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睡眠障害、放っておけない理由とは?

睡眠障害には大きく分けて不眠症、過眠症、概日リズム障害、睡眠呼吸障害がある。日中の思考能力・判断力が大幅に低下するため、事故につながる危険性も。

他人事ではない!睡眠障害

睡眠障害

睡眠障害」とは、人間の睡眠と覚醒に関連するさまざまな病気のすべてを指す用語。最近、山陽新幹線の運転士による居眠り運転が問題になったが、その背景として睡眠障害のひとつ「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」との関係も指摘されている。また、愛知医科大学睡眠センターのデータとして「1997年11月から2002年12月までに入院したSAS患者931人のうち94人が居眠り事故の経験者だった」という結果を発表している。

こうした睡眠障害は日本のみならず先進国に共通した社会的問題となっている。例えばアメリカ合衆国の場合。国が主体となり、1989年に睡眠障害国家委員会を設立し、「WAKE UP AMERICA」という運動を立ち上げた。1993年に報告された同委員会の試算によると、約4,000万人のアメリカ人が不眠症に悩み、1994年には不眠症をはじめとする睡眠障害による事故などで発生した損害は年間でおよそ470億ドルにものぼるとか。また、スペースシャトル・チャレンジャーの爆発事故や湾岸戦争時の石油タンカーの座礁についても、その原因に睡眠障害との関連性が指摘されている。

睡眠障害によって十分な眠りが確保できないことの危険な理由は、集中力・記憶力・思考力が低下し、さらに気分や情動が不安定に陥ることである。オーストラリアの研究では、一晩徹夜した人の作業能力をテストしたら、十分睡眠をとった時と比べ、ビール1本分を飲んだときと同じくらいの能力の低下が見られたとの報告もある(Nature1997 July 17)。日常のさまざまな仕事の能率が低下することはもちろん、交通機関の運転手や機械のオペレーターなど、職種によっては思わぬ事故につながりかねない。
また、睡眠不足は免疫機能や代謝機能などの生命維持のための基本的機能の低下を招くことも示唆されている。「たかが寝不足」と軽く考えてはいけないのだ。

主な睡眠障害の種類

睡眠障害は大きく以下の4つに分けられる。

不眠症

いわゆる「不眠症」の代表的な症状には入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害があげられる。そのほか、病気の治療薬による副作用として生じる不眠や身体疾患による不眠、精神疾患による不眠、認知症を含む脳器質性疾患による不眠などがある。

過眠症

ナルコレプシーという病気に代表される。危険な作業中や食事中でも耐え難い眠気に襲われ、眠り込んでしまう。

概日リズム睡眠障害

体内の活動と休息のリズムが、昼夜のリズムや社会の活動リズムと一致しないために起こる。「時差ぼけ」と呼ばれる症状に代表されるが、交代勤務制によるものや、遅寝遅起きを繰り返した結果、昼夜が逆転してしまう睡眠相後退症候群などがある。

睡眠呼吸障害

代表的なものが「睡眠時無呼吸症候群」。途切れがちに続く大きなイビキが特徴で、10秒以上の呼吸停止が一晩に数十回以上起こり、睡眠が中断される。高血圧、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などを合併するケースも。

出典:「睡眠障害の対応と治療ガイドライン」
睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会編集 株式会社じほう発行

その他、足の関節や膝のあいだなどにムズムズした感覚があるために入眠が妨げられる「むずむず足症候群」や、一般的に「ねぼけ」と呼ばれる睡眠時遊行症(夢遊病)などの症状も睡眠障害のひとつと考えられている。

主な不眠症の種類

睡眠障害で最も症例の多い「不眠症」。眠りが浅い、寝つけない…。一見なんでもないような症状だが、実際は不眠症だったというケースも多い。

入眠障害

いわゆる「寝つきが悪い」という症状。一般的に眠るまでに30分以上を要し、それを本人が苦痛と感じていれば、入眠障害の疑いがあるとされる。ちなみに日本睡眠学会で発表された「睡眠実態調査2002」では「床に入ってから眠りにつくまでの時間」を30~60分と答えた人が全体の約3割を占めていた。 心配ごとや精神的ストレスなどで起こりやすくなると考えられている。

中途覚醒

夜中に何度も目が覚めてしまう症状。高齢者に多いが、慢性的な運動不足の若い世代にも見られる。

熟眠障害

一定の睡眠時間は確保できているものの、熟睡できた感覚がなく、心身の疲労も回復できない症状。「睡眠時無呼吸症候群」や「むずむず足症候群」などの病気が原因であることも。

早朝覚醒

望ましい起床時刻よりもずっと早く目覚めてしまい、それ以降眠れない症状。高齢者に多く見られるが、若い世代でも中途覚醒と並んでうつ病の初期症状と考えられる場合もある。

また、女性特有の不眠もある。女性の睡眠は女性ホルモンに左右され、生理前には黄体ホルモンの作用により日中の眠気が強くなることがある。妊娠中にも眠気が強くなるのも同じ理由だ。
反対に加齢とともにホルモンバランスが乱れ、卵巣の機能の低下に伴って女性ホルモンの分泌が減少すると眠りが浅くなってしまうことも。さらに更年期を迎えると中途覚醒などの睡眠障害を訴える人が増えてくる。
家事や育児でのストレスに加えて、働く女性も増え、仕事上でのストレスを抱えることも多い。女性ホルモンとともに、こうした精神的な問題も、睡眠障害には関係している。

どこで治療すればいいの?

さて、あなたには「睡眠障害」のいずれかの症状にあてはまるものがなかっただろうか。もし気になる症状があるなら、まずはかかりつけの先生に相談してみよう。ただし特殊な検査(痛みを伴うことはない)が必要な場合もあり、その時は心療内科、精神神経科、精神科などが紹介される。
受診する前に、「どれくらいの期間、続いているのか」「毎日の就寝時刻と起床時刻は何時頃か」「布団に入ってから寝つくまでにかかる時間はどれくらいか」など、あらかじめ自分自身の不眠状態のメモなどを作っておくとスムーズな診察が受けられる。

公開日:2003年3月10日