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100:焼いた魚なら食中毒にならないと思っていませんか?珍しい食中毒(2)(望月吉彦先生) - ドクターズコラム

メディカルコラム

望月吉彦先生

更新日:2018/12/10

食材を《焼いても発症する》珍しい食中毒

前段が長くなりました。今回の主題である「珍しい食中毒」の話です。食材を《焼いても発症する》珍しい食中毒の話です。
私は子供の頃、サバを食べて全身に発疹が出てからはサバにアレルギーがあるのだと思ってそれ以降は食べませんでした。後年、食中毒の授業でヒスタミン食中毒(アレルギー様食中毒)という病気があることを知り、「ああ、子供の頃のサバを食べて出た発疹はこのヒスタミン食中毒だったのだ」と思い、以降はサバをよく食べるようになりました。
なお「食中毒の授業」を真面目に聞いていると何も食べたくなくなります。色々な食材で色々な食中毒、それも死に至るような食中毒を発症するからです。それはともかく私を苦しめた?この「ヒスタミン食中毒」を紹介しましょう。

ヒスタミンという言葉を聞いたことがあると思います。花粉症の時期には抗ヒスタミン剤を飲んでいる方も多いと思います。アレルギー疾患に罹ると血液中にヒスタミンという物質が増えます。アレルギーの原因となるアレルゲン(花粉など)が体内に入ると、免疫グロブリンE(IgE)と反応し肥満細胞(太った「肥満」とは関係無いです。形状が肥満なのです)からヒスタミンが放出されます。この「ヒスタミン」と食中毒に妙な関係があるのです。
赤身魚(カジキ、マグロ、ブリ、サンマ、イワシ、サバ)の筋肉には、アミノ酸の一種である「ヒスチジン」がたくさん含まれています。厄介なことにこの「ヒスチジン」を「ヒスタミン」に分解する酵素を持つ細菌(海洋にいる細菌の一部や人間の腸内細菌の一部)がいるのです。この菌が「ヒスチジン」をたくさん含む赤身魚に付着すると、ヒスタミン食中毒を起こします。食材を冷蔵庫や冷凍庫に入れておけばこれらの菌は増えません。しかし、《室温》で《一定時間》放置されると「ヒスチジン分解酵素を持つ細菌」は一気に増えます、そして食材の筋肉中の「ヒスチジン」を大量の「ヒスタミン」に変えてしまうのです。

図2
図2

ヒスタミンは厄介なことに、熱を加えても分解しないのです。ヒスタミンが大量にいる食材を焼いても煮ても、ヒスタミン食中毒は起きます。「焼いてあるから大丈夫」ではないのです。ヒスタミンが多い赤身魚を食べると、舌がぴりぴりするような感じや鉄を舐めたような感じがするそうです。
下の写真(写真1、2)はヒスタミン食中毒おこした患者さんに出た発疹です。食べてから30分から1時間くらい経って、こういう赤い発疹が出て吐き気が出たら、このヒスタミン食中毒を疑います。診断は写真のような発疹と、何をいつ食べたかでこの疾患を疑うことができます。確定診断をするには、保健所に届け出ることが必要です。食べた食材を調べなくては「確定診断」はできないのです。

写真1、2
写真1、2

この発疹を生じた患者さん(写真1、2)とたまたま同じ時間帯に同じお店で同じモノを食べて同じような症状を発症して同じ日に来院されました。私は、これは「ヒスタミン食中毒」ではないかと考え保健所に届け出ました。保健所は直ぐに二人が食事をした店に出向き、残っていた食材(焼き魚)を調べました。その結果、焼き魚から高濃度のヒスタミンが検出されたのです。それに加えて、患者さんの血中ヒスタミン濃度も高かったのです。この2人はヒスタミン食中毒と診断されました。保健所の方の話だと、原因となった魚(くどいですが、焼いてある魚)は、焼く前に6~7時間室温で放置されていたのだそうです。冷蔵庫に入れて保存されていれば、菌は繁殖せず、ヒスタミンも増えなかったと思います。
治療は、比較的容易です。抗ヒスタミン剤の投与です。この方ともう一人の方も、抗ヒスタミン剤の点滴を行ったところ、発疹が消失し、症状は軽快しました。
ちなみに、食中毒を出してしまったお店は、数日間の営業停止となりました。営業停止は罰ではありません。その期間中、再発防止に向けて、お店の方への衛生教育や冷蔵(冷凍)設備の改善の期間に充てられるということです。
お魚を冷凍にすると《まずくなる》という方もいらっしゃいます。しかし、以前にも記しましたが、お客さんの安全の方が優先だと思います。冷凍により「お魚の美味しさ」が損なわれることも無さそうです(文献3)。

前述の通り、ヒスタミン食中毒の勉強をした時、私自身の「サバアレルギー症状」はヒスタミン食中毒による症状だったことに気付きました。それまで自分はサバを食べられないと思っていましたが、おそるおそる食べたら体はなんとも無く、とても美味しかったのです。私も普通にサバが食べられるようになりました。

大切な助言:

「食中毒かな?」と思ったときの助言を書きます。
熱が出ていたら、下痢止め、吐き気止めを使わない方が良いです。抗生物質も止めた方が良いですね。原因不明なのに、効くか効かないか解らない抗生物質を投与すると「良い腸内細菌」も死滅して、かえって下痢がひどくなります。熱が出る=感染と考えると、下痢や嘔吐で原因菌を体外に排出するのは良いことなのです。下痢、嘔吐を止めると、体内に原因物質が残ってしまいますね。
このことは重要です。覚えておいてください。ただし、吐瀉物の処理はきちんとしましょう。厚生労働省のノロウイルス感染対策(PDF)を参考にしてください。

【参考文献】

追記1:

2016年7月19日「E型肝炎患者が過去最多に、豚やジビエ肉・内臓を生で食べないで」という報道がありました(新聞各紙)。
厚生労働省の発表では、生の肉を食べることなどで感染するE型肝炎の患者数が、すでに227人に上り過去最多となったと発表しています。やはり生肉は食べない方が良いですね。

追記2:

この稿を書いていたら「給食マグロからヒスタミン 山梨の保育所、92人食中毒」(産経新聞 2018年9月29日)という報道があったことに気づきました。食材の保存に問題があったのでしょう。給食だと気を付けようがないですね。しかし、何か食べたあとに「じんま疹」が出たら「ヒスタミン食中毒」かもしれないと覚えておいてください。

望月吉彦先生

望月吉彦先生

所属学会
日本胸部外科学会
日本外科学会
日本循環器学会
日本心臓血管外科学会
出身大学
鳥取大学医学部
経歴
東京慈恵会医科大学・助手(心臓外科学)
獨協医科大学教授(外科学・胸部)
足利赤十字病院 心臓血管外科部長
エミリオ森口クリニック 診療部長
医療法人社団エミリオ森口 理事長
芝浦スリーワンクリニック 院長

医療法人社団エミリオ森口 芝浦スリーワンクリニック
東京都港区芝浦1-3-10 チサンホテル浜松町1階
TEL:03-6779-8181
URL:http://www.emilio-moriguchi.or.jp/

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