疾患・特集

がん患者とサイコオンコロジーとは?

がんとの闘病は治療のほかに、家族、仕事、医療費など、考えなければならないことがたくさんあります。サイコオンコロジーはがん患者の精神面のケアやサポート、そして患者の家族のケアなども行う専門分野です。

がん患者の心身を考えるサイコオンコロジー

かつてがんといえば、ただちに「死」がイメージされましたが、今は医療技術が進歩し、治るがんが増えていて、がんとともに生きていくという考え方も定着しつつあります。しかし、それでもなお、私たちが医師から、自分の病ががんであることを告知された場合、強い衝撃、ストレスを受けることでしょう。

そういったがんと心理面の関係を扱う分野に精神腫瘍学というものがあります。英語では心理学の「Psychology」と腫瘍学の「Oncology」を合わせて「Psycho-Oncology」「サイコオンコロジー」と呼ばれています。サイコオンコロジーはがん患者の精神面のケアやサポート、そして患者の家族のケアなども行う専門分野です。

病気や治療のことだけではないがんのストレス

がんとの闘病は、生命や治療への心配のほかに、家族のこと、仕事のこと、医療費のことなど、考えなければならない事柄がたくさんあります。そういった心配ごとが、がん告知を受けた時から一気に押し寄せてくるのです。サイコオンコロジーはそういったストレスに対してもケアを行います。

がんとその治療から受ける身体的苦痛と精神的苦痛は相互に影響しあい、双方の苦痛を悪化させることがあります。従来、がん治療では患者が精神的なストレスを受けることは当然だと考えられていました。仕方ないことだというのが医療現場の認識だったのです。

しかし、がん治療ではその進行度、根治を目指すかどうかは問わず、身体的苦痛を和らげるための緩和ケアが行われます。それに対して、精神的苦痛は放置されることがほとんどで、ケアが行われてこなかったのが実情でした。

全人的医療のなかのサイコオンコロジー

実際にがんを治療している患者のうち、適応障害やうつ病、幻覚や錯覚によるせん妄などの器質性精神障害だと診断されるケースも多く、また、病名がつかないまでも、緩和ケアとして精神面のケアやサポートが行われていたならば、精神科的疾患に至ることを防ぐことができます。

一般社団法人日本サイコオンコロジー学会によれば、2010年度の時点で、84パーセントの都道府県がん診療連携拠点病院に、65パーセントの地域がん診療連携拠点病院に常勤の精神腫瘍医が配置されています。

現在、がん治療で緩和ケアが行われていることは知られてきているものの、サイコオンコロジーや精神腫瘍医についてはあまり知られていません。身体的な問題だけでなく、心理面、社会的立場などを考慮した全人的医療が求められているなか、私たちにもサイコオンコロジーに対する理解が必要になっています。

公開日:2016/05/16