疾患・特集

通院時間が長いと受診中断のリスクに

働き盛りで治療を中断する糖尿病患者さんが増加傾向にあります。関東労災病院の浜野久美子先生らは、受診中の糖尿病患者さんを対象に調査を実施したところ、受診中断しやすい患者さんでは医療機関に数時間も待たされることが理由として挙げられました。第13回横浜生活習慣病フォーラムで報告しました課題について紹介します。

仕事と治療を両立させるための鍵を探る

仕事と治療を両立させるための鍵を探る

関東労災病院糖尿病・内分泌内科部長の浜野久美子先生らは、受診中の糖尿病患者さんを対象に調査を実施したところ、治療継続への障害のひとつとして医療機関に数時間も滞在して待たされるのが当たり前の状況が見られたことなどを2018年に6月に開催された第13回横浜生活習慣病フォーラム「30-50歳代の治療中断しないためのマネジメント」で報告しました。講演内容から治療中断リスクの課題を紹介します。

病院の滞在時間は数時間でも診察が10分程度だと治療中断リスクに

浜野先生らは、全国の労災病院で受診中の糖尿病患者さんの調査とインターネット調査(糖尿病ネットワークによる)を実施しました*。調査の有効回答数は528例(1型糖尿病221例、2型糖尿病272例)で、1型糖尿病で半数以上は30~49歳(30~39歳25%、40~49歳43%)、2型糖尿病では40~59歳(40~49歳28%、50~59歳36%)でした。
通院間隔は、「1ヵ月に1回」が6割などでした。通院の時間帯は、「平日の午前」が半数で「平日の午後」や「週末の午前」の回答も多かったようです。
患者さんが病院に入ってから出るまでの滞在時間は、「2時間~3時間未満」が32%、「3時間以上」が20%、「1時間~1時間30分未満」が21%などでした。
一方、診察時間は「10分以~15分未満」が39%と最も多く、次いで「15分~29分未満」30%、「5分~9分未満」21%などでした。
病院の滞在時間が2時間以上と回答した人が半数以上でした。それに対し、診察時間は15分未満が6割で30分未満が9割でした。
通院のための時間の取り方に関しては、4割の患者さんが有給休暇を使っていました。欠勤や早退扱い、仕事の休憩時間で通院している人も少なくありませんでした。
また、通院のために仕事を休むことを会社に伝えているかどうかに関しては、「上司/総務/同僚に伝えている」が45%でしたが、「伝えていない」は29%ありました。

職場環境を考慮した診療が必要なケースも

仕事と治療との両立に対する障害について今回の調査に参加した患者さん528人の回答を見ると、医療費負担や社会・環境面の障害もありますが、職場環境や医療機関側の問題も多い結果でした(具体的には以下)。

回答 人数
「医療費負担が重い」 317人
「人前で注射やSMBGが行いにくい」 213人
「職場の飲み会などの付き合いを断りにくい」 181人
「病院での待ち時間が長い」 177人
「治療を理由に休みが取りにくい」 153人
「多忙、残業が多い」 136人
「残業時間が不規則」 119人
「治療について職場の理解が得られにくい」 81人

仕事と治療を両立させるための要望を聞いたところ、多かった意見は以下でした。

回答 人数
「糖尿病について、もっと理解が広まって欲しい」 236人
「夜間などの診療」 221人
「病院の待ち時間短縮」 220人

また、「勤務中に対処しやすい方法を検討してほしい」(115人)、「薬剤や消耗品を受け取れる場所を増やしてほしい」(103人)、「希望時間の予約、スムーズな予約変更」(100人)などの意見もありました。

浜野先生は、「10~15分程度の診察のために、調剤薬局の訪問時間も含めて医療機関に数時間も滞在して待たされるのが当たり前の状況は治療継続への障害のひとつですし、医療者側が患者さんに働きかけて受診を継続してもらうようにしなくてはいけません」としています。
浜野先生らは医療機関側が患者さんに働きかけることで受診しやすい体制を構築するために、これまでとは違った診療形態の有用性を検証するなどの実地研究に取り組んでいます。

*:労働者健康福祉機構の平成24年度病院機能向上研究(研究責任者:関東労災病院糖尿病内分泌内科・浜野久美子)

■関連記事

公開日:2018/10/12
監修:関東労災病院糖尿病内分泌内科部長 浜野久美子先生