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働く糖尿病患者の治療中断は問題

働く世代の糖尿病患者では治療を受けているのに途中で中断するケースが多いことが問題視されています。関東労災病院の浜野久美子先生は、働きざかりの世代で受診中断のケースが続くと、糖尿病を悪化する患者さんが多くなり、医療費増大といった経済損失など社会への負の連鎖が甚大になることに警鐘を鳴らしています。第13回横浜生活習慣病フォーラムで問題点について報告しました。

糖尿病は治療中断によって重症化すると社会に及ぼす影響が大きい

糖尿病は治療中断によって重症化すると社会に及ぼす影響が大きい

糖尿病の患者数は非常に多いので、治療中断によって重症化すると、社会に及ぼす影響が大きいと言われています。
関東労災病院糖尿病内分泌内科部長の浜野久美子先生は、働きざかりの世代で受診中断のケースが多いことを問題視しています。
最近において浮き彫りになった問題点などについて、2018年6月に開催された第13回横浜生活習慣病フォーラム「30-50歳代の治療中断しないためのマネジメント」で報告しました。講演内容を紹介します。

40~49歳は治療を受けていない人が多い

人生100年時代といわれるなか、元気な高齢者として健康寿命を延ばしたいと思います。しかし、日本人の平均死亡年齢と糖尿病患者の死亡率を1970年以降から比較した研究によると、1970年代、80年代、90年代、2000~2010年代のいずれも糖尿病患者の平均寿命が短いとの指摘があります*1
浜野先生の講演によると、糖尿病の患者数は非常に多いので、病気を悪化させた患者数が多くなるほど社会に及ぼす影響力が大きいと言われています。働く世代で多くなると、問題は深刻になります。
ところが、平成28年国民健康・栄養調査結果で「糖尿病が強く疑われる人*1」のうち、治療を受けていない人の割合は23.4%で、以前の調査に比べて減少傾向でしたが、40歳以上に着目して検討した結果、40~49歳の男性では治療を受けていない割合は48.5%と、他の年代では約20%程度、女性では30%前後に比べて格段に多かったのです。

*1:「平成28年国民健康・栄養調査結果の概要」によると、「糖尿病が強く疑われる人」とはヘモグロビンA1c 値が6.5%以上で(平成19 年まではヘモグロビンA1c値が6.1%以上)または「糖尿病治療の有無」に「有」と回答した人で、約1,000万人と推計されました。

仕事が多忙で受診できない

日本糖尿病学会の調査*2では、定期的な通院を自己中断した主な理由として「仕事が多忙である」との理由が51%と最も多く占めており、治療を中断する患者さんの特徴としては男性、若年、サラリーマンや専門職で高い傾向にあることが明らかになっています。

*2:「かかりつけ医による2型糖尿病診療を支援するシステムの有効性に関する研究(J-DOIT2)」

患者にとっては自覚症状がなく切実感はないと治療を受けなくなる

職域における課題としては、患者さんは自覚症状がなく切実感はないので健康管理を徹底できないこと、専門医による予防教育が充実していないこと、職場は労務管理や健康診断を実施していますが、糖尿病予備軍への健康管理や保健指導のアプローチが十分でないことが考えられます。
国内の糖尿病患者数は多いので、働く世代で患者数が増えていくと合併症を発症する患者さんも多くなっていくことにより、就労上の負荷が高くなることや、医療費の負担が増大することが問題になります。。
企業にとっては、労働力の低下や保険料事業者への負担の増加、健保組合にとっては医療費の負担増加、保険料収支の悪化なといった、負のスパイラルに陥ることになるのです。
浜野先生は患者の治療環境や、治療と仕事との両立を困難にさせる課題を探ることを目的にさまざまな研究を実施しています。

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公開日:2018/10/10
監修:関東労災病院糖尿病内分泌内科部長 浜野久美子先生