疾患・特集

見過ごせない男性の更年期障害

男性の場合は深刻な事態になりやすい!?男性の更年期障害について、なぜ起こるのか、また、その症状を検証します。

男性の更年期障害による症状

中高年男性の自殺、その原因のトップにあげられているのが「健康問題」だそうです。もちろん、これが男性の更年期障害とどう関係しているかは、まったくもって不明ですが、女性と違って男性の更年期障害は、いまだその存在すら認められにくいのが現状です。本人も気づかない間に更年期障害となり、周囲にも当然理解されず、苦しんでいる男性が少なくないのかもしれません。男性の更年期障害とは?そして、男性の苦しい状況を理解することから、考えていきましょう。

※ちなみに、前回触れましたが、「更年期障害」は俗称で、医学的には「更年期不定愁訴症候群」といいます。今回は、わかりやすさを優先させ、あえて俗称で話を進めます。

男女別に見た更年期の症状(Goldzieherによる)

頻度 男性 女性
1神経質(主観的)神経質(主観的)
2疲労のぼせ
3不眠興奮状態
4興奮状態疲労
5抑うつ状態抑うつ状態
6背頸部痛便秘
7頭痛漠然痛
8のぼせ頻脈、心悸亢進
9頻脈、心悸亢進めまい
10記憶力・集中力減退記憶力・集中力減退
11めまい不眠
12便秘頭痛
13漠然痛神経症
14神経症背頸部痛
15視野暗点視野暗点
16知覚異常知覚異常
17寒気寒気
性欲減退 75%
ED(勃起不全) 50%
月経異常 99%
無月経 58%

出典:「更年期障害 これで安心 新しい治療と生活ガイド」
ホーム・メディカ安心ガイド 小学館

この表は、ハンガリーのデータなので、そのまま日本人に置き換えることはできないかもしれませんが、男女で微妙に症状が違うのがおわかりいただけるでしょう。男性の場合、身体に影響が出るより先に、神経的な部分に症状があらわれる傾向があるようです。
また、表の下にある通り、性欲の減退、またはED(勃起不全)となる割合が高く、男性はこうした症状が出てはじめて病院へ行くケースが多いといいます。つまり不眠や疲れといった体調の不良は我慢し続けているということです。

ストレスも比重が高まる年代。男性は結構大変な思いをしているといえるかもしれません。これは本人が自覚すると同時に、周囲も理解を深めていく必要があるでしょう。

ある?ない?男性の更年期障害の歴史

著名人が自身の更年期障害を明したことで認知度は高まったとはいうものの、男性の更年期障害は、医学界でも認知があいまいな部分が多いのが現状です。

この、男性における更年期障害の概念が初めて提唱されたのは、1939年。しかし、男性の場合は、女性の閉経のように劇的な変化がないこと、個人差が大きいことが災いして、概念としてはあるものの、認知・治療がはじめられることはほとんどありませんでした。

さらに悪いことに、その後、もうひとつの概念が台頭してきました。それは「中高年の危機」。聞いたことがある人も多いかもしれません。これは、ミッドライフ・クライシスとも呼ばれるもので、35~45歳に起こる転職、離婚、肉親の死などが誘因となって起こる精神的な葛藤です。身体的な変化によってさまざまな症状がもたらされる更年期障害とはまったく違うものですが、更年期障害に見られる精神神経症状と似たところがあるため、誤解された面が少なくありません。

こうして、男性の更年期障害は、あってなきもののごとく扱われてきたのです。

男性の更年期障害は、なぜ起こる?どう影響する?

更年期不定愁訴症候群を引き起こす要因 男性における更年期障害の要因

男性の場合も、女性の場合と同様に、基本はホルモン量の低下が原因です。

男性のホルモンの仕組みを簡単に説明すると、脳の視床下部から出される性腺刺激ホルモン放出ホルモンが、脳下垂体を刺激します。性腺刺激ホルモンが分泌され、それが睾丸に作用して男らしい肉体や性機能を促すテストステロンを分泌させます。
このテストステロンの分泌量は、45歳くらいから緩やかに減少していくのが一般的です。特に、テストステロンの中でも血中のフリーテストステロンが少なくなると、性欲の減退やEDといった症状につながるといわれています。

こうしたホルモンの低下に加え、大きな影響を与えるのが、ストレスです。更年期にあたる45~50歳前後というのは、子供の独立といった家庭的な面はもとより、仕事の上でもストレスの大きな年代です。そうしたストレスが、男性の更年期障害を触発するといわれています。

また、男性に多く見られるのが、うつ的な傾向です。下の項にもある通り、男性の場合は更年期による身体的な変化が、精神的な面に出やすいようです。このため、どうしても精神面、特にうつ状態に陥りやすいとされています。「何もやる気が起きない」「イライラばかりしている」「うつうつとして、仕事をしたくない」…。更年期にあたる年齢になって、こうした症状が出てきたら、早めに病院へ行くのが得策です。

「更年期としてのうつ状態とうつ病」の比較

更年期症状としてのうつ状態 うつ病
誘因 自己愛の傷つき喪失体験、不明のことが多い
顕著な症状 自己不全感、無気力抑うつ感、エネルギーの低下
治療 自己愛の傷つきを癒す、精神療法的アプローチ薬物治療、休養が主体、精神療法は効果が少ない
経過 慢性化、長期化比較的短期、反復性
予後 基本的に健康な人の反応、比較的良好しばしば不良

※東京慈恵会医科大学精神科の館直彦氏による、更年期うつ状態とうつ病の違い
出典:「明るく乗りきる男と女の更年期」赤塚祝子 講談社現代新書

「婦人科」はあるが「紳士科」はない。さて何科を受診する!?

男性も、更年期の年齢になったら、たとえ「だるい」といった些細な症状でも長引く場合は、病院へ行きましょう
理由については、女性の場合を参照してもらえればと思いますが、更年期障害はあくまでも「除外診断」という点です。更年期に当たる年齢は糖尿病、高血圧症といった生活習慣病をはじめ、さまざまな病気を発症しやすい年代でもあります。それらの病気による疲労感や倦怠感、だるさである可能性もあるのです。つまり、ほかに病気がないこと、またはほかの病気の治療による作用である可能性が少ないことが、更年期障害と診断される前提なのです。

しかし、ここでひとつ問題が発生します。女性の場合は婦人科があるので、ひとまず何でもこの科を受診してしまう、ということができます。では、男性の場合は?「だるい」だけで、どの科を受診すれば良いのでしょうか。

大別すると、方法はふたつあります。「だるい」「疲れが取れない」といった場合は、まず心療内科もしくは内科へ。そこでさまざまな検査を受け、どこにも異常や病気がないことを確かめてもらいます。その上で、まだ「だるい」などの症状があるなら、今度は心療内科もしくは神経精神科を受診します。慎重を期するのであれば、事前に電話などで男性の更年期障害についても扱っているか問い合わせたり、かかりつけの医師に紹介してもらうのも良いでしょう。

「尿の出が悪い」「性欲はあるのに勃起が維持できない」といった場合は、泌尿器科の出番になります。ちなみにこの年齢の男性が発症しやすい病気のひとつに、精液がつくられる部位の病気・前立腺肥大症があります。50代の男性なら3~4人に1人はその兆候があるといわれるほど多い病気で、症状としては夜間に何度もおしっこに起きる、残尿感があるなどが見られます。これも早期なら薬で治せますが、症状が進むと手術が必要になる厄介な代物です。

まずは病院へ行くことから。男性も無理や我慢は禁物!です。