がんの治療終了後に、むくみ(リンパ浮腫)に長く悩まされるケースがあります。根治療法がないため、症状に関する正確な知識をもったうえでのセルフケアが重要です。キャンサーフィットネスはオンラインで「リンパ浮腫患者スクール」を開講しています。今回、乳がんに関する聖マリアンナ医科大学・小島康幸先生の講義から、乳がん発症のリスクやリンパ浮腫への対策などを紹介します。
目次
乳がんが他の臓器への転移*1を防ぐために、リンパ節を取り除く手術などよって、体内のリンパ液の流れが悪くなることがあります。そうするとリンパ液がたまり、リンパ浮腫(がん治療後のむくみ)が腕やわきの下あたりに起こることがあります*2。
根治的な治療法がないため、家事や仕事などに影響し、長年悩みがつきない後遺症ですが、医療のサポートも十分ではありません。毎日のセルフケアが悪化させないために重要なことは分かっているので、患者さん自身が安心してセルフケアできることが大事です。
そこで、キャンサーフィットネス(代表理事:広瀬眞奈美さん)は専門医15人の講義とQ&A、参加者の座談会などを盛り込み、リンパ浮腫についてあらゆることが学べるリンパ浮腫患者スクール(年間12回・20講座、2020年度スケジュールPDF)を開講しました。
今回のテーマは乳がんです。聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科副部長/准教授の小島康幸先生の講義を紹介します。
小島先生によると、乳がんは女性では年間9万人が罹患し、30歳代から患者数増えて40歳代後半と60歳代後半の2つのピークがあります。
乳がんの発症には、女性ホルモンのエストロゲンが関係しています。排卵時期に分泌されるエストロゲンにさらされる時間が長いほど発症リスクが高いとされています。
エストロゲンは閉経前は卵巣で分泌されますが、閉経後に乳がんを発症するのはなぜでしょうか。
閉経後、エストロゲンはおもに脂肪組織で産生されます。つまり、脂肪組織の多い肥満の人はエストロゲンが増えるので乳がんの発症リスクになるのです。
治療は、病期(しこりの大きさやリンパ節転移の範囲、他の臓器への転移からステージⅠ~Ⅳと判定)と、サブタイプ〔HER2の陰性・陽性、ホルモン受容体の陰性・陽性(エストゲン受容体、プロゲステロン受容体のいずれかまたは両方ある場合)〕で決まります。
ステージにより、局所療法(乳房切除または温存手術、脇の下のリンパ節の生検または郭清、放射線照射)と全身療法(抗がん剤=化学療法、ホルモン療法、分子標的療法)を組み合わせて治療します*3。
乳がんの患者数は多いのですが、死亡率は他のがんよりも低いです。治療によって脇の下のリンパ管が障害を受けると上肢(腕など)にリンパ浮腫が起こることがあります。
その原因として、リンパ節を切除する手術〔明らかに転移がある場合の腋窩リンパ節郭清(腋窩リンパ節は脇の下のリンパ節という意味)や、脇の下や鎖骨周囲への放射線照射、抗がん剤(タキサン系の薬剤が関与する研究報告があります)などが指摘されています。
リンパ浮腫は個人差があり、すべての患者さんに発症しません。腕のリンパ浮腫を認めやすい時期として、手術後1年以内とする報告もありますが、晩期に発症するケースもあります。乳がん治療後は肥満対策や運動・リハビリが重要です。以下がポイントです。
医師などが診療時に参考とする「がんのリハビリテーションガイドライン」(日本リハビリテーション医学会、ガイドラインの委員長はキャンサーフィットネス顧問の慶應義塾大学・辻哲也先生)では、治療後の予防法として推奨度が高い位置づけにしています。
乳癌診療ガイドラインには、予防ではスキンケアや運動によりリンパ浮腫の発症頻度が減少することが示されています。治療では圧迫療法をしながらの運動やリンパドレナージ、スキンケアを併用する複合的治療が推奨されています。つまりセルフケアも重要です。
リンパ浮腫診療ガイドライン2018年版でも、運動によってリンパ浮腫の減少が認められることや、運動でリンパ浮腫は悪化しないことが示されており、治療後早期に運動することや、レジスタンストレーニング、ウェイトレーニングなどの有用性に関する研究結果が紹介されています。
また、最近はピラティスのリンパ浮腫改善効果も報告されています*7。
以上から、乳がんの発症リスク、治療後のリンパ浮腫(むくみ)に肥満が関係すること、対策としてリハビリ(運動)が有用なことがわかりました。病気の正確な知識を理解し、そのうえでセルフケアに励むことがリンパ浮腫対策の一番の近道です。
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