こころの病気について平成30年間をまとめれば、うつ病が誰でもかかりえる病気として日常的なものになったことが大きなできごとの一つでしょう。うつ病になるのは職場のストレスに悩む大人だけではありません。子供も増加しているという報告があります*1。親や保護者など大人はどうすればよいのでしょうか。原井クリニック院長の原井宏明先生に解説していただきました。
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北海道大学の傳田健三先生の研究によると、2007年に北海道千歳市の小中学生738人に対し精神科医が直接面接する調査を行ったところ、小学4年生から中学1年生のうつ病の有病率は1.5%で、中学1年生では4.1%と高いことが明らかになりました*2。
最近は、医療機関を受診する子供が増加しています。特に女児に多く、横浜市立大学附属市民総合医療センターにおける児童精神科の入院患者数では女児が男児の約2倍でした*3。
うつ病が不登校、発達障害、不安症、摂食障害などの陰に隠れていることもあります。今回は、この「子供のうつ病」について考えてみましょう。
うつ病の症状は大人でも子供でもほぼ共通しています。イライラや抑うつ気分、楽しさと喜びの喪失、不眠や過眠、食欲低下、身体症状などです。
大人と違うのは腹痛の訴えが多く、腰痛はまれなこと、劣等感・無価値観などのマイナス思考が多いことでしょう。「自分は生まれてこなければよかった」と訴える子供がよくいます。この訴えは、大人なら希死念慮(死にたいと考えること)を訴えることにあたります。
うつ病は成長の過程の一過性のものというのもよくあります。どこまでが見守るだけでよいのか、どこから治療が必要になるのかなど、見極めや判断が難しいところがありますので、時間をかけて周辺環境もふまえて観察したうえで専門家に相談することが重要です。
DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)と呼ばれる世界的に使われている標準的な診断方法によれば、抑うつ気分や楽しさと喜びの喪失などの症状が5つ以上、2週間以上ずっと継続していることがうつ病と診断する条件だとされています。
「どれだけ長く布団に横に寝ても、よく眠れない」という不眠や睡眠過多、「休養しても取れない慢性疲労や腹痛」などの身体の訴えがあることもよくあります。
不安や多動、学習障害などと関連して起こることもあります。また、冬季うつ病の可能性もあり、この場合は別に考える必要があります。
子供のうつ病の特徴として、以下に身体症状と行動の現れ方について示します。
イライラしたり、注意力が低下したり、無気力になったり、誰でもそんなときはあります。でも、普段より過度に出ているなら、その背後にうつ病が隠れていることも。基本的には症状が2 週間以上続いているのなら、うつ病の可能性があります。
うつ病治療ガイドライン2016年版によると、大人も子供も症状は基本的には同じですが、心身ともに成長過程にある子供は、落ち込んだ気分を大人のように言葉で表現できないことが多く、身体症状や行動として現れることが多いようです。
ガイドラインでは、大人との違いとして、イライラや怒りっぽいこと、体重の減少や、成長にともなって体重が増加するはずなのに増えていないことが挙げられています。
うつ病と分かった場合は、症状が治まるまで半年~1 年程度かかります。海外の研究では、半年以内に回復するとの指摘もあります*4。
しかし、うつ病の子供がよくなったのに、再び発症するケースがあります。
海外の研究報告では、回復した患者さんのほぼ半数が5年以内に再発していたとの指摘があり、短期間で十分な治療反応がなかった青年や女性、不安症が併存する青年では新たなエピソードが出現する割合が高いとの指摘もあります*5。
成人同様に再発を繰り返すとの指摘もあります。思春期で抑うつ症状がある140人を3~9年(平均6年)にわたり経過を調査した報告では、約半数が抑うつ症状に関わる行動(エピソードといいます)が再び見られたことと、多くの患者さんが不安障害、薬物関連障害、摂食障害などを発症しているとの報告もあります*6。
再発率は高いと考えられるので、長期的にじっくり取り組むつもりで構えましょう。
家族など周りが注意しないといけないのは、すぐに学校に通えるようになる、落ちた成績が上がるといった目に見える成果を焦らないことです。
子供のうつ病の対応に関しては、基本的には、本人を温かく見守り、様子がおかしいと思えば専門家に相談するのがよいでしょう。
身体症状がある場合は、まずは小児科などを受診して身体的には異常が発見されなければ児童精神科へ。その結果、うつ病と診断される場合があります。素人判断は控えましょう。
うつ病の治療は、子供だけではなく、普段の生活や学校の状況を含めて総合的に考えないといけません。
注意しなければならないのは、子供の周辺環境によるストレスが引き金になってうつ病になるといっても、家庭以外に学校での就学状況が原因の場合もありますので、家庭そのものが原因かどうかと決め付けてはいけません。
気をつけたいのは、親が「自分の育て方が悪い」と過度に反省したり、周囲が家族を責めることです。子供がうつ病になっている場合、親も同様にうつ病になっていることが3割程度であるとされています*7。うつ病になった子供は何かにつけて自分が悪いと自分を責めがちです。そんな子供の前に暗い顔をした親がいると想像してみてください。「親がツラそうな顔をしているのは自分のせいだ」と子供は思い込みます。
うつ病の親に育てられた子供がうつ病になった時、それを親のせいにしても何も改善しないことは明らかでしょう。
家族が子供の状況を医師に相談することで突破口が開け、環境が改善されて子供の症状がよくなることが多いといわれています。
親がしっかり考えてあげることで、子供にかかっているストレスが軽くなり病気が改善することがありますし、実は親の取り越し苦労だと明らかになる場合もあります。周囲は「がんばれ」など励ますのではなく、焦らずゆっくり治すことを考えましょう。
相談先としては、児童精神科以外にも、保健所での児童発育相談や精神相談の窓口、かかりつけの小児科医などが考えられます。大切なのは家族だけで悩まず、信頼できる誰かに相談することです。
原井クリニック
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