肝硬変は重症化すると、腹水や黄疸、意識障害などによりQOLが損なわれ、死亡リスクが高い肝不全や肝がんに進行するので、重症患者さんへの治療が重要です。そこで、C型肝炎ウイルスに由来する重症の肝硬変に対する国内初となる治療薬が2019年2月26日から保険適用となりました。メディアセミナー(2019年1月25日)で行われた大阪大学の竹原徹郎先生ならびに患者会の東京肝臓友の会の米澤敦子さんの講演内容を紹介します。 目次 重度の肝硬変から肝不全や肝がんに移行するので治療が重要 効果不十分の要因となる薬剤耐性遺伝子を持つ人にも治療適応がある抗ウイルス薬 患者会に肝硬変・肝がんの患者さんから合併症のつらさへの相談が多い 重度の肝硬変患者さん待望の抗ウイルス薬がようやく使えるように 重度の肝硬変から肝不全や肝がんに移行するので治療が重要 画像はイメージです 肝硬変には、肝機能がある程度は保たれている代償性肝硬変と、肝機能がかなり弱まっている非代償性肝硬変があります。非代償性肝硬変になると、腹水や黄疸、門脈圧障害、意識障害などQOLを著しく低下させる症状があらわれ、肝不全や肝がんのリスクが高まります(参考:肝臓は沈黙の臓器、重度の非代償性肝硬変に要注意)。 国内の非代償性肝硬変の患者数は約35,400人※1で、生存率は1年半で約50%※2といわれています。 非代償性肝硬変の患者さんが肝機能を維持または改善し、死亡リスクが高くなる肝不全や肝がんに移行させないための治療として、体内でウイルスを増やす役割を持つたんぱく質を直接阻害してウイルスを排除する直接作用型抗ウイルス薬が期待されています。 そこで2019年2月26日から、C型肝炎ウイルス由来の非代償性肝硬変の患者さん、肝炎または代償性肝硬変で直接作用型抗ウイルス薬の前治療歴があって効果不十分の患者さんが、直接作用型の抗ウイルス薬の配合剤による治療を保険適用で受けられるようになりました。 この配合剤は、C型肝炎ウイルス(HCV)が持つたんぱく質のNS5A(NSは非構造たんぱく質という意味です)の阻害とNS5Bの阻害作用を有する成分の配合剤の飲み薬(1日1回です)です。 効果不十分の要因となる薬剤耐性遺伝子を持つ人にも治療適応がある抗ウイルス薬 竹原先生は、国内でC型ウイルス由来の非代償性肝硬変患者さんや、直接作用型抗ウイルス薬治療歴があって効果不十分の肝炎もしくは代償性肝硬変の患者さんを対象に、配合剤の効果(ウイルス排除)や安全性などを検証した臨床試験の結果を報告しました。 臨床試験の結果では、以前の治療で効果不十分の要因となる薬剤耐性遺伝子を持つ人でも、この配合剤を服用することで効果があることも明らかになりました。 先生によると、これまで手立てがなかった重度の肝硬変対策では、C型ウイルス由来の非代償性肝硬変患者さんへの国内初となる抗ウイルス療法は、従来の治療で効果不十分の患者さんへの救済治療とあわせて、アンメットメディカルニーズを満たす治療との話です。 今後、抗ウイルス療法と合併症への対策や栄養・運動療法、肝がんの早期発見など多面的に患者さんをフォローする体制づくりが肝硬変治療で重要としています。 患者会に肝硬変・肝がんの患者さんから合併症のつらさへの相談が多い 東京肝臓友の会(https://tokankai.com/)事務局長の米澤敦子さんは患者会のフォロー活動について報告しました。 東京肝臓友の会は、相談事業や病気の啓発のための事業に取り組んでいます。相談事業に関しては、相談を受けているのは肝臓の病気をわずらった患者さんで、患者として親身に対応しています。 過去10年間において年間の電話相談件数が最も多かったのは2015年でした。この時期は、ウイルスを駆除する抗ウイルス療法の新薬が発売する時期でしたので問い合わせが多かったとのことです。 米澤さんによると、2017年における相談数は1,000件以上で、そのうち66%が療養に関すること、ついで医療費9%、専門医紹介7%、訴訟6%などで、差別・偏見やセカンドオピニオンに関する相談もありました。 重度の肝硬変患者さん待望の抗ウイルス薬がようやく使えるように 療養に関する問い合わせでは、肝硬変による合併症がつらいことや、これまでの治療で効果不十分のケースに対する問い合わせ、ウイルスを排除する薬が飲めなくてつらいことや、治療の副作用、治療に関する最新情報などでした。 特に、最近は肝硬変・肝がんの相談が増えています。 原因ウイルスを排除する抗ウイルス療法への期待が大きく、重症化した肝硬変患者さん対象の抗ウイルス療法の新薬はいつから健康保険で治療を受けられるのかについての問い合わせが多いようです。 米澤さんによると、「重度の非代償性肝硬変の患者さんや肝がんに移行した患者さんは、さまざまな合併症に苦しんでいます。非代償性肝硬変の新薬が、専門医以外にかかっている多くの患者さんにも知ってもらえるよう、周知したいと思っています」との話でした。 ※1:厚生労働科学研究『B型・C型肝炎による肝硬変、肝がん患者における医療費等の実態調査』(研究代表者・伊藤澄信先生),2016 ※2:非代償性肝硬変の生命予後に関与する因子の検討.消化器内科2012;54:333-339. ※3:非代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス感染症の成人患者、及び直接作用型抗ウイルス療法(DAA)の前治療歴を有する慢性肝炎、または代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス感染症の患者さんの新たな治療薬として、「エプクルーサ®配合錠」(以下、「エプクルーサ」)(一般名:ソホスブビル/ベルパタスビル)の保険適用が承認されました。 公開日:2019/03/20 監修:大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学教授 竹原徹郎先生、東京肝臓友の会事務局長 米澤敦子さん
肝臓は、栄養素の代謝・貯蔵や解毒作用など重要な機能がありますが、肝臓がほぼ機能していない重度の肝硬変(非代償性肝硬変といいます)になってはじめて特徴的な症状が現れることが問題です。非代償性肝硬変とはどのような病気なのでしょうか。メディアセミナーで武蔵野赤十字病院の黒崎雅之先生の講演内容を紹介します。 目次 肝臓は気付かないうちに悪化していくので注意 だるい、かゆい、こむら返りの症状は肝臓の病気とはわかりにくい 非代償肝硬変になっては肝機能がかなり弱っている状態 非代償肝硬変の患者さんへの医療費助成 非代償性肝硬変の患者さんの肝機能を維持、改善できる治療が望まれる 肝臓は気付かないうちに悪化していくので注意 肝臓は、食べ物が消化された後の栄養素の代謝や貯蔵、体内における解毒作用など重要なはたらき(機能)を持っています。 ■肝臓の主なはたらき 食べ物が消化された栄養素を代謝・貯蔵する(腸→門脈→肝臓の順に流れてきます) 胆汁(脂肪の消化や吸収を助ける消化液)をつくる 体に不要なものを解毒する たんぱく質をつくる ホルモン代謝をする 体を異物から守る 肝臓は気付かないうちに悪化して、慢性肝炎の状態が続くと、肝細胞が壊れた跡に線維が沈着して肝臓が硬くなる肝線維化を起こしやすくなり肝硬変にいたります。その後は、肝不全や肝がんへと移行していきます。 原因としては、ウイルス(C型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスなど)、アルコール、薬剤性、遺伝性(先天性といいます)があるほか、非アルコール性の脂肪肝から進行するケースもあります。以下の順で肝臓は悪化していきます(図1)。 図1:肝臓の病気の経過 慢性肝疾患(ウイルス性、アルコール性、薬剤性、先天性などがあります) ↓ 肝硬変の中でも、肝臓の機能がある程度は保たれている代償性肝硬変 ↓ 肝臓の機能が低下して、特徴的な症状が見られる非代償性肝硬変 ↓ 肝不全 だるい、かゆい、こむら返りの症状は肝臓の病気とはわかりにくい 慢性肝疾患では、3大症状の「体がだるい」、「足がつったり、こむら返りをする」、「全身がかゆい」はあります。ただ、体調が悪いときや他の病気でも見られる症状なので、肝臓に特徴的とはいえません。 非代償性肝硬変の状態になるまでは、特徴的な症状があまり見られないので、肝臓が悪くなっていることを自覚できないのが問題です。 肝臓の機能が弱まっている状態になるまで特徴的な症状が現れない理由は、肝臓に痛覚がないことや、筋肉が肩代わりして栄養素の代謝や解毒作用などをしてくれるからです。だから、肝臓は沈黙の臓器といわれます。 非代償肝硬変になっては肝機能がかなり弱っている状態 肝硬変は、肝機能がある程度は保たれている代償性肝硬変から、肝機能がかなり弱まった非代償性肝硬変へと進行していきます。 非代償性肝硬変に進行すると、以下のような特徴的な症状があります。 不定愁訴(だるい、疲れやすい、食欲がない、お腹がつっぱる) 黄疸 お腹に水が溜まる腹水 周りの状況や物ごとがよくわからなくなったり、昼夜逆転、羽ばたき振戦などが見られる肝性脳症 肝臓が固くなることで、肝臓の門脈のなかで血液が通りにくくなり、門脈圧が上昇して消化管に出血をきたす食道静脈瘤 くも状血管腫 出血傾向 手掌紅斑 皮下脂肪や筋肉の減少 女性化乳房 肝性口臭 非代償肝硬変の患者さんへの医療費助成 2010年4月より、肝臓機能障害による身体障害者手帳が交付されることになり、肝障害の重症度によっては医療費の一部などが軽減される制度があります。 対象となるのは、認定基準に該当する肝臓機能障害のある患者さん、肝臓移植を受けて抗免疫療法を受けており、重症度はChild-Pugh分類で3ヵ月以上グレードB(中等度)に該当する代償性肝硬変から非代償性肝硬変に移行する患者さんです(以下の表を参照)。 なお、適用には地域差がありますので、専門医と住民票のある自治体に相談ください。 ■Child-Pugh(チャイルド・ビュー)分類 1点 2点 3点 脳症 ない軽度(Ⅰ、Ⅱ)時々昏睡(Ⅲ~) 腹水 ない少量(1~3L)中等量(3L~) 血清ビリルビン値(mg/dL) 2.0未満2.0~3.03.0超 血清アルブミン値(g/dL) 3.5超2.8~3.52.8未満 プロトロンビン活性値(%) 70超40~7040未満 各ポイントを合計して、その合計点で判定する。 GradeA(軽度) :5~6点 代償性 GradeA(中等度):7~9点 代償性から非代償性への過渡期 GradeA(高度) :10~15点 非代償性 出典:厚生労働省「肝臓機能障害の認定基準に関する検討会」資料 非代償性肝硬変の患者さんの肝機能を維持、改善できる治療が望まれる 患者さんの予後を見ると、肝がんによる死亡はC型肝炎ウイルス由来では6割、B型肝炎ウイルス由来では5割、肝不全による死亡はアルコール性肝炎では6割を占めます*1。 肝硬変から肝不全や肝がんに進行していく可能性があります。肝臓移植という選択肢もありますが、適合するドナーが見つかりにくいという問題もあり、非代償性肝硬変の患者さんでは肝機能を悪化させずに維持できる治療が必要です。 そこで、2019年2月26日からC型肝炎ウイルス由来の非代償性肝硬変患者さんが保険適用で治療を受けられる抗ウイルス療法*2の飲み薬が国から承認されました。 次回、紹介します。 *1:日本肝臓学会の慢性肝炎・肝硬変の診療ガイド2016 *2:抗ウイルス療法は、ウイルスを増やしていくのに必要なたんぱく質を直接阻害することで、ウイルスが増殖することを抑えることによって、肝臓の細胞が壊されて線維化に置きかわることを止めて肝機能を維持することを目的にしています。 公開日:2019/03/18 監修:武蔵野赤十字病院消化器科部長 黒崎雅之先生
脂肪肝は放っておくと肝臓の機能を弱め、肝硬変や肝臓がんを引き起こす可能性があるとされています。そんな脂肪肝を改善するために、タウリンのはたらきがプラスになるといわれています。 目次 放っておくと恐ろしい脂肪肝 タウリンとは? タウリンと脂肪肝 タウリンを食事で摂取しよう 放っておくと恐ろしい脂肪肝 肝臓にコレステロールや中性脂肪が溜まることによって引き起こされる脂肪肝は、放っておくと肝臓の機能を弱め、肝硬変や肝臓がんを引き起こす可能性があるとされています。 そんな脂肪肝を改善するために、タウリンのはたらきがプラスになるといわれています。 タウリンと脂肪肝はどのような関係性を持つのでしょうか。 タウリンとは? タウリンという名前を栄養ドリンクのCMなどで一度は耳にしたことがある方も多いかと思います。 タウリンは、アミノ酸の一種で、人間の筋肉や心臓などの臓器、脳や網膜といった部分にも多く含まれています。 タウリンの摂取は、大きく分けて2種類あり、体内での合成と食事による体外からの摂取によって成り立っています。 体内で合成できるタウリンの量は、生命活動を営む絶対量より少ないため、多くは食事からの摂取に頼っています。 タウリンと脂肪肝 タウリンは、肝細胞の再生力を高めてくれるはたらきがあります。肝細胞が弱っている場合、タウリンがはたらくと再生が速やかになり、肝臓の機能が正常に戻るとされています。そのほかにも、タウリンは肝臓内に溜まった中性脂肪を取り除き、さらに体外に排出するはたらきがあります。 また、脂肪肝の原因としては、食べ過ぎや飲み過ぎなどがあげられます。タウリンは、食べ過ぎや飲み過ぎに対しても肝臓を大きくサポートするはたらきを持っています。 タウリンが多く含まれる食事を摂取することで、肝臓のはたらきを助け、胆汁酸の分泌を盛んにしてくれます。胆汁酸の分泌が盛んに行われると、コレステロールの分泌を促進させ、血液中のコレステロール値を下げるはたらきがあります。 また、タウリンは、アルコールの分解をするために必要な酵素のはたらきを助ける性質があるため、アルコールの分解が早まり肝臓への負担を和らげてくれます。 このようにタウリンは、脂肪肝を改善する上で重要な成分として注目されています。 タウリンを食事で摂取しよう タウリンを多く含む食品は、イカやたこ、貝などの魚介類とされています。 タウリンは水に溶けやすい性質を持っています。そのため、タウリンを含んだ魚介類を調理される際は、魚介類そのものだけではなく、調理した際に排出された煮汁などのスープも摂取できるようにすると良いでしょう。 また、栄養ドリンクやサプリメントから手軽に摂取することも可能です。その際は、ラベルに記載されている成分を確認し、用量を守って摂取することをおすすめします。 脂肪肝を改善していく上でも、まずは食べ過ぎや飲み過ぎに注意し、肝臓に負担をかけないことも大切です。その上で、タウリンをうまく活用し元気な肝臓を取り戻せるように、うまくつきあっていきましょう。 公開日:2016/09/05
現在、酒が手軽に購入できる環境があり、20歳未満で飲酒経験のある人も少なくありません。適量の飲酒は心身の緊張感をほぐしてストレスを和らげるが、飲みすぎは病気を引き起こしかねません。時には禁酒が効果的です。 目次 飲酒に関する害 アルコール依存症 休肝日をつくることからはじめる 飲酒に関する害 酒は、現在スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどでの取り扱いが増え、手を伸ばせばすぐに購入できる環境があり、20歳未満で飲酒経験のある人も少なくないといえます。 そのため日本では、「未成年者飲酒禁止法」により、20歳未満の飲酒が法律で禁じられ、成人が未成年者に飲酒を勧めた場合にはその成人も罰せられます。 未成年が飲酒をする害 急性アルコール中毒になりやすい/集中力・記憶力の低下/短期間でアルコール依存症になりやすい/将来肝臓病になりやすい 適量の飲酒は心身の緊張感をほぐしてストレスを和らげたり、動脈硬化を予防する善玉コレステロールを増やす、健康増進に役立つなど、「酒は百薬の長」ともいわれます。 ですが、妊娠中の人は、胎児の流産や、先天性の異常を持って生まれてくる可能性が高くなるともいわれているため、飲酒は控えるべきです。 つまり、「酒は百薬の長」を言い訳にした飲みすぎは、病気を引き起こす「害」にもなりかねないということです。 飲酒が関係して引き起こされるといわれている代表的な疾患 アルコール依存症/高血圧/痛風/慢性肝障害/脂肪肝/肝炎/がん/肝臓病 アルコール依存症 平常時の飲酒は、脳をリラックスさせ中枢神経を抑制するといった面もありますが、飲酒が習慣化するとアルコールに対する依存が生じる場合があります。うつ病などの場合はアルコール依存のリスクを高める場合があり、アルコール依存がさらにうつ病を進行させるといった連鎖を起こす危険性があるようです。 アルコール依存症の場合、本人よりも周囲の家族に問題が襲い掛かることが多いようです。アルコール依存症は断酒をすれば症状は無くなりますが、その「断酒」をさせることが難しいです。 そこで家族は、飲酒をしていない状態のときに本人がアルコール依存症であることを自覚させ、1日も早く本人を専門医に受診させること、医師の指導の下、断酒と治療薬(断酒時の離脱症状を和らげるための睡眠薬や抗不安薬)による治療を継続することが必要となります。また、断酒をしてもすぐに飲酒をしてしまう患者が多いのですが、家族は諦めずに何度でも断酒にチャレンジさせることが必要です。そのほか、患者はストレスを感じることでアルコールに逃げる習性があるため、なるべくストレスを感じない環境づくりをすることも大切です。 休肝日をつくることからはじめる 飲酒を習慣づけ、大量の飲酒をする人の多くが、肝臓の機能に異常をきたすことが多いようです。毎日の大量の飲酒で肝臓に過剰なはたらきをさせることは、いつか肝臓のはたらきに支障をきたすことになります。これらの治療はやはり、禁酒。ただ、飲酒を習慣にしている人は突然禁酒をできない場合が多いようなので、まず「休肝日」とよばれる断酒日を作ることからはじめてみるのもよいでしょう。 また、「飲まなければやっていられない」といったネガティブな感情で飲酒をしている人は、自分なりのストレス解消方や趣味などを見つけるなど、飲酒への興味を薄くしていくことも必要です。 公開日:2009/01/19
「お腹が痛い&苦しい」というとき、私たちは「お腹」とひとくくりにしていますが、腹部というのは案外広く、多くの臓器が密集しているところ。どの辺りが痛むとき、どんな病気が考えられるのでしょうか。まずは、それを図で見ていきましょう。 部位別に見る腹痛と病気の関係 「なんとなくお腹の調子が悪い」「お腹が苦しい」「お腹が痛い」…。これらの症状は、きっと誰でも一度ならず経験したことがあるはずです。こういったとき、私たちはつい、「お腹」とひとくくりにしがちですが、お腹という部分はかなり広く、さまざまな臓器が密集しています。 私たちが「お腹が痛い」というとき、実際は、どの辺りが痛んでいるのでしょうか。また、その部位が痛むとき、どんな病気が考えられるのでしょうか。まずは、そこから見ていきましょう。 健診での異常はないけれど…お腹が痛い&苦しい 公開日:2002年10月15日
「肝臓病」と言っても、その種類はたくさんあります。それを原因で分類するなら、「ウイルス性」「薬剤性」「アルコール性」「自己免疫性」「先天性」などに分けられます。そのなかでも代表的な肝臓病の原因は「ウイルス性」と「アルコール性」です。 目次 肝臓ってどんな機能? 肝臓は無症状!? 肝臓病ってどんなものがある? 急性肝炎の原因の「ウイルス」とは? 生活習慣と密接な関係のある肝臓病 肝臓ってどんな機能? 肝臓は人の体の右上腹部にあり、肋骨に守られるように囲まれている。人体の臓器としては一番大きなもので、重さは体重の1/50ほど。成人男性なら1.2kg~1.6kg程度ある。 また、肝臓は自己再生能力が高く、肝臓の75~80%を切り取っても、約4ヵ月後にはもとの大きさと機能を回復しているのだ(ちなみに胃を切除しても胃そのものは再生しない)。 肝臓の主なはたらきは、代謝、解毒、胆汁の分泌などがある。 肝臓のはたらき ●代謝 口から入った食べ物から消化吸収した栄養素を処理して、糖分や脂肪分をエネルギーとして蓄えたり、たんぱく質を「リポたんぱく」という体にあった形に作り変えたりする。 ●解毒 アルコールや薬剤などの有害物質が体内に入ってきた時や、体内で発生するアンモニアなどの有害物質を酸化、還元、抱合(他の物質で包み込む)などして水や脂に溶けやすい形に変え、尿や胆汁の中に排泄する。 ●胆汁の分泌 胆汁とは、脂肪の消化を助ける液。肝臓で処理したいろいろな物質を材料にして胆汁は作られるが、その後いったん胆嚢に蓄えられて濃縮されてから十二指腸に分泌される。 肝臓は無症状!? 肝臓は約3000億個以上の肝細胞が集まってできている。肝臓病になるとその肝細胞が次々に壊れていくが、なにせもともと余力のある臓器なので、少々悪くなっても自覚症状は出にくい。裏を返せば、自覚症状が出た時には肝細胞の大部分が壊れてしまっているのだ。 実際、自覚症状のひとつ黄疸が出てはじめて肝臓病に気がつくケースは全体の3割。一方、日頃健康だと思っていたのに、健康診断などの機会に偶然発見されるケースが7割を占めているのだ。 これが「肝臓は沈黙の臓器」と言われる理由である。 症状が進行した場合の自覚症状は? 体がだるい、食欲がない、吐気がする、尿の色が濃い、体が黄色になる、体がかゆい、手のひらが赤い、お腹が張る、足がむくむ、(男性で)お乳が張って痛い、かび臭い口臭がする、など 肝臓病ってどんなものがある? 一言で「肝臓病」と言っても、その種類はたくさんある。それを原因で分類すると、「ウイルス性」「薬剤性」「アルコール性」「自己免疫性」「先天性」などに分けられる。また、肝臓の状態、つまり病名で分類すると、「肝炎」「肝硬変」「脂肪肝」などが主なものだ。 そのなかでも代表的な肝臓病の原因は「ウイルス性」と「アルコール性」である。 主な肝臓の病気 ●ウイルス性の肝障害って? 急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝がんなど ●アルコール性の肝障害って? 脂肪肝、肝炎、肝繊維症、肝硬変、肝がんなど 急性肝炎の原因の「ウイルス」とは? 慢性肝炎が通常6ヵ月以上肝炎が続いている状態をいうのに対し、急性肝炎とはこれまで正常に機能していた肝臓に突然肝炎が起こり、たくさんの肝細胞が破壊される病気。その主な原因は肝炎ウイルスだ。 日本で一番多い肝炎はB型やC型。これは、過去にたくさんの感染者が出たためなのだ。しかし、現在ではこれらの肝炎ウイルスの感染をなくす努力がされており、新しい感染はほとんど見られなくなっている。 肝炎ウイルスにはこんなものがある! ウイルスの種類 感染経路 慢性化 A型肝炎ウイルス食べものや飲料水からなし B型肝炎ウイルス血液や体液子供では高率、大人ではまれ C型肝炎ウイルス血液や体液70%が慢性化 D型肝炎ウイルス血液や体液あり E型肝炎ウイルス食べものや飲料水からなし G型肝炎ウイルス血液や体液あり TT型肝炎ウイルス血液や体液あり 急性肝炎になると発熱や吐気、だるさ、など風邪に似た初期症状が出て、3~4日すると濃い色の尿、皮膚や目の黄疸などの症状が見られる。 急性肝炎でコワイのは劇症肝炎や慢性肝炎になること。劇症肝炎になる確率は急性肝炎の1%程度だが、一度劇症化すると死亡率は70%以上もあるのでかなり危険である。 生活習慣と密接な関係のある肝臓病 日本で現在、病院にかかっている肝臓病で最も多いのは、肝炎ウイルスによる肝炎や肝硬変、肝がんなどだが、もうひとつ重要な肝臓病がある。それが、前述のアルコール性の肝障害だ。 お酒をたくさん飲む人はちょっと心当たりがあるかもしれないが、軽いものでは脂肪肝やアルコール性肝繊維症、重症ではアルコール性肝炎やアルコール性肝硬変などがある。日本では、アルコール性肝障害は軽症も含めると人口の約2%強、300万人ほどいるといわれ、そのうち5万人ほどが肝硬変だと推定されている。 一般的に、飲酒の量と飲酒期間に比例して肝臓病の症状が進行しているのだ。 公開日:2002年7月1日
肝臓を傷めないためには飲酒習慣や食事が大切です。そこで、肝臓とお酒&食事の関係について簡単なクイズにしました。さて、あなたはどのくらい分かりますか? Q1 お酒を飲むなら毎日量を制限して少しずつ飲むより、週に1日休肝日を設けるほうがいい。 ホント ウソ Q2 同じ量のお酒を飲んでいるなら、男性より女性のほうがアルコール性肝硬変になりやすい。 ホント ウソ Q3 つまみを一緒に食べるとカロリーを摂り過ぎるので、お酒を飲む時は何も食べないほうがいい。 ホント ウソ Q4 お酒を飲むなら、焼酎がいちばん体にいい。 ホント ウソ Q5 たんぱく質を摂ると、肝臓が再生されるので、積極的に摂ったほうがいい。 ホント ウソ Q1 お酒を飲むなら毎日量を制限して少しずつ飲むより、週に1日休肝日を設けるほうがいい。 休肝日を設けたとしても、そのほかの日にたくさんのアルコールを飲んでいれば意味はありません。肝臓に悪いのは、たくさんのアルコールを連日飲むことです。毎日飲んだとしても、量が少なければ肝臓にはそれほど悪影響ではありません。 ただし、毎日飲んでいるとだんだん量が増える傾向にあるので、毎日飲むことは避けたほうが無難です。 というわけで、正解は「ウソ」 Q2 同じ量のお酒を飲んでいるなら、男性より女性のほうがアルコール性肝硬変になりやすい。 一般的に女性は男性より短期間、少量のお酒で肝硬変へ進行すると言われています。その原因は女性ホルモンの分泌と血中アルコールの消失速度に関係があります。 男性の半分から3分の1のアルコール量でも肝障害に進行するので、女性の飲み過ぎはとくに注意しましょう。 ちなみに、社会へ進出する女性が増え、男性と同じようにお酒を飲む機会が増えたこともありますが、その一方でストレスからキッチンドランカーになるケースもあるようです。その結果、さまざまな肝障害へと進行することがあります。 というわけで、正解は「ホント」 Q3 つまみを一緒に食べるとカロリーを摂り過ぎるので、お酒を飲む時は何も食べないほうがいい。 アルコールには主に炭水化物しか含まれておらず、何も食べないでお酒だけを飲んでいると栄養バランスが悪くなり、肝臓も障害されやすくなります。 また、食事と一緒にお酒を飲むようにすれば、アルコールの量も抑えられ、食べもので胃の粘膜を保護して胃潰瘍や胃炎になるのを避け、肝臓での吸収もゆっくりになって肝臓に与える影響を弱めることができます。 ただし、アルコールはただでさえカロリーが高いため、肥満にならないためにもご飯や麺類などの炭水化物は避け、ビタミンやミネラルが摂れるものを一緒に食べるのがおすすめです。 というわけで、正解は「ウソ」 Q4 お酒を飲むなら、焼酎がいちばん体にいい。 肝臓が悪くなるのは、お酒の種類にはまったく関係がありません。たまに、「日本酒より焼酎のほうが体にいいから…」と言う人もいますが、肝臓にとってはアルコールの量が問題です。 したがって、どのような種類のお酒を飲んでも含まれるエチルアルコールの量が少なければOKです。 というわけで、正解は「ウソ」 Q5 たんぱく質を摂ると、肝臓が再生されるので、積極的に摂ったほうがいい。 人間の体はたんぱく質からできています。当然、肝臓もたんぱく質によってつくられています。たんぱく質はアミノ酸からつくられており、体内で合成できるアミノ酸もありますが、食物から取り入れなければならない必須アミノ酸も9種類あるのです。 つまり、肝臓の再生には必須アミノ酸を含んだ良質なたんぱく質を食べものから摂取することが必要不可欠となります。特に肝炎や肝硬変などで肝細胞がダメージを受けている時には、たんぱく質を多く摂ることで肝臓での代謝機能が亢進すると言われているので、良質なたんぱく質を含む食事は積極的に摂ったほうがいいでしょう。 というわけで、正解は「ホント」
あなたは自分の「肝臓」のこと、どのくらい知っていますか?ここで、肝臓クイズにチャレンジ!どのくらい分かりますか? Q1 俗に言う「脂肪肝」の人は、必ず太っている。 ホント ウソ Q2 お酒は毎日飲みつづけていれば、必ず強くなる。 ホント ウソ Q3 肝臓はちょっとでも悪くなると、すぐに痛みが出る。 ホント ウソ Q4 肝臓は一度悪くなったらもう健康な状態には戻らない。 ホント ウソ Q1 俗に言う「脂肪肝」の人は、必ず太っている。 脂肪肝とは、肝臓に脂肪がつくことです。必ずしも見た目とは関係ありません。やせている人でも肝臓には脂肪がべったり…なんてこともあります。「内臓脂肪型肥満」とも言われるもので、太っている自覚症状がないまま進行していることがあるため、注意が必要です。 というわけで、正解は「ウソ」 Q2 お酒は毎日飲みつづけていれば、必ず強くなる。 お酒に強いかどうかは、アルコールを分解する能力があるかどうかで決まります。そして、その能力は生まれつきのもので、鍛えたからといって強くなるものではありません。 よくお酒を飲み始めた頃に「たくさん飲めば、強くなるよ」と言われて飲む人がいますが、急性アルコール中毒になるのがオチです。注意しましょう。 というわけで、正解は「ウソ」 Q3 肝臓はちょっとでも悪くなると、すぐに痛みが出る。 肝臓は、別名「沈黙の臓器」とも言われ、ちょっと悪くなったくらいでは痛みは感じません。そこがコワイところで、気がついたときにはかなり症状が進行していることがあります。 というわけで、正解は「ウソ」 Q4 肝臓は一度悪くなったらもう健康な状態には戻らない。 肝臓は悪くなっても休ませてあげればそれなりに元気になる強い臓器です。もし、なにか異常が見つかったら、禁酒したり食事に気をつけるなどして回復を待つことです。 また、良質のたんぱく質は肝臓の再生にいいと言われています。 というわけで、正解は「ウソ」
お話し手 大阪大学医学部附属病院長 同大学院医学研究科消化器内科学教授 林紀夫 先生 1972年大阪大学医学部卒。 米国テキサス大学研究員、大阪大学大学院医学研究科分子制御治療学教授等を経て、2005年から現職。 2007年から附属病院長。 日本肝臓学会理事長ほか医学会役職多数。 自己負担の上限は月額1~5万円 安心して治療を受ける環境が整った Q. C型肝炎の医療費助成制度がスタートしました。その概要を教えてください。 林先生: C型肝炎の根治を目的にしたインターフェロン治療に、2008年4月から医療費の公的助成が始まりました。薬剤費、診療費、入院費などの自己負担の上限額が月額1~5万円(世帯の収入によって3段階。下表参照)に定められたのです。これまで7~8万円が必要でしたから、患者さんには朗報といえるでしょう。この医療費助成は、感染経路にかかわらず受けることができます。 また、以前にインターフェロン治療の経験があって、再治療する場合も助成を受けることができます。助成期間は1年間です。助成を受けるためにはいくつかの書類をそろえて申請する必要があるので、保健所や医療機関の窓口で問い合わせてみてください。 階層区分 世帯あたり市町村民税(所得割)課税年額 自己負担額の上限(月額) A階層 65,000円未満 10,000円 B階層 65,000円以上235,000円未満 30,000円 C階層 235,000円以上 50,000円 感染者は全国で200万人 肝がんにつながる恐い病気 Q. 助成制度が始まった背景を教えてください。 林先生: C型肝炎の患者さんは大変多く、いまや国民病ともいわれる状況になっています。C型肝炎の原因であるC型肝炎ウイルスに感染している人は、推定ですが全国で約200万人です。 C型肝炎は放置すると、肝硬変、肝がんと悪化していく病気で、肝がんの約8割はC型肝炎が関係しています。つまり、名前こそ違っていても、C型肝炎、肝硬変、肝がんは同じ一連の病気ととらえなければなりません。肝がんは命にかかわる恐い病気。肝がんの発症を防ぐには、C型肝炎の治療が不可欠なのです。 大阪府では肝がんの患者さんを登録する仕組みになっていますが、年間の肝がん(転移を除く)発症数は、男性が約2,400人、女性が約1,100人です(2002年)。このところ、従来少ないとされてきた女性の患者さんが増えています。高齢になると女性も肝がんにかかりやすいことがわかってきました。 輸血や血液製剤を介して感染 感染に気づいていない人も多い Q. どのような人がC型肝炎になっている可能性があるのでしょうか。 林先生: C型肝炎ウイルスは血液を介して感染します。大きな手術などで輸血を受けたり、血液製剤やフィブリノゲン製剤を使ったりした人は、感染している可能性があります。 1992年以前に輸血を受けた人 1988年以前に血液凝固製剤を使った人 1994年以前にフィブリノゲン製剤を使った人 上記に該当する人は、とくに注意が必要です。 このほか、予防接種での注射針の使い回しなども原因と考えられていますが、じつは患者さんの約半数は、感染経路がはっきりしません。 また、自覚症状がほとんどないため、感染していることに気づいていない人がたくさんいます。感染の有無は、血液検査でわかるので、ぜひ一度検査を受けていただきたいと思います。 ちなみに、いまは感染の対策がきちんととられているため、上記にあげた医療行為での感染の心配はありません。また、食器の共用や入浴など日常生活で感染することもありません。夫婦間の感染もほとんどないと考えられています。カミソリやヒゲソリなど、血液の付く可能性のあるものだけは共用しないように注意しましょう。
お話し手 国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 分院長 熊田博光 先生 1972年岐阜大学医学部卒。 虎の門病院消化器科部長、同病院副院長を経て、2007年から現職。 日本肝臓学会理事、厚生労働省「肝硬変を含めたウイルス性肝炎疾患の治療の標準化に関する研究」班長など役職多数。 インターフェロンを使うとウイルスを駆除して病気を治せる Q. C型肝炎にはどんな治療法がありますか。 熊田先生: C型肝炎の治療には大きく分けて、抗ウイルス療法と肝庇護療法があります。 抗ウイルス療法は、インターフェロンを使って体からウイルスを駆除するもので、C型肝炎を完全に治すことができる治療法です。 肝庇護療法は副作用や合併症など、なんらかの事情で抗ウイルス療法ができない場合に、肝機能を維持しながら肝がんを発症しないように努める治療法です。 ウイルスの遺伝子の型と量で治療法と治療期間が異なる Q. 治療法の選択は、何を基準にするのですか。 熊田先生: C型肝炎の治療をする際には、まずウイルスの持つ遺伝子の型(ジェノタイプ)とウイルスの量を調べる必要があります。これはどちらも血液検査でわかります。遺伝子の型は日本人の場合、大きく分けて1型と2型があります。2型はインターフェロン治療が効きやすく、1型は効きにくいという性質があります。日本人は患者さんの7割が1型です。ウイルス量は、少ないとインターフェロンが効きやすく、多いと効きにくいといえます。 インターフェロンを使った治療には、いくつかの方法があり、遺伝子の型とウイルス量に応じて使い分けるのが原則です。インターフェロン治療の中で現在、中心となっているのはペグインターフェロンとリバビリンの併用療法で、1型、2型の高ウイルス量の人、以前インターフェロン治療を受けて効果が得られなかった人には、この併用療法の48週間または24週間投与が勧められます。 1型、2型とも低ウイルス量の場合は、インターフェロンもしくはペグインターフェロンの単独療法をするのが標準治療です(下表参照)。 初回治療の場合 ジェノタイプ 1型 ジェノタイプ 2型 高ウイルス量 ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法 48週間 ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法 24週間 低ウイルス量 インターフェロン 24週間またはペグインターフェロン 24~48週間 インターフェロン 8~24週間またはペグインターフェロン 24~48週間 週1回の注射と飲み薬を併用 仕事をしながらの治療が可能 Q. ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法の方法と、治療効果について教えてください。 熊田先生: ペグインターフェロンはそれまで週3回必要だった注射を週1回ですむように工夫した薬です。リバビリンは、1日2回の飲み薬です。副作用を見極める必要があるので、治療の初めの2週間は入院を原則とします。その後は通院で大丈夫です。仕事をしながら治療することができます。 ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法をすると、1型で高ウイルス量の場合、50~60%の人が治ります。2型で高ウイルス量の場合は90%の人が治ります。 ALTと血小板の数が目安 早く始めるほど治療効果が高い Q. インターフェロン治療に踏み切るタイミングについて教えてください。 熊田先生: インターフェロンは若い人ほど、また肝炎も進行していない人ほどよく効きます。 C型肝炎は肝臓が硬くなる病気であり、これを肝臓の線維化といいます。線維化の程度は肝臓に針を刺して組織を採取し、顕微鏡で調べる肝生検をするとわかりますが、血液検査で血小板の数を調べることでも、おおよその見当がつきます。 また、肝機能を示すALT(GPT)も治療の重要な指標です。ALTは医療機関によって基準値にばらつきがありましたが、最新の研究では30を超える場合は、インターフェロンによる治療を検討すべきであるということになりました。また、ALTにかかわらず、血小板が15万未満となった場合も、インターフェロンによる治療を検討すべきです。 できるだけ若いうちに、また肝炎が進行する前に治療に踏み切れるよう、専門医とよく相談してください。
復元力のある「沈黙の臓器」 肝臓は横隔膜の真下やや右寄りにある、暗赤色をした体内最大の臓器です。その重さは約1200g(体重の1/45~1/50)。20~30歳代で最も重くなり、その後は徐々に軽くなります。 予備能力が大きく、少々の障害を受けても症状が現れないため「沈黙の臓器」と呼ばれます。80%程度が障害されて初めて機能不全になるほどの強さです。しかも、その7割近くを切り取ることができるほど復元力の高い臓器です。 肝臓は「生体の化学工場」 肝臓はいわば血管の固まりで、2ヵ所から血液の供給を受けています。その5分の1は心臓から送られる酸素を含んだ血液、5分の4は栄養素を含んだ小腸からのものです。 主に消化・吸収作業のまとめ役として栄養素の処理を行います。それ以外にも、生命活動を維持する上で重要な役割を持っています。 胆汁の生成 栄養素の貯蔵と加工 解毒作用 生体防御作用 血液凝固作用物質の産生 造血・血液量の調節 など、その役目は数十種類にも及びます。 まさに「生体の化学工場」です。
ひ臓のはれは肝硬変の症状 ひ臓は、胃の後上側、すい臓の尾側に接する暗赤色の臓器です。長さ約10cm、幅約7cm、厚さ約2.5cm、重さ約80~120gで、形はソラマメによく似ています。 これが病的に大きくなると、へその方に向かって膨れ、左上腹部を手で押さえると触れるようになります。慢性肝炎や肝硬変などでしばしばこの症状を認めます。 血液をろ過し、古い赤血球を分解、異物を除去する ひ臓は、胸腺・扁桃・腸管と同様にリンパ性の器官に分類されます。リンパ球を作るなどの体が病原体に感染してしまうのを防ぐためにはたらいているからです。ここで作られるリンパ球は抗体を作って免疫にかかわります。 血液をろ過して古くなった赤血球を分解し、その部品を赤血球再合成のために肝臓などに移します。また、細菌など異物を除去します。 血小板減少性紫斑病という病気には、このひ臓が大きく関与しています。不時の出血に対応する貯血機能は人間ではあまりありません。
訓練で飲めるようになるのもMEOSのはたらき 体内に入ってきたアルコールを処理する酵素の1種です。MEOSとはミクロゾーム・エタノール酸化系の略語です。 MEOSは、肝臓の細胞の中にあるミクロゾームという小さな器官に存在します。幾つかの酵素が集まっており、薬物を解毒する肝臓の酵素・チトクロームP450の一部もかかわっています。 アルコールは通常、ADH(アルコール脱水素酵素)やALDH(アセトアルデヒド脱水素酵素)の経路を通って解毒されますが、大量に飲むと、それだけでは処理しきれません。 この時はたらくのがMEOSです。最初は飲めなかった人が、訓練するうちに飲めるようになるのは、MEOSが関係しているとも考えられています。 MEOSが活躍しない方がいい といっても、MEOSが活発になるのは危険な徴候です。MEOSを駆り出さなくてはならないほど大量の飲酒を続けているからです。肝臓やそのほかの体の障害は、MEOSがはたらく人ほど高度というデータもあります。
胃と小腸で吸収され、肝臓で分解される アルコールはまず約3割が胃から吸収され、胃内で乳び状になった残りが小腸から吸収されます。 そして、血液中に入ったアルコールは門脈を通って、肝臓に運ばれます。肝臓にはアルコールを分解するアルコール脱水素酵素(ADH)と、ミクロゾームエタノール酸化酵素(MEOS)があります。 主にADHによってアルコールは分解されアセトアルデヒドになります。アセトアルデヒドは、さらにアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により分解されて酢酸になり、最終的には炭酸ガスと水にまで分解されます。 過剰のアルコールはMEOSで代謝 この経路で処理できる量を超えた過剰のアルコールは、MEOSを使った経路で代謝されます。アルコールはMEOSでも同じようにアセトアルデヒドから酢酸になります。アルコールは約8割がADHで分解され、残りはMEOSによって分解されます。 ただし、ADHがアルコール専門の酵素なのに対して、MEOSは一般的な薬剤を代謝する酵素なので、アルコールも代謝できるというわけです。