子宮頸がんの原因となるハイリスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染予防にはワクチンが有効とされています。日本では2013年に積極的勧奨が差し控えられたこともあり、接種率が低い状態が続いていましたが、2020年以降は徐々に接種率が上昇しています。子宮頸がんはどのように予防することができるのか、ワクチン接種による一次予防と検診による二次予防(早期発見)の2つの方法について解説します。 ■関連記事 子宮頸がんの原因や症状について詳しく知りたい方はこちらから ■この記事の監修医師 THIRD CLINIC GINZA 院長 三輪綾子 先生 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医 一般社団法人 予防医療普及協会 理事 HelCのアドバイザリーボード 目次 子宮頸がんの予防は2段階 子宮頸がんの一次予防:予防ワクチンの接種 子宮頸がんの二次予防:子宮頸がん検診で早期発見 検診率向上に向けた未受診者への対策:自己採取HPV検査 一次予防と二次予防で、子宮頸がんから身を守りましょう 子宮頸がんの予防は2段階 子宮頸がんの予防は2段階 ・一次予防:ウイルス感染を防ぐ ・二次予防:異変を早期発見する 子宮頸がんを完全に予防する方法はありませんが、その原因の多くがハイリスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染であることがわかっていますので、HPVの感染を防ぐ一次予防(HPVワクチン)と、異変を早期発見する二次予防(検診)のどちらも行うことで、予防効果を高めることは可能です。 子宮頸がんの2段階の予防について見ていきましょう。 ウイルス感染を防ぐ(一次予防) 子宮頸がんとHPVの関係性 子宮頸がんの予防のうち最も早い段階で行うべきことは、ウイルス感染を防ぎ原因を排除すること(一次予防)です。子宮頸がんの主な原因となるのは、ハイリスク型の「ヒトパピローマウイルス(HPV)」。HPVに感染しても多くの場合は自己免疫力でウイルスを排除でき、自然に回復することから、必ず子宮頸がんになるわけではありません。しかし、HPVへの感染が原因で細胞が変化、最終的にがん化してしまう場合があります。そのため、がん化する可能性が高くなくとも、HPVへの感染を防ぐことは、子宮頸がんの予防として有効です。 HPVへの感染経路 HPVの主な感染経路は性交渉です。HPVはありふれたウイルスであり、性交渉を持った女性であれば、誰でもかかる可能性があります。一般女性のHPV感染率の調査結果によると、女性の4人に1人以上がHPVに感染しているといわれています。 HPVの感染を防ぐにはワクチン接種が有効 HPVの感染予防に効果的なのはHPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチンとも言われています)です。HPVにはさまざまな型があり、中には子宮頸がんを起こしやすい型(ハイリスク型と言われています)があります。ワクチン接種は、特に子宮頸がんに進むリスクが高いとされているHPV16型とHPV18型の感染予防に有効です。 HPVは外陰部や肛門などにも存在するため、コンドームの使用だけでは予防できません。ワクチンを接種し、HPVの感染を予防しましょう。 前がん病変を早期発見する(二次予防) HPV感染から子宮頸がんとなるまで 子宮頸がんの予防として、次に行うべきは前がん病変の早期発見(二次予防)です。ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染した女性のうち、多くは自己免疫力で自然に排除されますが、一部の方の細胞に異変が起こることがあります(「異形成」「前がん病変」)。途中で自然に正常化することもありますが、正常化しない感染細胞はがんとなります。HPVに感染してから子宮頸がんに進行するまでの期間は、数年から数十年ともいわれています。 前がん病変の早期発見には子宮頸がん検診が有効 異形成、前がん病変の段階では、自覚症状はほとんどありません。しかし、子宮頸がん検診を受けることで、今後がんになるかもしれない前がん病変を発見できます。命の危険を防ぐためには、定期的に子宮頸がん検診を受けることが大切です。 子宮頸がんの一次予防:予防ワクチンの接種 子宮頸がんの予防として、一番初めに取り組むべきなのは、予防ワクチンの接種です。ここでは、その子宮頸がんの予防ワクチン(HPVワクチン)について解説します。 子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)とは 子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)とは、子宮頸がんの主な原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染そのものを防ぐワクチンです。 実は一言にHPVといってもHPVには型がたくさんあり、その数は100種類以上にもなります。そのうち子宮頸がんの原因となるハイリスク型は少なくとも15種類。HPVワクチンでは、その中でも特に子宮頸がんを発症させやすいHPV16型とHPV 18型の感染を防ぐことができます。このワクチンは予防接種法(定期接種)に指定されており、対象年齢の女子には公費でワクチンを接種することができます。 カナダやイギリス、オーストラリアなどでは女の子の約8割が接種しており、子宮頸がんの一般的な予防方法として定着しています。日本では2013年に積極的勧奨が差し控えられ、接種率が低い状態が続いていましたが、2020年以降、HPVワクチンの接種率は徐々に上昇しています。 子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の種類 現在日本で定期接種に使用されているHPVワクチンは「サーバリックス®」と「ガーダシル®」の2種類です。任意接種の場合は、「シルガード®9」も選択できます。 どのワクチンも一定の期間をあけて3回接種します。また、初回に接種した種類を2回目以降も接種する必要があります。 子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の効果 HPVワクチンを接種することで、特に子宮頸がんの主な原因となるHPV16型とHPV 18型の感染を防ぐことができます。HPV16型とHPV18型の感染を防ぐことにより、子宮頸がんの原因の5~7割を防ぐことができ、高い予防効果を期待できるでしょう。 また、半年から1年の間に一定の間隔で3回接種することで、少なくとも12年効果が維持される可能性があることがわかっています。 子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の対象年齢と費用 HPVワクチンは、小学校6年生~高校1年生相当の女性を対象に公費による接種が実施されています。男性や対象年齢以外の女性は、自費で接種することが可能です。3回とも同じワクチンを接種することが原則となるので、同じ医療機関で受けるほうが良いでしょう。 また、1997年4月2日~2006年4月1日生まれの女性は、接種対象年齢を超えても2025年3月末までであれば公費による接種が可能です。一度も接種していない方だけでなく、3回の接種が終わっていない方も対象となるので、自治体や医療機関で相談してみましょう。 なお、公費対象外の女性、または男性は医療機関で自費による任意接種を受けられますが、費用は病院によって異なります。3回の接種でどの程度の費用がかかるのか事前に確認しておきましょう。また、女性は自費で受ける年齢でも自治体の補助金が出ることがあるので、ぜひ問い合わせてみてください。 子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の接種方法 公費でワクチン接種を受けられる人は自治体から予診票が送付されます。予診票が届いたら指定の医療機関でHPVワクチンを接種しましょう。 なお、腕への筋肉注射を3回受けることが基本ですが、気になる症状が現れた場合は2回目以降の接種をやめることができます。不明点があるときは、自治体の予防接種担当課に確認しましょう。 子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の副反応と安全性 発生頻度 ワクチン:サーバリックス® ワクチン:ガーダシル® 50%以上 痛み、赤くなる、腫れる、疲労感 痛み 10~50%未満 かゆみ、腹痛、筋肉痛・関節痛、頭痛など 腫れ、赤くなる 1~10%未満 じんましん、めまい、発熱など かゆみ、出血、不快感、頭痛、発熱 1%未満 注射部位の感覚異常、全身の脱力 硬くなる、四肢が痛い、体の硬直、腹痛・下痢 頻度不明 四肢が痛い、失神、リンパ節が腫れるなど 疲労・倦怠感、失神、筋肉痛、関節痛、嘔吐など 参考:厚生労働省「小学校6年~高校1年相当の女の子と保護者の方への大切なお知らせ」 HPVワクチンの接種による主な副反応は、接種部位のかゆみや痛み、赤み、腫れ、関節痛などです。頭痛が起こる場合もあります。 また、接種した人の1割弱にはじんましんやめまい、発熱などが生じると報告されています。まれにアレルギー症状や神経系の症状などの重篤な症状が起こることもあります。接種後に入院が必要な程度の重篤な症状が出た人は、1万人あたり約6人です。 HPVワクチン以外のワクチン接種で副反応が出たことがある場合は、HPVワクチンの接種前に医師に相談しましょう。また、接種後に気になる症状がでた場合も医師に相談してみてください。 なお、HPVワクチンの安全性は、厚生科学審議会にて一定期間ごとに報告された症状をもとに継続して確認しています。健康被害が生じた場合は、医療費の給付などが受けられる可能性があるので、以下の感染症・予防接種相談窓口に問い合わせてみましょう。 【感染症・予防接種相談窓口】 電話番号:050-3818-2242 受付時間:平日9時~17時(土曜、日曜、祝日、年末年始を除く) 子宮頸がんの二次予防:子宮頸がん検診で早期発見 命を守るためには、できるだけ初期の段階でがん(またはがんになる可能性のある細胞)を発見することが大事になりますが、子宮頸がんは初期にはほとんど自覚症状がありません。また、HPVワクチンを接種したとしても、原因となるHPV型全ての感染予防はできませんので、そのため、子宮頸がん検診を定期的に受けることが大事です。ここでは、その子宮頸がん検診について解説します。 子宮頸がんの症状について詳しくはこちら 子宮頸がんの定期検診の対象者 子宮頸がんの定期検診の対象者は、20歳以上の女性です。子宮頸がんは20~30代の若い世代の発症が増えているため、20歳からの検診が推奨されています。子宮頸がんは初期にはほとんど自覚症状はありませんが、進行すると異常なおりものや不正出血、下腹部の痛みなどの自覚症状が表れることがあります。自覚症状がある場合は検診ではなく婦人科を受診し、前がん病変(異形成)や子宮頸がんの疑いがないか確認しましょう。 子宮頸がん検診の検査方法 子宮頸がん検診の検査方法は、問診、視診、子宮頸部の細胞診と内診です。細胞診とは、子宮頚部を専用の器具で擦って細胞を採取し、顕微鏡によりがん細胞などがないか調べます。検査は人により若干の痛みを伴います。なお、内診を行うため月経期間中は避けましょう。 子宮頸がんは検査がしやすく比較的発見しやすいがんといわれています。また、がん細胞だけでなくがん化する前の細胞異常も発見でき、早期治療につなげることが可能です。20歳以上の女性は2年に1回の検診間隔が推奨されているので、定期的に受けましょう。 子宮頸がん検診の費用と場所 各自治体では健康増進法に基づいてがん検診を実施しているため、住民登録がある自治体でがん検診を受けられます。ほとんどの自治体でがん検診費用の助成制度があるので、一部の自己負担または自己負担なしでがん検診を受けることが可能です。自治体によって補助制度の内容は異なります。 また、勤務先の健康診断のオプションで子宮頸がん検診を受けることも可能です。なお、定期健康診断以外で検診を受けたい場合は、会社の人事・総務に相談しましょう。自費となりますが、早期発見・早期治療につなげられます。 子宮頸がん検診結果の見方 子宮頸がん検診結果の見方は、結果の略語が記載されています。子宮頸部細胞診の検査結果に「NILM」と記載されているときは陰性です。しかし、「NILM」以外の結果が記載されているときは精密検査を受ける必要があります。速やかに医療機関を受診しましょう。 検診率向上に向けた未受診者への対策:自己採取HPV検査 HPV検査という、子宮頸がんの原因となる高リスク型のHPVの有無を調べる検査を検診として採用している国も特に先進国では一般的になってきています。 HPV検査では、特に高リスクと言われているHPV16型とHPV18型、HPVその他の3つのパターンを調べる方法が一般的です。 いずれも「-」と記載されている場合は、子宮頸がんを起こす可能性がある型のHPVに感染していません。反対にいずれかに「+」と記載されているときは、該当するHPVに感染していることを示します。 日本では、子宮頸がん検診は細胞診を採用していますが、検診受診率は先進国の中では極めて低い状況です。そのため、検診率を上げることが急務となっています。 何らかの理由で検診に行けない方、機会を逃してしまった方のために、自己採取HPV検査があります。自宅で、自身で腟内の細胞を採取することで、ハイリスク型HPVに感染しているかどうかを確認する方法です。これは、将来、子宮頸がんになるリスクをチェックする検査ですので、HPV「+」「-」の結果に拘わらず、必ず検診を受けることが大切です。 一次予防(ワクチン接種)と二次予防(がん検診)で、子宮頸がんから身を守りましょう 子宮頸がんの主な原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)そのものの感染を予防することで、子宮頸がんを予防できます。小学校6年~高校1年相当の女の子は、HPVワクチンを接種することが推奨されています。また、20歳以上の女性は2年に1回子宮頸がん検診を受けることが推奨されていますので、ぜひ受けるようにしましょう。 子宮頸がんの症状や治療について詳しくはこちら この記事の監修医師 三輪綾子先生からのメッセージ 子宮頸がん検診は痛い、怖い、面倒くさいなどマイナスなイメージを持たれている方が多いと思います。しかし自分の体をケアすることが、どれほど大切なのか今一度考え受診していない人は是非受けていただくことをオススメします。 またHPVに感染しても、今はまだ有効な治療薬がありません。感染しないようにワクチンで予防することが必要です。決して他人事とは思わず、考えてみましょう。 公開日:2022/09/14
子宮頸がんとは、子宮の入り口部分に生じるがんです。初期には自覚症状がほとんどないため、気づいたときにはすでに進行している可能性もあります。子宮頸がんの原因やワクチンと検診などの対策、症状について解説しますので、ぜひお役立てください。 ■この記事の監修医師 THIRD CLINIC GINZA 院長 三輪綾子 先生 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医 一般社団法人 予防医療普及協会 理事 HelCのアドバイザリーボード 目次 子宮頸がんとは 子宮頸がんの原因 子宮頸がんを予防する方法は2種類の組み合わせ 子宮頸がんへの対策1:HPVワクチン 子宮頸がんへの対策2:定期検診 子宮頸がんの初期は無症状がほとんど 子宮頸がんのステージ 子宮頸がんの治療方法 定期的な検査で、子宮頸がんの予防と早期発見を目指そう 子宮頸がんとは 子宮頸がんとは、子宮の入り口の「子宮頸部(しきゅうけいぶ)」にできるがんです。子宮の入り口に近いところに発生するため、診察や検査がしやすく、比較的発見しやすいという特徴があります。 初期に発見、治療すれば予後が良いがんですが、初期にはほとんど自覚症状がないため、自分で気づきにくいのも子宮頸がんの特徴です。進行すると治療が難しくなるだけでなく、治療後に後遺症が残る場合もあります。早期発見・早期治療のためには、定期的に検診を受けましょう。 子宮頸がんの患者の傾向・死亡率 年間約1万人の女性が子宮頸がんに罹患し、約3,000人が死亡しています。死亡率は0.3%程度(10万人あたり300人程度)です。 子宮頸がんの患者全体の数は2000年代から再び増加傾向にあり、死亡者数は右肩あがりに微増しています。子宮頸がんの発症は主に20~50代で、ピークは30代後半です。最近は性交渉の低年齢化により20~30代の人の発症が増えています。なお、子宮頸がんは妊娠、子育て期の世代に発症するので「マザーキラー」とも呼ばれています。 子宮頸がんの原因 子宮頸がんの原因のほとんどはウイルス感染 子宮頸がんの原因の9割以上は、ウイルス感染といわれています。子宮頸部にハイリスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)※が持続感染すると、一部の人が前がん病変(がんの前の状態)を経てがんに進行していくと考えられています。 ※ハイリスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)とは? HPVには現在、100種類以上の型があることがわかっています。 このうち、少なくとも 15 種類(HPV16, 18, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 56, 58, 59, 68, 73, 82)は、ヒトの子宮頸がんからそのDNAが見つかっており、これらは特に「ハイリスク型HPV」と呼ばれています。 海外の報告によると、HPV16型とHPV18型は子宮頸がんの約7割の発生に関わっていると推定されています。 性交渉で多くの人がウイルスに感染 HPVの感染経路は性交渉がほとんどです。HPVはありふれたウイルスであり、性交渉を持った女性は誰でも感染する可能性があります。また、一生のうちに何度でも感染する可能性があります。一般女性のHPV感染率の調査結果によると、女性の約4人に1人がHPVに感染していました。性交渉をする女性の8割以上が生涯50歳までに一度は感染するとの推計が報告されています。 ハイリスク型HPVに感染しても、必ず子宮頸がんに進行するわけではありません。HPVに感染しても9割の人は免疫力により自然に排除されます。ただし、自然に排除されず持続的に感染した状態になってしまうと、数年から数十年かけてその細胞ががん化していくことがあります。HPVに感染した人のうち1%が子宮頸がんに進行すると言われています。 子宮頸がんを予防する方法は、2種類の組み合わせ 1. HPVワクチン:HPVの感染予防 2. 細胞診(検診):異変(前がん病変)の早期発見 子宮頸がんを予防するためには、二段階の対策が必要です。 まず一つ目は、原因をできる限り排除すること。つまり、原因となるウイルスの感染予防です。HPV感染予防には性交渉前にワクチン接種することが効果的です。 二つ目は、前がん病変の段階での早期発見です。定期的にがん検診を受診することが、子宮頸がん予防・早期発見に不可欠といえるでしょう。 子宮頸がんへの対策1:HPVワクチン 子宮頸がんの予防策として、HPVへの感染を予防するHPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)の接種があります。HPVワクチンの接種により、HPVの中でも子宮頸がんを起こしやすいとされているHPV16型とHPV18型の感染を防ぐことが可能です。HPV16型とHPV18型の感染を防げれば、子宮頸がんの原因となるHPV感染の5~7割を防ぐことができます。 HPVワクチンについては、次の記事で詳しく解説しています。2022年現在、小学校6年生~高校1年生相当の女子を対象に公費によりワクチン接種を受けることができます。接種スケジュールや公費接種の対象外の方の接種方法についても紹介していますので、ぜひご覧ください。 子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)について詳しくはこちら 子宮頸がんへの対策2:定期検診 子宮頸がんの対策として、定期検診は極めて大切です。厚生労働省は、子宮頸がん検診については20歳以上を対象に2年に1回の受診を推進しています。検査項目は、問診と視診、子宮頸部の細胞診と内診です。 早期発見・早期治療につなげるためにも、20歳以上の女性は2年に1回、子宮頸がん検診を受診しましょう。 子宮頸がんの検診について詳しくはこちら 子宮頸がんの初期は無症状がほとんど 子宮頸がんは初期には自覚症状がほとんどないため、日頃から体調の変化に気を配ることが大切です。もし症状が出た場合、進行がんが疑われますが、次のようなものがあります。思い当たる症状があればすぐに婦人科を受診しましょう。 月経期間ではないのに出血がある 性交時に出血がある おりものに血が混じる 茶褐色、黒褐色のおりものが出る おりものの量が極端に多い 尿や便に血が混じる 尿が出にくい 足腰、下腹部が痛い また、上記以外に気になる症状がある場合も、様子を見るのではなく、なるべく早く婦人科を受診することが大切です。症状が出始めた日や続いている日数などを記録しておくと、より正確な診断につなげることができます。 子宮頸がんのステージ 子宮頸がんの治療方針を決定するときに重要なのが、がんの進行状況です。子宮頸がん診断後、がんがどのくらい進行しているのかを表すステージ(進行期)が決定されます。現在、子宮頸がんの進行期分類では、国際産婦人科連合(FIGO)の新FIGO進行期分類(2018年改訂)を用いています。 Ⅰ期 Ⅰ期は、がんが子宮頸部にのみ存在する状態です。Ⅰ期はⅠA期とⅠB期に分類され、さらにⅠAは2つ、ⅠBは3つに分類されます。 ⅠA期では、病変が肉眼で確認できません。病理組織検査でのみがんが診断できます。浸潤の深さが3mm未満の場合はⅠA1期、浸潤の深さが3mmを超え5mm未満である場合はⅠA2期に分類されます。 ⅠB期まで進行すると、病変が肉眼で確認できます。病変の大きさが2cm未満である場合はⅠB1期、2cm以上4cm未満である場合はⅠB2期、病変の大きさが4cmを超える場合はⅠB3期と分類されます。 Ⅱ期 Ⅱ期は、がんが腟または子宮傍組織に広がっているが、限定的である状態です。がんが腟だけに広がっている状態はⅡA期、子宮傍組織に広がっている状態はⅡB期に分類されます。そして、ⅡA期はさらに2つに分類されます。 ⅡA期では、病巣の大きさが4cm未満の場合はⅡA1期、病巣の大きさが4cmを超える場合はⅡA2期です。 なお、Ⅰ期やⅡ期の時点までに発見できれば、外科手術による治療が可能です。ただし、状況によっては放射線治療も併用します。 Ⅲ期 Ⅲ期は、がんが腟または子宮傍組織に広がっている状態です。Ⅲ期は3つに分類され、がんが腟下1/3にまで達している状態はⅢA期、骨盤壁にまで達している状態はⅢB期です。がんの大きさや広がっている範囲を問わず骨盤リンパ節/傍大動脈リンパ節への転移が認められる場合はⅢC期となります。 Ⅲ期までがんが進展すると手術は難しく、同時化学放射線療法が行われます。 Ⅳ期 Ⅳ期は、がんが膀胱や直腸に広がる、または肺や骨盤外リンパ節などに遠隔転移している状態です。がんが膀胱や直腸の周辺組織に広がった状態はⅣA期、肺や肝臓、骨盤外リンパ節などの離れた組織に遠隔転移した状態はⅣB期と分類されます。 Ⅳ期は、同時化学放射線療法が主な治療です。また、ⅣB期では症状緩和を目的とした化学療法(抗がん剤)が行われます。 子宮頸がんの治療方法 子宮頸がんの治療方法はステージによって異なります。Ⅰ期あるいはⅡ期の段階で発見できれば手術が可能ですが、Ⅲ期以降に進展した状態で発見した場合は放射線治療や化学療法が主な治療です。ステージごとの治療方法や特徴について解説します。 ステージごとの治療方法 外科手術放射線抗がん剤 Ⅰ期〇〇- Ⅱ期〇〇- Ⅲ期-〇〇 Ⅳ期-〇〇 ※上記の表は一般的なもので、患者さんの状況に応じて異なる可能性があります。 治療方法ごとの特徴 手術療法(外科手術) 放射線療法 薬物療法(抗がん剤) がんの進行状態に応じて、手術療法、放射線療法、薬物療法を行います。それぞれ単独で行うこともあれば、組み合わせて行うこともあります。また、患者さんの状況によっても、治療方法は異なります。 手術療法(外科手術) 手術療法とは、手術でがん化した細胞を摘出する治療法です。がんの進行状況によって、子宮を全摘出する方法や子宮を一部温存する方法などさまざまな手術の種類があります。手術の種類によっては、子宮の全摘出に加え、腟の一部や卵巣まで広範囲に摘出します。 前がん病変からⅠB1期までで将来妊娠を希望する場合は、子宮を一部温存する方法が選択可能か医者に相談してみましょう。また、手術後は一定の割合で合併症が起こります。手術後の合併症には、リンパ浮腫(むくみ)や排尿のトラブル、便秘、腸閉そくなどがあります。 放射線療法 放射線療法とは、放射線をに照射し、がん細胞を死滅させたり、痛みなどの症状を緩和する方法です。骨盤の外から照射する外部照射、直接病巣を照射する腔内照射、放射性物質を腫瘍に直接挿入する組織内照射があります。子宮頸がんでは、ステージにかかわらず放射線治療を行うことが可能です。手術後に再発リスクを低下させるために行われることもあります。 放射線療法は、施術後に疲労感や食欲不振、感染症に感染しやすくなる、皮膚症状などが出てくる場合もあります。 薬物療法(抗がん剤) 薬物療法とは、がん細胞の増殖を抗がん剤の投与により抑える方法です。放射線療法と併用して行う化学放射線療法を行うことが多くなっています。主な副作用として、吐き気や脱毛などがあります。近年では、吐き気に対して予防薬を使えるようになり、身体的な負担を軽減しやすくなってきました。 定期的な検査で、子宮頸がんの予防と早期発見を目指そう 子宮頸がんは早期発見・早期治療が可能な病気です。比較的初期に発見できれば、手術によりがん化した細胞を摘出でき、また子宮を温存することが可能な場合もあります。一方、がんが周辺組織にまで広がっている場合は、放射線療法や薬物療法で治療を行います。子宮頸がんは初期の段階では自覚症状がほとんどないので、定期的に検査を受けましょう。 子宮頸がんの原因の約9割は、ハイリスク型ヒトパピローマウイルス(HPVウイルス)への感染といわれています。HPVウイルスに感染しているか自宅で調べられるキットもありますので、医療機関での子宮頸がん検診を定期的に受けることが大切ですが、検診の機会を逃した方や何らかの理由で検診受診が難しい方はこれらのキットも有効活用して、子宮頸がんの早期発見にお役立てください。 子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)や子宮頸がん検診について詳しくはこちら この記事の監修医師 三輪綾子先生からのメッセージ 子宮頸がんは治る病気だと思っていた、という患者さんも多くありません。早期で発見できれば完治も可能ですが、進行してしまうと他のがん同様、抗がん剤や放射線での治療が必要になります。 そのためにはワクチン+検診が不可欠です。 他人事とは思わずにしっかり予防に取り組みましょう。 公開日:2022/09/14
「HPVワクチンは子宮頸がんを予防するワクチンだから男の子には関係ない」と思う方もいらっしゃるかも知れません。でも男の子とその保護者のみなさんにも知っておいてほしいことがあるのです。 目次 男の子に多いがんを防ぐ効果もある 性感染症の予防にもなる 海外では男の子にも接種 まとめ 男の子に多いがんを防ぐ効果もある HPV(ヒトパピローマウイルス)は、子宮頸がんだけでなく、咽頭(のど)、外陰部、膣、陰茎、肛門にできるがんの原因となることが知られています。 アメリカでは子宮頸がんの年間発生数(1.2万人)はゆっくりと減少する一方、咽頭がんの発生数は増えており、年間1.9万人と既に子宮頸がんを抜いています*1。 咽頭がんの中で特に中咽頭がんの発生にはHPVが大きく関わっているとされていますが、このがんは圧倒的に男性にできやすいのです*2。 HPVワクチンでこのがんを減らすことができるため、HPVワクチンは男性にとってもがんを予防するワクチンなのですね。 そのことを男の子や保護者の皆さんにも知ってほしいのです。 性感染症の予防にもなる 尖圭(せんけい)コンジローマという病気があります。 これは主にHPV(ヒトパピローマウイルス)が原因(90%)の、陰茎に「できもの」ができる性感染症で、かゆみが出たり、痛くなったりします*3。 自然に治ることもありますが、レーザー治療や外科的な切除が必要になることもあります。 日本で年間約5000人(男性3000人、女性2000人)が報告されていますが*4、男女それぞれ2万人という推計もあり、隠れた患者さんがとても多いとされています。 この病気もHPVワクチンの接種で防ぐことができます。 海外では男の子にも接種 このワクチンは、ウイルスに感染しないためのもので、既に感染しているウイルスを退治することはできません。 ウイルスの多くは性的な接触でうつりますので、そのような接触が始まる前、つまり学童の時期に接種しておくことで大きな予防効果を発揮します。 男の子に接種をすると、自身の将来のがんや感染症の予防だけでなく、将来のパートナーに感染させないことにもつながるのですね。 こうした理由から、海外では、男女ともに接種している国が数多くあります。オーストラリア、アメリカなどでは男女ともに定期接種となっています。 日本ではまだ男性には未承認なのですが、男女やパートナー間でうつしあう感染症でもあり、近い将来接種できるようになればと願っています。 まとめ HPV感染症は男の子の将来のがんの原因にもなり、ワクチンでそれを防ぐことができます。 女の子だけの問題ではなく、自分事として捉えていただければと思っています。 執筆者 医師:坂本昌彦 ■参考文献 *1:Van Dyne EA. Henley SJ. Saraiya M etal.: Trends in human papillomavirus-associated cancers-United States.1999-2015.MMWR.67(33):918-924.2018 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6107321/ *2:国立がん研究センターがん情報サービス「それぞれのがんの解説(中咽頭がん)」(2020年8月20日参照) https://ganjoho.jp/public/cancer/mesopharynx/index.html *3:国立感染症研究所ホームページ「尖圭コンジローマとは」(2020年8月20日参照) https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/428-condyloma-intro.html *4:厚生労働省.性感染症報告数 (2020年8月20日参照) https://www.mhlw.go.jp/topics/2005/04/tp0411-1.html ※本記事は、一般社団法人「HPVについての情報を広く発信する会」が運営するWebサイト、「みんパピ!」の記事を、転載許可を得て掲載しております。 みんパピ!:https://minpapi.jp/ <HPVワクチンの信頼できる情報一覧のまとめ> HPVワクチンの信頼できる情報一覧をまとめました。 https://minpapi.jp/hpvv-source/ ※みんパピ!のページに遷移いたします。 公開日:2021/02/09
毎年11月は子宮頸がんの予防啓発月間です。子宮頸がんは、国内では20~30歳代の女性を中心に患者数も死亡率も増加し続けているのが問題です。原因の多くが性交渉によるヒトパピローマウイルス(HPV)感染ですので、HPVワクチン接種による感染予防と、検診による早期発見・治療が重要です。最近、国内で20~22歳を対象にワクチン接種によるHPV感染状況を検討した研究結果が新潟大学の榎本隆之先生のグループから報告されました。 目次 20~30歳代の若い女性で子宮頸がんが多く30歳代後半が発症のピーク 新潟県で子宮頸がん検診を受けた20~22歳の女性1814人を対象に検討した研究 初交を経験する前に接種していた人ではワクチン有効率は高い ワクチン積極的勧奨がなくなる時期の前後でHPV感染やがん発症率の検討も視野に 20~30歳代の若い女性で子宮頸がんが多く30歳代後半が発症のピーク 子宮頸がんの原因のほとんどはHPV感染です。HPVは性交渉により感染するウイルスですが、通常は感染しても体内で免疫の機能で異物として排除されます。しかし、ウイルスが排除されずに長期間にわたって感染が続くと、一部の人では感染した細胞ががん化します。 日本産科婦人科学会の産科婦人科学会の病気の解説によると、子宮頸がんは子宮がんで約7割を占め、国内では毎年約1万人が発症して、約3,000人が死亡するといわれています。 問題は、2000年以降では患者数も死亡率も増加していることと、最近は20~30歳代の若い女性の患者さんが増えてきており、30歳代後半が発症のピークになっていることです。 新潟県で子宮頸がん検診を受けた20~22歳の女性1814人を対象に検討した研究 子宮頸がん対策は、HPV感染そのものをワクチン*接種により感染をブロックすること、定期的に検診を受けて体の異変を早く発見することが重要です。 ワクチンの効果に関しては、国内で大規模な研究結果の報告はこれまでなかったのですが、2014~2016年度に新潟県の自治体検診を受けた20~22歳 1,814人を対象に検討した研究結果が、The Journal of Infectious Diseases誌2018年10月9日オンライン版に掲載されました(新潟大学産科婦人科学分野教授・榎本隆之先生らの報告)。 初交を経験する前に接種していた人ではワクチン有効率は高い 研究結果を見ると、高リスク型のHPV16型、18型の感染予防を目的としたHPV2価ワクチンを接種した1,355人のグループではHPV感染率は0.2%と、接種していない459人のグループの2.2%に比べて差があり、ワクチン有効率は91.9%と高い感染予防効果がわかりました。 また、ワクチンは初交前の接種が効果的ですので、初交を経験する前に接種していた1,459人で分析すると、ワクチン有効率は93.9%とさらに上昇していました。 さらに、HPV16型と18型以外のウイルス型への感染予防効果を検討すると、高リスク型のHPV31型、45型、52型に対するワクチン有効率が67.7%あることがわかりました。 ワクチン積極的勧奨がなくなる時期の前後でHPV感染やがん発症率の検討も視野に 榎本先生らのグループによると、研究は現在も継続しており、子宮頸部の細胞診異常や子宮頸がんの予防効果についても検証を行うとしています。 また、今回の研究対象はワクチンの積極的勧奨が2013年に中止される以前のワクチン接種率が高いと予測される世代の結果です。一方、2020年にはHPVワクチンの接種率が激減した世代が検診対象になります。 榎本先生によると、ワクチンの積極的勧奨が中止される前後の世代においてHPV感染率、がん発症率がどのような変化があるのかを検討することを視野に入れているとのことです。 *ワクチンについて:HPVは200種類以上あるウイルス型のなかで、子宮頸がん以外に肛門がん、口腔咽頭がん、外陰がん、膣がん及び陰茎がんの原因となる高リスク型があります。高リスク型は、HPV16型、18型、31型、33型、35型、39型、45型、51型、52型、56型、58型、59型、68型があります。HPV16型と18型で全世界の子宮頸がんの約70%を占めています。 ワクチンは、日本では高リスク型のHPV16型、18型の感染予防を目的としたHPV2価ワクチンと、HPV16型と18型および、いぼ(専門用語で尖圭コンジローマといいます)の原因になるHPV6型と11型の感染予防を目的としたHPV4価ワクチンがあります。 海外では高リスク型のHPV16型、18型、31型、33型、35型、39型、45型、52型、58型と、HPV6型、11型の感染予防を目的としたHPV9価ワクチンの接種を受けることができます(2018年10月時点)。 新潟大学のリリース:https://www.niigata-u.ac.jp/wp-content/uploads/2018/10/301009_re.pdf ■関連記事 女子会から読み解く!乳がんと食事との関係 マンモ+超音波で乳がんを早く発見!生稲晃子さん・乳がん手術5回を乗り越えて がん治療後の後遺症のむくみでお悩みの方のためにリンパ浮腫患者スクールを開講 キャンサーフィットネス なぜ今注目されている?子宮頸がん がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2) 婦人科がん(子宮・卵巣のがん)の発症リスクと治療後のむくみ対策 キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクール 公開日:2018/11/20更新日:2020/09/25
卵巣がんは自覚症状に乏しいので、見つかったときには転移のケースが多く、命を落とす患者さんが多い予後が悪い病気です。最近、血液検査から卵巣がんを発見する診断モデルが開発され、卵巣がん患者、その他のがん患者、がんではない人を対象に検討した結果、高い精度で卵巣がん患者を判別できる可能性についての研究成果が報告されました(国立がん研究センタープレスリリースより)。 目次 血液中のマイクロRNAを診断に応用 将来は血液検査を取り入れた卵巣がん検診システムができる可能性あり 血液中のマイクロRNAを診断に応用 早期診断が困難で予後の悪い卵巣がんですが、血液検査により高い精度で卵巣がんを発見する診断モデルを開発するための研究が実施されています*。 研究は、遺伝子の機能を抑制・制御するはたらきがあるといわれるマイクロRNA(リボ核酸といいます)という分子を卵巣がん診断に応用するというものです。過去には、抗がん剤の感受性の変化、がんの転移や消失といった体内における病気に関わる変化と血液中のマイクロRNA量の変動に関連があるとの報告があります。 将来は血液検査を取り入れた卵巣がん検診システムができる可能性あり 研究の詳細を見ると、卵巣がん428例、その他のがん859例、がんを有さない2759例の血液(血清)中のマイクロRNAを解析して、卵巣がん患者さんにおいて特異的に変化するマイクロRNAが複数あることがわかりました。そのうち10種のマイクロRNAを組み合わせて診断モデルを作製しました。 診断の精度を卵巣がんの人とそうでない人で検証した結果、このモデルで卵巣がん患者さんを98.8%の割合で高い精度で判別できることがわかりました。 病期(ステージといいます)別に診断制度を見ると、ステージⅡ~Ⅳの患者さんのグループでは100%の精度で陽性、ステージⅠでは95.1%と高い精度で陽性と診断できました。 卵巣がんは予後が悪い病気で、早期発見の対策が課題でしたが、将来は血液検査で血液検査による卵巣がんを検診することができる可能性が期待されています。 詳しくはこちら 卵巣がんを早期から検出できる血液中マイクロRNAの組み合わせ診断モデル作成(2018年10月17日) https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/1017/index.html *国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野プロジェクトリーダーの落谷孝広先生(現:東京医科大学医学総合研究所分子細胞治療部門教授)、横井暁先生(現:MD Anderson Cancer Center博士研究員)、松崎潤太郎先生(現:MD Anderson Cancer Center博士研究員)らによる研究です。 公開日:2018/10/31
目次 女性外来ってどんなところ? 女性と男性の体の違い 女性外来の診療プロセスとは? 女性外来 Q&A 女性外来ってどんなところ? 男と女では、体の構造は当然異なる。その違いに注目し、女性のココロと体をトータルに診る女性外来が、全国各地で増えてきている。 男性と女性ではかかりやすい病気が異なるうえ、同じ病気でも症状や薬の作用が大きく異なることがある。このことがアメリカでは10数年前から注目され、性差に基づく医療が始まっている。日本では、90年代終わり頃から女性医師たちが活動を始め、2001年5月に鹿児島大病院にできたのを皮切りに、各地の病院が女性外来の窓口を設け始めた。 専門窓口ができてみると、患者が殺到し、数ヵ月先まで予約がいっぱいになったという病院もある。「じっくり話を聞いてもらえなかった」「話をしても男性医師には症状のつらさを理解してもらえなかった」「男性医師には相談しにくかった」と訴える女性患者が大勢いるそうだ。また、女性は、仕事の他にも親の介護や思春期の子どもを抱えていたり、男性と比べて病気の背景に人生そのものが複雑に関わっていることが多い。女性外来はおのずと、女性の「ココロ」と「体」を総合的に診ることになるようだ。 女性と男性の体の違い 男性と女性でかかりやすい病気が異なるのは、女性が「産む性」であり、女性の体がエストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)という2つの女性ホルモンの影響を受けているため。 では、具体的には女性は男性とどう違うのだろうか。例えば、コレステロール値。40代未満は男性のほうが高いが、40代になると男性の値が下降を始める一方で女性の値が上昇し、男性より高くなる。そして、50~70代まで女性のほうが高い値を持続する。女性ホルモンはコレステロールから作られるため。更年期に入ってコレステロールが女性ホルモンに転換される量が減る。女性ホルモンによるコレステロール低下作用が弱まるためである。 また女性は、周期的に女性ホルモンの影響を受けることで心が不安定になりやすい。女性ホルモンの分泌が衰える更年期には、さまざまな心身のトラブルが起こりやすくなるなど、一生を通して大きく体が変わっていく。そのことが、生殖器官だけに留まらず女性と男性の違いを生み出している。 ピンクリボンフェスティバルとは? 乳がんの早期発見を啓発するための活動で、9月下旬から10月にかけて、東京と神戸で開催される。乳がんは、日本では女性の30人に1人がかかると言われる。早期発見をすれば十分治癒も望めるがんであるにもかかわらず、年々死亡者数が増えていることから始まったもの。積極的に健康診断を受けたい病気だ。 女性外来の診療プロセスとは? 女性外来は現在、北海道から鹿児島までほとんどの都道府県に各1ヵ所以上ある。「女性のための」と銘打った専門病院もあれば、総合病院に週数回外来を設けるところ、婦人科を標榜するクリニックなど、さまざまである。 女性外来の診療プロセス STEP1カウンセリングで、症状だけでなく悩みや不安もじっくり聞いてくれる STEP2症状や悩みに応じて、どの科を受診すればよいかアドバイスをもらえる STEP3専門医による診察を受け、治療を始める ※家から遠い場合は、近くで適切な病院を紹介してくれることもある 女性外来 Q&A Q. 女性外来はどんな症状のときに受診したらいいの? A. 女性外来には治療だけでなく、健康相談を受付けているところもある。生理不順、更年期障害、イライラ、だるい、腰痛、肩こりなど、どんな症状でも診てもらえるだろう。 Q. 女性外来にはどんな治療法があるの? A. 女性外来では、治療の方針も一緒に考えてくれる。ときには、漢方薬や運動療法を取り入れることも。治療に関する希望や不安があれば、じっくり相談してみよう。 Q. 女性外来の治療費はいくらぐらい? A. 基本的に保険が使えるが、医療行為を行わないカウンセリングなど一部で保険が使えず自費診療となることも。カウンセリングの費用は、1時間6,000円~8,000円など医療機関によってさまざまなので、事前に電話で確認しておくと安心。 精神的なストレスが背景にある場合、最初のカウンセリングで症状や悩みを聞いてもらえるだけで安心して症状が軽くなるケースもある。不調はあるけれど、どの病院にいけばいいか分からないといった悩みを抱えている女性は、ぜひ女性外来に行ってみよう。 公開日:2005年9月26日
30歳を過ぎた女性なら、誰でも気をつけておきたい婦人科系の病気の中から子宮の病気についてまとめました。早期発見で完治するケースも多いので、健康診断などを利用して定期的にチェックしましょう。 目次 子宮とはこんな器官です セルフチェック!こんな症状に心当たりはありませんか? 婦人科に行ってみよう! 子宮とはこんな器官です 女性なら誰でも、普段からぜひ気をつけておきたい子宮の病気。まずは子宮のしくみやはたらきを知っておこう。 子宮の役目は「胎児を守り育てること」で、伸縮性のある平滑筋という筋肉でできた袋のような臓器だ。ニワトリの卵ほどの大きさで、膀胱と直腸の間にあり、骨盤の底の部分に固定されている。 子宮の左右には親指ほどの卵巣が連結し、子宮と卵巣を結ぶ卵管が広がっている。子宮の内側を覆っている粘膜が子宮内膜で、毎月一定の周期に合わせて厚みを増し、受精卵の着床がないときに剥がれ落ちて膣から排出される。これが生理と呼ばれる現象だ。 セルフチェック!こんな症状に心当たりはありませんか? 子宮筋腫や子宮内膜症は、生理のトラブルなどから見つかりやすい。以下のチェックで自覚症状に当てはまるものが複数あった場合は早めに病院で診てもらおう。 また子宮がんには主に2種類あるが、それぞれ自覚症状が異なる。早期発見でかなりの割合が完治するので、こちらも気になるなら早めに病院へ。 子宮筋腫・子宮内膜症チェック 生理のときの出血量が多い…子宮内膜症 レバー状のかたまりがある…子宮筋腫 生理痛がひどい …子宮筋腫、子宮内膜症 貧血、疲れやすい …子宮筋腫 不正出血がある …子宮筋腫、子宮内膜症 生理周期が短い …子宮筋腫 おなかが張る …子宮筋腫 性交時に痛みがある…子宮内膜症 トイレが近い …子宮内膜症 排便時に痛みがある…子宮内膜症 子宮体がんチェック 出産経験がない 更年期から閉経10年後までの時期である 標準体重より20%以上太っている 乳がんや卵巣がんになったことがある 子宮がんは、どんな病気? 子宮頸がんチェック 妊娠・出産の経験が多い セックスパートナーが多い ヘビースモーカーである 子宮がんは、どんな病気? 婦人科に行ってみよう! 子宮や卵巣などの婦人科系の疾患は、妊娠・出産といった女性のライフスタイルに大きく関わるもの。「いつものことだから」「忙しいから」とついつい先送りにしがちだが、「おかしいな」、と思ったらぜひ婦人科で診察を受けてみよう。 診察の際に心がけたいこと ●症状や伝えたいことはあらかじめメモしておく ●膣や子宮を診察する際、スムーズに受けられるようにゆったりしたフレアースカートなどの服装を。また上半身の診察には前開きのシャツが望ましい ●できれば基礎体温表を持参する など 生理痛がひどい、出血量が多いなどの問題があるなら生理中でも受診できるし、不正出血があった場合もすぐに診てもらおう。健康保険については適用される場合とされない場合があるので、事前に医師に説明を求めておくと安心。 また、あらゆる病気と同じく、子宮の病気も何より大切なのは早期発見。今とりあえず問題がなさそうな場合でも、定期健診を利用して毎年1度必ずチェックするようにしたい。 ■関連記事 20~22歳の子宮頸がんワクチン有効率を検討 新潟大学・HPV感染調査 なぜ今注目されている?子宮頸がん 女子会から読み解く!乳がんと食事との関係 卵巣の病気セルフチェック!女性ホルモンと卵巣の深い関係 婦人科がん(子宮・卵巣のがん)の発症リスクと治療後のむくみ対策 キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクール 公開日:2003年2月17日
子宮筋腫、子宮内膜症、子宮がんに代表される子宮の病気があります。それぞれの病気の特徴、治療法などをまとめて紹介します。 目次 子宮筋腫 子宮内膜症 子宮がん 子宮筋腫 子宮筋腫のできる位置 子宮筋腫とは子宮の中にできる「こぶ」のようなもので、ほかの臓器に転移することのない良性の腫瘍。女性の体にできる腫瘍の中では最もポピュラーだが、無症状であることが多く、たまたま検診で見つかるなどのケースが多い。 30代半ば~50代半ばにかけておきやすいと言われているが、最近は初潮の低年齢化に伴い、20代にも見られることがある。 子宮筋腫は、どこにできる? 子宮筋腫はいくつかの部位に発生するが、子宮の筋層内にできるもの、子宮の内側にできるもの、子宮の外側にある腹膜にできるものの3つに大別される。そのうちの70%は筋層内筋腫と言われている。 子宮筋腫は、どうやって治療する? 子宮筋腫自体は、それ自体が命に関わるものではない。治療法も経過をみたり、薬で症状を抑えたり、それでも改善できないときには手術による対処方法もある。以下を参考にして、自分にあった治療法を選択しよう。 1 経過を見守る 筋腫が小さく、日常生活に支障がない場合は3ヵ月に1回程度婦人科を受診して経過を見守る方法をとる。ただし、急に大きくなった場合は要注意。悪性腫瘍である「肉腫」の可能性もある。妊娠中に筋腫が見つかった場合も、原則的に経過を見る。 2 薬物療法 貧血がひどい場合は鉄剤を処方される。筋腫は女性ホルモンの影響で大きくなることから、GnRHアナログという薬で女性ホルモンの分泌を抑え、「偽閉経療法」をとる場合がある。ただし、副作用として更年期障害に似た症状が出ることもあるので、投薬は長くても半年まで。 3 手術 子宮筋腫核手術 筋腫のこぶだけをとって子宮を残す手術。妊娠・出産が可能。数年後に再発することもある。 子宮全摘出手術 子宮を全部摘出する手術。筋腫の再発はなし。妊娠・出産はできなくなる。 子宮内膜症 子宮内膜症のできる位置 子宮内膜症とは子宮内膜とよく似た細胞がなぜか卵巣や腸、膀胱などで増殖する病気。生理のたびにその部分から出血し痛みを引き起こしたり、周りの臓器や膜と癒着を起こしたりする。 30代~40代に多く、閉経後はほとんど症状がみられない。最近では10代~20代で発症するケースも多い。 子宮内膜症は、どこにできる? 子宮周囲や腹膜、膀胱、卵巣、腸、直腸と子宮の間など。最も多くできるのは卵巣の中で、チョコレートのような古い血液がたまることから「チョコレートのう胞」と呼ばれる。また子宮筋層の中にできる内膜症は「子宮腺筋症」と呼ばれ、子宮筋腫との併発も多い。 子宮内膜症は、どうやって治療する? 子宮内膜症の治療も、薬によるものと、手術によるものの2つに分けられる。 気をつけたいのはいきなり「ホルモン療法」に入ること。子宮内膜症ではなく、重い生理痛である場合にホルモン治療を受けると副作用(体重増加・にきびなど)が出ることもある。できれば事前に情報収集をして、子宮内膜症の専門医に診てもらうことが望ましい。 1 薬物療法 生理痛をやわらげるため、鎮痛剤が処方される。子宮内膜症は生理のたびに症状が悪化するため、女性ホルモンの分泌を抑えるためにGnPHアナログやダナゾール(男性ホルモンに似た構造の薬)を用いることも。こうした薬で副作用がでることもある。低用量ピルを用いる場合は効き目が緩やかになるが副作用がGnPHアナログやダナゾールに比べ比較的少ない。 2 手術 保存手術 妊娠・出産を望む場合は子宮を残す手術を行う。その方法には開腹手術と、お腹の一部に穴をあけてそこから内視鏡や器具を入れて病巣を治療する「腹腔鏡下手術」がある。再発することもある。 準根治手術 子宮を全摘出し、卵巣の一部を摘出する手術。 子宮内膜症の症状がかなり軽減されるが、 妊娠・出産はできなくなる。 根治手術 非常に症状が重い場合、卵巣と子宮を全摘出する。再発はないが、妊娠・出産はできなくなる。また、卵巣からの女性ホルモンの分泌がなくなるので更年期症状が起こる。 子宮がん 子宮がんのできる位置 子宮がんには子宮の入り口にできる「子宮頸がん」と子宮の奥にできる「子宮体がん」の2種類がある。子宮がんのうち、子宮頸がんが6割以上を占めている。子宮頸がんは30代~40代に多く、子宮体がんは40代以降に多い。比較的早期発見しやすく、早期に発見できればどちらの場合もほぼ治る。 子宮がんは、どこにできる? 子宮体がんが、子宮体部の内側にある子宮内膜に発生。子宮頸がんは膣に近い子宮頸部にできる。 子宮がんは、どうやって治療する? 子宮体がんも子宮頸がんも、がんの進行度合いとライフスタイルによって治療法が変わってくる。手術、放射線療法、化学療法(抗がん剤)がある。 1 手術 円錐切除術 お腹を切らずに膣から子宮頸部の一部を切り除く手術。頸がんの検査と治療を兼ね備えてできる。妊娠・出産も可能。 単純子宮全摘出術・広汎子宮全摘出術 子宮だけを全摘出する。早期のがんであれば完治できる。早めの更年期障害の心配も比較的軽い。妊娠・出産はできない。 リンパ節郭清 がんの転移を防ぐため、子宮と子宮の周りの組織もとる方法が広汎子宮全摘出術。骨盤内のリンパ節への転移を避けるため、切除する方法がリンパ節郭清。妊娠・出産はできない。術後は排尿・排便障害が残ることもあるが、回復する。 2 放射線療法 がんに放射線を当てて細胞を死滅させる方法。進行したがん(特に頸がん)に用いる。副作用として下痢や吐き気、食欲不振などが見られることもある。 3 化学療法(抗がん剤) がん細胞の分裂・増殖を薬で抑制する。手術や放射線療法の後、再発予防のために使ったり、大きな病巣を小さくするために手術前に使うことも。嘔吐や脱毛、白血球や血小板の減少などの副作用もある。 公開日:2003年2月17日
がんが若い世代に増えている 子宮がんは、がんのできる場所によって子宮体がんと子宮頸がんに大きくわかれるが、近年、テレビやインターネットなどのメディアを通し「子宮頸がん」という病名を耳にすることが多くなった。なぜ今、こんなにも注目されているのだろうか。 理由のひとつとして、子宮体がんが50~60代の女性で多く診断されるのに対し、子宮頸がんは20代後半~40代前後という若い世代で診断されることが増え、問題となっていることが考えられる。 ワクチン接種で予防できる子宮頸がん さらに大きな理由としては、子宮頸がんのほとんどが「ワクチン接種によって予防できる」という点だろう。 子宮頸がんの原因は、そのほとんどがヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus:HPV)の感染によるもの。子宮頸がんの患者さんを調べたところ、なんと90%以上の患者さんから、このウイルスが検出されたといわれている。子宮頸がんを防ぐには、ヒトパピローマウイルスの感染を防ぐことが有効なのだ。 ヒトパピローマウイルスには100種類以上ものタイプがあり、近年、日本でもこの一部のウイルス感染を防ぐワクチンが接種できるようになった。 国をあげて、子宮がん対策を支援中! 子宮頸がんが、いくらワクチン接種で予防できるといっても、すべての子宮頸がんを予防できるわけではない。やはり定期的な子宮頸がん検診を受けることは重要だ。婦人科検診に抵抗感を抱く若い女性も多いが、自分の将来の健康を考えると、ぜひとも検診を受けてほしい。 わが国でも、子宮がんや乳がんの検診を普及するために一定年齢の女性に「がん検診無料クーポン」を配布している。また、クーポンの使用方法や、がんに関するやさしい解説が書かれた「検診手帳」も配布されている。この事業は、市区町村によって異なっていることもあるため、まずは住んでいる市区町村のがん検診担当窓口に問い合わせてみよう。 ■関連記事 女子会から読み解く!乳がんと食事との関係 マンモ+超音波で乳がんを早く発見!生稲晃子さん・乳がん手術5回を乗り越えて がん治療後の後遺症のむくみでお悩みの方のためにリンパ浮腫患者スクールを開講 キャンサーフィットネス 20~22歳の子宮頸がんワクチン有効率を検討 新潟大学・HPV感染調査 がん告知で「びっくり退職」はちょっと待った!サバイバー伝授!がんとお金(2) 婦人科がん(子宮・卵巣のがん)の発症リスクと治療後のむくみ対策 キャンサーフィットネス・リンパ浮腫患者スクール 更新日:2020/09/25