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がん「リンパ浮腫(むくみ)」の対策にリンパケアエクササイズ

がん治療後の後遺症でリンパ浮腫というむくみを生じることがあります。対策として運動が推奨されています。一般社団法人キャンサーフィットネス代表理事の広瀬眞奈美さんは、少しの時間、体を動かすだけの体操でもリンパの流れがよくなる運動として十分だといいます。第3回日本リンパ浮腫学会総会市民公開講座*1の講演内容を紹介します。

少しの時間で筋肉や関節を動かすことを継続するだけでリンパの流れがよくなります

がんに関わるリンパ浮腫(むくみ)対策のセルフケアとして、食生活の見直しや運動が推奨されています*2。ですが、「がんになったら運動しよう」といわれても、「運動って、激しく体を動かすイメージだから大変そう」、「どのような運動をしたらいいの?」と戸惑う人も多いようです。
そこで、少しの運動や体操で関節や筋肉を動かすことを継続するだけでも十分な効果があると広瀬さんは強調します。
広瀬さんは、乳がんサバイバーの経験をもとに、運動を通して患者さんの身体的・社会的・心理的な不安を解消したいと考え、フィットネスインストラクターの資格をとり、キャンサーフィットネス(http://cancerfitness.jp/)を設立しました。
現在、医師など医療関係者が患者さんを診療するときに参考とする「がんのリハビリテーションガイドライン*3」の策定委員で、書籍「リンパ浮腫のことがよくわかる本」*4の運動に関する章の解説に携わっています。

全身を動かすリンパケアエクササイズライフを始めよう!

広瀬さんら、キャンサーフィットネスが考案したのが「リンパケアエクササイズ」です。
「楽しく体を動かせば、リンパ浮腫(むくみ)もココロも軽くなる」をテーマにしています。
第3回リンパ浮腫学会市民公開講座で広瀬さんはリンパケアエクササイズを紹介し、以下のようなメッセージを伝えています。

がん転移を防ぐためにリンパ管が集合しているリンパ節を切除するリンパ節郭清や、放射線療や抗がん剤による治療の影響などにより、リンパ管の閉塞や機能障害が起こることがあります。そうすると、リンパ管が集合するところでリンパ液が交通渋滞のように流れが停滞することで、むくみが生じることがあります。
そこで、体を動かすと、筋肉は縮んだり緩んだりして(筋肉の収縮と弛緩といいます)、筋肉の動きがリンパ管に作用することで、リンパ管内のリンパ液が流れるようになり、交通渋滞が緩和されていきます。
リンパ管は全身に張り巡らされているので、むくみ改善のためには全身を使って体を動かせることが重要です。
また、むくみケアのために腕や足を圧迫する弾性ストッキング・スリーブなどを着けて運動することもおすすめです。

リンパケアエクササイズに関しては、ブログ「Cancer Fitness がんになったら運動しよう!」で、好きな音楽に合わせて数分でこなせる体操のメニューが紹介されています。ブログでは広瀬さんがキッチンなど場所をとらずにできるリンパケアエクササイズをしている姿も閲覧できます。

リンパは全身に循環しているので全身を意識して体を動かせることが重要

リンパケアエクササイズは、運動メニュー1つ1つに関して、手、腕、腰や足の関節や筋肉、体側・体幹をどのように動かすのか、内転筋を動かすときのポイント、腹式呼吸や有酸素運動をどのようにするのかなど、骨格や筋肉の図を使って解説しています。
注意点は、まずは腕のむくみだから腕と肩の運動だけでいいとは限りません。足のむくみだから下半身だけでいいとは限りません。リンパ管は全身に張り巡らされているので、リンパ液の循環がよくなるよう、全身を意識して体を動かせることが重要だとしています。
運動するときは、自分の体力を知って、自分の状態に合った方法で体を動かすようにします。やりすぎは厳禁です。適度に休憩を入れて、運動が終わったら横になって休むことなどをすすめています。

表:リンパケアエクササイズライフを始めよう!

  • 毎日、朝晩5分の運動を習慣にする
  • ストレッチは1日の日課にしよう
  • 筋肉をリラックスさせる
  • 動かせる範囲を少しずつ増やす
  • 散歩で、有酸素運動も心がけよう
  • 腹式呼吸を覚えよう
  • よい姿勢を心がけよう
  • ときどき、関節をまっすぐにしてみよう
  • 体重管理をしよう
  • 疲れたら、横になって休もう
  • 物足りないを大事にしよう。

提供:一般社団法人キャンサーフィットネス代表理事・広瀬眞奈美さん

最後になりますが、学会の市民公開講座で広瀬さんは、以下のメッセージを伝えました。

体を動かさず、何もしていないと、筋肉が固くなります。年を重ねると関節が動かなくなります。筋力が落ちて腕が上がらなくなり、足腰が弱くなり、リンパの流れが弱くなってリンパ浮腫(むくみ)が悪化すると、日常生活がよくなりません。
いまや、治療法が進歩して多くのがん患者さんが長生きできる時代なのです。
これからは、治療が終わった後、自分の人生をどのように過ごしていくのかについて、自分自身が考えていかないといけません。そのためにもカラダを動かして笑顔で生きていきましょう!リンパケアエクササイズライフを是非とも始めましょう!

  • *1:2019年3月2~3日の第3回日本リンパ浮腫学会総会(会長:がん研究会有明病院婦人科副部長/リンパ浮腫治療室長/健診センター検診部副部長・宇津木久仁子先生)の市民公開講座「自分でできることから始めよう-栄養管理と運動療法」では、がん研究会有明病院管理栄養士・伊丹優貴子先生と一般社団法人キャンサーフィットネス代表理事・広瀬眞奈美さんが講演しました。
  • *2:国内外のガイドラインでは、がん治療後に発症するリンパ浮腫(むくみ)の対策として、食生活の見直しや運動が推奨されており、肥満がリスクといわれています。BMI25未満など適正体重を理解したうえでの体重減少が有効とされています。
  • *3:日本リハビリテーション医学会の「がんのリハビリテーションガイドライン」は2013年に発行されました(ガイドライン委員長は慶応義塾大学リハビリテーション医学教室准教授・辻哲也先生)。現在、最新の改訂版発行に向けて作成中です。
  • *4:書籍「リンパ浮腫のことがよくわかる本」(講談社)は2019年2月14日に講談社から発行されたもので、書籍監修は第3回日本リンパ浮腫学会総会の会長を務めた宇津木久仁子先生です。

■一般社団法人キャンサーフィットネスについて

キャンサーフィットネスでは、がんを経験されたかたに対して、運動などを通して、安心して社会復帰し、元気に笑顔で生きてほしいと切に願って支援をしています。がんサバイバーさんのインストラクター養成も行っており、全国レベルでがん患者さんに運動を通してサポートできるよう積極的な活動を展開しています。
運動教室、ヘルスケアアカデミーをはじめ、さまざまなプログラムを開催しています。プログラムのスケジュールは下記のサイトで参照できます。また、ブログでも各種イベントの情報があります。

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公開日:2019/06/28
監修:一般社団法人キャンサーフィットネス代表理事 広瀬眞奈美さん