オプジーボとはまったく異なる治療法や、効果が確認されていない民間療法などが多く行われています。「そういった民間療法を受ける前に一度この本を読んでほしい」と、進行卵巣がんからの生還者の大塚美絵子さんは訴えています。この本とは「打ちのめされるようなすごい本」です。">
「免疫療法を受けたい!」本庶祐先生のノーベル賞受賞以来、こんな相談が殺到しているそうですが、適用対象は限られているので断られる患者も少なくありません。すると、自由診療のクリニックに流れる患者さんもでてくるようです。しかし、そういった施設では免疫療法といってもオプジーボとはまったく異なる治療法や、効果が確認されていない民間療法などが多く行われています。「そういった民間療法を受ける前に一度この本を読んでほしい」と、進行卵巣がんからの生還者の大塚美絵子さんは訴えています。この本とは「打ちのめされるようなすごい本」です。
目次
著者の米原万里さん(2006年没 享年56)は、同時通訳(ロシア語)のカリスマ、旧ソ連の最高指導者のゴルバチョフさんやエリツィンさんからも直接指名がかかるほどでした。さらに翻訳、エッセイ、テレビコメンテータなど、多方面で活躍されました。
著書「打ちのめされるようなすごい本」では、「私の読書日記」の章に「癌治療本を我が身を以て検証」の欄が10数ページあり、がんと診断されてから、さまざまな民間・代替療法を渡り歩いた状況がリアルに記されています。
米原さんは、2003年に卵巣嚢腫と診断されました。病巣摘出手術後、腫瘍が悪性であったため、担当医は卵巣の残りの部分、子宮、リンパ節などすべて摘出する2度目の手術と、抗がん剤治療を提案しました。
説明に納得できずセカンドオピニオンを希望したところ担当医は診療情報の提供を拒否、不信感を抱いた米原さんはその医師のもとを離れました。次に訪ねた医師は、最初の医師と同じ治療(二度目の手術と抗がん剤治療)をすすめましたが、オプションとして経過観察なども話しました。
米原さんは、すぐに二度目の手術をすることや副作用への怖れから経過観察を選択。しかし、何もしないのも不安だったため、民間療法を徹底的に調べました。
米原さんは、調べるだけでなく「これは!」と思った療法は、実際にその治療を行っている施設に出向きました。しかし、言われた通りにすんなり施術を受けたりはしません。そこでも同時通訳者ならではの「調査魔」ぶりを発揮し、質問攻めにします。
あるクリニックで、「治療の効果でがん細胞が死滅する様子」というビデオを見せられ、体内の様子を映したものかと質問、するとシャーレの中での現象だという答えが返ってきました(実はシャーレの中では、砂糖水でもがん細胞は死滅するそうです)。
その他、治療法や論文の詳しい説明を求めると、「迷惑だ、帰ってくれ」と追い出されたこともあったそうです。
また、非常に高価な割には見るからに貧相なサプリを押しつけられたりもしています。それでもめげずに目をつけた民間療法を次々と試してみましたが、効果のある療法は見つかりませんでした。
最終的に「私が試した範囲でいえば」という限定つきですが「お金と時間の無駄でしかなかった」とバッサリ斬り捨てています。「効く人もいるだろうが、わたしには逆効果だった」という記載もありました。
結局、がんはリンパ節に転移・再発してしまい、最終的には三大治療のひとつ、抗がん剤治療を受けましたが時すでに遅し!下記は治療後の日記です。
「…身を以って、本が提案する治療法を検証してきたとも言える。結果的に、抗癌剤治療を受けざるを得なくなったその経緯は、万が一、私に体力気力が戻ったなら、『お笑いガン道場』なる本にまとめてみたいと思うほどに悲喜劇に満ちていた」
出典:米原万里「打ちのめされるようなすごい本」文藝春秋社
「誰しも一度は民間療法を受けようと考えたり、知り合いから強く勧められた経験があると思います」と卵巣がんサバイバー(経験者)の大塚美絵子さん(リンパレッツ代表)はいいます。
大塚さんは、「副作用が少ない」「体に優しいといった文言に心がひかれる、あるいはサプリをすすめた知り合いとの人間関係から気持ちが揺れるのは仕方のないことだと言います。
しかし、大塚さんの場合、民間療法は一切試さなかったそうです。その理由は何だったのでしょうか?
「一つには、米原さんの本を読んだことですね。ハイリスク・ローリターンでは手を出す気にはなれません。そして、もう一つは-これは大切なことですが-医療者とのコミュニケーションがうまくいったことだと思います」
「私の場合、幸いにして主治医が非常に話しやすい方でした。顔を合わせた日に『何でも説明しますよ』と約束、ことば通りいつも丁寧に説明してくださいました。標準治療という用語一つとっても『並という意味じゃないからね。“gold standard”(=金科玉条)という意味だからね』とわかりやすく解説。もし、その説明がなかったら“並”コースで大丈夫かな?と不安に思ったかもしれません」と大塚さん。
また、主治医が不在の場合などは、患者の疑問や不安には必ず他の誰か(他の医師や看護師)が答えるという態勢をとられていたそうです。
これに対し、米原さんの闘病は「がん対策基本法」成立前。医師が患者に十分な情報提供をせず、セカンドオピニオンの希望も聞き入れられず、そのことが問題視されなかったとしても不思議ではありません。
米原さんはこういった状況に不満・不安を感じ、民間・代替療法に活路を求めたのかもしれません。
また、米原さんを恐れさせ、苦しめた副作用に関しても、大塚さんは「今は対策が進化しています。特に吐き気止めの薬は、最近また新しい良いものが出ました。脱毛は防げませんが、カツラも帽子も選択肢の幅が広がっています。その他の不快症状に対してもサポーティブ(緩和)ケアの体制が充実しています。治療だけでなく、サポーティブケアについて集中的に議論するための学会が日本でも活動しています」とのことです。
とにかく、今は時代が違います。がん対策基本法施行の翌年にがん対策推進基本計画が策定され、患者支援がいろいろな分野で飛躍的に充実しています。
もし主治医が忙しいので丁寧な説明を受けることができない場合、看護師や相談支援室を頼るという方法あります。相談支援室は他の病院の支援室でも受け付けてくれます。また、良質な情報を提供しているサイトや、患者会、支援NPOなどもあります。
ですから、このようなサポート体制を利用しつつ、まずは主治医や看護師さんと信頼関係を築いてください。米原さんが身を挺して行った壮大な実験を無にしないようにしてほしいのです。
もし、治療法がどういうものかわからない場合や不安になった場合は、情報収集としては国立がん研究センターがん情報サービス:代替療法(健康食品やサプリメント)などを参考にしましょう。学会のサイトも参考になります。
2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫対策などの弾性ストッキングなどを販売するお店をしています。
がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。
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