がん患者さんの健康づくりをサポートするキャンサーフィットネスが開催する専門医による健康講座は、病気でつらい思いをしている人への耳寄り情報だけでなく、健康増進のために正しい知識が得られるセミナーです。今回は、心のリハビリテーション講座から、みなさんに役立つ不眠対策として、良質の睡眠をとるコツを紹介します。
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一般社団法人キャンサーフィットネス(http://cancerfitness.jp/)は、がん患者さん向けに健康講座のヘルスケアアカデミーを定期的に開催しています。
がん患者さんのアンケートをもとに、必要とされるテーマからセミナーの内容を考えているので、治療でつらい思いをしている人、治療が終わっても生活に悩んでいる人に役立ちます。もちろん、健康な人がより健康になる耳寄り情報も満載です。
2019年12月14日のヘルスケアアカデミーは、保坂サイコオンコロジー・クリニック/聖路加国際病院診療教育アドバイザーの保坂隆先生の講演「心のリハビリテーション講座~日常の心のケアを学び、心の健康管理をしていきましょう~」がセミナー内容でした*1。
講演内容は、保坂先生のサイコオンコロジー診療の実際をふまえたうえで、身体のリハビリ、心のリハビリ、魂のリハビリにより、きれいな肌を取り戻し、汚れた心をきれいにして、美しい魂を追い求めてほしいとの思いが込められています。
先生の講演から、まずは不眠症対策として「良質の深い睡眠」をとるコツを紹介します。
キャンサーフィットネス・ヘルスケアアカデミー(2019年12月14日開催)のセミナー風景
保坂先生によると、睡眠の質は加齢とともに低下してしまいます。研究報告からは、20歳を境に睡眠の質は悪化していき、40歳ごろから不眠症の症状が現れやすく、睡眠時間が6時間未満の不眠症と診断される人は「4人に1人」という指摘などがあります。
不眠症は、おもに以下の4つのパターンがあります。
眠りに入るとまず深い眠りの状態のノンレム睡眠、次に浅い眠りの状態のレム睡眠*2の状態になり、90分間隔でノンレム・レム睡眠を繰り返します。
20歳ころまでは良質の深い睡眠をとれますが、年を重ねるにつれて睡眠の質が悪くなっていきます。40歳以降は浅い睡眠になりやすいのですが、 実は、眠りに入って最初の4時間で必要な睡眠の7割を確保できるそうです。
「夜中に目が覚めて眠れない。くやしい」という人がいますが、最初の眠りで、良質の深い睡眠が4時間ほどとれていれば、まずは安心しましょう。目が覚めても、起き上がらず、ベッドの上でダラダラしているだけでも十分な休養になるのです。
保坂先生は、良質の睡眠のキーワードとして、深いノンレム睡眠の時間帯「黄金の90分」を強調しています。
実は、よい睡眠をとるための目的は、体内の成長ホルモンの分泌を促すことです。成長ホルモンは、体内の悪玉といえる活性酸素を除去して、肌にハリと潤いを与えてくれます。
大人だと成長ホルモンの約7割は寝ている間に分泌されます。そのなかで、眠りを誘うメラトニン*3は、トリプトファンというタンパクを含む食事、日光浴、運動によって脳の松果体でつくられ、眠りに入った直後の深いノンレム睡眠中に多く分泌されます。
メラトニンが多く分泌されるゴールデンタイムがあります。それは、夜の午後10時から夜中の午前2時です。ということは、このゴールデンタイム中に、良質の深い睡眠「黄金の90分」を確保することが望ましいといえます。
ゴールデンタイムに黄金の90分を深めるためにどうすればよいのでしょうか。保坂先生によると、黄金の90分を深める2つのスイッチがあります。それは体温と脳です。
体温に関しては、深部体温が重要です。皮膚体温のように日中は低くて夜間は高くなるのとは違い、日中に高くて夜間は低くなります。入眠前になると手足が温かくなり、手足から熱が放散されると深部体温が下がります。
そこで、深部体温を動かす眠りの入り口として入浴が起点になります。たとえば、40度の風呂に15分入ると深部体温が0.5度ほど上がるという実験結果があります。
深部体温は体温が上がると、自律神経のはたらきで一定に保つよう、上がった分だけ下げようとする性質があります。入浴によって深部体温を一時的に上げれば、入眠時に必要な深部体温をより下降させようとする動きが、熟睡につながるということです。
深部体温の変化から上手に寝付くコツとしては、「眠る90分前に風呂に入ること」になります。その時間がない場合にはシャワー程度で深部体温を上げないようにしましょう(参考書籍:西野精治、「スタンフォード式 最高の睡眠」、サンマーク出版)。
黄金の90分を深めるもう1つの鍵は、単調、ワンパターンなど、入眠に導く儀式的なルーチンを作ることによって脳や自律神経をだまして「脳スイッチ」をオンにすることです。神経を刺激するようなことはNGです。以下を参照してください。
保坂先生によると、いつも通りの時間にお風呂に入り、いつも通りの時間にパジャマを着替えるなど、「いつもと同じパターン」が単調さ(ルーチン)につながるとのことです。保坂先生は、眠る前は横になって大腿四頭筋を伸ばすことを日課にしているそうです。
また、横になってから意図的に腹式呼吸をしたり、ノンビリしているイメージを描くように、セルフケアとしてそれぞれ自分で工夫して取り組んでみましょうとのアドバイスでした。
次回は、ネガティブ思考がグルグルと堂々巡りする人への対処法などを紹介します。
一般社団法人キャンサーフィットネス(代表理事:広瀬眞奈美さん)は、術後、化学療法中や何年も経過した治療後のかたまで、自分に合った運動ができるよう、リハビリ、ヨガ、ダンス、ジムなどさまざまな種類の運動教室を開催しています。
インストラクター養成コースを卒業した認定インストラクターが全国で地域密着型で精力的にサポートしています。また健康について学ぶヘルスケアアカデミーもあり、がん患者さんが生活習慣を改善する方法を学ぶことができます。
2019年は、運動教室は128回、ヘルスケアアカデミーは34講座、手先の作業療法となるワークショップは10回にわたり開催しました。写真は、ワークショップで制作された手作り製の色鮮やかなウィッグスタンドです。こちらは現在、脱毛中のかたに無料で差し上げています(ウィッグスタンドをご希望のかたは、キャンサーフィットネスにお問い合わせいただければ、お受け取りかたを説明します(問い合わせ先:http://cancerfitness.jp/contact/)。
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