だるい、疲れが取れない、イライラする…。更年期のある日、こんな不調に気付いたら、「トシだから…」と諦めたり恥ずかしがったりせず、病院へ行った方が良いようです。その理由とは?
目次
次のグラフをまず見てみましょう。だるい、疲れが取れない、イライラする…。更年期を迎えた女性が訴える自覚症状はとても幅広く多彩です。
出典:「どうする更年期 2953人の体験から」
女の身体と医療を考える会編 日本婦人会議1997年
血管運動神経症状 | ほてり(顔面紅潮)・のぼせ、発汗、手足の冷え |
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精神神経症状 | 頭痛、頭重感、憂鬱、不安感、イライラ、めまい、無力感、不眠、神経質、記憶力減退、気分不安定、孤独感、興奮、ほか |
運動器官系症状 | 肩こり、背部痛、腰痛、関節痛 |
知覚系症状 | しびれ、知覚過敏、知覚鈍麻、視力低下 |
消化器系症状 | 便秘、腹痛、吐き気、腹部膨満感、食欲不振、ほか |
泌尿生殖器系症状 | 排尿痛、頻尿、膣乾燥感、性交痛、不感症、冷感症 |
その他 | 疲労感、胸部圧迫感、耳鳴り、立ちくらみ |
こうした症状は、感じる強さや頻度には個人差が大きいものの、女性の実に6~7割もの人が経験しているといわれています。でも、そのうち実際に病院を訪れ、治療をするのはなんとわずか1割前後。
ほとんどの人が症状を自覚しながらも「トシだから…」と諦めたり、あるいは「病院へ行くなんて恥ずかしい…」と我慢しているのが実情のようです。
そうなってしまう理由は、誰しも推測できるところでしょう。更年期障害と呼ばれる代物には、「閉経」というデリケートな問題が含まれているからです。でも、そのまま我慢したり諦めたりして良いのでしょうか?そんな視点からも見ていきましょう。
最初に「更年期」とされる時期について触れておきましょう。更年期とは、女性の場合、閉経の前後5年、合計10年間を指します。一般には、閉経の平均年齢がだいたい50歳であるため、45~55歳の時期を指して「更年期」とされています。
この時期に、上記のような症状が出てくると、更年期不定愁訴症候群の可能性が疑われるわけです。ただ、更年期に該当する年齢で、不定愁訴があるからイコール「更年期不定愁訴症候群」ではありません。
現在の医学では、まだまだ更年期不定愁訴症候群の定義は確立されていません。このため、病院や医師によって多少の違いが出てくることはありますが、必須条件とされるのは、以下の通りです。
つまり、現代の医学では病気と特定される何ものも存在しないことが明らかになってはじめて「更年期不定愁訴症候群」と診断されます。なぜここまでしつこく言うかは、次の表を見るとおわかりでしょう。この年齢は、生活習慣病をはじめとする各種の病気が発生しやすい時期でもあるのです。
おりものに異常が現れる | カンジタ膣症、膣炎、子宮内膜症、頸管ポリープ、ほか |
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月経異常・不正出血を伴う | 子宮筋腫、子宮体がん、甲状腺機能の異常、ほか |
頭痛を伴う | 高血圧症、低血圧症、脳腫瘍、中耳炎、メニエール病、ほか |
関節の症状 | 慢性関節リウマチ、五十肩 |
老眼以外の目の症状 | 白内障、脳腫瘍、ほか |
胸の痛みなど | 狭心症、心臓神経症、ほか |
尿や泌尿器の症状 | 膀胱炎、子宮脱、糖尿病、ほか |
更年期不定愁訴症候群の大きな要因は、なんといってもホルモンバランスのくずれにあります。女性の体は、初潮から閉経まで、図のようにホルモンによってコントロールされています。ですが、これは20~30代をピークに、徐々に卵巣機能が低下していくなかでバランスを失っていきます。
この、卵巣機能の低下に伴って劇的に減少していくのが、女性ホルモンのひとつ・エストロゲンです。エストロゲンは、卵巣機能のほかにもさまざまなはたらきを持っているため、脳は一定量のエストロゲンを確保しようと卵胞刺激ホルモンの分泌量を増やし、卵巣を刺激します。でも、機能の低下した卵巣は、脳の要望に応えられず、エストロゲンはますます減少していきます。
こうしたエストロゲンの分泌量の減少と、卵胞刺激ホルモンの増加というホルモンバランスのみだれが、さまざまな症状となって更年期の女性の体に現れてきます。
ただ、原因はこれだけではないと考えられています。というのも、それならばすべての女性にあるわけで、なぜ更年期不定愁訴症候群となり、日常生活にまで影響するほど悪化してしまう人と、ほとんど自覚症状もないまま過ごせる人がいるかがわからないからです。
現在では、上記のようなホルモンバランスのくずれによる身体的要因に、家族の看護や子供の親離れといった社会的要因、ストレスに弱い、几帳面な性格であるといった心理的な要因が組み合わされ、症状の強弱・多少の個人差が出るものと考えられています。
更年期と呼ばれる年齢になったある日、疲れがなかなか取れない、あるいは気が滅入りやすい自分に気づいたら迷わず一度、病院へ行ってみましょう。そう勧める理由は、上記のまぎらわしい病気のためばかりではありません。人によって決して行ってはならない治療法も存在するからです。
例えば、近年、更年期不定愁訴症候群の治療として普及してきているホルモン治療は、がんを患ったことのある人には決して施してはならない治療法となります。
これに加え、多岐にわたる不定愁訴の治療には、心理的なアプローチが効果的なのか、薬物投与が良いのか、といった効果の面からの判断も必要になります。今は、「更年期外来」といった専門外来を設置している病院も増えています。
これからは我慢することなく、また恥ずかしいなどの理由で躊躇することなく、積極的に人生を楽しむため、今ある不快な症状を緩和・改善するためのひとつの方法として、受診することを心がけましょう。