小中学生の不登校が増加傾向にあることが、最近の文部科学省の調査から明らかになりました。本人に係る不登校理由の6割が「不安」や「無気力」ということは、うつ病の子供が増えている可能性があります。子供の親や保護者はどのようにすればいいのでしょうか。原井クリニック院長の原井宏明先生は、うつ病のために生きづらく感じている子供を支えるためのポイントについて概説してもらいました。
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文部科学省の平成29年度の問題行動・不登校調査(2018年10月25日公表*)によると、小中学生で年間の欠席日数が30日以上の不登校は前年度を上回り、小学生は185人に1人、中学生は31人に1人が不登校との見解でした。
小学校では学年に1人、中学校ではクラスに1人が不登校という割合は、決して少ない数とはいえません。
調査は平成3年以降、毎年行われていますが、この24年間で不登校児童生徒数は2倍以上、平成25年度以降は5年連続で上昇しています。
本人に係る不登校の理由は、多い順に「不安」「無気力」「学校の人間関係」でした。家庭や学校に係る要因を見ると、「家庭に係る状況」が一番多く、「友人関係」「学業不振」と「学校に係る状況」に続きます。
注):図1のグラフは回答人数
出典:平成29年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果(文部科学省2018年10月25日公表)
「不安」「無気力」が挙げられていることから、最近はうつ病と診断される子供が多いといわれています。これを受けて日本うつ病学会は、2013年発行のうつ病治療ガイドラインを2016年版に改訂した際、子供や思春期のうつ病診療指針を新たに提示しています。
親や保護者は、自分の子供は大丈夫かどうか心配になります。子供の変化に少しでも早く気付くことが重要です。
そのための参考として、うつ病治療ガイドライン2016年版の子供や思春期のうつ病を診療する指針を紹介します。診断する基準は米国精神医学会による精神障害の診断と統計の手引き第5版(DSM-5)が推奨されています。
1~2の症状のうち少なくとも1項目がほとんど1日中、ほとんど毎日認められる
上記の項目と下記3~9の症状の合計で5項目以上が認められる
出典:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院, 2014; 160-161
過去2週間に上記の1「抑うつ気分」(または易怒感)、2の「興味または喜びの著しい減退」のどちらかを含めて5項目以上が当てはまることとされています。
小児や青年においては、抑うつ気分はイライラした気分であってもよく、体重減少は成長期に期待される体重増加がみられないことでもよいとされています。
子供がうつ病かなと思ったら、かかりつけの小児科、精神科、心療内科などに相談しましょう。最近は、児童精神科という子供に特化した診療科もあります。
治療に関しては、ガイドラインでは子供の周辺環境として学校や家庭における状況の変化や、本人の行動が以前と比べてどのように変わったのかなど、さまざまな情報をもとにして患者さん個人に応じた治療内容や治療を進めるための計画を考えることと、患者さん以外に家族や学校などにも介入することが推奨されています。
子供は表現力の面では成長・発達の途中ですので、ガイドラインでは子供に近い家族や学校関係者などの存在が最も重要だと強調されています。
親や保護者などが医療機関などに相談するときは、どんなことを医師などに伝えたらよいのでしょうか。そこで、前述の文部科学省・問題行動・不登校調査では、不登校の理由と子供を取り巻く状況などとの関係を分析した結果が参考になるかもしれません。
不安により不登校となった子供では「進路の不安」や「入学や転校、進級時の不適応」、無気力は「学業の不振」や「家庭に関わる状況」、学校の人間関係は「いじめ」や「友人関係」などと関わりがありました。
このような調査結果を参考にして、子供がふだんと違う行動をするようになった前後で家庭や学校においてどのような状況の変化があったのかについてメモをとって事例の詳細をまとめたうえで相談してみましょう。
うつ病のために生きづらく感じている子供を支えるためには、子供の変化に気付く、要因を探る、学校に相談する、医師に診察してもらう、子供の治療として学校や家庭の状況の改善に向けて行動していくなどの対応が考えられます。
いずれの対応においても、親や保護者などの存在がキーポイントになります。
原井クリニック
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