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ステージ4をぶっ飛ばせ!前向きに人生観を持つ秘訣 キャンサーフィットネス・心のリハビリ講座(3)

病気になると不安になり、うつ状態になることがあります。がんは、「生きる」ことが深刻な問題になるのでなおさらです。しかし、後ろを見てはいけません。前を向いて、自分の「生きる価値観」と「人生の方向性」を考えることが重要です。キャンサーフィットネスの心の健康講座から、将来に向かって目標と見通しを持つためのコツを紹介します。

自分ががんになった意味をポジティブにとらえて人生の目標を持つ

キャンサーフィットネス*1が2019年12月14日に開催した健康管理を学ぶためのヘルスケアアカデミー*1では、保坂サイコオンコロジー・クリニック/聖路加国際病院診療教育アドバイザー保坂隆先生が心のリハビリ講座について講演しました*2不眠対策ネガティブ思考からの脱却法や身近に寄り添うソーシャルサポートの意義)。
今回、深刻になったときの対処法として、時にはスピリチュアルに考えて、自分ががんになった意味をポジティブにとらえて人生の目標を持つことの重要性について紹介します。

がん診断後の1年間はうつ状態に注意

がんを告知されると、不安になり深刻になります。うつ病になることもあります。
国内でがん診断後の死亡率を検討した研究論文によると、がんと診断された人では、そうでない人に比べて1年以内に自殺する確率が約24倍高く、自殺以外の死亡率が約19倍と高くなります。しかし、1年間が経つとがん罹患の有無では差がなくなります。
特に、1年間はショック状態が続くので、この時期は要注意しないといけません。しかし、主治医や家族がうつ病になってほしくないとの思いや、がんになったけど落ち込んでいても仕方がないという考えがあると、見逃されやすくなります。
うつ病は、さまざまな病気に合併しやすいのですが、うつ病の罹患率(人口5%、外来患者さん10%、入院患者さん20%といわれます)は、病気の種類や症状の程度に関係なくほぼ同程度といわれます。となると、うつ病は見逃されやすい病気なのです。

認知症のような症状もうつ病のケースあり、運動を生活に取り入れることも有用

保坂先生は、見逃されすいからこそ、患者さん自身が気付いて、できる範囲で対処できてほしいといいます。なぜなら、改善は可能だからです。
物覚えが悪い、集中力がない、決断できない、段取りができない、考えがまとまらないといった若年性認知症だと思って悩んでいたら、実はうつ病というケースがあります。
これは、うつ病の症状のひとつ(精神性の抑制)による「仮性認知症」で、改善する可能性は十分にあることを覚えておきましょう。
また、がん患者さんではホルモン療法によりエストロゲンが減少すると、うつ病に関わるセロトニンなども減るので、うつ病や認知症のような症状が起こることがあります。
自分で気づき、改善するという気持ちをもって、できる範囲でのセルフケアも有用です。
有酸素運動も無酸素運動(筋トレなど)も、うつ病の薬と同じくらいの効果があること、不安障害(パニック障害)や不眠症、認知症にも有効との研究論文があります。
うつ病は見逃されやすいので、2週間以上にわたってうつ状態だと感じたら、できる範囲でかまわないので生活の中にスポーツや少しの運動でも取り入れてほしいのです。

時にはスピリチュアルに考える

病気になってから1年が経った⼈は前を向いて新しい⼈⽣を始めるために将来への見通しを持つようにしなければなりません。そこで、時にはスピリチュアルに考えることが有用です。スピリチュアリティーは、生来、備わっているものです。
例えば、かわいそうな亡くなりかたをした人や震災の犠牲者を見たときと同じように、自分や家族ががんと診断されたとき、病気が進行していることを告げられた時には、頭の中を死がよぎります。このときに生来から備わるスピリチュアリティーが喚起されます。
生来のスピリチュアリティーと診療時のスピリチュアルケアとして以下を挙げています。

生来のスピリチュアリティーとがん患者さんへのスピリチュアルケア

■生来のスピリチュアリティー

  • 自分はなぜ生まれてきたのか?
  • 自分の人生の目的は何なのか?
  • 人はなぜ生まれてくるのか?
  • これから、どう生きていけばいいのか? 
  • この試練は乗り越えられるのか?
  • この試練から何を学べというのか?

■がん患者さんへのスピリチュアルケア

  • 「あの世はある」、「ご先祖さまがいて、自分の生活を見てくれている人がいる」と仮定しましょう。
  • 危なっかしいときにはご先祖さまが警告を送るようです(夢にご先祖さまがでてくることなど)。
  • 何度も警告しても気づかなかったときには、乗り越えられる病気にするようです。
    (だから病気になるという意味と、健康のことを意識して今後は気をつけましょうという意味が込められています)。
  • あなたの今後の残された人生をどのように生きるのか、ご先祖さまは願っているのでしょうか?
    *仮定として伝えるのが重要です。断定的に伝えると逆効果になるときがあります。

死にかたの四象限として、横軸をスピリチュアルな考えかたがあるかどうか、縦軸に活動的・意欲的に四分割にすると、四種類の亡くなり方があるそうです(図1)。

図1:死に方の四象限
図1:死に方の四象限

提供:保坂サイコオンコロジー・クリニック院長/聖路加国際病院診療教育アドバイザー・保坂隆先生

下記は、保坂先生が以前に開催したセミナーや先生の書籍からです。ステージ4を乗り越えるというよりも、「ぶっ飛ばしている人(自分の回復を目指して前向きになって、毎日の生活を充実させていこうと考えている人です)」の特徴は以下です。

■ステージ4をぶっ飛ばしている人の特徴

  • 標準治療をメインにすえている人(標準治療は現段階で最高水準のゴールドスタンダードという意味です)
  • 人のために何かをしている人
  • 夢や希望を持っている人
  • 食生活を見直している人(特定の栄養にこだわるのではなく普通の食事をとるという意味です)
  • 治療費を自分で選んで決めている人
  • 自分の直感を大切にしている人
  • 抑圧された感情を解き放っている人
  • スピリチュアルなことを大切にしている人

下記は、がん経験者さんが描いた絵画です。絵画には、標準治療(現時点でエビデンスが明確なゴールドスタンダードの治療法)という道があります。道の傍に生い茂る森はエビデンスがはっきりしていない民間療法、誤った考え、都市伝説、フェイクニュースなどです。
寄り道して森に迷い込まないようにして、本来あるべき道(標準治療)にまっすぐ進んでほしいとの思いが絵画に込められています(図2)。

図2:がん経験者さんが描いた絵画
図2:がん経験者さんが描いた絵画

提供:保坂サイコオンコロジー・クリニック院長/聖路加国際病院診療教育アドバイザー・保坂隆先生

がん患者さんは近い将来の目標、人生観や将来の方向性を持つことが重要

がんになると「何か悪いことをした罰?」、「何が悪かったの?」など原因を探しがちです。しかし、保坂先生は多くの因子が重なって病気になるのだから、原因を考えても仕方がないので、がんになった「意味」を考えましょうと強調しています。
そのためには、たとえば「@歳までは絶対に生きる」、「息子が結婚するのを見届けたい」、「孫が生まれるのを見たい」といった短期・中期的な目標や理由を持つことです。
その次の段階では、それだけではなく、より⻑期的な⽬標、⽣きる価値観や将来の方向性や見通し・人生観を持つことが重要になります。

人生観の例:「周囲の人に感謝し合える人生にしたい」、「愛し合える家族を追求したい」、「人の役に立てる人生にしよう」、「与えたり、分かち合える人生にしたい」、「愛について考える人生に」などがあります。

誰かのために祈ると愛情ホルモンのオキシトシンが増えて幸せに

メタアナリシスという方法で,研究論文を多く集めて検証したところ、約50%の報告によると,祈りには遠隔効果があるそうです(Ann Intern Med 2000;132:903-10)。
では、祈った人の体内では,どのような変化が起こるのでしょうか。

■祈る人にどのようなことが起こっているのか

  • ネガティブな祈り:呪いの気持ちがあると、ストレスホルモンのコルチゾールが増加→脳の海馬の萎縮、免疫機能の低下
  • ポジティブな祈り:「相手に勝ちたい」、「宝くじに当たれ」はアドレナリン増加(血圧上昇に注意しましょう)

家族の幸福、他人の幸福や健康回復、社会平和など:オキシトシンが増加
  ↓

  • 〇オキシトシンの作用:人への親近感や信頼感が増す、ストレスが消えて幸福感が得られる。免疫力が高まる
  • 〇オキシトシンが増える時:スキンシップやハグ、マッサージ、タッチ、ぬくもり、良好な人間関係、少量のアルコール、祈り

困ったときの神頼みではなく、日常的に「誰かのために毎日祈る」こと、細胞は3ヵ月間で入れ替わる(オキシトシンが増える)ので、3ヵ月間、1日2回は祈ることが重要です。保坂先生が日課にしている祈りとして、「慈悲の瞑想」を参照してください。

■慈悲の瞑想(短縮版)

  • 私が幸せになりますように(息を吐きながら、計3回)。私が健康になりますように(息を吐きながら、計3回)
  • @さんが幸せになりますように @さんが健康になりますように
  • がん患者さんすべてが幸せになりますように がん患者さんすべてが健康になりますように
  • 生きとし生けるものすべてが幸せになりますように 生きとし生けるものすべてが健康になりますように

死ぬときの5つの後悔を明らかにして今から修正しよう

保坂先生は、死ぬときの5つの後悔を明らかにして、今から修正しても遅くはないと強調しています。

  • 健康を大切にしなかった:病気なってから健康の大切さを知ることが多い
  • やりたいことを先送りしていた:やりたいことは前倒しにする
  • 正直に言えなかったことがある:あのとき、ちゃんとしておくべきだった。どうして言えなかったのか
  • 会いたい人に会っておかなかった:昔の親友やお世話になった人に会っておきたい、お礼を言いたい
  • 愛する人に「ありがとう」と言えなかったこと(病気の予後について知らされていないと、家族との間でこの感謝ができないことが多いようです)

ステージ4をぶっ飛ばすくらい、前を向いて人生観をもって生きていこうとすることが重要です。良い行いには良い報いがある「因果応報(いんがおうほう)」の考えかたを持ち、他の患者さんの回復も祈りましょう。

キャンサーフィットネス監修の書籍「乳がんと減量」が発行

一般社団法人キャンサーフィットネス(代表理事:広瀬眞奈美さん)は、患者さんの身体的・社会的・心理的な不安を解消するためのフィットネスクラブです。運動やリハビリ、ヨガ、チアダンスなどの運動プログラムや健康管理を学ぶヘルスケアアカデミー、手先の作業療法になるワークショップなどがあります。
書籍は、「リンパ浮腫のことがよくわかる本」(運動ページ担当、講談社)、「がんのリハビリテーション診療ガイドライン第2版」(がんのリハビリテーション診療ガイドライン策定委員メンバーとして関わる。金原出版)、「医師・コメディカルのための メディカルフィットネス」 (乳がんの運動ページ担当、社会保険研究所)、「がんになって見つけたこと」(辰巳出版)などです。
2020年の春には、「乳がんと減量」(女子栄養大学出版)が刊行予定です。

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保坂サイコオンコロジー・クリニック

がん患者さんやご家族のかたが、がんに関する不安や葛藤を乗り越えて、生き生きと自分らしい生活を取り戻して新たな人生を送れるように、一緒に考えていくことをモットーにしてる心のケアクリニックです〔psycho(サイコ)は精神、oncology(オンコロジー)は腫瘍学です〕。

住所:〒104-0044 東京都中央区明石町11-3 築地アサカワビル6階A号室
診療時間:【月・木・土】9:00~12:00【火・水・金】9:00~12:00/13:00~16:00
休診日:日曜日・祝日
*予約制のため、事前にお問い合わせお願いします(夜間・休日の場合はメール)
電話でお問い合わせ: 03-6264-1791
メールでお問い合わせ:info@psycho-oncology-clinic.com
ホームページ:https://psycho-oncology-clinic.com/
ブログ「保坂隆psycho-oncology-clinic」:https://profile.ameba.jp/ameba/psycho-oncology

  • *1:キャンサーフィットネスは、がん患者さん向けに健康講座のヘルスケアアカデミーを定期的に開催しています。がん患者さんのアンケートをもとに、必要とされるテーマからセミナーの内容を考えているので、治療でつらい思いをしている⼈、治療が終わっても⽣活に悩んでいる⼈に役⽴ちます。もちろん、健康な⼈がより健康になる⽿寄り情報も満載です。
    2020年は、ヘルスケアアカデミーならびに、新たにリンパ浮腫患者スクールを開催予定です(スクール第1回目は2020年4月18日予定)。セミナー予定の詳細
  • *2:保坂隆先生がヘルスケアアカデミーで「心のリハビリテーション講座~日常の心のケアを学び、心の健康管理をしていきましょう~」のテーマに講演しました 内容は、先生の実際のサイコオンコロジー診療をふまえたうえで、身体のリハビリ〔良質の睡眠をとるコツ〕、心のリハビリ、魂のリハビリにより、きれいな肌を取り戻し、汚れた心をきれいにして、美しい魂を追い求めてほしいとの思いが込められています。
公開日:2020/04/08
監修:保坂サイコオンコロジー・クリニック院長/聖路加国際病院診療教育アドバイザー 保坂隆先生、一般社団法人キャンサーフィットネス