パーキンソン病のおもな症状や、病気のしくみなどパーキンソン病の基礎知識について解説。手がふるえる、歩くとき前かがみになる、などの症状はありませんか? 目次 パーキンソン病ってどんな病気? パーキンソン病が起こるしくみは? パーキンソン症候群との違いは? パーキンソン病ってどんな病気? 何もしていないのに手がふるえ、歩くときに前かがみになる。こんな症状が現れたら、それはパーキンソン病かもしれません。そのほかに、歩幅が狭くなることや、歩くときに手の振りがなくなることも特徴的な症状です。バランスが悪くなって転びやすくなるせいで、骨折も多くみられます。多くの場合、手のふるえなどの症状は、初めは左右のどちらかに起きます。それがゆっくりと少しずつ進行していき、やがてもう一方にも起きるようになります。 この病気は60歳前後で発症する人が多いのですが、それ以上の高齢者や20代の若者に起きることもあります。なお、性別による差はほとんどありません。 パーキンソン病のおもな症状 何もしていないのに手がふるえる 歩くときに前かがみになる 歩幅が狭くなる 歩くときに手の振りがなくなる 顔の表情がかたくなる 体の筋肉がかたくなる 動作がゆっくりになり、動く回数も減る 体のバランスが悪くなり転びやすくなる 声が小さく早口になる 2つ以上の動作が同時にできなくなる …など パーキンソン病が起こるしくみは? パーキンソン病は遺伝によって起きることがありますが、はっきりした原因は現在もまだわかっていません。そのため、厚生労働省より治療の難しい特定疾患のひとつに指定されています。 原因は解明されていないものの、パーキンソン病が起きるしくみで明らかになっていることもあります。脳内には血液の循環を促して体の動きを活発にさせるノルアドレナリンという神経伝達物質がありますが、これに変わる前の段階であるドパミンという神経伝達物質が、パーキンソン病の患者の脳内では減少していることがわかっています。 脳の一部である中脳には、筋肉の緊張をコントロールする黒質(こくしつ)と呼ばれる部分があります。ここの神経細胞で作られたドパミンが、大脳にある線条体(せんじょうたい)という部分へ受け渡されることで、体の動きに関する命令が伝わります。パーキンソン病の症状である体の動きの異常は、黒質の神経細胞が減り、ドパミンの数も減ることによって、体全体への命令がうまく伝わらないせいで起きていると考えられています。 パーキンソン症候群との違いは? 手足のふるえや筋肉がかたくなるなどの症状は、ほかの病気でもみられることがあります。脳血管の病気である多発性脳梗塞(たはつせいのうこうそく)や、神経の病気である大脳皮質基底核変性症(だいのうひしつきていかくへんせいしょう)などがそれにあたり、ほかにも薬や毒物の影響で同様の症状が現れることもあります。パーキンソン病ではありませんが、似た症状が現れるこれらを総じてパーキンソン症候群と呼びます。 パーキンソン症候群と区別してパーキンソン病と認定される条件は、以下のようになっています。 パーキンソン病の認定基準 次の4つを満たせばパーキンソン病と認定される。 1~3は満たすが4をまだ確かめていない場合は、パーキンソン病疑い症例とされる。 (1)パーキンソニズム※1が確認できる (2)脳CTまたはMRI検査をしても特定の異常が見つからず、ほかの病気が原因だとは考えられない (3)パーキンソニズムを起こす薬物や毒物との接触がない※2 (4)抗パーキンソン病薬の投与によってパーキンソニズムが改善される ※1:次のいずれかに当てはまる場合、パーキンソニズムが確認できたこととする。 ・パーキンソン病の典型的症状である、じっとしている状態での左右どちらかのふるえ(4~6Hz)がみられる ・歯車のように筋肉がカクカクと動く、動作がゆっくりになる、歩く姿勢に異常がみられるという症状のうち2つ以上がみられる ※2:薬物への反応はレボドパまたはドパミン受容体刺激薬による判定が望ましい。 参考:難病情報センター パーキンソン病関連疾患(3)パーキンソン病 手のふるえだけが現れている時期では、患者やその家族はもちろん、医師でも専門外であればパーキンソン病かどうかの判断はなかなかつかないものです。正確な診断を受けるためにも、神経内科のある専門機関で専門医に診てもらいましょう。 次のページではパーキンソン病の治療方法について解説します。 ■関連記事 パーキンソン病を発症する前に血液で診断する方法を開発 便秘、嗅覚低下、睡眠障害、うつも早期発見の鍵 パーキンソン病に長く悩んでいる人にはDAT外来に相談 順天堂大学 パーキンソン病ってどんな病気?最新の治療法は? 近未来のパーキンソン病ハウス、遠隔ICTで患者さんをサポート 順天堂大学と企業で共同研究 公開日:2010/03/29
パーキンソン病は、抗パーキンソン病薬を投与する薬物療法や、脳に直接はたらきかける手術療法、リハビリをはじめとした作業療法などで治療します。 目次 パーキンソン病はどうやって治療する? 早期は薬物療法が中心 進行期には脳の手術をすることも! パーキンソン病はどうやって治療する? ドパミンという脳内の神経伝達物質の減少で手足のふるえなどが起きるパーキンソン病は、抗パーキンソン病薬を投与する薬物療法や、脳に直接はたらきかける手術療法、リハビリをはじめとした作業療法などで治療します。薬物治療を基本として、これらの中から病気の進行度にあわせた方法がとられます。いずれの方法もパーキンソン病を根本から治すことはできませんが、進行の抑制や症状の改善が期待できます。 早期は薬物療法が中心 パーキンソン病を治療するおもな薬は8種類に分類されます。症状がそれほど重くない早期は、薬物療法が治療の中心となります。病気の進行度や患者の年齢などにあわせ、必要に応じて複数の異なる種類を組み合わせて投与することもあります。 おもな抗パーキンソン病薬の分類 1. レボドパ ドパミンに変化する物質を服用することで、不足したドパミンを補います。 2. ドパミンアゴニスト ドパミン受容体を刺激して、ドパミンの受け渡しが正常に行われている状態にします。 3. 抗コリン薬 ドパミンの減少に伴って増加したアセチルコリンという神経伝達物質を減らして、ふるえの症状を抑制します。 4. 塩酸アマンタジン 大脳にある線条体(せんじょうたい)で、ドパミンが放出されるのを促進します。また、ジスキネジアを抑えるはたらきもあります。 5. ドロキシドパ 歩くときに一歩が踏み出せず立ちすくんでしまう「すくみ足」と呼ばれる症状などに関係する、ノルエピネフリンという神経伝達物質の不足を補います。 6. MAO-B阻害薬 ドパミンが分解されるのを防ぎます。 7. 末梢性COMT阻害薬 レボドパと併用して、レボドパが効きやすくなるように作用します。 8. ゾニサミド パーキンソン病の症状を抑えますが、はっきりしたメカニズムはわかっていません。 てんかんを治療するのに使用されていた薬で、レボドパと併用することが多いようです。 参考:難病情報センター パーキンソン病関連疾患(3)パーキンソン病 これらの薬は、種類によって効果が続く時間や副作用が異なります。レボドパの場合、投与期間が長くなると、意思に関係なく体がくねくね動くジスキネジアという症状が現れたり、症状が良くなるのと悪くなるのを1日の間に繰り返したりすることがあります。そのため、病気が早期の段階では特に、薬の投与時期などを医師とよく相談しながら治療を進める必要があります。 抗パーキンソン病薬のほかにも薬を服用している場合は、薬の飲み合わせにも気をつけなくてはなりません。期待どおりの効果を得るためにも、薬物治療を受ける前に、服用中の薬を医師に伝えて相談しましょう。 進行期には脳の手術をすることも! パーキンソン病の患者の脳は、必要以上に活発になったり、まわりの神経に通常は送らない信号を送ったりするなど、特定の部分に異常がみられます。薬物療法では進行が抑えられない進行期には、この異常な部分を活動させなくする手術で、症状の改善を目指すことがあります。その手段として、定位脳手術が行われます。これは、外からは見えない脳の位置関係を立体的にとらえ、手術が必要な位置を正確に突き止めて、頭蓋骨に開けた小さな穴から入れた医療器具で手術する方法です。 この定位脳手術には、以下の2つの方法があります。 ●凝固術(ぎょうこじゅつ) 脳に入れた細い電極で異常な組織に熱を加えて固め、はたらかなくさせる手術方法です。組織を固めた後に、電極は抜き出されます。 ●脳深部刺激治療(のうしんぶしげきちりょう) DBS(Deep Brain Stimulation)とも呼ばれます。脳に細い電極を入れ、胸に埋めた装置とつないで刺激を与え続ける手術方法です。刺激された神経細胞ははたらかなくなります。手術後も電極は脳に入れたままで、胸の刺激装置は3~5年の間隔で電池を交換します。 定位脳手術を行うには特殊な技術が求められるため、現状では、パーキンソン病の手術ができる施設は限られています。また、病気が進行して重度になっている場合は、手術で得られる効果への期待より、脳へのダメージが心配される場合もあります。手術を希望する場合は、薬物療法を行っている主治医とよく相談する必要があります。 前のページではパーキンソン病の基礎知識について解説します。 ■関連記事 パーキンソン病を発症する前に血液で診断する方法を開発 便秘、嗅覚低下、睡眠障害、うつも早期発見の鍵 パーキンソン病に長く悩んでいる人にはDAT外来に相談 順天堂大学 パーキンソン病ってどんな病気?最新の治療法は? 近未来のパーキンソン病ハウス、遠隔ICTで患者さんをサポート 順天堂大学と企業で共同研究 公開日:2010/04/12
ふるえを「本態性振戦」「パーキンソン病」「書痙(しょけい)」「甲状腺機能亢進症(バセドウ病)」「アルコール依存症」の5つの症例にわけて紹介。自分に似たふるえをチェックしてみよう。 目次 体のトラブルによって引き起こされるふるえもある 人に物を渡しすときに、手がふるえる 何もしないでじっとしているときに、手足がふるえる 字を書いていると、手がふるえてしまう 指先が小刻みにふるえる アルコールが途切れると、手足のふるえが治まらない… 体のトラブルによって引き起こされるふるえもある そばやラーメンを食べるとき、麺を箸でつかんで持ち上げ、そのまま数秒間手を止めてみよう。誰でも微妙な手のふるえを感じるのではないだろうか?また、寒いときや、ひどく緊張したときなどにも体がふるえることがある。このようなふるえは、ごく自然な生理的現象として現われるものだ。 しかし、なかには体のトラブルによって引き起こされるふるえもある。日頃からふるえで悩んでいる人や、家族や知り合いのふるえが気になる人は、どのタイプに当てはまるのか、さっそくチェックしてみよう! 人に物を渡しすときに、手がふるえる 物を持って人に渡したりするときに、手がふるえるのでちょっと恥ずかしいです。手紙を書くときに、手がふるえてしまい字が泳いでしまうので、楽しみだった年賀状書きも、最近は妻に代筆してもらうようになってしまいました。また、手がふるえて飲み物をこぼしてしまうことが何度もあったので、最近では熱いお茶は飲まないようにしています。(Aさん男性) 字を書くときや一定の姿勢をとるときにふるえがある場合、「本態性振戦」の疑いがあります。じっとしているときにはふるえはないことが多い。手のほか、頭や声などがふるえることがあります。 何もしないでじっとしているときに、手足がふるえる 何もしないでじっとしているときに、手足がふるえます。家族は私のふるえを見て「指先でなにかを丸めているように見える」と言います。字を書いているときにふるえることはありませんが、次第に文字が小さくなっていってしまいます。 また、「最近動きが鈍くなった」と言われます。正直、歩くのも一苦労なので、家でじっとしていることのほうが多くなってきました。(Bさん女性) 「パーキンソン病」の疑いがあります。このふるえはじっとしているときに起こるのが特徴です。しかし、何か動作をしているときには起こりません。ふるえは、まず、左右どちらかの手にみられ、その後、同じ側の足にもふるえが現われるのが一般的です。 字を書いていると、手がふるえてしまう 仕事上、字を書くことが多いのですが、書いているうちに筋肉がけいれんし、手がふるえてしまいます。しかも単なるふるえだけではなく、筋肉がこわばり、文字を書き続けることができなくなることもしばしばです。他のときは何もないのに、文字を書こうとするときだけ、必ずふるえが起きてしまいます。(Cさん男性) 文字を書くときだけ手がふるえる「書痙(しょけい)」の疑いがあります。文字を書く以外の動作では、ふるえが起こらないのが特徴です。 指先が小刻みにふるえる 指先が小刻みにふるえます。また、膝がガクガクふるえることもあります。汗をかきやすくなり、寒い日にブラウス1枚で過ごしても平気なので、自分でも不思議です。 心臓がドキドキして、ちょっと走ったりすると、すぐに息切れをしてしまいます。イライラしたり、集中力がなく、人からも「最近顔つきがきつくなったね」とよく言われます。また、首のつけ根がいつも腫れているのが気になっています。(Dさん女性) 手足が小刻みにふるえ、首のつけ根が腫れている場合、「甲状腺機能亢進症(バセドウ病)」の疑いがあります。男性よりも女性に多くみられます。 アルコールが途切れると、手足のふるえが治まらない… アルコールが途切れると、手足のふるえが治まらなくなる。そして、汗が止まらなくなったり、イライラするので、常にアルコールを飲んでしまいます。飲むとふるえはとまり気分は落ちつきますが、歯止めが効かず、ついつい酔いつぶれるまで飲んでしまうのです。また、最近、飲むアルコールの度数も高くなり、酒量が多くないと眠れなくなってきました。(Eさん男性) 「アルコール依存症」の疑いがあります。Aさんの場合の「本態性振戦」でもアルコールを飲むと症状が治まることがあります。しかし、本態性振戦の患者さんが、お酒を飲み過ぎると、二日酔いでふるえの症状がよりひどくなることがありますので、気を付けましょう。 ふるえにはさまざまな種類があり、それぞれに対策が異なる。そこで、「さまざまなふるえ、その病態を探る!」で、ふるえを伴う病気について詳しくみていこう。 ■関連記事 パーキンソン病を発症する前に血液で診断する方法を開発 便秘、嗅覚低下、睡眠障害、うつも早期発見の鍵 パーキンソン病に長く悩んでいる人にはDAT外来に相談 順天堂大学 パーキンソン病ってどんな病気?最新の治療法は? 近未来のパーキンソン病ハウス、遠隔ICTで患者さんをサポート 順天堂大学と企業で共同研究
「ふるえには病名があった!!~あなたのふるえはどのタイプ?」で紹介したように、ふるえにはさまざまなタイプがある。それぞれのふるえの特徴をみていこう。 目次 本態性振戦 パーキンソン病 書痙(しょけい) 甲状腺機能亢進症(バセドウ病) アルコール依存症 心配のないふるえとは? 本態性振戦 何かを持ったり、字を書いたりするときに、小刻みにふるえてしまう病気で、40代以上の中高年になるほど発症頻度が高くなる。40歳以上では16人に1人、70歳以上では10人に1人という報告も。 「本態性」には「原因不明」、「振戦」には「ふるえ」という意味があり、ふるえの原因はよくわかっていないが、家族にも同じようなふるえの症状があることもあり、遺伝的な要因が関係しているケースもあると言われている。 ふるえ以外の症状はとくになく進行性の病気ではないため、生命には直接影響しない。しかし、ふるえが気になって人前に出るのが苦痛になり、家にひきこもりがちになってしまう人も多いので、ふるえにより生活に支障をきたす場合には、一度、神経内科を受診してみるとよいだろう。 あなたもふるえをチェックしてみよう! ふるえはどうして起こるの?治せるの? 年齢別にみた本態性振戦の発症頻度 患者数は年齢が上がるにつれて増えていく 出典:後藤孝史(神経内科)1989年「熊本県内の某地区の40歳以上の男女(男性507名、女性729名)を対象とした住民健診」より パーキンソン病 脳の神経細胞のひとつであるドーパミンが減少することによって、神経間の情報伝達がうまくいかなくなり、体の動きに変調が起こる病気。脳神経系疾患のなかでも脳卒中、痴呆の次に患者数の多い病気で、日本には10万人以上の患者がいると言われ、50代以降の中高年、高齢者に多い。 じっとしているときの手足のふるえが特徴的で、動作をしているときにはふるえはない。また、筋肉のこわばりによって動作が制限されるため、文字を書いているうちに字が小さくなったり、歩きにくくなる、表情が乏しくなるなどの症状が特徴。症状はしだいに悪化し、ついには寝たきりになることもあるので、早期発見と治療が大切。よい薬もたくさんある。 書痙(しょけい) 字を書こうとすると手指や腕などがこわばり、ふるえてまっすぐに書けなくなるのが「書痙(しょけい)」だ。本態性振戦と間違えられやすいが、文字を書くとき以外にはふるえがないこと、ふるえだけではなく筋肉のこわばりも感じること、またほかの部位のふるえがないことが特徴。 以前は、心因的なものとされてきたが、最近では自分の意図していない筋肉に過剰な緊張が起こる「ジストニア」という病気の症状が手に起こっている場合もあると考えられている。 甲状腺機能亢進症(バセドウ病) 免疫機能の異常により、体が自分の甲状腺を異物とみなして抗体をつくり、この抗体が甲状腺を刺激するために起こる自己免疫性疾患。男性よりも女性に多く発症する。甲状腺ホルモンがたくさんつくられ、甲状腺が腫れてしまうのが大きな特徴で、甲状腺の異常なはたらきは自律神経のバランスにも影響し、ふるえが起こる。指先の細かいふるえが特徴だが、ひどくなると膝や全身のふるえが目立つようになる。 また、新陳代謝が活発になりすぎて脈拍が速くなり、心臓がドキドキしたり、体温が高くなったり冬でも汗びっしょりになることも。また、疲れやすく、集中力がとぎれる、目つきが鋭くなる、皮膚が黒ずんでくることもある。 アルコール依存症 長年にわたって、多量のアルコールを飲んでいると、気づかないうちに「アルコール依存症」に陥ってしまうことがある。 いったんアルコール依存症になると、アルコールを飲めなくなったときに禁断症状が現れる。軽度の場合はまず手や足のふるえがあるが、アルコールを飲むことでおさまるため、症状を抑えるためにアルコールを手放せなくなってしまう。さらに、ひどくなると全身の筋肉のひきつりや、てんかんのような全身けいれんが起こることもあり、幻覚が現れたり記憶障害が現れることもある。 心配のないふるえとは? 生理的なふるえ:寒さを感じたときや熱が出たときに起こるふるえは、ふるえることによって全身を動かして筋肉を収縮させ、内側から温めようとする体の自然な機能。そのほか、ひどくお腹がすいたときなどにふるえは起こる。 精神的な緊張によるふるえ:人前でスピーチをするときや演奏をするときなどに感じる声や手のふるえは、精神的な緊張によって起こるもので、「ここ一番」というときには誰でも経験したことがあるだろうふるえ。 ■関連記事 パーキンソン病を発症する前に血液で診断する方法を開発 便秘、嗅覚低下、睡眠障害、うつも早期発見の鍵 パーキンソン病に長く悩んでいる人にはDAT外来に相談 順天堂大学 パーキンソン病ってどんな病気?最新の治療法は? 近未来のパーキンソン病ハウス、遠隔ICTで患者さんをサポート 順天堂大学と企業で共同研究
本態性振戦は命に関わる重篤な病気ではないが、クオリティ・オブ・ライフを損なう要因になる。自分でできるふるえチェックシートで、ふるえの症状をチェックしてみよう。 目次 ふるえはクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)に影響する あなたもふるえをチェックしてみよう! ふるえが気になる人は、フェルトペンを使おう! ふるえはクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)に影響する ふるえを唯一の症状とする「本態性振戦」は生命には影響がなく、ほかの症状も伴わないため、「年のせいだから仕方がない」「たかがふるえじゃないか」などと、本人も家族も熱心に治療に取り組もうとしない場合が多いようだ。 しかし、不快な症状を抱えたまま毎日を過ごすのでは、生きることの喜びが制限されてしまうのではないだろうか?実際、ふるえの症状を気にして人前に出るのをやめてしまったり、箸をうまく使えないために食べたいものも食べられなくなるなど、長引けば長引くほど精神的な苦痛は大きくなってしまう。 ふるえに気づいたら早めに専門医である神経内科を受診し、医師の診断を受けて欲しい。なぜなら、「本態性振戦」は薬でそのふるえをコントロールすることができるからだ。 神経内科の主要な施設(日本神経学会) あなたもふるえをチェックしてみよう! その1:レッツトライ!ふるえ診断 1. 字を書くとき、手がふるえる 2. 食事をするとき箸や茶碗を持つ手がふるえる 3. 着替えをするとき、ボタンに掛けた手がふるえる 4. 人前で話をするとき、声がふるえる 5. 頭がふるえているといわれたことがある 6. じっとしているとき、手がふるえる 7. 歩くのが下手になり、足がふるえてすくんでしまう これらの項目の多くにあてはまった場合、本態性振戦やパーキンソン病が疑われる。なかでも、1~5に多くあてはまった場合は本態性振戦の可能性があり、6か7にあてはまった場合はパーキンソン病の可能性がある。 その2:書いてチェック!なぞってチェック! 文字を書くことやうずまきをなぞることで、ふるえをチェックする方法。画像をクリックして、用紙をプリントアウトしてトライしてみよう。文字のふるえがひどかったり、うずまきを筆記用具でうまくなぞれない場合には、本態性振戦の可能性がある。 ふるえが気になる人は、フェルトペンを使おう! ふるえが気になる人は、日頃フェルトペンを使おう! ボールペンや鉛筆などの先の硬い筆記用具を使っていると、振動が文字に伝わりやすく、字のふるえが目立ってしまう。先のやわらかいペンを使えば、振動が先まで伝わりにくくなり、文字も見やすくなる。なるべくフェルトペンなど先のやわらかいペンで書くようにしてみよう。
本態性振戦が起こるメカニズムはまだ未解明だが、症状の改善に有効な薬がある。それがβ遮断薬「アロチノロール」だ。なぜこの薬が本態性振戦の症状の緩和に有効なのだろうか? 目次 本態性振戦の発生のカギは「交感神経」にあり!? 治療の要は「β2受容体」の遮断 リラックスすることが治療への近道 本態性振戦の発生のカギは「交感神経」にあり!? 「交感神経」は、自律神経(代謝や呼吸、消化や循環など、自分の意志とは関係なくはたらく末梢神経)のひとつ。自律神経には「交感神経」「副交感神経」の2種類があり、体を活動モードに導く神経が「交感神経」。一方、体をリラックスモードに導く神経が「副交感神経」と呼ばれている。 人は外からのストレスを受けると「交感神経」がより活発になり、体が外部からの攻撃に備えるための準備をする。 そして、交感神経から全身の器官に緊張を知らせる神経伝達物質を放出し、器官は「受容体」(レセプター)という受け皿を通じてその物質をキャッチするのだ。 受容体には、「α受容体」と「β受容体」の2種類がある。 β受容体の中には、さらに「β1受容体」と「β2受容体」があるが、β1受容体は心臓の刺激に、β2受容体は末梢血管や気管支などの拡張に関わっている。 さて、本態性振戦がどうして発生するのかは、まだよくわかっていない。しかし、何らかの原因で中枢性、末梢性の脊髄運動神経が過剰に興奮したり、交感神経の情報を受けた骨格筋の「β2受容体」が過剰に興奮し、筋肉の運動のバランスが乱れることでふるえが引き起こされると考えられている。 また、ふるえに悩む人には、「人前に出たり、緊張すると激しくなる」と訴える人が多い。これは、ストレスが加わることで、腎臓上の副腎にある「副腎髄質」という器官から交感神経を通じて「アドレナリン」という物質が放出されることにより、骨格筋のβ2受容体が刺激されてふるえが強くなるためと言われている。 治療の要は「β2受容体」の遮断 ふるえを伴う病気の治療は主に神経内科が専門。本態性振戦の場合は、薬物療法が主な治療法だ。現在では、「β遮断薬」という薬を使用して、骨格筋にあるβ2受容体にアドレナリンが到達するのを防ぐことが最も有効な治療のひとつであると考えられている。 ちなみに、本態性振戦の治療に保険が適用されるのは、「アロチノロール」のみ。 リラックスすることが治療への近道 心身を緊張に導くのが交感神経。ふるえには、この交感神経の亢進(たかぶり)が大きく関わっているため、日常生活では過度な緊張を避け、リラックスする時間を増やすことが大切だ。 人は緊張状態に長く身をおくと交感神経がはたらき過ぎ、心身をリラックスに導く副交感神経が十分に機能しなくなってしまう。その結果、交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、ふるえが起きると考えられているのだ。 毎日十分にリラックスする時間をもち、心身の緊張を解いてあげることが、ふるえを少なくするヒケツだということを覚えておこう!
本態性振戦に詳しい神経内科の専門医に、本態性振戦について質問。若年での発症、男女差、受診の時期、薬のことや家族の接し方などについてのQ&A。 目次 Q 若い人でも本態性振戦になるのでしょうか?また、男女差はありますか? Q どれくらいの症状がでたら受診するべきですか? Q 薬はどれくらいで効果がでるものなのでしょうか? Q 薬は毎日飲まなくてはならないのでしょうか? Q 薬には副作用がありますか?併用できますか? Q 健康保険は適用されますか? Q 家族や周囲の人間はどのように接すればよいのでしょうか? Q 若い人でも本態性振戦になるのでしょうか?また、男女差はありますか? 中高年から増えていき、高齢になるほど多くなる病気ですが、若い人でも発症することがあります。若い人がこの病気にかかる場合、遺伝的な要因が考えられます。ご家族の中に同じようなふるえがあった方がいないかどうか、確認してみましょう。 また、症状に男女差はありません。 Q どれくらいの症状がでたら受診するべきですか? 早ければ早いほどよいでしょう。症状を長引かせると、それだけ不快な状態が長引くわけですから、早めに神経内科などの専門医を受診し、適切な治療を受けてください。本態性振戦は進行性の病気ではないため死にいたることはありませんが、別の病気の可能性もありますので、自己判断は禁物です。必ず、医師の診断を受けてください。 Q 本態性振戦の治療には薬を用いると聞きましたが、薬はどれくらいで効果がでるものなのでしょうか? 早い人では3日、平均で1~2週間で症状が緩和されます。ただし、完治するわけではありませんので、症状が治まったあとも、定期的に医師を訪れ、上手に症状をコントロールしてください。 Q 薬は毎日飲まなくてはならないのでしょうか? 薬は症状に応じ、医師の指示に従って服用してください。服用後、約30分ぐらいで効果が現れ、4~5時間持続します。ふるえの頻度が多ければ、1日2回、朝と昼に服用するのが通常ですが、症状によっては1日1回のこともあります。 また、本態性振戦の場合、精神的緊張でふるえが強くなるので、ふるえると困るという日や時刻に合わせて、その日の2、3日前から薬を飲むとよいでしょう。不規則な服用であっても症状が悪化することはありませんので、薬を飲み忘れても心配ありません。 Q 本態性振戦の治療に使われる薬には副作用がありますか? また、ほかの薬と併用できますか? 本態性振戦の治療に使われる「β遮断薬」はもともと高血圧や不整脈の治療に使われてきた薬です。作用として、血圧を下げたり、脈拍を遅くしたりということがありますので、必ず医師と相談して、使用量を調整してください。また、精神的に活動性が弱まったり、性欲が低下したりする場合もあります。 なお、ほかに疾患のある場合や治療を受けている場合は、必ず専門医の指導を受けてください。 Q 健康保険は適用されますか? 本態性振戦の治療に保険が適用されるのはβ遮断薬の「アロチノロール」のみです。 Q 家族や周囲の人間はどのように接すればよいのでしょうか? 本態性振戦は命に関わる重篤な病気ではありませんが、長引くと人前に出るのが苦痛になり、行動範囲が狭くなってしまい、その結果、筋肉が衰えることもあります。ひいては家にこもって寝たきりや痴呆を招くきっかけにもなることもないとは言えません。 本態性振戦は精神的ストレスによって症状が強く現れるので、本人も周囲もあまりふるえを気にせず、できるだけリラックスした状態を保てるようにしてください。そのためにも睡眠は十分にとってください。また、人と接することへの恐怖心を持たないよう、散歩に誘ったり、趣味を楽しんでもらうなどしてみるのもよいでしょう。