疾患・特集

痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー

激しい痛みに悩まされる線維筋痛症や、原因不明の疲労感が長く続く慢性疲労症候群の患者さんを支援するために、線維筋痛症友の会/CFS(慢性疲労症候群)支援ネットワークの患者交流会・医療講演会が開催されました*1。患者さん、専門医、患者さんかつ医師のYou tuber、社会保険労務士から生活や仕事、社会保障で役立つ情報が紹介されました。

写真:患者交流会・医療講演会の総合討論の様子
患者交流会・医療講演会の総合討論の様子。右から、座長の小川節郎先生(日本大学医学部名誉教授、総合東京病院ペイン緩和センタ―長)、岡寛先生(東京八重洲クリニック院長、東京医科大学兼任教授 線維筋痛症友の会 顧問)、患者さんかつ医師のYoutuber・みおしん先生、線維筋痛症友の会理事長・山田章子さん、副理事長・尾下葉子さん、CFS(慢性疲労症候群)支援ネットワーク理事/社会保険労務士・安部敬太さん

線維筋痛症と慢性疲労症候群は関係性がある脳神経の病気

線維筋痛症の専門医・東京八重洲クリニック院長の岡寛先生は、患者さんが前向きになってより良い生活を送って仕事ができるようになってほしいとの思いを込めて講演しました。

先生によると、身体全体で圧痛点5ヵ所以上に慢性の痛みを訴える人は800万人以上、線維筋痛症は200万人以上、6ヵ月以上の慢性的な疲労は120万人以上といわれています。
線維筋痛症は全身の激しい痛みだけではなく疲労やうつ状態など、さまざまな症状を伴います。線維筋痛症と慢性疲労症候群の合併率は30~50%といわれています。
線維筋痛症は脳の痛みを感じる神経が過剰にはたらくことや、痛みを抑える神経のはたらきが弱いことが知られており、また慢性疲労症候群も脳の神経が関わることが知られています。線維筋痛症かつ慢性疲労症候群の患者さんの画像解析の結果、脳の帯状回というところに異常があるとの報告があり、2つの病気は関係性があると考えられています。

治療ゴールは痛みの症状を和らげて日常生活がよくなって就労・社会復帰!

線維筋痛症の治療は、痛みの症状をまず半分にして、日常生活で困難だった家事や散歩などが一つずつできるようになって社会復帰し、就労できることが目標です。悩みのタネ「痛み」を医療スタッフも理解できるように、機器で数値化して共通認識を持つよう工夫しています。
そして、うつ病と線維筋痛症は症状が違うなど、他の病気との鑑別が必要です。他の病気の治療をしないと痛みが改善しないからです。
治療は点滴や注射、飲み薬などがあります。効果、安全性、継続性、薬代の4つのポイントをもとに、患者さんに応じて治療方法を考えます。薬は、睡眠の質をよくする作用を持つ薬、生活の質に改善効果を期待できる薬、副作用が少ない薬などがあります。
患者さんは痛みと同じ頻度で疲労に悩まされています。QOL改善のために痛みと疲労どちらも治療が重要です。疲労の治療は睡眠や自律神経のバランスに改善効果が期待されるもの、抗酸化作用のあるもの、ビタミンC、還元型コエンザイムQ10などのサプリメントもあります。

新型コロナウイルス感染症に関しては、抵抗力(免疫力)が弱いと発症しやすいといわれています。ウイルスに戦うナチュラルキラー細胞(NK細胞)が注目されています。
リウマチの薬がサイトカインストーム(免疫暴走)に有効との可能性があり、現在は臨床試験で検証されています。抵抗力(免疫力)UPが重要なので注目されています。
漢方薬、プラセンタ、還元型コエンザイムQ10などの選択肢もあります。

岡 寛先生からのメッセージ
「治療ゴールへ向かうために患者さん⾃⾝が⾞のアクセルを踏んで前に進みましょう」

写真:岡 寛先生

最近は有効な治療選択肢が増えています。治療は長い道のりを走る車をイメージしましょう。標識は医療者、ガソリンは家族やパートナー、治療は車のイグニッションキーです。しかしすべてそろって後押しできるようにしていても、ご自身がアクセルを踏まないと前に進みません。目標(ゴール)に向かって一歩ずつ治療を継続しましょう。

「治療ゴールへ向かうために患者さん⾃⾝が⾞のアクセルを踏んで前に進みましょう」
「治療ゴールへ向かうために患者さん⾃⾝が⾞のアクセルを踏んで前に進みましょう」

線維筋痛症と共に生きるYoutuber医師が伝えたい3つのセルフメディケーション

麻酔科専門医の「みおしん先生」は線維筋痛症と共に生きるYoutuber医師です。生きづらさや働きづらさを解決するために、WiTH PAiN*2という事業でYouTube活動などに従事しています。原因がわからず確定診断まで20年もかかるなどつらい思いをした経験をもとに講演しました。

写真:線維筋痛症と共に生きるYoutuber医師 みおしん先生

先生によると、線維筋痛症は推定患者数200万人で認知度は向上しましたが、多くの患者さんは「この人!」と思える専門医と出会えず、安心できる通院先が少ないのが現状です。
先生は社会復帰に向けてがんばりすぎた結果、痛みで体が動かず集中力が低下してエラーが増えてしまいました。ますます自信をなくして生きる気力が失われていたのに、なまけ病と言われたこともあります。
地獄のループに陥って病名がわからなかった2014年ころ、ついに開き直ったのです。
それは、「自分の身体には疲れやすい病気か何かありそうと信じよう」、「待っているだけではよくならない」、「完治を目指すのをいったん保留」、「また寝たきりになるのだったら、いまのうちに好きなことをしておこう」でした。
そこで、シンプルなセルフメディケーション3つについて説明していただきました。

■シンプルなセルフメディケーション

  • 筋緊張をゆるめる:マインドフルネス呼吸法
  • あたためてながす:水分を補給して入浴などで全身の血液循環やリンパの流れを良くして疲労物質をデトックス!
  • 好きなことをする:エンタメ療法(心おきなく思う存分が重要。信頼できる人とのつながりがメンテナンスに!)

イメージ:シンプルなセルフメディケーション

*みおしん先生の講演について詳しくは以下の記事をご覧ください。

社会保障の障害年金と身体障害者手帳の認定などへのサポートが重要

写真:医師と患者さん、社会保険労務士などが登壇した総合討論

医師と患者さん、社会保険労務士などが登壇した総合討論では、線維筋痛症や慢性疲労症候群の患者さんが最も望むことは社会復帰、そのために制度上の支援の重要性が強調されました。
患者会の線維筋痛症友の会では、以前に比べると現在は患者さんに応じた治療選択肢が多くあるので改善して就労復帰ができた人が多くなっています。
しかし、障害年金や身体障害者手帳の社会保障の手続きに協力してもらえないといった相談が多いのです。課題は山積みで、支援充実への道のりは遠いのが現状です。
患者会はいまできることとして、患者さんの実態調査などを通して求められるニーズを明らかにすることなど、支援活動を展開しています。患者さんのライフスタイルは多様化しているので、さまざまなニーズに応えられるよう、日々がんばっています。

身体障害者手帳と障害年金は手続きの方法や審査・認定の機関は異なる

慢性疲労症候群支援ネットワーク理事の社会保険労務士さんからは、「身体障害者手帳と障害年金の等級は同じではありません」と強調していました。
それによると、身体障害者手帳がなくても障害年金は認定可能です。手続きをする申請窓口も審査機関も異なるからです(障害者手帳の審査は自治体、障害年金は日本年金機構)。
患者さんに知ってほしいことがあります。それは、身体障害者手帳の申請用の診断書作成は、身体障害者手帳指定医でないといけないことです。指定医は自治体のホームページで確認しましょう。
障害年金に関しては、診断書を作成する指定医制度はなく、医師であれば作成できます。少なくとも現状の診断書が必要で、現在の主治医に作成を依頼します。厚労省から診断書の事例も出されていますので、それを参考にしてもらいます。
現在の医療機関が初診と違うときは、初診のところで受診状況等証明書を書いてもらう必要があります。
精神障害について障害年金の診断書を作成してもらう場合は、通常、精神科の医師に診断書を依頼します。
詳細は、障害年金.comなどを参考にしてください。

社会復帰や社会参加、自立こそ目標(ゴール)なのでサポートが重要

線維筋痛症や慢性疲労に悩む患者さんは、少しでも早く社会復帰するために、日常生活や仕事に大きく影響するつらい症状を何とか改善しようと一生懸命です。公的な補助を受容することのみが目標ではありません。患者さんは、シンプルに社会復帰、社会参加、自立を目指しているのです。
社会復帰こそ目標(ゴール)なので、そこに向かって一歩ずつがんばって治療を継続すること、患者さん同士、医療者さらには社会全体でサポートすることがいっそう必要です。

写真:痛みと疲労に悩む人に役立つ医師&患者会セミナー
写真:右から、みおしん先生、線維筋痛症友の会理事長・山田章子さん、
岡寛先生、線維筋痛症友の会副理事長・尾下葉子さん、CFS(慢性疲労症候群)支援ネットワーク理事/社会保険労務士・安部敬太さん。

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公開日:2020/07/01
監修:東京八重洲クリニック院長/東京医科大学兼任教授 岡寛先生、線維筋痛症友の会、CFS(慢性疲労症候群)支援ネットワーク