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全身の激しい痛みでドクター・ショッピング、抜けだすきっかけは? 医療者が線維筋痛症患者になって思うこと(2)

線維筋痛症は全身が激しい痛みに襲われる病気です。10歳ごろに発症して25年以上の闘いになるCさんは、20代からドクター・ショッピング状態が数年間も続きました。抜けだしたきっかけは何だったのでしょうか。医療者としての経験を持つCさんに、患者さんと医療者それぞれの立場をふまえて、闘病記を公表してくれました*

医療機関を探し続けていくうちにドクター・ショッピング状態に

Cさんは10歳ころから原因不明の痛みに悩まされ、20代前半に医療機関に入職して働きはじめたときには、痛みが全身に拡がりました。全身の激しい痛みや消化器症状、睡眠障害など数多くの症状に悩まされていました(参考記事:10歳から原因不明の強い痛み、25年にわたる闘病記 医療者が線維筋痛症になって思うこと(1))。
治療してくれるところが必要だと思い、医療機関を探しました。しかし、なかなか出会えません。探し続けていくうちに、「ドクター・ショッピング」のような状態に陥っていました。以下に、医療機関を受診した経験の一部を紹介します。

医師から冷たく突き放されると患者はどうしたらいいのか

Cさんは、まず整形外科を受診しました。全身の激しい痛みを訴えて、血液検査やレントゲン検査を受けました。しかし問題は見当たりませんでした。医師は、「原因不明なので治療できない」との話でした。
別の整形外科を紹介してもらいましたが、その医師は「検査結果では、体の異常が見られない。私たちの領域ではない。他の診療科で診てもらいなさい」と言われました。
3つ目は、神経内科です。脳のMRI画像検査を受けましたが異常が見られず、「当てはまる病名がない」と言われました。
「原因が不明でも、何とかしようと取り組んでくれる医師の姿勢や、他の医療機関や医師につないでくれるなどの対応があってほしかった」、「治療が受けることができなくても、次につないでもらえないと、見放された気持ちになり、どうしたらいいのかわからなくなりました」と、Cさんは当時の気持ちを話してくれました。

診断・治療をしてくれる医師とめぐり合うまで長い年月

4つ目の医療機関は精神科でしたが、病気のことをよく調べようとはせず、精神疾患に当てはめて診療したかったようです。残念な以下のやりとりです。

  • 医師 :「身体表現性の疼痛障害(神経症の痛み)だと思う」
  • Cさん:「病名はこれなのですか?」
  • 医師 :「違うと思う」
  • Cさん:「違うのに、通院を続けてもいいのですか?」
  • 医師 :「これで治療していくしかないでしょ(精神疾患に当てはめて治療するという意味)」

医師は、患者さんのために前向きに取り組んでいるとは思えません。患者さんの話をあまり聞こうともしませんし、鼻で笑いながら上記の会話のように言われたことを、Cさんは今でもはっきりとおぼえているとのことでした。
Cさんは、「ドクター・ショッピング状態に陥ったころは、診断・治療をしてくれる医師が見つかりませんでした。その時期がすごく長かった」と振り返っています。

「何とかしたい」と対応してくれる医師に出会ったことでドクター・ショッピング休止

医療機関をいくつか受診しても進展がなく、痛みに悩まされる日が続きました。そんなときに職場の医師に相談すると、「あなたの苦痛を何とかしたい」と言ってくれたのです。
悩まされている状況を相談すると、薬を処方するだけではなく、「体を動かしたほうがいい」、「お風呂で体をほぐしたほうがいい」などのアドバイスをもらいました。医師は休憩時間も対応してくれました。1時間近くになることもたびたびでした。
痛いときに体を動かすのはつらいことですが、「後で楽になるときもあるよ」といってくれるなど、患者さんに共感したうえでフォローしてくれました。
Cさんは当時、医療者の立場だったので、患者さんの状況に共感したうえで、寄り添う姿勢を持つことを、いっそう心がけていました。
1人の人間として見てもらい、寄り添ってくれた医師のおかげでドクター・ショッピングはいったんストップしました。
しかし、医師は朝から夜遅くまで働いているので、同じ医療機関で従事する者として間近で見ていると、とてもつらく申し訳ないと思いました。
また、その医師は線維筋痛症の専門ではありません。「死にたくなるほど痛い」と悩んでいて、診断をつけてもらって治療を受けたいと思っていたので、ドクター・ショッピングを再開しました。
消化器科、循環器科、整形外科、神経内科、婦人科、膠原病内科、精神科など、泌尿器科以外の内科系の診療科はほぼ受診していました。

患者さんのつらい状況に共感して寄り添ってくれる医師の存在が重要

20代半ばになって、親戚の紹介により線維筋痛症の専門医に出会い、病名がついにわかって、線維筋痛症の治療を受けられるようになりました。数年間にわたって悩まされていたドクター・ショッピングの状況から解放されたのです。Cさんのコメントは以下です。

私の場合、周囲にSOSを出すことで、「一緒に病気と闘おう」と寄り添ってくれる医師や、親戚の紹介で線維筋痛症の専門医につながったので、ドクター・ショッピング状態から解放されました。
医療従事者は法律や経営方針などにより、できることに制限があります。また、適切な評価・診断のもとに治療をすることが重要なので、自分の専門外の診療対応をすることは難しいです。しかし、苦しんでいる患者さんのために、知り合いの医師や医療機関などに相談はできると考えています。
医療者の皆様に伝えたいのは、ここでダメでも、次へつなげていただきたいということです。それにより、少なくとも患者さんが追い詰められる状況は減らせると思うのです。
患者さんに伝えたいのは、「患者力」を高めていただきたいです。例えば治療法1つをとっても、今は情報があふれています。強い痛みで適切な判断が難しくなることも多々あるので、正確な情報を見極めることが重要です。医療機関や患者会など、信頼できるところに相談することをお勧めします。

Cさんは10歳ころに原因不明の痛みを発症し、20代半ばで線維筋痛症の診断がついて治療を受けられるようになるまで足かけ15年間かかりました。 ただ、線維筋痛症はあることがきっかけになって症状が悪化するケースが多いといわれています。次回は、30代前半の時期に寝たきり状態になった経験や、痛み以外にさまざまな症状に悩まされた経験について紹介します。

  • *:Cさんは医療従事者の経験があります。そこで、医療に関わる人の立場をふまえて自分の闘病経験を病気に悩んでいる患者さんに伝えることができれば、悩んでいる患者さんに役立ててもらえると思い、闘病記を公表してくれました。

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公開日:2019/11/6