疾患・特集

難病と共に生きる薬剤師が地域に密着した癒しの健康サポート薬局を立ち上げ

町の調剤薬局は、薬をもらうだけではなく、気軽に立ち寄れる癒しのスペースだと重宝されます。薬局ちぇあーくらぶ(Chair Club)は、代表の三ツ谷清湖さんが神経難病と共に生きてきた経験があるからこそ、「そっと支えるイス(Chair)のように寄り添いたい」をコンセプトに立ち上げました。少しでも早く地域を見守り、みなさんを支援したいとの思いから、コロナの影響がある時期にあえて開局しました。開局への思いを紹介します。

ふと腰をおろしたくなるイス(Chair)のように支えたい

薬局ちぇあーくらぶ(株式会社Chair Clubが運営、薬局のホームページ:https://pharmacy-chairclub.jp/)の名称は、「悩んでいる方をそっと支えられるイス(Chair)のような存在になりたい」というコンセプトを表したものです。
近くにお住いのかた、働いているかたが「ふと腰をおろしたくなる癒しの薬局」を目指しています。東京都・品川区の荏原中延エリアと中央区の京橋エリアに薬局があります。
薬局の待ち合いスペースはくつろぎの場です。椅子と机、健康や医療関連の書籍などを用意し、とろみ付け機能を搭載した自販機(荏原中延店)や、食物繊維を補う難消化性デキストリン配合機能を搭載した自販機(京橋店)があります。
健康や栄養などに関するサポートを充実させているのが特徴です。専門スタッフによるカウンセリングも受けられますし、医師や薬剤師などによる健康セミナーが定期的に開催され、がんや難病のことから、薬のこと、健康に関することまで役立つ情報を得られます。
待合スペースは誰でもくつろげる癒しの空間なので、地域の集まりなどの小イベントでご利用いただけるよう、一般のお客さま向けの貸しスペースとしても提供が可能です。


薬局ちぇあーくらぶ荏原中延店(左)と京橋店(右)


とろみ機能を搭載した自動販売機(左)とデキストリンを配合できる機能を搭載した自動販売機(右)

あなたが住んでいる地域を見守り、みなさんをサポートできる薬局を目指す

代表の三ツ谷さんは、かかりつけ薬局のコンセプトを抱いたのは、難病とともに生きてきた経験が大きく影響しています。というのは、10年ほど前から激しい痛みに悩まされてきました。しめつけられて夜も眠れなくなるほどで、そのうち腕が動かなくなってしまいました。
何とかしたいと思って医療機関を探し、ドクターショッピング状態がしばらく続きましたが、ようやく関節リウマチや線維筋痛症を専門とする医師と巡りあいました。
受診すると、痛みの度合いを客観的に数値化できることを知り、三ツ谷さんの数値は激痛レベルでした。医師からは1人で痛みをがまんしてはいけないと教えてもらいました。つまり、知らず知らずのうち、ふさぎこんでいて必死にがまんしていたのです。
1人で悩んでいるのではなく、サポートしてもらう重要性を感じた三ツ谷さんは「薬剤師・医療者として、子供を持つ親として病気に負けていられない」、「みなさんのお住まいの地域を見守ってサポートしたい。そのために何かできないか」との思いを抱きました。
その思いは、「気軽に立ち寄れる癒しの空間に腰をおろしたくなるイス(=Chair)のように、そっと寄り添いたい」をコンセプトとした薬局の立ち上げにつながっていったのです。

医師や薬剤師が講演する健康セミナーは他では聞けないようなお役立ち情報を提供

薬局ちぇあーくらぶは2020年6月13日に開局し、開局記念セミナーが開催されました。
コンセプトの1つ、みなさんに役立つ情報を提供する医師や薬剤師による医療講演として、三ツ谷さんが薬局のコンセプトを説明したほか、他ではあまり聞けない難病の情報として、国から指定難病に認定される4つの鍵について医師が解説しました。


2020年6月13日に、薬局ちぇあーくらぶ荏原中延店の癒し空間で開局記念講演会が開かれました。最左で説明しているのは三ツ谷清湖さん。開局記念講演会に参加していたのは、昭和大学名誉教授の山元俊憲先生、東京八重洲クリニック院長・岡寛先生、女医Youtuber・みおしん先生、患者さんや地域にお住いのかたなどでした。

医療講演では、三ツ谷さんの主治医、東京八重洲クリニック院長の岡寛先生が、難病患者さんが医療費助成を受けられる指定難病の制度について、再発性多発軟骨炎という病気が指定難病に認定されるまでの経緯を踏まえて概説しました。
岡先生の講演によると、令和元年(2019年)7月時点の指定難病は333疾患です。
指定難病として国から認定される要件は、難病の定義(原因が不明、5万人以下の希少疾患、治療法が未確立、長期療養により医療費が継続して高額)にプラスして、客観的な診断基準が成立していることと、患者数が一定数でないことです。

喘息と間違えられやすい難病の再発性多発軟骨炎が認定される4つの鍵とは

指定難病を認定してもらうための活動として岡先⽣は次の4つの鍵をあげています。

  • 患者支援の会/患者会の活動、白書の制作(患者さんの実情について記載したもの)
  • 厚生労働省の研究班の設立、論文化、メディアにおける記事化
  • 署名活動(55万人)と厚生労働省への提出(再発性多発軟骨炎の指定難病への届け出の際には55万人の署名を集めました)
  • 国会への質問、超党派議員の活動

岡先生は、原因が不明ながらも全身の軟骨が破壊されてしまう難病で、喘息や気管支炎などと間違えられやすく、突然死のケースもある再発性多発軟骨炎に関して、2015年に指定難病として認定されるまで約10年間の活動について発表しました。 それによると、まず平成21年度厚生労働省研究班は患者さんの実態調査として239例にアンケートを実施しました。結果を見ると、初発症状で多いのは以下でした(表)。

表:再発性多発軟骨炎239例の初発症状

部位初発症状症例数(割合)
耳介軟骨炎137例(57.3%)
蝸牛・前庭神経障害(神経感音性難聴)52例(21.8%)
上強膜炎63例(26.4%)
結膜炎35例(14.6%)
鼻軟骨炎(鞍鼻)76例(31.8%)
気道気道病変*1122例(51%)
関節非びらん性関節炎92例(38.5%)
その他皮膚病変32例(11.4%)
心血管病変*217例(8.5%)
腎機能障害16例(8%)
骨髄異形成症候群4例(4.3%)
白血病1例
  • *1:気道病変122例の内訳は気管・気管支炎81例、喉頭軟骨炎41例
  • *2:心血管病変の内訳は心筋梗塞、不整脈、大動脈炎それぞれ3例、大動脈瘤1例など

出典:平成21年度厚生労働省難治性疾患克服研究事業「再発性多発軟骨炎の診断と治療体系の確立」班、リウマチ科2010;44:381-381

再発性多発軟骨炎の患者さんは耳と気道の症状が半数以上で病気が見逃されやすいこと、また死亡例が1割近くと少なくないことが問題点としてあげられました。 薬に関してはステロイドと免疫抑制薬が必要なこと、外来医療費は平均2万円、最高額6万円(いずれも3割負担)で公的補助を受けている患者さんは3例のみでした。 そこで、2008年に支援の会、2012年に再発性多発軟骨炎(RP)患者会を設立し、岡先生らは厚生労働省研究班を立ち上げて論文やメディア、医学会などで啓発活動を展開しました。55万人の署名を厚生労働省に提出した結果、2014年に指定難病に認定されました(医療費助成は2015年から)。 岡先生は、難病とともに生きているかたが日常生活で困難なことが少なくなって就労できるよう、指定難病の認定に向けた啓発活動をはじめ取り組んでいきたいとしています。

癒しの空間に誰でも気軽に立ち寄ってもらえる「かかりつけの町の薬局」になりたい

ちぇあーくらぶ(Chair Club)は、難病の患者さんも健康なかたも、誰でもふと気軽に立ち寄れるカフェのような癒しの空間を目指しています。
はたから見ると元気そう、だけど実は悩みを抱えていて体調が悪くて相談したくてもできない。そんなときに、そっと支えてくれる椅子があると助かりませんか。ちぇあーくらぶは、「かかりつけの町の薬局」として、地域のみなさんを守っていくために活動しています。

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公開日:2020/08/12
監修:株式会社Chair Club代表 三ツ谷清湖さん、東京八重洲クリニック院長 岡寛先生