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10年以内の心筋梗塞などを発症する確率を予測

脂質異常症は、動脈硬化性疾患という心筋梗塞や狭心症など心臓にかかわる病気(冠動脈疾患といいます)や脳梗塞などになりやすい生活習慣病です。診療の際に医師が参考にする「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」(日本動脈硬化学会)では、10年以内に冠動脈疾患を発症する確率をチェックできる「吹田スコア」という評価ツールが推奨されています。

大規模な住民調査の吹田研究から吹田スコアが作成されました

診療の際に医師が参考にする「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」(日本動脈硬化学会)では、血液検査の脂質値を用いた診断基準(記事1)のほか、10年以内に冠動脈疾患を発症する確率をチェックできる「吹田スコア」が提示されています。
吹田スコアは、吹田研究という大阪府吹田市の市民を対象に10年以上にわたって冠動脈疾患や脳卒中などの病気になった人を10年以上にわたり追跡調査した大規模な集団研究*(コホート研究ともいいます)の結果をもとに作成されたツールです。

  • *大阪府吹田市の住民で、国立循環器病研究センターで1989年9月~1994年3月に定期健診を受診した30~79歳のうち、冠動脈疾患や脳卒中の既往(病歴という意味です)のある人や検査データに不備のある人などを除いて、冠動脈疾患や脳卒中などの病気が起こるかどうかについて10年以上にわたって追跡調査をしました。

健診データや生活習慣など8項目をスコア化してリスクを評価します

吹田スコアの計算方法は、悪玉のLDLコレステロール、善玉のコレステロールのほか、年齢、性別、喫煙、血圧、耐糖能異常、早発性冠動脈疾患の家族歴の8項目を点数化します。合計点数から冠動脈疾患を10年以内に発症する確率がどのくらいかを知ることができます(図)。

図:吹田スコアを用いた冠動脈疾患の発症予測モデル

以下の危険因子1~8について、あてはまるものを選んでください。「計算する」を押すと合計点が表示されます。

危険因子 変数 点数
1. 年齢 30
38
45
51
53
2. 性別 0
-7
3. 喫煙※1 5
0
4. 血圧※1
(mmHG)
-7
0
0
4
6
5. HDLコレステロール 0
-5
-6
6. LDLコレステロール 0
5
7
10
11
7. 耐糖能異常 5
0
8. 早発性冠動脈疾患家族歴※2 5
0
  • ※1:高血圧で現在治療中の場合も現在の数値を入れる。
    ただし高血圧治療の場合は非治療と比べて同じ血圧値であれば冠動脈疾患のリスクが高いことを念頭に置いて患者指導をする。
    禁煙者については非喫煙として扱う。冠動脈疾患のリスクは禁煙後1年でほぼ半減し、禁煙後15年で非喫煙者と同等になることに留意する。
  • ※2:第1度近親者かつ発症時の年齢が男性 55歳未満、女性 64歳未満

(1)~(8)の点数の合計

得点 10年以内の冠動脈疾患発症確率 発症確率の範囲 発症確率の中央値 分類
最小値 最大値
35以下 1%未満   1.0% 0.5% 低リスク
36~40 1% 1.3% 1.9% 1.6%
41~45 2% 2.1% 3.1% 2.6% 中リスク
46~50 3% 3.4% 5% 4.2%
51~55 5% 5% 8.1% 6.6%
56~60 9% 8.9% 13% 11% 高リスク
61~65 14% 14% 20.6% 17.3%
66~70 22% 22.4% 26.7% 24.6%
71以上 28%より大きい 28.1%   28.1%以上

出典:日本動脈硬化学会(編): 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. 日本動脈硬化学会, 2017

板倉弘重先生のワンポイントアドバイス

吹田スコアは健康診断の結果でセルフチェック、中リスク以上のかたは要注意です

吹田スコアは、冠動脈疾患の発症率を追跡している吹田研究をもとに作成されました。
この研究では、LDLとHDLのコレステロール値を用いて病気の発症について分析しているうえ、LDLコレステロールに関しては100 mg/dL未満、100~139mg/dL、140~159mg/dL、160~179mg/dL、180mg/dL以上の5つに分けて病気の詳細を分析しています。
その研究成果から、10年間において冠動脈疾患を発症する可能性が高いのかどうかを判定するための評価ツールとして、医師が診療で参考にするガイドラインで推奨されています。
吹田スコアは、健康診断の血圧や脂質の検査値を用いてチェックできます。チェックの結果、中リスク以上と判定されたかたは食事や運動など生活習慣の改善や、医療機関に受診するなど注意すべきです。ガイドラインでは、以下のような生活習慣の改善のためのポイントがまとめられています。

■動脈硬化性疾患予防のための生活習慣の改善

  • 禁煙し、受動喫煙を回避する
  • 過食と身体活動不足に注意し、適正な体重を維持する
  • 肉の脂身、動物脂、鶏卵、果糖を含む加工食品の大量摂取を控える
  • 魚、緑黄色野菜を含めた野菜、海藻、大豆製品、未精製穀類の摂取量を増やす
  • 糖質含有量の少ない果物を適度に摂取する
  • アルコールの過剰摂取を控える
  • 中等度以上の有酸素運動を、毎日合計30分以上を目標に実施する

出典:日本動脈硬化学会(編): 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. 日本動脈硬化学会, 2017

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公開日:2018/11/16
監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生