東京衛生病院の杉本正毅先生は、患者さんがカロリーや栄養バランスに縛られず、健康のための適量となる食事内容と、これまでの食生活(食文化)との調和をはかることで、健康との心地よい関係を維持してもらうために、基礎カーボカウント法を活用した薬物療法適正化プログラムを推進しています。血糖管理薬が必要となる患者さんに、最適な薬物療法を見つけてもらうプログラムの実際について紹介します*1。
目次
杉本先生によると、多くの糖尿病患者さんは基礎カーボカウントをマスターすることで良好な血糖管理を手に入れることができます。
しかし、なかには基礎カーボカウントをマスターしても、なかなか希望するような血糖管理が得られない患者さんがいます。
特に、罹病期間が長い患者さんでは「インスリン分泌低下」、「インスリン抵抗性」、不規則な生活などが複雑に絡み合って、なかなか良好な血糖管理を実現できません。
そんなとき、その患者さんに最適な薬物療法を見つける方法が「薬物療法最適化プログラム」(図1)です。
図1:薬物療法最適化プログラム
SMBG:self monitoring of blood glucose(自己血糖測定)の略
提供:杉本正毅先生
「薬物療法最適化プログラム」とは3日間・計9食の食事記録から血糖パターンを明らかにして、その患者さんに最適な処方を見つける方法です。
患者さんは食事記録と血糖測定記録をもって来院し、管理栄養士の指導を受けます。
管理栄養士は1食の炭水化物摂取量と1日の炭水化物摂取量が守られているかどうかを確認し、食事に由来する高血糖(糖質過剰摂取)や低血糖(糖質摂取不足)があれば、その是正のためのアドバイスを行います。
このように、患者さんは毎回、基礎カーボカウントができるようになるまで、管理栄養士による指導を受けます。
そして食事に由来する高血糖や低血糖がみられなくなったら、医師はいよいよ「血糖パターン管理に基づく処方最適化」へ進むことができるわけです。
3日間9食の食事記録と自己血糖測定(1日7回×3日間)の結果から血糖値パターン、すなわち空腹時高血糖型(食前高血糖型)と「食後高血糖型」を把握します(図2)。
図2:血糖パターン:空腹時高血糖型(食前高血糖型ともいいます)と食後高血糖型
提供:杉本正毅先生
以下のケース(図3-A)は一定の血糖パターンを呈していないので「混合型」と呼びます。
これは患者さんが食前血糖値を見て、高ければ糖質を制限している、低ければ爆食している結果が得られます。
このような患者さんが「基礎カーボカウント」をマスターすると、まったく別人のような血糖パターンを呈することがあります(図3-B)。
図3:食前高血糖型と食後高血糖型が混合した患者さんが「基礎カーボカウント」をマスターした結果 提供:杉本正毅先生
このように基礎カーボカウントは血糖値の秩序を回復させ、その患者さんに最適な処方が何かを明らかにしてくれるツールであることがわかります。
すべての薬剤は「主に食前血糖値を改善する薬剤」と「主に食後血糖値を改善する薬剤」に分類することができます(図4-A)。
本プログラムは得られた血糖パターンに基づいて、その患者に最適な薬剤を決定するツールです。血糖パターンで表されることで、複雑と思われた患者さんの病態が見事なまでに単純化できることがわかります。
図4-Bに最適化の方法を示します。
図4:血糖パターンに基づく薬剤選択 提供:杉本正毅先生
「空腹時(食前)高血糖型」であれば、空腹時血糖値改善薬のリストの中から、「食後高血糖型」であれば、図3の食後血糖値改善薬のリストの中から選択します。
冒頭に示した写真のように薬剤一覧表を患者さんに見せながら、それぞれの薬剤に関する情報を与えて、可能な限り患者さんが自分の頭で考えて、自分に最適な薬剤を選べるように支援します(決定共有アプローチ)。
杉本先生によると、このプログラムを実行することで、これまで食前血糖値改善薬しか処方していなかった患者さんの血糖パターンが、実は「食後高血糖型」を呈することが判明し、医師が自らの処方の誤りに気づくこともあるので、医師にとっても教育的なツールとなるそうです。
薬物療法最適化プログラムは、患者さん個人の食生活や価値観などを尊重し、実行可能な食事指導をめざす基礎カーボカウントとセットで行うことで、薬物療法を最適化するツールです。
その実践には、糖尿病治療チーム全員が「基礎カーボカウントの意義」と「決定共有アプローチ」というスタンスを共有していることが求められます。
次回は、薬物療法最適化プログラムに取り組んだ患者さんの事例を紹介します。事例の患者さんは、杉本先生が最も推奨する薬ではなく2番目に推奨する薬を本人が選択して、主体的に治療に取り組んだことで血糖コントロールが良好になりました。
*1:記事に関しては以下をもとに作成しました。
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