望月吉彦先生
更新日:2025/06/30
注:私は濾過性病原体(今はウイルスと呼称されています)に対して「virus」という言葉を提唱したベイエリンク論文(参考文献10. ドイツ語論文です)に敬意を表して「virus」のドイツ語読みである「ビールス」を使いたいと思っています。この件に関しては、次回で詳述します。
注:ウイルス学会、○○大学ウイルス学教、論文のタイトル、書籍名のような固有名詞は「ウイルス」を使います。

前回に続き、うつ病はビールスによる感染症だという東京慈恵会医科大学ウイルス学 近藤先生の説を紹介します。近藤先生の専門はヘルペスビールス属です。皆さんもご承知のとおり、ヘルペスビールス属のなかには体内に住み着いて何度も病気を発症するビールスがいます。例を挙げます。
こういうビールスに罹患するとビールスは人体に住み着いてしまいます。そして体調、日光などの刺激で「病気」を発病させます。近藤先生はヘルペスビールスが体内に住み着くには、なにか理由があると考えます。
近藤先生の専門であるHuman Herpesvirus 6B(ヒトヘルペスビールス6B:HHV-6B)は1歳までにほとんどの子供がかかる突発性発疹の原因ビールスです。このビールスは突発性発疹発症後、なぜか生涯にわたり人体に住み着きます。東大医科研の研究(参考文献9.)によると、人体に常在するビールスは39種類あるそうです。HHV-6Bもそのひとつです。
話は逸れます。
HHV-6Bが突発性発疹の原因ビールスであることを発見したのは元大阪大学微生物病研究所の山西先生です。この発見の経緯が素晴らしいので紹介します。山西先生自身がお書きになっている発見の経緯です。ぜひ、お読みください。絶対にAIにはできない発見です。
1歳頃にHHV-6Bに感染し(ほぼ100%)、その後、このビールスはなぜか体内に住み着きます。HHV-6Bが人体の中、とりわけ脳内で何を行っているかを明らかにするため、近藤先生はHHV-6を脳の培養細胞に寄生させます。その結果、HHV-6は脳内細胞にある種のタンパク質(後にSITH-1と命名します)を作らせていることやこのタンパク質(SITH-1)を作らせる遺伝子も発見します。

Head_olfactory_nerve © Patrick J. Lynch (2006)/CC BY-2.5
この発見と同時に別の研究者がHHV-6Bは鼻腔から嗅球を介して脳内に侵入することを発見(参考文献11.)。
注:嗅球は前頭葉下部にある組織で「嗅い」を感知する機能があります。
この発見を元に近藤先生はHHV-6Bが作らせているタンパク質(SITH-1)をマウス脳内の嗅球に注入すると「マウスがうつ状態」になることを発見(参考文献3.)。
この発見を元に、近藤先生は以下のような仮説を立てています。
もともと体内に住み着いていたHHV-6Bが脳内に感染(嗅球を介して感染)
↓
SITH-1遺伝子が発現(なぜかは不明)
↓
SITH-1というタンパク質を作る
↓
嗅球内にSITH-1が増える
↓
嗅球の一部をアポトーシス(細胞死)誘導する
↓
それにより脳内のストレス物質量が増加
↓
「うつ病」を発症
異論も多いのですが、こういう「仮説」は面白いと思います。
SITH-1の脳内量を直接測定することはできません。嗅球を生検するわけにはいかないからです。しかし、SITH-1が増加すると血中にSITH-1に対する抗体ができることが判明しています。そこで、うつ病患者と健常者のSITH-1抗体価を比較すると、うつ病患者の方が血中のSITH-1抗体価が著しく高いことがわかりました(下図参照)。

図1:うつ病、躁うつ病、健常成人の血中SITH-1抗体価
(2013年の第54回日本心身医学会総会ならびに学術講演会:
心身相関の源流にある「疲労」を科学するより、引用)
この結果から、うつ病患者の脳内ではSITH-1が健常人より多く存在していると予想され、SITH-1がうつ病の発症に関与している可能性が高いと考えられます。
近い将来、「血中SITH-1抗体検査」(すなわち脳内SITH-1の予測検査)が簡便にできるようになると予想されます。そうなれば、うつ病の診断・予防・治療に大きなパラダイムシフトが生じるかもしれません。
すでに、HHV-6Bによるうつ状態を改善する薬の開発も進んでいるとのことです。この薬の治験が始まれば、医療界に激震が走るかもしれません。
将来的にこの仮説が正しいと証明され、たとえば、
そんな時代が来れば世界は大きく変わると思いますし、そうなってほしいと心から願います。
口唇ヘルペスや帯状疱疹は視診で診断でき、良く効く治療薬もあります。帯状疱疹には予防ワクチンもあります。うつ病も同じように扱えるようになる未来が来るでしょうか?夢物語に終わらなければいいのですが。
単純ヘルペス1型、2型、ヘルペスゾスター、HHV-6などがなぜ生涯にわたり体内に潜伏するのか、その理由はよくわかっていません。もしかすると、これらのビールスは「休め」というメッセージを出しているのかもしれません。もっとも、発病している本人にとっては、単なる「厄介者」ですが。
うつ病がHHV-6Bによって発症するとする説を頭ごなしに否定する方もいます。しかし、次のような歴史的事実を思い出してみてください。
これらは私が医学部の学生だった頃には考えられていなかったことです。こうした事例をリアルタイムで見てきたからこそ、「うつ病=HHV-6B原因説」も将来的に「真説」として認められる日が来るのではないかと考えています。
もし、HHV-6ビールスとうつ病・うつ状態・適応障害の関係性が明確になるならば、それは人類にとっての大きな福音になることでしょう。
注:SITHは「映画スター・ウォーズ銀河帝国の悪の戦士」より命名したそうです。
望月吉彦先生

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