が必要なようです。また、回数も1回ではすまないのが現状です。 がん 2005年 2002年 1999年 1996年 胃がん 34.6日39.3日41.8日47.1日 結腸がん 27.8日32.0日37.2日37.1日 直腸がん 33.6日38.4日42.2日45.6日 肝臓がん 26.9日30.4日33.2日38.4日 肺がん 34.1日39.7日44.8日50.1日 乳がん 17.0日27.8日30.0日36.1日 子宮がん 21.6日31.4日34.9日42.2日 悪性リンパ腫 37.5日52.4日63.5日72.4日 白血病 57.9日64.2日63.5日68.9日 出典:「患者調査」厚生労働省 がんの主な治療方法 健康診断などでがんが発見されたら、どのくらい進行しているのか「病期の判定」を行なうとともに、がんの組織型(がんがどの細胞にできているのか)を調べます。例えば、同じ胃がんでも、粘膜にできているがんと、筋肉部分にできているがんでは治療法が異なるからです。 このような検査を行った後、治療方法が検討されます。以下、主な治療方法を簡単に紹介します。 ■外科療法 がんの発生した部位から転移したところまでをまとめて切り取る治療法です。いわゆる手術です。現在は、転移したところまでごっそり切り取る「拡大手術」と、切り取る範囲をできるだけ最小限におさえる「縮小手術」の技術が発達してきています。 ■内視鏡療法 長い管の先に特殊なカメラをつけた内視鏡は、消化管内などの病巣の検査のほか、先に細いワイヤーを輪にしたものをとりつけて、がんに侵されたところを切りとるなど、治療にも活用されています。ただし、内視鏡を用いて治療できる部位などは限定されています。 ■レーザー療法 高出力レーザーを使って腫瘍を焼き切る方法と、低出力レーザーを使う光線力学的治療法があります。周りの正常な部分への影響を最小限におさえつつ、がんを焼き切ることができます。 ■放射線療法 がんに侵されたところに放射線をあてると増殖をおさえることができます。早期のがん(喉頭がん、乳がんなど)であれば患部を切除しないで治すことができます。また、末期がん患者の苦痛を和らげるのに用いられることもあります。 ■化学療法 いわゆる抗がん剤を使って、がん細胞を破壊する治療法です。静脈に注射をしたりすることで、抗がん剤が血液中を通り全身に運ばれるため、白血病などのがんに使用されます。また、手術療法や放射線療法の前後に使用されることもあります。 これらの治療法のほかにも、ホルモン療法、温熱療法、免疫療法など、さまざまな方法が考案されています。また、上で述べた治療についても、いくつかを組み合せて行うケースが多いようです。 このようにがんの治療技術は格段に向上してはいますが、それぞれ合併症や副作用などの危険性を伴うケースも多いようです。この点についても、医師の説明をよく聞いて納得した上で治療に臨む必要があります。 治療費はどのくらいかかる? がん治療にかかる費用は、がんの部位や病期、治療方法で異なるため、一概には言えないのが現状です。ここでは、一般的にどのような費用がかかるのかまとめました。 健康保険の対象となる治療については、本人の負担は医療費の3割となります。なお、自己負担額は1ヵ月あたり80,100円+(総医療費-267,000円)×1%が上限であり、それを超過した分の金額は健康保険から払い戻されます。ですが、例えば10月半ばから11月まで治療にかかった場合、10月、11月の治療費が80,100円を超えないと払い戻しはありません。また、手続きに3~4ヵ月かかるため、一時期医療費を負担しなくてはなりません。 なお、平成29年8月から、70歳以上の方の上限額が変更となります(高額療養費制度を利用される皆さまへ:厚生労働省)。 先進医療とは、要件を満たして承認されたもので、これらの医療は特定の承認を受けた病院で行われます。ただし、一般的な治療にも共通する検査、投薬、入院料などは健康保険の給付が受けられますが、「先進医療に係る費用」は患者が全額自己負担になります。 このほか、健康保険の対象外である抗がん剤などを利用する場合、実費分を自己負担することになります。 ■関連記事 がん10年生存率は56.3%、80%以上は前立腺、甲状腺、乳房、子宮体など 国立がん研究センター/全国がんセンター協議会 がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2) 婦人科がん(子宮・卵巣のがん)の発症リスクと治療後のむくみ対策 キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクール 更新日:2020/09/25
生活習慣を工夫することによって、がんに対する抵抗力のある体をつくることができます。具体的な生活改善法をアドバイスします。さっそく今日から挑戦してみましょう。 目次 お酒の飲み過ぎに注意 たばこは吸わない 男性も紫外線対策を! 適度に運動する 体を清潔にする 規則正しい生活リズムを作る お酒の飲み過ぎに注意 アルコールは、適量であれば体によいのですが、限度を超えると肝臓にダメージを与えてしまうだけでなく、咽頭がん、食道がんの発生率を高めてしまいます。日本酒の場合は1日2合を限度と考えましょう。また、1週間に2日くらいは休肝日をもうけて、肝臓を休めるようにしましょう。 たばこは吸わない 最も身近な環境汚染源がたばこです。自分だけならまだしも、煙を吸った周りの人のがんの発生率も高めてしまいます。突然の禁煙が難しいのなら、まず、節煙に挑戦してみましょう。1時間に1本吸う人は、2時間に1本を目指すというように少しずつ調節していきます。また、スポーツクラブに入会したり映画を趣味にするなど、たばこを吸いながらではできない趣味を見つけてストレス解消していくのもひとつの方法です。 男性も紫外線対策を! 紫外線は皮膚のしみやしわの原因になるだけではありません。皮膚がんの発生率を高めます。オゾン層の破壊などで、日本でも昔の何倍も紫外線が強くなっているといわれています。女性だけでなく、男性も子供も、外に出るときは日焼け止めなどの紫外線対策をしたほうがよさそうです。 適度に運動する 食事によるカロリー過多と運動不足が招く肥満は、ほかの生活習慣病同様、がんにも襲われやすいようです。特に、最近日本で増えている、女性の乳がんの原因として危惧されています。また、下半身や腹筋力が弱くなると便秘、そして大腸がんにつながることもあると考えられています。 運動といっても激しいものである必要はありません。最適といわれるのはウォーキングです。1日30分くらい速足で歩くことを続けるだけでも十分効果があります。通勤や買い物のときに、意識的に 「速歩き」するようにしましょう。歩くときは、両腕をしっかりふって、歩幅も普段より大きくするよう心がけましょう。 1日に運動で消費したいカロリーは100~200kcalです。急ぎ足で歩くと、100kcal消費するためには25分くらい歩く必要があります。通勤時には1駅分遠くまで歩いてみる、家庭では少し離れた店まで買い物に行くなどそれなりの努力は必要です。 最初から毎日行うのがきつい人は、まず、1週間に2回くらい30分~1時間のウォーキングをし、普段はなるべくまめに動くよう心がける…というところから始めるといいでしょう。 体を清潔にする 皮膚がんや陰茎がんなどは、体を清潔に保つことが予防につながるそうです。清潔にするのは当然のことではありますが、これを機に少し意識してみましょう。 規則正しい生活リズムを作る ウイルスが原因となるがんの場合、体の免疫機能など抵抗力をつけることが、がんの予防にもつながります。十分な睡眠、規則正しい食事、適度な運動とストレス解消で、常に健康でいられるよう心がけることも大切なのです。
食生活に気をつければがんの予防もできるといわれています。がんを防ぐ食生活の工夫をまとめました。 目次 まずは、栄養バランスを心がけて ビタミン、食物繊維はがん予防にもいい 熱いもの、焦げたものは避けるようにしよう まずは、栄養バランスを心がけて 最近、日本人に増えている大腸がん、乳がん。この原因は肉中心の食生活や 食物繊維不足など、日本人の食生活の変化にあるといわれています。がんを防ぐためにはまず、栄養バランスのとれた規則正しい食事を心がけましょう。具体的に注意したいポイントをご紹介します。 ■食べ過ぎない カロリーの摂りすぎ+運動不足は肥満のもとです。肥満は、がんを始め動脈硬化や糖尿病などの発生率を高めてしまいます。1日のカロリー摂取量は成人男性で2500kcalといわれるが、特に体を動かすような仕事をしていない人なら2,200kcal、現在肥満気味の人は1,800~2,000kcalくらいを目安にしましょう。 ■栄養バランスのとれた変化のある食事 一般的に、がんの原因は高脂肪摂取、がんを防ぐのは野菜類といわれています。多くのサラリーマンの食生活の現状と理想とはまったく逆のパターンとなります。 事務職の男性の場合、1日のたんぱく質摂取の目安は、乳製品250g、たまご1個、肉や魚が120g、豆製品80gとなります。一方、野菜類は1日最低、淡色野菜200g、緑黄色野菜100g、芋類100g、果物200gは摂るようにしましょう。 また、毎日肉類ではなく、週3~4回は魚のメニューにするなど献立に変化をつけることも大切です。 ■塩分の摂りすぎに注意 胃がんの原因のひとつが塩分の取りすぎといわれています。1日6gくらいが限度だと考えましょう。食卓で塩やしょうゆを使用しない、香辛料を利用して香りを楽しむなど減塩の工夫をするようにしましょう。 毎日の食事で減塩ひと工夫!料理編 毎日の食事で減塩ひと工夫!外食編 ■1日3食・規則正しく 不規則な食生活は胃がんの原因のひとつとなります。夕食が深夜になったり、朝食を抜いたりといった食生活はがんだけでなく、ほかの生活習慣病のもとにもなります。また、朝は軽く夜は重くといったカロリーバランスも考えものです。忙しくて夕食時間が遅くなる人は、こういった3食のバランスも見直してみましょう。 ビタミン、食物繊維はがん予防にもいい 野菜や海藻、果物に含まれるビタミン類や食物繊維は、がんの予防にも活躍する栄養素です。最近は錠剤や飲み物なども出回っていますが、例えばビタミンAなどは、摂りすぎると髪の毛が抜けたり食欲不振になったりなど、過剰症を起こすこともあります。なるべく普段の食生活で摂るようにしましょう。 がんの予防にいい食品の例 種類 多く含む食品 ビタミンA(カロテン) のり類、わかめ、しその葉、パセリ、にんじん、小松菜やほうれん草など青菜類、かぼちゃ ビタミンC えだまめ、さやえんどう、青菜類、ししとうがらし、カリフラワー、パセリ、キャベツ、 トマト、にがうり、ピーマン、ブロッコリー、キーウイフルーツ、かんきつ類 ビタミンE 小麦胚芽、植物油(ひまわり油、サフラワー油、綿実油、やし油など)、種実類(アーモンドなど) 食物繊維 ひじき、干しがき、いんげん豆、大豆(納豆)、おから、切り干し大根、ごぼう、おくら、干ししいたけ、ポップコーン 熱いもの、焦げたものは避けるようにしよう 食物を調理したときの焦げには、がんの原因になる物質が含まれています。また、熱過ぎるものは、食道がんや胃がんの原因のひとつと考えられています。 このほか、トウモロコシやナッツ類に生えるカビなど発がん性の高いケースもあります。古くなった食品は避けるようにしましょう。
がんは、ある程度病巣が大きくならないと症状らしい症状が出てきません。でも、何となく不調を感じ、念の為に検査を受けたらがんだった…というケースも多くみられます。がんの前兆かもしれない症状と主ながん検診をまとめました。 目次 主ながんの自覚症状 主ながん検診の進め方 主ながんの自覚症状 よく原因のわからない出血や痛み、体を触ってみてしこりを感じるようなことがあったら、病院で検診を受けましょう。 部位 症状 肺がんせきが続く、たんに血が混じる、胸や背中が痛むなど 喉頭がんのどが何となくおかしい、声がかすれる、のどの痛みなど 胃がん胃の具合が悪い、食欲がない、食べ物の好みが変わるなど。ただし、胃がんの場合、これといった自覚症状がないことも多いので、定期検診をきちんとうけることが大事 食道がんものを飲み込むとき、つっかえたり、しみるような痛みを感じる 大腸がん無症状のことが多いが、便秘または下痢が続く、便に血液が混じる、腹痛などが起こることもある 肝臓がん上腹部の圧迫感や痛み、おなかが張った感じがする。また、体重が減ったり黄だんがおこることもある 腎臓・ぼうこうがん上腹部の鈍痛や不快感のほか、尿に血が混じることもある 乳がん乳房にしこりができる。また、乳首からほんのちょっと出血があることも 子宮がん早期には自覚症状がないことが多いが、おりものや出血があることも 脳腫瘍早朝や起床時に吐き気を伴う頭痛がおこることが多い 主ながん検診 各自治体では定期的にがん検診を実施していて、ほとんどの場合は無料、もしくは小さな費用負担で受けられます。会社などに勤めている人は、職場でがん検診を申し込める場合もあるので、積極的に受けることをおすすめします。 がん検診の結果が「陽性」(がんの疑いあり)だった場合、精密検査を受けて、より詳しく調べる必要があります。 指針で定めるがん検診の内容 種類 検 査 項 目 対象者 受診間隔 胃がん検診 問診に加え、胃部エックス線検査又は胃内視鏡検査 のいずれか50歳以上 ※当分の間、胃部エックス線検査については40歳以上に対し実施可2年に1回 ※当分の間、胃部エックス線検査については年1回実施可 子宮頸がん検診 問診、視診、子宮頸部の細胞診及び内診20歳以上2年に1回 肺がん検診 質問(問診)、胸部エックス線検査及び喀痰細胞診40歳以上年1回 乳がん検診 問診及び乳房エックス線検査(マンモグラフィ)※視診、触診は推奨しない40歳以上2年に1回 大腸がん検診 問診及び便潜血検査40歳以上年1回 市町村のがん検診の項目について― 厚生労働省においては、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(平成20年3月31日付け健発第0331058号厚生労働省健康局長通知別添)を定め、市町村による科学的根拠に基づくがん検診を推進。 出典:がん検診の種類について 厚生労働省健康局がん・疾病対策課 ■関連記事 がん10年生存率は56.3%、80%以上は前立腺、甲状腺、乳房、子宮体など 国立がん研究センター/全国がんセンター協議会 がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2) 食道がん公開セカンドオピニオンで悩み解決、専門医・薬剤師・患者会がコラボライブ 婦人科がん(子宮・卵巣のがん)の発症リスクと治療後のむくみ対策 キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクール 更新日:2020/09/25
低い濃度のダイオキシンでも、長期間摂取すると慢性的な症状が現われます。具体的な症状について紹介します。ただし、ダイオキシンがこれらの病気を引き起こす、医学的なメカニズムははっきり証明されていないのが現状です。 目次 流産や奇形児出産の確率が高くなる!? ダイオキシンには、発がん作用もある!? 流産や奇形児出産の確率が高くなる!? ダイオキシンの毒性の中でも特に恐ろしいのは、生殖毒性と言われるものです。これは、子供を産む器官や産まれた子供自体に現われてくる毒性のことになります。 ベトナム戦争時、2,3,7,8-四塩化ダイオキシンを含む枯葉剤がアメリカ軍によって散布されました。その結果、これを浴びた人達に生殖障害(流産や新生児死亡などの出産異常、先天奇形など)が起こる割合が高くなりました。 また、日本でも、ダイオキシンによる汚染度が高い地域は、ほかの地域に比べて新生児死亡率が高いという報告がされています。 これについて、1979年に行われた有名な実験があります。実験内容を簡単にまとめました。 ■実験 50pptの2,3,7,8-四塩化ダイオキシンを餌にまぜて7ヵ月間アカゲザルに与えました。 ※50pptというのは1兆分の50のこと。これはアカゲザルの体重1kgあたり1.26ng(ナノ グラム。10億分の1グラムのこと)にあたります。 ■結果 8匹のうち6匹が妊娠しましたが、4匹流産。残りの2匹に子供が産まれましたが、1匹は未熟児でやがて死亡しました。 では、どのくらいの量なら産まれる子供に影響がない(毒性がない)のでしょうか。 その後、0.63ng/kg(体重1kgあたり1000億分の63g)を4年間与える実験が行われました。この実験でも、8匹のうち1匹しか産まれなかったと報告されています。 このような実験結果をもとに、産まれる子供に 影響がない(生殖毒性がない)ダイオキシンの量は約0.1ngと推定されています。 このほか、生殖毒性として以下のような症状が疑われています。 子宮内膜症 具体的な症状: 子宮の内側にある膜が異常に増えたり、子宮の内側以外にできる病気です。月経困難症、強い月経痛、不妊症などが起こります。 ダイオキシンとの関係: アカゲザルを使った実験では、126pg/kg/1日の餌を与えたところ(1日に体重1kgあたり126ピコグラム与えるということ)、71%に子宮内膜肥厚症が発症しています(ダイオキシンを与えないグループの発症率は33%)。※ピコグラムは1兆分の1グラム アメリカなどでは、不妊症や子宮内膜症が高い割合で起きており、ダイオキシンが関係している可能性が高いと言われています。 精子の減少 具体的な症状: 精巣が小さくなるなど精子を作る機能が弱まり、結果的に精子の数が減少します。 ダイオキシンとの関係: ダイオキシンが含まれる枯葉剤(2,4,5-T)の製造工場で働く人を対象にした調査で、血液中のダイオキシン濃度が高い人ほど男性ホルモンの濃度が低いことがわかりました。動物実験などでも、精巣が小さくなるなどの結果が出ています。 ダイオキシンの影響で精巣内の細胞に栄養障害が起こり、機能を低下させるのではないかと考えられています。 赤ちゃんへの影響 具体的な症状: 血液中のダイオキシン濃度が高い母親から産まれた赤ちゃんは、チロキシン(甲状腺ホルモンの1つ)の濃度が低いという調査報告があります。 ダイオキシンとの関係: チロキシンは胎児のときに脳を発達させる役割をする大事なホルモンです。 また、甲状腺ホルモンの量が少ない赤ちゃんには、アレルギー体質が多いと言われており、アトピー性皮膚炎との関係を疑う声もあります。 ダイオキシンには、発がん作用もある!? 1997年国際がん研究機関は、人に対する2,3,7,8-四塩化ダイオキシンの発がん性の分類を「人に発がん性あり」というものにしました。 各国のいろいろな動物実験でも、ダイオキシンががんを引き起こすという結果が出ていますが、がんになる部位については、オスとメスで異なるようです。 人間についても、以下の表のように、各種の疫学的な調査が行われているが、がん発生が増えるという報告と、増えないという報告があります。 ダイオキシンががんを発生させるメカニズムについては、まだはっきりしたことはわかっていません。研究者の間では、ダイオキシンが直接がんを発生させるのではなく、別の発がん物質と一緒になってはたらくのではないかと考えられているようです。 対象者 がんの種類 発がんリスク※ 研究年次と研究者 アメリカの化学工場従事者 軟組織肉腫9.2倍1991.フィンガーハットほか 呼吸器系がん1.42倍 ドイツの化学工場従事者 あらゆるがん1.9倍1991.マンツほか 2,4,5-T取扱者 軟組織肉腫1.3~2.5倍1990.エリクソンほか ベトナム戦争帰還兵 結合組織などのがん4.6倍1988.コーガンほか ベトナム戦争帰還兵 あらゆるがん1倍1990.ミカレクほか ※発がんリスク=それぞれのがんの発生率が、比較対象となる人達の グループより何倍ぐらい高いかを示したもの このほか、ダイオキシンと関係がある症状としては、免疫力の低下、肝臓障害、骨髄障害(血を造る機能の低下)などがあります。
熟していないリンゴ(未熟果リンゴ)は、味が渋いのでこれまでは捨てられるだけでした。 リンゴの渋味には害虫を寄せ付けないはたらきがあることは分かっていましたが、渋味がネックになり、なかなか商品化されていなかったのです。 しかし、数年前に、未熟果リンゴの渋味には、お茶のポリフェノールと同じ成分が含まれていることが明らかになり、有効利用が進んできています。 がん予防のほか、虫歯予防や美白効果も ポリフェノールは、がんを予防すると注目されていますが、それ以外にも、虫歯予防、アトピー性皮膚炎のかゆみの抑制、肌を白くするという効果などがあります。これをいち早く商品化したのが、洋酒メーカーのニッカウヰスキーでした。 当初ニッカでは、発泡酒「シードル」をきれいなバラ色に染めるのに未熟果リンゴの渋味を使っていました。その後、渋味の中にポリフェノールとほぼ同じ成分が含まれていることが分かり、本格的に製造を開始しました。 菓子や化粧品にまで広がる 未熟果リンゴのポリフェノールは、お茶や赤ワインと違って苦みが少なく、水に溶けやすいのが特長です。最近では水に溶けやすい性質を生かして、粉末や液体の形で次々と食品メーカーを中心に商品化が進んでいます。 最も多いのが、虫歯の予防効果を狙ったガムやあめなどの菓子類です。今ではかなりの数の商品が出回っています。 広がりを見せる未熟果リンゴの再利用に対して、青森県の弘前市周辺のリンゴ農家から1500tのリンゴが集められるという動きもあります。 ただし、ポリフェノール成分濃度が高いのはピンポン玉程度の大きさのものに限るということです。
自分の気持を抑えることを美徳と思っていますか? 体に悪いのは、タイプAばかりではありません。タイプAとは正反対ともいえる性格、タイプCの性格傾向も問題があるといわれます。 タイプCは、物静かでまじめ、自分の気持を抑えて周囲に合わせるという、日本人にとっては美徳とされがちな性格です。 この性格は、一見不動心の持ち主でしんがしっかりしているなどと評価されがちですが、実は緊張や不安、不快感などをストレートに表現できずに対人関係や仕事、環境に過剰適応しているために、ストレスを徐々にためこんでいることが多いのです。 タイプCに多い発がん率 タイプCの性格が注目されるようになったのは、リンダ・トモショックらによってこの性格傾向の人にがんの発生率が多く、また発症した後の症状の経過が良くないということが指摘されてからです。 これは、慢性的なストレスが免疫系に作用してしゅよう細胞に対する免疫力を低下させているためではないか、という仮説が示されています。 もちろん、発がんには遺伝的な要素や生活環境のさまざまな要因が複雑にかかわっていますから、タイプCが必ず発がんにかかわるとは言い切れません。 ただし、免疫力は発がん抑制に大きく関与する生体の力であり、慢性的なストレスは免疫力を低下させることも分かっていますから、タイプCが発がんのリスクファクターの一つになり得る可能性は十分考えられます。 「男は黙って」などという美学にこだわりすぎず、適度に発散することも大切なようです。
前世紀から容疑は濃厚 19世紀末までには、多くの外科医が喫煙は舌がんの原因かもしれないと考えるようになっていましたが、喫煙とがんの科学的な研究が始まったのは第2次世界大戦のころからです。その最初とされるのは、ドイツ人ミューラーの研究で、それによると非喫煙者は肺がんになった人のうちで3.5%と低く、一方、喫煙者は65.1%と高率でした。 たばこが、がん発生のどの段階に作用するのかは、現在も詳細なメカニズムは分かっていません。しかし、ミューラー以降行われてきた、たばこと疾病の優れた対照研究や、たばこの煙による発がん実験の成績などから、たばこが発がんに関与していることはまず間違いないとされています。 今日では、人の発がんに関与する因子の3分の1はたばこで、3分の1は食べ物だといわれています。 DNAの複製の失敗ががん化のポイント 近年、活性酸素の及ぼす害について取りざたされています。 たばこの中に含まれる物質によっても、活性酸素が精製されます。そしてそれによりDNAが傷つけられるという説や、たばこの中のベンゾピレンなどの発がん物質が、体内で活性体に変わり、DNAに結合して発がん性を示すといった説も唱えられています。 いずれにせよ、たばこに含まれるある種の物質が、細胞分裂の際にDNAの複製を正しく行わせない作用をしているようです。 また、たばことがんというとすぐに連想されるように、肺がんの重要な因子であると指摘されてきました。しかし、喫煙者は肺がん以外にも口こう、こう頭、食道、胃、すい臓、腎臓、ぼうこうなどのがんにかかるリスクが、非喫煙者に比べて高いことも明らかにされてきています。
緑茶を多く飲む人ほど、がんになりにくい 緑茶には素晴らしい薬効があることが、さまざまな研究で判明しています。 そのなかでも「緑茶を多く飲む人ほど、がんになりにくい」という埼玉県立がんセンターによる疫学調査の結果は、特に話題になりました。 埼玉県立がんセンター研究所は、地域住民の健康に影響を及ぼす生活要因を探るために、約8500人の住民を対象に、8年間にわたって生活習慣と健康状態を調査しました。そして、お茶を毎日10杯以上飲む人(Aグループ)、毎日4~9杯飲む人(Bグループ)、毎日3杯以下の(Cグループ)に分けて、各グループのがんによる平均死亡年齢を比較しました。 その結果、男性では、Aグループが70.3歳、Bグループが68.4歳、Cグループが65.8歳、女性では、Aグループが74.1歳、Bグループが70.9歳、Cグループが67.6歳と、驚くほど明確に「がんによる死亡はお茶を飲まない人ほど早く、お茶を飲む人ほど遅い」という結果が出たのです。 活性酵素などのフリーラジカルの害を防ぐ 緑茶には、カテキンやカロチン、ビタミンCが多く含まれています。これらの成分は、人間の体内でできる活性酸素などのフリーラジカルの害を防ぐといわれています。この作用から、がんの発生を抑制すると考えられています。
国別大腸がんによる死亡率 「食物繊維の摂取量が少ない先進国と比べると、摂取量の多いアフリカ諸国でのがんの発生率は低い」。疫学的な調査から、食物繊維の摂取量が多いと、大腸がんの発生率が低いことが明らかにされました。 例えば10万人中の大腸がんによる死亡は、スコットランドでは51.5人、アメリカ(白人)では42.2人、カナダで37.6人、スウェーデンで28.8人、フィンランドで15.8人です。 一方、日本では13.1人、食物繊維を多くとるナイジェリアでは5.9人、ウガンダでは3.5人と極端に少なくなっているのが分かります。(調査は昭和44年/実施) 大腸がんによる死亡率 国名 調査年 死亡率(人/10万人) スコットランド 1969 51.5 アメリカ(白人) 1969 42.2 カナダ 1969 37.6 スウェーデン 1969 28.8 フィンランド 1969 15.8 日本 1969 13.1 ナイジェリア 1969 5.9 ウガンダ 1969 3.5 出典:木村修一、栄養学の新規点、1992 発がん物質に関する一つの仮説 この食物繊維の摂取量と大腸がんによる死亡率の関係から、バーキットとトローウェルという研究者が立てた仮説は以下のことでした。 精製度の高い食事は必然的に脂肪を多く含むことになる。そうした食事を取ると胆汁酸の分泌が盛んになり、腸内細菌によって胆汁酸が分解され、その分解産物が発がん物質を促進する因子となる。 食物繊維の摂取量が少ないと、便の移動速度が遅くなる。胆汁酸の分解産物が大腸の粘膜と接触する時間が長くなり、粘膜ががん化する確率が高くなる。 食物繊維が胆汁酸を減らし、毒性を軽減させる 多くの動物実験からこの仮説の大略を支持する結果が得られています。しかし、人においては実験によって食物繊維の摂取量と大腸がんの発生の因果関係を直接証明する結果は出ていません。 ただ、現在では食物繊維をたくさん含んだものを食べると、腸内の余分な胆汁酸を減らし、それによって胆汁酸の毒性を軽減するはたらきが生まれるというのが一般的なとらえ方です。 食物の摂取と大腸がんの発生との間には深い関係があることは確かですが、食物繊維だけが、大腸がんの発生を直接予防する効果を持つかどうかは、まだ明らかではないのです。
大根に含まれるジアスターゼが発がん物質を中和 干物をつくるには魚を光に当てなくてはいけません。その際、魚内のたんぱく質が変成し、硝酸塩、亜硝酸塩、二級アミンなどの物質が発生してしまいます。これらがだ液や胃液によって、発がん物質・ニトロソアミンに変性する可能性があるのです。 一方、大根おろしの大根には、リグニンという植物繊維や消化酵素のジアスターゼが含まれています。これらは発がん物質を中和する作用があります。 ですから、干物の魚に大根おろしを添えるのはとても良いことなのです。
情報伝達物質「サイトカイン」のはたらき 免疫系にはリンパ球などの細胞性免疫と、抗体などの液性免疫があります。そして、情報伝達物質としてサイトカインが重要な役割を果たしています。 エネルギーやたんぱく質が欠乏して栄養不良の状態が悪化すると、脂肪組織と筋肉が失われ、サイトカインのはたらきが低下し、免疫系は影響を受け、免疫機能が低下します。 栄養素と免疫の関係 栄養素はそれぞれ免疫と密接な関係にあります。 たんぱく質のアミノ酸は、免疫細胞を活性化させるはたらきをしています。また、細胞性免疫の賦活作用やリンパ球の活性化にもはたらいています。 脂肪酸は、細胞膜機能やサイトカインの産出に関与していて、免疫機能の調節にはたらいています。 糖質は、体内では細胞膜などに存在していて、情報のシグナルやレセプターとして機能し、免疫系にも密接に関係しています。 ビタミンAは、最近では発がんの抑制作用があることが論議されています。 微量元素の鉄、銅、亜鉛なども免疫低下に関係しています。