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161:一卵性双生児でも指紋は違う?手の「指紋」 指紋の研究は100年以上前に日本で始まり世界に広まった(3)(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

大人の健康情報

望月吉彦先生

更新日:2022/06/13

前回より続きます。
同一のDNAを持っている一卵性双生児でも指紋は違います(参考:Identical Twins and Fingerprints)。不思議です。指紋は受精後10-16週で決まります。その間の胎内環境で指紋が違ってくるのです。
なおフォールズ医師の業績を紹介した文献「The Preservation ion of friction ridges(Laura A. Hutchins 著)」に以下の記載があります。

To prove permanence, Faulds and his medical students used various means—razors, pumice stones, sandpaper, acids, and caustics—to remove their friction ridges. As he had hoped, the friction ridges grew back exactly as they had been before.

「指紋が不変である事を証明するために、フォールズ医師と彼の医学生たちは、カミソリ、軽石、紙やすり、酸、苛性剤など様々な手段を使って指紋を取り除いた。フォールズが期待した通り、指紋は元通りになった。」

つまり、指紋を取り除いても皮膚が再生すれば元通りになるのですね。
さて、下の写真は当クリニックで切断指を治療した患者さんの指です。再生した指の指紋と以前の指紋は、多分、同一だと思いますが証明する方法はありません。


(注:当院ではこのような指の再生治療を行っています)

さて、前々回で紹介したスコットランド医師ヘンリー・フォールズ(Henry Faulds、1843-1930)が『NATURE』 (1880年10月28日605号)に寄稿した「指紋に関する論文」を紹介します。

指紋に関する論文

この論文を翻訳してみました。古い英語が使われていたりするので間違っているかもしれませんが、大意はあまり変わらないと思います。

手の「指紋」について

ヘンリーフォールズ 筑地病院 東京 日本

一年ほど前、日本で発見された先史時代の土器の標本を見ていたら、粘土がまだ柔らかいうちに作られた際に付けられたと思われる指の跡に気づきました。それから「指の跡」に注目するようになりました。残念ながら、古い土器に付いている指紋はどれも曖昧ではっきりとしたものではなく、土器に付いている指紋はあまり参考にはなりませんでした。しかし最近作られた陶器に残っている指の跡は結構はっきりとしていて、それで人間の指紋の特徴を観察することができるようになりました。

最初に猿の指紋の研究をしました。猿の指紋は人間の指紋と似ています。私は後で追求しようと思っていることについて幾つか述べる機会がありましたが、その点については別の手紙で発表するかもしれません。そういう機会があれば良いと思っています。
一方で、キツネザルの興味深い遺伝的関係に光を当てるための追加の手段として、これに関連したキツネザルなどの慎重な研究を提案したいと思います。

私は、日本の人々から多くの指紋を採取しました。現在、他の民族からも採取しているところです。ここで、いくつかの興味深い点を紹介します。

指紋の溝は非常に非対称的な発達を示す人がいます。このような場合、片方の手の指はすべて同じような線の配列をしていますが、もう片方の手ではそのパターンが逆になっています。
私が調べたジブラルタル猿(Macacus innus)にもこのような配列がありました。私がここで検査した数少ないヨーロッパ人にもこのような配列が見られます。

植物観察用レンズは、このような指紋の詳細な特徴を記録するのに役立ちます。

指紋のループが発生しているところでは、一番内側の線は単に切れて突然終わることもあれば、またループが現れて終わることもあります。元の方向に向きを変えて切れ目なくループが続いていることもあります。また鉄道地図の中には分岐点のように合流したり、分岐したりする指紋線もあります。しかし様々な種類の指紋を印刷すると、両手が私たちに与える対称性の一般的な印象と似ているかもしれません。

日本人の場合、両手の親指の線は似たような螺旋状の渦巻きを形成しています。左手の人差し指の指紋線は独特の楕円形の渦巻きを形成していますが、右手の対応する指紋線は右手の人差し指の線とは全く逆の方向を持つ開いたループを形成しています。右の薬指にも楕円形の渦巻きがありますが、対応する左指には開いたループがあります。
特定の掌紋は両手で平行に並んでおり、非常に対称的であり、したがって英国人のそれとはかなり異なっています。
これらの例は両民族の典型的なパターンを示すものではなく、単に観察すべき事実の種類を示すものだと思っています。

私の観察方法は、まず指をよく観察してできるだけ正確に曲線の大まかな傾向をスケッチし、国籍、性別、目と髪の色を記録し、後者の標本を確保することです。私はこれをシダの葉の記録に使う方法である「ネイチャープリンティング」を使って記録することにしました。必要なのは一般的なスレート板や滑らかな板、またはブリキのシートを印刷用インクを非常に薄く均一に広げたものだけです。より強い記録を残したい場合は、しっかりと柔らかく押し付けて、少し湿った紙に転写します。

私はガラス板に指紋の記録を残すことに成功しました。この方法だと非常に繊細な部分まで記録できます。実際にはやや淡いですが、微細な毛穴の細部まで非常によく表現されているのでデモンストレーションには役立つでしょう。色の違うインクを使うことで、2つのパターンを重ね合わせて比較することができます。ガラス記録した指紋は投影装置で表示できるかもしれません。

私は必要に応じて各事件の詳細を記入するための空欄の用紙と、顕微鏡検査のための毛髪の標本を添付したいくつかのアウトラインハンドを用意していました。
それぞれの指先は単独で行うのが最善であり、人々はまれにプロセスに従おうとします。少しのお湯と石鹸でインクを除去します。ベンジンはインク除去に、より効果的です。

これらの無限の品種を通じた遺伝の優勢は、時に非常に印象的でした。 私は親子の間に似た指紋のパターンを発見したことがあります。しかし否定的な結果もあります。親子関係に関して何も証明しないかもしれません。注意を払うことが重要です。
私は、これらのパターンを注意深く研究することがいくつかの点で役立つかもしれないと確信しています。

  • 私がサルに存在することを発見した類似性を他の動物にも拡張できるかもしれません。
  • これらの類推は更なる分析を認めるかもしれないし、よりよく理解された場合には、民族学的分類に役立つかもしれません。
  • もしそうなら古代の陶器に見られるものは、歴史的に非常に重要になるかもしれません。しかし、私はこれについて非常に疑わしいです。
  • ミイラの指は特別な準備をすれば、比較のために結果が得られるかもしれません。しかし、私はそれには懐疑的です。
  • 粘土やガラスなどに血のついた指紋記録が残っていれば、犯罪者を科学的に特定するのに役立つかもしれません。私はすでにそのような2つのケースを経験しています。

1番目のケースでは、脂ぎった指の指紋が、強いアルコールを飲んでいた人間を特定しました。その模様はユニークなもので、私は以前にその人(アルコールを飲んだ人)の指紋記録を入手したことがあったのです(注:どうも教えていた学生が夜中にフォールズの研究室にあったアルコールを飲んでいて、それに気づいたらしい、フォールズ、結構お茶目です)。元の指紋とアルコールグラスの指紋は一致しました。

2番目のケースは、白い壁に残っていた煤けた指の跡が容疑を否定する証拠として使われました(注:犯人の指紋と、指紋が違ったらしい)。

他のケースでは、いくつかの切断された被害者の手だけが発見されたときのように、医学的な法的調査が発生する可能性があります(以前に知られていれば、それらはペニー小説家の標準的なモグラよりも価値ではるかに正確である)。以前に知られていなかった場合には、遺伝学の専門家は、多くの場合にはかなりの確率で、またいくつかの場合には絶対的な精度で親族を決定することができるかもしれません。このような場合、原告はこの原則の範囲を超えていないかもしれません。
認識可能なTichborne型があるかもしれないし、専門家が事件を関連付ける可能性のあるOrton型があるかもしれません。絶対的な同一性は、いくつかの状況では子孫関係を証明するでしょう。

私は、このような一般的な結論に到達してから、私たちが指紋を記録するのと同様、中国の犯罪者の指紋記録が残されていたと聞いたことがあります。しかし、私はまだ、この点についての正確な、あるいは信憑性のある事実を得ることに成功していません。エジプト人は、日本人が現在行っているように、犯罪者の自白を親指の爪で封印していたことが、最近の発見で証明されています。しかし、これは全く別の問題であり、興味深いことに、我々の国イギリス、給仕の女は、同様な方法で封印された手紙にスタンプを押していたのです。

写真の他に重要な犯罪者の指紋の記録を残すことの利点については疑いの余地がありません。昔、中国人が犯罪者の指紋記録を残していたことを知るのは驚くべきことではないと思います。本当にそういう記録を見つけることができたら嬉しいと思います。それは方法の有用性を確認するのに役立つし、蓄積されたかもしれない事実は忍耐強い観察者のための豊かな人類学の宝庫になるでしょう。

以下、次回続く。

【参考文献】

  • コリン ビーヴァン著、茂木 健訳「指紋を発見した男―ヘンリー・フォールズと犯罪科学捜査の夜明け」主婦の友社:2005刊
  • HENRY FAULDS著「Dactylography; Or, the Study of Finger-Prints」1912年刊
  • HENRY FAULDS著「Guide to finger-print identification」1905年刊
  • HENRY FAULDS著「How the English fingerprint method arose」1915年
  • HENRY FAULDS著「Nine Years in Nipon. Sketches of Japanese Life and Manners」1888年
  • 西岡研介著:「噂の眞相」トップ屋稼業 (河出文庫):上述の指紋の話の他にも、あれれ?という話が沢山紹介されています。

2-5は全て、電子化されています。 「Historic Works on Fingerprints」というサイトで読むことができます。

The Project Gutenberg EBook
グーテンベルグプロジェクトでも上記文献2.は紹介されています。
https://www.gutenberg.org/files/47911/47911-h/47911-h.htm

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-3-10 チサンホテル浜松町1階
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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