慢性骨髄性白血病の患者さんは、2001年から画期的な飲み薬*1が登場して以降、QOLが向上して、長く生きることへの希望を持てるようになりました。その半面、服薬を継続しながら生活する患者さんのサポートが課題です。患者会「いずみの会」のアンケート結果から、サポートするためのニーズ、医師に求めるニーズなどについて紹介します。
目次
いずみの会は、2009年、2010年、2013年、2018年に患者さんや家族に調査をしています。
2018年の調査結果(有効回答521人、患者さんの割合は約85%)では、治療を続けながら将来への見通しを抱く患者さんが多い一方、後遺症や薬の副作用、病気の再発、医療費の負担、就労などへの困難や不安が大きいことが課題として挙げられています。
具体的には、「情報をどこから得たらいのか」「病気になる前の生活に戻れるのか」、「新しい薬に変更するのがいいのかどうかわからない」などです。
そこで、患者さんをサポートする医師に対する患者さんの意見や、医師に相談できないときの情報源のよりどころなど、患者さんが求めているニーズについて紹介します。
アンケート結果から、患者さんや家族が主治医に対する満足度を10段階評価してもらった結果を見ると、平均満足度は10段階中7.83と高く、男性は平均8.80、女性は7.64でした。
10段階中8~10と満足度が高い人の割合は約65%で、男性では20~30歳代が74%でした。医師との相互理解がありそうでしたが、満足度が高くないのは男性40歳代(58%)、女性50~60歳代(約60%)でした。「医師への不満はない」は約48%にとどまりました。
通院頻度は平均10.2週で、3ヵ月処方のケースが多くなっているので(参照:記事1、記事2、記事3)、医師と患者さんが接する機会や面会時間が少なく、意思疎通が図れているのかは疑問です。
患者さんが抱く医師への不満点について聞いたところ、以下が挙げられていました(図1)。
図1:医師に対する不満点
出典:慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行)
上記の図1について年齢別・男女に見ると、以下のような傾向がわかりました。
患者会代表の田村英人さんによると、患者会に寄せられる相談は医師とのコミュニケーションに関することが多く、「医師は病気のことしか関心がない」、「患者の生活面にも関心をもってほしい」、「医師から寄り添ってほしい」などの意見があるとのことです。
特に、地方在住の患者さんは、受診する医療機関が少なく、都市部のように主治医を変えることは難しい環境なので、患者さんにとっては医師との関わりが重要なのです。
また、患者会の交流会に参加した医師によると、患者さんの話を聞いて「診察室では分からない側面を見ることができた」という話があります。医師と患者の関わりは課題です。
2019年9月22日の世界CMLデーに開催された市民公開講座*2では、参加した患者さんから検査データの数値を教えてもらってもよいのかとの質問がありました。
質問に対して田村さんからは「検査データの数値は教えてもらうこと、検査データをもらうことは問題ない」とのことでした。自分の病気のことを理解したうえで医師とのコミュニケーションを図って相談するためにも検査データの内容を理解することは重要です。
患者さんが欲しい情報は(複数回答)、多い回答順に「自分の今後の見通し」、「新薬に関する情報」、「薬の副作用」、「新しい治療法」、「臨床試験に関する情報」、「同じ境遇にある人の体験談」などでした(図2)。
図2:現在欲しい情報
性別・年齢別にみると、「新薬に関する情報」「新しい治療法」「薬の効果」などは、男性に多く求められており、特に、20-30代、40代の若年層に多いことがわかりました。女性の方が求めているのは「同じ病気の人の体験談」で、特に、50代、60代以上で多く挙がっていました。男性は「新薬」「新しい治療法」などの新しい情報を求め、女性は「体験談」のような情報を求める傾向がみられました。
出典:慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行)
画期的な治療薬が登場したことで、患者さんが命の心配をすることは少なくなりましたが、将来の見通しに不安や困難があります。
患者さんは、不安や困難への対策に関する情報こそ、医師に意見を求めたいところなのです。では、患者さんが医師に相談できない場合、何が情報源になるのでしょうか。
情報源に関する調査結果を見ると、最も回答が多かったのは患者会のウェブサイト(約35%)、次いで製薬会社のウェブサイト(約28%)、患者さんのブログ(約25%)、患者会の集まり(24%)などで、高齢者は患者会の集まりなどを情報源とする傾向にありました。
田村さんによると、インターネット情報が氾濫していますし、SNSで患者さん同士が共有する情報が必ずしも正確ではないこともあり、患者会への相談として「何が正しいのか、わからない」といった話が少なくないとのことです。
不安になって冷静さを失うと、高額で有効性や安全性が確立していない民間療法を信用してしまうケースもあります。有益かつ正確な情報を患者さんが収集して、より良い生活ができることにつながるフォロー体制のありかたが課題です。
いずみの会への要望に関する調査結果は、「医療費を安くしてもらうよう国に働きかけてほしい」が半数近く、その他では「治療法や新薬の情報提供」が4割と高いほか、「定期的な患者交流会の実施」、「患者同士が情報交換できる場の設置」、「地方でのセミナーやフォーラムの実施」などの回答も多かったようです。
以上から、新薬や新しい治療法、薬の副作用、治癒(治るという意味です)への関心が高く、正確な情報を求めていることがわかりました。
最後になりますが、患者さんへの調査結果をふまえて田村さんのコメントです。
画期的な治療薬が登場したことで、慢性骨髄性白血病の患者さんはいまや、命の心配をすることが軽減されてきています。自分の将来への「明るい見通し」を期待している患者さんが多くなっています。
しかし、治療を継続しながら、副作用や後遺症、高額な医療費負担、さらに仕事や生活上の問題を数多く抱えています。患者さんは、数カ月おきに外来受診するので、医師などに相談する機会が少ない状況です。また、普通に生活しているので、見た目には患者さんが抱えている問題が理解されにくくなっていることも課題です。
そこで、患者さん側から実情を発信することで、みなさんに理解してもらい、よりよいサポート体制をつくってもらいたいと考えて、患者さんへのアンケートを2009年から何年かおきに実施し、その結果を公表しています。
がんをはじめ病気でつらい思いをしている患者さんのニーズを社会全体で認識してもらい、フォローにつながれば幸いです。
調査結果の詳細をまとめた会報誌は、患者会代表・田村英人さんのご好意により、無償で提供していただけます。
お問い合わせ:「いずみの会」メールアドレス izumi_cml@yahoo.co.jp
■参考
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