低たんぱく食などの食事療法が必要でも、患者さんにとっては「食べたい」気持ちをそう簡単に抑えられません。ご当地食材や郷土料理を病院給食に取り入れている徳島赤十字病院は、県民に愛される「金時豆」入りのバラ寿司を低たんぱくレシピとして提供して患者さんに満足してもらっています(第22回日本病態栄養学会学術集会のレシピコンテスト「地域の伝統を生かした腎臓病食」をもとに本記事を作成しました*)。
目次
日本病態栄養学会では、医師や栄養学の医療関係者が一堂に会する学術集会が毎年開催されています。そのなかで、「地域の特色を生かしたオリジナルレシピ」を病院が考案して応募し、試食会とプレゼン発表を経て審査されるコンテストがあります。
2019年1月に開催された第22回日本病態栄養学会年次学術集会のレシピコンテストのテーマは、1日(3食)の総エネルギー量1800kcal、たんぱく質50g、食塩6gとした「地域の伝統を生かした腎臓病食」でした。
応募されたレシピには、患者さんや家族などが家庭で調理して楽しく食べてもらい、より健康になってもらいたいとの病院スタッフの熱い思いが込められています。
今回のレシピコンテストから、徳島赤十字病院の取り組みについて紹介します。
徳島赤十字病院は、小松島市にあります。同市は、太平洋と瀬戸内海が交わる海域に面しているうえ、自然に恵まれているので、海の幸だけでなく山の幸が豊富です。
患者さんは、低たんぱくや減塩といった栄養指導を受けていても、「おいしいものを食べたい」と思うのは当たり前ですし、地元の食べ慣れた食材やメニューを好みます。
そこで、患者さんの気持ちを大切にし、徳島県民に愛される食べ物をベースに病院給食を提供しています。ご当地食材と郷土料理をベースに考案した低たんぱく・減塩なレシピ1日3食〔総エネルギー(カロリー)量1816kcal、たんぱく質50.0g、食塩6.0g〕を紹介します。
ポイント★小松島市発祥といわれる徳島県民のソウルフード「カツ天」
■材料(1人分)
低たんぱくパン50g、無塩バター5g、レタス10g、胡瓜10g、フィッシュカツ30g、マヨネーズ10g
■作り方
■材料(1人分)
カリフラワー40g、ベビーリーフ8g、ミニトマト25g、ノンオイルフレンチドレッシング10g
■作り方
■材料(1人分)
無糖ヨーグルト70g、砂糖8g、りんご20g、みかん缶詰15g
■作り方
■材料(1人分)
低たんぱくご飯180g、金時豆(乾燥)10g、ラメ4g、ちくわ15g、たけのこ15g、干ししいたけ2g、人参15g、こんにゃく15g、グリンピース5g、卵8g、砂糖5g、サラダ油1g、だし汁適量、しょうゆ1.5g、すし酢(塩1g、酢15g、砂糖10g)
■材料(1人分)
ほうれん草60g、ごま1g、しょうゆ1.5g
■材料(1人分)
木綿豆腐50g、片栗粉6g、なす50g、サラダ油10g、だし汁適量、みりん3g、しょうゆ3g、ねぎ3g
■作り方
ポイント★ハモは漁獲量・漁獲金額とも全国トップクラスで「小松島市推奨の魚」
■材料(1人分)
ハモ200g、天ぷら粉15g、ベーキングパウダー少々、サラダ油15g、青じそ1枚、ソース5g
■作り方
■材料(1人分)
胡瓜60g、カットわかめ1.5g、人参10g、砂糖3g、酢5g、しょうゆ1g
■作り方
ポイント★そば米汁は徳島県祖谷地方の郷土料理でぷちぷちした歯ざわり
■材料(1人分)
だし汁120g、そば米10g、板こんにゃく10g、人参10g、しいたけ10g、ねぎ3g、しょうゆ4g
■作り方
徳島赤十字病院医療技術部栄養課の栄原純子さんによると、徳島県民に親しまれた食材を取り入れたメニューです。朝の献立はカレー風味のフィッシュカツ、昼は甘い金時豆入りのバラ寿司、夜は特産物の高級魚ハモの天ぷら、郷土料理「そば米汁」です。
フィッシュカツは、小松島市発祥といわれる徳島県民のソウルフードです。魚のすり身にカレー粉などの香辛料を入れてパン粉をまぶして揚げたもので、「カツ天」の愛称で親しまれています。低たんぱくパンを使ってサンドイッチにしました。
ハモの天ぷらに関しては、漁獲量・漁獲金額とも徳島県が全国トップクラスの「小松島市推奨の魚」を取り入れました。同院の病院給食でも人気です。
そば米汁は、徳島県祖谷地方の郷土料理です。そば米とは、そばの実を塩ゆでして殻をむき、乾燥させたもので、昔からそば米を入れたすまし汁や、雑炊として食べられていました。現在は県全域で食べられており、ぷちぷちした歯ざわりが大人気です。
自慢の一品は、金時豆入りバラ寿司(五目寿司)です。以下はレシピの作り方です。
■材料(2人分)
低たんぱくご飯360g、金時豆(乾燥)20g、ザラメ8g、ちくわ30g、たけのこ30g、干ししいたけ4g、人参30g、こんにゃく30g、グリンピース10g、卵16g、砂糖10g、サラダ油2g、だし汁適量、しょうゆ3g、すし酢(塩2g、酢30g、砂糖20g)
■作り方
県外から来た人はみんな「お寿司に甘い金時豆が入っているの?!」とびっくりしたような顔をしますが、スーパーの総菜売り場のバラ寿司にはほぼ例外なく金時豆が入っています。金時豆が入っていないと、売れないといっても過言ではありません。
さらに、徳島県は関西風のお好み焼にも甘く煮た金時豆がたっぷり入ります。それほど金時豆は徳島県民に愛されている食べ物なのです。
甘い金時豆がなぜ愛されているのでしょうか。徳島県は昔から塩づくりがさかんでした。塩づくりをする人は、甘いものを食べたくなる。そんなことから金時豆を食べる習慣があり、徳島県民に愛されているという話があります。
栄原さんは、実は県外の出身です。金時豆入りバラ寿司をはじめて見たときには驚きましたが、それも一瞬。いまでは「このバラ寿司以外は考えられません」とのことです。
患者さんは、入院中は栄養管理に気をつけていても、在宅になれば元通りの食生活になってしまうケースがあります。
そこで、地元の方はやはり地元の食べ慣れたメニューや食材を好むので、徳島赤十字病院では普段から地元の人に好まれる郷土料理やご当地食材を病院給食のメニューに取り入れています。
低たんぱくな食事でも味を付けるなどの工夫を凝らした病院給食を食べて、よりおいしくなることを理解した患者さんは、「これは食べてもいい」という安心感と、食べてもよい食事量(適量)の確認ができます。
つまり、患者さんに病院給食を食べてもらう「体験学習」を通じて、栄養管理について理解してもらうようにしています。
体験学習で学んだ患者さんが退院して在宅になったとしても、低たんぱくなレシピを自宅の食事メニューに取り入れることにつながることが期待できます。
最後になりますが、栄原さんら徳島赤十字病院のスタッフは、食事療法が必要な患者さんが「食べたい」気持ちを大切にして、上手に食べるレシピの調理方法を患者さんとともに考えていきたいと、日々がんばっています。
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