疾患・特集

慢性骨髄性白血病の患者さんの生存率、治療と副作用 いずみの会アンケート(1)

慢性骨髄性白血病の治療は、2001年に画期的な飲み薬が登場しました。そこから、患者さんの生存率が向上しています。一方、治療を継続することが必要なので、患者さんは治療とともに生活していくことに課題があります。そこで患者会「いずみの会」は、社会全体が患者さんの実情を知ってもらい、各方面の理解を得ることが必要だと考え、2009年から患者さんを対象にアンケートを実施しています*1。2018年の調査結果を紹介します。

治療のパラダイムシフトにより患者さんの生存率は向上

慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia、以下は略語CML)は、がん化した血液細胞が増え続けていくことにより発症する病気です。増え続ける原因には、染色体異常が起こって異常活性化するチロシンキナーゼという物質(分子といいます)が関わります*2
冒頭の通り、2001年から異常活性化するチロシンキナーゼを治療ターゲット(標的)にして、活性化を抑える飲み薬(分子標的治療薬のチロシンキナーゼ阻害薬という飲み薬です)による治療を受けられるようになってから、患者さんの生存率が大きく向上しました*3
一方、患者さんは治療を継続しなければなりません。副作用や後遺症、高額な医療費など、さまざまな課題と向き合いながら生活しています。
「いずみの会」では、患者さんが安心してより良い生活ができるよう、患者さんの実情を発信して社会全体が理解を深めてもらうことが重要だと考えて調査を実施しています。

診断されてから10年以上の患者さんは増えている

2018年の患者さんや家族へのアンケートの結果では、有効回答521人でCML患者さんが占める割合は約85%、男性が約53%でした。年齢別では50歳代と60歳代がそれぞれ約26%、70歳代が約11%で、以前の調査結果に比べて50歳代以上の人が多くなっています。
調査結果を見ると、CML診断後の病歴は「10年以上」が約38%、次いで「5~8年」が20%、「8~10年」が約17%などで、60歳以上の人では「10年以上」が半数以上でした。
2013年の調査結果では、病歴の回答で最も多いのは「5~8年」(27%)、次いで「3~5年」(23%)でしたので、最近は高齢の方を中心に長生きしている患者さんが多いことがわかります。治療によるQOL向上など、さまざまな要因が関係していることがうかがえます。

飲み薬のチロシンキナーゼ阻害薬が治療の中心で多様な選択肢

CMLの薬の治療に関しては、飲み薬のチロシンキナーゼ阻害薬が第一選択になります。2019年9月現在、チロシンキナーゼ阻害薬は5種類です。
2009年の調査結果ではチロシンキナーゼ阻害薬のイマチニブ(製品名はグリベック)が7割以上でしたが、2018年の調査結果を見ると、イマチニブが約29%、ニロチニブ(同タシグナ)が約21%、ダサチニブ(同スプリセル)が約27%、最近発売されたボスチニブ(ボシュリフ)が約6%、ポナチニブ(同アイクルシグ)が0.6%でした。

筋肉のつりやむくみの症状は減少傾向、飲む薬の種類により症状は異なる

日常生活において困難に感じている症状に関しては(複数回答)、「筋肉のつり(こむらがえり)」が約33%、次いで「倦怠感」が約27%、「白髪が増える」と「浮腫(むくみ)」がそれぞれ約23%、「皮膚が白くなる」が約23%などでした。
これらの症状は、以前の調査結果と比べると減少傾向です。「筋肉のつり(こむらがえり)」や「むくみ」はかなり減少していました。20~30歳代の女性では、胃炎が多いことが特徴的でした。薬の種類が増えてきたことにより、副作用も多岐にわたっていることがうかがえます(図)。

図:困難を感じている症状 図:困難を感じている症状

服用している薬別に患者さんが困っている症状を見ると、以下になります(表)。

表:チロシンキナーゼ阻害薬の副作用(困っている症状)の上位回答(薬の服用別に多い順、複数回答)

  • ■イマチニブ(製品名グリベック):回答149人
    「筋肉のつり(こむらがえり)」約69%、「皮膚が白くなる」約36%、「浮腫み(むくみ)」約33%、「結膜下出血(白目からの出血)」約30%(回答)
  • ■ニロチニブ(同タシグナ):回答110人
    「倦怠感(だるい)」約31%、「筋肉のつり(こむらがえり)」30%、「発疹」約23%、「筋肉痛」約17%、「コレステロール値が高い」約17%
  • ■ダサチニブ(同スプリセル):回答142人
    「白髪が増える」約35%、「倦怠感(だるい)」約30%、「浮腫み(むくみ)」約27%、「胸水」約21%
  • ■ボスチニブ(同ボシュリフ):回答33人
    「下痢」約45%、「発疹」約36%、「倦怠感(だるい)」約21%、「胸水」約21%

図と表の出典:慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行)

以上から、慢性骨髄性白血病患者さんの生存率は高くなっていますが、その一方で治療を継続しながら生活しているので、さまざまな困難を抱えていることがうかがえます。

次の記事では、治療を受けている患者さんが満足に感じていること、実際に支払っている医療費などに関するアンケート結果を紹介します。

調査結果の詳細をまとめた会報誌は、患者会代表・田村英人さんのご好意により、無償で提供していただけます。
お問い合わせ:「いずみの会」メールアドレス izumi_cml@yahoo.co.jp

  • *1:患者会・いずみの会では、2009年、2010年、2013年、2018年に会員を対象にアンケートを実施しています。受診状況や症状、医師への評価、日常生活、医療費、就労、結婚・出産など、多岐にわたって調査しています。
  • *2:慢性骨髄性白血病は、ほぼ9割以上で染色体異常が原因で発症します。具体的には、9番目と22番目の染色体が切れることがあり、2つの染色体がつながるときにフィラデルフィア染色体ができます。その際にbcr/abl遺伝子が発現して、細胞が増殖するスイッチが入りっぱなしになり、白血球や血小板が増え続けて発症します。 このスイッチを入りっぱなしにする体内の信号伝達の役割を持つのがチロシンキナーゼという物質です。
  • *3:慢性骨髄性白血病で異常活性化するチロシンキナーゼという物質(分子)を標的に、活性化を抑える分子標的治療薬のイマチニブ(製品名:グリベック)が2001年に登場したことで、治療を受けた患者さんの生存率は劇的に向上しました。 2019年9月現在、保険診療で治療を受けられるチロシンキナーゼ阻害薬は5種類あります。診療の流れは、まずイマチニブ(製品名:グリベック)、ニロチニブ(同タシグナ)、ダサチニブ(同スプリセル)の3剤から選択します。 最初の薬で効果不十分(イマチニブ耐性になるbcr/abl遺伝子に変異が現れた場合など)や副作用の場合、上記ならびにボスチニブ(同ボシュリフ)、ポナチニブ(同アイクルシグ、bcr/abl遺伝子変異のうちT315Iという変異が検出された場合など)に変更します。

■参考

  • 慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)患者・家族の会「いずみの会」の会報誌「CMLとともに生きる~それぞれの想い」第7号、特集「CML患者アンケート調査結果」(2018年10月発行)
  • 第80回日本血液学会学術集会ポスターセッション:The actual condition of treatment and life seen from CML patients
  • 第59回日本癌治療学会がん患者・支援者プログラム/ポスター発表演題:CML患者からみた治療と生活の実態
  • Chronic Myeloid Leukemia Patient Survey Report 2018
  • 慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」
    http://www7b.biglobe.ne.jp/~izumi-cml/
  • NPO法人血液情報広場・つばさ(血液がんのフォーラム・セミナーを全国で随時開催しています)
    http://tsubasa-npo.org/

■関連記事

公開日:2019/10/09
監修:慢性骨髄性白血病患者・家族の会「いずみの会」代表 田村英人さん