がん情報がネット上にあふれかえっていますが、どれが正しいのでしょうか。情報を見極めて正確な知識を持ってもらうために、がん専門医がYouTubeライブ動画配信で皆さんの疑問に答えるQ&A形式の「公開セカンドオピニオン」が開催されています。2019年11月3日に開催されたグリーンルーペプロジェクト*1のイベントの模様を紹介します。
目次
写真:2019年11月3日のグリーンルーペの
公開セカンドオピニオンのセッション
セカンドオピニオンは、病気や診断や検査のこと、主治医から提案されている治療法などに対し、主治医以外の医師に相談して参考意見などアドバイスをしてもらうことです。
医療機関で手続きする以外に、がん専門医がYouTubeライブ動画を通して日々の疑問に答えてくれる公開セカンドオピニオンがあります。
誰でも閲覧できますし、会場に行けなくても参加、質問できます。相談者の名前や姿は公開されないので、主治医に聞きにくいこと、民間療法のことや日ごろ感じる疑問など、遠慮せず何でも相談できます。
運営しているのは、がんに関わる正確な情報を提供している宮崎善仁会病院消化器内科・腫瘍内科の押川勝太郎先生(NPO宮崎がん共同勉強会理事長)です。
2019年11月3日に、がん患者さんやご家族だけでなく世間一般にがんのことを知ってもらうために開催されたグリーンルーペプロジェクトのイベントで、慶應義塾大学病院腫瘍センター主催の公開セカンドオピニオンの場*2が設けられました。
公開セカンドオピニオンは、10の質問に対して、押川先生、慶應義塾大学病院腫瘍センター副センター長の浜本康夫先生をはじめとしたがん専門医、患者会から解説とアドバイスをするQ&A方式で前・後半に分けて催されました。以下は前半の部のQ&Aの一部です。
食事や飲酒はがん発症の原因の一部となり得ますが、がんをいったん発症すると、栄養をとって体の調子を整える食事療法は根本治療になりません。例えると、複雑骨折したときに食事療法で骨がくっつくことを考えるようなものです。食事制限や糖質制限が良いという人がいますが、治療としては次元が違いますし、自分を追い込むとストレスで体調が悪くなるだけです。
標準治療(現時点で最良のゴールドスタンダード)を超える民間医療のエビデンスは明らかとはいえません。民間療法の効果は今後明らかになるとの意見がありますが、庭を掘って石油が出るのを待つようなものかもしれません。切羽詰まると冷静に判断できなくなるので、その前にがん治療に関する正確な知識を持つことが重要です。
にんにく注射などがありますが、がん治療としての効果はありません。たとえば、ビタミンCは自動車のオイルのようなもので、自動車レースに勝つために大量のオイルをつぎ込むようなものです。あくまで、体調を整えるためにあります。
大金をつぎ込んでも、標準治療を超えるプロフェッショナルな特効薬や民間医療に巡り会えるとはいえません。健康保険で受けられるゴールドスタンダードの標準治療は皆さんに平等なので、むしろ逆です。標準治療をないがしろにすることは避けましょう。
抗がん剤のつらい副作用という風評が定着しすぎです。抗がん剤のなかには副作用がつらくないものもあります。医師は、がんの苦しみを和らげるために実績(エビデンス)が多い抗がん剤をすすめますが、患者さんは抗がん剤の副作用で苦しい思いをしたときには、医師に副作用を和らげることを相談することや緩和ケアを受けましょう。
Q1~Q5の詳細は動画:
後半の部では、事前に用意されたQ&Aだけでなく、会場から質問が寄せられました。以下は、後半のQ&Aと会場から寄せられた質問とその回答について、内容の一部を紹介します。
若いから病気の進行が速いのではなく、がんの種類によって、また個人によって病気が進行する速度は異なりますし、年配のかたで進行が速い病気はあります。若いと細胞の新陳代謝が活発なので、進行が速いという印象を持ちやすい、あるいは若くしてがんを発症したときの混乱があって誤解するケースだと思われます。
抗がん剤は、世界的に使われています。ネット上では日本だけが抗がん剤をたくさん使っている、医師は製薬会社と癒着して手先になっているとか情報が飛び交っていますが、そんなことは全くのデマです。全世界の薬の売り上げTop20に抗がん剤が5種類はいっています(免疫チェックポイント阻害薬などです)。
栄養と筋力をつけて体調をよくする意味で免疫力とかいわれますが、医学用語ではなく曖昧な表現です。ブロッコリーやきのこを食べて免疫力を高めても、いったん発症したがんへの治療効果は不明です。なお、免疫療法の免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫の攻撃から逃げることをブロックする薬なので、免疫力は関係ありません。
平熱36.5℃以上はがんになりにくい、平熱をあげる工夫などがネット上で拡散されていますが、がんの発症に関係あるのかどうかわかりません。体温があがると病気になりにくいというベストセラー書籍が一人歩きしているようです。温熱療法(ハイパーサーミア療法)は、ごく一部のがんに対する治療法です。
再発した状況によります。他の臓器に転移していても、がん細胞が少なければ再手術するときはあります。転移した臓器にがん細胞が多くある場合や、手術するとかえって寿命が短くなる可能性が考えられるとき、本当に必要な治療を優先するときなどケースバイケースです。なお、放射線治療も同じ考えです。
会場の聴講者からいくつか質問が寄せられました。そのなかで、がん検診のマンモグラフィ(乳がん)やバリウム(胃がん)は日本だけでやっているのは本当かどうかとの問い合わせがありました。回答については、日本の胃がん患者は海外より多いので、胃がんの検診を導入しているとのことでした。
胃内視鏡検査についても問い合わせがありましたが、この検査が導入されたのは最近で、現状はすべての国民が検診を受ける体制ができているバリウム検査が主流とのことでした。今後は、内視鏡検査に移行していく可能性があるとのことでした。
乳がんに関しては、マンモグラフィは見つけなくてもいいものも見つける過剰診断のデメリットはありますが、40歳以上で検診を2年に1回受けることで、乳がんを早く発見して死亡を減らせるメリットのほうが上回るので検診として導入されています。
超音波検査に関しては、現在は検査を受けることで死亡を減るのかどうかを検討する研究が実施中でエビデンスが明らかではないので、マンモグラフィが導入されています。
Q6~Q10、会場の聴講者とのQ&Aの詳細は動画:
押川先生、浜本先生らは自分たちが伝えたい情報が届けられず、ネットで拡散されているフェイク情報や都市伝説が蔓延する現状に歯がゆい思いをもっています。
これは、医療者と患者さんとの間に生じるギャップが原因の1つと考えられます。そこで、ギャップや隙間を公開セカンドオピニオンの場で埋め合わせていくことができれば、医療者も患者さんも同じ目標が持てることにつながるとしています。
だからこそ、先生はYouTubeライブ動画で全国からリアルタイムに相談を受けていきたいとしています。
公開セカンドオピニオンに参加・質問したい人、閲覧したい人は、押川先生のブログ/YouTubeライブ動画「がん治療の虚実」をご覧ください。
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