疾患・特集

おいしく食べて糖尿病を改善するコツ 患者さん自身が糖尿病を治す!(1)

糖尿病になったら、好きな食べものをすべてあきらめないといけないのでしょうか。東京衛生病院の杉本正毅先生は、患者さんが自分の健康のために理想的な食事量や食事の内容について理解して、自分らしい食生活とのバランスを考えながら、自立して健康を目指していく治療法を推進しています*

「糖尿病だからおいしいものを食べてはいけない」という思い込みから生まれる不幸

糖尿病患者さんは、血糖値を上昇させないために厳しい食事制限が必要だという考えから「おいしいものは、もう食べられない」と考えがちです。
医療機関で一般的に行われている食事指導は「カロリー制限」「禁酒、節酒」「お菓子禁止」といった禁欲指導ばかり…。
しかし、そんな指導で「頑張ろう!」という意欲が湧いてくるのでしょうか?
杉本先生は、まず最初に患者さんが抱いている、こうした「糖尿病=禁欲生活」という思い込みを取り除いてあげることが大切だと力説します。
一方において、「糖質の恐ろしさ」を強調するネットや本を読んで、カロリーや血糖値を上げる炭水化物(栄養素の糖質が大半で食物繊維なども含まれる栄養成分)にこだわりすぎて、自分らしい食べ方を見失ってしまう人たちもいます。
なかには、まだ糖尿病予備軍の段階であるヘモグロビンA1c(HbA1c)値6%未満なのに、食後高血糖=グルコース・スパイクが恐ろしくて、血糖値を24時間モニタリング可能なフリースタイル・リブレを自費購入し、自分の体を24時間監視している患者さんもいます。
テクノロジーの進歩が、糖尿病患者さんに多くの福音をもたらしましたが、その反作用として血糖監視機器に見張られ、おびえて暮らす人たちを生み出しているのです。

糖尿病患者さんだからこそおいしく食べることを大切にしてほしい

糖尿病患者さんだからこそおいしく食べることを大切に

しかし、「食べてはいけない」と必要以上に制限して、健康を手に入れたとしても、そんな生き方が長続きするでしょうか?また幸福と言えるでしょうか?
医療者から食事制限を厳しく指導されてつらい思いをしている患者さん、徹底したカロリーや糖質の制限を続けるのがつらい患者さん、厳しい食事制限を望まない患者さんはついていけません。取り残された患者さんは、どうしたらいいのでしょうか。
杉本先生は、はじめて糖尿病と診断された患者さんたちに「糖尿病患者さんはおいしい食事体験を大切にしてほしい」という願いを込めて、必ず以下のことを伝えているそうです。

「あなたの嗜好にあっていて、長く続けられる食事について教えてください」
「糖尿病になったら、だれよりもおいしい食事をすることが大切なのです」
「なぜなら、あなたの糖尿病を良くすることも大切ですが、あなたが『あなたらしく食べること』はもっと大切です」
「おいしさを大切にしている限り、この病気に負けることは決してありません」

無理なく実行できそうなカロリーと炭水化物比率を患者さんと決定することが重要

杉本先生は、患者さんが「これまでおいしく食べてきた食生活」と、自身の健康にとって適量となる食事内容とのバランスをとれるようにする食事療法を推進しています。
まず、患者さんが大切にしてきた食生活を理解するために詳しく話を聞きます。次に、血糖値を上げる炭水化物のことを理解してもらい、カーボカウント(Carbohydrade counting:炭水化物を数えるという意味)の考え方をマスターしてもらいます。
カーボカウントとは、食品に含まれる炭水化物量を計算して、1日3食の炭水化物量(カーボ数)を可能な限り一定にして血糖コントロールを安定化させる食事療法です。
具体的には、患者さんのこれまでの食生活歴を詳細に評価し、そのかたが無理なく実行できそうなカロリーと炭水化物比率を患者さんと話し合って相談しながら決めます
そして、1日に摂る炭水化物量と1食の炭水化物量を決めて、患者さんにはカロリー計算を求めずに、炭水化物量をカウントする練習をしていただきます。
杉本先生のカーボカウントの考え方は、カロリーや栄養バランスに縛られないので、とても柔軟な食生活を楽しむことができます。
従来、日本ではほとんどの医療機関が、患者さんのこれまでの食事の摂取量や食習慣を考慮せずに、体重、BMIと身体活動量だけで一律にカロリーを設定してきました。
しかし、それはとても非現実的ですし、根拠にも乏しいことから、近年は見直すべきであるという声が一部の専門家からようやく上がってきています。

食べたいものを自信もって食べられるようになることが食事療法の第1目標

杉本先生の食事指導の方針は「何カロリー以下にしなさい」とか「炭水化物摂取は何グラム以下にしなさい」と課題を与えて、患者さんにそれを守るように指示するのではありません。
そうではなく、血糖値を上げずにおいしく食べるスキルを丁寧に教えることで、患者さんが自信を持って自分らしい食事ができるように支援していくことだと言います。
「患者さんが食べたい料理を、自信を持って食べられるようになることこそ、食事療法の第1目標でなければならない」と先生は力説します。
高血糖を体験したり、体重が増加したり、そういう失敗から患者さんは学んでいけば良いというのが杉本先生の方針です。
次回は、糖尿病の食事療法にスポットを当てて、患者さんがおいしく食べる食生活(食文化)を大切にする意義について紹介します。

*記事に関しては以下をもとに作成しました。

  • 2018年11月22日開催:第40回荒川糖尿病フォーラムの杉本正毅先生の講演「“自分らしく食べる”を支援するカーボカウントを活用したエンパワーメント・アプローチ」
  • 杉本正毅 (@DiabetesCafe) Twitter
    https://twitter.com/diabetescafe
  • ナラティヴ・カフェ Narrative Cafe Diabetes Cafe:糖尿病診療におけるナラティヴ・アプローチ
    http://sugimotomasatake.com/
  • カーボカウント研究会 カーボカウントで楽しい生活
    http://www.carbocounting.com/blog/
公開日:2019/03/27
監修:アドベンチスト会東京衛生病院附属教会通りクリニック内科 杉本正毅先生