疾患・特集

C型ウイルス由来・重度の肝硬変に新薬

肝硬変は重症化すると、腹水や黄疸、意識障害などによりQOLが損なわれ、死亡リスクが高い肝不全や肝がんに進行するので、重症患者さんへの治療が重要です。そこで、C型肝炎ウイルスに由来する重症の肝硬変に対する国内初となる治療薬が2019年2月26日から保険適用となりました。メディアセミナー(2019年1月25日)で行われた大阪大学の竹原徹郎先生ならびに患者会の東京肝臓友の会の米澤敦子さんの講演内容を紹介します。

重度の肝硬変から肝不全や肝がんに移行するので治療が重要

イメージ:直接作用型抗ウイルス薬が期待されている
画像はイメージです

肝硬変には、肝機能がある程度は保たれている代償性肝硬変と、肝機能がかなり弱まっている非代償性肝硬変があります。非代償性肝硬変になると、腹水や黄疸、門脈圧障害、意識障害などQOLを著しく低下させる症状があらわれ、肝不全や肝がんのリスクが高まります(参考:肝臓は沈黙の臓器、重度の非代償性肝硬変に要注意)。
国内の非代償性肝硬変の患者数は約35,400人※1で、生存率は1年半で約50%※2といわれています。
非代償性肝硬変の患者さんが肝機能を維持または改善し、死亡リスクが高くなる肝不全や肝がんに移行させないための治療として、体内でウイルスを増やす役割を持つたんぱく質を直接阻害してウイルスを排除する直接作用型抗ウイルス薬が期待されています。
そこで2019年2月26日から、C型肝炎ウイルス由来の非代償性肝硬変の患者さん、肝炎または代償性肝硬変で直接作用型抗ウイルス薬の前治療歴があって効果不十分の患者さんが、直接作用型の抗ウイルス薬の配合剤による治療を保険適用で受けられるようになりました。
この配合剤は、C型肝炎ウイルス(HCV)が持つたんぱく質のNS5A(NSは非構造たんぱく質という意味です)の阻害とNS5Bの阻害作用を有する成分の配合剤の飲み薬(1日1回です)です。

効果不十分の要因となる薬剤耐性遺伝子を持つ人にも治療適応がある抗ウイルス薬

竹原先生は、国内でC型ウイルス由来の非代償性肝硬変患者さんや、直接作用型抗ウイルス薬治療歴があって効果不十分の肝炎もしくは代償性肝硬変の患者さんを対象に、配合剤の効果(ウイルス排除)や安全性などを検証した臨床試験の結果を報告しました。
臨床試験の結果では、以前の治療で効果不十分の要因となる薬剤耐性遺伝子を持つ人でも、この配合剤を服用することで効果があることも明らかになりました。
先生によると、これまで手立てがなかった重度の肝硬変対策では、C型ウイルス由来の非代償性肝硬変患者さんへの国内初となる抗ウイルス療法は、従来の治療で効果不十分の患者さんへの救済治療とあわせて、アンメットメディカルニーズを満たす治療との話です。
今後、抗ウイルス療法と合併症への対策や栄養・運動療法、肝がんの早期発見など多面的に患者さんをフォローする体制づくりが肝硬変治療で重要としています。

患者会に肝硬変・肝がんの患者さんから合併症のつらさへの相談が多い

東京肝臓友の会(https://tokankai.com/)事務局長の米澤敦子さんは患者会のフォロー活動について報告しました。
東京肝臓友の会は、相談事業や病気の啓発のための事業に取り組んでいます。相談事業に関しては、相談を受けているのは肝臓の病気をわずらった患者さんで、患者として親身に対応しています。
過去10年間において年間の電話相談件数が最も多かったのは2015年でした。この時期は、ウイルスを駆除する抗ウイルス療法の新薬が発売する時期でしたので問い合わせが多かったとのことです。
米澤さんによると、2017年における相談数は1,000件以上で、そのうち66%が療養に関すること、ついで医療費9%、専門医紹介7%、訴訟6%などで、差別・偏見やセカンドオピニオンに関する相談もありました。

重度の肝硬変患者さん待望の抗ウイルス薬がようやく使えるように

療養に関する問い合わせでは、肝硬変による合併症がつらいことや、これまでの治療で効果不十分のケースに対する問い合わせ、ウイルスを排除する薬が飲めなくてつらいことや、治療の副作用、治療に関する最新情報などでした。
特に、最近は肝硬変・肝がんの相談が増えています。
原因ウイルスを排除する抗ウイルス療法への期待が大きく、重症化した肝硬変患者さん対象の抗ウイルス療法の新薬はいつから健康保険で治療を受けられるのかについての問い合わせが多いようです。
米澤さんによると、「重度の非代償性肝硬変の患者さんや肝がんに移行した患者さんは、さまざまな合併症に苦しんでいます。非代償性肝硬変の新薬が、専門医以外にかかっている多くの患者さんにも知ってもらえるよう、周知したいと思っています」との話でした。

  • ※1:厚生労働科学研究『B型・C型肝炎による肝硬変、肝がん患者における医療費等の実態調査』(研究代表者・伊藤澄信先生),2016
  • ※2:非代償性肝硬変の生命予後に関与する因子の検討.消化器内科2012;54:333-339.
  • ※3:非代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス感染症の成人患者、及び直接作用型抗ウイルス療法(DAA)の前治療歴を有する慢性肝炎、または代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス感染症の患者さんの新たな治療薬として、「エプクルーサ®配合錠」(以下、「エプクルーサ」)(一般名:ソホスブビル/ベルパタスビル)の保険適用が承認されました。
公開日:2019/03/20
監修:大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学教授 竹原徹郎先生、東京肝臓友の会事務局長 米澤敦子さん