疾患・特集

全身の痛みを和らげる治療の最前線

線維筋痛症は全身に激しい痛みが起こるだけでなく、疲労やうつ状態などさまざまな症状を伴います。治療に関しては、医師が診療の際に参考にする線維筋痛症診療ガイドライン2017年版で勧められている内容も踏まえて、東京リウマチ・ペインクリニック院長の岡寛先生に最前線について聞きました。

痛みを抑える薬やうつ病の治療薬などを用いて治療を行う


画像はイメージです

線維筋痛症は、脳の痛みを感じる神経の過剰なはたらきや、痛みを抑える神経のはたらきが低下することで発症するのではないかと考えられています。
そこで、神経障害による痛みの治療に用いられる薬や脳内のノルアドレナリンとセロトニンといった神経に欠かせない物質の量を増やす効果のある抗うつ薬のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)など痛みを和らげる作用がある薬が用いられます。
線維筋痛症の標準的な治療を行うために、医師が参照するガイドライン(線維筋痛症診療ガイドライン2017年版)によると、神経障害性疼痛治療薬のプレガバリン(リリカ)、抗うつ薬では、三環系抗うつ薬で末梢性神経障害性疼痛に保険適用があるアミトリプチリン(トリプタノール)、SNRIのデュロキセチン(サインバルタ)、弱オピオイド(非麻薬性)薬のトラマドール(トラマール)、トラマドール-アセトアミノフェン配合薬(トラムセット)などの治療薬があります(表)。

表:線維筋痛症診療ガイドライン2017で推奨される薬剤

薬剤分類 薬剤の種類 薬剤(一般名) 薬剤(製品名) ガイドライン推奨度
抗うつ薬 セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI) デュロキセチン サインバルタ 実施*1
ミルナシプラン*3 トレドミン 提案*2
ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA) ミルタザピン*3 リフレックス 提案
三環系抗うつ薬(TCA) アミトリプチリン トリプタノール 提案
神経性疼痛緩和薬 神経障害性疼痛緩和薬 プレガバリン リリカ 実施
抗てんかん薬など 新世代薬 ガバペンチン*3 ガバペン 提案
レストレスレッグス(むずむず脚)症候群薬 ガバペンチンエナカルビル*3 レグナイト 提案
鎮痛薬 オピオイド(非麻薬) トラマドール トラマールOD 実施
トラマドール・アセトアミノフェン配合薬 トラムセット 実施
生物組織抽出物 ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液 ノイロトロピン 提案
非麻薬性オピオイド治療薬 モルフィナン系オピオイド ブプレノルフィン ノルスパン 提案
  • *1 実施:治療を行うことを強く推奨する
  • *2 提案:治療を行うことを弱く推奨する
  • *3 本邦では線維筋痛症、慢性疼痛、神経障害性疼痛への保険適応なし

薬剤以外の治療に関しては、運動療法や患者教育、認知行動療法、禁煙なども奨められています。鍼灸と和温(温熱)療法がおこなわれることもあります。

参考:線維筋痛症診療ガイドライン2017年版

磁気で痛みをコントロールする機器もあります

ガイドラインでは推奨されていませんが、低侵襲の磁気疼痛治療機器に関しては研究が進められています。磁気疼痛治療器は、コイルから発生させた交番磁界を痛みの部位に照射して疼痛を緩和するというもので携帯可能な小型の機器です。
脳内での鎮痛因子のβエンドルフィンやセロトニン、神経栄養因子を産生させる作用により痛みへの効果を発揮するといわれています。
岡先生らが、難治性の線維筋痛症患者10例を対象に、自宅で1回4ヵ所、1日2回までで使用してもらい、治療効果を検討しました。
72週時における9例(10例中1例脱落)の結果を見ると、疼痛が30%改善したのは6例、そのうち50%改善は4例、さらに痛みがなくなったのは2例でした。
岡先生は「線維筋痛症は難治の病気ですが、最近は有効な治療選択肢が増えてきました。やはり早期に病気を発見して早期に治療を受けることが重要です。スクリーニングチェックもありますので、大いに活用してほしいです」と強調しています。

公開日:2018/10/05
監修:東京リウマチ・ペインクリニック院長 岡寛先生