パーキンソン病は、今後も高齢の患者さんが増えていきます。在宅または介護施設では、専門医のサポートを受けて患者さんをケアすることが課題となっています。そこで、順天堂大学脳神経内科と介護施設「PDハウス」を運営する株式会社サンウェルズとの協働により、情報通信技術(ICT)を駆使して、遠方にいる専門医が患者さんや家族、かかりつけ医や介護スタッフをサポートする在宅医療の研究講座が2019年10月に開設されました*1。 目次 高齢のパーキンソン病患者が急増、患者さんや家族への介護ケアが課題 遠方の専門医が患者さんや家族、かかりつけ医や介護のスタッフにタブレット端末からアドバイス 専門医が終末期まで患者さんに寄り添い続ける近未来の診療と介護のあるべき姿 高齢のパーキンソン病患者が急増、患者さんや家族への介護ケアが課題 長期にわたって専門的な治療が必要なパーキンソン病ですが、重度化する患者さんや、介護施設に入居すると通院が困難になる患者さんが増えてきます。 さらに、病院では長期入院が難しくなっている現状もあり、専門医と患者さんや家族のかたとの関わりが薄くなってしまいます。 また、病気が進行すると、手足の震えや体の動きのぎこちなさといった症状に悩まされるので、都市部に比べて専門医が少ない地方では、在宅医療や介護施設を専門医がサポートできるようにすることが課題です(図1)。 図1:これまでのパーキンソン病診療の課題 出典:順天堂大学の記者会見(2019年12月6日開催)「順天堂大学がICT制御に基づく在宅医療開発講座を開設~ICTを駆使した未来のパーキンソン病ハウスを目指して~」資料 そこで、患者さんや家族のかたに、遠方にいる専門医と介護施設や往診医(かかりつけ医)とつなぐ仕組みづくりとして、順天堂大学順天堂医院脳神経内科と、国内初となるパーキンソン病専門の介護施設「PDハウス*3」を運営する株式会社サンウェルズ(https://sunwels.jp/)と共同で「ICT制御に基づく在宅医療開発講座」を2019年10月に開設されました*2。 遠方の専門医が患者さんや家族、かかりつけ医や介護のスタッフにタブレット端末からアドバイス 共同研究講座は、都内の順天堂大学の専門医による協力のもと、複数のセンサーでモニターし、遠方のパーキンソン病ハウスに入所する患者さんの生活上の課題を洗いだし、QOLを改善していくことを目的にしています。 たとえば、患者さんの転倒や転倒による骨折を防ぐために、患者さんの歩行をはじめとした生活状況について、情報通信技術(ICT)を駆使したマルチセンサー・遠隔モニタリングなどによりデータを収集して、日常生活内でのリスクを解析します。 その結果をもとに、住宅のハード面・ソフト面から改善するホームアダプテーションにより、患者さんのQOL向上を目指します。 図2:専門施設パーキンソン病ハウスにおける遠隔ICTを駆使した患者さんのサポート 専門医が終末期まで患者さんに寄り添い続ける近未来の診療と介護のあるべき姿 将来構想としては、全国どこにいても最先端かつ患者さん個人に最適な医療・介護を受けられる時代が来る可能性があります。たとえば、拡張現実を用いた3D空間のクリニックで、遠くにいる専門医による診療を受けられることができるかもしれません。 順天堂大学の在宅医療開発講座は近未来の診療と介護のあるべき姿として、専門医が終末期まで患者さんに寄り添い続けることが課題です。 そのために、患者さんや家族のかたにもご協力いただいたうえで、専門医を通じたICTモニタリングでリアルワールドデータを蓄積することは、進行期~終末期の患者さんの生活の質(QOL)が向上するためのより良い方法の発見、さらには人生100年時代を満喫できることにもつながるといえるのではないでしょうか。 *1:2019年12月6日に開催された順天堂大学の記者会見「順天堂大学がICT制御に基づく在宅医療開発講座を開設~ICTを駆使した未来のパーキンソン病ハウスを目指して~」から本記事を作成しました。 *2:順天堂大学医学部神経学講座・順天堂医院脳神経内科教授の服部信孝先生、先任准教授の髙梨雅史先生、准教授の大山彦光先生らのグループは、パーキンソン病(PD)専門ホーム“PDハウス”(PDは、パーキンソン病の英語名:Parkinson Diseaseの略語)を運営する株式会社サンウェルズと共同し、共同研究講座「ICT制御に基づく在宅医療開発講座」を2019年10月に開設しました。 *3:株式会社サンウェルズが運営するPDハウスは石川県に2施設、福岡県に1施設あります。2020年は、北海道や大阪府などで開設する予定で、将来は全国の患者さん4000~5000人のサポートを目指しています。 ■関連記事 パーキンソン病に長く悩んでいる人にはDAT外来に相談 順天堂大学 パーキンソン病ってどんな病気?最新の治療法は? パーキンソン病を発症する前に血液で診断する方法を開発 便秘、嗅覚低下、睡眠障害、うつも早期発見の鍵 パーキンソン病 公開日:2020/01/29 監修:順天堂大学医学部神経学講座 順天堂医院脳神経内科教授 服部信孝先生、先任准教授 髙梨雅史先生、准教授 大山彦光先生
パーキンソン病の治療歴が長いけど、薬の効く時間が短く生活に困っている。今の治療法について誰かに相談したい。そんなかたのために、順天堂大学順天堂医院では2019年9月から「DAT(Device Aided Therapy)外来」を開設しました。脳神経内科医、外科医、精神科医や看護師、心理士、薬剤師など多職種のスタッフがサポートして、最新治療の選択肢を含め、患者さん個人に最適な治療を提供することを目指しています。 目次 脳内でドパミンが減って手足の震えや体の動きがぎこちなくなって生活に困る病気 ウェアリング・オフ現象、ジスキネジアが課題 デバイス治療の経腸療法や脳深部刺激療法の選択も有用 DAT外来は外来、多職種のスタッフがサポートして患者さんにベストの治療を提供 脳内でドパミンが減って手足の震えや体の動きがぎこちなくなって生活に困る病気 パーキンソン病は運動障害疾患の1つで、脳内の神経間で情報を伝達する物質のドパミンが減ることで手足の震えや体の動きがぎこちなくなるなどの症状に悩まされる病気です。 治療法は、薬や手術、リハビリなどがあります。 薬に関しては、ドパミン補充を目的としたL-ドパ(レボドパ製剤)が中心で、L-ドパは脳内に移行したときにドパミンに変化することを応用したものです。おもに血管内でドパミンに変わることを防ぐドパ脱炭酸酵素阻害薬との合剤(レボドパ・カルビドパ合剤)として使用されます。 ドパミン補充とは別の作用をする薬は、ドパミンと同様の作用を持つドパミンアゴニスト、ドパミンが体内や脳内に分解されることを防いで脳内にドパミンが移行されやすいようにする作用を持つ薬〔MAOB阻害薬(MAOBはモノアミン酸化酵素B)、COMT阻害薬(COMTはカテコール-O-メチル基転換酵素)〕などもあります。 ウェアリング・オフ現象、ジスキネジアが課題 ドパミンを補充する薬を長く服用し続けていくと、薬が効いている時間が短くなるときや、逆に効きすぎるときがあります。下記のような運動合併症が現れることがあります。 ウェアリング・オフ現象:薬が効く時間が短くなることで、1日の中で症状が悪化する時間帯が出てくる症状です。 オン・オフ現象:薬が突然効かなくなって動けなくなるオフ状態、効果が突然あらわれるオン状態を繰り返します。 ジスキネジア:薬が効きすぎていることにより、自分の意思とは関係なく勝手に動いてしまいます。 上記の運動合併症や、L-ドパの副作用に悩まされて、薬の調整が難しくなる患者さんがいます。こうした問題に対し、薬の量を増やす、薬の回数を増やす、飲み薬から貼り薬にするほか、デバイス(機器)を用いた治療法(Device Aided Therapy:DAT)があります。 デバイス治療の経腸療法や脳深部刺激療法の選択も有用 デバイスを用いた治療は大きく2つの方法があります。1つは脳深部(のうしんぶ)刺激療法(DBS:Deep Brain Stimulation)です。 脳に細い電極を入れ、胸に埋めた装置とつないで刺激を与え続けて脳の神経情報の伝達を調整する治療法で、世界で10万人以上が受けています。国内では保険診療で受けられます。運動障害疾患のジストニアやトゥレット症候群などにも有効な治療法です。 もう1つは、内視鏡で胃に穴をあけて、腸までチューブを挿入し、体外式ポンプ機器につないで薬を24時間持続的に注入する経腸療法です。 国内では、レボドパ・カルビドパ製剤を持続的に服用する経腸療法は2017年から保険診療で受けられます。現在、国内で受けている患者さんは500人ほどです。 L-ドパの効果を途切れさせずに持続的に服用できるので、ドパミンを安定的に補充することにつながります。薬が効かない時間帯があるウェアリング・オフ現象や効きすぎてしまうジスキネジアが現れにくく、1日中よい状態を保つことができる可能性があります。 現在は、経腸療法以外に皮下注射で持続注入する方法も開発され、治験(関連記事:治験は新薬の誕生にかかせない社会貢献、正しく理解しよう!)が行われています。 図1:デバイス治療の経腸療法(左)、脳深部刺激療法(右) 出典:順天堂大学プレスリリース(https://www.juntendo.ac.jp/news/20190905-02.html) イラスト出典:パーキンソンスマイル.net(アッヴィ合同会社) 写真:経腸療法のデバイスを装着した状態 DAT外来は外来、多職種のスタッフがサポートして患者さんにベストの治療を提供 2019年9月、順天堂大学順天堂医院(東京都文京区)の服部信孝先生、大山彦光先生らは、進行期のパーキンソン病や運動障害疾患の患者さんがよりよい日常生活を送ってもらうことを目的に、DAT(Device Aided Therapy: デバイス治療)外来を開設しました。 DAT外来の特徴は大きく2つ。1つはDATです。順天堂医院はDATを意味する新たな治療選択肢(脳深部刺激療法や経腸療法)を受けられる国内でも数少ない医療機関の1つです。 もう1つは、脳神経内科医、外科医、看護師、リハビリスタッフ、精神科医・心理士、薬剤師、研究者など多職種のスタッフが、外来、入院、退院後も含めて患者さん個人にベストの治療を提供できることを目指してサポートしていることです(図)。 相談に関しては、受診に関係なく全国どこからでも受け付けます。チームで検討し、いまの治療法よりもよい治療選択肢などがあれば提案するようにしています。 図2:DAT外来の多職種スタッフによるサポートの仕組み 出典:順天堂大学プレスリリース(https://www.juntendo.ac.jp/news/20190905-02.html) パーキンソン病は国内では10万人あたり約150人といわれており、高齢になるほど発症しやすいので、将来も問題視されている病気です。 さまざまな治療法をうまく組み合わせて、患者さん個人に応じた最適な治療法を提供できれば、パーキンソン病をコントロールしてよりよい日常生活をおくることが可能です。 すでにデバイス治療を受けているけど他の医療機関に相談したい人、治療内容を巡ったトラブルに悩んでいる人、薬の福作用に悩んで服用中断を考えている人は、最新治療も含めて患者さん個人にベストな治療法を考えてくれるDAT外来に相談できます。 ■参考 順天堂大学プレスリリース:https://www.juntendo.ac.jp/news/20190905-02.html ■関連記事 パーキンソン病を発症する前に血液で診断する方法を開発 便秘、嗅覚低下、睡眠障害、うつも早期発見の鍵 近未来のパーキンソン病ハウス、遠隔ICTで患者さんをサポート 順天堂大学と企業で共同研究 パーキンソン病 公開日:2019/12/25 監修:順天堂大学順天堂医院(東京都文京区) 脳神経内科 服部信孝先生、大山彦光先生
パーキンソン病は、手足の震えや、動きがにぶくなること、不安やうつ、落ち込みなど、さまざまな症状があります。病気のメカニズムと最新治療に関して、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)ブレインバンク主催の市民講演会*1から、国立病院機構仙台西多賀病院院長の武田篤先生の講演「パーキンソン病ってどんな病気?」を中心に紹介します。 目次 手足の震え、不安やうつ、落ち着きのなさ、便秘や嗅覚障害、睡眠障害などが特徴 治療の中心はドパミン不足を補うために「さびた自転車に油をさして脳を潤滑させる」 発症早期の患者さん、40~60歳代の患者さんに最適な治療選択肢は? 腸から服用するデバイス治療で1日一定量のドパミンを補う方法もあります 「タンパク溜まり病」の原因となるレビー小体とαシヌクレインを減少させる新薬 手足の震え、不安やうつ、落ち着きのなさ、便秘や嗅覚障害、睡眠障害などが特徴 武田先生は、パーキンソン病になぜなるのか、そして治療の最前線として日常生活の悩みをやわらげるための治療法や、病気のメカニズムに着目した新薬に関して解説しました。 講演によると、体を動かすことや心を落ち着かせることは、脳内で神経と神経が連絡を取り合い、情報が伝達されることにより調節されますが、パーキンソン病という病気はスムーズに調節することができません。 原因は、脳内の神経情報の伝達に関わる物質のドパミンが減るためと考えられています。ドパミンは、脳幹の中脳にある黒質というところのドパミン神経細胞でつくられますが、ドパミン神経細胞が減ってドパミンが欠乏してくると、脳内の運動調節に関わる線条体や、思考や心の調節に関わる前頭葉に神経情報をうまく伝えられません。 そうすると。手足の震えや動きがぎこちない運動症状、不安やうつ、落ち着きのなさ、神経障害の便秘や嗅覚の障害、睡眠障害などの非運動症状が現れます。 治療の中心はドパミン不足を補うために「さびた自転車に油をさして脳を潤滑させる」 パーキンソン病の治療はドパミン不足を補うために「さびた自転車に油をさす」、「脳内の潤滑油になる」という考えかたです。薬は、L-ドパという脳内に移行したらドパミンに変わる作用を持つ薬(レボドパ製剤ともいいます)が中心になります。 しかし、薬の効果持続時間が短いことと、長期にわたり服用することで薬が効く時間帯が以前よりも短くなるケース、脳がL-ドパに反応しやすいケースなどにより、運動合併症という日常生活に影響する問題がおこることがあります。 運動合併症には、1日の中で薬の効果が途切れる時間帯がでてくるウェアリング・オフや、薬が効きすぎて自分の意思と関係なく勝手に動くジスキネジアがあります。 そこで、L-ドパのドパミン補充効果を補助することや調節することをおもな目的として、ドパミンの作用を促すための薬(ドパミンアゴニスト*2)などのほか、薬が脳以外の体内で分解されることを防いで脳内に移行されやすくする代謝酵素阻害薬*3などもあります。 発症早期の患者さん、40~60歳代の患者さんに最適な治療選択肢は? 日本神経学会の医師向けのパーキンソン病診療ガイドラインでは、発症早期の患者さん、病歴が長い進行期の患者さんなど、それぞれ治療方法が提案されています。 発症が60歳代以下で発症早期のケースでは、ドパミン神経細胞がまだ十分に残っていることもあり、L-ドパ以外の薬剤も比較的有効性を示しやすいと考えられます。こうしたケースでは運動合併症の予防のために、ほかの薬(ドパミンアゴニストなど)と組み合わせて、L-ドパの投与量を減らすL-ドパ回避療法が選択されることがあります。 一方で70歳代以上など比較的高齢で発症したケースや認知機能障害が加わったケース、さらに運動機能障害の強いケースなどでは、もっとも有効性の高いL-ドパを第一選択とします。 腸から服用するデバイス治療で1日一定量のドパミンを補う方法もあります 進行期の患者さん、高齢患者さんではドパミンをつくるドパミン神経細胞がかなり欠乏していると考えられるので、不足したドパミンを補うためのL-ドパが治療の中心になります。 L-ドパは効果の持続時間が短いことや、長年にわたり薬を服用することなどにより、ウェアリング・オフやジスキネジアなどの運動合併症が問題になります。対策の1つとして、最近は機器を用いたデバイス治療も使われています。 デバイス治療については、胃に穴を開けて小腸までチューブを入れ、体外式ポンプ機器を装着して一定かつ持続的に服用することでL-ドパの効果を途切れないようにする治療法が健康保険で受けられます*2。 また、皮下注射のデバイス治療(持続皮下注入療法)についても開発が進んでいます。 「タンパク溜まり病」の原因となるレビー小体とαシヌクレインを減少させる新薬 最近、パーキンソン病、アルツハイマー型の認知症、ALS(筋萎縮性側索硬化症)といった変性性の神経の病気は「タンパク溜まり病*5」であるといわれています。 というのは、神経細胞にタンパクが凝集して溜まると、封入体というタンパクのかたまりができて、神経細胞にダメージを与えることが発症原因になるからです。 パーキンソン病では、ドパミン神経細胞のなかにαシヌクレインというタンパクが蓄積してレビー小体という封入体ができると、ドパミン神経細胞にダメージを与えてドパミンが欠乏することが明らかになっています*6。 そこで、ドパミン神経細胞に異常蓄積したタンパク(αシヌクレイン)を減少させて封入体のレビー小体を除去する抗αシヌクレイン抗体薬が保険承認に向けて開発されています。 その他の新薬関連では、脳内でαシヌクレインのタンパク合成自体を防ぐ核酸医薬の開発研究が進められています。また、ドパミン神経細胞を再生させることでドパミンを多くつくることを目的としたiPS細胞を応用した再生医療の研究が進められています。 最後になりますが、パーキンソン病患者さんのなかには、薬の福作用に悩んで服用を自己判断でやめる人がいます。しかし、体内で減ってしまったドパミンを補充しないと、ますます病態が悪化していくので、薬を中断することは避けなければなりません。 患者さんの状況に応じて、個人に最適な治療を受けられるよう、さまざまな選択肢があります。患者さんは、日常生活で困っていることなどをメモして持っていくなど、医療者に理解してもらったうえで、治療法について相談しましょう。 *1:2019年9月28日に、国立精神・神経医療研究センターブレインバンク主催、東京都健康長寿医療センター高齢者ブレインバンク共催の第19回市民講演会は、「パーキンソン症状をきたす疾患の治療法開発とブレインバンクの役割」をテーマに開催されました。 ブレインバンク:アルツハイマー病・パーキンソン病・ALS(筋萎縮側索硬化症)をはじめとした難治性の神経の病気に対し、認知・運動障害の克服に向けて根本的な治療法を開発するためには、死後の脳の組織を調べて、脳の中で起こっている異常と病気の成り立ちを明らかにすることが重要です。そこで、生前に同意してもらい、死後の脳組織を提供してもらうための機関としてブレインバンクが設立されました。 国立精神・神経医療研究センターブレインバンクのホームページ:https://www.brain-bank.org/index.php *2:ドパミンアゴニストはドパミン受容体刺激薬といいます。ドパミンがドパミン受容体というところに結合すると神経間の伝達役となります。そこで、不足したドパミンの代わりに薬の成分がドパミン受容体に結合して作用します。 *3:腸、肝臓、血管内でドパミンに変わることを防ぐドパ脱炭酸酵素阻害薬のカルビドパとレボドパ(L-ドパ)との配合剤や、L-ドパが脳内に入る前に分解されることを防ぐCOMT阻害薬(COMTはカテコール-O-メチル基転換酵素)、脳内でドパミンが分解されることを防ぐMAOB阻害薬(MAOBはモノアミン酸化酵素B)などがあります。 *4:デバイス治療は、脳深部刺激療法という脳外科的な手術療法と、機器を用いてL-ドパを持続服用する方法があります。機器を用いる方法は、ドパ脱炭酸酵素阻害薬カルビドパとL-ドパと配合したレボドパ・カルビドパ製剤は2016年から保険診療で治療を受けられます。 *5:市民講演会の愛知医科大学加齢医学総合研究所教授の吉田眞理先生の講演「進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核症候群(CBS)の臨床病理像」によると、パーキンソン病やレビー小体型認知症、アルツハイマー病などタンパク溜まり病は、封入体のタンパクから病気を分類できます。 パーキンソン病と認知症の1つレビー小体型認知症はαシヌクレインというタンパクが蓄積します。一方、認知症のアルツハイマー病はタウというタンパクが蓄積します。同じ認知症でも病気のメカニズムが違うので治療も異なります。 なお、ALS(筋萎縮性側索硬化症)や前頭側頭葉変性症TDP-43というタンパク蓄積が原因とされています。 *6:市民講演会の東京都健康長寿医療センター高齢者ブレインバンク部長の村山繁雄先生の講演「高齢の方の 1/3はレビー小体をお持ちです」によると、2003~16年に高齢者ブレインバンクに提供してもらった1057人の脳の組織を病理解析した結果、レビー小体ならびにαシヌクレインの蓄積が認められました。 ■関連記事 パーキンソン病を発症する前に血液で診断する方法を開発 便秘、嗅覚低下、睡眠障害、うつも早期発見の鍵 パーキンソン病 公開日:2019/12/11 監修:国立病院機構仙台西多賀病院院長 武田篤先生、国立精神・神経医療研究センターブレインバンク、東京都健康長寿医療センター高齢者ブレインバンク
パーキンソン病といえば手足の震えなどの症状が思い浮かばれますが、実はその段階ではすでに病気が進行しています。そこで、発症しはじめる前に見られる嗅覚の低下や便秘、睡眠障害、うつ症状が「早期発見の鍵」として注目されています。2019年7月には順天堂大学の研究チームから、発症早期や発症前に血液で診断できる方法について開発動向が報告されました。 目次 手足の震えなどの運動症状が起こる前から現れやすい「非運動症状」とは? 血液検査でスペルミンを測定するとパーキンソン病を早期発見できる可能性 血液中の老化に関わる物質がパーキンソン病患者さんで変化することを発見 手足の震えなどの運動症状が起こる前から現れやすい「非運動症状」とは? パーキンソン病を発症する最大のリスクは加齢です。2030年には世界の患者数が1400万人、国内では疫学研究によりパーキンソン病患者数が約15万人になるといわれています。 パーキンソン病は、脳内でドパミンという神経間の情報伝達物質が減ることで発症します。パーキンソン病の症状としては、手足の震えなど運動症状がよく知られています。 ■運動症状 振戦(しんせん):何もしていなくても手足が震える 固縮(こしゅく):筋肉の緊張で固くなって手足の動きがぎこちなくなる 寡動(かどう)・無動(むどう):動作が緩慢になる 姿勢反射障害:姿勢を保持できず、体のバランスが悪くなって転びやすくなる 仮面様顔貌(かめんようがんぼう):表情が乏しくなる パーキンソン病診療ガイドライン2018(日本神経学会)では、病気を早く発見して治療を受けてもらうことが推奨されています。上記の運動症状は発症後に見られるものですので、発症しはじめる前後に現れやすい「非運動症状」が注目されています。 ■非運動症状 嗅覚低下:においがわからなくなる嗅覚の低下は本人が自覚しにくいので、家族などが気づくケースが多いようです。 便秘:腸の動きに関わる自律神経に支障が起こることが原因です。排便が3日に1回程度とされています。 レム睡眠行動障害:寝ている状態でも夢を見ている内容が行動に現れることをいいます。例えば大声の寝言、手足を激しく動かす、立ちあがって動き回るといったことなどが挙げられます。 うつ:気分や感情、情動、興味や関心などが欠如した状態が見られます。自殺念慮や幻覚・妄想といった重度の症状は少ないなどの特徴があります。仮面様顔貌や無動などの運動症状がうつ病と診断されるケースがあります。 その他の特徴としては、夜間頻尿(夜に3回以上トイレに行く場合など)や立ちくらみ、過眠(日中の眠気など)といった症状もあるようです。 血液検査でスペルミンを測定するとパーキンソン病を早期発見できる可能性 手足の震えなどパーキンソン病の症状が現れる前の発症しはじめた段階、できれば発症前から診断できることへのニーズが高まっています。 最近、順天堂大学の服部信孝先生、斉木臣二先生らは、血液検査で病気を早く見つけることができる可能性があることを、米国神経学会誌(Ann Neurol 2019;86(2):251-26)に発表しました。 研究によると、パーキンソン病が高齢者で発症しやすいことに着目し、患者さんの体内で抗加齢効果を持つ物質が減少するとの仮説を立てて、健康な49人とパーキンソン病患者さん186人の血液から、抗加齢効果を持つポリアミン(体内物質のプトレシン、スペルミジン、スペルミンの3化合物の総称)の代謝物質7種類を調べました。分析結果から以下のことがわかりました。 ・ポリアミンの代謝物質7種類のうち、「スペルミン」という物質などの血清中の濃度は、患者さんグループでは健康な人(健常者)のグループに比べて低く、「スペルミジン」や「ジアセチルスペルミジン」などの濃度は患者さんグループのほうが高いこと、またスペルミンとスペルミジンとの比率(スペルミン/スペルミジン比)は患者さんグループのほうが低いことがわかりました(表)。 表:血清中ポリアミン代謝物比 代謝物質名 パーキンソン病患者/健常者比 P値 ジアセチルスペルミジン 2.77 <0.0001 N1-アセチルスペルミジン 1.46 <0.0001 N8-アセチルスペルミジン 1.55 <0.0001 ジアセチルスペルミン 1.59 <0.0001 スペルミジン 1.8 <0.0001 N1-アセチルスペルミン 0.945 0.302 スペルミン 0.762 0.0468 スペルミン/スペルミジン比 0.459 <0.0001 *健康な人のグループ(健常者)を1とした場合に対して患者さんグループにおける血清中濃度の割合。7種類のポリアミン代謝物質のうち、赤字は患者さんのグループで統計学的に有意に高く、青字は有意に低下した代謝物質を示します。 ・「ジアセチルスペルミジン」の血清中の濃度は、患者さんのグループでは健康な人(健常者)のグループに比べて高く、患者さんでは重症になるほど高くなるので、パーキンソン病の重症度判定に有用な可能性があります(図1)。 図1:ポリアミン代謝物質の濃度とパーキンソン病重症度との相関 ***:p<0.0001 表、図1の出典:順天堂大学2019年7月2日リリース「血中老化関連物質ポリアミンがパーキンソン病患者で変化することを発見 https://www.juntendo.ac.jp/news/20190702-01.html、 Ann Neurol 2019;86(2):251-26 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31155745 血液中の老化に関わる物質がパーキンソン病患者さんで変化することを発見 患者さんのグループでは健康な人(健常者)のグループに比べてスペルミジンが増加し、スペルミジンの代謝物質のスペルミンが減少していたので、そこに着目して、さらに分析しました。その結果、以下のことがわかりました(図2)。 図2:ポリアミン代謝物質の濃度とパーキンソン病との関係 ・スペルミンとスペルミジンとの比率(スペルミン/スペルミジン比)は健康な人(健常者)のグループに比べてパーキンソン病患者さんのグループで低下していました(図2A)。 図2A ***:p<0.0001 ・健康な人(健常者)のグループでは加齢に伴ってスペルミン/スペルミジン比が低下していたのですが、パーキンソン病患者さんのグループでは年齢に関係なく低下していました(図2B)。 図2B 図2の出典:順天堂大学2019年7月2日リリース「血中老化関連物質ポリアミンがパーキンソン病患者で変化することを発見」 https://www.juntendo.ac.jp/news/20190702-01.html、 Ann Neurol 2019;86(2):251-26 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31155745 つまり、スペルミン/スペルミジン比がパーキンソン病の発症早期または発症前の診断につながることが考えられました。 パーキンソン病は、これまで手足の震えなど運動症状から診断されていました。今回の研究報告からは、加齢に関わる物質を血液検査で測定することにより、パーキンソン病を発症する前や発症しはじめた段階で診断できるツールにつながる可能性が考えられます。 ■参考文献 日内会誌2014;103:1854~1860 順天堂大学2019年7月2日リリース「血中老化関連物質ポリアミンがパーキンソン病患者で変化することを発見」 https://www.juntendo.ac.jp/news/20190702-01.html Ann Neurol 2019;86(2):251-26 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31155745 ■関連記事 手がふるえる、歩くとき前かがみになる…パーキンソン病の基礎知識 症状改善のカギは「脳」!?パーキンソン病の治療方法 パーキンソン病を発症する前に血液で診断する方法を開発 便秘、嗅覚低下、睡眠障害、うつも早期発見の鍵 パーキンソン病に長く悩んでいる人にはDAT外来に相談 順天堂大学 近未来のパーキンソン病ハウス、遠隔ICTで患者さんをサポート 順天堂大学と企業で共同研究 パーキンソン病 公開日:2019/09/04 監修:順天堂大学大学院医学研究科神経学教授 服部信孝先生、准教授 斉木臣二(さいきしんじ)先生
パーキンソン病のおもな症状や、病気のしくみなどパーキンソン病の基礎知識について解説。手がふるえる、歩くとき前かがみになる、などの症状はありませんか? 目次 パーキンソン病ってどんな病気? パーキンソン病が起こるしくみは? パーキンソン症候群との違いは? パーキンソン病ってどんな病気? 何もしていないのに手がふるえ、歩くときに前かがみになる。こんな症状が現れたら、それはパーキンソン病かもしれません。そのほかに、歩幅が狭くなることや、歩くときに手の振りがなくなることも特徴的な症状です。バランスが悪くなって転びやすくなるせいで、骨折も多くみられます。多くの場合、手のふるえなどの症状は、初めは左右のどちらかに起きます。それがゆっくりと少しずつ進行していき、やがてもう一方にも起きるようになります。 この病気は60歳前後で発症する人が多いのですが、それ以上の高齢者や20代の若者に起きることもあります。なお、性別による差はほとんどありません。 パーキンソン病のおもな症状 何もしていないのに手がふるえる 歩くときに前かがみになる 歩幅が狭くなる 歩くときに手の振りがなくなる 顔の表情がかたくなる 体の筋肉がかたくなる 動作がゆっくりになり、動く回数も減る 体のバランスが悪くなり転びやすくなる 声が小さく早口になる 2つ以上の動作が同時にできなくなる …など パーキンソン病が起こるしくみは? パーキンソン病は遺伝によって起きることがありますが、はっきりした原因は現在もまだわかっていません。そのため、厚生労働省より治療の難しい特定疾患のひとつに指定されています。 原因は解明されていないものの、パーキンソン病が起きるしくみで明らかになっていることもあります。脳内には血液の循環を促して体の動きを活発にさせるノルアドレナリンという神経伝達物質がありますが、これに変わる前の段階であるドパミンという神経伝達物質が、パーキンソン病の患者の脳内では減少していることがわかっています。 脳の一部である中脳には、筋肉の緊張をコントロールする黒質(こくしつ)と呼ばれる部分があります。ここの神経細胞で作られたドパミンが、大脳にある線条体(せんじょうたい)という部分へ受け渡されることで、体の動きに関する命令が伝わります。パーキンソン病の症状である体の動きの異常は、黒質の神経細胞が減り、ドパミンの数も減ることによって、体全体への命令がうまく伝わらないせいで起きていると考えられています。 パーキンソン症候群との違いは? 手足のふるえや筋肉がかたくなるなどの症状は、ほかの病気でもみられることがあります。脳血管の病気である多発性脳梗塞(たはつせいのうこうそく)や、神経の病気である大脳皮質基底核変性症(だいのうひしつきていかくへんせいしょう)などがそれにあたり、ほかにも薬や毒物の影響で同様の症状が現れることもあります。パーキンソン病ではありませんが、似た症状が現れるこれらを総じてパーキンソン症候群と呼びます。 パーキンソン症候群と区別してパーキンソン病と認定される条件は、以下のようになっています。 パーキンソン病の認定基準 次の4つを満たせばパーキンソン病と認定される。 1~3は満たすが4をまだ確かめていない場合は、パーキンソン病疑い症例とされる。 (1)パーキンソニズム※1が確認できる (2)脳CTまたはMRI検査をしても特定の異常が見つからず、ほかの病気が原因だとは考えられない (3)パーキンソニズムを起こす薬物や毒物との接触がない※2 (4)抗パーキンソン病薬の投与によってパーキンソニズムが改善される ※1:次のいずれかに当てはまる場合、パーキンソニズムが確認できたこととする。 ・パーキンソン病の典型的症状である、じっとしている状態での左右どちらかのふるえ(4~6Hz)がみられる ・歯車のように筋肉がカクカクと動く、動作がゆっくりになる、歩く姿勢に異常がみられるという症状のうち2つ以上がみられる ※2:薬物への反応はレボドパまたはドパミン受容体刺激薬による判定が望ましい。 参考:難病情報センター パーキンソン病関連疾患(3)パーキンソン病 手のふるえだけが現れている時期では、患者やその家族はもちろん、医師でも専門外であればパーキンソン病かどうかの判断はなかなかつかないものです。正確な診断を受けるためにも、神経内科のある専門機関で専門医に診てもらいましょう。 次のページではパーキンソン病の治療方法について解説します。 ■関連記事 パーキンソン病を発症する前に血液で診断する方法を開発 便秘、嗅覚低下、睡眠障害、うつも早期発見の鍵 パーキンソン病に長く悩んでいる人にはDAT外来に相談 順天堂大学 パーキンソン病ってどんな病気?最新の治療法は? 近未来のパーキンソン病ハウス、遠隔ICTで患者さんをサポート 順天堂大学と企業で共同研究 公開日:2010/03/29
パーキンソン病は、抗パーキンソン病薬を投与する薬物療法や、脳に直接はたらきかける手術療法、リハビリをはじめとした作業療法などで治療します。 目次 パーキンソン病はどうやって治療する? 早期は薬物療法が中心 進行期には脳の手術をすることも! パーキンソン病はどうやって治療する? ドパミンという脳内の神経伝達物質の減少で手足のふるえなどが起きるパーキンソン病は、抗パーキンソン病薬を投与する薬物療法や、脳に直接はたらきかける手術療法、リハビリをはじめとした作業療法などで治療します。薬物治療を基本として、これらの中から病気の進行度にあわせた方法がとられます。いずれの方法もパーキンソン病を根本から治すことはできませんが、進行の抑制や症状の改善が期待できます。 早期は薬物療法が中心 パーキンソン病を治療するおもな薬は8種類に分類されます。症状がそれほど重くない早期は、薬物療法が治療の中心となります。病気の進行度や患者の年齢などにあわせ、必要に応じて複数の異なる種類を組み合わせて投与することもあります。 おもな抗パーキンソン病薬の分類 1. レボドパ ドパミンに変化する物質を服用することで、不足したドパミンを補います。 2. ドパミンアゴニスト ドパミン受容体を刺激して、ドパミンの受け渡しが正常に行われている状態にします。 3. 抗コリン薬 ドパミンの減少に伴って増加したアセチルコリンという神経伝達物質を減らして、ふるえの症状を抑制します。 4. 塩酸アマンタジン 大脳にある線条体(せんじょうたい)で、ドパミンが放出されるのを促進します。また、ジスキネジアを抑えるはたらきもあります。 5. ドロキシドパ 歩くときに一歩が踏み出せず立ちすくんでしまう「すくみ足」と呼ばれる症状などに関係する、ノルエピネフリンという神経伝達物質の不足を補います。 6. MAO-B阻害薬 ドパミンが分解されるのを防ぎます。 7. 末梢性COMT阻害薬 レボドパと併用して、レボドパが効きやすくなるように作用します。 8. ゾニサミド パーキンソン病の症状を抑えますが、はっきりしたメカニズムはわかっていません。 てんかんを治療するのに使用されていた薬で、レボドパと併用することが多いようです。 参考:難病情報センター パーキンソン病関連疾患(3)パーキンソン病 これらの薬は、種類によって効果が続く時間や副作用が異なります。レボドパの場合、投与期間が長くなると、意思に関係なく体がくねくね動くジスキネジアという症状が現れたり、症状が良くなるのと悪くなるのを1日の間に繰り返したりすることがあります。そのため、病気が早期の段階では特に、薬の投与時期などを医師とよく相談しながら治療を進める必要があります。 抗パーキンソン病薬のほかにも薬を服用している場合は、薬の飲み合わせにも気をつけなくてはなりません。期待どおりの効果を得るためにも、薬物治療を受ける前に、服用中の薬を医師に伝えて相談しましょう。 進行期には脳の手術をすることも! パーキンソン病の患者の脳は、必要以上に活発になったり、まわりの神経に通常は送らない信号を送ったりするなど、特定の部分に異常がみられます。薬物療法では進行が抑えられない進行期には、この異常な部分を活動させなくする手術で、症状の改善を目指すことがあります。その手段として、定位脳手術が行われます。これは、外からは見えない脳の位置関係を立体的にとらえ、手術が必要な位置を正確に突き止めて、頭蓋骨に開けた小さな穴から入れた医療器具で手術する方法です。 この定位脳手術には、以下の2つの方法があります。 ●凝固術(ぎょうこじゅつ) 脳に入れた細い電極で異常な組織に熱を加えて固め、はたらかなくさせる手術方法です。組織を固めた後に、電極は抜き出されます。 ●脳深部刺激治療(のうしんぶしげきちりょう) DBS(Deep Brain Stimulation)とも呼ばれます。脳に細い電極を入れ、胸に埋めた装置とつないで刺激を与え続ける手術方法です。刺激された神経細胞ははたらかなくなります。手術後も電極は脳に入れたままで、胸の刺激装置は3~5年の間隔で電池を交換します。 定位脳手術を行うには特殊な技術が求められるため、現状では、パーキンソン病の手術ができる施設は限られています。また、病気が進行して重度になっている場合は、手術で得られる効果への期待より、脳へのダメージが心配される場合もあります。手術を希望する場合は、薬物療法を行っている主治医とよく相談する必要があります。 前のページではパーキンソン病の基礎知識について解説します。 ■関連記事 パーキンソン病を発症する前に血液で診断する方法を開発 便秘、嗅覚低下、睡眠障害、うつも早期発見の鍵 パーキンソン病に長く悩んでいる人にはDAT外来に相談 順天堂大学 パーキンソン病ってどんな病気?最新の治療法は? 近未来のパーキンソン病ハウス、遠隔ICTで患者さんをサポート 順天堂大学と企業で共同研究 公開日:2010/04/12
ふるえを「本態性振戦」「パーキンソン病」「書痙(しょけい)」「甲状腺機能亢進症(バセドウ病)」「アルコール依存症」の5つの症例にわけて紹介。自分に似たふるえをチェックしてみよう。 目次 体のトラブルによって引き起こされるふるえもある 人に物を渡しすときに、手がふるえる 何もしないでじっとしているときに、手足がふるえる 字を書いていると、手がふるえてしまう 指先が小刻みにふるえる アルコールが途切れると、手足のふるえが治まらない… 体のトラブルによって引き起こされるふるえもある そばやラーメンを食べるとき、麺を箸でつかんで持ち上げ、そのまま数秒間手を止めてみよう。誰でも微妙な手のふるえを感じるのではないだろうか?また、寒いときや、ひどく緊張したときなどにも体がふるえることがある。このようなふるえは、ごく自然な生理的現象として現われるものだ。 しかし、なかには体のトラブルによって引き起こされるふるえもある。日頃からふるえで悩んでいる人や、家族や知り合いのふるえが気になる人は、どのタイプに当てはまるのか、さっそくチェックしてみよう! 人に物を渡しすときに、手がふるえる 物を持って人に渡したりするときに、手がふるえるのでちょっと恥ずかしいです。手紙を書くときに、手がふるえてしまい字が泳いでしまうので、楽しみだった年賀状書きも、最近は妻に代筆してもらうようになってしまいました。また、手がふるえて飲み物をこぼしてしまうことが何度もあったので、最近では熱いお茶は飲まないようにしています。(Aさん男性) 字を書くときや一定の姿勢をとるときにふるえがある場合、「本態性振戦」の疑いがあります。じっとしているときにはふるえはないことが多い。手のほか、頭や声などがふるえることがあります。 何もしないでじっとしているときに、手足がふるえる 何もしないでじっとしているときに、手足がふるえます。家族は私のふるえを見て「指先でなにかを丸めているように見える」と言います。字を書いているときにふるえることはありませんが、次第に文字が小さくなっていってしまいます。 また、「最近動きが鈍くなった」と言われます。正直、歩くのも一苦労なので、家でじっとしていることのほうが多くなってきました。(Bさん女性) 「パーキンソン病」の疑いがあります。このふるえはじっとしているときに起こるのが特徴です。しかし、何か動作をしているときには起こりません。ふるえは、まず、左右どちらかの手にみられ、その後、同じ側の足にもふるえが現われるのが一般的です。 字を書いていると、手がふるえてしまう 仕事上、字を書くことが多いのですが、書いているうちに筋肉がけいれんし、手がふるえてしまいます。しかも単なるふるえだけではなく、筋肉がこわばり、文字を書き続けることができなくなることもしばしばです。他のときは何もないのに、文字を書こうとするときだけ、必ずふるえが起きてしまいます。(Cさん男性) 文字を書くときだけ手がふるえる「書痙(しょけい)」の疑いがあります。文字を書く以外の動作では、ふるえが起こらないのが特徴です。 指先が小刻みにふるえる 指先が小刻みにふるえます。また、膝がガクガクふるえることもあります。汗をかきやすくなり、寒い日にブラウス1枚で過ごしても平気なので、自分でも不思議です。 心臓がドキドキして、ちょっと走ったりすると、すぐに息切れをしてしまいます。イライラしたり、集中力がなく、人からも「最近顔つきがきつくなったね」とよく言われます。また、首のつけ根がいつも腫れているのが気になっています。(Dさん女性) 手足が小刻みにふるえ、首のつけ根が腫れている場合、「甲状腺機能亢進症(バセドウ病)」の疑いがあります。男性よりも女性に多くみられます。 アルコールが途切れると、手足のふるえが治まらない… アルコールが途切れると、手足のふるえが治まらなくなる。そして、汗が止まらなくなったり、イライラするので、常にアルコールを飲んでしまいます。飲むとふるえはとまり気分は落ちつきますが、歯止めが効かず、ついつい酔いつぶれるまで飲んでしまうのです。また、最近、飲むアルコールの度数も高くなり、酒量が多くないと眠れなくなってきました。(Eさん男性) 「アルコール依存症」の疑いがあります。Aさんの場合の「本態性振戦」でもアルコールを飲むと症状が治まることがあります。しかし、本態性振戦の患者さんが、お酒を飲み過ぎると、二日酔いでふるえの症状がよりひどくなることがありますので、気を付けましょう。 ふるえにはさまざまな種類があり、それぞれに対策が異なる。そこで、「さまざまなふるえ、その病態を探る!」で、ふるえを伴う病気について詳しくみていこう。 ■関連記事 パーキンソン病を発症する前に血液で診断する方法を開発 便秘、嗅覚低下、睡眠障害、うつも早期発見の鍵 パーキンソン病に長く悩んでいる人にはDAT外来に相談 順天堂大学 パーキンソン病ってどんな病気?最新の治療法は? 近未来のパーキンソン病ハウス、遠隔ICTで患者さんをサポート 順天堂大学と企業で共同研究
「ふるえには病名があった!!~あなたのふるえはどのタイプ?」で紹介したように、ふるえにはさまざまなタイプがある。それぞれのふるえの特徴をみていこう。 目次 本態性振戦 パーキンソン病 書痙(しょけい) 甲状腺機能亢進症(バセドウ病) アルコール依存症 心配のないふるえとは? 本態性振戦 何かを持ったり、字を書いたりするときに、小刻みにふるえてしまう病気で、40代以上の中高年になるほど発症頻度が高くなる。40歳以上では16人に1人、70歳以上では10人に1人という報告も。 「本態性」には「原因不明」、「振戦」には「ふるえ」という意味があり、ふるえの原因はよくわかっていないが、家族にも同じようなふるえの症状があることもあり、遺伝的な要因が関係しているケースもあると言われている。 ふるえ以外の症状はとくになく進行性の病気ではないため、生命には直接影響しない。しかし、ふるえが気になって人前に出るのが苦痛になり、家にひきこもりがちになってしまう人も多いので、ふるえにより生活に支障をきたす場合には、一度、神経内科を受診してみるとよいだろう。 あなたもふるえをチェックしてみよう! ふるえはどうして起こるの?治せるの? 年齢別にみた本態性振戦の発症頻度 患者数は年齢が上がるにつれて増えていく 出典:後藤孝史(神経内科)1989年「熊本県内の某地区の40歳以上の男女(男性507名、女性729名)を対象とした住民健診」より パーキンソン病 脳の神経細胞のひとつであるドーパミンが減少することによって、神経間の情報伝達がうまくいかなくなり、体の動きに変調が起こる病気。脳神経系疾患のなかでも脳卒中、痴呆の次に患者数の多い病気で、日本には10万人以上の患者がいると言われ、50代以降の中高年、高齢者に多い。 じっとしているときの手足のふるえが特徴的で、動作をしているときにはふるえはない。また、筋肉のこわばりによって動作が制限されるため、文字を書いているうちに字が小さくなったり、歩きにくくなる、表情が乏しくなるなどの症状が特徴。症状はしだいに悪化し、ついには寝たきりになることもあるので、早期発見と治療が大切。よい薬もたくさんある。 書痙(しょけい) 字を書こうとすると手指や腕などがこわばり、ふるえてまっすぐに書けなくなるのが「書痙(しょけい)」だ。本態性振戦と間違えられやすいが、文字を書くとき以外にはふるえがないこと、ふるえだけではなく筋肉のこわばりも感じること、またほかの部位のふるえがないことが特徴。 以前は、心因的なものとされてきたが、最近では自分の意図していない筋肉に過剰な緊張が起こる「ジストニア」という病気の症状が手に起こっている場合もあると考えられている。 甲状腺機能亢進症(バセドウ病) 免疫機能の異常により、体が自分の甲状腺を異物とみなして抗体をつくり、この抗体が甲状腺を刺激するために起こる自己免疫性疾患。男性よりも女性に多く発症する。甲状腺ホルモンがたくさんつくられ、甲状腺が腫れてしまうのが大きな特徴で、甲状腺の異常なはたらきは自律神経のバランスにも影響し、ふるえが起こる。指先の細かいふるえが特徴だが、ひどくなると膝や全身のふるえが目立つようになる。 また、新陳代謝が活発になりすぎて脈拍が速くなり、心臓がドキドキしたり、体温が高くなったり冬でも汗びっしょりになることも。また、疲れやすく、集中力がとぎれる、目つきが鋭くなる、皮膚が黒ずんでくることもある。 アルコール依存症 長年にわたって、多量のアルコールを飲んでいると、気づかないうちに「アルコール依存症」に陥ってしまうことがある。 いったんアルコール依存症になると、アルコールを飲めなくなったときに禁断症状が現れる。軽度の場合はまず手や足のふるえがあるが、アルコールを飲むことでおさまるため、症状を抑えるためにアルコールを手放せなくなってしまう。さらに、ひどくなると全身の筋肉のひきつりや、てんかんのような全身けいれんが起こることもあり、幻覚が現れたり記憶障害が現れることもある。 心配のないふるえとは? 生理的なふるえ:寒さを感じたときや熱が出たときに起こるふるえは、ふるえることによって全身を動かして筋肉を収縮させ、内側から温めようとする体の自然な機能。そのほか、ひどくお腹がすいたときなどにふるえは起こる。 精神的な緊張によるふるえ:人前でスピーチをするときや演奏をするときなどに感じる声や手のふるえは、精神的な緊張によって起こるもので、「ここ一番」というときには誰でも経験したことがあるだろうふるえ。 ■関連記事 パーキンソン病を発症する前に血液で診断する方法を開発 便秘、嗅覚低下、睡眠障害、うつも早期発見の鍵 パーキンソン病に長く悩んでいる人にはDAT外来に相談 順天堂大学 パーキンソン病ってどんな病気?最新の治療法は? 近未来のパーキンソン病ハウス、遠隔ICTで患者さんをサポート 順天堂大学と企業で共同研究