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糖尿病を放置しないで!セルフチェックのコツ

糖尿病は、目の病気(網膜症)、神経疾患の足潰瘍(かいよう)や壊疽(えそ)、慢性腎臓病(三大合併症といいます)、動脈硬化や心筋梗塞(冠動脈疾患といいます)、脳梗塞や痛風、さらにはがん、認知症、うつ病など多くの病気に関わるため、糖尿病を放置せず、自己管理して生活習慣の見直すことが重要です。スリーワンクリニック名誉院長の板倉弘重先生に、医師が参考にする「糖尿病標準診療マニュアル*1」をもとに、セルフチェックのポイントを解説してもらいました。

糖尿病は血糖値が診断に必須、HbA1c値・高血糖症状・糖尿病網膜症があれば確定診断

「糖尿病標準診療マニュアル」では、三大合併症(網膜症・腎臓病・神経障害)をはじめ、他の病気の発症・悪化を防止するために、生活習慣の改善する自己管理が重要としています。
問診や検査結果(血糖値、HbA1c値、脂質値、血圧値)などから診断(血糖値が必須でHbA1c値6.5以上もしくは高血糖症状または糖尿病網膜症)や重症度、合併症が検討され、生活習慣の改善指導と薬の処方といった治療を受けます。
下記は、初診時の問診で聞かれる内容と確定診断、治療目標の目安です。
症状はふだんの生活、検査値は健康診断の結果を参考にセルフチェックをしましょう。また、糖尿病に関わる合併症もチェックしましょう*2

表1:初診時に受ける問診(病歴聴取)の内容

  • 高血糖による症状:口渇 多飲 多尿 体重減少 易疲労感
  • 糖尿病合併症の疑い:視力低下 足のしびれ感、歩行時下肢痛 勃起障害、無月経 発汗異常 便秘・下痢 足潰瘍、壊疽など
  • 他の生活習慣病の既往:高血圧、脂質異常症
  • 心血管系の病気:冠動脈疾患、脳血管障害 末梢動脈疾患、下肢閉塞性動脈硬化症など
  • 歯周病の症状と既往歴
  • 糖尿病の家族歴
  • 生活習慣:食生活、身体活動喫煙、飲酒
  • 肥満の有無、体重の変遷(これまでの最大重量と20歳頃の体重)など
  • 糖尿病の治療歴や治療を中断した経験

表1の出典:日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会・糖尿病標準診療マニュアル(一般診療所・クリニック向け)第15版、3ページ、糖尿病に関する必須病歴聴取・診察・検査のタイミング、(1)病歴聴取を基に作成しました。

表2:糖尿病の診断

○血糖値(3つの測定結果注1のうちどれか1つ)
  +
○HbA1c値:6.5%以上(HbA1c値のみでは確定診断になりません)
○高血糖症状:口渇,多飲,多尿,体重減少,易疲労感
○糖尿病網膜症

注1:血糖値は食生活により変動しやすいので、下記の3つのタイミングで測定されます。

  • 随時血糖値200mg/dL以上
  • 早朝空腹時の血糖値126mg/dL以上
  • 75g経口ブドウ糖負荷試験200mg/dL以上(医療機関で測定されます)

表3:治療目標の目安(血糖値とHbA1c値は合併症予防の目標値。目標は個人の状態によって変わります)

体重 BMI25以上(BMIチェック)は体重5%減量
血圧 収縮期血圧130mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満
血糖 血糖値 空腹時血糖値:130mg/dL未満(合併症を予防するための目安)*1
食後2時間後の血糖値:180mg/dL未満(合併症を予防するための目安)
HbA1c値 耐糖能異常:7.0%未満(合併症を予防するための目安)*1
脂質 LDLコレステロール 120mg/dL未満(冠動脈疾患を合併する場合は100mg/dL未満)*2
HDLコレステロール 40mg/dL未満
non-HDLコレステロール 150mg/dL未満(冠動脈疾患を合併する場合は130mg/dL未満)*3
中性脂肪 150mg/dL未満
※参考:脂質値について https://www.health.ne.jp/library/detail?slug=hcl_5000_w5000853
  • *1:血糖値とHbA1c値は、合併症予防の観点からHbA1cの目標を7%未満(診断基準では6.5%以上)、血糖値は空腹時血糖値130mg/dL未満(診断基準では126mg/dL)、食後2時間の血糖値が180mg/dL未満がおおよその目安になります。
  • *2:推算LDLコレステロールの計算式は総コレステロール-HDL-コレステロール−(中性脂肪÷5)です。中性脂肪は、トリグセライドともいいます。中性脂肪の値が400mg/dL以上の場合は推算LDLコレステロールが計算できません。
  • *3:non-HDLコレステロール:= 総コレステロール − HDL(善玉)コレステロール

表3の出典:日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会・糖尿病標準診療マニュアル(一般診療所・クリニック向け)第15版、5ページ、治療方針、(1)治療目標(絶対的な目標値ではなく、個々の症例で適切な値を設定する。また、高齢者に対する絶対的なエビデンスではない)を基に作成しました。

糖尿病の治療の第1歩は生活習慣の見直しと食事・運動療法

糖尿病の治療の第1歩は、生活習慣の見直しと食事・運動療法です。食事療法に関しては、糖尿病診療ガイドライン2019年版に目標体重に応じたカロリー摂取量の目安があります。

  • ●目標体重:
    65歳未満:身長(m)×身長(m)×22
    65~74歳:身長(m)×身長(m)×22~25
    75歳以上:身長(m)×身長(m)×22~25
  • ●エネルギー(総カロリー)係数:
    大部分が座りながらの活動になる:25~30kcal/kg
    座り仕事が中心だが通勤・家事、軽い運動を含む:30~35kca/kg
    力仕事、活発な運動習慣が多い:35kcal/kg以上

糖尿病診療ガイドライン2019年版

目標体重に関しては、以前はBMI22が標準体重とされていましたが、医師が診療時に参考とする日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドライン2019年版では、65歳以上ではBMI22~25と幅があります(75歳以上は本人の状態を考えて適宜判断されます)。
ガイドラインには、BMIと死亡率との関係を検討した研究ではアジア人で死亡率が最も低いBMIは20~24.9、日本人の2型糖尿病の研究結果で死亡率が最も低いBMIが20~25との報告、日本人の食事摂取基準2020年版では目標とするBMIは20~24.9との記載があります。
運動療法に関しては、歩行は1回15~30分を1日2回(歩数8000~9000歩)、週3回以上が目安になります。

治療中は低血糖とシックデイに注意、受診を中断しないことが重要

薬の治療に関しては、患者さんの糖尿病の状態や他の病気との合併によって異なりますので、医療機関での診断・治療に従ってください。
患者さんが注意しないといけないのは、低血糖とシックデイです。
低血糖は血糖値60~70mg/dL以下といわれますが、血糖値が70~90mg/dLでも低血糖症状が現れるときがあります。血糖値を自己測定している人は、ぼーっとするなど、ふだんとはちょっと違う感じがしたときは数値をチェックしましょう。
シックデイは、治療中に発熱や嘔吐などにより食欲が低下したり、下痢するようなケースをいいます。薬の治療を受けている人は、他の原因がなくこのような症状がある場合は医療機関に相談しましょう。
また、生活習慣の見直しと食事・運動療法でも改善しない場合は医療機関で治療を受けますが、自分の判断で受診を勝手に中断しないことが重要です。
糖尿病患者さんが治療を中断せずに継続してもらうための支援策を探ることを目的とした研究をもとに作成された文献の「糖尿病受診中断対策包括ガイド*3」には、受診を中断する人の特徴と対策が紹介されているので、参考にしましょう(参考記事:通院を中断する患者の特徴は?)。

板倉先生よりワンポイントアドバイス

自分のリスクはセルフチェックで早期発見、自己判断で受診中断をしないで!

糖尿病や合併症の対策として、セルフチェックと自己管理は重要です。ふだんの食生活や日ごろの症状、健康診断の検査結果をもとに高血圧、糖尿病、脂質異常症のリスクを把握できますし、慢性腎臓病や冠動脈疾患、痛風などもセルフチェックできます。
慢性腎臓病に関しては、糖尿病患者さんでは知らないうちに腎機能が悪化していく糖尿病性腎臓病(DKDといいます)に注意しましょう(参考記事:健診で見逃されて腎不全や透析?糖尿病性腎臓病(DKD)に注意)。
最後になりますが、セルフチェックと自己管理、人によっては医療機関で治療を受けることが糖尿病と合併症の改善につながるので、仕事が忙しいといった理由や、体調がよいとか自分で判断して自己管理や受診を中断することは避けるようにしてください。

表:健診結果から合併症の冠動脈疾患、慢性腎臓病、高尿酸血症のリスクを探る

冠動脈疾患 10年以内の発症確率 吹田スコア:LDL・HDLコレステロール、血圧、耐糖能異常など8項目を点数化
計算式と診断基準 https://www.health.ne.jp/library/detail?slug=hcl_5000_w5000854
慢性腎臓病 GFR 60mL/分/1.73m2未満(クレアチニン値から計算できます)
計算式と診断基準 https://www.health.ne.jp/library/detail?slug=hcl_5000_w5000875
高尿酸血症 尿酸値 7.0mg/dL
診断基準 https://www.health.ne.jp/library/detail?slug=hcl_5000_w5000919
  • *3:厚生労働科学研究「患者データベースに基づく糖尿病の新規合併症マーカーの探索と 均てん化に関する研究―合併症予防と受診中断抑止の視点から(研究代表者:野田光彦先生)」。「かかりつけ医による2型糖尿病診療を支援するシステムの有効性に関する研究(J-DOIT2)をはじめとした研究の成果を踏まえて作成されました。

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公開日:2020/01/22
監修:芝浦スリーワンクリニック 名誉院長 板倉弘重先生