がん治療の影響により、妊よう性(漢字は妊孕性、妊娠する力という意味です)が低下するケースがあります。一方、子供が授かる可能性がある妊よう性温存治療は高額で自費診療が問題です。そこで、血液がん患者さんを支援しているNPO血液情報広場・つばさ(http://tsubasa-npo.org/)では2019年に妊孕性(卵子・精子保存)の保険適用を目指す会(https://ninyousei.net/)を結成し、厚生労働大臣に要望書を提出、2019年8月1日からは請願署名を開始するなどの活動を展開しています。
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がん患者さんには、がんに対する治療が最優先されます。その半面、副作用などにより卵巣や精巣がダメージを受けることで子供を授からなくなるという、生きる希望を絶たれるほどつらいことを経験するケースがあります。
子供が授かる可能性として、妊よう性温存治療(がん治療前に男性では精子、女性では卵子などを凍結保存します)の選択肢や里親・特別養子縁組制度の選択肢があります。しかし、妊よう性温存治療に関しては自費診療です。
健康保険が効かない自由診療なので、費用は医療機関によりさまざまです。女性では卵子の凍結保存に40~50万、さらに毎年の保管料は別途の費用がかかる施設もあります。経済的な理由で、子供を授かることをあきらめるがん患者さんがいるのが実情です。
思春期~若年の15~39歳の世代(AYA世代:AYAはAdolescent&Young Adultの略)の人が突然、がんと診断されると、大きなショックを受けるのは当然です。
進学や就職、恋愛、結婚、妊娠や出産など、さまざまなライフイベントに巡りあう時期なので、病気のためにさまざまな困難が一気に降りかかってきます。ただでさえ大変な時期に、がん治療の高い費用にプラスして妊よう性温存治療の費用も捻出するのは酷です。
また、現在はがん治療の成績が向上して、長く生きる患者さんが多くなっているなか、将来の人生のことを考えることが重要です。しかし、子供が授からずに家族を持つことができない自分自身に尊厳を持ってQOLを保つこと、将来への見通しを持てるのでしょうか。
現在、妊よう性温存治療の患者さん自己負担分の一部を補助してくれる団体や制度があります。
一部の地方自治体での助成金制度や、民間のボランティア団体では「こうのとりマリーン基金」(https://www.marrow.or.jp/patient/konomorimarine-fund.html)(血液疾患の患者さんに限る。未受精卵子の保存にかかる医療費に対し1人当たり5万円の援助)があります。
相談に関しては、がん・生殖医療ネットワークの「Oncofertility Consortium Japan」(2019年9月現在22府県で稼動)、自治体、患者支援団体などがあります。
もし、妊よう性温存治療が保険適用されれば、高額療養費制度や限度額認定適用制度なども活用できることになります。
妊孕性が損なわれる問題は、がん治療の過程で起こる副作用として⽣じます。そこで、これはぜひ保険でサポートすべきケアと位置づけ、血液情報広場・つばさの会員有志により「妊孕性(卵子・精子保存)の保険適用を目指す会」が2019年に発足されました。
血液情報広場・つばさは、2019年6⽉1日に厚生労働大臣あてに「小児・若年がん治療者の妊孕性(卵子・精子保存)の保険適用の要望」を提出しました。
つばさ、ならびに妊孕性(卵子・精子保存)の保険適用を目指す会は、ウェブサイトで患者さんの思いや自治体の助成金事業の現状などについて紹介しているほか、同年8月からは保険適⽤を請願する署名活動を開始するなど、さまざまな活動をしています。
2020年の活動は請願と署名活動を続けながら、AYA世代のがん治療の現況、妊よう性温存の実際の経験、治療経過中の妊よう性温存の機会や費用、支援体制の現状について共有したうえで、今後の支援体制のありかたを医師、患者さんとともに考える「がんと妊孕性(にんようせい)」セミナーから開始します。セミナーは、2020年1月30日に第1回「がん治療と妊孕性(精子・卵子保存)の必要性と支援の動き」を東京都・フクラシア品川で開催します(詳細は下記に記載している血液情報広場・つばさのホームページ、ならびにPDF(http://tsubasa-npo.org/info_datas/20200130.pdf)を参照してください)。
また、つばさの主たる事業としては、患者さんや家族のかたへの医療講演会を全国各地で数多く開催するほか、情報紙(Newsletterひろば)の発行、電話相談なども行っています。
詳細は下記ホームページを参照してください。
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