疾患・特集

慢性骨髄性白血病の治療費と副作用、患者さんの実情 いずみの会アンケート(2)

慢性骨髄性白血病は、2001年に画期的な治療薬が登場してから生存率が向上するなど、患者さんを取り巻く環境が変わりました。一方、患者さんは服薬を継続しなければならないので、さまざまな困難があります。そこで、患者さんの実情を社会全体に理解してもらうために、患者会「いずみの会」がアンケート結果を公表しています*1。今回は受診状況や医療費、社会保障の活用状況などについて紹介します。

長く生きている患者さんが多く、3ヵ月処方が増えているのは有益

慢性骨髄性白血病の治療では、病気により体内で異常活性化するチロシンキナーゼという物質(分子)を標的にした分子標的治療薬のチロシンキナーゼ阻害薬*2があります。
この薬は飲み薬で、患者さんは外来通院するようになりました。治療を受けた患者さんの生存率が高くなっています。そこで、いずみの会の2018年度アンケート結果(有効回答521人、患者さん約85%、男性約53%など)から医療機関への受診状況などを紹介します。

通院は2~3ヵ月に1回が大半、社会保障制度の活用により負担を軽減

まず、通院の頻度(受診間隔)を見ると、平均して10.2週でした。前回調査(2013年)では平均9週なので、通院の間隔が延びています*3。受診1回当たりの薬の処方日数は、「3ヵ月分」約55%、「2ヵ月分」22%、「2週間分」と「1ヵ月分」はそれぞれ約13%でした。

患者会代表の田村英人さんのコメント
「患者さんは、病状が悪化せずに「寛解」という安定した状態を維持するために薬を服用し続けることが必要です。そこで、高額療養費制度を活用して、患者さんが直接的な負担を軽減する有効策として3ヵ月処方は有益です。」

医療費負担は年間40万8000円、1回受診で8万7000円弱、以前より減額傾向

医療費について見てみましょう。患者さんが負担する年間の支払い受診料(平均受診料を通院頻度10.2週で試算)は40万8000円でした。前回(2013年)の調査では68万4000円でしたので、前回調査に比べると今回の調査結果では約27万円以上の減額でした。これは高額療養費制度の理解と限度額適用認定の利用によるものと思われます。
受診1回の平均受診料は「8万6680円」(2万円未満25%、2~5万円未満24%、5~10万円未満23%)で、前回調査の平均12万8000円よりも4万円以上の減額でした(図)。

図:受診1回の平均受診料 図:受診1回の平均受診料

出典:慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行)

高額療養費制度と限度額適用認定制度のことをよく理解してほしい

患者さんの医療費負担は以前に比べて減っているとはいえ高額です。そこで、患者さんが受けられる社会保障として、高額療養費制度と限度額適用認定制度があります。

  • 高額療養費制度:1ヵ月間(月初めの1日から月末までの期間です)の医療費(差額ベッド代、入院時の食事代、保険診療以外の医療費などは含みません)の自己負担額が一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合、その分があとで払い戻される制度です。
  • 限度額適用認定制度:自己負担限度額を超えそうなときに、事前申請して認定してもらった限度額適用認定証を提示すると、窓口負担額が自己負担限度額までになるものです。

アンケート結果を見ると、「高額療養費制度を受けている」は約60%、「高額療養費制度を受けており、すでに限度額申請をしている」は21%でした。ただ、「制度のことを知らない」は0.6%、「詳しい内容まで知っている」は約8%でした。
田村さんは、「高額療養費制度や限度額適用認定制度は患者さん自身が手続きして申請しないといけないので、制度の詳しい内容まで理解してほしい」と話します。 病院の相談室のソーシャルワーカーさんや患者会に詳細を問い合わせすることができますので、大いに活用してほしいとのことでした。

治療効果を重視度かつ満足度が高い

検査や治療に関して重視すること、満足していること(以下、重視度、満足度)を10段階評価してもらいました。その結果から重視度が高い回答は順に以下でした。

表:検査や治療に対する重視度と満足度(点数は10段階評価の平均、項目は重視度が高い順)

重視度 満足度
「治療効果が高い」 9.39 8.52
「副作用が少ない」 8.80 6.19
「病院で支払う経済的負担が少ない」 8.60 4.57
「血液検査だけですむ」 8.57 9.17
「内服薬である」 8.42 8.80
「1日あたりの服用回数が少ない」 7.67 8.18

出典:慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行)

上記を見ると、1日1回の服用で効果が高く副作用が少ない飲み薬や、「血液検査ですむ」の重視度と満足度が高いようでした。
検査に関しては、以前は骨から骨髄を注射で吸引する骨髄穿刺という検査を受けることがありました。この検査を受ける時は、麻酔は骨には関係ないのでかなりの痛みを伴います。
最近は、検査のやり方も変わってきたようです。PCR検査(ポリメラーゼ連鎖反応法検査)など、体への負担が少ない血液検査の技術が向上して普及しています。

医療費負担と副作用は課題あり、薬の服用中断を考えることも

重視度が高くても、実情としては満足度が低いという回答がありました。それは、「病院で支払う経済的負担が少ない」、「副作用が少ない」です。 また、薬の服用中止に関する調査結果を見ると、「服用中止を考えたことがある」との回答は約37%でした。その理由は副作用が6割、経済的な理由が4割でした。 経済的な理由については、以前の調査結果に比べて減少傾向ですが、まだまだ課題となっています。

次回は、治療を続けるうえでの不安や困難、今後の見通しに関する調査結果を紹介します。

調査結果の詳細をまとめた会報誌は、患者会代表・田村英人さんのご好意により、無償で提供していただけます。
お問い合わせ:「いずみの会」メールアドレス izumi_cml@yahoo.co.jp

  • *1:患者会・いずみの会では、2009年、2010年、2013年、2018年に会員を対象にアンケートを実施しています。受診状況や症状、医師への評価、日常生活、医療費、就労、結婚・出産など、多岐にわたって調査しています。
  • *2:慢性骨髄性白血病で異常活性化するチロシンキナーゼという物質(分子)を標的に、活性化を抑える分子標的治療薬のイマチニブ(製品名:グリベック)が2001年に登場したことで、治療を受けた患者さんの生存率は劇的に向上しました。
    2019年9月現在、保険診療で治療を受けられるチロシンキナーゼ阻害薬は5種類あります。診療の流れは、まずイマチニブ(製品名:グリベック)、ニロチニブ(同タシグナ)、ダサチニブ(同スプリセル)の3剤から選択します。
    最初の薬で効果不十分(イマチニブ耐性になるbcr/abl遺伝子に変異が現れた場合など)や副作用の場合、上記ならびにボスチニブ(同ボシュリフ)、ポナチニブ(同アイクルシグ、bcr/abl遺伝子変異のうちT315Iという変異が検出された場合など)に変更します。
  • *3:患者さんの通院間隔について聞いた結果では、半数近い約47%が「12週間以上」(男性では40~50歳代が回答の半数、女性では40歳代で回答が多い)で、平均10.2週でした。

■参考

  • 慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行)
  • 第80回日本血液学会学術集会ポスターセッション:The actual condition of treatment and life seen from CML patients
  • 第59回日本癌治療学会がん患者・支援者プログラム/ポスター発表演題:CML患者からみた治療と生活の実態
  • Chronic Myeloid Leukemia Patient Survey Report 2018
  • 慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」
    http://www7b.biglobe.ne.jp/~izumi-cml/
  • NPO法人血液情報広場・つばさ(血液がんのフォーラム・セミナーを全国で随時開催しています)
    http://tsubasa-npo.org/

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公開日:2019/10/09
監修:慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」代表 田村英人さん