うつ病は、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、脂質異常などと関わりが深いので、栄養療法や運動療法も効果的とされています。国立精神・神経医療研究センターの功刀浩先生は、うつ病と関わりある食生活・栄養素(ビタミンやミネラルなど)について、国内外の研究論文のエビデンスをふまえ、第22回病態栄養学会学術集会*1の講演で紹介しました。
目次
うつ病は栄養面で問題があると発症しやすく、悪化や再発のリスクになることを指摘する研究報告が多くあります。
功刀先生らが1万人以上を対象に検討したウェブ調査結果によると、うつ病1000人の特徴として、肥満もしくはやせ、脂質異常症や糖尿病、朝食をとらずに夜食や間食が多いことが挙げられました*2。
以下は、功刀先生らの研究結果や国内外の研究結果のエビデンスから、うつ病との関わりがあると考えられる栄養素と食品です(表1、表2)。
ビタミンB1 | 豚肉(赤身)、うなぎ、玄米、ナッツ |
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ビタミンB2 | レバー、うなぎ、納豆、卵 |
ビタミンB6 | 刺身、レバー、鶏肉、納豆、ニンニク、バナナ |
ビタミンB12 | 貝類、レバー |
葉酸 | 葉物野菜、納豆、レバー |
トリプトファン | 牛乳、乳製品、肉、魚、ナッツ、大豆製品、卵、バナナ |
メチオニン | 牛乳、乳製品、肉、魚、ナッツ、大豆製品、卵、野菜、(ホウレンソウ、グリーンピース) |
チロシン | 牛乳、大豆製品、魚(カツオ節、しらす干し)、乳製品、肉、魚、卵、アボガド |
DHA、EPA | 青魚(サバやイワシなど) |
鉄 | レバー、牛赤身肉、魚貝、海藻、青菜類、納豆、緑黄色野菜 |
亜鉛 | カキ、ウナギ、牛肉、レバー、大豆製品、貝類 |
提供:表1、表2とも功刀浩先生
新鮮な野菜や魚介類、オリーブオイルがよく使われる地中海式料理は、うつ病の発症リスクを下げる可能性を指摘した海外の研究論文があります。
それによると、スペインの健康な大学卒業生を対象にうつ病発症を長期にわたって追跡した調査(平均4.4年)の結果、1万94人のうち480人がうつ病を発症していました。
そこで、食習慣の質を評価する地中海式食事スコアから分析したところ、スコアが高い人では最も低い人たちに比べてうつ病の発症率が低いことが明らかになったとのことです*3。
日本人の勤労者を対象に食事パターンとうつ病との関係を検討した報告があります。
野菜,果物,大豆製品、きのこ、緑茶などの摂取が多いことが特徴的な「健康日本食パターン」の人では抑うつ症状をもつ人が少ないことがわかりました*4。
個々の栄養素別にみてみます。魚の油に含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系脂肪酸との関わりが指摘されています。魚の摂取が多いフィンランドの2001年の研究では、魚をよく食べるとうつ病が少ないとの報告があります*5。
治療効果として検証した報告もあります。うつ病患者さんを対象に、抗うつ薬とともにEPA、DHAを摂取したグループと、オリーブオイルを摂取したグループで検討した研究では、EPAやDHAを摂取したグループのほうがうつ病は改善度が高かったとのことでした*6。
さまざまな研究論文をまとめて分析したメタアナリシスという報告がいくつかなされています。ネガティブな指摘も一部ありますが、多くはポジティブな見解が現状です。
なお、功刀先生らが行った、躁とうつの両方を呈する双極性障害の患者さんを対象とした研究では、健常者と比較してEPAやDHAの血中濃度が低いとの研究結果が得られているとの話でした。
ドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンなど、元気や気分に関わる脳内物質(体内で情報を伝達する神経伝達物質を総称してモノアミンといいます)が体内で減るのはビタミンB類(B6、B12、葉酸など)や後述する鉄分などの不足が関わります。
そこで、葉酸に関しては、前述の日本人勤労者を対象に食事パターンとうつ病との関係を検討した報告からは、うつ症状がある人を血液中の葉酸値が低い順に4つのグループに分けてみると、葉酸値が最も低いグループでうつ症状との関連が高いことがわかりました*4。
また、功刀先生らの調査結果では、血液中の葉酸値が基準値の4ng/mL未満である人の割合を健康な人(109人)とうつ病患者さん(99人)で比較したところ、うつ病患者さんは葉酸を不足している人が2~3倍高いことがわかりました*7。
前述のモノアミンの合成や代謝などのはたらきに関わる体内物質として鉄分が必要です。
不足すると、疲れやすい、イライラする、興味や関心が低下する、集中力が低下するので、うつ病に関わることが指摘されています。
鉄分が不足しやすいのは若い女性で、特に妊婦さんが最も鉄が不足しやすいと言われています。胎児に鉄分をとられることで出産のときに出血すると鉄が失われ、それにより産後うつ病の発症リスクが高まる可能性が指摘されています。
鉄欠乏の指標の血中フェリチン値が低いと、産後うつ病になりやすい指摘があります*8。
また、前述の功刀先生らが1万人以上を対象としたウェブ調査の結果によると、うつ病患者さんでは、うつ病でない人に比べて鉄欠乏性貧血に罹患したことがある人が多いこと、また鉄欠乏性貧血に罹患したことがある人はストレス症状が多いとの結果が得られています*1。
以上から、うつ病の発症や悪化には食生活や栄養素との関わりが多く、葉酸や鉄分も不足しないように摂取することが必要なことがわかりました。
また最近、腸内細菌や過敏性腸症候群とうつ病との関わりが指摘されています。次回、紹介します。
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