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パーキンソン病を発症する前に血液で診断する方法を開発 便秘、嗅覚低下、睡眠障害、うつも早期発見の鍵

パーキンソン病といえば手足の震えなどの症状が思い浮かばれますが、実はその段階ではすでに病気が進行しています。そこで、発症しはじめる前に見られる嗅覚の低下や便秘、睡眠障害、うつ症状が「早期発見の鍵」として注目されています。2019年7月には順天堂大学の研究チームから、発症早期や発症前に血液で診断できる方法について開発動向が報告されました。

手足の震えなどの運動症状が起こる前から現れやすい「非運動症状」とは?

パーキンソン病を発症する最大のリスクは加齢です。2030年には世界の患者数が1400万人、国内では疫学研究によりパーキンソン病患者数が約15万人になるといわれています。
パーキンソン病は、脳内でドパミンという神経間の情報伝達物質が減ることで発症します。パーキンソン病の症状としては、手足の震えなど運動症状がよく知られています。

■運動症状

  • 振戦(しんせん):何もしていなくても手足が震える
  • 固縮(こしゅく):筋肉の緊張で固くなって手足の動きがぎこちなくなる
  • 寡動(かどう)・無動(むどう):動作が緩慢になる
  • 姿勢反射障害:姿勢を保持できず、体のバランスが悪くなって転びやすくなる
  • 仮面様顔貌(かめんようがんぼう):表情が乏しくなる

パーキンソン病診療ガイドライン2018(日本神経学会)では、病気を早く発見して治療を受けてもらうことが推奨されています。上記の運動症状は発症後に見られるものですので、発症しはじめる前後に現れやすい「非運動症状」が注目されています。

■非運動症状

  • 嗅覚低下:においがわからなくなる嗅覚の低下は本人が自覚しにくいので、家族などが気づくケースが多いようです。
  • 便秘:腸の動きに関わる自律神経に支障が起こることが原因です。排便が3日に1回程度とされています。
  • レム睡眠行動障害:寝ている状態でも夢を見ている内容が行動に現れることをいいます。例えば大声の寝言、手足を激しく動かす、立ちあがって動き回るといったことなどが挙げられます。
  • うつ:気分や感情、情動、興味や関心などが欠如した状態が見られます。自殺念慮や幻覚・妄想といった重度の症状は少ないなどの特徴があります。仮面様顔貌や無動などの運動症状がうつ病と診断されるケースがあります。

その他の特徴としては、夜間頻尿(夜に3回以上トイレに行く場合など)や立ちくらみ、過眠(日中の眠気など)といった症状もあるようです。

血液検査でスペルミンを測定するとパーキンソン病を早期発見できる可能性

「非運動症状」とは?

手足の震えなどパーキンソン病の症状が現れる前の発症しはじめた段階、できれば発症前から診断できることへのニーズが高まっています。
最近、順天堂大学の服部信孝先生、斉木臣二先生らは、血液検査で病気を早く見つけることができる可能性があることを、米国神経学会誌(Ann Neurol 2019;86(2):251-26)に発表しました。

研究によると、パーキンソン病が高齢者で発症しやすいことに着目し、患者さんの体内で抗加齢効果を持つ物質が減少するとの仮説を立てて、健康な49人とパーキンソン病患者さん186人の血液から、抗加齢効果を持つポリアミン(体内物質のプトレシン、スペルミジン、スペルミンの3化合物の総称)の代謝物質7種類を調べました。分析結果から以下のことがわかりました。

・ポリアミンの代謝物質7種類のうち、「スペルミン」という物質などの血清中の濃度は、患者さんグループでは健康な人(健常者)のグループに比べて低く、「スペルミジン」や「ジアセチルスペルミジン」などの濃度は患者さんグループのほうが高いこと、またスペルミンとスペルミジンとの比率(スペルミン/スペルミジン比)は患者さんグループのほうが低いことがわかりました(表)。

表:血清中ポリアミン代謝物比

代謝物質名 パーキンソン病患者/健常者比 P値
ジアセチルスペルミジン 2.77 <0.0001
N1-アセチルスペルミジン 1.46 <0.0001
N8-アセチルスペルミジン 1.55 <0.0001
ジアセチルスペルミン 1.59 <0.0001
スペルミジン 1.8 <0.0001
N1-アセチルスペルミン 0.945 0.302
スペルミン 0.762 0.0468
スペルミン/スペルミジン比 0.459 <0.0001

*健康な人のグループ(健常者)を1とした場合に対して患者さんグループにおける血清中濃度の割合。7種類のポリアミン代謝物質のうち、赤字は患者さんのグループで統計学的に有意に高く、青字は有意に低下した代謝物質を示します。

・「ジアセチルスペルミジン」の血清中の濃度は、患者さんのグループでは健康な人(健常者)のグループに比べて高く、患者さんでは重症になるほど高くなるので、パーキンソン病の重症度判定に有用な可能性があります(図1)。

図1:ポリアミン代謝物質の濃度とパーキンソン病重症度との相関 図1:ポリアミン代謝物質の濃度とパーキンソン病重症度との相関
***:p<0.0001

表、図1の出典:順天堂大学2019年7月2日リリース「血中老化関連物質ポリアミンがパーキンソン病患者で変化することを発見
https://www.juntendo.ac.jp/news/20190702-01.html
Ann Neurol 2019;86(2):251-26
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31155745

血液中の老化に関わる物質がパーキンソン病患者さんで変化することを発見

患者さんのグループでは健康な人(健常者)のグループに比べてスペルミジンが増加し、スペルミジンの代謝物質のスペルミンが減少していたので、そこに着目して、さらに分析しました。その結果、以下のことがわかりました(図2)。

図2:ポリアミン代謝物質の濃度とパーキンソン病との関係

・スペルミンとスペルミジンとの比率(スペルミン/スペルミジン比)は健康な人(健常者)のグループに比べてパーキンソン病患者さんのグループで低下していました(図2A)。

図2A 図2A
***:p<0.0001

・健康な人(健常者)のグループでは加齢に伴ってスペルミン/スペルミジン比が低下していたのですが、パーキンソン病患者さんのグループでは年齢に関係なく低下していました(図2B)。

図2B 図2B

図2の出典:順天堂大学2019年7月2日リリース「血中老化関連物質ポリアミンがパーキンソン病患者で変化することを発見」
https://www.juntendo.ac.jp/news/20190702-01.html
Ann Neurol 2019;86(2):251-26
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31155745

つまり、スペルミン/スペルミジン比がパーキンソン病の発症早期または発症前の診断につながることが考えられました。
パーキンソン病は、これまで手足の震えなど運動症状から診断されていました。今回の研究報告からは、加齢に関わる物質を血液検査で測定することにより、パーキンソン病を発症する前や発症しはじめた段階で診断できるツールにつながる可能性が考えられます。

■参考文献

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公開日:2019/09/04
監修:順天堂大学大学院医学研究科神経学教授 服部信孝先生、准教授 斉木臣二(さいきしんじ)先生