新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、外出時のマスク着用がさまざまな場面で求められます。しかし、マスクが顔に触れてつらい思いをする感覚過敏の人には苦痛です。そこで、感覚過敏研究所の所長を務める加藤路瑛くんは、感覚過敏が理由でマスクがつけられないことを周囲の人に伝えられるようにするために、マスクやフェイスシールド着用に関する意思表示カードやポスターを作成し、公開しています。 目次 線維筋痛症と共に生きる女医Youtuberと感覚過敏マークを考案した中学生起業家の出逢い 聴覚・触覚・視覚・嗅覚・味覚の五感それぞれの動物キャラクターで困りごと可視化 マスクやシールドを着けるのが困難な人は名刺、バッジ、ポスターで意思表示 いまをあきらめなくていい社会にしたい! 線維筋痛症と共に生きる女医Youtuberと感覚過敏マークを考案した中学生起業家の出逢い 新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で不安と孤独に陥っている患者さんは、医師や患者さん、患者会や支援団体のYoutubeやツイッターなど、オンラインで交流するチャンス(機会)が増えました。徐々につながれるようになり、勇気づけられて不安を和らげられるようになっています。 線維筋痛症と共に生きる麻酔科専門医の「みおしん先生」は、WiTH PAiN(https://withpain.jp/)でYouTubeをはじめ積極的に活動して、つながりをひろげています(参考記事:痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー)。 そのなかで、みおしん先生はSNS上で偶然、感覚過敏(音、光、肌ざわり、におい、味覚の五感で敏感になって苦手なものがあること)により、生きづらくなっている状況を解決しようと奮闘する中学生起業家の加藤路瑛くんをみつけました。 彼は、株式会社クリスタルロード取締役社長で、感覚過敏研究所(https://kabin.life/)を立ち上げた所長でした。 線維筋痛症も、光や音、においに敏感な患者さんが多いため、他人事とは思えず、しかもお互いに解決したいのは、「つらさを理解してもらえないことによる生きづらさ…」。共通の目的を持った2人が仲良くなるのに時間はかからなかったそうです。 感覚過敏研究所所長・加藤路瑛くん(左)、女医Youtuber・みおしん先生(右) 加藤路瑛くんの写真は感覚過敏研究所、みおしん先生の写真は線維筋痛症友の会・慢性疲労症候群支援ネットワーク共催による患者講演会・医療講演会 聴覚・触覚・視覚・嗅覚・味覚の五感それぞれの動物キャラクターで困りごと可視化 感覚過敏研究所を立ち上げた現役中学生の所長・加藤くんは、「感覚過敏マーク」を考案した経緯を以下のように話しています。 感覚過敏による困りごとを可視化させることを目的に、感覚過敏のキャラクターをつくり、そのキャラクターを利用した感覚過敏マークを考案しました。 感覚過敏マークには、「かびんの森のどうぶつたち」という五感それぞれのキャラクターがいます。視覚過敏のネコ、聴覚過敏のウサギ、嗅覚過敏のゾウ、味覚過敏のコアラ、触覚過敏のハリネズミの5種類です。 各キャラクターには元気モードと過敏モード(詳細:https://kabin.life/archives/731)があり、本人や家族だけではなく、子供も含めて多くの人に親しまれるようにしています。現在は、感覚過敏缶バッジの販売をし、マークの普及活動をこれから積極的に展開していく予定とのことです。 感覚過敏缶バッジ 注1:左から感覚過敏応援団(感覚過敏がない人も普及活動に参加できるマーク)、五感の味覚過敏・コアラ、嗅覚過敏・ゾウ、視覚過敏・ネコ、触覚過敏・ハリネズミ、聴覚過敏・ウサギ(五感のキャラクターは過敏モードです)。 注2:感覚過敏缶バッジは販売品です。感覚過敏マークを印刷してご利用する場合や、自作のアイテムの作成をご希望される場合は、デジタルライセンスの支払いが必要になります。無断使用はお断りしています。 写真:感覚過敏研究所(詳細:https://kabin.life/archives/1924) マスクやシールドを着けるのが困難な人は名刺、バッジ、ポスターで意思表示 新型コロナの影響により、マスクやシールドを着用しない人への風当たりが強いのですが、なかには感覚過敏(触覚過敏など)でつけられない人もいます。 マスクやシールドをつけられない理由は、はた目からはわかりませんし、責められることで、いまをあきらめる人、ふさぎこむ人も多いのが実情です。 また、子供は自分が感覚過敏であることを認識できませんし、自分を表現できません。毎回説明するのも大変です。そこで、誰にでもわかってもらえるよう、感覚過敏マークの出番です。 「触覚過敏マーク(キャラクターはハリネズミ)」を利用して作成した意思表示カードを名刺サイズのネームホルダや名札にすると、マスクやシールドを着用できない理由を視覚的に伝えられます。さらに、マスク着用に関する店舗・施設向けポスターも制作しました。 マスクがつけられない人のための意思表示カード 注:マスクがつけられない人のための意思表示カードは研究所サイトからダウンロードして無料で利用できます。商業利用や改変は不可。また、感覚過敏マーク単体での利用はデジタルコンテンツの購入が必要になります。 写真:感覚過敏研究所(PDFダウンロードなど詳細:https://kabin.life/archives/1633 マスクがつけられない人のために店や公共施設などで掲示できるポスター 注:マスクがつけられない人のための店軒や公共施設のポスターのPDFは研究所サイトからダウンロードして無料で利用できます。商業利用や改変は不可。また、感覚過敏マーク単体での利用は、デジタルコンテンツの購入が必要になります。 写真:感覚過敏研究所(PDFダウンロードなど詳細:https://kabin.life/archives/1783) いまをあきらめなくていい社会にしたい! 感覚過敏は、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚、平衡感覚や温度などに過敏となって、日常生活に困難さを抱えさせてしまう症状ですが、そのつらさは他人には理解が難しいといえます。 ですが、線維筋痛症やうつ病、認知症、脳卒中、交通事故などがきっかけで、感覚過敏に陥るケースもあります。ということは、「誰でも、感覚過敏になる可能性がある」ということです。 感覚過敏マークがなくても優しい社会になることが理想ですが、理解して何とかしてほしいとまでは主張していません。意思表示マークに気づいてもらうだけでいいのです。 感覚過敏マークを考案した加藤路瑛くんは、「いまをあきらめなくていい社会にしたい!」とがんばっています。 ■関連記事 線維筋痛症ライブラリ 公開日:2020/07/22 監修:感覚過敏研究所長・加藤路瑛くん、みおしん先生(WiTH PAiN)
.video_w5000982{width:100%;height:auto;} 激しい痛みに悩まされる線維筋痛症や、原因不明の疲労感が長く続く慢性疲労症候群の患者さんを支援するために、線維筋痛症友の会/CFS(慢性疲労症候群)支援ネットワークの患者交流会・医療講演会が開催されました*1。患者さん、専門医、患者さんかつ医師のYou tuber、社会保険労務士から生活や仕事、社会保障で役立つ情報が紹介されました。 患者交流会・医療講演会の総合討論の様子。右から、座長の小川節郎先生(日本大学医学部名誉教授、総合東京病院ペイン緩和センタ―長)、岡寛先生(東京八重洲クリニック院長、東京医科大学兼任教授 線維筋痛症友の会 顧問)、患者さんかつ医師のYoutuber・みおしん先生、線維筋痛症友の会理事長・山田章子さん、副理事長・尾下葉子さん、CFS(慢性疲労症候群)支援ネットワーク理事/社会保険労務士・安部敬太さん 目次 線維筋痛症と慢性疲労症候群は関係性がある脳神経の病気 治療ゴールは痛みの症状を和らげて日常生活がよくなって就労・社会復帰! 岡 寛先生のメッセージ:治療ゴールへ向かうために患者さん自身が車のアクセルを踏んで前に進みましょう 線維筋痛症と共に生きるYoutuber医師が伝えたい3つのセルフメディケーション 社会保障の障害年金と身体障害者手帳の認定などへのサポートが重要 身体障害者手帳と障害年金は手続きの方法や審査・認定の機関は異なる 社会復帰や社会参加、自立こそ目標(ゴール)なのでサポートが重要 線維筋痛症と慢性疲労症候群は関係性がある脳神経の病気 線維筋痛症の専門医・東京八重洲クリニック院長の岡寛先生は、患者さんが前向きになってより良い生活を送って仕事ができるようになってほしいとの思いを込めて講演しました。 先生によると、身体全体で圧痛点5ヵ所以上に慢性の痛みを訴える人は800万人以上、線維筋痛症は200万人以上、6ヵ月以上の慢性的な疲労は120万人以上といわれています。 線維筋痛症は全身の激しい痛みだけではなく疲労やうつ状態など、さまざまな症状を伴います。線維筋痛症と慢性疲労症候群の合併率は30~50%といわれています。 線維筋痛症は脳の痛みを感じる神経が過剰にはたらくことや、痛みを抑える神経のはたらきが弱いことが知られており、また慢性疲労症候群も脳の神経が関わることが知られています。線維筋痛症かつ慢性疲労症候群の患者さんの画像解析の結果、脳の帯状回というところに異常があるとの報告があり、2つの病気は関係性があると考えられています。 治療ゴールは痛みの症状を和らげて日常生活がよくなって就労・社会復帰! 線維筋痛症の治療は、痛みの症状をまず半分にして、日常生活で困難だった家事や散歩などが一つずつできるようになって社会復帰し、就労できることが目標です。悩みのタネ「痛み」を医療スタッフも理解できるように、機器で数値化して共通認識を持つよう工夫しています。 そして、うつ病と線維筋痛症は症状が違うなど、他の病気との鑑別が必要です。他の病気の治療をしないと痛みが改善しないからです。 治療は点滴や注射、飲み薬などがあります。効果、安全性、継続性、薬代の4つのポイントをもとに、患者さんに応じて治療方法を考えます。薬は、睡眠の質をよくする作用を持つ薬、生活の質に改善効果を期待できる薬、副作用が少ない薬などがあります。 患者さんは痛みと同じ頻度で疲労に悩まされています。QOL改善のために痛みと疲労どちらも治療が重要です。疲労の治療は睡眠や自律神経のバランスに改善効果が期待されるもの、抗酸化作用のあるもの、ビタミンC、還元型コエンザイムQ10などのサプリメントもあります。 新型コロナウイルス感染症に関しては、抵抗力(免疫力)が弱いと発症しやすいといわれています。ウイルスに戦うナチュラルキラー細胞(NK細胞)が注目されています。 リウマチの薬がサイトカインストーム(免疫暴走)に有効との可能性があり、現在は臨床試験で検証されています。抵抗力(免疫力)UPが重要なので注目されています。 漢方薬、プラセンタ、還元型コエンザイムQ10などの選択肢もあります。 岡 寛先生からのメッセージ 「治療ゴールへ向かうために患者さん⾃⾝が⾞のアクセルを踏んで前に進みましょう」 最近は有効な治療選択肢が増えています。治療は長い道のりを走る車をイメージしましょう。標識は医療者、ガソリンは家族やパートナー、治療は車のイグニッションキーです。しかしすべてそろって後押しできるようにしていても、ご自身がアクセルを踏まないと前に進みません。目標(ゴール)に向かって一歩ずつ治療を継続しましょう。 岡先⽣の講演内容の動画 医療講演会の岡先生のKeyスライド(PDF) 「治療ゴールへ向かうために患者さん⾃⾝が⾞のアクセルを踏んで前に進みましょう」 線維筋痛症と共に生きるYoutuber医師が伝えたい3つのセルフメディケーション 麻酔科専門医の「みおしん先生」は線維筋痛症と共に生きるYoutuber医師です。生きづらさや働きづらさを解決するために、WiTH PAiN*2という事業でYouTube活動などに従事しています。原因がわからず確定診断まで20年もかかるなどつらい思いをした経験をもとに講演しました。 先生によると、線維筋痛症は推定患者数200万人で認知度は向上しましたが、多くの患者さんは「この人!」と思える専門医と出会えず、安心できる通院先が少ないのが現状です。 先生は社会復帰に向けてがんばりすぎた結果、痛みで体が動かず集中力が低下してエラーが増えてしまいました。ますます自信をなくして生きる気力が失われていたのに、なまけ病と言われたこともあります。 地獄のループに陥って病名がわからなかった2014年ころ、ついに開き直ったのです。 それは、「自分の身体には疲れやすい病気か何かありそうと信じよう」、「待っているだけではよくならない」、「完治を目指すのをいったん保留」、「また寝たきりになるのだったら、いまのうちに好きなことをしておこう」でした。 そこで、シンプルなセルフメディケーション3つについて説明していただきました。 ■シンプルなセルフメディケーション 筋緊張をゆるめる:マインドフルネス呼吸法 あたためてながす:水分を補給して入浴などで全身の血液循環やリンパの流れを良くして疲労物質をデトックス! 好きなことをする:エンタメ療法(心おきなく思う存分が重要。信頼できる人とのつながりがメンテナンスに!) *みおしん先生の講演について詳しくは以下の記事をご覧ください。 みおしん先生の医療講演会の動画 それって本当になまけ病? シンプルイズベスト 社会保障の障害年金と身体障害者手帳の認定などへのサポートが重要 医師と患者さん、社会保険労務士などが登壇した総合討論では、線維筋痛症や慢性疲労症候群の患者さんが最も望むことは社会復帰、そのために制度上の支援の重要性が強調されました。 患者会の線維筋痛症友の会では、以前に比べると現在は患者さんに応じた治療選択肢が多くあるので改善して就労復帰ができた人が多くなっています。 しかし、障害年金や身体障害者手帳の社会保障の手続きに協力してもらえないといった相談が多いのです。課題は山積みで、支援充実への道のりは遠いのが現状です。 患者会はいまできることとして、患者さんの実態調査などを通して求められるニーズを明らかにすることなど、支援活動を展開しています。患者さんのライフスタイルは多様化しているので、さまざまなニーズに応えられるよう、日々がんばっています。 身体障害者手帳と障害年金は手続きの方法や審査・認定の機関は異なる 慢性疲労症候群支援ネットワーク理事の社会保険労務士さんからは、「身体障害者手帳と障害年金の等級は同じではありません」と強調していました。 それによると、身体障害者手帳がなくても障害年金は認定可能です。手続きをする申請窓口も審査機関も異なるからです(障害者手帳の審査は自治体、障害年金は日本年金機構)。 患者さんに知ってほしいことがあります。それは、身体障害者手帳の申請用の診断書作成は、身体障害者手帳指定医でないといけないことです。指定医は自治体のホームページで確認しましょう。 障害年金に関しては、診断書を作成する指定医制度はなく、医師であれば作成できます。少なくとも現状の診断書が必要で、現在の主治医に作成を依頼します。厚労省から診断書の事例も出されていますので、それを参考にしてもらいます。 現在の医療機関が初診と違うときは、初診のところで受診状況等証明書を書いてもらう必要があります。 精神障害について障害年金の診断書を作成してもらう場合は、通常、精神科の医師に診断書を依頼します。 詳細は、障害年金.comなどを参考にしてください。 患者交流会・医療講演会の総合討論の動画 社会復帰や社会参加、自立こそ目標(ゴール)なのでサポートが重要 線維筋痛症や慢性疲労に悩む患者さんは、少しでも早く社会復帰するために、日常生活や仕事に大きく影響するつらい症状を何とか改善しようと一生懸命です。公的な補助を受容することのみが目標ではありません。患者さんは、シンプルに社会復帰、社会参加、自立を目指しているのです。 社会復帰こそ目標(ゴール)なので、そこに向かって一歩ずつがんばって治療を継続すること、患者さん同士、医療者さらには社会全体でサポートすることがいっそう必要です。 写真:右から、みおしん先生、線維筋痛症友の会理事長・山田章子さん、 岡寛先生、線維筋痛症友の会副理事長・尾下葉子さん、CFS(慢性疲労症候群)支援ネットワーク理事/社会保険労務士・安部敬太さん。 *1:2020年5月30日に、線維筋痛症友の会(https://www.jfsa.or.jp/)と慢性疲労症候群支援ネットワーク(https://cfs-sprt-net.jimdofree.com/)、カネカユアヘルスケア株式会社(https://kaneka-yhc.jp/)の共催により患者会交流会・医療講演会が開催されました。 *2:みおしん先生はWiTH PAiN(https://withpain.jp/)とYouTube(https://www.youtube.com/channel/UCTVS0b3JWz_crJX7mSDWyeA)で活動中です。 ■関連記事 診断を求めてさ迷う患者さん 線維筋痛症友の会アンケート結果(3) 全身の痛みを和らげる治療の最前線 線維筋痛症 公開日:2020/07/01 監修:東京八重洲クリニック院長/東京医科大学兼任教授 岡寛先生、線維筋痛症友の会、CFS(慢性疲労症候群)支援ネットワーク
線維筋痛症は、全身の激しい痛みや疲労など多く症状があります。闘病25年以上のCさんに、寝たきり状態になったときのこと、つらい状況を打破して行動を起こしたことなどを振り返ってもらいました。さらに医療者の経験があるCさんから、医療者の立場をふまえて患者さんにメッセージを残していただきました。 目次 オーバーワークとストレスが重なって病状が悪化 光で眼が痛くなることや音で耳が痛くなるなどの症状に悩むことも 社会保障の手続きを断られるなどドクター・ハラスメント的な扱いを受ける 寝たきりで真っ暗な地下の穴でじっとして先行きがわからない状態 行動を起こすことで状況が好転 救済してくれるところは必ずあるので「できることから、できることを、できるときに」 オーバーワークとストレスが重なって病状が悪化 Cさんの闘病は10歳ころから25年以上になります。治療を受けられる医療機関を探し、ドクター・ショッピング状態に陥った経験があります(参考記事:10歳から原因不明の強い痛み、25年にわたる闘病記 医療者が線維筋痛症になって思うこと(1)、全身の激しい痛みでドクター・ショッピング、抜けだすきっかけは? 医療者が線維筋痛症患者になって思うこと(2))。 20代後半の時期に、線維筋痛症の専門医による治療を受けられるようになりましたが、この病気は症状がよくなるときもあれば、何かのきっかけで悪化する病気といわれています。 Cさんは、20代後半の時期は勤めていた医療機関でチームをまとめる立場にあり、夜遅くまで後輩の指導をするなどオーバーワークとストレスが重なり、病状が悪化しました。 光で眼が痛くなることや音で耳が痛くなるなどの症状に悩むことも オーバーワークとストレスにより、全身の痛みがひどくなるだけではなく、ある音がすると耳の奥が細い棒でつつかれたような痛みや、光に過敏になって眼が痛くなること、全身の筋肉の痙攣など、数多くの症状に悩まされました。 外にでると太陽の光はもちろん、信号灯や自動車のブレーキランプ、ハザードの点滅、家のなかでは室内の照明をつけると、眼があけられなくなるほどの痛みが走りました。白い壁や白い皿が照明に反射したときにも同じようなことが起きました。 家のなかでは部屋を暗くするなど工夫できますが、外出時は自然や相手があってのことなのでセルフコントロールに苦労しました。 外出時や家のなかでもサングラスを使っていましたが、耳に床ずれ(褥瘡:じょくそう)ができ、サングラスのフレームが耳に当たると激痛が走るので装着できなくなりました。 セルフコントロールがうまくいかずQOL(生活の質)が低下して、閉じこもったような生活になっていきました。 社会保障の手続きを断られるなどドクター・ハラスメント的な扱いを受ける 専門医のところに通院していました。病状が悪化していていたときのことですが、医師からは「手のほどこしようがない」と突き放されるように言われました。 また、障害年金や障害者手帳などは、患者さんにとっては重要な手続きで、申請書類には医師の記載事項があります。訪問ヘルパーや通院介助などの障害者福祉サービスを受ける足掛かりにもなります(障害年金と障害者手帳は別の制度なので、等級は異なる場合があります。注意してください*)。 そこで、医師にお願いしたところ、なぜか断られてしまいました。 その後、別の医師のところで障害者手帳や障害年金の手続きができるようになり、社労士さんに相談すると、障害年金はさかのぼって150万円ほど受給できるとのことでした。 そこで、前述の「手のほどこしようがない」と言われた医師のところに受給手続きの問い合わせをしました。しかし、また断られたのです。 患者を突き放すような態度や、行政サービスの手続きを2回も断ったことなど、ハラスメント的な扱いを受けた当時のことを、Cさんは以下のように振り返っています。 医師への信頼はなくなり、「専門医なのに救済してもらえないなら、どうすればいいんだろう」と追い詰められていきました。「手のほどこしようがない」と言われて、それ以上の治療をしてもらえなかったときは、絶望感しかありませんでした。 寝たきりで真っ暗な地下の穴でじっとして先行きがわからない状態 30歳代前半のとき、オーバーワークとストレスがピークになって、激痛で動けなくなりました。自分で食べられない、自分で用が足せない、寝返りもできない寝たきり状態でした。 光に過敏になっていたので、家の中では目が痛くて照明もつけられず、カーテンも開けられません。暗い部屋でひっそり閉じこもっているような感じでした。 半年間ほど大変つらい思いをしました。Cさんによると、寝たきり状態のときは出口のない真っ暗な地下の穴にじっとしていて、先行きが見えない状況だったとのことでした。 行動を起こすことで状況が好転 寝たきり状態になってしばらくすると、体調は万全とはいえないなか、できる範囲で行動を起こすことにしました。 行動に移したのは、前述のドクター・ハラスメント的な扱いを受けて困窮した経験がバネになったこともありますが、救済してくれる医師と出会って、追い詰められた状況を打破して出口を見つけ、将来への見通しを持ちたいとの強い思いがあったからです。 寝たきり状態にもかかわらず、情報収集して自分でリハビリプログラムを立てて実行しました。このころは、朝から晩まで休憩をはさみながら何時間もリハビリをしていました。予後予測もできない状態で根気よく取り組みました。 やっと、寝たきり状態から少し動けるようになるまで回復したときに、線維筋痛症に関する講演があることを聞きつけて参加しました。講演を聞いて、その医師のところに通院することにしました。 その医師が現在の主治医です。さまざまな症状に応じて治療法を提案してくれますし、社会保障の申請手続きも協力してくれます。 現在、Cさんは病気のつらい症状を何とかしようと努力してくれる医師や関係者のおかげで心強くなって将来に向けて希望が湧いており、病気の症状は改善傾向にあります。 医療職の経験があり実情をわかったうえで医療者と患者さんに向けて以下のコメントです。 線維筋痛症は専門医がいますが、そこへたどり着くまでが困難だという課題があります。やっと出会えたとしても、専門医はまだまだ少ないので、患者さんはそこに頼らざるを得ず、簡単に主治医を変えることはできません。 本来、医療職と患者は対等であるべきと考えますが、これらの事情により医師に遠慮したり、気を遣う患者さんは少なくないのが現状です。 その状況を、医療者には知っていただきたいのです。例えば、医師から「つらいことをメモにまとめてきてください」と言ってもらえるだけでも、患者は希望を見いだすのです。 救済してくれるところは必ずあるので「できることから、できることを、できるときに」 最後になりますが、10歳から痛みとつきあいながら25年以上になるCさんは、同じような境遇にあるかた、また原因不明の病気でつらい思いをしているかたにメッセージを残していただきました。 線維筋痛症は近年、徐々にその認知度が上がってきました。しかし、いまだに家庭や学校、職場などで理解が得られないケースをよく聞きます。 患者さんに伝えたいのは、「あなたは1人ではない」ということです。いまは情報が多く、医療機関や患者会なども増えています。情報収集して病状やつらい状況を理解し、寄り添ってくれるところがあります。 救済してくれるところは必ずありますので、「できることから、できることを、できるときに」行動してみてください。何か1つでも希望があれば、つらい状況から抜け出す出口となる光、今後の見通しが見えてくると思います。 この記事を通して、私の経験が少しでもお役に立てれば幸いです。 *:障害年金と障害者手帳について 障害年金と障害者手帳は申請する窓口ならびに審査機関が異なります。障害者手帳の等級と障害年金の等級は同じではありません。認定や等級などについては、それぞれの機関で決められることになります。障害者手帳がなくても障害年金を申請することはできます。 ■関連記事 全身の痛みに悩んでいる方に「きんつう相談室」 疲労と倦怠感による生活困難度をチェックしよう 痛みと疲労による生活困難度は?線維筋痛症のチェックツール 痛みと疲労、患者の経済状況?線維筋痛症友の会アンケート結果(1) 痛みと疲労で働けず福祉制度も課題 線維筋痛症友の会アンケート結果(2) 診断を求めてさ迷う患者さん 線維筋痛症友の会アンケート結果(3) 線維筋痛症 公開日:2019/11/20
線維筋痛症は全身が激しい痛みに襲われる病気です。10歳ごろに発症して25年以上の闘いになるCさんは、20代からドクター・ショッピング状態が数年間も続きました。抜けだしたきっかけは何だったのでしょうか。医療者としての経験を持つCさんに、患者さんと医療者それぞれの立場をふまえて、闘病記を公表してくれました*。 目次 医療機関を探し続けていくうちにドクター・ショッピング状態に 医師から冷たく突き放されると患者はどうしたらいいのか 診断・治療をしてくれる医師とめぐり合うまで長い年月 「何とかしたい」と対応してくれる医師に出会ったことでドクター・ショッピング休止 患者さんのつらい状況に共感して寄り添ってくれる医師の存在が重要 医療機関を探し続けていくうちにドクター・ショッピング状態に Cさんは10歳ころから原因不明の痛みに悩まされ、20代前半に医療機関に入職して働きはじめたときには、痛みが全身に拡がりました。全身の激しい痛みや消化器症状、睡眠障害など数多くの症状に悩まされていました(参考記事:10歳から原因不明の強い痛み、25年にわたる闘病記 医療者が線維筋痛症になって思うこと(1))。 治療してくれるところが必要だと思い、医療機関を探しました。しかし、なかなか出会えません。探し続けていくうちに、「ドクター・ショッピング」のような状態に陥っていました。以下に、医療機関を受診した経験の一部を紹介します。 医師から冷たく突き放されると患者はどうしたらいいのか Cさんは、まず整形外科を受診しました。全身の激しい痛みを訴えて、血液検査やレントゲン検査を受けました。しかし問題は見当たりませんでした。医師は、「原因不明なので治療できない」との話でした。 別の整形外科を紹介してもらいましたが、その医師は「検査結果では、体の異常が見られない。私たちの領域ではない。他の診療科で診てもらいなさい」と言われました。 3つ目は、神経内科です。脳のMRI画像検査を受けましたが異常が見られず、「当てはまる病名がない」と言われました。 「原因が不明でも、何とかしようと取り組んでくれる医師の姿勢や、他の医療機関や医師につないでくれるなどの対応があってほしかった」、「治療が受けることができなくても、次につないでもらえないと、見放された気持ちになり、どうしたらいいのかわからなくなりました」と、Cさんは当時の気持ちを話してくれました。 診断・治療をしてくれる医師とめぐり合うまで長い年月 4つ目の医療機関は精神科でしたが、病気のことをよく調べようとはせず、精神疾患に当てはめて診療したかったようです。残念な以下のやりとりです。 医師 :「身体表現性の疼痛障害(神経症の痛み)だと思う」 Cさん:「病名はこれなのですか?」 医師 :「違うと思う」 Cさん:「違うのに、通院を続けてもいいのですか?」 医師 :「これで治療していくしかないでしょ(精神疾患に当てはめて治療するという意味)」 医師は、患者さんのために前向きに取り組んでいるとは思えません。患者さんの話をあまり聞こうともしませんし、鼻で笑いながら上記の会話のように言われたことを、Cさんは今でもはっきりとおぼえているとのことでした。 Cさんは、「ドクター・ショッピング状態に陥ったころは、診断・治療をしてくれる医師が見つかりませんでした。その時期がすごく長かった」と振り返っています。 「何とかしたい」と対応してくれる医師に出会ったことでドクター・ショッピング休止 医療機関をいくつか受診しても進展がなく、痛みに悩まされる日が続きました。そんなときに職場の医師に相談すると、「あなたの苦痛を何とかしたい」と言ってくれたのです。 悩まされている状況を相談すると、薬を処方するだけではなく、「体を動かしたほうがいい」、「お風呂で体をほぐしたほうがいい」などのアドバイスをもらいました。医師は休憩時間も対応してくれました。1時間近くになることもたびたびでした。 痛いときに体を動かすのはつらいことですが、「後で楽になるときもあるよ」といってくれるなど、患者さんに共感したうえでフォローしてくれました。 Cさんは当時、医療者の立場だったので、患者さんの状況に共感したうえで、寄り添う姿勢を持つことを、いっそう心がけていました。 1人の人間として見てもらい、寄り添ってくれた医師のおかげでドクター・ショッピングはいったんストップしました。 しかし、医師は朝から夜遅くまで働いているので、同じ医療機関で従事する者として間近で見ていると、とてもつらく申し訳ないと思いました。 また、その医師は線維筋痛症の専門ではありません。「死にたくなるほど痛い」と悩んでいて、診断をつけてもらって治療を受けたいと思っていたので、ドクター・ショッピングを再開しました。 消化器科、循環器科、整形外科、神経内科、婦人科、膠原病内科、精神科など、泌尿器科以外の内科系の診療科はほぼ受診していました。 患者さんのつらい状況に共感して寄り添ってくれる医師の存在が重要 20代半ばになって、親戚の紹介により線維筋痛症の専門医に出会い、病名がついにわかって、線維筋痛症の治療を受けられるようになりました。数年間にわたって悩まされていたドクター・ショッピングの状況から解放されたのです。Cさんのコメントは以下です。 私の場合、周囲にSOSを出すことで、「一緒に病気と闘おう」と寄り添ってくれる医師や、親戚の紹介で線維筋痛症の専門医につながったので、ドクター・ショッピング状態から解放されました。 医療従事者は法律や経営方針などにより、できることに制限があります。また、適切な評価・診断のもとに治療をすることが重要なので、自分の専門外の診療対応をすることは難しいです。しかし、苦しんでいる患者さんのために、知り合いの医師や医療機関などに相談はできると考えています。 医療者の皆様に伝えたいのは、ここでダメでも、次へつなげていただきたいということです。それにより、少なくとも患者さんが追い詰められる状況は減らせると思うのです。 患者さんに伝えたいのは、「患者力」を高めていただきたいです。例えば治療法1つをとっても、今は情報があふれています。強い痛みで適切な判断が難しくなることも多々あるので、正確な情報を見極めることが重要です。医療機関や患者会など、信頼できるところに相談することをお勧めします。 Cさんは10歳ころに原因不明の痛みを発症し、20代半ばで線維筋痛症の診断がついて治療を受けられるようになるまで足かけ15年間かかりました。 ただ、線維筋痛症はあることがきっかけになって症状が悪化するケースが多いといわれています。次回は、30代前半の時期に寝たきり状態になった経験や、痛み以外にさまざまな症状に悩まされた経験について紹介します。 *:Cさんは医療従事者の経験があります。そこで、医療に関わる人の立場をふまえて自分の闘病経験を病気に悩んでいる患者さんに伝えることができれば、悩んでいる患者さんに役立ててもらえると思い、闘病記を公表してくれました。 ■関連記事 全身の痛みに悩んでいる方に「きんつう相談室」 疲労と倦怠感による生活困難度をチェックしよう 痛みと疲労による生活困難度は?線維筋痛症のチェックツール 痛みと疲労、患者の経済状況?線維筋痛症友の会アンケート結果(1) 痛みと疲労で働けず福祉制度も課題 線維筋痛症友の会アンケート結果(2) 診断を求めてさ迷う患者さん 線維筋痛症友の会アンケート結果(3) 線維筋痛症 公開日:2019/11/6
全身が激しい痛みに襲われる線維筋痛症を発症して25年以上になるCさんに、闘病記を公表してもらいました。公表する理由の1つとして、Cさんは医療に携わった経験があることを挙げています。というのは、医療に関わる人の立場をふまえて闘病経験を伝えることが、病気に悩む患者さんに役立ててもらえると思ったからです。今回は、原因不明の痛みを発症しはじめた10歳ころから就職した20歳代前半までを紹介します。 目次 はじまりは10歳ころ、突然の立っていられないほどの痛み 激しい痛みにガマンできず授業中にやむなく離席することも 全身に激痛、痛くないところを数えるほうが早い 痛みの治療を受けることが必要と思って探したけど相当の期間がかかる はじまりは10歳ころ、突然の立っていられないほどの痛み Cさんが線維筋痛症を発症したのは10歳ころでした。突然、両ひざに激痛が走りました。立っていられないほどで、インフルエンザで関節の痛みがひどくなるようなイメージです。痛みがおきたり、おさまったりというのを繰り返していました。 Cさんは、幼少時から消化器の症状や、睡眠障害、音に過敏になるといった症状がありました。また、家庭の事情で幼少のころから家事などをしており、難病の兄弟の面倒もみていました。小学校に行きながらでしたので、自分の体に支障があるのに大変な状態でした。 しかし家族は、成長期にひざの関節が痛くなるオスグッド病(成長病という一過性の病気とされています)などのように、成長が終了すると治る成長痛と思っていたようです。 これだけの症状があったのに、早期発見・治療につながらなかったことが、25年以上にわたる闘病生活に至ったといえるのではないのでしょうか。 激しい痛みにガマンできず授業中にやむなく離席することも Cさんは高校、専門学校へと進みましたが激しい痛みに悩まされ続け、症状はおさまりません。 小学校のときはひざの痛み、高校生のころは肘の痛み、専門学校のころは首から腰にかけての痛みに悩まされました。雨が降る前には痛くなることがよくありました。 専門学校のころは、激しい痛みにガマンできず、授業の途中でトイレに行くふりをして出て行き、体を伸ばしたりすることが多かったとのことでした。 家族は理解がなく、Cさんが痛いと言っても精神論、根性論をもとに注意するばかりでした。 1990年代は、線維筋痛症という病名があまり知られていない時代でした。Cさんは原因がわからないまま、つらい10代を過ごしましたが、20代はもっとつらい経験をしました。 全身に激痛、痛くないところを数えるほうが早い Cさんは、20代前半に医療機関に入職しました。しかし働きはじめると、すぐに全身にわたって激しい関節の痛みに襲われました。 10代のころは痛いところは部分的でしたが、20代前半のころは指の細かい関節まで強い痛みが走るようになり、全身で痛くないところを数えるほうが早いくらいでした。 医療機関に勤めはじめたころで、強いストレスを感じていたようでした。強い負荷がかかったことによって、激しい痛みが全身に広がっていったようです。 当時を振り返って、Cさんのコメントは以下です。 当時は、全身の痛みを訴えても、受け入れられることはほとんどありませんでした。家庭や学校、職場などで理解を得られず、否定され続けることで、最後は「私がおかしいのか?」と自分を責めていました。 医療機関に勤めていると、「周りの理解があっていいね」とよく言われました。しかし実際は、健康な職員より休む日数が少ないのに、1日でも休むと責められているような状況でした。 周りに人はいても、心が孤独に陥る。とてもつらい状況です。そんな方々に伝えたいのは、仲間や理解者はどこかに必ずいるということです。 SNS、医療機関、患者会など、相談できる人や機関の選択肢を増やしておくと、気持ちも楽になります。 痛みの治療を受けることが必要と思って探したけど相当の期間がかかる Cさんは、医療機関で正確な診断をつけてもらい、治療を受けることによって、悩まされている全身の激しい痛みや消化器症状、睡眠障害など数多くの症状を和らげることが必要だと思いました。 治療してくれる医療機関を必死に探しました。しかし、探しても、探しても、なかなか見つかりません。出会うまでには数年間がかかりました。結果的に、「ドクター・ショッピング」と言われるような状況にならざるを得なくなったのです。 次の記事でドクター・ショッピングから解放されるまで数年間かかった状況を紹介します。 ■関連記事 全身の痛みに悩んでいる方に「きんつう相談室」 疲労と倦怠感による生活困難度をチェックしよう 痛みと疲労による生活困難度は?線維筋痛症のチェックツール 痛みと疲労、患者の経済状況?線維筋痛症友の会アンケート結果(1) 痛みと疲労で働けず福祉制度も課題 線維筋痛症友の会アンケート結果(2) 診断を求めてさ迷う患者さん 線維筋痛症友の会アンケート結果(3) 線維筋痛症 公開日:2019/11/06
眼瞼痙攣(がんけんけいれん:以下、眼瞼けいれん)は、目が開けにくい、まばたきしにくいといった症状やドライアイのような症状が特徴で、痛みを訴える患者さんが少なくありません。一方、歌手レディ・ガガさんが全身の激しい痛みために活動休止を宣言した理由で有名になった線維筋痛症と関わりが深いといわれています。東京リウマチ・ペインクリニックの岡寛先生は、線維筋痛症の調査結果などを、患者会の眼瞼・顔面けいれん友の会の講演会で紹介しました。 目次 線維筋痛症の患者さんでドライアイ様の眼瞼けいれんのような症状が多い 2つの病気の発症原因はともに脳の機能異常 線維筋痛症の痛みの評価と治療の実際 線維筋痛症の患者さんでドライアイ様の眼瞼けいれんのような症状が多い 2004~2005年の厚生労働省線維筋痛症研究班で住民8000人を対象に、3ヵ月以上続く慢性の痛みを訴える人に線維筋痛症の診断をして分析した報告では、全人口の約1.7%、人数換算すると200万人の患者さんが存在すると推計されています。 この調査で線維筋痛症と診断された患者さんのうち257人を対象に症状を聞いたところ、「まぶしい」と訴えていたのは15%、ドライアイやドライマウスといった乾燥症状を訴えていたのは約49%とかなり多かったのです。 また、眼瞼けいれんの患者さんでは抑うつ症状が多いのですが、線維筋痛症の調査結果では6割が抑うつ症状を訴えていました。 岡先生によると、まぶしさを訴える、あるいはドライアイのような症状を訴える線維筋痛症の患者さんを眼瞼けいれんの専門医に紹介したところ、どちらの病気も合併している患者さんだったというケースが複数例あったという話でした。 2つの病気の発症原因はともに脳の機能異常 眼瞼けいれんと線維筋痛症の患者さんは、脳の機能異常が関係していることが指摘されています。 岡先生によると、線維筋痛症の患者さんのfunctional MRIやPETという高精度に解析できる画像検査の結果からは、特に大脳辺縁系の後帯状回というところに異常が見られるとのことです。 さらに、岡先生らが眼瞼けいれんと線維筋痛症のいずれも症状が見られる患者さんに画像解析をしたところ、脳の帯状回で異変が認められたとのことでした。 これらの結果から、線維筋痛症と眼瞼けいれんはお互いに関係性がある病気であることが考えられます。 線維筋痛症の痛みの評価と治療の実際 眼瞼けいれんの患者さんで全身に痛みがある患者さんでは、痛みの評価をしたうえで専門医を受診することがすすめられます。痛みの評価は、おもに以下の3つがあります。 ●過去3ヵ月間における痛みや疲労などの状況を聞くロンドン質問票:London Fibromyalgia Epidemiology Study Screening Questionnaire(LFESSQ) 参考記事:全身の痛みと疲労、線維筋痛症のスクリーニングチェックをしましょう ●米国リウマチ学会の診断基準(1990) 3ヵ月以上続く上半身、下半身を含めた対称性広範囲な疼痛がある。全身18ヵ所の圧痛点のうち、11ヵ所以上に圧痛が存在すると線維筋痛症と診断されます。 11ヵ所を満たさない全身の痛みが有る場合、目安として5ヵ所以上を満たすと慢性広範囲疼痛と考えられます。ある意味で、線維筋痛症は慢性広範囲疼痛の完成/進行型といえます。 提供:東京リウマチ・ペインクリニック・岡寛先生 ●米国リウマチ学会診断予備基準(2010) 参考記事:全身を激しい痛みが襲う病気「線維筋痛症」セルフチェック 痛みの治療に関しては、まず専門の医療スタッフによる医療面接を行います。 その際、痛みの程度をPain Visionという機器で客観的評価、あるいは患者さんが痛みを0~10点(痛みが全くないは0、最悪の痛みは10)で点数をつけてもらうNumerical Rating Scale(NRS)という自己評価をしてもらい、患者さんのつらい痛みの状況をお互いに理解します。 次に、リウマチ関連の病気、甲状腺の病気などと鑑別することや、うつ病などもあるかどうかなどについて調べるための問診や血液検査を受けます。 線維筋痛症とわかったら、医師が参照するガイドライン(線維筋痛症診療ガイドライン2017年版)をもとに、症状や状態に応じて治療を受けます(参考記事:全身の痛みを和らげる治療の最前線) 治療経過は、前述のPain Vision検査や痛みを10段階評価するNRSなどで診ます。 NRSに関しては、痛みの点数をまず半分にすることが目標になります。 岡先生によると、痛みの程度が半分になれば、家事ができたり、外出したり、散歩ができたり、今までできなかったことがひとつずつできていくので、日常生活ができるようになるイメージを持ちましょう。 最終的には、社会復帰して就労が可能と考えられるNRS0~2点を目指せるようにします(図1)。 図1:患者さんが目指す痛みの治療目標 提供:東京リウマチ・ペインクリニック・岡寛先生 岡先生によると、線維筋痛症は難治の病気ですが、最近は有効な治療選択肢が増えてきたので、早く病気を発見して早く治療を受けること、患者さんがセルフマネージメントを意識することが、よくなるための近道と協調しています。 先生は以下のメッセージで締めくくりました。 治療は長い道のりを走る車を想定してください。標識は医療者、ガソリンは家族や協力する方、薬物療法は車のイグニッションキーの役割です。 しかし、アクセルペダルを踏んで前に進むのは患者さん自身です。病気と向き合っていくことが長い道のりを完走するために重要です(図2)。 図2:患者さんが病気と向き合うセルフマネージメントが重要 提供:東京リウマチ・ペインクリニック・岡寛先生 *:患者会の眼瞼・顔面けいれん友の会の主催による第16回「眼瞼・顔面けいれん友の会」例会(2019年3月23日)の講演内容です。 眼瞼・顔面けいれん友の会 http://www.gankenganmen.jp/ ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2019/06/03 監修:東京リウマチ・ペインクリニック院長 岡寛先生、眼瞼・顔面けいれん友の会
全身にわたって、原因不明の痛みに悩んでいる患者さんのために、電話相談やカウンセリングを受けられる「きんつう相談室」*1があります。全身が激しい痛みに襲われる線維筋痛症の患者会代表理事・橋本裕子さんが、長年にわたる闘病経験と4万人以上の患者さんをフォローしてきた経験をもとに、セルフケアのコツなどをアドバイスしてくれます。 目次 痛みだけでなく、音や光に過敏になることに悩むかた、落込んでしまうかたもサポート いまと未来への「生き甲斐」を見つけてもらえるよう支えていきたい 痛みだけでなく、音や光に過敏になることに悩むかた、落込んでしまうかたもサポート 線維筋痛症は体の節々が痛い、目が痛いといった症状だけでなく、慢性的な疲労、音や光に過敏になること、落ち込み、低血糖や低血圧、体重減少(BMI18.5未満のやせすぎが多いとの指摘があります)など、多くの症状に悩まされます。 参考記事:線維筋痛症患者は「血糖値スパイク」に注意 病気の症状がよくなることもあれば、あることがきっかけで悪化することもあり、医療機関に通院するだけでは改善しないときもあります。 そこで、橋本さんは患者会の線維筋痛症友の会で18年以上にわたり4万人以上の患者さんと接してきたことや、医療機関のカウンセラーとして務めていること*2、学会で論文発表していること*3など、豊富な経験からサポートする「きんつう相談室」を立ち上げました。 いまと未来への「生き甲斐」を見つけてもらえるよう支えていきたい 橋本さんは、線維筋痛症はさまざまな症状に悩まされるので、患者さん1人ひとりにあった治療やセルフケアが重要になるので、きんつう相談室を立ち上げました。 電話相談やカウンセリングを受けてもらい、食生活の改善や運動・体操をすること、生活環境を工夫することなど、患者さんに合ったセルフケアについてアドバイスしていきたいとしています。 相談室の詳細は、電話相談・電話カウンセリングが基本です(電話相談は30分間無料、カウンセリングなど一部有料です)。また、都内で待ち合わせができる場合は面談(有料、面談場所は相談)もできます。 橋本さんからのメッセージがあります。以下です。 患者さん自身が病気と向き合い、医療機関に頼るだけではなくセルフケアをしていくことが重要です。そこで、「きんつう相談室」を立ち上げました。 相談は、線維筋痛症や痛みだけではありません。原因がわからないけど疲れやすい、ものを見ることに困っていることなど、つらい体の症状があるかたは気楽にご相談ください。 病気とゆっくりつきあいながら、あなたがいまを生きる意義、未来に向かって見通しを持って生きていく意義など「生き甲斐」を見つけてもらえるよう支えていきたいと考えています。 *1:きんつう相談室 ホームページ:https://main-soudannsitu.ssl-lolipop.jp/ 電話:080-7354-8259 メール:kinntuu@soudannsitu.main.jp *2:橋本さんは、日本実存療法学会の国際実存療法士のカウンセラー資格をもとに千代田国際クリニック(東京都)でカウンセリングをしています。 *3:学会論文は、最近では2019年3月25日に、全人的医療2018:17:46-53「線維筋痛症をどう生きるか~患者力~」を発表しました。過去の論文とあわせて500円でお分けできるとのことです。 ■関連記事 線維筋痛症 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2019/05/24
線維筋痛症は、激しい痛みや疲労をはじめ多様な症状が起こる病気ですが、客観的な画像や検査結果で明らかにできないケースが多く、診断を求めてさ迷う患者さんが多いと言われています。実態について、患者会のNPO法人線維筋痛症友の会が患者さんを対象に行ったアンケート結果を紹介します。患者会理事長の橋本裕子さんに概説してもらいました。 目次 診断までの期間は1年以上が大半、複数の医療機関を受診しているのが現状 非薬物療法は敷居が高い 「生きづらさ」を改善した社会環境をつくってほしい 診断までの期間は1年以上が大半、複数の医療機関を受診しているのが現状 2018年9月30日に開催された日本線維筋痛症学会第10回学術集会で、橋本さんは2010年から5年おきに患者会が患者さんを対象に実施している調査の結果*を発表しました。 橋本さんによると、多くの患者さんは仕事ができなくて経済的に困難な状況にあること、現行の福祉サービス制度に限界があることなど、さまざまな問題に直面していることがわかりました。 痛みと疲労、患者の経済状況?線維筋痛症友の会アンケート結果(1) 痛みと疲労で働けず福祉制度も課題 線維筋痛症友の会アンケート結果(2) 2016年の調査では、「診断までの期間や受診した医療機関数」について聞きました。 それによると、線維筋痛症の診断は発症してから6ヵ月以上の期間が必要なのですが、1年以内に診断された患者さんは全体の約23%に過ぎないことがわかりました。10年以内を合計して約56%。それ以上の長い時間が診断に必要であった者が半数近くでした。 受診機関数でみると、1ヵ所目の受診機関で診断されたのはわずかに約6%、2ヵ所目で診断されたのは約11%でした。 橋本さんは「患者数に比べると、受け入れる医療機関が少ないことが裏付けられる数字です」と指摘しています。 非薬物療法は敷居が高い 線維筋痛症は痛みや疲労をはじめ多様な症状がありますので、それぞれの症状に適した治療が必要になります。非薬物療法を利用している患者さんは少なくないのですが、2016年における利用状況は回答者全体の約19%(143人)でした。 一方、「非薬物的療法を受けたいが受けられない」という回答が多かったのです。高いニーズはあっても、実際に治療を受けている患者さんは少ないのが現状でした。 また、医師が診療の際に参考にする線維筋痛症診療ガイドラインでは、有酸素運動やストレッチが有効と推奨されていますが、リハビリテーションを受けられる患者さんは少なく、認知行動療法やカウンセリングを健康保険で受けることも制度上、難しいのが課題です。 「生きづらさ」を改善した社会環境をつくってほしい アンケート結果を踏まえて橋本さんのコメント 線維筋痛症は複雑な病態ですので、一人一人の患者さんの発症原因、症状があまりにも多様です。単一の治療法では対応が難しく、日々変化する症状や薬の副作用などに細かく対応していくのは現状の医療体制では困難と言わざるを得ません。 さらに追い討ちをかけるように、福祉サービス制度では障害とみなされず、仕事もできなくなって患者さんの療養生活は経済的に厳しい生活を強いられているのです。 一人一人の「生きづらさ」は、客観的な画像検査や検査結果で数字や画像のみで捉えることができないので診断にさ迷う患者さんが非常に多く、現行の診療や福祉サービスに限界があることをこの調査結果が物語っているのではないでしょうか。 患者さんの実態を把握してもらい、病気を持ちながらも生きていく社会的存在として、経済活動を行う人間として、生きていくのによりよい環境をつくらなければ、「生きづらさ」の課題は解決されません。 *線維筋痛症友の会は、療養生活の状況についてアンケートを5年ごとに実施しており、その結果は2011年と2016年に「FM白書」(FM:線維筋痛症 Fibromyalgiaの略)で公表しています。 ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2019/02/15 監修:NPO法人線維筋痛症友の会 理事長 橋本裕子さん
線維筋痛症は、全身を襲う激しい痛みや疲労をはじめ多様な症状が起こる病気です。歌手のレディ・ガガさんが休養を余儀なくされた原因として有名です。患者会のNPO法人線維筋痛症友の会は、会員患者さんを対象に療養生活の実態に関するアンケートを実施しています。調査結果から、就労状況や福祉サービスの利用状況について紹介します。患者会理事長の橋本裕子さんに概説してもらいました。 目次 圧倒的に働けない患者さんが多い 障害福祉サービス利用は不十分 「多様な症状に応じて経済的支援や福祉サービスを利用できる環境を」 圧倒的に働けない患者さんが多い 患者会は、患者さんへのアンケートを2010年から5年ごとに実施しています。その結果は2011年と2016年に「FM白書」(FM:線維筋痛症 Fibromyalgiaの略)で公表しています。 調査結果から、医療費の自己負担の実際や、就労状況、福祉サービスの利用状況などについて、2018年9月30日に開催された線維筋痛症学会(医師などが会員です)の第10回学術集会で発表しました。 橋本さんによると、就労状況に関する調査結果は以下でした。 ■就労状況に関する調査結果 2011年(回答697人) 2016年(回答768人) 問題なく働ける 1.0% 2.6% 何とか働いている 約11% 約13% 線維筋痛症患者さんの就労状況に関しては、2011年の調査結果に比べて2016年の調査結果では少し改善していました。しかし、2016年の調査結果で「問題なく働ける」と回答したのは768人中30人未満(2.6%)にとどまっていました。働けない患者さんが圧倒的に多いのが現状です。さらに、障害年金を受けていたのは105人(13%)にとどまっていました。 障害福祉サービス利用は不十分 福祉サービスに関する調査結果で、障害者手帳の所持については以下でした。 ■障害者手帳の所持 2011年(回答697人) 2016年(回答768人) 所持している 約19% 約27% 所持したい 約40% 約28% 障害者手帳を「所持している」との回答は2011年に比べて2016年の調査で増加していましたが、患者さんからは「何とか制度は利用できているが、今の生活状況では不十分」という声が多く聞かれたとのことです。 「多様な症状に応じて経済的支援や福祉サービスを利用できる環境を」 橋本裕子さんコメント 取得できた障害者手帳の種類・等級や介護サービスの利用区分と、実際に利用できているサービス内容が患者の実際の暮らしにくさと合致していないのが現状です。 線維筋痛症は、痛みや疲労などの生活上困難な症状は客観的な画像や検査結果で明らかにならないので、現行の福祉サービス制度では障害とみなされにくいのです。 しかし、実際には痛みや疲労は、あらゆる生活動作の障壁です。「客観性の担保」にとらわれ、一人一人の「生きづらさ」を数字や画像のみで捉えることの限界がこの調査結果に示されていると思います。 線維筋痛症患者は痛みや多様な症状により、日常生活、就労でもさまざまな障壁に悩まされています。また、治療に専念するためにも、経済的支援や福祉サービスなどのサポートが欠かせないのです。 ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2019/02/13 監修:NPO法人線維筋痛症友の会 理事長 橋本裕子さん
線維筋痛症は、全身にわたる激しい痛みや疲労などにより、日常生活や仕事に困難を来たす病気です。患者会のNPO法人線維筋痛症友の会は会員の患者さんを対象に療養生活の実態についてアンケートを行っています。患者さんの経済状況について、患者会理事長の橋本裕子さんに概説してもらいました。 目次 経済的支援や福祉サービスなどサポートが欠かせない 医療費の自己負担は月額2万円までが多いが一般家庭の世帯全体の支出額より大きい 経済的支援や福祉サービスなどサポートが欠かせない 患者会は、療養生活の状況についてアンケートを5年ごとに実施しており、その結果は2011年と2016年に「FM白書」(FM:線維筋痛症 Fibromyalgiaの略)で公表しています。 橋本さんは調査結果から患者さんの診療や生活面、経済面、就労面などに関する実態について、2018年9月30日に開催された日本線維筋痛症学会第10回学術集会で発表しました。 橋本さんによると、医療費負担(月額)の変化について2011年と2016年で比較した結果、医療費の自己負担(月額)に関しては以下のような結果でした。 ■医療費自己負担(月額) 2011年(回答697人) 2016年(回答768人) 1万円未満 23% 39.4% 1~2万円 34% 25.5% 2~3万円 22% 11.4% 3万円以上 16% 9.8% 医療費の自己負担は月額2万円までが多いが一般家庭の世帯全体の支出額より大きい 2016年では、医療費の自己負担月額が2万円までは65%でした。5年前の2011年に比べると、全体的には医療費の負担が減少しています。これは健康保険で受けられる治療の選択肢が増えたことが考えられるとのことです。 しかし、「医療費が負担だと感じている」との回答は77%でした。橋本さんによると、薬代を気にして治療に二の足を踏む患者さんもいるようです。 総務省統計局「家計調査」(日本国政図会2016/17年版)では、1世帯あたり1ヵ月間の医療保険費の支出は、1万2,829円(6人以上の世帯)~1万3,656円(2人世帯)の範囲でした。 線維筋痛症患者さんの負担額は約47%が月額1万円以上です。 橋本さんによると、線維筋痛症患者さんの世帯全体の支出額は平均医療費をはるかに超えているので、経済的に困難な状況が推察されます。 ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2019/02/08 監修:NPO法人線維筋痛症友の会 理事長 橋本裕子さん
レディー・ガガさんが激しい痛みで歌手活動を休む原因になった線維筋痛症は、疲れや倦怠感も訴える患者さんが多い病気です。東京リウマチ・ペインクリニック院長の岡寛先生に疲労対策について概説してもらいました(2018年9月30日の日本線維筋痛症学会第10回学術集会・市民公開講座から本記事を作成しました)。 目次 痛みと疲労はセットの症状? 強い疲労により仕事を続けられない患者が多い 痛みと疲労はセットの症状? 線維筋痛症は、全身にわたる激しい痛みが起こる病気ですが、多くの患者さんは疲れや倦怠感に悩まされることが多いといわれています。 2005年厚労省研究班の線維筋痛症友の会会員を対象とした調査結果によると、症状は全身の痛みが必須で90%以上が疲労を訴えていました。痛みと疲労は必須ともいえます。 疲労に関しては、慢性疲労の診断基準で患者さんの日常生活の困難度を評価するPerformance Status(PS)というものがあります(表)。 表:performance status(表)による疲労・倦怠感の程度 0:倦怠感がなく平常の社会生活ができ、制限を受けることなく行動できる 1:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、疲労を感ずるときがしばしばある 2:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、全身倦怠感のため、しばしば休息が必要である 3:全身倦怠感のため、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である*1 4:全身倦怠感のため、週に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である*2 5:通常の社会生活や労働は困難である。軽労働は可能であるが、週のうち数日は自宅にて休息が必要である*3 6:調子の良い日には軽労働は可能であるが、週のうち50%以上は自宅にて休息している 7:身の回りのことはでき、介助も不要であるが、通常の社会生活や軽労働は不可能である*4 8:身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している*5 9:身の回りのこともできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている 疲労・倦怠感の具体例 *1 社会生活や労働ができない「月に数日」には、土日や祭日などの休日は含まない。また、労働時間の短縮など明らかな勤務制限が必要な状態を含む。 *2 健康であれば週5日の勤務を希望しているのに対して、それ以下の日数しかフルタイムの勤務ができない状態。半日勤務などの場合は、週5日の勤務でも該当する。 *3 フルタイムの勤務は全くできない状態。 「軽労働」とは、数時間程度の事務作業などの身体的負担の軽い労働を意味しており、身の回りの作業ではない。 *4 1日中、ほとんど自宅にて生活をしている状態。収益につながるような短時間のアルバイトなどは全くできない。ここでの介助とは、入浴、食事摂取、調理、排泄、移動、衣服の着脱などの基本的な生活に対するものをいう。 *5 外出は困難で、自宅にて生活をしている状態。日中の50%以上は就床していることが重要。 出典:厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)(神経・筋疾患分野)「慢性疲労症候群の病因病態の解明と画期的診断・治療法の開発」研究班「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)臨床診断基準(案)」(2016年3月改訂) 線維筋痛症患者さんの調査結果では、上記のPSは6~9段階が大半でした。PSの6段階は「週のうち50%以上は自宅にて休息している」、7段階は「1日中、ほとんど自宅にて生活をしている状態」です。 強い疲労により仕事を続けられない患者が多い 線維筋痛症は、自宅で安静にしていないといけないぐらい強い疲労を訴えるケースが多いと言われています。疲労に対する治療管理が必要になります。岡先生は以下のような対策(治療)を実施しています。 睡眠の確保 ビタミンC点滴(保険適応外) 還元型コエンザイムQ10(保険適応外) エルカルニチン点滴(保険適応外) タチオン点滴(保険適応外) タウリン内服(保険適応外) メルスモン1A皮膚下注射/週 漢方治療(麻黄湯、補中益気湯など) 疲労に対する治療は表の順で、まずは睡眠の確保が重要となります。 ビタミンCは、抗酸化物質として体内の活性酸素を駆逐するはたらきがあります。 還元型コエンザイムQ10に関しては、コエンザイムQ10は体のなかにもともとある補酵素でエネルギー産生に関わっているもので、酸化型と還元型があります。 酸化型は、体内で還元型に変換することが必要です。加齢や病気、ストレスなどにより変換するためのエネルギーが少ないと還元型に変換する量が少なくなることがあります。 還元型コエンザイムQ10は変換の必要がないもので、慢性疲労症候群患者さんを対象としたエビデンスのある研究結果もあります。 カルニチンはほとんどが筋肉に存在しているものです。エルカルニチンは、疲労や倦怠感以外に筋肉痛やけいれん、こむら返りなどに対しても有効です。 また、更年期のほてりや発汗なども重なる患者さんが多いのが問題です(参考:痛みと疲労に苦しむ線維筋痛症、10年間にわたる患者闘病記、痛み+疲れ+更年期症状で退職するも社会復帰を果たした患者さんの体験記)。 メルスモンというホルモンを調節する薬もあります。簡略更年期指数(SMI)チェック表で60点以上のかた、女性ホルモンのエストラジオール値が低いかたに使用します。 ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2019/01/21 監修:東京リウマチ・ペインクリニック院長 岡寛先生
毎日つづく痛みと疲労、更年期の症状も重なって、仕事を続けられずに退職した患者さんがいます。線維筋痛症と更年期障害に悩まされていましたが、現在は回復して復職もしています。病気を発症してから社会復帰を果たすまでの経過が、患者会の線維筋痛症友の会が主催の市民公開講座で発表されました(市民公開講座は2018年9月30日の日本線維筋痛症学会第10回学術集会で開催)。 目次 万力で押しつぶされるような痛みが毎日続く 仕事帰りにひどい疲労感、仮眠しないと帰宅できない 更年期の症状としてボタボタ流れるくらいの大量の汗にも悩まされる 万力で押しつぶされるような痛みが毎日続く 精神科の看護師Bさんは数年前に線維筋痛症を発症しました。はじめての症状は、右手の薬指のつけ根が万力で押しつぶされるような痛みと腫れ、熱感でした。翌日になると、右手の人差し指と中指にも痛みが移りました。 整形外科を受診したところ、関節リウマチが疑われてステロイドを処方してもらいました。1週間たっても症状がよくならず、リウマチ・膠原病(こうげんびょう)の専門科を紹介されましたが、血液検査とレントゲン検査で異常はなく、痛み止めを処方してもらいました。 症状はおさまらず、そのうち痛みは両手にひろがっていました。 仕事帰りにひどい疲労感、仮眠しないと帰宅できない その時期は、仕事に車で行くことはできたのですが、終業後に駐車場で強い疲労感に襲われ、2時間は仮眠しないと帰宅できない状態でした。足にも痛みが出現しました。 MRIなどの精密検査も受けましたが異常なしとのことでした。以前に子宮を全摘出していたことでメンタルクリニックに通っていたので相談したところ、こころの病気、もしくは幻肢痛という病気ではないかといわれました。 幻肢痛は、たとえば指や腕などをなくしたのに、指や腕の感覚があるという神経の病気です。手足があるのに幻視痛と言われたのはショックだったとのことです。 毎日、激痛で寝たきりに近く、杖をつかないと歩けない状態でしたので退職しました。 東京リウマチペインクリニックを紹介されて院長の岡先生の診察を受けたところ、線維筋痛症と診断されました。 その後の治療経過を見ると、痛みの治療薬のノイロトロピンを処方されました。当初よりも薬の量を多くしてもらったところ、症状が軽くなりました。 更年期の症状としてボタボタ流れるくらいの大量の汗にも悩まされる Bさんは、更年期によくある症状のホットフラッシュ(ほてりや汗など)、倦怠感、不安、イライラ、憂うつなどにも悩まされていました。汗に関しては、シャワーを浴びたような状態で、診察中もボタボタと流れでるくらいでした。 簡略更年期指数(SMI)というものがありますが、100点中76点と長期間にわたる計画的な治療が必要との判定でした。そこで、保険適応のプラセンタ療法のメルスモンを処方されました。 その後、数ヵ月間で大量に汗をかく症状はよくなってSMIの評価は100点中33点と減少しました。 痛みと疲労、更年期症状の大量の汗といった多くの症状に悩まされていたのですが、症状に応じた治療によって体調が良くなったので、現在は時短就労として1日4時間の高齢者のデイサービスの仕事ができるようになりました。 ■関連記事 更年期チェック!汗、ほてり、痛み、息切れなどがありますか? 男性ホルモン&女性ホルモン 素朴な疑問 更年期にやさしいサプリメント 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2019/01/18 監修:東京リウマチ・ペインクリニック院長 岡寛先生/線維筋痛症友の会理事長 橋本裕子さん
女性が閉経を迎える前後10年間の時期を更年期といいます。閉経を境に、卵巣ホルモンの分泌量が大きく変化する時期です。その時期に体がだるい、手足が痛い、たくさん汗をかくなどの症状があれば、簡略更年期指数(Simplified Menopausal Index:SMI)でチェックをしましょう。このチェックは医療機関でも使われるもので、治療が必要かどうかの目安にもなります。 目次 簡略更年期指数(SMI)をチェック 51点以上は医療機関で治療を受けることを検討しましょう 簡略更年期指数(SMI)をチェック 設問 強 中 弱 無 1 顔がほてる 10 6 3 0 2 汗をかきやすい 10 6 3 0 3 腰や手足が冷えやすい 14 9 5 0 4 息切れ、動悸がする 12 8 4 0 5 寝つきが悪い、または眠りが浅い 14 9 5 0 6 怒りやすく、すぐイライラする 12 8 4 0 7 くよくよしたり、憂うつになることがある 7 5 3 0 8 頭痛、めまい、吐き気がよくある 7 5 3 0 9 疲れやすい 7 4 2 0 10 肩こり、腰痛、手足の痛みがある 7 5 3 0 点数の合計 SMIの評価 0~25点 異常なし 26~50点 食事、運動に気を付け、注意を 51~65点 更年期・閉経外来を受診しましょう 66~80点 長期間にわたる計画的な治療が必要 81~100点 各科の精密検査にもとづいた長期の計画的な治療が必要 出典:小山嵩夫 産婦人科漢方研究のあゆみ 1992;9:30-34 51点以上は医療機関で治療を受けることを検討しましょう 更年期とは一般的には40歳代後半から50歳代前半といわれています。閉経を境に、卵巣ホルモンの分泌量が大きく変化する時期です。 その時期に体がだるい、手足が痛い、たくさん汗をかくなどの症状があれば、SMIをチェックすることで自分に起こりやすい症状がどの程度なのかを点数をつけて把握できます。 また、定期的にチェックすることによって、自分はどのような症状に悩まされているのか、以前よりは改善してきているのかがわかるようになります。チェックの結果、51点以上だった場合は、医療機関で治療を受けることを検討しましょう。 閉経を迎えた女性が気をつけなければならないのは、卵巣ホルモンのひとつであるエストロゲンの分泌が低下することによって骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や脂質異常症になることです。最近では、痛みや疲れに長期にわたって悩まされる線維筋痛症と重なることも問題視されています。 上記のような病気の早期発見にもつながるので、ぜひSMIチェック表を活用しましょう。 ■関連記事 男性ホルモン&女性ホルモン 素朴な疑問 更年期にやさしいサプリメント 痛み+疲れ+更年期症状で退職するも社会復帰を果たした患者さんの体験記 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2019/01/16 監修:東京リウマチ・ペインクリニック院長 岡寛先生
全身の激しい痛みや疲労に襲われる線維筋痛症。患者Aさんは、病気を10年前に発症してドクターショッピング状態に陥るなど、長く苦しめられていましたが、現在は暗いトンネルを抜け出して良好になっています。患者会の線維筋痛症友の会が主催の市民公開講座の講演を紹介します(市民公開講座は2018年9月30日に日本線維筋痛症学会第10回学術集会で開催)。 目次 異変は突然、はじめての症状は朝のこわばりとめまい 8つの医療機関を受診、たらいまわしのドクターショッピング状態に 多様な症状に応じた治療により改善 マイナス感情から解放されることが重要 異変は突然、はじめての症状は朝のこわばりとめまい 訪問看護師のAさんが線維筋痛症を発症したのは10年ほど前でした。異変は突然だったとのことです。 はじめての症状は、朝のこわばりとめまい、関節の痛みでした。朝起きるとこわばってしまうので、グーパーと何回もやらないと家事ができない状態でした。 その5年後には手首と足首の関節も痛くなり、包丁を使うこと、コーヒーカップを持つこと、字を書くこともツラく、両腕を切り落としたいと思うほどでした。 8つの医療機関を受診、たらいまわしのドクターショッピング状態に Aさんは当初、関節リウマチと思って整形外科を受診しましたが更年期障害ではないかと言われてショックを受けました。次に婦人科に行ったところ、更年期障害には関節の痛みはないので整形外科に行きなさいと言われました。 その後は、別の産婦人科やリウマチ科を紹介されましたが原因はわからず、手の外科を受けると腱鞘炎(けんしょうえん)と言われることもありました。 まさに、ドクターショッピングという「たらいまわし状態」でした。結局、合計で8つの医療機関を受診しましたが、問題の解決に至らなかったのです。 多様な症状に応じた治療により改善 Aさんは、何をするにも痛くて動けないことにいら立ち、ストレスが高まっていたなか、東京リウマチペインクリニック院長の岡寛先生を受診し、線維筋痛症と診断されて、痛みの治療薬としてはサインバルタ、ワントラム、ノイロトロピンなどを処方されました。 また、痛みとあわせて疲労や倦怠感にも悩んでいました。疲労がひどかったので、仕事や家事などの活動は1日につき1つのことしかできないほどでした。処方されたのは、自費診療のレボカルニチンと還元型コエンザイムQ10でした。 マイナス感情から解放されることが重要 治療効果は良好で、痛みに関しては治療前を10段階中10とすると、治療後は7段階に軽減しました。疲労も改善しました。 更年期の症状も重なっていたので、症状に応じた対応策があることが病気の改善に重要とのことでした。 マイナス感情から解放されたこともプラスになって、現在は症状が良好になっています。 Aさんは、「痛みや疲労、倦怠感に苦しんでいるときはマイナスな感情に支配されてしまいます。しかし、解放されると前向きになって、自分の病気に向き合えるようになりました」。 Aさんは現在、認知症や終末期医療(ターミナルケア)の訪問看護師として働いています。暗いトンネルから抜けだして、光が見えてきたことで活動的になりました。ヨガや楽器のサックス演奏に励んでいます。アイドルのコンサートにも行けるようになりました。 ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2019/01/09 監修:東京リウマチ・ペインクリニック院長 岡寛先生/線維筋痛症友の会理事長 橋本裕子さん
「今日は、気圧が低いので体の調子がよくない」ということはありませんか?いわゆる天気病というもので、台風や爆弾低気圧が来ると痛みを強く感じることや、疲れや倦怠感がひどくなることをいいます。線維筋痛症や更年期の症状に悩まされるかたには、天気病は天敵かもしれません。関節リウマチ、痛み、疲労に特化した東京リウマチ・ペインクリニック院長の岡寛先生に概説してもらいました(2018年9月30日の日本線維筋痛症学会第10回学術集会・市民公開講座から本記事を作成しました)。 目次 台風や爆弾低気圧がやってくると心身に不調 気圧が急激に低くなると内耳に影響して自律神経系が乱れやすくなります 天気病に個人差があるので予防薬を飲むタイミングを把握しましょう 台風や爆弾低気圧がやってくると心身に不調 2018年は日本に多くの台風がきました。西日本、東日本に上陸して通り抜けることもありました。9月30日は線維筋痛症の市民公開講座が東京都で開催されましたが、その日も台風が関東地方に上陸するところでした。 市民公開講座で岡先生は痛みや疲労の対策に関する講演をしており、台風にちなんで気圧が関係する天気病についても説明していました。 気圧が急激に低くなると内耳に影響して自律神経系が乱れやすくなります 岡先生によると、台風や爆弾低気圧がきたときに気圧の急激な変化が影響して心身の不調が起こることがあります。 体内ではどうなっているのでしょうか。気圧が急激に下がると、体内で気圧を感じるのは耳の内耳と眼(視覚)です。脳には、内耳からの情報と視覚からの情報がそれぞれ送られますが、2つの情報が一致しなければ自律神経が乱れて平衡感覚に問題が起きます。 具体的には、耳の内耳というところで気圧の変化を感じると、リンパ流に乱れが起きてしまい、その情報が脳に送られます。 一方、眼(視覚)で気圧の変化を感じませんので脳に情報が送られません。 2つの情報が一致しないので、脳内で混乱が生じます。自律神経系のバランスがくずれてしまい、痛みが悪化すること、だるくなること、めまいや頭痛などが起こりやすくなるのです。 天気病に個人差があるので予防薬を飲むタイミングを把握しましょう 爆弾低気圧や台風などが通過するときに具合が悪くなりやすい人は、内耳のリンパ流の乱れを整える薬を事前に飲むと予防になるでしょう。 岡先生によると、事前に薬を飲むにも、台風が来る前日がいい人もいれば、数時間前がいいという人、極端ですが1時間前に飲むほうがいい人もいるとのことです。 天気病には個人差があるので、自身が天気病になりやすい気圧変化のパターンを理解できるサイト(例えば「頭痛ーる」など)も活用してみましょう。 ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2018/12/14 監修:東京リウマチ・ペインクリニック院長 岡寛先生
線維筋痛症は全身に激しい痛みが起こるだけでなく、疲労やうつ状態などさまざまな症状を伴います。治療に関しては、医師が診療の際に参考にする線維筋痛症診療ガイドライン2017年版で勧められている内容も踏まえて、東京リウマチ・ペインクリニック院長の岡寛先生に最前線について聞きました。 目次 痛みを抑える薬やうつ病の治療薬などを用いて治療を行う 磁気で痛みをコントロールする機器もあります 痛みを抑える薬やうつ病の治療薬などを用いて治療を行う 画像はイメージです 線維筋痛症は、脳の痛みを感じる神経の過剰なはたらきや、痛みを抑える神経のはたらきが低下することで発症するのではないかと考えられています。 そこで、神経障害による痛みの治療に用いられる薬や脳内のノルアドレナリンとセロトニンといった神経に欠かせない物質の量を増やす効果のある抗うつ薬のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)など痛みを和らげる作用がある薬が用いられます。 線維筋痛症の標準的な治療を行うために、医師が参照するガイドライン(線維筋痛症診療ガイドライン2017年版)によると、神経障害性疼痛治療薬のプレガバリン(リリカ)、抗うつ薬では、三環系抗うつ薬で末梢性神経障害性疼痛に保険適用があるアミトリプチリン(トリプタノール)、SNRIのデュロキセチン(サインバルタ)、弱オピオイド(非麻薬性)薬のトラマドール(トラマール)、トラマドール-アセトアミノフェン配合薬(トラムセット)などの治療薬があります(表)。 表:線維筋痛症診療ガイドライン2017で推奨される薬剤 薬剤分類 薬剤の種類 薬剤(一般名) 薬剤(製品名) ガイドライン推奨度 抗うつ薬 セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI) デュロキセチン サインバルタ 実施*1 ミルナシプラン*3 トレドミン 提案*2 ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA) ミルタザピン*3 リフレックス 提案 三環系抗うつ薬(TCA) アミトリプチリン トリプタノール 提案 神経性疼痛緩和薬 神経障害性疼痛緩和薬 プレガバリン リリカ 実施 抗てんかん薬など 新世代薬 ガバペンチン*3 ガバペン 提案 レストレスレッグス(むずむず脚)症候群薬 ガバペンチンエナカルビル*3 レグナイト 提案 鎮痛薬 オピオイド(非麻薬) トラマドール トラマールOD 実施 トラマドール・アセトアミノフェン配合薬 トラムセット 実施 生物組織抽出物 ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液 ノイロトロピン 提案 非麻薬性オピオイド治療薬 モルフィナン系オピオイド ブプレノルフィン ノルスパン 提案 *1 実施:治療を行うことを強く推奨する *2 提案:治療を行うことを弱く推奨する *3 本邦では線維筋痛症、慢性疼痛、神経障害性疼痛への保険適応なし 薬剤以外の治療に関しては、運動療法や患者教育、認知行動療法、禁煙なども奨められています。鍼灸と和温(温熱)療法がおこなわれることもあります。 参考:線維筋痛症診療ガイドライン2017年版 磁気で痛みをコントロールする機器もあります ガイドラインでは推奨されていませんが、低侵襲の磁気疼痛治療機器に関しては研究が進められています。磁気疼痛治療器は、コイルから発生させた交番磁界を痛みの部位に照射して疼痛を緩和するというもので携帯可能な小型の機器です。 脳内での鎮痛因子のβエンドルフィンやセロトニン、神経栄養因子を産生させる作用により痛みへの効果を発揮するといわれています。 岡先生らが、難治性の線維筋痛症患者10例を対象に、自宅で1回4ヵ所、1日2回までで使用してもらい、治療効果を検討しました。 72週時における9例(10例中1例脱落)の結果を見ると、疼痛が30%改善したのは6例、そのうち50%改善は4例、さらに痛みがなくなったのは2例でした。 岡先生は「線維筋痛症は難治の病気ですが、最近は有効な治療選択肢が増えてきました。やはり早期に病気を発見して早期に治療を受けることが重要です。スクリーニングチェックもありますので、大いに活用してほしいです」と強調しています。 全身を激しい痛みが襲う病気「線維筋痛症」セルフチェック 線維筋痛症の治療法は?薬物療法と非薬物療法 家庭で気軽にできる疼痛リハビリ体操 線維筋痛症友の会が推奨 線維筋痛症患者は「血糖値スパイク」に注意 線維筋痛症患者の低血糖対策として間食も有効 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2018/10/05 監修:東京リウマチ・ペインクリニック院長 岡寛先生
全身の痛みや疲労、線維筋痛症などにより、過去1週間における家事などの日常生活への支障度や仕事を休んだ日数、疲労の程度などをチェックできるツールがあります。東京リウマチ・ペインクリニック院長の岡寛先生に聞きました。 目次 過去1週間の痛みと疲労による日常生活の困難をチェックできる質問票 慢性疼痛治療ガイドライン2018年版で推奨されるFIQチェック 日常生活ができなくなるケースもあるので治療をうけるべき疾患 過去1週間の痛みと疲労による日常生活の困難をチェックできる質問票 線維筋痛症は全身に激しい痛みを訴える病気です。疲労感、不眠、抑うつ状態などさまざまな症状を伴います。より早く病気を発見して適切な治療を受けることが必要です。 そこで、線維筋痛症の可能性があるかどうかを探るために過去3ヵ月間における痛みや疲労などの状況をチェックするロンドン質問票:London Fibromyalgia Epidemiology Study Screening Questionnaire(LFESSQ)があります。 詳しい調査としては、体のどの部位が痛いのかをチェックできる「米国リウマチ学会診断予備基準(2010)」(関連記事:全身を激しい痛みが襲う病気「線維筋痛症」セルフチェック)があります。 また、過去1週間における全身の痛みや線維筋痛症などによる家事などの日常生活における支障度や仕事を休んだ日数、疲労の程度などをチェックできるThe Fibromyalgia Impact Questionnaire(FIQ)があります。東京リウマチ・ペインクリニック院長の岡寛先生に聞きました。 慢性疼痛治療ガイドライン2018年版で推奨されるFIQチェック 線維筋痛症は、患者さんの日常生活上の活動(家事などを含む)や仕事などへの支障が大きいことなど、生活の質(Quality of Life)を悪化させる病気です。 全身への激しい痛み、疲労やうつ症状といった多くの症状がでて、なかなか診断がつかないことが多くある病気でもあります。症状や障害を総合的診断してもらえる医療機関を受診することが重要です。 そこで、線維筋痛症のさまざまな症状や障害を多面的に捉え、総合的に評価するチェックとしてFIQ(日本語版)があります。 慢性的な痛みに対して医師が標準的な治療として参照するガイドラインのなかで、今年(2018年)3月に発行されました慢性疼痛治療ガイドラインでもFIQは推奨されています。特徴は、最近1週間における日常生活上の洗濯や掃除、外出、仕事を休んだ日数、痛みや疲労、落ち込みの程度など具体的な項目を設けています。各質問項目の点数を足してスコア化できます(表)。 表:Fibromyalgia Impact Questionnaire 線維筋痛症質問票(日本語版) 質問1~11:最近1週間を通して、あなたがどの程度できたか、最もよくあてはまる番号を1つだけ選んでください。 あなたは次のことができましたか? 回答肢 1.買い物 □常にできた(0点) □だいたいできた(1点) □時々できた(2点) □全くできなかった(3点) 2.洗濯機を使った洗濯 □常にできた(0点) □だいたいできた(1点) □時々できた(2点) □全くできなかった(3点) 3.食事の用意 □常にできた(0点) □だいたいできた(1点) □時々できた(2点) □全くできなかった(3点) 4.皿や調理器具を手で洗う □常にできた(0点) □だいたいできた(1点) □時々できた(2点) □全くできなかった(3点) 5.掃除機をかける □常にできた(0点) □だいたいできた(1点) □時々できた(2点) □全くできなかった(3点) 6.布団を敷いたり、ベッドを整えたりする □常にできた(0点) □だいたいできた(1点) □時々できた(2点) □全くできなかった(3点) 7.数百メートル歩く □常にできた(0点) □だいたいできた(1点) □時々できた(2点) □全くできなかった(3点) 8.友人や親戚を訪問する □常にできた(0点) □だいたいできた(1点) □時々できた(2点) □全くできなかった(3点) 9.庭仕事(花の手入れなどを含む) □常にできた(0点) □だいたいできた(1点) □時々できた(2点) □全くできなかった(3点) 10.車の運転 □常にできた(0点) □だいたいできた(1点) □時々できた(2点) □全くできなかった(3点) 11.階段をのぼる □常にできた(0点) □だいたいできた(1点) □時々できた(2点) □全くできなかった(3点) 質問12-13:最近1週間で気分の良かった日と線維筋痛症のために仕事や家事を休んだ日にち(それぞれ0~7日間)を選んでください。 あなたは次のことができましたか? 回答肢 12.最近1週間のうち、気分が良いと感じたのは何日間ですか? 0~7日間から選択(0~7点) 13.最近1週間のうち、線維筋痛症のために仕事(家事を含む)を休んだのは何日間ですか? 0~7日間から選択(0~7点) 質問14-20:最近1週間を通して、あなたがどう感じたか、0~10段階のうちどのくらいか選んでください。 あなたは次のことができましたか? 回答肢 14.仕事中(家事を含む)、線維筋痛症による痛みやその他の症状は、どの程度あなたの仕事(家事を含む)に支障をきたしましたか? <全く支障なし>1~10<大きな支障あり>(1~10点) 15.痛みはどの程度ひどかったですか? <全く痛みなし>1~10<かなりひどい痛み>(1~10点) 16.疲れはどの程度でしたか? <全く疲れなし>1~10<かなりの疲れ>(1~10点) 17.朝起きた時、気分はどうでしたか? <心地よい目覚め>1~10<かなり疲れが残っていた>(1~10点) 18.こわばりはどの程度ひどかったですか? <全くこわばりなし>1~10<かなりのこわばり>(1~10点) 19.どの程度、神経質になったり、不安を感じていましたか? <全く不安なし>1~10<かなりの不安>(1~10点) 20.どの程度、落ち込んだり、ゆううつな気分でしたか? <全く落ち込みなし>1~10<かなりの落ち込み>(1~10点) 出典:臨床リウマチ2008:20;19-28 FIQの質問1~20の点数を合計して50点以上になると、かなり高いスコアです。すぐに専門的な治療を受けましょう。 日常生活ができなくなるケースもあるので治療をうけるべき疾患 線維筋痛症は、歌手レディ・ガガさんが活動休止を宣言した理由で有名になりました。 患者さんの日常生活上の活動(家事などを含む)や仕事などへの支障が大きく、QOLを悪化させます。日常生活ができなくなった患者さんもいます。早く治療をうけるべき疾患です。 だからこそ、より早く病気を発見して治療を受けることが重要です。FIQ質問表でスコアが高い人は、線維筋痛症の可能性が高いかもしれません。注意しましょう。 また、全身の痛みや疲労などが長引く人は、定期的にFIQでチェックすることで、日常生活においていまだに困難な活動や、改善してきた活動についても理解できるものです。長引く痛み、疲労、落ち込みなどがある人はぜひセルフチェックをしてみましょう。 ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2018/10/03 監修:東京リウマチ・ペインクリニック院長 岡寛先生
線維筋痛症は、全身にわたって痛みが長引く病気です。慢性的な疲労やうつなど多様な症状を合併しやすいので、チェックシートなどを使って早期に発見しましょう。日常生活における支障度と線維筋痛症の可能性をチェックできる質問表があります。東京リウマチ・ペインクリニック院長の岡寛先生に聞きました。 目次 過去3ヵ月間の痛みや疲労をロンドン質問票(LFESSQ質問表)でチェックしよう 線維筋痛症は全身の痛み、疲労、うつなどで日常生活の支障が大きいので早期発見を 過去3ヵ月間の痛みや疲労をロンドン質問票(LFESSQ質問表)でチェックしよう 慢性的な痛みは、日常の生活動作を長期にわたり著しく困難にさせるものです。線維筋痛症の患者さんでは痛みや疲労、落ち込みなどが長引いたことで家事や自分で歩くことができなくなったケースがあるそうです。 岡先生によると、線維筋痛症の疑いがあれば、より早い段階で専門医に受診することがすすめられます。線維筋痛症などの病気を早く特定できるほど、早期に適切な治療を受けることができるからです。QOLや日常生活の向上につながるとの話です。 線維筋痛症の可能性があるかどうかについて簡便にスクリーニングできるチェックツールとして、過去3ヵ月間における痛みや疲労などの状況を聞くロンドン質問票:London Fibromyalgia Epidemiology Study Screening Questionnaire(LFESSQ)があります。 質問項目は6問(痛みに関しては4問、疲れに関しては2問)です(表)。 表:ロンドン質問票(過去3ヵ月間における線維筋痛症スクリーニング質問票*) 痛みに関する質問:過去3ヵ月間における質問です 1:筋肉、骨、または関節に、1週間以上続いた痛みがありましたか? □はい □いいえ 2:肩、腕、または手に、痛みがありましたか? □はい □いいえ ・その痛みは、右、左、または左右両方にありましたか? □右側のみ □左側のみ □左右両側 3:脚あし(太ももから下)、または足部(足首から先)に、痛みがありましたか? □はい □いいえ ・その痛みは、右、左、または左右両方にありましたか? □右側のみ □左側のみ □左右両側 4:首、胸、または背中や腰に、痛みがありましたか? □はい □いいえ 疲れに関する質問 1:過去3ヵ月間において頻繁に疲れや疲労を感じましたか? □はい □いいえ 2:その疲れや疲労により,あなたの活動はかなり制限されましたか? □はい □いいえ 痛みに関する質問1~4がすべて当てはまるかたは線維筋痛症の可能性があります。さらに疲れに関する質問1~2も当てはまるかたは重症の可能性があります。 *日本語版LFESSQ(:The London Fibromyalgia Epidemiology Study Screening Questionnaire) 出典:Clin Rheumatol 2014;134(26): 130~136 線維筋痛症は全身の痛み、疲労、うつなどで日常生活の支障が大きいので早期発見を 線維筋痛症は全身の痛み、疲労、抑うつ状態などを伴うので日常生活への支障が大きくなる病気です。早い段階で専門医の診療を受けることで、日常生活やQOLがより早く改善することが期待できます。 3ヵ月以上にわたって全身の痛みが長引いているなら、LFESSQ質問表でチェックをしてみましょう。チェックツールで「もしかしたら線維筋痛症?」と思ったら、専門医に相談することを考えましょう。 もう少し詳しいチェックとして「米国リウマチ学会診断予備基準(2010)」(関連記事:全身を激しい痛みが襲う病気「線維筋痛症」セルフチェック)や「The Fibromyalgia Impact Questionnaire(FIQ)」などがあります。 3ヵ月以上にわたって全身の痛みが長引いているなら、LFESSQ質問表でチェックしましょう。 ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2018/10/01 監修:東京リウマチ・ペインクリニック院長 岡寛先生
線維筋痛症患者さんは、血圧が低下しやすく、その要因としては低血糖に陥りやすいことが永田勝太郎医師から指摘されています。同クリニックでは、線維筋痛症患者さんを対象にした勉強会で、音楽療法士・看護師の資格を持つ雨宮久仁子さんが食生活習慣を改善するコツについて講義しました。意外だったのは、間食が重要な対策になることです。低血糖を予防するための食事の摂りかたなど紹介します。 目次 千代田国際クリニック・患者さん勉強会 血糖値スパイクによる低血糖に注意する 膵臓をいたわるためにGI値を参考に食行動の習慣を改善することも有用 千代田国際クリニック・患者さん勉強会 線維筋痛症患者さんでは、血圧が低下しやすく、その要因としては低血糖に陥りやすいことが千代田国際クリニック院長の永田勝太郎医師から指摘されています。同クリニックでは、線維筋痛症患者さんを対象にした勉強会を定期的に開催しています。勉強会では、音楽療法士・看護師の資格を持つ雨宮久仁子さんが講師となって、栄養学を踏まえたうえで食生活習慣を改善するコツについて講義しました。意外だったのは、間食が重要な対策になることです(2018年2月3日開催の千代田国際クリニック・「痛み」患者さんのための音楽・食事療法の勉強会より)。 写真:「痛み」患者さんのための音楽・食事療法の勉強会 一番奥が講師の雨宮久仁子さん。雨宮さんは、音大卒業後に看護師の資格を取得し、千代田国際クリニック看護師として従事しています。勉強会当日は、音楽療法も行われていました。雨宮さんは、「Ombra mai fu(作曲:ヘンデル)」、「なごり雪(作詞・作曲:伊勢正三)」、「幻想即興曲(作曲:ショパン」、「メヌエット(作曲:モーツァルト)」をエレクトーンで演奏していました。 血糖値スパイクによる低血糖に注意する 雨宮さんによると、快適な生活をするために体の調子を整える栄養素としてタンパク質、脂質、炭水化物(糖質)、無機質、ビタミンがあります。これらの5大栄養素の中で重要なのは糖質です。糖質が糖代謝により分解されると体のエネルギー源となるブドウ糖になります。また、脳や神経組織、赤血球などは通常ではブドウ糖をエネルギー源としています。特に、脳は約20~40%のブドウ糖を消費します。 血液中に含まれるブドウ糖の濃度のことを血糖値と言います。通常、食後に血糖値が上昇すると、膵臓が刺激されて分泌されたインスリンがブドウ糖を細胞に取り込ませて代謝することで、血糖値が下降して正常値に戻るというサイクルを繰り返します。 そこで、食後の血糖値が急上昇と急下降をしてしまう血糖値スパイクに注意しなければなりません。血糖値スパイクの目安は、空腹時と食後高血糖の差が60mg/dL以上と言われています。 血糖値スパイクは糖化や酸化、老化を促します。たとえば、食後の血糖値が高くなる状態を繰り返す生活習慣を続けていると、ブドウ糖がタンパク質や脂質と結合することで終末糖化産物が生成されるといった劣化反応としての糖化も頻繁に起こることになります。 結果的に、血管内皮細胞の機能が障害されて赤血球が血管内をスムーズに移動できないことなどによって血液の流れが悪くなり、血栓ができやすくなります。また、体内の各組織に酸素が供給されにくくなります。循環障害が起こることになるのです。 血糖値スパイクを放置しておくと、動脈硬化、脳梗塞や心筋梗塞などを発症することがあります。また、がんや認知症などの発症にもつながります。 血糖値スパイクで恐いのが低血糖です。低血糖に関しては、食事の摂取の量が少ないときや、エネルギーを消費しすぎてブドウ糖が足りなくなったとき、また膵臓が過敏に反応してインスリンが過剰に分泌されたときや、膵臓の機能が低下したときに起こります。低血糖に注意する目安としては、血糖値が80mg/dL未満と言われています。 膵臓をいたわるためにGI値を参考に食行動の習慣を改善することも有用 過食や過度なダイエット、食べすぎ(ドカ食い)、早食いなどの悪い食習慣を続けていると、膵臓が過敏に反応してインスリンが過剰に分泌されてしまい、結果として血糖値スパイク、さらには低血糖を起こす危険性が高くなります。 そこで、自身のこれまでの食行動を見直して食事や間食の摂りかたを工夫することが身近な予防策になります。 低血糖を防ぐために、食生活の改善点を以下にまとめました。グリセミック・インデックス(glycemic index:GI)に関しては、食品ごとに食後の血糖値上昇度を示しています。具体的には、基準食(ブドウ糖、白米、食パンなど)を摂取した後の血糖値の上昇率を100とした場合、その基準に対して各食品を同量摂取したときの血糖値上昇率のことをいいます。高GI値食品(GI値70以上)、中GI値食品(同56~69)、低GI値食品(同55以下)が目安となります。 普段の食事を見直して、GI値が低い食品に置き換えるという工夫もできます。意外ですが、夜間低血糖をはじめ血糖値が低い状態を放置しないためには間食も重要な対策になります。間食する際は、GI値を参考にして食品を選択することも方策といえます。 雨宮さんは、「食行動の習慣を改めることで血糖値を急激に上げないこと、血糖値の低い状態を放置しないよう心がけることにより膵臓をいたわってあげることが、血糖値スパイクや低血糖を防ぐこと、健康につながります」と強調しています。 写真:千代田国際クリニックの医療スタッフによる手作りの低GI値食品「ごまプリン」 ごまは、食物繊維が豊富でGI値が低く、ゼラチンは動物性蛋白質です。勉強会でクリニックのスタッフが参加者にふるまった、手作りのごまプリンは血糖値を上昇させない食品です。砂糖の代わりにてんさい糖を用いています。 低血糖を予防するための食事の摂りかた 早食い、ドカ食いをしない 早食い、ドカ食いはインスリンの過剰分泌をひきおこし、血糖値スパイクの原因になる。 口に入れたら箸を置く、スプーンではなく箸を使う、利き手でない方で食べるなど、ゆっくり食べる工夫をする。 食物繊維から摂る 食物繊維は消化に時間がかかる。例えば、サラダから食べはじめると満腹感が増す。 タンパク質を多めに摂る 肉や魚を食べるときには、付け合せのソースなどに注意する。 糖質を減らした分、足りないと思ったら、ゆで卵を追加する。 炭水化物(糖質)は最後に摂る 消化に時間がかかり、血糖値はゆるやかに上昇するので、おかずを3分の2食べてからご飯を摂取する。糖質の多いおかずは注意する。 締めのラーメン:腹6分目で、小ラーメンをゆっくり、味わって食べるのならOK。 低GI食品に置き換える GI:glycemic index(グリセミック・インデックス)。食後血糖値の上昇度を示す。GI値が高いものほど血糖値を上げやすい。つまり、血糖値スパイクを起こしやすい。 GI値からカレーライスを工夫:白米を玄米、ジャガイモをレンコン、ニンジンをキノコに。 提供:千代田国際クリニック・雨宮久仁子さん ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー
線維筋痛症は、全身にわたる痛みに加えて多様な病態が複雑に絡み合うので重症化しやすく、治療に難渋すると言われています。永田勝太郎医師は、多くの線維筋痛症患者さんにおいて低血圧や低血糖になりやすいことを指摘しています。低血糖に関しては、食後に血糖値が乱高下する「血糖値スパイク」に注意すべきと警鐘を鳴らしました。 目次 永田勝太郎医師が低血糖に陥らない食生活の改善策を解説 線維筋痛症患者さんは低血圧や起立性低血圧になりやすい 心臓のポンプ機能の低下要因となる低血糖に着目 膵臓の過敏反応によるインスリンの過剰分泌に注意 永田勝太郎医師が低血糖に陥らない食生活の改善策を解説 歌手レディ・ガガさんが活動休止を宣言した理由で注目されている線維筋痛症は、全身にわたる痛みに加えて多様な病態が複雑に絡み合うので重症化しやすく、治療に難渋すると言われています。最近、千代田国際クリニック(東京都)院長の永田勝太郎医師は、同クリニックに通院する線維筋痛症患者さん数百例について調べた結果から、多くの患者さんにおいて低血圧や低血糖になりやすいことを指摘しています。低血糖に関しては、食後に血糖値が乱高下する「血糖値スパイク」に注意すべきと警鐘を鳴らしました(2018年2月3日開催の千代田国際クリニック・「痛み」患者さんのための音楽・食事療法の勉強会より)。 写真:線維筋痛症患者さんの勉強会で、低血圧と低血糖への注意を促す永田勝太郎医師 線維筋痛症患者さんは低血圧や起立性低血圧になりやすい 線維筋痛症は広範囲にわたる慢性疼痛だけではなく、不眠やいらいら、慢性疲労などさまざまな合併症を伴うケースが多いのですが、治療法は確立していません。そこで、患者さんのQOLを良好に保つ鍵を探るために、永田医師は千代田国際クリニックの線維筋痛症患者さん約400人を対象に自律神経機能検査のヘッドアップティルト試験を行い、寝た状態(臥位:がい)と立った状態(立位)においてそれぞれ血圧を測定しました。 その結果、低血圧と起立性低血圧の患者さんの割合が約87%を占めていることがわかりました。また、起立性低血圧と判定された患者さんの多くは、立った状態における血圧低下度が顕著なことが明らかになりました。 心臓のポンプ機能の低下要因となる低血糖に着目 千代田国際クリニックで線維筋痛症患者さんにヘッドアップティルト試験を実施した結果から、線維筋痛症の患者さんは血圧が低下しやすいという知見が得られました。永田医師は、要因については心臓の収縮力が弱いこと(ポンプ機能の低下)、末梢の血行動態が不良なことを指摘しています。 心臓のポンプ機能の低下に関しては、心拍出量は健康な人では毎分3.2リットル程度といわれています。それに対し、クリニックの線維筋痛症患者さんにおける検討では2.5リットル以下が多いとのことです。永田医師によると、線維筋痛症患者さんで心臓のポンプ機能低下を来たす理由としては、自律神経系を持続的に刺激しているために心筋が疲弊することと、心臓へのエネルギー源として血糖から合成されるアデノシン3リン酸(ATP)が低血糖状態により供給不足することが考えられるとのことです。 膵臓の過敏反応によるインスリンの過剰分泌に注意 さらに、クリニックの患者さんを対象に「FreeStyle リブレ Pro」を用いて24時間14日間にわたり血糖値を持続的に測定した結果からは、線維筋痛症患者さんでは糖尿病患者さんに比べて血糖値が乱高下する「血糖値スパイク」が多く見られました。実際、食後に血糖値が急上昇し、その後は急降下して低血糖状態になる線維筋痛症患者さんが多く存在しました。また、夜間に低血糖を来たす患者さんも少なくなかったとのことです。 夜間の低血糖に関しては、血糖値を上昇させるために交感神経系が優位になりますので、不眠や夜間のパニックを起こしてしまうことに注意が必要です。 永田医師は「私のクリニックでは、線維筋痛症患者さんで血糖値の異常がよく見られました。血糖値スパイクに陥るような食行動習慣を続けていると、膵臓が過敏に反応するようになることでインスリンが過剰に分泌されるようになりますので、結果的に低血糖になってしまいます。血糖コントロールに注意して低血糖に陥らないためには、膵臓を過敏に反応させず、いたわってあげることが重要になります。自身のこれまでの食行動を見直したうえで食生活の習慣を改善することによりQOLを向上させられる可能性があります」と重要視しています。 ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー
線維筋痛症などの慢性の痛みを抱えていると、家に閉じこもって体を動かさなくなりがち。ただし、動かさずにしておくと筋肉がこわばってしまい 、痛みが一層ひどくなる危険性があります。そんな悪循環に陥らないためには運動や体操が効果的です。NPO法人線維筋痛症友の会理事長の橋本裕子さんに、家庭で気軽にできるリハビリテーション(以下、リハビリ)を紹介してもらいました(2017年12月24日開催の線維筋痛症友の会リハビリ講習会・交流会より)。 写真:線維筋痛症友の会リハビリ講習会・交流会の様子 長田病院(神奈川県横浜市港南区)リハビリテーション室室長の佐治周平氏(写真)らが講師を務めて、線維筋痛症の患者さんにリハビリを指導。 目次 何もしないと筋肉がこわばって疼痛が悪化 コツは「リラックス」と「できる範囲で体操」 胸全体と肩甲骨を動かすことを意識 右腕・左足あるいは左腕・右足を同時に伸ばして上げる複合体操 リラックス呼吸で脱力すると痛みにも効果的 線維筋痛症や慢性疼痛の痛みがある時には動かさないほうがいいか? 何もしないと筋肉がこわばって疼痛が悪化 国際疼痛学会や日本神経治療学会、日本ペインクリニック学会などは、慢性疼痛に対して薬物療法と非薬物療法を組み合わせた集学的治療を推奨しています。非薬物療法は、神経ブロックのほか、リハビリなどの運動療法、温熱療法、心理療法などがあります。 運動療法に関しては家庭で一人でも行えますが、痛みのつらさで体を動かすことをためらいがちになります。ただし、何もしないと筋肉がこわばってしまい、かえって痛みが悪化するケースがよく見られます。 そこで、患者会の線維筋痛症友の会はリハビリの一環として運動療法を推奨しています。実際、患者会はリハビリ体操の講習会を定期的に開催しています。 コツは「リラックス」と「できる範囲で体操」 線維筋痛症友の会が推奨しているリハビリ体操は家庭で座りながら気軽にできるものです。具体的には、リラックスのポーズ、胸と肩甲骨を動かす体操、足の体操などがあります。今回、リハビリ体操を紹介してくれた患者会・理事長の橋本裕子さんは、運動療法をうまくできるコツとして「リラックス」と「できる範囲で体操」を挙げています。 まず、リラックスのポーズは、(1)親指を出す(2)手を表に開いて自然に息を吸う(3)手を閉じて自然に息を吐く―の順で行います(写真1)。 写真1:リラックスのポーズ 痛いときは親指を「グー」のように握って我慢しがちですが、リラックスの際は指を開くことをイメージして、手を外に向けて胸を広げて息を吸い、手を内に向けた際に息を吐くようにします。 胸全体と肩甲骨を動かすことを意識 線維筋痛症患者さんの多くは、首から背中の肩甲骨にかけて痛みを訴えます。そこで、胸や肩甲骨を動かすリハビリ体操が効果的です。体操は、(1)衣服の袖付けの縫い目をつまんで脇を締める(2)背中の真ん中に肩甲骨を寄せることをイメージして胸を張るようにする―の順を行います(写真2)。 写真2:胸や肩甲骨を動かす体操 手や腕を動かすというよりも、背中の肩甲骨と胸全体を動かします。胸郭を広げるイメージを持つと、呼吸を促してリラックスできることも期待できます。 足の体操に関しては、股関節や膝関節、足首をほぐすように動かす運動や、足のつま先もしくはかかとを上げるだけの簡単な体操があります(写真3)。 写真3:足のつま先やかかとを上げる体操 コツとしては、動かす足と反対側の腿や足の裏を押すイメージです。 右腕・左足あるいは左腕・右足を同時に伸ばして上げる複合体操 難易度が高いのですが、全身を使った複合体操があります。右腕をまっすぐ伸ばすと同時に左足を伸ばして上げる、あるいは左腕と右足で同様に伸ばして上げます(写真4)。 腕と足を伸ばして上げる際にはお腹をぐっと締めるイメージを持ちます。そうすることで、呼吸を促してリラックスできる以外に、腹斜筋や腸腰筋を動かすので体幹も鍛えられるというメリットもあります。ただ、体全体を使う体操なので、腰を痛めている方などは、無理をしないようにしましょう。 写真4:右手と左足を上げて伸ばす複合体操 お腹をぐっと締めて、上げる足の反対側の大腿後ろ側を押すイメージです。全身を使うので、どこか痛いときは無理して体を動かさないようにします。 リラックス呼吸で脱力すると痛みにも効果的 リハビリ体操の際に呼吸を促すことが推奨されています。橋本さんによると、脱力が意外と難しいようです。そこで、呼吸することでリラックスして、力を入れ過ぎることを防ぐことができます。さらには、痛みを和らげることにもつながるとのことです。 運動療法は個人で行えるものですが、痛みがつらいので運動や体操をためらいがちです。ただし、橋本さんは「痛い部位周辺の筋肉がこわばってしまうと、疼痛の症状が悪化しやすくなります」と強調しています。ただし、痛みを我慢してまで体を動かさないよう気をつけましょう。 自身の症状や体調に応じて、無理をしない範囲でリハビリ体操のメニューを選んで継続していくことが重要です。 クイズ:線維筋痛症や慢性疼痛の痛みがある時には動かさないほうがいいか? 答え:体を動かしたほうが良い(急性の痛み*を除く) 日常で気を付ける運動のポイント ●急性の痛みのときにはむやみに動かさない ●脱力が意外に難しいので、リラックスしてから動かす ●無理のない範囲の運動でかまわない(横になっていても運動はできる) ●「1回の運動で少しずつ、1日に何回も」がよい→「運動は足し算」 *捻挫や打撲などの熱っぽさがある場合、腫れている場合、下痢など急な内臓の痛みなど 提供:線維筋痛症友の会理事長・橋本裕子さん ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 公開日:2018年2月26日
線維筋痛症と診断されるまでには、症状が似ているほかの病気と見分ける「鑑別診断」が必要となります。もっとも多いのは「関節リウマチ」です。また、線維筋痛症は発症する主なきっかけのひとつに、強いストレスなどの心理的な要因があると考えられています。同様に、身体症状の度合いが心理状態に左右される心身症や、ストレスと関係して発症する数多くの病気と、似た症状がみられます。線維筋痛症と共通する症状に思い当たる方は、主治医に相談してみましょう。 目次 リウマチ性疾患・整形外科的疾患 もっとも多く診断されているのは「関節リウマチ」 症状が似ている主な整形外科的疾患 心療内科的疾患・神経内科的疾患 合併することが多い、心身症やストレスと関係する病気 原因不明の難病と似た症状も 精神疾患・その他の疾患 体の痛みが現れることがある精神疾患 特に類似している「慢性疲労症候群」 リウマチ性疾患・整形外科的疾患 線維筋痛症であると診断するには、症状が似ているほかの病気と見分ける「鑑別診断」が必要となります。さまざまな症状がある線維筋痛症は、見分けるべき病気の数も多く、それらはいくつかの種類に分類されます。これから挙げる病気の診断を受けていて、線維筋痛症と共通する症状に思い当たるふしがある場合は、主治医に相談しましょう。 もっとも多く診断されているのは「関節リウマチ」 リウマチ性の病気とは、複数の部位に同時に炎症などの症状が現れる、原因不明の膠原病(こうげんびょう)に分類されるものを指します。線維筋痛症を引き起こすきっかけになることや、合併症として一緒に起きることがあります。 症状が似ている主なリウマチ性疾患 ●関節リウマチ(RA) 30~50代の女性に多い病気で、関節に痛みが生じます。線維筋痛症とは異なり、関節の腫れが手の指から始まり、肘や膝などに広がっていきます。やがて、関節の軟骨や骨の破壊に至ります。線維筋痛症の診断がつくまでの間、関節リウマチであると診断されているケースがもっとも多いようです。 ●シェーグレン症候群 40代以上の女性に多い病気で、線維筋痛症と同じくドライアイやドライマウス、皮膚の乾燥などが生じます。唾液腺の造影検査や、唾液量のテストなどで診断されることによって、線維筋痛症と区別されます。 ●脊椎関節炎 10代後半から40代前半の男性での発症が多い病気です。強直性脊椎炎や乾癬性関節炎、腸炎性関節炎などの総称で、背中や腰に痛みが生じます。また、手足に関節炎が起きることもあります。朝のこわばりの有無や、年齢、家族歴、乾癬の有無などを確かめる基準に基づいて診断され、線維筋痛症と区別されます。 ●SAPHO症候群 上述の脊椎関節炎に、皮膚や骨などの症状を伴う病気の総称です。主な症状の英語名であるSynovitis(滑膜炎)、Acne(ざ瘡)、Pustulosis(膿疱症)、Hyperostosis(骨化過剰)、Osteitis(骨炎)の頭文字が名前の由来となっています。これらの症状は、線維筋痛症ではみられません。 そのほかのリウマチ性疾患または分類が難しい病気 ●多発性筋炎・皮膚筋炎 ●リウマチ性多発筋痛症 ●間質性膀胱炎 ●過敏性腸炎 ●全身性エリテマトーデス(SLE) …など 整形外科的疾患の症状が、線維筋痛症で増強されることも 整形外科疾患という呼び名は、骨や筋肉、関節などに、痛みやしびれなど症状が現れる病気の総称として用いられます。リウマチ性疾患と同じく、線維筋痛症の発症の引き金や合併症となるのに加え、線維筋痛症が整形外科的疾患の症状が引き起こしたり、強めたりすることもあります。 症状がみられる部位は頚部(首)、腰部、手指、脊椎などで、病気の種類は部位ごとに多岐にわたります。主にレントゲン写真の撮影などの画像検査を行い、線維筋痛症と見分けられていきます。 症状が似ている主な整形外科的疾患 【頚部】 ●頚椎捻挫 ●頚椎症(脊髄症、神経根症) ●頚椎後縦靭帯骨化症 ●頚肩腕症候群 ●下垂肩症候群 ●胸郭出口症候群 ●頚椎アライトメント異常(ストレートネック) 【腰部】 ●腰痛症 ●腰部脊椎管狭窄 ●腰椎椎間板ヘルニア症 【手指】 ●全身性変形性関節症 ●カウザルギー ●反射性交感神経ジストロフィー 【脊椎関節炎】 ●変形性脊椎症症 ●骨粗鬆症 ●骨軟化症 …など 心療内科的疾患・神経内科的疾患 全身の痛みは、線維筋痛症を語るうえで欠かせません。しかし、痛みに限らず、多くの症状が同時に現れるのも、線維筋痛症の特徴と言えます。それらの中には、心療内科や、神経内科などで扱われる症状もあります。見分けるための鑑別診断が必要となる場合もあるので、治療を受けても改善がみられないときは、主治医に相談することが勧められます。 合併することが多い、心身症やストレスと関係する病気 線維筋痛症は、発症する主なきっかけのひとつに、強いストレスなどの心理的な要因があると考えられています。同様に、身体症状の度合いが心理状態に左右される心身症や、ストレスと関係して発症する数多くの病気と、似た症状がみられます。これらは、線維筋痛症の合併症として起きていることも多いようです。 症状が似ている主な心療内科的疾患 【消化器領域】 ●過敏性腸症候群(IBS) ●機能性ディスペプシア(FD) ●胃食道逆流症(GERD) 【呼吸器・循環器系】 ●胸筋痛症候群 ●睡眠時無呼吸症候群(SAS) ●過換気症候群(HVS) 【神経内科領域】 ●緊張型頭痛、片頭痛(偏頭痛) ●むずむず脚症候群 【婦人科領域】 ●更年期障害 ●月経関連症状(月経困難症など) ●慢性骨盤疼痛性障害(CPP) 【泌尿器領域】 ●過活動膀胱(OAB) ●間質性膀胱炎(IC) 【耳鼻科領域】 ●眩暈症(めまいしょう) ●耳鳴症 ●耳管開放症、耳管閉鎖症 ●味覚異常 【歯科・口腔外科系】 ●顎関節症 ●舌痛症 ●口腔乾燥症 ●歯周炎、歯槽炎 【眼科領域】 ●眼精疲労 ●羞明症 ●眼乾燥症 ●眼筋痙攣、眼瞼下垂 …など 原因不明の難病と似た症状も 神経のなんらかの異常による、運動や感覚の障害が、線維筋痛症で起きることがあります。 具体的な神経症状は、手足のしびれ、ピリピリした痛み、視力障害、筋力低下、平衡感覚の異常などです。それらと似た症状がみられる神経内科的疾患は、原因不明の難病が多く、国が治療費を負担する対象となっているものもあります。 症状が似ている主な神経内科的疾患 ●慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP) 手足の筋力低下に伴って、ものをつかめなくなる、転びやすくなるといったことが起きるほか、手足のしびれや、ピリピリとした痛みが起きることもある。2ヵ月以上の間にわたり、段階的に進行していくのが特徴。電気生理学的検査(神経伝道検査)などが行われる。 ●アイザックス症候群 線維筋痛症でもみられる、全身の筋肉がピクピクとこまかく動く、こむらがえりを起こす、手が開きにくいといった症状が現れる。ただし、一般的には全身の痛みはみられないという点において、線維筋痛症とは異なる。 ●多発性硬化症(MS) どの部位の神経に異常がみられるかに応じて、視力が低下する、手足がしびれる、食べ物を飲み込みにくくなる、しゃべりにくくなるなどの症状が現れる。40代以下の若い世代によくみられ、男性より女性に多い。 ●重症筋無力症(MG) 全身の力が抜け、疲れやすくなる病気。まぶたが垂れ下がる眼瞼下垂や、ものが二重に見える複視といった、目に関する症状も起きる。20~40代の女性に多く、男性の場合は50歳以上でよくみられる。朝は症状が比較的軽く、夕方になるにつれて重くなる。ただし、全身の痛みを感じることはきわめて少ない。 …など 精神疾患・その他の疾患 精神疾患は、一般的に「心の病気」というイメージを強くもたれていますが、体の痛みが症状として現れることがあり、その点において線維筋痛症と共通しています。気になる症状がある場合は早めに主治医に相談しましょう。 身体の痛みが現れることがある精神疾患 精神疾患の中には、線維筋痛症と同じように痛みを感じるものがあり、合併していることもあります。主な精神疾患として下記が挙げられますが、高齢の線維筋痛症患者であれば、認知症と合併していることもあります。その場合は、痛みがあっても訴えない、あるいは、ほかの症状を痛みとして訴えるというようなことがあります。 症状が似ている精神疾患 ●うつ病 気分が落ち込む、意欲が低下するといった心理面での症状のほかに、頭や首、肩、背中、腰など、体のさまざまな部位に痛みが現れます。痛みの重症度よりも、うつ状態となったのは痛みが起きる前なのか、後なのかということが、鑑別診断のポイントとなります。線維筋痛症と合併していることもあり、たとえうつ病の診断基準を満たしていたとしても、その痛みがうつ病によるものだと決めつけることはできません。 ●統合失調症 幻視や幻聴、妄想などの症状が現れる病気です。統合失調症の症状として、強い痛みが起きることはほとんどないため、診断基準を満たしている場合は、妄想や体感異常の一部として、痛みを感じている可能性が考えられます。 ●心気症、ヒステリー どちらの疾患も、身体検査では異常が見つからないにもかかわらず、痛みを感じるようになります。心気症は、病気や死への強い恐怖感から起きることが多いようです。ヒステリーは、人が見ている前で症状が悪化する、あるいは痛みによって一見得をしているように見える、いわゆる「疾病利得」があるなどの特徴をもつことが多いです。 特に類似している「慢性疲労症候群」 線維筋痛症と症状が似ている、あるいは合併していることがある状態には、はっきりと「○○の疾患」と断定しづらいものもあります。その中でも特に慢性疲労症候群は、線維筋痛症と同じ機能性身体症候群に分類されるものであり、鑑別が必要な疾患として第一に挙げられます。 症状が似ているその他の疾患 ●慢性疲労症候群 痛みや疲労、倦怠感という線維筋痛症と同じ症状がみられ、合併していることも多いと考えられています。疲労や倦怠感は線維筋痛症より程度が重い反面、激痛はなく、痛みが起こる部位も関節や骨格筋に限られることが多いです。そのほか、微熱やのどの炎症、頚部リンパ節の腫れなどの、線維筋痛症ではあまりみられない症状も現れます。 ●脳脊髄液減少症 脳や脊髄を満たしている脳脊髄液が漏れ出ることにより、頭や首の痛み、倦怠感のほか、めまい、耳鳴り、視覚障害などの症状が現れます。頭部MRIなどの画像検査を行い、その結果から診断されます。 ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 家庭で気軽にできる疼痛リハビリ体操
線維筋痛症は、全身を激しい痛みが襲う原因不明の病気です。線維筋痛症の痛みは激しく、3ヵ月以上も続くため、病気の程度によっては寝床から起き上がることができないケースもあります。また、疲労感やうつ病などの精神症状、痛みによる不眠、ドライマウスなど、痛みのほかにもさまざまな症状を伴います。発症するきっかけや、性別や年齢別での患者数の違いをご紹介します。 目次 線維筋痛症とは、全身を激しい痛みが襲う原因不明の病気 発症のきっかけは外傷やストレスなど 患者さんの多くは女性だが、その理由も不明 線維筋痛症セルフチェック 筋肉・骨格に関わる症状 筋肉・骨格と直接はかかわりがない症状 その他の症状 疼痛や圧痛点だけでは診断できない。線維筋痛症の診断基準 米国リウマチ学会診断予備基準(2010)の登場 それでもまだ残る、線維筋痛症の診断における問題点 線維筋痛症とは、全身を激しい痛みが襲う、原因不明の病気 肩こりや筋肉痛など、体の特定の部位に痛みを感じることは、日常生活を送るうえで決して珍しくありません。一時的な痛みであれば、安静にしたり、湿布薬の力を借りたりすることで、治まるようになるでしょう。それに対して、全身を激痛が襲う「線維筋痛症」(せんいきんつうしょう)という病気では、そのような対処が通用しません。 線維筋痛症の痛みは激しく、3ヵ月以上も続くため、病気の程度によっては寝床から起き上がることができないケースもあります。また、疲労感やうつ病などの精神症状、痛みによる不眠、ドライマウスなど、痛みのほかにもさまざまな症状を伴います。 線維筋痛症は、なぜ発症するのでしょうか。その原因は、いまだ不明のままとなっています。 発症のきっかけは外傷やストレスなど 線維筋痛症は原因が不明なことに加え、一般的にも、その認知度は高いとは言えません。そのため、痛みなどの症状に苦しむ患者さんがいろいろな診療科をまわる「ドクターショッピング」の状態になり、診断までに時間がかかってしまうことが多いようです。 はっきりした原因はわかっていないものの、細菌やウイルスなどから体を守る免疫と呼ばれる仕組みや、神経のはたらきなどに異常が生じることで、激しい痛みを感じるようになるということまではわかっています。また、線維筋痛症を引き起こすきっかけも、ある程度明らかにされていて、次のように分類することができます。 線維筋痛症を発症する主なきっかけ ●遺伝的な要因 親子や双子の兄弟など、近い身内に線維筋痛症の患者さんがいる場合、発症する確率が比較的高くなると考えられています。 ●外部からの要因 外傷やウイルスの感染など、体の外側から起きたできごとが引き金となって、線維筋痛症を発症することが確認されています。また、むちうち症などの骨に関わる病気のほか、抜歯や外科手術などの治療を受けることによって引き起こされることもあります。 ●心理的な要因 精神的なストレスを抱えることも、線維筋痛症を発症するきっかけとなります。離婚や肉親との死別のほか、解雇や転職などの仕事に関すること、経済的な問題などに直面すると、大きなストレスを抱えることになり、発症しやすいようです。成年に達するまでに受けた虐待やいじめなども、きっかけとして考えられます。 …など 患者さんの多くは女性だが、その理由も不明 線維筋痛症の患者さんは、日本国内に200万人以上いると推定されています。この病気の特徴として挙げられるのが、患者さんの多くを女性が占めているということでしょう。日本では、女性が男性の4.8倍だと言われています。ただし、欧米では女性が8~9倍だと言われているため、それと比べれば男性の割合は多いです。この欧米との違いがなぜ生じているのかについても、現在のところ理由は不明のままとなっています。 年齢別で見ると、患者数がもっとも多くなるのは50歳代です。年齢とともに増えていく傾向がありますが、小児科を受診する年齢で発症が認められることもあります。 線維筋痛症セルフチェック 線維筋痛症の代表的な症状として挙げられるのが、長期にわたって続く、全身の激しい痛み。しかし、実際にはそのほかにもさまざまな症状が現れます。 早期発見のためにも、痛みのほかに症状がないか再度チェックリストで確認をして、医師に話してみましょう。 筋肉・骨格に関わる症状 ●疼痛(とうつう:痛み) 線維筋痛症の患者さんの90%以上が、3ヵ月以上続く全身の痛みを訴えています。 また、関節痛や筋肉痛のほかに、頭痛や胸痛、肩の痛み、背中の痛み、胃のあたりの痛み、腰痛、膝(ひざ)の痛みなど、各部位の痛みが現れることも多いようです。 ●圧痛(あっつう) 何もしていない状態では痛みを感じないものの、指で圧迫するなど、ある程度の力を加えると感じる強い痛みを、圧痛と言います。 圧痛を感じる部位は圧痛点と呼ばれ、線維筋痛症の診断をするうえで、その場所と数が重要なポイントとなります。 ●こわばり 手足が硬く、力が入らなくなって、動かしにくくなります。 特に朝に発生することが多く、痛みとともに現れることで、目が覚めても起き上がることができないケースもあります。 ただし、同じ症状が現れる関節リウマチほど長時間は続かず、1時間以内に治まることが多いです。 筋肉・骨格と直接はかかわりがない症状 ●疲労感・疲れ 全身の痛みと同様、線維筋痛症の患者さんの90%以上に現れる症状です。 症状が軽い場合は仕事をすることもできますが、重い場合は寝たきりの状態になってしまいます。 ●睡眠障害 痛みによってなかなか眠りにつけない、夜中や早朝に目が覚めてしまうなど、熟睡できない状態となります。 痛みで眠れず、その結果として生じるストレスや疲れによって痛みを感じやすくなるというような、悪いサイクルを繰り返すこともあります。 ●抑うつ状態 「誰も痛みを理解してくれない」「疲れて動けないのに怠けていると思われる」などと考えることが精神的なストレスとなり、落ち込んだ気分になります。 痛みが悪化してと抑うつ状態になると、より痛みを感じるようになるため、さらに落ち込むという負のサイクルに陥ることもあります。 線維筋痛症の症状は多岐にわたるため、これらのほかにも多くの症状があります。 痛みや圧痛とともに次の症状が当てはまる場合は、やはり線維筋痛症を疑ってみることが勧められます。 その他の症状 ●皮膚の乾燥 ●頻尿 ●思考・記憶障害 ●手足のしびれ ●耳鳴り ●めまい ●息切れ ●筋力低下 ●ドライマウス ●ドライアイ ●吐き気 ●下痢 ●神経質/神経過敏 ●不安感 ●もの忘れ ●集中力の低下 疼痛や圧痛点だけでは診断できない。線維筋痛症の診断基準 線維筋痛症には、診断のための基準となるものが、近年まで存在しませんでした。そのため日本では多くの場合、1990年に米国で定められた「米国リウマチ学会分類基準(1990)」が診断に用いられてきました。疼痛と圧痛点という2つの観点から線維筋痛症を確かめるこの基準は、有用な反面、次のような問題点も含んでいます。 ■米国リウマチ学会分類基準(1990)の問題点 ●線維筋痛症はさまざまな身体症状が現れる病気であるため、疼痛と圧痛点だけでは、全ての線維筋痛症の患者さんを診断し切れていない可能性があります。 ●圧痛点での診断には多くの時間が必要であり、圧痛点の使用が広く浸透していない可能性があります。 …など 米国リウマチ学会診断予備基準(2010)の登場 上記の問題点を踏まえ、2010年に米国で新たに「米国リウマチ学会診断予備基準(2010)」が、提唱されました。この基準では、身体症状も考慮に入れられていて、米国リウマチ学会分類基準(1990)で懸念されていた前述の問題のいくつかが解決されることとなりました。 米国リウマチ学会の線維筋痛症診断予備基準(2010) ※日本人を対象に一部改変 (1)過去1週間における、下記19ヵ所のうち疼痛を感じる部位の数 (2)次の症状の度合い ●疲労感がある…疲れを感じる ●起床時に不快感がある…起きたときに不快感がある ●認知症状がある…時間や場所を忘れやすい (3)次の身体症状の有無 ●疲労感・疲れ ●眼や口が乾く ●不眠 ●しびれ・刺痛 ●筋肉痛 ●筋力低下 ●息切れ ●めまい ●よく物を忘れる・集中できない …など ※身体症状の数については各施設にゆだねられる 下記の条件1~3をすべて満たす場合、線維筋痛症と診断される 条件1:(1)の疼痛と(2)(3)の症状の度合いが、一定基準を超える 条件2:症状が少なくとも3ヵ月間続く 条件3:疼痛は、ほかの病気によるものではない それでもまだ残る、線維筋痛症の診断における問題点 より正確な診断が可能になった米国リウマチ学会診断予備基準(2010)ですが、それでもまだ問題は残っています。そのひとつとして挙げられるのが、すべてが自己申告であるということ。これはすなわち、患者さんの申告によって、病気が作り出されてしまう可能性があることを意味します。また、この基準を検証する際に、炎症を伴うリウマチ性の病気や、心療内科や精神科で診断される病気が比較対象とされなかったこと、男性や小児の患者さんが検証の対象に含まれていなかったことなども、完全な基準とはいえない要因とされます。 これらの問題から、米国リウマチ学会診断予備基準(2010)の診断だけではなく、圧痛点や、筋の把握痛(筋肉をつかんだ際に感じる痛み)に対する反応の有無や程度も、補助的に確かめることが望ましいといえます。いずれにしても、線維筋痛症が疑われる場合は、専門医に診てもらう必要があるでしょう。 ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 線維筋痛症の治療法は?薬物療法と非薬物療法
線維筋痛症の治療の中心は、全身の痛みを抑えることです。治療法には「薬物療法」と「非薬物療法」があります。線維筋痛症の薬物療法に用いられることが多い薬と、その特徴について紹介します。 目次 線維筋痛症の薬物療法 薬物療法以外の線維筋痛症の治療法 統合医療 精神療法 線維筋痛症の薬物療法に用いられることが多い薬 線維筋痛症は原因不明の病気なので、全身の痛みをはじめとする各症状を抑えることが、治療の中心となります。 線維筋痛症の治療には、薬を用いる「薬物療法」と、精神療法や運動療法などの「非薬物療法」の2つがあり、両方をあわせて行うことが勧められています。 ここでは、線維筋痛症の薬物療法に用いられることが多い薬と、その特徴について紹介します。 これらのほかにも、症状に応じて抗不安薬や睡眠導入薬、医療用麻薬などが用いられることがあります。 線維筋痛症の薬 種類 薬剤名 特徴 抗うつ薬 三環系抗うつ薬(TCA) 古くからうつ病の治療に用いられてきた飲み薬。痛みを抑え、線維筋痛症の症状のひとつである、気持ちの落ち込みを改善させる効果をもちます。 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI) 痛みを抑える効果と、気持ちの落ち込みを改善させる効果がある飲み薬。三環系抗うつ薬(TCA)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)と比べると、痛みを抑える効果は弱いとされています。 セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI) 痛みを抑える薬と、気持ちの落ち込みを改善させる効果がある飲み薬。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)より、痛みを抑える効果は強いです。 神経性疼痛緩和薬 プレガバリン 糖尿病による神経障害や、帯状疱疹による神経痛の治療に用いられる飲み薬。米国では線維筋痛症の治療薬として認められていて、全身の痛みを抑える働きがあるとされています。日本では、線維筋痛症の治療薬としてはまだ承認されていません(2012年4月現在)。 抗けいれん薬 ガバペンチン プレガバリンと同じように作用する薬。ただし、同じ程度の効果を期待するには、プレガバリンの3~4倍の量を飲む必要があります。日本では、線維筋痛症の治療薬としてはまだ承認されていません(2012年4月現在)。 鎮痛薬 ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液 痛みを抑える効果がある飲み薬および注射薬。帯状疱疹による神経痛や、腰痛の治療などにも用いられます。線維筋痛症の治療薬として使用する場合は保険が適用されません。 薬物療法以外の線維筋痛症の治療法 線維筋痛症の治療において、主に痛みや線維筋痛症のさまざまな症状を改善させる薬物療法が行われますが、医師と相談のうえ、ほかの治療法と併用されることがあります。薬物療法以外の治療法という意味で、それらは「非薬物療法」と総称されます。 統合医療 非薬物療法の中でも、日本で昔から実践されてきて、西洋医学と統合して行われるものは特に、「統合医療」と呼ばれます。次に挙げる主な手法のほかにも、野菜中心の食事をする食事療法や、お灸などが行われることもあります。 ●鍼治療 長い歴史を誇る東洋医学の手法。全身の痛みのほかに、頭痛や睡眠、便通の改善も期待できます。ただし、治療に慣れると効きづらくなってしまいます。治療者の立場では、刺激するツボや、使用する鍼の長さや太さがはっきりと記載されていない医学論文が多いため、治療を再現できないということが問題となります。 ●運動療法 適度な有酸素運動を長年にわたって続けることで、痛みが軽減され、圧痛点が少なくなると考えられています。後述する認知行動療法(CBT)との併用で、痛みのコントロールに成功した例もあります。ゆるやかな動きの太極拳でも、効果が得られたという報告もされています。 ●温熱療法 関節リウマチや、慢性的な腰痛などの治療として知られる治療法。薬物療法との併用も行われ、サウナが利用されることもあります。全身の痛みだけでなく、線維筋痛症の多岐にわたる症状や合併症を抑える効果が期待されます。 …など 精神療法 医師や臨床心理士などによるカウンセリングを通して心にはたらきかけ、症状を軽減させる手法です。心理療法とも呼ばれます。線維筋痛症の場合、次に挙げる手法が、痛み、睡眠障害や抑うつ状態などの症状を軽減するのに役立つとされています。 ●認知行動療法(CBT) パターン化された、ものごとに対する受け止め方や考え方を修正することで、気持ちや行動をうまくコントロールできるようにする治療法です。痛みに対して否定的な思い込みをしている人には、「痛みがあっても日常に楽しみは見出せる」というような、肯定的な考えをもってもらうことを目指します。抑うつ症状と痛みが軽減されたという報告もされています。ただし、この手法を行っている施設は少なく、また1回ごとの治療時間が長いという難点もあります。 ●オペラント条件付け行動療法(OBT) 「人間は、望ましい結果が得られた行動を繰り返すようになる」という原理に基づいて行われる治療法です。痛みを訴えるなどの痛みの存在を周囲に伝える行動を減らすことによって、線維筋痛症の症状として起きる痛みのコントロールを目指します。痛みを感じることや、受診の回数を減らせたという報告もされています。 …など ■関連記事 痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー 線維筋痛症と症状が似ている病気