花粉症を含むアレルギー性鼻炎と喘息は実は密接な関係があります。離れた場所にある2つの器官の病気が関連しているのはなぜでしょうか?答えは、どちらも気道で起きる病気というところにあります。「アレルギー性鼻炎」と「気管支喘息」の患者が注意しなくてはならないことなどをご紹介します。 目次 花粉症を含むアレルギー性鼻炎と気管支喘息の関係 ひと続きの気道の病気という考え「One airway,one disease」 患者の側からできること アレルギー性鼻炎と気管支喘息の患者はコレに注意 花粉症を含むアレルギー性鼻炎と気管支喘息の関係 春になると悩まされる人が多い花粉症は、季節性のアレルギー性鼻炎のひとつです。花粉症とともに通年性のものも含め、アレルギー性鼻炎の患者は年々増えており、2008年現在、国民の39.4%がアレルギー性鼻炎である(*1)といいます。これは、10年前と比べると約10%上昇したことを示しています。さらに2009年には、大規模な全国実態調査「SACRA(サクラ)サーベイ」によって、成人の喘息患者のうちアレルギー性鼻炎を合併している人が67.3%にのぼることが推定されると報告されました(*2)。 症状が鼻に現れるアレルギー性鼻炎と、気管支に現れる喘息。一見、関わりがなさそうな2つの病気ですが、実は切っても切れない関係にあります。海外で行われた調査(*3)において、喘息患者の60~78%がアレルギー性鼻炎との合併があると報告されています。また、日本国内で2005年に行われた調査(*4)においても、成人の喘息患者のうち、アレルギー性鼻炎との合併がある人が48%を占めるといいます。さらに、どちらかが発症してその治療をしないと、もう一方も引き起こされ、お互いが悪化する可能性があることが明らかになっています。 参考:大田健 第59回日本アレルギー学会秋季学術大会2009年10月29-31日(秋田) 演題番号MS19-#2 ひと続きの気道の病気という考え「One airway,one disease」 離れた場所にある2つの器官の病気が関連しているのはなぜでしょうか。その答えは、どちらも気道で起きるというところにあります。鼻やのどなどは上気道、気管支や肺などは下気道と総称されます。これらは離れた場所にあるものの、ひと続きの空気の通り道となっています。そのうえ、2つの病気は原因となるアレルゲンや、炎症が起きる過程も共通しています。 このことから、アレルギー性鼻炎も気管支喘息も、気道というひとつの器官の病気であるととらえる「One airway,one disease」という考えが、近年医療関係者の間では広まっているといいます。 患者の側からできること 気管支喘息だけでなくアレルギー性鼻炎の症状もきちんと医師に伝えられれば、別々の病気ではなく、ひとつの病気として治療を行うことができます。そのためには、両方が同じ病気だという認識を患者の側ももつ必要があるでしょう。どちらかにかかっている人は、もう一方の可能性があることも意識して、適切な治療法でしっかりコントロールするようにしましょう。 花粉症の患者も人ごとじゃない! アレルギー性鼻炎と気管支喘息の患者はコレに注意 2つの病気は、ひと続きの気道の病気だという認識をもちましょう 放っておくとお互いが悪化するので、すぐに治療しましょう どちらか一方の診察の際、もう一方を治療中であれば治療法が変わる可能性があるので、治療中であることを医師にきちんと伝えましょう *1 鼻アレルギー診療ガイドライン2009 *2 大田健 第59回日本アレルギー学会秋季学術大会2009年10月29-31日(秋田)演題番号 MS19-#2 *3 Grossman J Chest 1997;111:11S-16S. *4 赤澤晃他 気管支喘息の有病率・罹患率およびQOLに関する全年齢階級別全国調査に関する研究2005年度版 公開日:2010/03/01
喘息は大人になってから発病することも多い。喘息とはどのような病気なのだろうか?喘息について正しい知識を身につけよう。 目次 喘息ってどんな病気? 喘息が起こる主な原因は「アレルギー」 こんな症状を感じたら、まず病院へ行こう 喘息ってどんな病気? 「一度出た咳がなかなか止まらず、風邪をひいたのかと思ったけど、どうもそうじゃないらしい…」という経験はないだろうか。 喘息は子供に多い病気で、成人すれば自然と治っていくものだと考えられることもあるが、実は大人でもかかる病気であり、大人になってから発症することも少なくない。 喘息とは、気管支に起こる慢性炎症による病気であり、正式には「気管支喘息」という。気管支とは、鼻や口から肺までの空気の通り道の一部で、この部分が炎症を起こして極端に狭くなってしまう(気管支狭窄)ことや、完全に塞がってしまう(気管支閉塞)ことにより喘息は起こる。喘息患者の気管支はたばこの煙や自動車・工場の排気ガスなどさまざまな刺激物に対してとても敏感で、簡単に収縮してしまう性質がある。 発作が起きるとゼイゼイしたり息苦しくなるが、落ち着いてゆっくり呼吸を整え、すばやい対処をすれば、症状が軽くなったり自然に治まったりすることもある。この発作は、夜間、または早朝に起こることが多く、睡眠を妨げられることも少なくない。 喘息が起こる主な原因は「アレルギー」 喘息になる原因にはさまざまな説がある。その中でも、約半分はアレルギーが関与していると言われている。 人の体には、外からの刺激や異物に対して体を守る機能が備わっていて、これを免疫反応という。アレルギー反応は免疫反応と似ているが、関係する抗体の種類や細胞の違いなどから免疫反応とは異なって体に病気を起こしてしまう。このアレルギー反応が気管支で起こることで、気管支喘息になる。 このアレルギーに関係が深いのが、IgE抗体とよばれるもの。本来、IgE抗体は外からの異物をやっつけるはたらきをもつが、それが体に悪影響を及ぼすような反応を起こしてしまうことがある。例えば、チリやほこり、ダニや花粉など、通常なら体内に入ってきてもそれほど大きな影響を及ぼさないようなものに対しても、IgE抗体がつくられてしまい、過剰に防衛してしまう。そのため、さまざまな症状が現れることになる。 ちなみに、アレルギーを起こす原因となる物質(アレルゲン)は、人によってさまざま。身の回りのものはすべてアレルゲンになるとも言われる。気管支や肺の奥深くに入りこむことのできる物質は、大きくても10μm(=1ミリの100分の1)程度の目に見えないほど小さな粒子で、これより大きい粒子だと、口や鼻から入ったときに気管支まで届かないため、口や鼻でアレルギー反応を起こすことが多い(例えば、スギやブタクサの花粉は、20~30μmなので、気管支まで吸いこまれる前に鼻の中でつかえてしまい、鼻炎などの症状が出ることが多い)。 病院で検査対象になっているアレルゲンは200以上あるが、簡単な血液検査で調べられる。 主なアレルゲンの種類 ●吸入性のもの ダニ、ハウスダスト、カビ、動物の毛、花粉、昆虫(蝶や蛾など) ●食物性のもの 牛乳、卵、蕎麦など こんな症状を感じたら、まず病院へ行こう 喘息は突然発症するのではなく、ゼイゼイと息苦しくなるまでには数週間から数ヵ月かかることが多い。まず、1週間以上、咳が続き、昼間より夜のほうがひどい場合には、風邪ではないと疑って病院へ行こう。この時期が過ぎると、ゼイゼイ、ヒューヒューといった息づかいになり、夜中に咳が出て目が覚めるようになり、やがて呼吸困難になってくる。そうならないうちに、早めに受診しておきたい。 また、喘息の患者さんは、ともすると「いつもの発作だ」と軽んじてしまいがち。発作が起こるときにはなんらかの前兆があるため、見逃さないようにして病院へ行こう。 喘息の前触れ ●胸が圧迫される感じがする ●息切れがする ●呼吸が乱れる ●のどがつまったり、イガイガする感じがする ●ピークフロー値(思いっきり息を深く吸いこみ、それを思いっきり早く吐き出したときの息の量)が下がる 初めて病院へ行く場合には、次のような検査が行われる。 喘息の主な検査 ●肺機能検査 できるだけ息を深く吸いこみ、思いっきり吐き出したときの空気量を測定する。最初の1秒間の空気の量を1秒量といい、思いきり吐き出した量を努力肺活量という。さらに、肺活量に占める1秒量の割合を1秒率と言う。1秒率は、気管支が閉塞すると低下し、70%以上は正常だが、50%未満になると高度の閉塞性障害と言われる。 ●血液検査 血中の炭酸ガスの量を調べる。発作が軽症のときは、軽度の低酸素血症、低炭酸ガス血症だが、症状がひどくなるにつれて低酸素血症もひどくなり、さらに症状が悪化するといったん正常値にもどって今度は高炭酸ガス血症になる。 ●胸部X線写真 他の疾患との識別や合併症の有無を確かめるために行われる。 ■関連記事 秋はダニとハウスダストにも注意しましょう 長引く鼻水の原因はダニアレルギー?日医大・大久保公裕先生に聞く 公開日:2003年9月1日
監修:昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科部門教授 足立 満 先生 どうして起きる?アレルギーが原因の喘息 私たちの体には、体内に侵入したハウスダスト、ダニ、ペットの毛などの異物を排除して、自分を守ろうとする免疫という仕組みが備わっている。アレルギー反応とは、これらの異物の侵入によって、何らかの症状が起きることを指す。免疫において異物は「抗原」と呼ばれるが、アレルギー反応を引き起こす場合は特に「アレルゲン」と呼ばれる。 アレルゲンが侵入したときに体内にできるのが、「IgE抗体」という物質。IgE抗体が「マスト細胞」(肥満細胞)に結合し、そこにアレルゲンが再び体内に入ってきて、マスト細胞に結合したIgE抗体の上にアレルゲンがくっつくと、マスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質が放出される。それらの化学物質の働きで、アレルギー反応として気道は炎症が発生して狭くなり、正常に空気が通り抜けなくなることで、喘息による喘鳴や咳、そして発作が起きる。 こうして引き起こされた喘息は、気道の炎症を抑える吸入ステロイドを中心に使用し、狭くなった気道を広げる長時間作用性β2刺激薬などを併用して治療することになる。 ほかの薬で治まらない重症喘息には「抗IgE抗体」を 吸入ステロイドや長時間作用性β2刺激薬などを使用していても、発作が頻繁に起きてしまう重症喘息の場合には、「抗IgE抗体」という注射薬が用いられることがある。抗IgE抗体はIgE抗体とくっつくことで、マスト細胞の受容体にIgE抗体がくっつくのをブロックして化学物質の放出を防ぎ、アレルギー症状を抑える。抗IgE抗体の使用は、炎症が起きる、気道が狭くなるなどの個々の症状への対処ではなく、アレルギー反応の仕組みそのものに基づいた、根本的な治療だといえるだろう。 抗IgE抗体は、他の喘息治療薬と比べて高価ではあるが、治療費の一部の払い戻しを受けられる「高額療養費制度」などを利用すれば、経済的な負担を軽くすることが可能な場合もある。詳しくは、加入している医療保険の窓口や、かかりつけ医療機関のソーシャルワーカーに相談してみよう。 コラム:日本人によって発見されたIgE抗体 アレルギー反応におけるIgE抗体は、日本人の石坂公成(いしざか きみしげ)氏と照子夫人との共同研究によって、1966年に発見された。 当時の研究者たちの間では、アレルギー反応と関係するのはIgA抗体という物質であるという説が常識とされていた。実験の結果から、この説に疑問を感じた石坂氏は、アレルギー反応と関係する抗体を突き止める決意をする。人間の皮膚に抗体と抗原を注射して、反応の大きさを確かめる必要があったとき、石坂氏と照子夫人は自分たちの背中を実験台にしたという。 数々の困難を乗り越えた結果、IgE抗体が発見され、当時の常識がくつがえされることとなった。日本人によるこの世界的な大発見は、喘息のみならず、花粉症やアトピー性皮膚炎など、アレルギー性の病気全般の治療に大変役立っている。 ■関連記事 秋はダニとハウスダストにも注意しましょう 長引く鼻水の原因はダニアレルギー?日医大・大久保公裕先生に聞く
監修:昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科部門教授 足立 満 先生 喘息発作が引き起こされるきっかけは実にさまざまであり、人それぞれ。事前に予防をするには、自分はどのような状況で発作がひどくなるのかを、あらかじめ知っておく必要がある。ここでは、日常の暮らしの中では避けにくい状況と、その対処法を紹介したい。 梅雨になると発作が悪化する!? 喘息発作は、天候の変化に大きく影響を受けて悪化することがある。例えば、一年の中でもっとも雨が多くなり、ジメジメとした空気になる梅雨の時期。原因としては、寒暖の差や湿度が高くなったことで、ダニやカビが発生しやすくなったことが考えられる。 掃除機をかける、換気を心がけるなどの対策をしても改善しない場合は、目につかないところにも気を配りたい。見過ごされやすいのは、エアコンの中。ここにダニやカビが潜んでいることは少なくないが、気づかないと、風に乗って部屋中に撒き散らされてしまう。また、家具の裏などにも目を向けたい。ホコリがたまっているだけではなく、ダニなどの死骸が放置されている可能性もある。 ストレスで発作がひどくなることも ストレスは多くの病気と関係しているが、喘息も例外ではなく、発作の悪化を招くことがある。ストレスを感じないように暮らせれば良いのだが、現代人にとって、ストレスと無縁の生活を送るのは簡単なことではない。 ストレスを感じる状況をどうしても避けられないようであれば、ストレスを解消する方法を見つけるようにしたい。好きなことに熱中する、十分に休息をとるなど、その手段は人それぞれ。自分にとって一番良いと思える方法を見つけよう。 ストレスの原因となりうる状況 対人関係 学業や仕事の業績低下 引っ越し・転職などの生活空間の変化 結婚・死別などの家族構成の変化 抑うつ・不安・怒りなどの気分 など 運動は自分にあったペースで 運動をすると発作が起きる喘息の患者さんは少なくないが、一口に運動といっても、発作の起きやすさは運動の内容によって異なる。起きにくいといわれる運動の代表は水泳であり、反対に、ランニングは発作が起きやすいといわれるが、これも個人の体質や、走る距離によっても違うだろう。喘息だからといって、してはいけない運動というものはないので、発作が起きないように治療したうえで、自分にあった運動内容を見つけよう。 喘息の患者さんの中にも、肥満の予防や糖尿病の治療のために、ウォーキングを勧められている人もいるだろう。発作に対する不安があるからといって、運動をしないのは良くないので、医師とよく相談して、無理せず歩ける自分のペースを見つけることが大切だといえる。 ■関連記事 秋はダニとハウスダストにも注意しましょう 長引く鼻水の原因はダニアレルギー?日医大・大久保公裕先生に聞く
監修:昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科部門教授 足立 満 先生 まずは治療の目標を確認しよう 慢性の病気である喘息は、患者さんにとって、長い付き合いになる相手だといえる。 うまく付き合っていくためには、はっきりとした治療の目標を意識しておきたい。 喘息治療の目標 ●健康な人と変わらない日常生活を送れる ●肺の機能を、正常に近い状態に保ち続ける ●夜や早朝に咳や呼吸困難が起きず、十分に眠ることができる ●喘息発作が起きず、それで命を落とすこともない ●薬の副作用がない ●炎症が起きた気道が修復される際に、空気の通り道が狭くなり、喘息の原因となる刺激に反応しやすくなる「リモデリング」が起きて、元の状態に戻れなくなるのを防ぐ 「喘息予防・管理ガイドライン2009」より 目標を達成するには、喘息を上手にコントロールすることが必要となるが、それには症状の程度にあった薬が欠かせない。問診に基づいて治療を開始したうえで、どの薬を使うのが良いかは医師が判断するが、判断の材料として、患者さんが記録した「喘息日誌」や「喘息コントロールテスト」(ACT)が重要な役割を果たすことになる。 喘息日誌は、発作の程度、咳やたんなどの症状の有無、服用した薬などを患者さんが毎日記録するもので、医師はこれを見れば、症状の程度や変化を知ることができる。また、患者さん自身も、発作が起きやすい状況を把握できるようになる。地道ではあるが、喘息をコントロールするうえで、大きな助けとなるツールだといえる。 簡単!役立つ!ピークフロー値の測定 喘息日誌に記録すべき項目のひとつに「ピークフロー値」がある。ピークフロー値とは、思い切り息を吸い込んでから、できるだけ強くはき出したときの、息の速さの最大値のこと。これを測定すると、気道がどれくらい狭くなっているかを知ることができる。測定は、息の吹き込み口であるマウスピースと目盛りが一体化した「ピークフローメーター」という医療器具が用いれば、誰でも簡単にできる。 ピークフロー値の測定で、喘息の重症度や治療の効果の客観的な判定が可能となる。さらに、患者さん自身が、喘息の状態の理解と、薬の効果の実感ができるようになる。ここに、ピークフロー値を測定することの意義があるといえるだろう。 喘息日誌およびピークフロー値の測定は、簡単ではあるが、毎日記録をつけるのが難しい場合もある。それに対して喘息コントロールテスト(ACT)は、月に1回、診察の日に待合室で待っている間にできてしまう。5項目の質問に答えれば、25点満点で喘息コントロールの状態を知ることができる。 小さなことからコツコツと!日常でできる工夫 喘息を引き起こす原因となるものと、できる限り接触しないように気をつけることも、喘息をコントロールするコツだといえる。 室内でできる代表的な工夫として、こまめに掃除をすることが挙げられる。掃除機がけでも拭き掃除でも、喘息を引き起こすダニやホコリを除去するのに有効となる。ダニは布団に住みつきやすいので、布団に掃除機をかけるのも効果的。可能であれば、年に1度で良いので、クリーニング店などに依頼して布団を丸洗いするのが望ましい。 外出先で何よりも重要なのは、発作を悪化させる要因となる風邪をひかないように、マスクの着用や、体を冷やさないようにすること。外出先から帰宅したら、手洗いやうがいも欠かせない。 また、タバコの煙も発作を悪化させる要因のひとつなので、自分が吸わないのはもちろん、可能であれば、喫煙スペースにはなるべく近づかないように心がけたい。 ここで紹介したのはどれも簡単で、小さなことのように思えるかもしれない。しかし、喘息とは長い付き合いになることを思えば、小さな積み重ねこそ大切だといえる。まずは小さな一歩を踏み出し、いずれ習慣と呼べるようになるまで継続してはいかがだろうか。
世界で3億人がかかえる喘息 喘息とは、炎症によって気管支などの空気の通り道(気道)が狭くなる病気のこと。突然起こる呼吸困難や咳などの苦しい発作は、ときに命に関わることさえある。さらに発作症状だけでなく、激しいスポーツができない・職業の選択が狭まる・睡眠が妨げられるなどの支障をきたすことも。 現在、世界の喘息患者数は3億人、日本では400万人と報告されており、決してめずらしい病気ではない。しかしいまだに世界中で、突然起こる喘息の重い発作により多くの人が命を落としているのが現状だ。厚生労働省の調査によれば日本国内でも、過去数十年にわたって毎年多くの死者が出ていて、2008年に喘息で亡くなった人は約2,300人と報告されている。 喘息の原因は? 小児喘息の多くと、成人喘息の半数がダニ・ハウスダスト・花粉などのアレルゲンと関係している「アトピー型喘息」といわれる。しかし小児喘息の1割と成人喘息の残りの半数は、アレルゲンが見つからない「非アトピー型喘息」。非アトピー型喘息は、風邪のウイルスやストレス、タバコの煙、香水の強い香りといった外界からの刺激が要因と考えられている。 史上の偉人も喘息もちだった ところで、「喘息=子どもの病気」というのが、大多数の人の持つ「喘息」のイメージではないだろうか。確かに小児喘息患者の6割程度は寛解*(*発作が出なくなり、日常生活に支障をきたさなくなること)するが、成人後に発症するケースも少なくなく、風邪がきっかけで発見されることもある。 喘息は意外とポピュラーな病気。歌手のテレサ・テンさんや、歴史上の人物では革命家エルネスト・チェ・ゲバラが喘息もちだったことは有名。他にも「四季」を作曲したヴィヴァルディ、「二十四の瞳」を書いた作家壺井栄、「山月記」で知られる中島敦などが喘息もちだったといわれている。
発作時は「気道の火事」! 突然起こる、苦しい発作。喘息の人とそうでない人では、気道の様子は異なる。 喘息の人の気道は、刺激により慢性的に炎症が起きていて、発作が起きていないときでも炎症により分泌物が出て、常に表面がむくんだ状態になっている。この状態は、たばこの煙や排気ガス、ダニなど少しの刺激にとても敏感で発作が起こってしまう。 発作が起こると、気道のまわりの筋肉が縮み、分泌物もさらに増え、むくみがひどくなる。空気の通り道がぐっと狭くなるため、喘鳴(呼吸時のヒューヒューという音)、呼吸困難、咳などの症状があらわれる。通常の発作では、しばらくするともとの状態に戻るが、重い発作の場合は気道が完全にふさがってしまい、息がほとんどできずに命に関わることもある。 「たいした症状ではない」と思っていても… 喘息の患者さんの中には、自分の症状を軽く見積もる傾向がある人が少なくない。患者さんの自己評価をまとめたある調査によると、成人も子供も8~9割の人が自分の喘息を「コントロールできている」と答えているが、実際には、半数以上が日中の発作や夜中に目覚めるといった症状を自覚し、日常生活に支障をきたしているという。喘息の患者さんの多くが、無意識のうちにつらい症状を我慢しているわけだが、その症状はもっと楽になる可能性がある。喘息と上手に付き合うために、症状を正しくチェックすることが欠かせない。 喘息チェックシート このアンケートは、喘息でお悩みの12歳以上の方が自分自身の喘息の状態を知るために役立ちます。以下の5つの質問にそれぞれ1つだけチェックをつけてください。結果については必ず担当の医師と話し合ってください。 Check1 この4週間に、喘息のせいで職場や家庭で思うように仕事がはかどらなかったことは時間的にどの程度ありましたか? まったくない 少し いくぶん かなり いつも Check2 この4週間に、どのくらい息切れがしましたか? まったくない 1週間に1、2回 1週間に3~6回 1日に1回 1日に2回以上 Check3 この4週間に、喘息の症状(ゼイゼイする、咳、息切れ、胸が苦しい・痛い)のせいで夜中に目が覚めたり、いつもより朝早く目が覚めてしまうことがどのくらいありましたか? まったくない 1、2回 1週間に1回 1週間に2、3回 1週間に4回以上 Check4 この4週間に、発作止めの吸入薬(サルタノールやメプチンなど)をどのくらい使いましたか? まったくない 1週間に1回以下 1週間に数回 1日に1、2回 1日に3回以上 Check5 この4週間に、自分自身の喘息をどの程度コントロールできたと思いますか? 完全にできた 十分にできた まあまあできた あまりできなかった まったくできなかった QualityMetric Incorporated, 2002. 症状をコントロールできるようになれば、毎日が快適になる! 喘息患者の7割は、喘息症状を「仕方がない」とあきらめてしまっているという。喘息は完治することは難しいが、適切な治療と患者自身の自己管理で、ごく普通の生活が営めるようになるまでコントロールできる病気。根気強く続けていこう。 ●「喘息がコントロールされた状態」とは? 症状を認めない 夜間症状を認めない 「喘息予防・管理ガイドライン2009」より コラム「ピークフローとは?」 喘息の状態を把握する指標、および発作の予知に役立つものとして、「ピークフロー」がある。これは、息を勢いよく吐き出したときに息が流れる速度のこと。喘息によって気道が狭くなっていると空気が通りにくいため、ピークフローは標準値より低くなる。 ピークフローは、ピークフローメーターと呼ばれる簡単な器具でいつでも手軽に測定が可能。毎日決まった時間に測定することで、気道の状態を把握することができる。さらに喘息の悪化や薬の効果もいち早く知ることができるため、突然の発作にも適切に対処できる。日ごろからピークフローを測定し、日記をつけ、治療に役立てよう。
喘息の治療薬にはどういうものがある? 喘息の治療は、「気道の炎症をとること」と「気道を拡張すること」である。その治療薬には、毎日規則的に使う「コントローラー(長期管理薬)」と、発作が起きたときだけに使う「リリーバー(発作治療薬)」がある。リリーバーは一時的に発作を鎮める効果があるが、喘息の状態を治すことはできない。それぞれのはたらきを正しく理解しておこう。また、喘息の治療は独特の吸入薬が使われる。これは、直接気道に届いて作用するため、経口剤や注射剤に比べて少ない量の薬剤で効果を得られたり、全身に吸収されることが少ないため、副作用が少なくてすむというメリットがある。 症状がなくても、毎日規則正しく使う薬コントローラー(長期管理薬) 気道の炎症を治療したり、気管支を長時間広げたりして発作のない状態を維持するための薬剤。 発作がなくても毎日規則正しく使用する。 吸入ステロイド薬→炎症:喘息の本態である気道の炎症を鎮める 長時間作用の吸入気管支拡張薬→症状:気道を広げる効果が長時間続き喘息の症状を出にくくする 発作の時に使う薬リリーバー(発作治療薬) 発作を速やかに和らげるために症状があるときだけ使用する薬剤。 即効性の吸入気管支拡張薬→発作:発作を速やかに鎮める 吸入ステロイド薬を使うメリット ステロイドが効かない喘息はないといわれるほど、効果が高いステロイド。なかでも経口ステロイドは古くから喘息の特効薬として知られていたが、その副作用が問題だった。 一方、「吸入ステロイド薬」は口から吸い込むことにより直接気道に届く。吸入ステロイド薬はすでに30年以上も世界中で使われていて、日本をはじめ世界の治療ガイドラインにおいても、吸入ステロイド薬は喘息治療の主役と呼べる存在。わずかな量で効果を出すため、全身的な副作用が少ない。 経口ステロイド薬と吸入ステロイド薬の違い 吸入ステロイド薬は、優秀な「コントローラー」であり、「リリーバー」ではない。即効性はないので、発作を止める目的では使えないので注意しよう。毎日継続して使用することで、効果がある薬だといえる。 ただし、吸入ステロイド薬で治療しても症状が毎日出るような重症の場合、抗IgE抗体などの他の薬を使うことも検討する必要がある。 吸入ステロイド薬の効果 ほとんどの患者に効果がある 増量による効果がある 発作の回数を減らす。重い発作を予防する 喘息による日常生活の障害を改善する 炎症を繰り返し、徐々に重い喘息になるのを防止する 海外の大規模な調査で、喘息による入院、救急外来受診、死亡の頻度を減らすことが明らかにされている ●注意したいこと 起きている発作を止める目的では使えない 口の中にも薬がつくため、口の中に副作用が起こることがある。使用後によくうがいすることで防ぐことができる セルフケアも忘れずに 喘息と上手に付き合うためには、日ごろのセルフケアも大切。喘息発作を起こしやすい原因をなるべく避けて、発作が起きにくい環境を手に入れよう。 ●部屋はクリーンに! ダニ、ホコリ、カビなど発作の原因となるものはできるだけ取り除こう ●風邪の予防は大切! 冷えや過労を避け、外出後は手洗いうがいを忘れずに ●タバコは絶対やめよう 本人の禁煙はもちろん、家族や周囲の人も近くで吸わないで ●ストレスをできるだけためない 疲れたな、と思ったら休養や気分転換を ●喘息日記をつけよう ピークフロー値や発作が起きた状況を記録し、治療に役立てよう
アレルギー体質+バリア破壊=発症 気管支ぜんそくには、アレルギー体質と気管支粘膜のバリア破壊という、2つの側面がある。ダニのふんや死がいなどのアレルゲンがIgE抗体・マスト細胞と結合しただけではぜんそくの症状は起こらず、風邪などをひいて気管支粘膜の障害が重なって発症することは多い。 小児ぜんそくは、大人のぜんそくと異なり、症状が消失して治癒したように見えること(寛解)がある。 寛解という状態は、破壊された気管支のバリアが回復することであり、アレルギー体質が治ることではない。 寛解した子どもが風邪をひいたり、たばこの煙を吸って気管支炎を起こして気管支のバリア障害が起きると、ダニなどのアレルゲンが入ってきた時にぜんそくが再発することもある。 発作が起こるとバリアの破壊がさらに進行してアレルゲンの侵入が加速し、重症化するもとになる。 治療の基本はアレルゲンの除去 風邪ウイルスには約200種類あり、このうち特にライノウイルスという鼻風邪ウイルスがぜんそく発作と関連が強い。 風邪を完全に予防することは困難だが、体内に侵入するアレルゲンの量が少なければ、ぜんそくの発作が起きても、症状は軽くてすむ。 ウイルスなどの感染が関係する場合でも、ぜんそく治療の基本はアレルゲンの除去であることに変わりはない。こまめに部屋を掃除するなど、できるだけアレルゲンと接触しない生活を心がけたい。 ■関連記事 秋はダニとハウスダストにも注意しましょう 長引く鼻水の原因はダニアレルギー?日医大・大久保公裕先生に聞く