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リスク指標が刷新!脂質異常を再確認

脂質異常症は、血液中のコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)といった脂質のバランスが崩れている状態をいいます。日本動脈硬化学会が公表している動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版では脂質異常症を診断する基準があります。心筋梗塞や狭心症など心臓に関わる病気や、脳梗塞などになりやすいので、健康診断の結果からご自身の状態を把握できるので再確認しましょう。

心筋梗塞や狭心症、脳梗塞などの動脈硬化性疾患という病気になりやすい脂質異常症

脂質異常症はその名のとおり、血液中に溶け込んでいる脂質のうち、からだに良くない悪玉のコレステロールが異常に増えてしまうこと、からだに良い善玉のコレステロールが少なくなることや、中性脂肪(トリグリセライドともいいます)が増えている状態です。
脂質異常症は、冠動脈疾患の心筋梗塞や狭心症、脳梗塞などの動脈硬化性疾患という病気になりやすい問題のある生活習慣病です。

脂質異常症を早期に発見して動脈硬化性疾患のリスクをチェックしよう

医師が診療する際に参考にする「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」(日本動脈硬化学会)では、動脈硬化性疾患を予防するための脂質異常症を診断する基準として、血液検査の総コレステロール値に含まれる悪玉のLDLコレステロールと善玉のHDLコレステロール、および中性脂肪(トリグリセライド)から判定することが推奨されています。
下記のチェック表で、健康診断の血液検査を用いてセルフチェックができます。

■脂質異常症の診断基準(空腹時採血)*

LDLコレステロール 140mg/dL以上 高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL 境界域高LDLコレステロール血症**
HDLコレステロール 40mg/dL未満 低HDLコレステロール血症
トリグリセライド 150mg/dL以上 高トリグリセライド血症
Non-HDLコレステロール 170mg/dL以上 高non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dL 境界域高non-HDLコレステロール血症**
  • *:10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。
  • **:スクリーニングで境界域高LDLコレステロール血症、境界域non-HDLコレステロール血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。
  • LDLコレステロールはFriedewald式(総コレステロール-HDLコレステロール-トリグリセライド/5)または直接法で求める。
  • トリグリセライドが400mg/dLや食後採血の場合はnon-HDL(総コレステロール-HDLコレステロール)かLDLコレステロール直接法を使用する。ただしスクリーニング時に高トリグリセライド血症を伴わない場合はLDLコレステロールとの差が+30mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。

出典:日本動脈硬化学会(編): 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. 日本動脈硬化学会, 2017

LDLコレステロール値が正常でもHDLコレステロール値のみが低い患者さんもいます

脂質異常症は、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版の診断基準ではLDLコレステロールやHDLコレステロール、non HDLコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)の各脂質の検査値のうち1つでも当てはまると診断されます
LDLコレステロール値が正常でもHDLコレステロール値のみが低い患者さん、トリグリセライド値が高い患者さん、すべて当てはまる患者さんなどがあります。

悪玉のLDLコレステロール:糖尿病や脳卒中、慢性腎臓病などがある人は注意

LDLコレステロールに関しては、増えすぎると体のすみずみに運ばれるコレステロールが増えてしまうことにより、全身の血管壁の内側にコレステロールがたまってしまい、プラーク(血管内壁の垢)ができます。
血管が狭くなることによって全身をめぐる血液の流れが悪くなることにより、動脈硬化性疾患を起こしやすくなるので、「悪玉コレステロール」と呼ばれています。
小型化して血管内の壁の隙間に入りやすくなるような超悪玉化したLDLコレステロールが増えると、プラークが多くできて血管壁が厚くなります。
そうすると、血液の流れがますます悪くなり、動脈硬化性疾患になりやすくなります。診断基準は下記です。

LDLコレステロール値 140ml/dL以上 高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL 境界域高LDLコレステロール血症

境界域高LDLコレステロール血症の診断基準に関しては、糖尿病や脳卒中、慢性腎臓病などの病気がある患者さんに、脂質異常症の治療を早く受けてもらうことを目的に設定された目安値となります。

善玉のHDLコレステロール:減りすぎると脂質異常症が悪化します

HDLコレステロールは血管壁にたまったコレステロールを回収して肝臓に運ぶ役割を持ちます。減りすぎると、血管の壁の内側にたまったコレステロールが回収されなくなり、脂質異常症が悪化していくのです。
だから、善玉コレステロールといわれているのです。診断基準では、HDLコレステロール値40mg/dL未満は低HDLコレステロール血症という脂質異常症になります。

non-HDLコレステロール:総コレステロール値からHDLコレステロール値を引いた検査値

ガイドライン2017年版では、新たに「non-HDLコレステロール」の基準値が提唱されました。総コレステロール値から善玉のHDLコレステロール値を差し引いた値です。
non-HDLコレステロールは、LDLコレステロールだけでなく、血液中でコレステロールや中性脂肪を運ぶリポタンパクなども含まれているので、総合的に病気のリスクを予測するのに有用とされています。

診断基準値はLDLコレステロールと同様に、高non-HDLコレステロール血症と境界域高non-HDLコレステロールがあります。
non-HDLコレステロール値は、LDLコレステロールの基準値マイナス30mg/dLで設定しています。境界域non-HDLコレステロール血症に該当する場合、糖尿病や脳卒中、慢性腎臓病などの病気といったほかのリスクを含めて介入の必要性を考慮することになります。
下記は、non-HDLコレステロールとLDLコレステロールの診断基準です。

Non-HDLコレステロール 170mg/dL以上 高non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dL 境界域高non-HDLコレステロール血症
LDLコレステロール 140mg/dL以上 高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL 境界域高LDLコレステロール血症

中性脂肪:増えただけでも動脈硬化のリスクが高くなります

中性脂肪はトリグリセライドといわれています。血液中の中性脂肪が増えることにより、善玉のHDLコレステロールが減少して、悪玉のLDLコレステロールは小型化して超悪玉のLDLコレステロールが増えていくことになります。
つまり、中性脂肪が多くなると、動脈硬化を悪化させてしまう可能性があります
診断基準では、150mg/dL以上の場合は「高トリグリセライド血症」としています。
また、ガイドライン2017年版では、動脈硬化性疾患の包括的なリスク評価・管理に必要な診療指針が推奨されています。次の記事で具体的に紹介します。

板倉弘重先生のワンポイントアドバイス

LDLコレステロールの改善が最重要

以前は高脂血症という病名が使われていました。
健康診断の検査値で総コレステロール値がありますが、構成する成分の悪玉のLDLコレステロール、ならびに中性脂肪の検査値が高いことに着目したのが高脂血症という病名です。
最近、善玉のHDLコレステロールが少なくなると、中性脂肪が増えていくことや、LDLコレステロールが小型化して血管の壁の内に入りやすくなる超悪玉化したものが増えることが問題視されるようになりました。現在は、脂質異常症という病名が使われています。
また、治療においてはLDLコレステロールの改善が最も重要ですが、その次にnon-HDLコレステロールの改善が重要になります。

公開日:2018/11/14
監修:芝浦スリーワンクリニック名誉院長 板倉弘重先生