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ひざ痛に細胞シートで再生治療、より多くの患者さんを救うための試み

現在、変形性ひざ関節症ではひざの患部に細胞シートを移植することにより軟骨を再生させるという治療法が開発されています。東海大学の佐藤正人先生は、患者さん本人から細胞シートを作って移植する治療と、患者さん以外の人から細胞シートを作って治療するという研究を進めています(2018年3月、第17回日本再生医療学会総会の講演をもとに本記事を作成しました)。

変形性ひざ関節症の再生治療

変形性ひざ関節症のイメージ

変形性ひざ関節症の患者さんは、中高年や女性に多い傾向にあります。これまでの治療法ではすり減った軟骨の修復・再生は難しいことが課題でした。
そこで、細胞シート工学の技術を応用した治療法が開発されています。
現在は、患者さん由来の軟骨細胞から作られた自己細胞シート(自家細胞シートともいいます)を移植する研究と、患者さん以外の人由来の細胞から細胞シートを作って(同種細胞シート、他家細胞シートともいいます)、移植する研究を実施しています。

細胞シート移植とO脚矯正手術との併用で安全性と有効性を確認

自己細胞シートの治療に関しては、O脚などを矯正する骨切り術と細胞シートを損傷部位に貼り付ける手術を併用しています。
曲がった膝を治すために、骨切り術を行った際に関節内の軟骨損傷部を覆うように直接患部に移植します。軟骨細胞シートの移植は短時間に実施可能です。
入院期間に関しては約1ヵ月程度と言われています。これは、骨切り術を実施した患者さんの平均的な入院日数であり、細胞シート移植による入院日数の延長はありません。

自己細胞シートの治療研究は2011年から行われています。変形性ひざ関節症の患者さん8例に実施した結果、3年を経過した後でも安全性と有効性が確認されました。現在、先進医療および企業治験を計画されています。
世界的にも硝子軟骨の再生は極めてハードルが高い研究テーマですので、成功例は見られていません。この臨床研究の成果は世界的にもその成果に注目されています。

乳幼児の切除手術後の組織から細胞シートを大量に生産する方法を開発

より多くの変形性ひざ関節症の患者さんが治療を受けられることを目的に、患者さん以外の人の細胞を用いた他家細胞シートの治療法も研究が行われています。その細胞としては、乳幼児の切除手術後の組織から軟骨を採取します。細胞を増殖・培養した細胞は凍結保存しておきます。
あらかじめ細胞をストックしておくことで、他家細胞シートの作製ならびに迅速に手術できることが期待できます。
この手法に関しては、東海大学医学部付属病院のみならず国立成育医療研究センターとの共同研究により開発が進んでいます。細胞シートの大量生産と保存技術が実現することで、治療の低コスト化が期待できます。

2018年4月時点で患者さん3例に他家細胞シートを移植する臨床研究を実施しており、経過は良好なことが報告されています。

図:細胞シートをより多く作製するための試み 図:細胞シートをより多く作製するための試み

提供:東海大学整形外科学教授 佐藤正人先生

  • ※同種軟骨細胞は、患者さん自身ではなく他人の細胞のことをいいます。他家軟骨細胞ともいいます。

関節疾患の再生治療は研究がめじろ押し

細胞シート工学のメリットは、患者さん自身の細胞を用いる自己(自家)細胞シート、あるいは患者さん以外の他人の細胞を用いた他家(同種)細胞シートを、患者さんの体内で支障がある部位に貼り付けて再生を促すことができる点です。
変形性膝関節症に関しては早期にみられる部分的欠損と、末期に見られるような全層欠損という2つのタイプの軟骨損傷に治療効果が期待できます。
細胞シートの大きさに関しては、自己細胞シートの臨床研究では軟骨損傷部位が4.2cm2まで適用としていましたが、先進医療や企業治験では大きな損傷部位にも対応できるよう8.4cm2までの適用を検討しているところです。
骨・関節疾患の再生医療に関しては、現在、変形性ひざ関節症の保険適応はありませんが、自家培養軟骨のジャック®が2013年4月から臨床現場に導入されています。

2018年3月21日~23日に再生医療に関する研究成果が発表される第17回日本再生医療学会総会として学術集会が開催されました。
佐藤先生が研究成果を報告したセッションでは、臨床導入が近い開発研究として、滑膜由来の間葉系幹細胞を用いたひざ軟骨再生細胞治療製品や、滑膜の幹細胞を用いた半月板の再生治療など多くの報告がありました。
治らないと言われていた病気でも完全に治すことが期待できる再生治療を、医療機関で受けられる日も近いのではないでしょうか。

参考情報: 東海大学ホームページ(http://cellsheet.med.u-tokai.ac.jp/
株式会社セルシード(https://www.cellseed.com/regenerative/012.html

公開日:2018/08/20
監修:東海大学整形外科学教授 佐藤正人先生
一般社団法人細胞シート再生医療推進機構業務執行理事/ユタ大学薬学・薬剤化学部併任教授・江上美芽先生