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202:血圧測定の歴史(1)現代の血圧測定法は日露戦争の最中に発見された(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

大人の健康情報

望月吉彦先生

更新日:2026/01/13

寒い季節は血圧が上がります。大動脈解離、心筋梗塞など血圧が関係する病気は冬に多いのですが、それは血圧が冬に上がるためです。そこで今回から血圧発見に関する歴史などを紹介します。血圧とは動脈圧のことです。人間や動物の動脈に「圧」があることは古くから知られていました。動物を屠殺すれば、動脈から血液が噴出するからです。血液が噴出するくらいですから、かなりの圧が動脈内に存することは容易に推察されていました。しかし、動脈圧を測定するのは簡単ではありませんでした。様々な方法が試みられました。

今から100年ほど前、現在も用いられている血圧測定法が考案され、今もその方法が世界中で使われています。この血圧測定法は、日露戦争に従軍したロシア人外科医によって「発見」されています。日本軍兵士が撃った銃弾によって傷ついたロシア兵治療の最中に発見されたのです。様々な血圧測定方法開発の歴史を振り返りながら、現在の方法の考案者であるロシア人外科医について紹介します(数回つづきます)。

1. 1714年 ヘイルズが頸動脈圧の直接測定に成功

最初に動物の血圧測定に成功したのは、神父にして科学者でもあったイギリス人のスティーヴン・ヘイルズ(Stephen Hales、1677-1761)です。ヘイルズは1714年12月、14歳になる年老いた雌馬を使って血圧測定の実験を行いました。馬を倒して右側を下にして固定、7分の1インチ(筆者注:約4mm)の銅管を頸動脈に挿入、その銅管をフレキシブルなアヒルの気管に接続、気管の先端を12フィート(約3.5m)のガラス管を接続したのです。 ヘイルズが頸動脈を圧迫していた紐を緩めると血液は、9.5フィート(約2,9m)までガラス管の中を上昇しました。そして ガラス管の中の血液は心臓の収縮、拡張によって規則的に上下しました。これが動物の血圧を定量的に測定した世界初の実験です。実験から19年後の1933年、この実験を論文にして発表しています。19年もの間、論文にしなかったのは、動物の血液を扱う事を非難するキリスト教信者がいたからだと言われています。それはともかく、その論文の表紙をお示ししましょう。全文を読みたい方はご連絡ください。


図1:1733年のヘイルズの実験 MEDICINE(1978)より(画像:Wikimedia Commons)

ヘイルズは馬の頚動脈圧を直接測定したのです。2.9mも血液が噴出=血液を2.9m上昇させることができるだけの力(圧力)が動脈にあることがわかったのです。このガラス管の中に予め水をいれて平衡状態を保つ水柱の高さが馬の動脈圧ということになります。ただし、水と血液の比重は1:1.055 厳密なことを言えば血液の方が重いので、水をガラス柱の中に入れた場合と血液が満たされる高さで多少の誤差は生じますが、無視し得る範囲内でしょう。血圧を測るには動脈に直接管を入れる必要があり、その上に3-4mの空間が必要でした。これでは、外来で簡単に血圧を測ることなどできないですね。
今は使われなくなっています。あのガラス管の中に水銀が入っています。2013年に「水銀に関する水俣条約(注:国際条約です)」が発効し、2021年から水銀を使った機器の製造ならびに輸出入が原則として禁止されました。それに伴い、上図のような血圧計は、医療機関から姿を消しつつあります。当院にもありましたが、所定の廃棄方法に則って廃棄しました。水銀を使う血圧計は無くなりつつあります。さて、それなら水銀を使ったmmHg(ミリメートルマーキュリー、ミリ水銀柱)という単位はどうなるのでしょう。ご存じの如く、科学的指標には「国際単位系(こくさいたんいけい、英: International System of Units、略称: SI)」が使われます。圧力に関してはパスカル(Pa=m?1kg s-2)というSI単位で表現されることになっていますが、事、血圧に関しては今のままmmHg(ミリメートルマーキュリー、ミリ水銀柱)が使われると予想します。

2. 1828年 血圧測定に水銀を用いることを提唱したのはポアズイユ

水柱(水の高さで血圧を測る)で血圧を測るなら3mくらいの空間が必要です。簡単ではないですね。これを解決したのがハーゲン・ポアズイユの法則「管の中を流れる流量は管の半径の4乗に比例し、圧力差に比例し、管の長さと流体の粘性に反比例する」で有名なフランス人医師で科学者のジャン・ポアズイユJean Marie Poiseuille(1799- 1869)です。ポアズイユは医学生の時(29歳)に水銀血圧計を考案しました。1828年の事です。ヘイルズの実験から、約100年が経っていました。水の代わりに、水銀(常温で液体である唯一の金属)を用いれば3-4mの空間は必要無くなることに気付いたのです。水銀の比重は13.6です。つまり、例えば水柱3mの血圧は、300cm/13.6≒22cm。つまり水銀なら22cmの高さです。そういうわけで、現在、血圧はmmHgという単位で表します(注:Hgは水銀の元素記号です)。その元を作ったのがポアズイユの考案した水銀血圧計です。


図2:ポアズイユの考案した水銀血圧計

管の中に水銀が入っています。
血圧が120/80mmHgなら、水柱で表すと163.2/108.8cmです。こんなに大きな血圧計は無理ですね。
話は本題から逸れますが、一昔前までは水銀そのものを使った血圧計が主流でした。


図3:水銀血圧計

水銀血圧計は、今は、使われなくなっています。あのガラス管の中に水銀が入っているのですが、2013年に「水銀に関する水俣条約(注:国際条約です)」が発効し、2021年から水銀を使った機器の製造ならびに輸出入が原則として禁止されました。それに伴い、上図のような血圧計は、医療機関から姿を消しつつあります。当院にもありましたが、所定の廃棄方法に則って廃棄しました。水銀を使う血圧計は無くなりつつあります。
さて、それなら水銀を使ったmmHg(ミリメートルマーキュリー、ミリ水銀柱)という単位はどうなるのでしょう。ご存じの如く、科学的指標には「国際単位系(こくさいたんいけい、英: International System of Units、略称: SI)」が使われます。圧力に関してはパスカル(Pa=m?1kg s-2)というSI単位で表現されることになっていますが、事、血圧に関しては今のままmmHg(ミリメートルマーキュリー、ミリ水銀柱)が使われると予想します。

現在、使われているのはアネロイド血圧計とデジタル血圧計です。どちらも水銀は使っていません。


図4:アネロイド血圧計

アネロイド(aneroid)はギリシャ語に由来する言葉で「液体を使わない」という意味です。アネロイド血圧計は、水銀血圧計とは異なり、バネの力を利用して圧力を測定し、針が円弧状に動くことで血圧値を示します(図4)。

現在は図5、図6の如く電動の血圧計が主流です。


図5:デジタル血圧計 手首測定


図6:デジタル血圧計 上腕で測定

さて、話をポアズイユの時代に戻します。ポアズイユの血圧計もヘイルズの血圧計と同じように、動脈に直接管を入れないと測れませんでした。患者さんの血圧を測るのに、いちいち動脈に管を挿すなどできません。ただし、現在では心臓手術などで橈骨動脈などに直接細い管を入れて測定します。手術後ICUでもリアルタイムに測定しています。これを観血的動脈圧測定と言います。しかし、外来診療ではそんなことはできません。

3.1896-1897年、現代も使われる血圧計を考案したのはイタリア人医師リバロッチ

図3で示した水銀血圧計を考案したのは、イタリア人のシピオーネ・リバロッチ医師(Scipione Riva-Rocci、1863-1937)です。リバロッチは1896〜1897年にかけて血圧計に関する論文を4編出版し、水銀血圧計の原型を創り出しました。リバロッチ医師は図2に示したようなポアズイユの考案した水銀血圧計とは違い、今の血圧計の原型である「上腕を空気圧で圧迫するためのカフ」を巻いて血圧を測定したのです。


図7:リバロッチの考案した血圧計。管の中に水銀が入っています。

リバロッチ型血圧計の使い方

  • 上腕にカフを巻く
  • 図右に見えるボールを握って空気圧をかけ、カフ内圧を上昇させる。カフ内圧は水銀の高さで測る
  • 医師は橈骨動脈を触診
  • 脈が触れなくなるときの水銀の高さをもって収縮期血圧としました

天才的発明でした。


図8:リバロッチ血圧計の現物写真

リバロッチの方法では聴診器を使っていません。この方法では収縮期血圧しか測れないのです。

4. 1905年 コロトコフが聴診器を用いた血圧測定を考案

リバロッチの血圧測定法に革新的な方法を加えて、現在の血圧測定法を確立したのはロシア人外科医のコロトコフ(Korotkov, N. S.、Николай Сергеевич Коротков:1874―1920)です。1905年、極めて重要な論文を発表しました。


図9:コロトコフ

コロトコフが書いた血圧測定の論文を示します。短いですが、要点はすべて書かれています。素晴らしい論文です。

ロシア文字だからちんぷんかんぷんですね。幸い、これを英訳した論文8.があります。引用します。元は、くどいですが、コロトコフがロシア語で書いた論文です。

「Concerning the problem of the methods of blood pressure measurement」
Korotkov, N S
From the clinic of S. P. Fedorov
On the basis of his observations, the author came to a conclusion that a compressed artery in normal conditions does not produce any sounds. Using this circumstance, the author proposes an auscultatory method to measure blood pressure in humans. The Riva-Rocci cuff should be posed in the middle third of the arm; the pressure in the cuff is rapidly increased up to complete obstruction of the distal blood circulation. Thereafter, letting the pressure in the cuff decrease, the artery just below the compression should be auscultated with a child stethoscope. At the beginning of the procedure, no sound can be heard. After the mercury column drops to a certain point, first a short sound appears, which indicates the passing of the blood under the cuff. Consequently, the level of the pressure when the sounds appear can be taken as the maximal blood pressure. A further decrease in cuff pressure is accompanied by compression murmurs on the artery, which later are again transformed into definite sounds (second ones). Finally, all sounds disappear. This indicates the free movement of the pulse wave; in other words, at this point, the minimal blood pressure becomes higher than the cuff pressure. Thus, the mercury readings at this moment can be taken as the minimal blood pressure. The animal experiments gave confirmative results. The first sound appears earlier than the distal pulse (10?12 mmHg), for the palpation of the latter on the arteria radialis a stronger pulse wave is required.

翻訳してみました。

コロトコフ博士 血圧測定方法に関する問題について(フェドロフ教授の診療所より)
自らの観察に基づき、著者は完全に圧迫された動脈において正常な血液循環状態では何の音も聞こえないという結論に達した。この発見を利用して、人体における血圧測定の新しい方法を提案する。リヴァ・ロッチ・カフを腕の中央3分の1に装着し、カフ内の圧力を遠位の血液循環が完全に閉塞するまで急速に上昇させる。その後、カフの圧力を下げながら、圧迫部直下の動脈を小児用聴診器で聴診する。手技の初期には音は聞こえない。水銀柱がある点まで下がると、まず短い音が聞こえ、これはカフの下を血液が通過していることを示す。その結果、音が聞こえるときの圧力レベルを最高血圧とすることができる。カフ圧がさらに低下すると、動脈の圧迫雑音が現れ、これが再び明確な音(第2音)に変化する。最後に、すべての音が消える。つまり、この時点で最低血圧はカフ圧より高くなる。したがって、この瞬間の水銀測定値を最低血圧とみなすことができる。動物実験でも確証的な結果が得られた。最初の音は遠位脈拍(10〜12mmHg)より早く現れ、橈骨動脈上で後者を触診するにはより強い脈波が必要である。
帝国軍事医学アカデミー紀要 1905年、12月、第4号、第11巻、365ページ

注:「この時点で最低血圧はカフ圧より高くなります。したがって、この瞬間の水銀測定値を最低血圧とみなすことができる。」とあります。最低血圧とは拡張期血圧です。リバロッチの方法では収縮期血圧しか測れません。コロトコフの発見した方法により現在の血圧測定法が定まったのです。

発表されたのが、帝国軍事医学アカデミー紀要というマイナー医学雑誌だったことやロシア語で書かれたことでこの論文は埋もれていました。再発見して誰でも読めるようにしたのが文献7.8.9.です。
すごい発見です。ここで初めて、現在のような「収縮期血圧/拡張期血圧」の測定法が確立したのです。収縮期血圧と拡張期血圧の間に動脈から発する音をコロトコフ音といいます。この論文が元になっています。
一昔前まで、外来でコロトコフの方法で血圧を測っていました。今でも、この方法は現役です。電気がなくても測れます。

しかし、1905年にコロトコフが論文を発表してから長らくコロトコフの名前は忘れられていました。コロトコフのお墓もどこにあるのかわからないくらい忘れられていたのです。しかもコロトコフの息子は、父親が若くして亡くなったため、かなり苦労して医師になっていますが、彼は父親の大業績を知らなかったのです。

次回はコロトコフの名前がほぼ忘れ去られていた理由などを紹介します。かなり衝撃的な話です。コロトコフの名前を掘り起こして紹介した医師がいるとか、コロトコフの業績を横取りしようとした医師がいるかと…そういうお話は次回で。

最後にコロトコフ音を聞いてみましょう(音が出ます。ご注意ください)。
https://www.youtube.com/watch?v=VJrLHePNDQ4

追記:

ここまで書いて、あることに気づきました。1903-1906年に現在の循環器病学の基礎となる論文が相次いで出版されたのです。
血管吻合:Carrel A. La technique operatoire des anastomoses vasculaires et la transplantation des visceres. Lyon Med 1902;98:859—63.
心電図:Einthoven W. Die galvanometrische Registerung des menschlichen Elektrokardiogram: Zugleich eine Beurtheilung der Anwendung des Capillar-Elektrometers in der Physiologie. Pflügers Arch ges Physiol 1903;99:472-480.
血圧:Korotkov, NS:On methods of studying blood pressure. Izv Imper Voen Med Acad. 1905;11:365-367.
心臓の刺激伝導系:S. Tawara:Das Reizleitungssystem des Saugetierherzens. S. Tawara, Verlag von Gustav Fischer Jena, 1906.
です。上記4論文は、数学で言えば「定理」のような論文です。これらの論文を元に循環器病学が発展したと言っても過言ではないと思います。

【参考文献】

  • Hales S. Statical essays: containing haemastaticks. An account of some hydraulick and hydrostatical experiments made on the blood and blood vessels of animals. Royal Society of London 1733
  • Riva-Rocci, S.:Un nuovo sfigmomanometro. Gazz Med Torino. 1896;47:981
  • Korotkov, NS:On methods of studying blood pressure. Izv Imper Voen Med Acad. 1905;11:365-367
  • Korotkov, NS:On methods of studying blood pressure. Izv Imper Voen Med Acad. 1906;12:254-257
  • Korotkov, NS:Concerning the problem of the methods of blood pressure measurement. Journal of Hypertension 23(1):p5, January 2005.
  • Igor E. Konstantinov:Nikolai S. Korotkov: A story of an unknown surgeon with an immortal name. Surgery. 1998 Apr;123(4):371-81.
  • Lewis WH Jr. The evolution of clinical sphygmomanometry. Bull N Y Acad Med. 1941;17:871-881.
  • Giuseppe Mancia, Alberto Zanchetti:One hundred years of auscultatory blood pressure: commemorating N. S. Korotkoff. J Hypertens. 2005 Jan;23(1):1-2
  • Korotkov, NS:Concerning the problem of the methods of blood pressure measurement. Journal of Hypertension 23(1):p5, January 2005.
    この論文はKorotkov, NSが投稿した体裁をとっています。
  • N.H. Naqvi(著), M. Donald Blaufox(著)『Blood Pressure Measurement: An Illustrated History』CRC Press; 第1版(1998/6/15)
    血圧測定の歴史に関する定番本。全文を日本語で読めます。
    http://smijapan.com/download/Ref_History%20of%20BP%20Reading.pdf
  • 髙階經和「血圧測定の今昔物語」(臨床心臓病学教育研究会のサイトより)
    https://www.jeccs.org/2021/04/30/blog_takashina/

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-3-10 チサンホテル浜松町1階
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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