卵巣がん経験者の大塚美絵子さんは、2018年6月にオーストリア・ウィーンで開催された国際がんサポーティブケア学会に参加しました。学会を振り返って、副作用に対する取組み姿勢に日本と海外の大きな違いを感じたといいます。
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国際がんサポーティブケア学会は、名称からもわかるとおり「治療」そのものではなく「治療に付随するさまざまな問題をいかに解決するか」を議論する学会でした。
多様な議題のなかで、3C(Cure:治療、Control:コントロール、Comfort:生活の質)のバランス重視や、患者さん以外へのフォロー体制と並んで、副作用対策も⽇本と海外との顕著な違いを感じたそうです。
というのも、日本では医者への遠慮などからがまんするようなものでも、国際学会では「解決すべき課題」として積極的に取りあげ、対策について活発に議論していたからです。
以下が主として取りあげられた副作用です。
吐き気・嘔吐について活発に議論されていたことは意外だったそうです。なぜなら、大塚さんが治療を受けた頃は、ちょうど制吐剤のイメンド(⼀般名:アプレピタント)が普及して効果をあげており、「吐き気の問題は、ほぼ克服された」という空気が日本の医療者の間で広がっていたからです。
では「何をいまさら」と思ったのでしょうか?むしろその逆だといいます。
「実は私、ひどい吐き気に悩まされていたのです。先生もいろいろ考えてくださいましたが、何をやっても効果がなく、お手あげでした」
「それでも、何かあるはずとネット検索しましたが、『イメンドの登場で副作用の吐き気はほぼ克服された』といった情報しか出てこなかったのです」
そこで、患者会で相談したところ、確かにほかの患者さんの症状は大塚さんよりは軽かったものの、薬が切れる治療後3日目(イメンドは治療当日から3日間服用)はつらかったという体験談が多く聞かれました。しかし、多くの患者さんは「病院へ行くのもつらいから、水が飲めるうちはひたすら耐える」と話していました。
抗がん剤治療は日帰りや一泊入院が主流になっているので、「制吐剤の進歩は確かだけれども、治療後3日目の吐き気のひどさは医療者に見えにくくなっているのでは」と感じたといいます。
その後はイメンドに続いて、新しい制吐剤のジプレキサ(⼀般名:オランザピン)も登場しました。そのため今回の学会では、オランザピンに関して、どの抗がん剤との相性がいいのか、ほかの制吐剤との組み合わせで効果があるのかに関する発表が多くありました。
「私のようにイメンドで効果がない患者でも、次の⼀⼿があることがわかりました。何より、吐き気について研究が継続していることに希望が持てました」とのことです。
また、オランザピンに関しては気の毒な発表がありました。セルビアの医療関係者からの現状報告だったのですが、「国の財政事情のため、承認がおりていない。当然、保険適用にもならない。そのため、大半の患者さんには服用してもらえない」との話でした。
大塚さんは、「どの国に生まれるかによって、受けられる治療に違いがあるのはわかりますが、報告者のやりきれぬ思いがひしひしと伝わってきて何とも複雑でした」と振り返っていました。
倦怠感というのは表現が難しいうえ、原因が貧血なのか、食欲不振なのか、ただの加齢なのか、はっきりしないので、患者さんの多くは倦怠感を副作用として医療者に訴えるのを躊躇(ちゅうちょ)するようです。大塚さんも、「私は“もの言う患者”でしたが、倦怠感だけはがまんしてしまいました!」と言います。
ところが、国際学会では、倦怠感も抗がん剤の副作用として明示的にとりあげられていました。各国の医療者は倦怠感をはかるための指標や、倦怠感を軽減するためのサポート法を発表していました。
栄養不良の状態(悪液質)に関しては、筋肉及び脂肪組織の喪失による著しい体重減少が特徴で、進⾏がんの患者さんに発現する症状と説明されてきました。しかし、今回の学会では、「悪液質はもっと早い段階から始まっており、早期に対処すれば症状緩和が可能ではないか」というセッションがありました。
静岡県⽴がんセンターの研究者も登壇し、高齢の進行非小細胞肺がん患者さんや膵がん患者さんを対象に、早期から栄養・運動介入の有用性を検証した報告を行いました。
国際学会を振り返って、大塚さんは言います。
サポーティブケアは、がんの治療という本来の目的を妨げることはできません。しかし、良いサポーティブケアが受けられないと、がんの治療も完遂できないというジレンマがあります。そして、このジレンマ克服のための微妙な「さじ加減」が、「Cure(治療)、Control(状況のコントロール)、Comfort(生活の質の維持)からなる3Cのバランスをとる」ということにほかなりません。国際がんサポーティブケア学会では世界中の医療者が集まって、いかにして3Cをうまくバランスさせるかについて熱心に議論していました。これには感謝・感動いたしました。
しかし、3Cのバランスは医療者が一方的に決めるものではなく、患者自身が何を望むかによって変わってくるものです。
ですから、がん患者さんの側も、自分が治療にあたって何を望んでいるかを、⽇々の⽣活の悩みも含めて、明確に医療関係者に伝えるべきであると思います。
患者と医療者が治療の目標について緊密にコミュニケーションをとることが、より満足度の高い医療の実現につながるのではないでしょうか。
次回は、がんの話題にタブーがない海外をテーマに、民間療法に対する考え方、夫婦関係や恋人関係が破綻しないためのチーム医療などについて紹介します。
2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫対策などの弾性ストッキングなどを販売するお店をしています。
がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。
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