日本のC型肝炎ウィルス保有者は推定150万~200万人。インターフェロンが効きにくい人などにとって新たな選択肢となる、2種類の飲み薬による国内初の、インターフェロンを用いないIFNフリー療法が実現しました。 目次 次々と登場した、飲み薬だけのC型肝炎の治療法 「抗ウイルス療法」に分類される、飲み薬だけの治療法 C型肝炎ウイルスは2030年までに根絶できる!? 次々と登場した、飲み薬だけのC型肝炎の治療法 日本における、C型肝炎の原因となるC型肝炎ウイルス(HCV)保有者は、推定150万~200万人。C型肝炎は、急性の場合は倦怠感や食欲不振、吐き気などが短期間みられることもありますが、通常は症状もないため、感染に気づかないことがあります。しかし、肝臓の中にすみついたC型肝炎ウイルスが、6ヵ月以上の長期にわたって肝臓に徐々に炎症を起こす、慢性肝炎になることもあります。慢性肝炎は、初期のうちは特に症状はありませんが、進行すると肝臓が線維化して硬くなり、肝硬変や肝がんになる恐れがあります。 C型肝炎ウイルスは、日本人の場合は主に、1型と2型という遺伝子型(ジェノタイプ/ゲノタイプ)と、さらにそれぞれa型とb型に分類されます。日本人では、1b型の患者が約7割を占めると言われています。1型は、治療の柱とされている「インターフェロン」(IFN)という注射薬が効きにくいため、有効な新薬の登場が望まれていました。そんな中、2013年12月に「アスナプレビル」(プロテアーゼ阻害薬)という飲み薬が発売され、続いて2014年9月には「ダクラタスビル」(NS5A阻害薬)という飲み薬も発売されました。これにより、インターフェロンが効きにくい人などにとって新たな選択肢となる、2種類の飲み薬による国内初の、インターフェロンを用いないIFNフリー療法が実現しました。さらに、2015年9月に「レジパスビル/ソホスブビル配合錠」(NS5A阻害薬とNS5B阻害薬の配合剤)、2015年12月に「オムビタスビル/パリタプレビル/リトナビル配合錠」(NS3/NS4A阻害薬とNS5B阻害薬の配合剤)もそれぞれ発売され、IFNフリー療法の選択肢がさらに広がりました。 「抗ウイルス療法」に分類される、飲み薬だけの治療法 従来のものも含め、C型肝炎の治療は、主に以下の方法で行われます。 抗ウイルス療法 原因となるC型肝炎ウイルスの増殖を防ぎ、排除することを目的とした治療法です。どの治療法が行われるかは、C型肝炎ウイルスの遺伝子型やウイルス量、治療が初めてか2回目以降か、といったことなどをもとにして判断されます。薬の種類や投与間隔、期間などは、それぞれの場合に応じて異なります。副作用も治療法によって異なりますが、主に発熱、頭痛、倦怠感、かゆみなどが現れることがあります。 抗ウイルス療法で用いる主な抗ウイルス薬とその組み合わせ ●注射薬 インターフェロン ペグインターフェロン ●注射薬と飲み薬 インターフェロン + リバビリン ペグインターフェロン + リバビリン ペグインターフェロン + リバビリン + アスナプレビル ●飲み薬 NEW! ダクラタスビル +アスナプレビル レジパスビル/ソホスブビル配合錠 オムビタスビル/パリタプレビル/リトナビル配合錠 肝庇護療法 炎症を抑え、肝臓が線維化して硬くなるのを遅らせることを目的とした治療法です。抗ウイルス療法を受けられない場合や、抗ウイルス療法を受けてもC型肝炎ウイルスを排除できなかった場合などに行われます。注射薬の「強力ネオミノファーゲンシー」と、飲み薬の「ウルソデオキシコール酸」のどちらかの使用、または併用が主な方法です。副作用として、注射薬のほうは低カリウム血症や高血圧症が、飲み薬のほうは胃の不快感、下痢、便秘などが現れることがあります。また、過剰な鉄分が肝臓にダメージを与えないために血液を抜く「瀉血(しゃけつ)療法」が行われることもあります。 インターフェロン少量維持療法 注射薬のインターフェロンまたはペグインターフェロンを、単独で少量ずつ、長期にわたって投与する方法です。抗ウイルス療法ほどの、C型肝炎ウイルスを排除する効果はなく、病気の進行を遅らせることが目的です。抗ウイルス療法を受けられない場合や、抗ウイルス療法を受けてもC型肝炎ウイルスを排除できなかった場合などに行われます。 C型肝炎ウイルスは2030年までに根絶できる!? IFNフリー療法は、ウイルスが薬剤耐性を獲得して薬が効かなくなるリスクがあるため、現時点ではインターフェロン療法が第一に選ばれます。しかし、日本よりも早くからIFNフリー療法が行われてきた欧米では、高い治療効果が既に認められています。「C型肝炎ウイルスは、2030年までに根絶できる」とさえ主張する医師たちもいるほどで、日本のC型肝炎患者や、治療する医師たちの間でも、期待が高まっています。続々と新薬が登場し、選択の幅が広がっているC型肝炎の治療現場に、今後もいっそうの注目が集まりそうです。 公開日:2016/03/07
日本人にはおなじみのしじみ。必須アミノ酸が理想的なバランスで含まれているほか、ビタミン、ミネラルも豊富です。昔から肝臓によいとされるしじみパワーの秘密に加え、しじみをもっとおいしくするコツをご紹介します! 目次 「しじみ」の旬は夏と冬の2回 アミノ酸、ビタミン、ミネラル…しじみは栄養の宝庫 しじみが飲み過ぎによい理由とは? さまざまな病気予防に役立つしじみパワー もっと!おいしさUPテクニック 「しじみ」の旬は夏と冬の2回 縄文時代の昔から、日本人の食生活に馴染んできた「しじみ」。江戸の町には、早朝、しじみ売りが行商に訪れる光景が見られたそうです。「黄疸に効く」「母乳の出をよくする」「寝汗によい」など、各地で経験に基づいたさまざまな健康にまつわる言い伝えがあり、庶民の生活にも馴染んできた貝です。そして、「二日酔いにはしじみ汁」とは、今も言われる健康法です。 しじみは、利根川河口や宍道湖(しんじこ)をはじめ、北海道から九州まで各地の汽水湖(きすいこ/淡水と海水が混じり合った湖)の河口域に生息しています。ヤマトシジミ、セタシジミ、マシジミなどいくつかの種類がいますが、私たちが食べているのは、大半が淡水と海水が混合する汽水域に棲むヤマトシジミです。ヤマトシジミは、塩分濃度が薄めの5%前後で、水の動きがよく、酸素がたくさんある砂底質(粘土分が少ない湖底や川底)を好みます。ところが、最近は、河川や湖沼の汚染や乱獲などによりしじみが減ってきています。昭和40年代には年間5万トン前後もあったしじみの漁獲量が、いまや2万トン弱。消費の半分を中国などからの輸入品に依存する状態です。 ところで、このしじみには「土用しじみ」「寒しじみ」の2つの呼び名があることからわかるように、旬は夏と冬の2回あります。暑さからついビールを飲み過ぎる人には、今が旬の土用しじみがおすすめです。貝類でも最も味がよく、栄養価も高いしじみの健康効果は、あながち昔の言い伝えだけでもないからです。 アミノ酸、ビタミン、ミネラル…しじみは栄養の宝庫 しじみにはさまざまな栄養素が豊富です。その筆頭が、アミノ酸。とくに必須アミノ酸が理想的なバランスで含まれています。また、カルシウムや鉄分、ビタミンB12などのビタミンB群も豊富です。とくにミネラルについては、ほかの代表的な貝類と比べてしじみが最も多いようです。 可食部100gあたりの栄養成分比較 しじみ あさり はまぐり カルシウム130mg66mg130mg 鉄5.3mg3.8mg2.1mg ビタミンA(カロテン)120μg22μg25μg ビタミンB20.25mg0.16mg0.16mg ビタミンB1262.4μg52.4μg28.4μg 出典:五訂食品成分表 しじみが飲み過ぎによい理由とは? では、「二日酔いにはしじみ汁」と言われるのはなぜでしょうか。最大の理由は、しじみにバランスよく含まれる必須アミノ酸にあります。アルコールを飲み過ぎると、アルコールの解毒をうけ負っている肝臓の肝細胞が損傷を受けます。そこで、必須アミノ酸を補給すると、肝細胞の主成分であるたんぱく質が合成され、修復してくれるのです。このとき、ひとつでも含有量が不足するアミノ酸があると、ほかのアミノ酸がたっぷりあっても、利用効率が落ちてしまいますが、しじみはその点で優秀です。そのうえ、しじみは低脂肪で消化・吸収がよいため、肝臓への負担も小さくなります。 しじみに豊富なミネラルも、たんぱく質の合成を助けます。また、さまざまな研究結果から、アミノ酸のうちタウリンが、肝細胞の再生をうながしたり、肝臓の解毒作用を活発化させることもわかってきました。さらに、しじみの糖質は即効性の高いエネルギー源であるグリコーゲンが主体なので、肝臓の疲労回復を早めます。肝臓によいさまざまな栄養成分が豊富に、そしてバランスよく含まれているのがしじみというわけです。お酒を飲み過ぎたなと思った翌朝は、ぜひしじみ汁を飲んで、弱った肝臓を助けてあげましょう。 さまざまな病気予防に役立つしじみパワー しじみが健康によいのは、二日酔い対策だけではありません。昔からしじみは重要な漢方薬としても使われてきました。しじみが肝臓によいことは、上記の通りですが、漢方医学では肝臓によいものは目にもよいとされます。肝臓の疲労のために目が弱っている場合は、肝臓の修復とともに目も自然によくなります。 鉄分は、貧血予防や造血に役立ちます。ミネラルが豊富なことは、風邪や感染症の予防に役立ち、がん細胞の撃退にもつながります。また、タウリンは、血中コレステロール値を低下させたり、食塩が原因となる高血圧を改善するため、脳卒中や心臓病の予防にも役立ちます。つまり、しじみは生活習慣病対策にも欠かせない食品なのです。 もっと!おいしさUPテクニック しじみは貝類の中でもとくに味がよいです。それは、味噌、しょうゆなどの調味料としても使われ、うま味の元となるコハク酸が豊富なため。ちなみに、しじみを塩水で砂出しをした後、一晩冷凍庫に置いておくと、さらにおいしくなるそうです。細胞組織の中に閉じ込められたコハク酸が、冷凍によって水分が膨張し、細胞組織が壊れてより出やすくなるためです。一度試してみるのもよいでしょう。 しじみといえば味噌汁が定番ですが、そのほかにあさりなど魚介類の料理法をアレンジして、さまざまな楽しみ方ができます。次のイラストを参考に、自分なりに身もまるごと食べて栄養を逃さない食べ方を工夫してみてはいかがでしょうか? 公開日:2005年6月27日
人気のメディカルハーブを中心に8種をピックアップ。それぞれの特長と、適応、摂り入れ方などを紹介します。 目次 人気のメディカルハーブ 身近にもある「和」なメディカルハーブ 人気のメディカルハーブ サプリメントでも人気のメディカルハーブを中心に5種類をピックアップ。自分の体調に合わせて、少しずつ利用してみたい。ただ、ここで紹介するのは、メディカルハーブの基本的な効能や適応。市販のティーバッグやサプリメントの場合は、他のハーブとブレンドされていることが多く、効能や適応が異なることも。購入時には、必ず注意事項などの表示も含めて、よく確かめてから利用しよう。 エキナセア キク科。アメリカ先住民が昔から風邪や歯痛、伝染病などの治療に使ってきたメディカルハーブ。現在、欧米で日常的によく利用されている。 和名=ムラサキバレンギク 別名=パープルコーンフラワー 効能:免疫系の強化、抗ウイルス、抗菌など 適応:インフルエンザ、膀胱炎といった感染症や炎症に 禁忌・注意:大量に摂ると吐き気やめまいなどを生じることがある。 ミルクシスル キク科。ヨーロッパで古くから、肝臓のはたらきを助けるハーブとして利用され、親しまれてきた。 和名=マリアアザミ、オオアザミ 効能:肝臓機能の回復・亢進 適応:アルコール性肝炎、ウイルス性肝炎、慢性肝炎、病中病後の免疫力低下などに 禁忌・注意:人によっては摂りはじめ軟便に。 バレリアン オミナエシ科。古代ギリシア時代から利用されてきた、神経を静めるハーブ。日本にも江戸時代に「蘭方薬」として渡来している。 和名=西洋カノコ草 効能:神経の鎮静、入眠作用など 適応:不眠症、神経過敏のときに 禁忌・注意:大量に摂ると頭痛、気持ちが落ち着かない、倦怠感が生じることがある。また、処方薬などを服用している場合は避けること。 ウッドベトニー 中世には邪気や毒気を払うお守りとしても使われたとか。アングロサクソン人が好んだハーブ。育てやすく、ハーブティーにしても味が良いので、ベランダなどで育てても。 和名=カッコウチョロギ 効能:神経の鎮静、消化促進など 適応:頭痛、神経の緊張や不眠症、肝臓の強化に。 禁忌・注意:妊娠中は避けること。 ローズマリー シソ科。香辛料としてよく知られるローズマリーは、優れた強壮薬。また、「心を陽気にするハーブ」としても親しまれている。 和名=マンネンロウ 効能:神経の刺激・強壮、血行の促進、肝臓機能の亢進、抗酸化作用など 適応:記憶力や集中力の低下、頭痛、疲れ、抑うつ、老化防止などに 禁忌・注意:重度の高血圧症の人は使用不可。また、妊娠中は多量に摂らないこと。 身近にもある「和」なメディカルハーブ 「欧米生まれのメディカルハーブには、まだ少し抵抗がある」「もっと身近なものからはじめたい」といった方には、私たちの暮らしに根づいたものがおすすめ。 ニンニク ユリ科。日頃のスタミナ源として、お料理にもよく使われるニンニクは、エジプトに端を発する立派なハーブ。最近では、がん予防に効果が期待できる食品としても注目を集めている。 英名=ガーリック 効能:コレステロール低下、抗菌、血糖値低下、胆汁分泌促進など 適応:循環器系の強壮、感染症、消化器の不調に 禁忌・注意:人によって胃があれることも。妊娠中や授乳期には大量に摂らないこと。 桑の葉 クワ科。血糖の上昇を抑えるとともに、血中の脂質濃度を下げるはたらきもある。また、便秘の解消や、色素沈着を抑えて肌を整える効果も。 英名=マルベリー 効能:糖吸収抑制、緩下、美白、抗コレステロールなど 適応:糖尿病、肥満、便秘、色素沈着の予防、高血圧 禁忌・注意:特になし。 キダチアロエ ユリ科。アメリカなどではアロエといえばアロエべラを指すようだが、日本ではキダチアロエが一般的。アロエは約4,000年前のエジプト時代から広く親しまれ、「医者いらず」などとも言われる。 効能:緩下、健胃、抗菌など 適応:便秘、胃腸の不調に 禁忌・注意:特になし。 公開日:2003年1月27日
「肝臓病」と言っても、その種類はたくさんあります。それを原因で分類するなら、「ウイルス性」「薬剤性」「アルコール性」「自己免疫性」「先天性」などに分けられます。そのなかでも代表的な肝臓病の原因は「ウイルス性」と「アルコール性」です。 目次 肝臓ってどんな機能? 肝臓は無症状!? 肝臓病ってどんなものがある? 急性肝炎の原因の「ウイルス」とは? 生活習慣と密接な関係のある肝臓病 肝臓ってどんな機能? 肝臓は人の体の右上腹部にあり、肋骨に守られるように囲まれている。人体の臓器としては一番大きなもので、重さは体重の1/50ほど。成人男性なら1.2kg~1.6kg程度ある。 また、肝臓は自己再生能力が高く、肝臓の75~80%を切り取っても、約4ヵ月後にはもとの大きさと機能を回復しているのだ(ちなみに胃を切除しても胃そのものは再生しない)。 肝臓の主なはたらきは、代謝、解毒、胆汁の分泌などがある。 肝臓のはたらき ●代謝 口から入った食べ物から消化吸収した栄養素を処理して、糖分や脂肪分をエネルギーとして蓄えたり、たんぱく質を「リポたんぱく」という体にあった形に作り変えたりする。 ●解毒 アルコールや薬剤などの有害物質が体内に入ってきた時や、体内で発生するアンモニアなどの有害物質を酸化、還元、抱合(他の物質で包み込む)などして水や脂に溶けやすい形に変え、尿や胆汁の中に排泄する。 ●胆汁の分泌 胆汁とは、脂肪の消化を助ける液。肝臓で処理したいろいろな物質を材料にして胆汁は作られるが、その後いったん胆嚢に蓄えられて濃縮されてから十二指腸に分泌される。 肝臓は無症状!? 肝臓は約3000億個以上の肝細胞が集まってできている。肝臓病になるとその肝細胞が次々に壊れていくが、なにせもともと余力のある臓器なので、少々悪くなっても自覚症状は出にくい。裏を返せば、自覚症状が出た時には肝細胞の大部分が壊れてしまっているのだ。 実際、自覚症状のひとつ黄疸が出てはじめて肝臓病に気がつくケースは全体の3割。一方、日頃健康だと思っていたのに、健康診断などの機会に偶然発見されるケースが7割を占めているのだ。 これが「肝臓は沈黙の臓器」と言われる理由である。 症状が進行した場合の自覚症状は? 体がだるい、食欲がない、吐気がする、尿の色が濃い、体が黄色になる、体がかゆい、手のひらが赤い、お腹が張る、足がむくむ、(男性で)お乳が張って痛い、かび臭い口臭がする、など 肝臓病ってどんなものがある? 一言で「肝臓病」と言っても、その種類はたくさんある。それを原因で分類すると、「ウイルス性」「薬剤性」「アルコール性」「自己免疫性」「先天性」などに分けられる。また、肝臓の状態、つまり病名で分類すると、「肝炎」「肝硬変」「脂肪肝」などが主なものだ。 そのなかでも代表的な肝臓病の原因は「ウイルス性」と「アルコール性」である。 主な肝臓の病気 ●ウイルス性の肝障害って? 急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝がんなど ●アルコール性の肝障害って? 脂肪肝、肝炎、肝繊維症、肝硬変、肝がんなど 急性肝炎の原因の「ウイルス」とは? 慢性肝炎が通常6ヵ月以上肝炎が続いている状態をいうのに対し、急性肝炎とはこれまで正常に機能していた肝臓に突然肝炎が起こり、たくさんの肝細胞が破壊される病気。その主な原因は肝炎ウイルスだ。 日本で一番多い肝炎はB型やC型。これは、過去にたくさんの感染者が出たためなのだ。しかし、現在ではこれらの肝炎ウイルスの感染をなくす努力がされており、新しい感染はほとんど見られなくなっている。 肝炎ウイルスにはこんなものがある! ウイルスの種類 感染経路 慢性化 A型肝炎ウイルス食べものや飲料水からなし B型肝炎ウイルス血液や体液子供では高率、大人ではまれ C型肝炎ウイルス血液や体液70%が慢性化 D型肝炎ウイルス血液や体液あり E型肝炎ウイルス食べものや飲料水からなし G型肝炎ウイルス血液や体液あり TT型肝炎ウイルス血液や体液あり 急性肝炎になると発熱や吐気、だるさ、など風邪に似た初期症状が出て、3~4日すると濃い色の尿、皮膚や目の黄疸などの症状が見られる。 急性肝炎でコワイのは劇症肝炎や慢性肝炎になること。劇症肝炎になる確率は急性肝炎の1%程度だが、一度劇症化すると死亡率は70%以上もあるのでかなり危険である。 生活習慣と密接な関係のある肝臓病 日本で現在、病院にかかっている肝臓病で最も多いのは、肝炎ウイルスによる肝炎や肝硬変、肝がんなどだが、もうひとつ重要な肝臓病がある。それが、前述のアルコール性の肝障害だ。 お酒をたくさん飲む人はちょっと心当たりがあるかもしれないが、軽いものでは脂肪肝やアルコール性肝繊維症、重症ではアルコール性肝炎やアルコール性肝硬変などがある。日本では、アルコール性肝障害は軽症も含めると人口の約2%強、300万人ほどいるといわれ、そのうち5万人ほどが肝硬変だと推定されている。 一般的に、飲酒の量と飲酒期間に比例して肝臓病の症状が進行しているのだ。 公開日:2002年7月1日
お話し手 大阪大学医学部附属病院長 同大学院医学研究科消化器内科学教授 林紀夫 先生 1972年大阪大学医学部卒。 米国テキサス大学研究員、大阪大学大学院医学研究科分子制御治療学教授等を経て、2005年から現職。 2007年から附属病院長。 日本肝臓学会理事長ほか医学会役職多数。 自己負担の上限は月額1~5万円 安心して治療を受ける環境が整った Q. C型肝炎の医療費助成制度がスタートしました。その概要を教えてください。 林先生: C型肝炎の根治を目的にしたインターフェロン治療に、2008年4月から医療費の公的助成が始まりました。薬剤費、診療費、入院費などの自己負担の上限額が月額1~5万円(世帯の収入によって3段階。下表参照)に定められたのです。これまで7~8万円が必要でしたから、患者さんには朗報といえるでしょう。この医療費助成は、感染経路にかかわらず受けることができます。 また、以前にインターフェロン治療の経験があって、再治療する場合も助成を受けることができます。助成期間は1年間です。助成を受けるためにはいくつかの書類をそろえて申請する必要があるので、保健所や医療機関の窓口で問い合わせてみてください。 階層区分 世帯あたり市町村民税(所得割)課税年額 自己負担額の上限(月額) A階層 65,000円未満 10,000円 B階層 65,000円以上235,000円未満 30,000円 C階層 235,000円以上 50,000円 感染者は全国で200万人 肝がんにつながる恐い病気 Q. 助成制度が始まった背景を教えてください。 林先生: C型肝炎の患者さんは大変多く、いまや国民病ともいわれる状況になっています。C型肝炎の原因であるC型肝炎ウイルスに感染している人は、推定ですが全国で約200万人です。 C型肝炎は放置すると、肝硬変、肝がんと悪化していく病気で、肝がんの約8割はC型肝炎が関係しています。つまり、名前こそ違っていても、C型肝炎、肝硬変、肝がんは同じ一連の病気ととらえなければなりません。肝がんは命にかかわる恐い病気。肝がんの発症を防ぐには、C型肝炎の治療が不可欠なのです。 大阪府では肝がんの患者さんを登録する仕組みになっていますが、年間の肝がん(転移を除く)発症数は、男性が約2,400人、女性が約1,100人です(2002年)。このところ、従来少ないとされてきた女性の患者さんが増えています。高齢になると女性も肝がんにかかりやすいことがわかってきました。 輸血や血液製剤を介して感染 感染に気づいていない人も多い Q. どのような人がC型肝炎になっている可能性があるのでしょうか。 林先生: C型肝炎ウイルスは血液を介して感染します。大きな手術などで輸血を受けたり、血液製剤やフィブリノゲン製剤を使ったりした人は、感染している可能性があります。 1992年以前に輸血を受けた人 1988年以前に血液凝固製剤を使った人 1994年以前にフィブリノゲン製剤を使った人 上記に該当する人は、とくに注意が必要です。 このほか、予防接種での注射針の使い回しなども原因と考えられていますが、じつは患者さんの約半数は、感染経路がはっきりしません。 また、自覚症状がほとんどないため、感染していることに気づいていない人がたくさんいます。感染の有無は、血液検査でわかるので、ぜひ一度検査を受けていただきたいと思います。 ちなみに、いまは感染の対策がきちんととられているため、上記にあげた医療行為での感染の心配はありません。また、食器の共用や入浴など日常生活で感染することもありません。夫婦間の感染もほとんどないと考えられています。カミソリやヒゲソリなど、血液の付く可能性のあるものだけは共用しないように注意しましょう。
お話し手 国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 分院長 熊田博光 先生 1972年岐阜大学医学部卒。 虎の門病院消化器科部長、同病院副院長を経て、2007年から現職。 日本肝臓学会理事、厚生労働省「肝硬変を含めたウイルス性肝炎疾患の治療の標準化に関する研究」班長など役職多数。 インターフェロンを使うとウイルスを駆除して病気を治せる Q. C型肝炎にはどんな治療法がありますか。 熊田先生: C型肝炎の治療には大きく分けて、抗ウイルス療法と肝庇護療法があります。 抗ウイルス療法は、インターフェロンを使って体からウイルスを駆除するもので、C型肝炎を完全に治すことができる治療法です。 肝庇護療法は副作用や合併症など、なんらかの事情で抗ウイルス療法ができない場合に、肝機能を維持しながら肝がんを発症しないように努める治療法です。 ウイルスの遺伝子の型と量で治療法と治療期間が異なる Q. 治療法の選択は、何を基準にするのですか。 熊田先生: C型肝炎の治療をする際には、まずウイルスの持つ遺伝子の型(ジェノタイプ)とウイルスの量を調べる必要があります。これはどちらも血液検査でわかります。遺伝子の型は日本人の場合、大きく分けて1型と2型があります。2型はインターフェロン治療が効きやすく、1型は効きにくいという性質があります。日本人は患者さんの7割が1型です。ウイルス量は、少ないとインターフェロンが効きやすく、多いと効きにくいといえます。 インターフェロンを使った治療には、いくつかの方法があり、遺伝子の型とウイルス量に応じて使い分けるのが原則です。インターフェロン治療の中で現在、中心となっているのはペグインターフェロンとリバビリンの併用療法で、1型、2型の高ウイルス量の人、以前インターフェロン治療を受けて効果が得られなかった人には、この併用療法の48週間または24週間投与が勧められます。 1型、2型とも低ウイルス量の場合は、インターフェロンもしくはペグインターフェロンの単独療法をするのが標準治療です(下表参照)。 初回治療の場合 ジェノタイプ 1型 ジェノタイプ 2型 高ウイルス量 ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法 48週間 ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法 24週間 低ウイルス量 インターフェロン 24週間またはペグインターフェロン 24~48週間 インターフェロン 8~24週間またはペグインターフェロン 24~48週間 週1回の注射と飲み薬を併用 仕事をしながらの治療が可能 Q. ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法の方法と、治療効果について教えてください。 熊田先生: ペグインターフェロンはそれまで週3回必要だった注射を週1回ですむように工夫した薬です。リバビリンは、1日2回の飲み薬です。副作用を見極める必要があるので、治療の初めの2週間は入院を原則とします。その後は通院で大丈夫です。仕事をしながら治療することができます。 ペグインターフェロンとリバビリンの併用療法をすると、1型で高ウイルス量の場合、50~60%の人が治ります。2型で高ウイルス量の場合は90%の人が治ります。 ALTと血小板の数が目安 早く始めるほど治療効果が高い Q. インターフェロン治療に踏み切るタイミングについて教えてください。 熊田先生: インターフェロンは若い人ほど、また肝炎も進行していない人ほどよく効きます。 C型肝炎は肝臓が硬くなる病気であり、これを肝臓の線維化といいます。線維化の程度は肝臓に針を刺して組織を採取し、顕微鏡で調べる肝生検をするとわかりますが、血液検査で血小板の数を調べることでも、おおよその見当がつきます。 また、肝機能を示すALT(GPT)も治療の重要な指標です。ALTは医療機関によって基準値にばらつきがありましたが、最新の研究では30を超える場合は、インターフェロンによる治療を検討すべきであるということになりました。また、ALTにかかわらず、血小板が15万未満となった場合も、インターフェロンによる治療を検討すべきです。 できるだけ若いうちに、また肝炎が進行する前に治療に踏み切れるよう、専門医とよく相談してください。
数あるアザミの中でも今もっとも注目されているのがマリアアザミ。別名オオアザミ、ミルクシスルともいう。メディカルハーブとしてのマリアアザミに注目。肝臓が気になる人は必見だ。 目次 肝臓にはたらくマリアアザミ~シマリンに注目 抗酸化作用 肝臓へのはたらき 肝臓にはたらくマリアアザミ~シマリンに注目 アザミの中でも、今最も注目されているのが「マリアアザミ」だろう。マリアアザミは、別名オオアザミ、ミルクシスルなどとも呼ばれ、その種子はヨーロッパでは2000年以上も前から肝臓や胆嚢、脾臓、消化管の民間療法として、さらには母乳不足のときにも利用されてきた伝統あるハーブ。このハーブとしてのマリアアザミの効果は、現在、医学的にも実証されつつあり、期待を高めている。 マリアアザミの種子から抽出される有効成分は「シマリン」と呼ばれ、精製されたものは、ドイツで抗肝毒性薬として承認されたのをはじめ、現在ではフランス、イタリア、中国など、世界各地で医薬品として承認する国が増えてきている。 このマリアアザミから抽出されるシマリンには、肝臓を活性酸素による弊害から守るはたらきをはじめ、肝細胞を修復し、活性化させるはたらきもあるとして期待が高まっている。 抗酸化作用 シマリンのはたらきを簡単にいうと、肝細胞を包み込んで保護すること。つまり、肝細胞にバリアを張るのだ。これによって有害な活性酸素を無毒化し、肝細胞が傷つくのを防ぐとされている。このはたらきは動物実験でも実証され、人間の肝臓においても活性酸素の影響を抑えることができるものとして期待されている。 肝臓へのはたらき シマリンのもうひとつのはたらきとして注目されているのが、肝臓の機能を回復させること。傷ついた肝細胞の修復・再生を促すことで、肝臓のはたらきを改善させていく。つまり肝障害の治療にも役立つのではないかと期待されているのだ。 現在、さまざまな実験が行われ、少しずつ効果が実証されつつある。 ■アルコール性肝硬変 アルコール肝硬変の患者を対象にしたテストでは、シマリンを飲んだ群と、飲まなかった群では、あきらかにシマリンを飲んだ群において肝機能の向上が見られた。 ■慢性肝炎・肝硬変 慢性肝炎・肝硬変、それぞれの患者を対象に実験が行われ、シマリンを飲んだ群では肝機能の回復が見られた。 そのほか、向精神薬によって肝機能に影響が出ている患者に対しても、肝機能の改善が見られたという実験結果がある。 また、異色なところでは、シマリンは、毒きのこの解毒にも効果があるといわれる。ヨーロッパで猛毒として知られるタマゴテングタケは、きのこによる中毒死の90%以上を占めるという怖ろしい存在。 ほんのひと口食べただけで、急激な肝臓障害を引き起こし、激しい中毒症状があらわれるといわれる。しかし、シマリンを飲んでいると、肝細胞がシマリンのバリアで守られているため、中毒が起きることは少ないのだという。 また、毒が入り込んでしまった後でも、肝細胞を正常に回復させることができるとされ、ドイツでは毒きのこの緊急治療にシマリンの静脈注射が使われているとか。 こうしたことから、マリアアザミの種子から抽出されるシマリンは、肝臓を病気から守り、治癒させる両方の側面を併せ持つハーブとして高い期待を寄せられているのだ。 しかし、残念ながら現在のところ医学的には「効果が期待できる」という範囲にとどまっている。 公開日:2003年10月6日
肝臓障害を調べるGOT・GPT 細胞内酵素であるGOT・GPTが血中で増加した場合、肝臓障害、心筋梗塞、溶血などの診断の手がかりになります。GPTは特に肝細胞の変性・壊死に反応します。また、疾患によってGOT・GPTの比率が一定傾向を示すことも診断の目安になります。 正常値はGOTが5~35KU/dl、GPTが5~25KU/dlです。ただし、飲酒後や運動後は上昇傾向があるので検査前には避けましょう。体重増加やステロイド剤服用にも影響されます。 アルコール性肝障害の指標に有用なγ-GPT GOT・GPTと同じくたんぱく質を分解する酵素の一つです。肝臓に毒性のあるアルコールや薬剤などが肝細胞を破壊した時や、結石・がんなどで胆管が閉塞した時に血中に出てきます。 肝臓や胆道に病気があると外の酵素よりも早く異常値を示します。特にアルコール性肝障害の指標に有用です。正常値は成人で40単位以下です。 こう質反応を調べるTTT・ZTT 肝臓の異常でγ-グロブリンの上昇やアルブミンの低下が起きると、こう質反応(コロイド反応)を起こします。これを調べるのがZTT(硫酸亜鉛混濁試験)です。正常値はTTT0~クンケル単位、ZTT2~14クンケル単位です。
復元力のある「沈黙の臓器」 肝臓は横隔膜の真下やや右寄りにある、暗赤色をした体内最大の臓器です。その重さは約1200g(体重の1/45~1/50)。20~30歳代で最も重くなり、その後は徐々に軽くなります。 予備能力が大きく、少々の障害を受けても症状が現れないため「沈黙の臓器」と呼ばれます。80%程度が障害されて初めて機能不全になるほどの強さです。しかも、その7割近くを切り取ることができるほど復元力の高い臓器です。 肝臓は「生体の化学工場」 肝臓はいわば血管の固まりで、2ヵ所から血液の供給を受けています。その5分の1は心臓から送られる酸素を含んだ血液、5分の4は栄養素を含んだ小腸からのものです。 主に消化・吸収作業のまとめ役として栄養素の処理を行います。それ以外にも、生命活動を維持する上で重要な役割を持っています。 胆汁の生成 栄養素の貯蔵と加工 解毒作用 生体防御作用 血液凝固作用物質の産生 造血・血液量の調節 など、その役目は数十種類にも及びます。 まさに「生体の化学工場」です。
発がん率が高い常習飲酒家 アルコールが体に及ぼす影響は一般的によく知られています。一方、免疫系に及ぼす影響は、症状や検査結果に目に見えるような異常や、直接的な影響が少なかったのであまり注目されていませんでした。 ところが、常習飲酒家は発がん率が高いこと、呼吸器系感染率が高いことが最近分かっています。また、アルコール性肝障害ではC型肝炎ウイルスの感染がよく見られることなどから、アルコールが免疫系機能を弱めると考えられています。 免疫に与えた影響は、本人とその子供にも及ぶ アルコールやその代謝産物は、免疫毒とさえいわれています。また、アルコールによる作用には免疫系に直接的に影響する場合と、アルコールが特定の臓器に対して障害を起こしその影響で免疫系に異常が見られる場合があります。 二次的な影響には肝臓、すい臓、神経、消化管などの組織や臓器の障害によるものと、栄養障害やビタミン欠乏によるものがあります。なかでも、代表的なのはアルコール性肝炎やアルコール性肝硬変による免疫異常です。 また、常習飲酒家から生まれた子供は、長期間にわたり免疫系の異常が見られるといわれています。その結果、色々なウイルスに感染しやすく、また悪性腫瘍も発生しやすいようです。
大量飲酒は肝硬変や肝がんにつながる 大量飲酒を続けていると、まず肝細胞の中に脂肪が沈着する脂肪肝が起こります。脂肪肝はアルコール性肝障害の注意信号といわれています。この段階ではお酒を控えるだけで、すぐに正常に戻すことかできます。 それでも飲み続けると、食欲不振、吐き気、黄だん、発熱などの症状がみられるアルコール性肝炎になってしまいます。また、アルコール性肝障害の人は肝炎のウイルスを持っていることが多いことが分かっています。特にウイルス性C型肝炎が絡んでくると、アルコール性肝炎だけの時よりも重症化してしまいます。 そして、免疫系の機能が低下しているので、肝硬変や肝がんが発症するのも早くなるといわれています。 肝硬変が静脈りゅう、そして死に至らせる 肝硬変になると血液の流れにも悪影響が出ます。肝臓には門脈という静脈の血液の重要な太い通路があります。ところが、肝臓が血液を通さなくなると、行き先がなくなった血液は、胃や食道の細い静脈を無理やり押し広げて通ろうとします。そのため、食道に静脈りゅうができるのです。 そして、この静脈りゅうが破裂したり、有害物質を解毒できなくなったため肝性昏睡を起こしたりすると、死に至ることがよくあります。さらに、肝硬変は肝がんに移行するともいわれています。
重症化するC型肝炎 今までアルコール性肝障害と考えられていた人の中に、肝炎のウイルスを持っている人がたくさんいることが分かっています。ウイルス性肝炎にはA型、B型、C型がありますが、C型肝炎が最も頻度が高くみられます。 一般的にはC型肝炎にかかっている人は約2%程度といわれています。ところが、アルコールが原因で肝疾患を起こした人では約40%がC型肝炎にかかっています。 C型肝炎が絡んでくると、アルコール性肝炎だけのときよりも、肝障害はかなり重症化します。そして、早い時期に肝硬変や肝がんが発症してしまいます。これは免疫系の機能が低下しているためと考えられます。 肝障害を促進させるキャリアの飲酒 ところで、肝炎ウイルスを持っているが、まだ肝炎を発症していない人をキャリアといいます。キャリアがたくさんのアルコールを飲むと、肝障害を早めるという説もあるようです。 また、最近ではウイルス性肝炎の治療にインターフェロンという薬が使われていますがアルコールはインターフェロンの治療効果にも悪影響を与えると考えられています。