がん細胞は正常細胞の何倍もブドウ糖を取りこみます。グルコース(ブドウ糖)代謝が活発になるのです。最近報告された動物実験の研究により、一部のがんのマウスモデルにマンノースを食べさせるとグルコース代謝を抑えて、がん細胞の活動を弱める可能性があるとの知見が得られました。NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ)で、代表理事の西川伸一先生が「論文ウォッチ~生命科学の今」のコラム欄で解説しています。
炭水化物とは糖質のことです。糖質の基本単位は単糖類で、グルコース(ブドウ糖)、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどがあります。
今回、Natureオンライン版に掲載された動物実験の研究結果から、マンノースががん細胞の増殖を抑制して化学療法の効果を促進させるはたらきを持つ可能性が報告されました(記事原文「Mannose impairs tumour growth and enhances chemotherapy」)。西川先生によると、がん細胞はグルコース代謝が正常細胞より活発になっているので、逆にがんのアキレス腱としてグルコース代謝を抑制すること治療に応用するがん代謝研究が進められているとのことです。
最近、Natureに掲載された動物実験の研究によると、グルコースと同じ単糖類のなかでグルコース代謝を抑制できるものについて実験を行った結果、一部のがんでは体内でマンノースのはたらきによりグルコース代謝が抑制されることが明らかになりました。
さらに、試験管内でマンノースの効果が明らかにされたがんに関して、マウスのがん治療モデルにマンノースを食べさせる実験を行ったところ、がん細胞の増殖を抑えて化学療法の効果を高まる可能性と、直腸がんで効果が高い可能性がわかりました。
今回の研究結果では、マウスにマンノースを食べさせることにより、一部のがんでは増殖を抑える可能性があるとの知見が得られました。
なお、マンノースは食品に含まれる成分ですが、微量ですし、食品を多く食べたところで効果があるかどうかについては明らかになっていません。
西川先生によると、マンノースという成分を用いて低コストかつ副作用が強くはない治療法の一環として開発されることは、がん代謝研究として興味ある知見との話です。
ただし根治ではなく、がん治療の補助剤となること、副作用は少ないといっても飲み続けることによってがんに対する免疫が弱くなる可能性があることに注意すべきとしています。臨床試験を通じて検証したうえで治療補助剤として開発することが望まれます。