がんと診断されたら、これからどうすればいいのか不安になります。そこで、重要なのが社会保障の制度を今後の生活に活用することです。卵巣がん経験者の大塚美絵子さんに実体験をもとに役立つ情報をうかがいました。まず、シリーズ1回目は、数々の社会保障の制度を手続きした当時を振りかえってもらいます。
目次
大塚さんが卵巣がんを発症したのは数年前の夏の暑い時期でした。
当時は企業コンプライアンス(社会保障を含む法令順守)に携わっていたので、社会保障(傷病手当金、失業手当など)の受給には心配していませんでした。うまく処理できるだろうと高を括っていました。
ところが、手続きを始めたところ、予想は打ち砕かれて大きな壁にぶち当たったのです。
各手続きについて具体的に見ていきましょう。
会社員だったので、まずは傷病手当金を申請しようと人事に相談したところ、突っぱねられました。
「仕方がない。失業手当でしのぐことにしよう」と思い、次にハローワークに行きました。
ところが、職員からは「失業手当は働く意思と能力のある人に支給されるのです。治療中の方は、働ける旨の医師の診断書をもらってきてください」と冷たく言われました。
経済面で一気に不安になり、自宅近くの区役所に行って、高額療養費の限度額申請のついでに窓口で何か受給できないかと相談したところ、職員は担当事務以外に詳しくなく、どこに相談したらいいのかすら教えてもらえませんでした。
当時は、抗がん剤治療を受け始めたばかりで副作用に苦しみ、体力が落ちていました。酷暑のなか、髪は落ち武者、膝はガクガクの状態でやっとのことで手続きに行きましたが、担当機関も場所も窓口もバラバラ(傷病手当金は会社のある東京、失業手当は自宅の最寄りのハローワーク、健康保険は区役所)で、大変でした。
手続き機関の対応から、がん保険以外に何の保証もないと思いこんでしまいました。しかも、治療を受け始めたばかりで、この先、手術を受けられるのかどうか「見通し」も経っておらず、絶望の淵に突き落とされました。
社会保障について「よく知らなかった」ことを後悔しました。
大塚さんは現在、がん治療の後遺症の浮腫み(むくみ:リンパ浮腫といいます)対策に使われる製品を販売するお店を経営して、多くのお客さんに接しています。そこで驚いたのが、社会保障の申請ができるのに、受給権を失っていた方や受給権があることを知らない人が少なくなかったのです。
実は、日本の社会保障制度をうまく利用すれば、すぐには経済的には困窮に陥らないように、かなりよく整備されているのです。しかし、情報不足のためにその恩恵を受けていない患者さんが少なくありません。
「せっかくある制度を利用しないのは、もったいないです。『知ることは力なり』です!」と大塚さんは強調しています。
今後も、がんと診断されたかたを支援するために、自身の経験に基づいて社会保障の活用術を伝授していきたいとしています。
参考:大塚さんの治療前後の経過と収入・支出
■収入
■支出
HelCでは、大塚美絵子さんの体験をもとに、がん患者さんのためになる経済的支援制度について、退職時の注意点、社会保障制度の三本柱(傷病手当金、失業給付、障害年金)、就労支援などを中心に、テーマ別の連載シリーズで紹介します。
2012年に卵巣がんを発症したサバイバーさんです。ご自身は、がんと闘った経験から、リンパ浮腫(むくみ)対策などの弾性ストッキングやスリーブなどを販売するお店をしています。
がん患者さんを支えるために相談会や講演といった、さまざまな活動に励んでいます。
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