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傷病手当金、患者さんが絶対に押さえるべき3つのポイントとは サバイバー伝授!がんとお金(3)

がん治療のために会社を休むと、経済的ピンチに陥ることがあります。そんなときのための社会保障の制度として傷病手当金があります。卵巣がん経験者の大塚美絵子さんは、「制度をしっかり理解することが重要で、3つの柱をよく知っておきましょう」と声を大にしています。今回は、その1つ「傷病手当金が強い味方になる」ことを伝授してもらいました。

患者さん本人が理解していないと損をする

前号では、がんと診断され退職した場合に、体調が悪い間は失業手当が受けられないことをお話しました(記事:がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2))。
では、会社に残った場合はどうなるでしょうか?
当然、失業手当はもらえません。しかし、体調が十分に回復するまでは、休職により収入は激減してしまいます。
一方で、体型変化のための衣服や機能を補う装具(弾性着衣や杖)、アピアランス(容姿)のためのかつらなどの購入費、体調に合わせた食費、交通費(体力低下でタクシー利用が増えるなど)といった療養周辺費がかかります。
これら「生きるための出費」は簡単には削れません。
加えて、社会保障費の支払いは継続し、所得税は前年度を基準に課税されます。収支バランスが大きく崩れ、経済的に苦しくなります。
そこで、頼りになるのが傷病手当金の制度です。ただし、患者さん本人が理解していないと損をします。大塚さんは、傷病手当金の制度には、絶対に押さえるべき3つのポイントがあると言います。

  • 傷病手当金はお勤めの人が病気になったときの第一の味方
  • 性質としては積み立てた預金、申請に遠慮は要らない
  • 「社会的治癒」の考え方(医学的評価との相違)

今回は、1「傷病手当金制度が強い味方」であることを紹介します。

傷病手当金はお勤めの人が病気で休職になったときに一番頼りになる制度

会社員・公務員などお勤めの方は、継続して1年以上の被保険者期間があれば傷病手当金の受給資格があります。転職しても、健康保険に継続して加入していれば(前職と異なる健保組合でも可)、受給が認められます。受給の基本的要件は次の4つです。

  • 業務との関係がなく発症したケガや病気
  • 就労不能を証明する医師の診断書
  • 連続して3日以上の就労不能
  • 給与減額または無給

傷病手当金の手続きは、一般的には主治医に「仕事ができない状態であること」を記入してもらった申請書類を勤務先に送り、勤務先に収入関連の事項を記載してもらって、勤務先が健保組合などに提出します。申請書類は休んだ期間ごとに提出します。
受給額は、1ヵ月間の期間だと、これまでの月給の3分の2程度です。計算式は以下です。

計算式:支給開始日前の過去12ヵ月の各月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3=支給日額
(休業期間中に給与の支払があっても傷病手当金の額よりも少ない場合は差額が支給されます)

支給期間は、会社を休んで4日目から最長1年6ヵ月間です。

非正規の契約社員や派遣社員も健保組合に加入していればもらえる可能性あり

大塚さんが自身の体験をもとにがん患者の経済的支援制度について「がんよろず相談」を2018年9月に開催したところ、参加者から非正規雇用について聞かれました。
ご安心ください。非正規(パートタイマー等)でも、健康保険に加入していれば傷病手当金がもらえます。
また、派遣社員も専門の健保組合があります。登録先が健保に加入していれば、派遣健保から傷病手当金が支給されます。受給要件に雇用形態は問われていません(詳細は下記)

傷病手当金は退職してももらえる。失業手当との関係に注意

傷病手当金は、会社を退職した場合でも、最初の支給から18ヵ月(1年6ヵ月)までは体調が回復するまでもらい続けることができます。
退職すると失業手当を考えますが、失業手当は、「元気(=働ける状態にある)なのに仕事についていない人」を支援する制度で、体調の悪い間はもらえないのは前号で述べた通りです。病気になった時に、第一に頼るべきは傷病手当金であることがわかりますね。
では、最初の支給から18ヵ月(1年6ヵ月)経過または回復した(傷病手当金打切り)、けれどもまだ新しい仕事が見つかっていない場合はどうすればよいのでしょうか?
この場合、失業手当がもらえるのです。それには受給開始先延ばしの制度(受給期間延長、しかしお金をもらえる期間の延長ではなく受給権の有効期間の延長、最長4年まで)を申請する必要があります。
現在は、回復後に申請しても期間延長を認めてもらえます。しかし、「退職後、継続して30日以上働けない状態」にあれば傷病手当金受給中であっても申請は可能ですから、療養中からハローワークと相談して、予め受給期間延長の申請をしておいたほうが安心です。
結局、体調の悪い間は傷病手当金、体力が回復してからは(退職した場合には)失業手当の形で公的支援をうけることができます。制度をうまく利用すれば、がんに罹患して休・退職しても、そう簡単に困窮しないように制度設計されています。
次回は、傷病手当金制度に関して理解すべきこととして「当然もらうべき自分の権利」と「再発・転移と社会的治癒の考え方」について紹介します。

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大塚美絵子さん

2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫(むくみ)対策などの弾性ストッキングやスリーブなどを販売するお店をしています。
がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。
大塚さんのお店やブログ

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公開日:2019/06/7