望月吉彦先生
更新日:2019/5/13
前回、解体新書(1774年刊)のことをお伝えしました。人体がどうなっているかわからないと、つまり「解剖」がわからないとそもそも病気のことはわかりません。いまでも医学部で学ぶ最初の医学講義は「解剖学」です。
世界で最初に精密な人体解剖図を著したのはアンドレアス・ヴェサリウス(Andreas Vesalius、1514- 1564、現ブリュッセル生)です。ヴェサリウスはパドヴァ大学(現:イタリア)で医学を学びました。当時、解剖というと「ガレノスの解剖」でした(ガレノス:ローマ帝国時代のギリシアの医学者、129−200年?)。
ヴェサリウスは「ガレノスの解剖」に疑問を懐き人体解剖を実際に行い、29歳の時に「De humani corporis fabrica libri septem 」という解剖学書を発表しました(1543年刊)。当時の公用語ラテン語で書かれています。題の英訳は「On the fabric of the human body in seven books」です。日本語では「人体構造論」と翻訳されています。
この本は世界中で「fabrica(ファブリカ)」と言い習わされています。衝撃的な本です。ラテン語で書かれているので内容はわからなくても、図を見ただけでびっくりします。いくつか、お目にかけましょう。写実的でしかも超現実的です。現代でも十分通用する「遊び心」があると思います。
解剖に関する本は今でも、たくさん出版されていますが、この「fabrica」ほど衝撃的な本は無いと思います。特に足を組んで、物思いにふけっている骸骨の図が、私は好きです。おしゃれです。何を悩んでいるのでしょうか?
このヴェサリウスの後輩(同じパドヴァ大学で学んだ)が血液循環を発見したハーヴェイです。
ヴェサリウスの人体解剖の教科書が1543年、ハーヴェイの血液循環の発見が1628年です。ハーヴェイは、当然、ヴェサリウスの解剖図で血管走行を学び、血液循環を思いついたのだと思います。しかし「血液が循環すること」がわかったからといって直ちに血管の病気の診断や治療ができるわけではありません。臓器と病気の関係の解明には、他のさまざまな科学の発展が必要でした。ヴェサリウス解剖図から400年以上経った現代でも未だにわからない病気がたくさんあります。
それはともかく、比較的早期から病気の診断が可能であったのは体表面に近い血管の病気です。体表面に近い箇所にある動脈は触れることができます。足の血管が閉塞すれば、脈が触れなくなり、足の血管に動脈瘤ができれば「瘤(こぶ)」は触ればわかります。しかし、それがわかったところで治療方法はありませんでした。
実際の人体に則したヴェサリウスの解剖図を活かして、世界で初めて⾜の動脈瘤の治療に成功した外科医がいます。1785年の事です。天才的な方法で膝窩動脈(膝の裏にある動脈)の動脈瘤(りゅう=こぶ)の治療に成功します。
その外科医の名は「ジョン・ハンター(John Hunter、1728-1793)」です。スコットランド生まれのイギリス人です(注:1707年以降、スコットランド王国はイギリスに併合されています)。
ジョン・ハンターは実にさまざまなことを行っており、ハンター無くして近代外科は語れないほど、色々なことを成しています。
ハンターが行ったお話は次回に。
望月吉彦先生
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