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がん治療後の後遺症「リンパ浮腫(むくみ)」の敵は太りすぎ(肥満)、適正体重の管理が対策に

がん治療後の後遺症で、リンパ浮腫というむくみ(漢字で浮腫みといいます)を生じることがあります。太りすぎ(肥満の例としてBMI30以上)のがん患者さんでは、肥満でない人に比べてむくみになりやすいと言われています。自分にとって適正な体重を理解して管理することがむくみ軽減につながるといわれています。がん研究会有明病院管理栄養士の伊丹優貴子先生が第3回日本リンパ浮腫学会総会市民公開講座*1で講演した内容を紹介します。

リンパ節を取り除く手術などによってリンパ液の流れが止められて「リンパ浮腫(むくみ)」を発症

「リンパの流れがよい」と聞くことがあります。これは、体内の余分な脂肪や蛋白、細菌やウイルスなどが含まれたリンパ液が、全身に張り巡らされているリンパ管に集められ、ところどころにフィルターの役割を持つリンパ節で浄化されて全身を巡ることをいいます。
しかし、がん転移を防ぐためにリンパ節を取り除く手術などによって、リンパ液の流れがとめられ、むくみが起こります。
リンパ浮腫(むくみ)はがん治療後の後遺症として、腕やわきの下あたり(上肢)や足のふとももから足首(下肢)にかけて起こり、長年にわたり悩まされることがあります。

肥満のがん患者さんは「リンパ浮腫(むくみ)」がおこりやすいのでBMI21~25を目指して体重管理を

がんに関わるリンパ浮腫(むくみ)の対策は、治療以外にセルフケアもあります。医療者が診療時に参考とする日本リンパ浮腫学会の診療ガイドラインでは、弾性着衣(上肢のスリーブなど)や食生活の見直し、運動が推奨されており、肥満予防が有効とされています。
食生活に関しては、上肢(肩関節より指先まで)に生じたむくみと肥満や体重減少との関係性についての研究論文がガイドラインに紹介されています。
たとえば、海外では乳がんの手術を受けた患者さんが6ヵ月以降にリンパ浮腫によるむくみが生じた割合を、Body mass index(BMI)30以上(日本肥満学会の肥満症診療ガイドラインでは「肥満(2度以上)」とされています)とBMI30未満の患者さんと比較して検討したところ、BMI30以上では30未満に比べて3.6倍になることが明らかになったとの研究結果があります*2
また、女性においてはBMI30~39.9のがん患者さんは死亡率が高くなることや、BMI21~24.9の女性では死亡率が低いことがいわれています。
特に、閉経後においては肥満が乳がんのリスクになることが報告されていますので、太りすぎには注意しましょう。がん予防の観点から、女性はBMI21~25の範囲になるように体重を管理するのがよいようです*3
なお、上記のBMI判定については体重と身長から割り出したもので、筋肉が発達したスポーツ選手や、腎機能や心臓の病気で過剰にむくんでいるケースでは必ずしも当てはまるものではありません。

体重、BMI、体脂肪率が減少したがん患者さんでむくみが改善

肥満対策のための体重減少とがん関連のリンパ浮腫(むくみ)との関係については、乳がん患者さんを、体重減少の食事指導を受けるグループと一般的な食事指導を受けるグループに分け、3ヵ月後に腕の体積を測定したイギリスの研究論文があります。
その結果、体重減少の食事指導を受けた患者さんのグループでは、腕のむくみが減少しており、一般的な食事指導を受けたグループに比べて統計学的に明確な差が認められました*4
がん研究会有明病院で伊丹先生らが肥満を合併している乳がん患者さんで上肢にむくみがある18例を対象に、体重管理(減量)のための栄養指導をしました。
その結果、指導をした後に体重、BMI、体脂肪率が減少しているとともに、腕の水分量を調べる細胞外水分比(むくみの程度がわかります)も減少していることがわかりました。
つまり、栄養指導による体重・BMI・体脂肪率の減少が、むくみの改善につながる可能性があると考えられました。

標準体重、BMI21~25未満など適正体重を理解して体重管理の目標をたてましょう

がん関連のリンパ浮腫(むくみ)対策としての体重管理はどうすればよいのでしょうか。
まず、病気になりにくいとされる適正体重を知ることです。以下が目安です。

  • 標準体重:身長(m)×身長(m)×22(BMI22*という意味です)
    例:身長160mだと、1.6m×1.6m×BMI22=53.6kgが標準体重です。
  • 普通体重:BMI18.5~25未満*
    BMIは体重÷〔身長(m)×身長(m)〕で計算できます。
  • 腹囲:男性85cm、女性90cm(BMI25以上の内臓脂肪型肥満の判定基準です)
  • *:日本肥満学会の肥満症診療ガイドラインの肥満度分類では、標準体重(理想体重)はもっとも病気になりにくいBMI22を基準にしています。肥満は脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態でBMI25以上と提唱されています。

上記を目安に、自分にとっての適正体重がわかったら、次に体重管理のための減量目標を掲げます。
普通の食事で必要な栄養素を摂取しながら、無理なくできる減量は1ヵ月に2~3㎏と言われていますが、減量に関しては個人の判断で急激なダイエットを行うことは危険です。
一気に体重を減らしてやせるというのは体調が崩れやすくなります。そこで、1ヵ月に1kgぐらいのペースで、ゆっくりと時間をかけて減量していきましょう。
1ヵ月に1kg減らすためには、計算上、カロリー量は7000kcal減らさないといけませんが、1日に換算すると約230kcalです。ちょうど、ごはん茶碗1杯分(150g)程度です。
ただし、あくまでエネルギー量(カロリー量)のみの計算ですので、食事としてはたんぱく質やビタミン、ミネラルを十分量とる必要があります。
また、がんになると体力が失われることがありますので、栄養バランスの良い食事が推奨されます。次回は、食事の献立例やコンビニ利用時に工夫するコツを紹介します。

  • *1:2019年3月2~3日の第3回日本リンパ浮腫学会総会(会長:がん研究会有明病院婦人科副部長/リンパ浮腫治療室長/健診センター検診部副部長・宇津木久仁子先生)の市民公開講座「自分でできることから始めよう-栄養管理と運動療法」では、がん研究会有明病院管理栄養士・伊丹優貴子先生と一般社団法人キャンサーフィットネス代表理事・広瀬眞奈美さんが講演しました。
  • *2:Support Care Cancer. 2011;19(6):853-7.
  • *3:国立がん研究センターがん情報サービス「科学的根拠に基づくがん予防」
    https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html
  • *4:Cancer. 2007;110(8):1868-74

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公開日:2019/06/19
監修:がん研究会有明病院管理栄養士 伊丹優貴子先生